ガンダム歴代監督(富野以外)Part4

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584吉井孝幸インタビュー1/4
編 最初に「勇者シリーズ」の企画が立ち上がった経緯をお聞かせ下さい。
吉井 企画というのは、制作会社が提案するケースと、スポンサーといっしょに共同で進
めていくというケース、二通りあります。当時、私はプロデューサーという立場でしたが、
この作品は、まず変形合体のロボット作品をやりたいという大本の提案があって、じゃあ
それでどういう作品にするか考えましょうという形でスタートしました。
 当時、変形合体ものとしては「トランスフォーマー」がありましたが、それをある程度
ベースにして何か新しいことができないだろうかということを突き詰めました。「トランス
フォーマー」は異世界を舞台に、同じロボット同士が戦うという話です。でも我々は、タ
―ゲットを3〜5歳に設定するのなら、そういうものではなくて、純粋に子供たちが見て共
感できるヒーローロボットをつくりましょう、ということでスタートしました。まあ、個
人的にも、そういう幼児向けヒーローロボット物が好きで、ぜひやってみたかったという
のもありました。
585吉井孝幸インタビュー2/4:05/01/21 14:12:56 ID:???
編 当時のコンセプトは?
吉井 それまでのサンライズは比較的ハイターゲットな作品が多かったわけですが、やは
り3〜5歳の子供では、我々の作っている「ガンダム」以降の作品というのはまずわかりま
せん。だから、ロボット入門書じゃないけれど、本当に子供たちが楽しめるものを作ろう
というのが最初のコンセプトでした。本当に子供を意識した作品を作ろう、そのためには、
この「勇者シリーズ」は、アニメ誌全盛時代の中で、そのアニメ誌に無視される、興味を
示されない作品を作ろうということから始めました。
 あとは、とにかく仲間内の評価を気にしない、聞かないという強い意志を持つというこ
とでしたね。「勇者」は、比較的テーマ性の高い映像をやっているクリエイターから見ると、
やはり幼稚に見えてしまうんです。それを、それなりのプライドをもって監督以下みんな
が作れたということは、大きな成功の一因だと思います。
 ハイターゲットに向けて、それなりのテーマ性をきっちり持ったメッセージの多い作品
というのは、一歩間違えるとプライベートフィルムになってしまう危険性があります。サ
ンライズはマスに向かなくてもいいから、ハイクオリティーなものを作ろうというコンセ
プトでずっとやってきているわけですが、そんな作品ばかりでは、マニア向けというかオ
タク向けの映像しかできなくなってしまう。だから「勇者」のような作品もきっちり作る
必要があるんです。そういう話をクリエイターにすると、そうですね、マニアだけじゃな
くてたくさんの人に喜んでもらえる作品を作りましょうよって理解を示すんですが、実際
に作っていくと、周りのスタッフが自分の価値観で作品を作り始め、新規性や差別化が必
要だとか言ってどんどんエスカレートしていってしまう。結局みんな同じような作品にな
ってしまうんですよ。
 この作品のコンセプトの基本は、「子供が共感できる」ということです。加えてスタッ
フ全部に言うとしたら、「作り手が勝手に進化しない作品」ということです。「新規性より
普遍性」、あとは「知性に訴えるより感性に訴える」ということですね。これらを徹底的に
やって、初めてこういう作品ができたわけです。「エクスカイザー」から「ダ・ガーン」ま
で担当した谷田部勝義監督は、当時、三、四歳の男の子が二人いたんですが、彼には自分
の子供に見せる作品にしましょうということでオーダーしました。この「勇者シリーズ」
の骨格を作れた背景としては、谷田部監督の力量はもちろんありますが、彼に子供がいた
ということが、かなり大きかったと思います。

586吉井孝幸インタビュー3/4:05/01/21 14:15:01 ID:???
編 「勇者シリーズ」の大きな特徴として、日常の乗り物がロボットに変形し、意志をも
って主人公たちと密接な関わりを保ちながら敵と戦うという構図がありますが、この意図は?
吉井 これは単純に、子供たちから見たヒーローロボットというものを意識してのことで
す。ロボットものというのはもともと荒唐無稽なものですが、そのフィールドとして子供
が見ていちばん入りやすいものを用意しようと。例えば、エクスカイザーだったら、コウ
タ君の家庭がベースですよね。要するに子供から見ると、家族って一番わかりやすいんで
すよ。で、ロボットのモチーフも、車という、架空の乗り物じゃなくて身近にある乗り物
なら、子供たちも共感しやすいじゃないですか。つまり、ごく普通の家庭に、ごく普通の
生活があって、でもただひとつ違うのは、車に宇宙人が入ったっていうことだけなんです。
ごく普通の日常の中で、子供たちが、うちの車にもエクスカイザーがいたらいいなって思
ってくれればそれでいいんです。あとは大した問題じゃありません。
 最初にこのシリーズをやる時、最低十年はシリーズ化してやろうと決めていました。十
年やると、単品のキャラクターではなく、シリーズのキャラクターができてきて、ひとつ
の文化になるわけです。だって、二歳で見始めた人が、十年たつと十二歳ですよ。まあ、
そこまでは見ないとしても、その間の五年間なりを見てくれれば、その子供には「勇者シ
リーズ」がずっと焼き付くわけです。だから、これは長くやりたいという気持ちは当初か
らありました。そして、長くやるためには、子供たちの共感できる基本的なコンセプトを
外していけないわけです。それが、いま言っている、わかりやすいモチーフとか家族とか
学校とかということになるんです。ただ、そこでいつも心配するのが、ユーザーは飽きな
くても作り手が飽きてしまうということなんですね。だから、そのために、この作品はこ
ういうルールのもとでやるんですよ、という基本的なコンセプトを作る必要性が出てくる。
でも、やっぱりどこかでコンセプトはズレていってしまって、特に後半は子供たちの夢と
かハートに訴える作品から、作り手が頭で考えて知性に訴える作品になってしまったかな
という部分はありました。コンセプトを守るというのは、非常に難しいんですよ。


587吉井孝幸インタビュー4/4:05/01/21 14:16:16 ID:???
編 シリーズを続けていく上での苦労は?
吉井 いちばん大変なのが制作スタッフとの相互理解ですね。要するにサンライズのもっ
ている体質とハイターゲットな作品が多い中で、監督は理解してる、演出家も半分理解し
ている、でも実際に絵を描くアニメーターやスタッフが、ひとつ間違うと手抜きした感じ
になってしまう仕事をしながら、この作品でいいのだろうかと揺れてしまうわけです。ど
うしてもこういう作品ですから、スタッフを啓蒙する、乗せるというのがいちばん苦労し
ました。
 やはり長いシリーズ作品になると、常に新しいものを作りたいというクリエイターの本
性が出てくるわけです。そうすると、新規性より普遍性と言っていても、やはり新しいも
のにチャレンジしたいという欲が出てきます。そのチャレンジを全部潰したらクリエイタ
―としてのエネルギーが出なくなってしまう。だから、クリエイターとのせめぎ合いとい
うのは、その辺のバランスが非常に難しいわけです。「勇者」はこれで大丈夫なんだと言い
きってあげないと、彼らは不安になってしまうんですね。
 それでも、シリーズの後半は、チャレンジ、新規性の方にいきすぎたという感はありま
す。前作と重複していい部分がかなりあったとしても、新規性の部分がどんどん大きくな
ってしまった。子供の価値観、特に幼児というのはそんなに極端に変わらないものですが、
かといって時代は変わっていくわけですし、その辺が難しい。だから、立ち上げる苦労よ
りも維持する苦労のほうがずっと大きいですよ。何の制約もなく新しい作品を作るほうが、
違った意味で楽でしょう。周りは「8年続いてすごいですね」って言いますが、最低10年
は続けたかった身としては、ちょっと不本意です。振り返れば、いろんなバリエーション
ができてよかったなという部分と、勇者のコンセプトを徹底できなかったという悔しい部
分の、二つの感想がありますね。