暑いときに熱いものを喰う習慣があるなら、寒いときには寒いことをするのが正義だ。
そんな五飛の下らない一言で、俺達五人は季節外れの怪談大会をすることになった。
トップバッターということでヒイロがおもむろに話を始めたその時だった。
突然扉が開いて、ずり…ずり…と得体の知れない音が聞こえ始めた。
ヒイロの用意した特殊演出かと思ったが、現れたのは入院している筈のリリーナだった。
病人服を着て片手で点滴袋をぶらさげ、裸足で何を思いここまでやって来たかリリーナ。
普段の可憐な姿も、風呂すらままならない病人生活でただの仮病使いには見る影もない。
幽鬼のように目は冥く落ち窪みそれでいて爛々と光を灯し、安達ケ原の鬼婆の如く荒れた
髪をふり乱しながら一歩一歩迫ってくるのは鬼気迫るものがある。
俺とデュオと五飛は動揺しまくっていたが、カトルだけはつまらなさそうにそれを見ている。
どうせヤツのブルジョア思考では 「ヒイロの宇宙の心にリリーナが惹かれて来たのかな?」
程度のご都合解釈はできるのだろう。
単なる暗い部屋で季節外れの怪談大会は、一気に番町更屋敷へと変貌を遂げた。
もはや俺達の目前まで迫ってきたリリーナは、そのかさついた唇をゆらりと開けると
「ヒイロ、足をお舐めなさい」
その言葉と同時にヒイロが待ってましたとばかりにリリーナに飛びついていった。
よくぞここまで計算しつくされたと感心すらしていた怪談の矢先、よもや濡れ場を
見せ付けられるとは夢にも思わなかった。
怪談が猥談に摩り替わろうとしていた時、俺達の心には確かに凍てつくブリザードが吹雪いていた。
でもヒイロ、お前だけヒートアップしたからペナルティーだ。
とりあえず今日の所はヒイロの罪科を各々考えながら解散することにする。