機動新世紀ガンダムX−31

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56ダムA樋口氏インタビュー1
ガンダムエース 2003年9月号(2003年7月26日発売)より

ガンダム音楽館
 第13回 機動新世紀ガンダムX


『Vガンダム』で開花した90年代のガンダム・サーガは、
1作ごとにクリエーターが趣向を凝らした結果、
ガンダムという作品の幅を大いに広げることになった。
今回の「音楽館」では、その末尾を飾る『ガンダムX』にスポットを当て、
作曲の樋口康雄氏にお話をうかがった。
57ダムA樋口氏インタビュー2:05/03/03 17:50:19 ID:???
  再評価の機運高まる!?

 バラエティ豊かなシリーズを形成する、『V』『G』『W』『X』という4本の90年代の『ガンダム』作品群。
『X』はAW(アフター・ウォー)という異色の舞台設定を舞台に、ファースト・ガンダムを始めとする
“富野”ガンダムの精神を横溢に盛り込みつつ、若い世代の視聴者へのアピールも心がけて製作された作品だ。
オンエア時に放送時間が変更されるなど、作品をめぐる状況は決して恵まれていたとは言い切れないが、
当時からの根強いファンを多く持つシリーズであり、今後は再評価の機会も増えていくことだろう。
 さて、『ガンダムX』の音楽を担当したのは樋口康雄氏。学生時代からプロとして音楽の道に入り、
コーラス・グループのシング・アウトのメンバーを経て、NHKの音楽番組「ステージ101」等で作編曲を担当、
さらにテレビ・ドラマやCM音楽の作曲にも積極的に関わるなど、若くして才能を各方面で発揮した逸材である。
その氏の名がアニメ・ファンに注目されたのは、手塚治虫による劇場用アニメ『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』の
音楽を担当してからであった。
 弦楽オーケストラをメインに据えた音楽は、氏の純音楽作品である「KOMA」をベースにしたもの。
その指定は音楽通で知られる手塚氏本人によるものだった。
結果完成した『火の鳥』の音楽は、当時、着実に音楽的な進化を遂げていた日本の劇場用アニメーションの中でも
白眉の一つとなった。
バイオリニスト・千住真理子をフィーチャーした繊細な音世界は、
一般のアニメ・ファンだけでなく、耳の肥えた製作者も刺激した。
58ダムA樋口氏インタビュー3:05/03/03 17:51:13 ID:???
「手塚さんと『火の鳥』の仕事をした時、これから樋口さんにはアニメ音楽の依頼が入ると思います、と言われたんです。
その通りになりました。『火の鳥』の後、プロデューサーの西崎義展さんから電話をいただきまして、
『宇宙空母ブルーノア』という作品をやってください、と。
西崎さんと数回お会いして、色々と打ち合わせは重ねていたんですが、結果的に流れてしまいました」

 それ以降もアニメ音楽の作曲依頼は多く届いたという。しかし、大半は樋口さんの方で断られたのだという。
実現しなかった作品の中には、東京ムービー新社が米国と合作した『NEMO・ニモ』のタイトルもあったという。
当初は樋口氏が音楽監督を務め、作曲はハリウッドの作曲家として今をときめく
ジェイムズ・ホーナー(『タイタニック』等)が担当する予定だったらしい。
が、諸般の事情で両者共々作品を降板、最終的には『メリー・ポピンズ』などで知られる
シャーマン兄弟が音楽を担当した。
59ダムA樋口氏インタビュー4:05/03/03 17:52:10 ID:???
  手塚アニメからガンダムXへ

「僕としては、手塚さんが生きていたら、ずっと手塚さんの作品の音楽をやり続けたかったですし、
ことアニメーションの音楽に関しては、手塚さん以外の方とのお仕事は、なるべく避けようと思っていたんです」

 そして、樋口氏を『ガンダム』シリーズの音楽担当に迎えようという動きは、『X』以前にもあったという。

「『ガンダム』の音楽をプロデュースされているボーダーラインの太田(敏明)さんとは、昔から顔なじみで、
彼からも何回か(『ガンダム』作曲の)オファーを何度かいただいていたんですが、実現には至りませんでした」

 そして、『ガンダムX』で樋口氏の登板が実現する。樋口氏が依頼を受けることを決めた決定的な理由とは何だったのか。

「主人公のガロードとティファの魅力ですね。彼らは、音楽を書いてみたい、と僕に思わせてくれる登場人物だったんです。
ガロードって結構腕白で、暗い性格じゃなかったでしょう。いい意味でマンガっぽいキャラクターですよね。
それで、この2人が主役の作品だったら行けるな、と思ったんです。『ガンダムX』を引き受けた時、こう言ったことを覚えています。
僕も歳ですから、この先は限られた数の仕事しかできないでしょう。でも仕事に対してはかなりの勝算をもっています。
今回は、その中の一つを出します」
60ダムA樋口氏インタビュー5:05/03/03 17:53:03 ID:???
 音楽の作曲作業は、音響監督の浦上靖夫氏との打ち合わせが主体だったという。
高松信司監督とも打ち合わせする機会はあったとのことだが、大半は浦上氏の発注メニューによるところが大だったようだ。

「たとえば、TVドラマの場合は45分の作品が50何週続いて、正味40時間くらいに及ぶ。そういうドラマに音楽を付けるためには、
相当な数の曲が必要になりますよね。ですから、大半のテレビ映画の場合は、音楽を前もって溜め録りせざるを得ない。
そういう場合、作品の完成度は音響監督の手に委ねられているんです。
浦上さんはメニュー出しもさることながら、選曲の技術が素晴らしいですね。『ガンダムX』でも、本当に1本1本、
そのシーンのために僕が一から音楽を書き下ろしたかのような、丁寧な選曲をしてくださいました」

 映像音楽に長く携わられている樋口氏は、付随音楽に対して独自の考え方をもたれている。
付随音楽の成り立ちは、ほとんどが経験則だと樋口氏は言う。
たとえば、「悲しい音楽」とは、悲しい出来事が起こっているシーンで流れた音楽を、人は経験から悲しい音楽と思うのであり、
本質的に「悲しい」音楽というものはあり得ないという。

「逆説で言うと、悲しいシーンでいわゆる悲しい音楽が流れていないと、見る人は混乱するわけです。
これは僕の音楽作りのネタなんです。実は昔から、樋口は危ない、と言われていたんです(笑)。
ドラマをやらせると、いいところはいいけれど、時にトンデモないことをやるって。
僕は『ガンダム』のようなマニアックな作品ばかりでなく、喜劇俳優がおちゃらけるようなドラマもやっている。
こういうものは定石があるじゃないですか。僕はそれを外して書くわけです」
61通常の名無しさんの3倍:05/03/03 17:56:19 ID:???
自力で連投回避
62ダムA樋口氏インタビュー6:05/03/03 17:56:33 ID:???
 さらに樋口氏は、付随音楽は見る視点の音楽である、と言う。

「たとえば、このガロードとティファのショット(※)、これは遠くから第三者が見ていないと成り立たない。
ですから、この絵で付ける音楽は、第三者……お客の視点なんです。
逆に上からティファを見下ろしているカットの場合は、お客の視点ではない。
これはティファを見ている人物の視点ですから、その人物の視点を汲んだ音楽をやっておけば間違いないんです。
経験則と視点、付随音楽はこの2つなんです」
(※…第1話でトレーラーの上で横になってるGXを発見した時のガロードとティファのカット)

 『ガンダムX』では、計3回に及ぶ音楽録音が行われた。
第1回録音は、ガロードやGX等、主要キャラとメカのテーマや状況・新描写のための音楽が大編成で録られた。
変わって第2回録音は、ドラム・セット等のリズム・セクションを中心にした小編成のアクション曲が目立つ。
そして、最終録音では混声合唱を加え、物語のクライマックスに相応しいスケールを持った楽曲が生み出された。

「僕は溜め録りは下手で、本当はそのシーン、そのシーンに合わせた音楽を書く方が得意なんです。
溜め録りということは、ある意味で純音楽のつもりで書いてくれ、ということだと思うんですが、
僕の付随音楽って純音楽では駄目なんです。
よく映画などで純音楽を使うものがありますが、どれも上手くいっていないですよ。
溜め録りといっても映像を想像しながら書くわけですが、おのずと限界がある。
ですから、劇場用の『ガンダム』の仕事があったとしたら、ぜひともチャレンジしてみたいと思いますね」
63ダムA樋口氏インタビュー7:05/03/03 17:57:31 ID:???
 第1回録音では、各種のパーカッションを豊富に揃えているほか、ピアノに律動的なリズムを取らせる主砲などで、
野性的な迫力をもった楽曲が数多く作られている。

「僕自身は、楽器の編成に関しては、ドラムが入るとポピュラーで、ストリングス(弦楽器)が入ると
シリアス・ミュージック、という分け方は意識していないんです。
ピアノをパーカッション的に使うというのは、ちょっとストラビンスキー的かもしれませんが、
その辺りを聴き取っていただけるのは嬉しいですね」

 第2回録音では、シンセの打ち込みのようなリズムの曲があるが、実は、録音現場でキーボードを弾いたものだという。

「シンセの打ち込みに聴こえるかもしれませんが『ガンダムX』では打ち込みを使った曲は1曲もないんです。
僕は面倒くさいのが嫌なので、打ち込みとかは駄目なんですよ(笑)。録音の時に集中してやるのが好きなので
シンセの人に3人くらい来てもらって、全部その場でやりました」

 第3回録音では最終回へ向けての展開を念頭に置き、メニュー上での指定が、より細かくなっている。
特に月面上に存在する連邦の遺構・D.O.M.E.には、合唱付きの神々しい音楽が付けられた。

「D.O.M.E.というのが、作品の一つのキイワードになっていましたから、合唱に「ドーム」って歌わせているんです。
僕は音楽の中に、そういう色々な仕掛けを仕込んでいるんです」
64ダムA樋口氏インタビュー8:05/03/03 17:58:19 ID:???
   キーワードは「月は出ているか?」

 もちろん、『ガンダムX』といえば、作品に密着した重要なイメージとして月の存在を忘れるわけにはいかない。

「劇中に『月は出ているか?』って台詞があったでしょう。
作曲家としては、ああいう何気ないセンテンスに刺激を受けるものなんです。月っていえば、“ルナティック”だろう、とかね。
これは『ガンダムX』というアニメのための音楽ですけれど、僕自身は、作品を離れても成り立つものを
書くことを意識していました」

 後に新宿のオペラシティで開催された「SYMPHONIC GUNDAM」コンサートでは、樋口氏も『ガンダムX』を題材にした楽曲を披露した。
そのコンセプトは。

「早稲田桜子さんがヴァイオリンですね。彼女とは今も一緒にレコーディングをやっているんですが、素晴らしい奏者です。
コンサートでは、他の作曲家の皆さんが壮大な曲をやるだろうから、ヴァイオリンのソロでやろうかなと思って。
最終的にはヴァイオリン・コンチェルトになりましたが、最初はオーケストラも一切入らない、無伴奏でもいいかなと思っていたくらいです。
コンサートのパンフレットやCDでは別の題名でしたが、僕のスコア上では、あの曲はコンチェルト『ティファ』っていうんですよ」

(2003年6月28日、目黒にて)