『眉無しぃ〜? カムラ大尉にケツでも差し出したか? 何だその…背中のスペシャルなバッテンは? 』
『…カスタムメイド機のカスタムですか? それ、セイバーフィッシュのスラスターですよね? 』
『ハッハァ! これで機動力だけでも『中尉』の『ブルー』にも負けネェって寸法ヨォ! 先輩方ァ、どうよ?! 』
フレーム上のスラスターをヒョィヒョィ動かして、自慢げにアピールしている『奴』に、俺は苦笑を禁じ得なかった。案外、
フィリップの言う事も冗談では無い様な気がしてくる。この自由度の高いスラスターは、LAの機動性をさらに高める事に
為るだろう。問題は…スラスターを背後に全て廻した時の全力加速にパイロットの身体が保つかどうかなのだが…。
『『中尉』ィ! お先に失礼! 機動テストは実戦でやらせて貰う! ヤザン・ゲーブル、GMLA…何たら…出る! 』
発進ランプがGOサインを表示したと同時に、カタパルトがLAを射出した。ブルーの加速にも劣らない速度で、射出後の
『奴』の機体のスラスター光が小さく為って行く。…やれやれ、アルフ? 駄々っ子に恰好の玩具を与えたお前の罪は重いぞ?
と、思った途端。通信回線がまた開く。噂をすれば何とやら、だな? …オイ…何でお前がノーマルスーツを着ている?
《…HMC…ハイ・マニューバ・カスタムだ。彼は高機動型も言えない位に興奮している。しっかり手綱を引くのだな…》
「アルフ! …俺を誰だと思っているんだ? 馬鹿とハサミは、うまく使ってみせる! 俺はヤ…ユウ、カジマ…だぞ? 」
《…護衛を、頼む。オレはあの廃棄コロニーに、陸戦隊と乗り込む心算でいる。オレはEXAMの…アーキテクチャーを
知らねばならん…解析するにしろ…破壊するにせよ…乗りかかったフネだ。見届ける義務が…オレには有る…》
《…ユウ・カジマ中尉。発進準備、願います…》
キタガワ伍長の哀しみの残滓を湛えた声が、俺が今はユウだと言う事実を認識させてくれた。カタパルトにブルーの両足を
乗せる。…全てに決着が、付く時が迫っている。俺は唇だけで哂った。さあ、俺を極上の技で愉しませてくれ、ジオンの兵士達よ!
発進ランプが点灯し、その瞬間、強烈だが、俺にとってはどんな感触よりも最高な圧力、Gが俺を包む。これだ! この瞬間が
心地良い! 息詰まる衝撃! 踏ん張る四肢! そうだ! 俺は、俺は闘いに往くのだ! 俺の力を、ただ誇示するためだけに!
《ユウ! 必ず、還って来て! 私の元へ! 》
射出される瞬間、俺はキタガワ伍長の感極まった声を聞いてしまった。…約束する。ユウ・カジマは必ず、アンタの元に返すさ。
この『俺』、ティターンズの精鋭の、ヤザン・ゲーブルの名に懸けて。