1 :
通常の名無しさんの3倍:
容量オーバーで書き込めなかったので
新しいの立ててみたんですが・・・良かったのかな?
とりあえず、また神々が降りてくるのを祈ってます。
ダメです。
オマーン様のハマンコ
神降臨キボン。
7 :
529:04/05/18 09:48 ID:???
容量オーバーだったのか!
てっきりアク禁と勘違いを・・・。
ただいま鋭意製作中っつーかレポートなくなって欲しい(--;)
>1 乙です.
>529 降臨マッテマス!
チラシの裏にでも書いてろよ
オナニースレあげんなハゲ!
13 :
通常の名無しさんの3倍:04/05/18 18:29 ID:GjX7GawG
ハマーソさま
15 :
529:04/05/19 13:50 ID:???
この前ふと思いついた大学ifなネタ。当然続きはないけど。
どうでっしゃろ?
「先輩っ!」
「ん・・・ジュドーか。どうした?」
大学構内の銀杏の並木をハマーンが歩いていると闊達な声が後ろから聞こえてきた。
後輩のジュドーだ。
「先輩は経済学を専攻してるんスよね?」
「ああ、そうだが・・・それがどうした?」
「いや、教養の経済学でわかんないとこがあるんで教えて欲しいんですけど。
教授がめちゃめちゃ厳しいらしくて」
「ふむ・・・よかろう・・・」
そういってハマーンはジュドーを眺めてわずかに笑った。
「え・・・どうしたの?」
ジュドーはアヤシイ雰囲気を感じて後ずさった。
「いや、物事には代償というものが必要だろう。
社会の基本ともよべるものだ。わかるか、ジュドー・アーシタ」
「は、はい」
「私が教えるからには諸手を振ってテストに望めるわけなのだから・・・」
「だから・・・」
徐々にジュドーとの距離が狭まっている。
コツン
ジュドーの背中に固い感触が伝わった。
いつのまにか背中には木の幹が当たっていた。
ハマーンは手を木に添えてジュドーをサンドイッチにしながら囁いた。
「その分、代償も大きくなければ・・・」
「ハ、ハマーン?」
お互いの顔があと数センチの所まで迫っている。
「私と共に来るのだ。ジュドー・・・」
唇が近づく・・・
ジュドーは自然と目をつぶった。
・・・・・・
だが、予想していた感触はこなかった。
目を開けるとハマーンは少し離れたところに立って笑っている。
「冗談だよ、ジュドー。教えてやるよ。夕方、私の部屋へ来い。」
「あ、ああ」
ハマーンはそういうと颯爽と並木道を後にした。
なにかすごい喪失感の中、ジュドーはポツンと立っていた。
「先輩・・・チェッ」
「チェッ」かよワラタ
17 :
名無しさん2号 ◆sHaXf13KcI :04/05/20 16:31 ID:Crt8Tsu5
>>1 お疲れ様です。
頑張ってください、応援しています!
18 :
ハマーン専用アッガイ:04/05/20 19:08 ID:Y1AQxavU
皆さん、すいませんでした。
前スレを落とした犯人は私です。
即座に新スレを立てようとしたのですが受け付けてもらえず。
直後パソが死んでしまい悲惨でした。
話の方は完結しましたので今夜あたりコソーリとアップします。
19 :
通常の名無しさんの3倍:04/05/20 19:31 ID:8Ni+o8Nz
イラネ
ヤター
楽しみにしてます♪
今夜の更新を楽しみにしてます。
それでは続きです。少しかぶってます。
「プルみたいな女の子が中にいたよー……でもちょっとだけ違うみたい」
エルが気を取り直して、歩きながら“順番”に覗いて行く。
「プルが成長して…行ってる?…と言うか成長過程の…プルが順番?…に入っている……
……だんだん?…大きくなって!?…るってえー!!!!!!!!」
エルは自分の目が信じられなかった。
あまりの衝撃に十二列目で見たAと書かれた最後の棺の前で動けなくなっていた。
ニールが申し訳無さそうに言う。
「ここで見たことは誰にも言わないで欲しい。エル君にもこんな物を見せてすまないと思う。」
「ニールさん!そろそろ、この設備について説明して貰えないでしょうか?」
そう言いながらブライトは強い嫌悪感を込めてニールを睨んだ。ニールが説明を始める。
「これはハマーン・カーンと同じニュータイプ能力を持った兵士を生産維持するための
設備の一つ。そのニュータイプ研究所の狂気が生んだ犠牲者の墓地だ。 空の棺の主以
外は全てすべて無理な成長促進が祟って自ら動き出す事が出来なかった者達だ、解剖研
究用および、稼動しているクローンニュータイプ戦士の予備の生体部品として冷凍保管
されている。 アルファベット順にAからLまで十二段階、成長促進剤の投与量の多い
い順に並べてある。Aが最大でKが最小、Lは投与していない、成長の度合いは一年づ
つ違うが彼女らは全員十歳だ。
この成長促進剤は強力だが酷い副作用を有する物だった。しかし研究の成果を急ぐニ
ュータイプ研究所はそれの使用に踏み切った。多数の失敗は予想どうりだったがそれは
数で対応した。 投与量が最大の“Aの人々”は二十体が用意された 一番少ない“K
の人々”は三体で 投与しない“Lの人々”は二体のみとなっている。
酷い薬だよ94人に投与して30人しか生存出来ないのだから、Aの人々は20人の内1
人しか意識を持たなかった。生存率5%そして成功した1人も多くの障害を抱えた状態
だった」
エルが恐々尋ねる。
「“Lの人々”の二体って!?もしかして?エル・ピープルとプルツーの事?ハマーンの
クローンなのね!それでジュドーに拘ったのね、あの子達!」
「そうだ、成長促進剤を使ってないので幼いが健やかだった。後にはI、J・ピープルも
数人が実戦配備されて量産型のキュべレイで出撃していたようだ、そちらは薬の副作用
が酷く自我が殆ど無くて、機械のような少女達だった。」
「こんな物を見せて我々にどうしろと言いたいのですか?ニールさん。それに貴方は只
の軍医さんじゃ有りませんね?
頼みたい事が有るならはっきり言って貰いたいものです。かかる事項の秘密は止めて頂
きたい。」
「“Aの人達”の容姿を見た君達に説明の必要も無いと思うが、彼女らは全員ハマーン・
カーンのクローンの目覚め無かった者達、遺体だ。ワシがこれの一つを格納庫にあるキ
ュべレイのコックピットに座らせて多少の細工をしておく。支援の艦隊が到着したらワ
シと一緒に警務隊に引き渡して貰いたいのだ。それで“ハマーン・カーンは死んだ”と
言う事にして貰いたい。そして彼女に今一度だけ、ジュドー君と人生をやり直すチャン
スを与えてやってくれないだろうか?
それと、ワシの身分について君の疑念だが、医師の資格が有るのは本当だ、しかしも
う一つの身分がある。監視付きで活動を制限されていたとは言え肩書きはニュータイプ
研究所の所長と言う事になっている。つまり戦争犯罪人だ。警務隊に引き渡せばいくら
かでも君達に手柄になる。汚い事は全てワシがやる!たのむ協力してくれ!彼女を助け
てくれ!
「ねぇーブライトさん、協力してやろうよー、……ハマーンの事はもう勘弁してやろう
よ、プルやプルツーだってそう願ってると思うよ。」
そう言うエルはもう半泣きになっていた。腕を組み目を瞑りブライトはニールに言った。
「そうだな、私もジュドーを敵にまわしたくは無い。」
ニールは声にならない感謝の言葉を呟くと嗚咽しながら二人に頭を下げた。
ブライトはニールがハマーンの死体として偽装に使うと言った肉体年齢21歳の“Aの
人達”の棺の前に来て中身を覗き込んだ。ピンクの髪、顔の作り、体型どう見ても、ハ
マーンにしか見えない。“全裸のハマーンが目の前に横たわっている” 今まで手強い敵
としてしか見てこなかった人間の姿を、こんな形で見ることを不思議に感じた。そして
目の前の彼女を不憫に思ってニールに呟いた。
「こうして見ると、とても美しい女性ですね彼女は……可愛そうに名前も無いまま…」
全裸の女性を見つめ続けるブライトにエルがひとこと言う。
「ブライトさん! あんまり見るとジュドーに悪いわよ!」
“人前で全裸の女性を見つめる”あまりに異常な場所に居たのでその程度の事は今ま
で気にならなかったブライトだったが、エルに言われて恥じて目をそらした。 嗚咽の
止んだニールがブライトに答えた。
「命が宿る事が無かったそこの19人は“Aの人達”のままだったが5%の確立で命を
手に入れた1人は、“アルパ・ピープル”と呼ばれ特別に扱われたよ、85人中誰よりも
早
く意識をもったからな。彼女は…特別だ!能力的にも…今は行方不明だが…… 」
「アルパ・ピープル… 」
「そう…最初の二人目のハマーンだ……」
「…………………」
「……それでは、二ールさん!早速ですが……私も手伝いましょう、エル!ブリッジに
行ってろ!!」
ブライトの命令にエルが不服を言う。
「なんでさーあたしも手伝うよー」
「汚い事は大人に任せろ!何かあって上にバレてもおまえは知らなかった事にしろ!
当然ジュドー達にも知らせるな!」
ブライトの言葉に頷いた二ールが言う。
「君達やハマーンのような若い人達に過酷な戦争を押し付けたのは我々大人達だ、
これくらいは任せたまえ!」
ニールがそこまで話したとき、ブライトが問題点に気がついた。
「格納庫はブリッジから常に監視されている!ジュドー達に見つかる!」
「そうだった格納庫で人が動くとオートでカメラがブリッジに映像を送る」
ニールの言葉で少し考え込んでから、ブライトがエルに指示を出した。
「エル、暫くブリッジはおまえが一人で見ろ!何もしなくていい、座っていろ!
格納庫のモニターは消しておけ!」
「ジュドー達はどうすんのさ!?」
「そうだな……三人でガザとダブルゼータをネェル・アーガマの格納庫に運べと
伝えろ ガザは格納庫でライフルでもランチャーでもなんでもいい武器を装備する
作業をさせろ、もしもの時の戦力になる。ジュドーには暫くしたら百式での警戒任
務をルーと代わるように伝えろ」
「分かったよー ブライトさん…それじゃあ」
ブライトはエルがしょぼくれたように見えたのでもう一声かけた。
「これくらいはさせて貰わないとバランスが取れんのだよ!君達がアクシズで必死に
戦っているとき私は安全なグラナダにいたのだ」
エルは振りかえって少し笑顔を作って言った。
「運ぶとき、へんなとこ触るんじゃ無いわよ!」
「早くブリッジに行け」
「…………………」
「やっと行ってくれましたよ…さて、ニールさん、私はこう言う事には経験がありま
せん。指示をお願いします。」
「先ずは通常の生理状態を造り上げる。三十分かかる それから二人でキュベレイの
コックピットに移す。それまで、ブライト艦長は美女に囲まれながら座って待ってい
てくれ 」
「5ダースのハマーンとプルにですか、……妙な気分ですよ 」
「分かったら!さっさとダブルゼータ!ネェル・アーガマに持って行ってよね!!
作業用ガザだって武器持たせりゃ立派な戦力なんだからね!」
「そんな急かすなよエルー エゥーゴの支援が来たら使う事無いんだから!」
「その前に敵に発見されたらどーすんのさ!モビルスーツは百式しか無いんだからね!
これはねっ!ブライト艦長の命令なのよ!それとジュドー、帰ったらルーと警戒任務、
代わってやんのよ!」
「どーしたんだエルのヤツ なんか面白くない事あったのかな」
「おい!エル!俺が居ないからってハマーンいじめんなよ!」
「分かったわよ、後でお茶もって行ってやるよ!」
怒鳴りまくるエルに三人はそそくさとブリッジを後にして、無茶なガザ三人乗りで
ネェル・アーガマに移動した。ブリッジで一人になったエルは研究室での事を思い出
していた。
「プルがハマーンのクローンなんてタマゲタよなー、ガラスケースの中で一年刻みで
プルがハマーンになって行くなんてさ、信じられないもん見せられたわ!ジオンって
酷いことするよなーあれじゃハマーンが少しくらいあーゆー性格になるのもしょうが
ないかも? そろそろ、ブライトさん達始めてるかな?のぞいちゃおっかなー、…
……駄目、駄目、
これ以上変なもん見たくないわ……そうだ…ハマーンとこ、お茶持って行ってやるか!
ん、パックのコーヒーでいいや!」
エルがパックのコーヒーを持って病室に行くと、ハマーンとサラサは既に二人でお茶
を始めていた。逆にサラサがエルをお茶に誘う。
「エルさんも紅茶、如何ですか?」
「アレー、せっかくコーヒー持ってきたのにー これエゥーゴの支給品の中で一番高
級なヤツなのよ豆なんかM&Mなんだから!」
残念がるエルにハマーンが憎まれ口を叩く。
「貧乏なエゥーゴにしてはM&Mとは奢ったなそんな高級品を使うとは…」
「前の百式のパイロットだったクワトロさんて人がコーヒーにうるさい人で豆だけは
高いものを使うようになったそうよ」
「ん!それはおかしいぞ、ヤツはインドの紅茶が好みだったハズだが?」
「なんでアンタがそんな事知ってんのよ」
「いや、別に、気にするな!何でも無い」
「皆さん、M&Mのコーヒーはお好きですか?」
サラサが嬉しそうな顔でエルとハマーン尋ねてきた。
エルが答える。
「とても美味しいし香りも素晴らしいけど高すぎよ、いくら手作りの有機栽培と言
っても!」
ハマーンもエルに同意する意見を言う。
「そうだな、確かに高い。M&Mは野菜や果物も最高の品質だが、あの値段ではな、
……私とてミネバ様のご相伴が無ければそう安々とは口に出来なかった。ミネバ様
はM&Mのグレープフルーツが大好物だったからな 」
嬉しそうな表情が消えたサラサが二人に謝り出す。
「ご愛顧頂いてる皆さんには大変申し訳ありません。私共の努力不足です。なるべ
く安く出荷するように努めているんですが」
エルがサラサに尋ねる。
「えー!M&Mってムーンムーンの略だったの! なんでそんな商売を?」
「ムーンムーンだってお金は必要です。ラサラと二人で行商から始めた唯一の現金
収入なんです。」
ハマーンも尋ねる。
「何処の業者に、いくらで卸している?」
サラサが答える。
「ルオ・ベジタブル・アンド・フルーツ・カンパニーさんに、コーヒー豆は一キロ
30クレジットで買い取って頂いています。高かったでしょうか?最近は水の代金
も高くこの値段でもあまり利益が無いのです」
エル、ハマーン共に呆れた。エルが言った。
「ルオさんところ酷ーい!M&Mの豆、200グラム980クレジット、特売でも780
クレジットなんですけど。」
ハマーンはアクシズで買っていた高級食材代金の大半がルオ商会の系列会社の利益
になっていた事に腹が立った。
「ルオ・ウーミンめ!ゆるせん!暴利を貪りおって!修正してやる必要があるな!!」
「それは…もうジュドーが……」
「なんだ!!」
「なんでもないです……」
他愛も無いお茶の会話が続く中、突然ネェル・アーガマと連動させた警戒警報がエル
達の艦に鳴り響いた。そして警報が鳴ってから三秒も経たずに大きな爆発が起きてブ
リッジが吹き飛び、その横を一機のモビルスーツが高速で抜けて行った。
「爆発!?敵!?どこがやられたの!いや、そんな事より先ずノーマルスーツね!」
エルは素早く三人分のノーマルスーツを取ってくる。サラサと手伝いハマーンにも着
せた。
「作業は中止だ、取りあえずノーマルスーツを着て様子を見よう。そこのコントロー
ルパネルから艦の状況が解るはずだ。」
ニールの示したモニターを見たブライトは愕然とした。
「ブリッジが大破している!そんな!エルが……」
「いや、安心したまえブライト君、温度センサーによると三人共に病室に居る。皆、
無事のようだ既に皆ノーマルスーツを着ているようだ。さすがだ、素晴らしい子だ!」
熱感知センサーで病室の動きを見ていたニールの言葉に胸を撫で下ろしたブライト
だが、エルがそう簡単に死ぬ訳が無いと思った。
「何故、敵に察知されたのだ、いや、それよりネェル・アーガマに全員移動だ!こん
な艦じゃもう一撃されたら終わりだ!」
そう言うとブライトは、ネェル・アーガマ、ブリッジのキースロンと連絡を取った。
攻撃を加えて来た黒い機影は横を抜けて行った後、一旦距離を置いた事やジュドーが
百式で護衛してくれる事を確認してランチで全員を移送させた。
ジュドーは焦っていた 一瞬だけ後ろ姿が見えたその機体は、間違い無くキュベレイ
だと解ったからだ。
「あのマシンに普通の人間は乗れない!間違い無くニュータイプか強化人間だ!ダブ
ルゼータでも相打ちがやっとなのに…この百式じゃ、さらに仲間でもを連れてこられ
たら…ネェル・アーガマを守り切れない!」
「イーノ!敵は一機だがキュベレイだ、前に出たらメガライダーじゃ標的になるだけ
だ!百式の後ろに着いて援護にまわってくれ!…感じる…見てる!…何処からくる?!
……」
暫くして、キュベレイは正面から現れた。百式に向かって、まっすぐに高速で突っ込
んでくる。
「馬鹿か!?」
ジュドーは回避運動もしないキュベレイにビームライフルの狙いを付け、引き金を
引いた。狙いは正確で有った…が直前で反れた、二射、三射…いくら撃っても直前で
反れる。まっすぐ突っ込んで来るだけの敵を正確に狙っているハズなのに。その間に
も敵は接近してくる。
「Iフィールドってヤツか?モビルスーツなのに!?」
至近距離で、最後にビームライフルを撃った時、ジュドーは信じられない光景を見た。
「サーベルでビームを弾いてる!!!」
次の瞬間、百式はキュベレイにビームライフルを弾き飛ばされた。そして機体同士
の接触する衝撃がジュドーを襲った。百式の腕をキュベレイに掴まれた。
「なんだ!こいつ武器が使えなくなって格闘戦をしようと言うのか!?」
ジュドーがそう叫んだ瞬間、ファンネルが一つ百式の頭をすり抜けて飛び、イーノ
のメガライダーのハイメガ砲だけを破壊した。
「違う?遊んでるのか!?」
次の瞬間、百式のコックピットハッチをキュベレイの長い指が弾いた。百式のコッ
クピットが開いてしまった。外にキュベレイのパイロットが見えたのでジュドーは拳
銃を抜きかけたがパイロットがコックピット飛びこんで来るほうが速くて拳銃は撃て
なかった。飛びこんできたパイロットは自分でハッチが閉めると、ヘルメット脱いだ。
ジュドーはその見慣れた容姿を見て叫んだ。
「ハマーン!なの!?…どうして?…なんで?……」
“そのハマーン”は動けないでいるジュドーのヘルメットを脱がすと両手で頭を掴ん
で強引に唇を奪った。急減圧したコックピットで息が出来ないジュドーの肺を彼女の
息が満たす、ピンクの髪、甘い匂い、舌まで入れられてジュドーの頭は完全にシステ
ムダウンを起こした。三十秒位してジュドーが“もう勘弁して”よと彼女の背中を軽
く二回叩いた。
彼女はジュドーの唇を開放すると、膝の上に座ったまま、手にした紙にメモ書きをし
てバイザーに入れて閉めた。そして、華麗に身を翻すと百式のコックピットを飛び出
して行った。
イーノが放心状態になったジュドーのコックピットに入って来た時には既にキュベ
レイは、病院船を粉々に破壊して遥か彼方に消えていた。不思議な事に ネェル・アー
ガマには被害はなかった。
「ジュドー大丈夫か!」
「あ、ああ、何とかな……それより皆は!?」
「病院船が沈められたけど皆無事だよ。怪我人も出てない。………バイザーのそれ…
なんだ?」
イーノがジュドーのバイザーからメモを取りだして読んだ
「“金色を虐めて嫌われるのはもうイヤだから、今日のところはこれくらいで勘弁して
あげる。”なんだ、まるで意味が分かんないよ。ジュドーには分かるのか?」
「分かる訳ないだろ!それより、あのパイロット、ハマーンだった!」
「なに言ってんだよ!ハマーンならネェル・アーガマでエルとサラサが面倒見てるよ。」
「でもハマーンだったんだよ ニールなら何か知ってるかもしれない イーノ戻ろう!」
警戒任務をビーチャに代わってもらったジュドーがブリッジに入る。敵に発見され
てしまったネェル・アーガマは大慌ての状態だった。支援艦隊との合流を急ぐために
来たルートを全速で戻った。戦力で勝る二隻のエンドラ隊と今戦っても勝ち目が無い
からだ。
「敵艦隊の動きはどうか? 会合ポイントに付くまでの時間を計算しろ!」
あわただしく指示を出すブライトにトーレスが答える。
「敵艦隊追って来ます。モビルスーツはまだ出していません。支援艦隊との会合ポイ
ントまでおよそ二時間」
ブライトが呟く
「二時間以内に攻撃を仕掛けられたら終わりと言うことか」
ジュドーがブライトに戦況を尋ねる。
「どうなんです?ブライトさん…こちらの戦力は……」
ブライトが有りのままを伝える。
「まともなモビルスーツは百式だけだ。メガライダーもハイメガ砲をやられて足とし
てしか使えない。ガザはビーム兵器は駄目だ右腕に溶接で無理やり付けたネモ用のマ
シンガンと古いザク用のミサイルポットだけだ。敵の戦力はザクVが九機とキュベレ
イだ。
ジュドー、敵は圧倒的に有利だ。こちらを取り逃がす心配のある暗礁空域を抜けるま
での三十分間は攻撃してこないはずだ。医務室に行ってハマーンの様子を見て来い…
……すまなかったなジュドーおまえ達を助けてやれないようだ」
圧倒的な戦力差のため完全に諦めモードになったブライトにジュドーが言い返す。
「まだ負けると決まったわけじゃないよブライトさん。それにあのキュベレイのパイ
ロットはまともには戦闘に参加してこないかも知れない。それならまだチャンスは
有る。諦めるのはよそうぜ!……でも、医務室には行く!それじゃ三十分後!」
そう言い終わると、ジュドーはハマーンの待つ医務室に急行した。
医務室ではハマーンとニールが長年の誤解を解いていた。
「そうか…二ールは私を嫌って会ってくれなかったのでは無いのだな」
「とんでもないハマーン様をお慕い申しておりました。つい最近まで自分は左遷され
ていたと思っておりました。まさかニュータイプ研究所の幹部連中がハマーン様と私
の間に入って両方に嘘の報告をしていたなど夢にも思いませんでした。
自分が正式にはずっとニュータイプ研究所所長のままだったのもグレミーの反乱後、
初めて知りました。」
「まったく!ニュータイプ研究所のやつら好き勝手をやってくれる。」
そこにジュドーが入って来た。
「ハマーン具合はどうだい?今戻ったよ」
「だいぶいいようだ、骨折箇所はプレートで接合してもらった。傷口さえ塞がれば
普通に動ける。それよりおまえは病床の恋人に思いやりを見せないのか?」
「あ、ちょっとまって、俺いまモビルスーツ降りたばかりで汗臭いから顔洗ってくる
よ!」
「気にするな!」
「うわっ!」
洗面所に向かおうとしたジュドーはハマーンに腕を掴まれた バランスを崩したと
ころで今度は頭を掴まれた。
「これって、さっきと同じだ……」
などと考える間もなく唇を奪われた。ハマーンは舌まで入れてきてジュドーを離さな
かった。 そこに百式とメガライダーの通信記録から起こした敵パイロットの写真を、
ジュドーと二ールに見てもらう為にイーノが入ってきた。
「さっきの女性パイロットの写真出来たよー」
イーノは、持ってる写真と同じ光景を眼前にして驚いて口を滑らす。
「………えっ!ジュドーさっきと同じ事やってる!」
ジュドーを突き放しハマーンの眼が鋭く光る。
「イーノとやら、その写真 みせてくれないかな?」
ハマーンはイーノの手から素早く写真を奪い取ってそれを見て言う。
「ジュドーそこに座ってくれるか!説明してもらおうかな!」
「イーノなんで、こんなタイミングで言うんだよ!」
「ごめんジュドー驚いてつい……」
瞳を潤ませ、少し取り乱したハマーンはジュドーを締め上げながら叫ぶ。
「ごちゃごちゃウルサイ!説明しろと言っている!!」
ハマーンに首を締め上げられジュドーが苦しそうに言う。
「写真!写真!……良く見て!」
「えっ?!…え………こ、これは…私?……」
「その説明は私が……」
暫く様子を見ていた二ールが、語り出した。
「それは……、ハマーン様にも知らされず極秘に作られたクローンです。」
「馬鹿な、クローンはプルとプルツーの二人だけのはず!何よりも、その写真の者は
どう見ても私と同年代だ時間的に矛盾するでは無いか!」
「実はハマーン様あの……………使用禁止のはずの…あの薬が使用されていたのです。」
「クローンに!クローンにあの薬を使ったのか!……なんと言う事を!!……と言う事
は…何体作られたのだ…」
「あんな危険な成長促進剤を使うと言う事は10や20の数では有るまい!」
「…………………………………」
「何体作られたのか訊いている………何体作られたのだ私のクローンは!!」
「94体…です、生き残る事が出来た者が30体…… 」
「ニュータイプ研め!惨い事をする………そのクローン達はどうなったのだ?」
「皆、戦いで死にました。今生存しているのは恐らく1人………たぶん写真の
パイロットです。一番最初に意識を持った能力的にも飛び抜けた特別な個体です。
名前も有ります」
「なんと言う名だ?」
「アルパ・ピープル・オメガ………… 最後に残った最初の二人目の貴方です……
オメガは究極と言う意味です」
「なるほどな………………フッフフ………なるほど…………」
「……………………………………………」
百式のコックピットでジュドーの唇を奪う自分のクローンの写真を見てハマーンは
思わず笑みを浮かべて言った。
「アルパか………さすが“究極の私”だ、ジュドーに目を付けるとはな!しかも私が
数ヶ月を要した唇奪取を、いきなり果すとはな しかしジュドー何故だ、まったく
抵抗してないようにみえるが?」
ジュドーは頭を掻きながら言い訳をする。
「いや、ハマーンと思ったんだ俺…ヘルメット取ったときハマーンと同じいい匂いが
した 気持ち良くなって動けなかった ほんと、ごめん……」
「その、ハマーンいや、アルパは おまえに何か言ったか?」
「いいや、口が利けないようだった 意味不明のメモを書いて行った ハマーンは
解るか?これなんだけど………」
ジュドーに渡されたメモを読んだハマーンが心の中で呟く。
「何故?クローンがこんな事まで知っている。戦闘に関係無い事までインプットされ
ている訳が無い。それにしても汚い字だな!まるで子供の字だ!私のクローンならも
う少し知的な字を書いてもらいたいものだ………」
ハマーンは嫉妬から取り乱した直後に昔の男の話になるのは彼女のプライドが許さ
ないのでごまかす事にした。
「これはだな…まあ…気にするな!戯言だ!意味は無い……」
ハマーンはそう言って一笑に付した。
二ールがアルパについて付け加える。
「ジュドー君が思ったように彼女は口が利けない、好意を持った人にメモを渡すのは
彼女の癖だ。視力も殆ど無い、全て薬の後遺症だよ。」
ジュドーが驚いて尋ねる。
「視力無くてモビルスーツあんな操縦すんの!?俺、全く刃が立たなかったんだよ」
二ールが答える
「だから特別なんだ 実のところ彼女の能力は殆ど解析不能なんだが ミノフスキー
粒子が濃い場所ほどその能力を発揮出来る、良く見えるらしい、アルパのキュベレイ
の蝶や蛾のような触角は目の見えない彼女の発案指示で製作された物なのだが作動原
理は不明だ 」
「レーダー妨害の原因が彼女のレーダーなのか?」
「さあどうかな、とにかく眼の見えない彼女だから見える何かが有る事だけは確かだ!」
ブリッジではブライトがサラサに詫びていた。
「サラサさん 本艦はもうじき暗礁空域を抜けます。そこで敵は総攻撃を仕掛けて来る
でしょう。戦力比は十倍以上です。支援艦隊も間に合いそうもありません。あなたをお
守りする事が出来ないようです。軍人として責任を果たせない無力さを痛感します。
申し訳ありません。」
サラサは微笑みながらブライトに言った。
「その様な御気使いは無用です。私もジュドーさんと同じ気持ちです。エルさん、
モンドさん、ビーチャさん達もいるのです。なんとかなると思います。最後まで希望
を持ちましょう。」
モンドがサラサに続いて口を開く。
「俺もムーンムーンに行ってラサラの墓参りするまでは、どんな事があっても死な
ない!死ぬもんか!」
ビーチャ元艦長代理が適当な作戦を語る。
「まあまあ、そんなに気負うなって、ジュドーの話じゃキュベレイはあまりやる気が
無さそうじゃないか、何とか逃げ回って支援艦隊を待とうぜ!」
「そんなにうまく行くかなー……まあ、やってみましょ!」
皆の気持ちが盛り上がったところを見てブライトが指示を出す。
「そろそろ暗礁空域を抜ける。エル、可愛そうだが医務室のジュドーをハマーン
から剥がして来い。百式でスタンバらせろ!ルーはガザでジュドーを援護、イーノ、
モンドはメガライダーで陽動だ。トーレス!メガライダーはミサイルポッド付いた
のか?」
「完了してます。機銃弾装備も今完了!」
「よし!全員配置に就け!敵ビルスーツ発進と同時にこちらも出るぞ!」
「了解!」
全員が声をそろえてブライトの指示に応えた、ルー、イーノ、モンドは格納庫へ
急いだ。
「キースロン!ミノフスキー粒子最大濃度散布だ!敵はすぐにも来るぞ!!!」
トーレスが叫ぶ。
「敵艦のモビルスーツ発進確認!」
ブライトの命令も大声になる。
「全機発進!ネェル・アーガマは支援艦隊の方角に全力加速をかけろ! トーレス
敵の数と種類を確認しろ!」
「ザクV九機!三機編隊で来ます。それぞれの隊長機、それぞれの先頭はザクV改
タイプです。キュベレイの発進は確認されていません。」
「ジュドーの言ったとうりなのか?キュベレイがいなければ望みはある。いけるぞ!」
ブライトは一縷の望みに賭け、全員に発破をかける。
「主砲!各機銃座!敵が見えたら直ちに撃て!遠慮はするな艦に近付けさせるな!」
「ジュドーどうしよう まともな作戦じゃ無理だよ、強力なモビルスーツ9機だよ!」
イーノが心配そうな声で訊く。
「まず、出方を見る ひとまずネェル・アーガマの後方十五キロを維持だ ルー、ガザ
の調子はどうだ」
「動く棺桶ね!装甲はともかく加速性能悪すぎよ!メガライダーに乗せてもらうことに
する。イーノ、モンド頼むわ!」
「分かったルー、足をフットレストに乗せるとき気を付けてくれ、ハイメガランチャー
のところがミサイルポットに
変更されてる。横に出っ張ってるから蹴らないようにしてくれ!」
ルーはイーノの指示でガザをメガライダーに乗せた。ガザの独自の形状のためしっく
りこなかったが何とかなりそうだった。乗ったままでマシンガンも撃てそうだった。
乗せ終わった時、敵の動きを感知したジュドーが叫んだ。
「来た!二手に分かれた六機と三機だ!! 六機の方がこちら来る あの六機を引っ張
って暗礁空域まで戻るぞ!そこで数を減らしてからネェル・アーガマに戻る。そこで
主砲で挟み撃ちする作戦でいく!モンド、ブライトさんに伝えといてくれ!」
「分かったジュドー、伝える!それより長期戦になりそうだ百式は推進剤を節約しろ、
暗礁空域までメガライダーに乗るんだ!ガザの後に乗って追ってくる敵を狙撃してくれ」
「分かったモンドそうさせてもらう」
モビルスーツ二人乗りのメガライダーはザクV六機を引き連れて暗礁空域に向かった。その途中、操縦する労力から開放されたジュドーは狙撃に集中出来て一機を撃破した、
その爆発は後続二機にダメージを与えた。
「ジュドーさいさき良いな!」
「まぐれさ!油断するな!暗礁空域に入るぞ、ジャンクにぶつかるなよ!入ったらすぐ
に俺は降りる。物陰から狙うからメガライダーは開けた場所で囮になってくれ! ルー
はメガライダーの護衛を頼む」
「了解した。その先にある大破したコロンブス輸送艦の陰で分離しよう」
ダメージを受けたザクV二機は暗礁空域の中に入って来なかった。メガライダーを追
って中に突っ込んだ僚機を外から援護する形を取った。中に入って来た三機は素直にメ
ガライダーを追尾した。隊長機のザクV改が最初に発砲した。ビームは近くのジャンク
に命中して爆発した。
「私も分離して援護にまわるわ!」
その爆発の閃光に隠れてルーもジャンクに隠れた。隠れ際に左足に付けていたミサイ
ルポットのミサイルを全弾発射した。高い機動力を誇るザクVにミサイルを命中させ
る事は難しかった。しかしジャンクとミサイルを同時によける その動きの予測は
簡単だった。
「頂き!」
戦艦のジャンク横を直線的にリバースしたザクVをジュドーが見逃さ無かった。
バックパックを直撃されたザクVは爆発を起こした。その爆発で軌道がそれて高速
でジャンクに激突して大爆発を起こした。
「やった!これで二機落とした 次はどこだ…………」
仲間が撃墜された事を知った二機のザクVはメガライダーと距離を置いて、ジャンク
に身を隠した。それを見てジュドーが残念そうに呟く。
「敵が慎重になった もう簡単には落とせない」
暗礁空域のジャンク中、一本道のように続く広めの空間、そこを低速で進むメガ
ライダー。深いジャンクの中に隠れるジュドーの百式、ルーのガザそして二機の敵ザク
V。ザクVはメガライダーを補足していたが囮と知って撃って来なかった。“撃てば自
分位置を知られてやられる”先ほどからのジュドーの狙撃の正確さは敵にそんな恐怖
を与えていた。そんな膠着状態が暫く続いた。
「心臓が口から飛び出しそうだよ、囮なんて引き受けるんじゃ無かった」
「今更言っても遅いよ 覚悟を決めて行こうよモンド ジュドーがうまくやってく
れるよ!」
何時、敵から撃たれるか分からない状態に長時間放置されたメガライダーの二人は
精神的に辛かった。漂うように低速で進むメガライダーを、付近のジャンクに隠れな
がら四機のモビルスーツが追う展開が続いた。
突然、予想もしない方向からのビームがルーのガザを襲った。ガザの右足がミサイ
ルポッドごと吹き飛んだ。
「しまった、暗礁空域に入らなかった二機だわ!」
ルーは知らず知らずの間に暗礁空域の縁ぎりぎりのジャンクの薄い場所に来ていた
事を知った。それを合図にするように今まで我慢させられていた獲物に二機のザクV
が襲い掛かる。しかし、ジュドーはそれを予測していた。ガザの爆発と同時にメガラ
イダー前方のジャンクの少ない空間に狙いを定めていたのだ。案の定そこから一機の
ザクVが飛び出して来た。
躊躇無く引き金を引くジュドー メガライダーのすぐ横で爆発が起きてそのザクV
は暗礁空域の新しいジャンクの一つになった。一機残った隊長機のザクV改は、ここ
では数のメリットが生かせない事に今更に気が付いた。バーニアを吹かして機体を翻
し暗礁空域を飛び出して行った。外の二機と合流すると、ネェルアーガマを先に攻撃
する作戦に切り
替えた。
「ルー大丈夫か?イーノ、モンド、敵を追う!急げ!!」
三機は暗礁空域を出ると今度は百式を前に座らせて、メガライダー二人乗りで敵を追
いかけた。その時ネェルアーガマからの通信を受けたイーノが皆に言った。
「ネェルアーガマがかなりやばいみたい。エンドラ二隻に追いつかれて砲撃されて
るって!さらにザクV三機も行かしちゃったら皆死んじゃうよ どうしよー!
ジュドー!」
「ルー!降りてくれ!」
「何を言うのよジュドー」
「軽くしたいんだ!メガライダーのエンジン全開にして 百式のスラスターも全開に
する それなら間に合う ルーはエンドラの近くに行ってネェルアーガマを狙う砲撃
の邪魔をしてくれ、モビルスーツはいないはずだから出来るよ 頼む!」
「分かったわ それじゃ降りるわ 皆の事頼むわよ」
ルーのガザを降ろしたメガライダーは高速で飛行を続け、先行していたザクV隊に
ジリジリと追いつき始めていた。その先に幾つもの閃光に震えるネェルアーガマが見
えて来た。モンドが泣きそうな声で言う。
「酷くやられてる エンジンが片側完全に停止してる ジュドー早くザクVを追っ払
ってくれよ!」
「ああ、今やるよ イーノ!ネェルアーガマにこちらの位置信号を送れ!そこに主砲
を撃たせろ!モンド!ザクVは真っ直ぐに向かっている こっちを奴らの真後ろに
着けろ! 」
「分かったよジュドー発射と同時に避ければいいんだな 発射のタイミングも知らせる
ように言うよ 」
「十秒後だって……………………………」
「来た!左に避けろ」
「やった!」
主砲は手負いのザクV改一機を撃墜したが残り二機は尚もネェルアーガマに向か
った。ネェルアーガマは苦戦を強いられていた。高い機動力を誇るザクVを前に手も
足も出なかった。ザクV部隊は攻撃を母艦の艦砲射撃と連携させ自身は回避運動に
注力して隙をみて攻撃したので対空砲火で撃墜されたザクVは無かった。さらに暗礁
空域から戻った二機が攻撃に加わる。動きが鈍くなった相手に対して敵艦エンドラの
主砲は脅威的である。それを感じたジュドーがイーノに言う。
「メガライダーはルーを手伝いに行ってくれ!今、戦艦の主砲が直撃したらネェル
アーガマは持たない!」
「いいけど ジュドーは一人で大丈夫なのか?五機もいるんだぞ!」
「いいから行ってくれ!」
「分かった!死ぬなよジュドー」
「まだ死ぬつもりは無いよ!」
ジュドーはそう言うと、メガライダーから百式を分離させてネェルアーガマに向
かった。そして群がるザクVの一機に狙いを付けて引き金を引いた。ザクVの左腕
を吹き飛ばした。
戦闘の様子はブリッジの他、医務室にも映像が送られていた。ハマーンは祈るよ
うな気持ちでモニターの百式を見つめていた。心の中で何回も叫んだ。
「ジュドー死ぬな!今お前が死ねば私はさらに深き寒き闇に落ちる事となるのだぞ!
私との約束を守れ!」
百式がネェルアーガマの護衛に戻ってきたのを見た敵は、手負いのザクV二機を
対艦攻撃に残し、無傷の三機が百式に攻撃を仕掛けて来た。ジュドーは連射される
ビームを掻い潜って三機に接近して隊長機と思われるザクV改にサーベルで切り付
けた。左脚部を切断するダメージを与えたがその際、頭部バルカンでサーベルを破壊
された。さらに一旦離脱する最中右ウイングバインダーを吹き飛ばされた。三機の
ターゲットが自分に移った事を悟ったジュドーはネェルアーガマから少し距離を置
いて敵を艦から引き離しにかかった。
それとほぼ同時にネェルアーガマを狙うエンドラの砲撃が止んだ。少し余裕が出来
たブライト達がやっと対空砲火でザクV一機を撃墜した。
「メガライダーとガザの攻撃がぎりぎり間に合ったみたいだな戦艦の砲撃が沈黙して
くれた」
ジュドーの喜びもつかの間、エンドラの砲撃が止み、対艦攻撃の一機が撃墜された
のを知って百式を追っていた片足のザクV改がネェルアーガマ攻撃に向かった。ジュ
ドーは焦った。
「もうネェルアーガマは沈没寸前だ!あいつを行かしたらハマーンが死んでしまう!
そんなのイヤだー!!」
他のザクVの事を考え無い無茶な態勢からビームライフルを発射した。大きな爆発
がネェルアーガマまでも揺らす。
艦に向かったザクV改を撃破する事は出来た。しかし、次の敵にまるで対処出来な
い態勢になっていた。もう一機のザクV改の放ったビームに左腕を付け根から吹き
飛ばされた。さらにもう一機のザクVに右脚を吹き飛ばされた。その爆発で百式は
ネェルアーガマの前方まで流された。ザクV改とザクVが追ってくる。百式はもう
ぼろぼろで機動力は半減している。
それを見抜いた二機はビームライフルを撃つ事をせず。ザクVは百式を後ろから押
さえ込んだ。隊長機のザクV改はサーベルを抜いてそれをゆっくりと仕留めにくる。
自分達を邪魔する存在への憎しみが、仲間を殺された恨みが、ただ殺す事を躊躇わせ
る。なぶり殺しにする気なのである。
「俺達を邪魔するヤツはこうしてやる!おまえら!よく見ておけ!!」
その剥き出しの憎悪はネェルアーガマのクルーにも向けらた。
目の前で行われるジュドーの処刑を止めようとブライトが叫ぶ
「機銃、主砲、ミサイルなんでもいい!ジュドーの百式を助けろ!」
キースロンが涙声で絶望的な状況を報告する。
「艦長!もう!この艦に前方に撃てる武器が有りません!」
エルが叫ぶ
「ジュドー死なないで!ここまで来て死ぬなんて馬鹿よ!」
ビーチャが泣きながら言う
「ジュドーまだなんか手が有るんだろ?!早くなんとかしろよ!」
ジュドーの絶対絶命の状況に大粒の涙をこぼしながらハマーンが泣き叫ぶ。
「ジュドー、ジュドー、ジュドー私を置いて行かないでくれ!そんなの
イヤだー!!!!!」
その時サラサはハマーンの側に来て言った。
「泣いている時ではありません この悪意からジュドーさんを救うのは貴方の
役目です 」
ハマーンは泣きながらサラサに言う。
「今の私に何が出来ると言うのだ! どうしろと言うのだ!」
「もう一人の貴方が、呼んでくれるのを心待ちにしていますよ。」
「えっ?!…………そうか!分かった!感じる!」
パニックから立ち直ったハマーンは、直ぐ近くで待っているもう一人の自分を感
じた。そして叫んだ。
「来い!アルパ!!来てジュドーを救ってくれ!!!来るのだもう一人の私っ!!!!」
ハマーンの言葉が終わると同時にネェルアーガマを攻撃していたザクVが爆発した。
そして、ピンク色をした30個の小さなものが高速でブリッジの横をすり抜けて行った。
それら全てが一瞬光るとザクVとザクV改は爆発もしないで幾つかのバラバラの部品に
なった。ジュドーが、手だけで自分を掴み続けるザクVを振りほどいていると、ピンク
色達は一点に収束するように本体に戻って行った。突然現れたキュベレイは来た方向
から一度も向きを変える事無く飛び去って行った。
10分か?20分か?ジュドーは無意識にキュベレイを追いかけていた。唯、唯、無心に追いかけた。
キュベレイは傷ついた百式が自分を見失わない程度の距離と速度を維持して飛んだ。二人が暫く飛ぶと、ブライト達が待ち
侘びていた支援のエゥーゴと連邦の大艦隊が見えてきた。近付くとキュベレイを発見したサラミスが対空砲火を開始する。
その時ジュドーの頭にハマーンの声が響いた。
「私の真後に付いて来て」
ジュドーはそうした。そうする事に何の疑問も無かった。キュベレイは回避運動はせず、先ほどジュドーに見せたように直撃
コースのビームだけをサーベルで弾いた。そして、キュベレイはメッチャー提督の乗るサラミスの正面でファンネルを放出した。
自分に向かってくる途轍もなく巨大なオーラにメッチャーは恐怖で硬直しながら叫んだ。
「誰か!助けてくれ!!!!」
「何を!」
ジュドーが叫ぶより早く ファンネルがビームを発射する。
最初のファンネルがブリッジ左のレーダーが吹き飛ばす。ジュドーがファンネルを狙撃する。サラミスの直近でファンネルが爆発する。
次のファンネルがブリッジ右のレーダーを吹き飛ばす。ジュドーがファンネルを狙撃する。サラミスの直近でファンネルが爆発する。
次のファンネルがブリッジ左の機銃を吹き飛ばす。ジュドーがファンネルを狙撃する。サラミスの直近でファンネルが爆発する。
次のファンネルがブリッジ右の機銃を吹き飛ばす。ジュドーがファンネルを狙撃する。サラミスの直近でファンネルが爆発する。
最後にキュベレイは背中のアクティブカノンでブリッジを狙った。ジュドーは何もしない。
「そうか…アルパ……それも、いいかもしれないな…………」
キュベレイの真後ろに位置した百式のコックピットでジュドーは何もせずただモニターで彼女の行動を見守った。
しかし次に見た光景にジュドーは彼女の意図を知り涙ぐんだ。
「やめろよ……………そんなこと…………するなよ…………」
キュベレイは真後ろに飛ばしたファンネルで自分の背中を撃った。ジュドーはそのファンネルを狙撃したが無意味だった。
自爆したキュベレイはサラミスにゆっくりと落ちて行った。そして仰向けになってデッキを滑ってブリッジに突き刺さった。
ジュドーは百式をその横に着艦させるとコックピットを飛び出して、キュベレイのハッチを空けた。そこには穏やかな表情
のアルパが息絶えていた。手には幼い字で“ハマーンを悲しませないで”と書かれたメモ用紙を握っていた。
ジュドーはそのメモ用紙をポケットにしまうと眠るアルパに約束した。
暫くしてサラミスの兵士が出て来て騒ぎになった。少し遅れてメガライダーとガザも来た。百式がキュベレイを狙撃したと思
ったメッチャーが出てきてジュドーに命を助けてくれたと礼を言ったが、耳には入らなかった。
メッチャーはアルパをネオジオン総帥と思って侮辱するような事を言ったので、ジュドーは殴りかかろうとしたけれど、
ルーやイーノに取り押さえられてメガライダーに押し込まれてネェルアーガマに連れもどされた。
ネェルアーガマに帰ったジュドーは医務室に飛びこんだ。医務室に飛びこんでこの世に残された最後のハマーンの胸で泣いた。
暫く泣いてハマーンの顔を見上げると彼女はジュドーに微笑みながら言った。
「アルパは死んだのではない。プルやプルツーもそうだ。私に戻ったのだよ。つらく感じた運命を耐えるため大勢になった私は、
ジュドーが来てくれて楽になったからまた一人に戻ったのだよ。悲しむ事は無いのだよジュドー」
そう言い終わるとハマーンはジュドーをきつく抱きしめた。そのまま二人は暫く動かなかった。
------------------------------------------ライトシード第一部完----------------------------------------
初小説なので、誤字、脱字、乱文をご容赦下さい。題名はライトシードにしました。
光の種なので種だけに第二部では身が成るような事をバンバンやらせたいと思います。
Hシーン補給の為にハマジュの同人誌をネットでゲットして研究中です。
なんとか逆シャーまで引っ張りたいと考えています。
どうも乙です!
初小説でビッグなデヴューを飾りましたね。
これからの作品も楽しみにしてます。
乙です。
堪能させていただきました。
アガーイサン イイ!(・∀・)
再降臨待ってます!
すばらしいです!!
良かったです!
また再降臨してくださーい(*゚ー゚)
52 :
529:04/05/22 01:43 ID:???
乙です!
俺が思うにすごいガンダム小説っぽくてうらやましいっす。
俺にはそういうの、書けないんで楽しみにしてます。
つーか、俺の、ガンダムじゃねぇ。
あと、制作速度が速いのがすごいです!
自分がヘタレって思うので頑張るとしか(^_^;)
読んで下さる皆様ありがとうございます。
こんな下手でもアップする勇気だけは褒めてやって下さい。
是非とも皆さんのハマジュもアップして欲しいです。
部品状態でも歓迎です次回作に使わせて下さい。
予告編を新聞風にしてみました。
デイリーシャングリラ紙0089年1月27日号
ネオジオン紛争終結するもミネバ・ザビ行方不明!総帥は死亡!
0089年1月19日16時45分、同17日のアクシズ陥落後、逃亡先の暗礁空域、
独立系コロニー、ムーンムーンを占拠中のネオジオン総帥ハマーン・カー
ンは直ちに追討に向かったエゥ−ゴ(現在連邦軍に合併中)精鋭部隊のエ
ース、ジュドー・アーシュタに追い詰められ、直後に支援に来た艦隊司令
の乗艦に特攻を試みるも、寸でのところで同パイロットの活躍により撃破
された。撃墜された総帥のモビルスーツはメッチャー提督指揮の巡洋艦サ
ラミスのブリッジの直下に不時着(不時着時パイロット死亡)、大きな破
損を免れた。その偶然と、先行していたブライト艦長指揮下のネェルアー
ガマ巡洋艦にネオジオン・ニュータイプ研究所の大物が既に拘束されてい
た事により、本人確認の検証はサラミス艦上で速やか行われ、ネオジオン
総帥ハマーン・カーンの死亡が確認された。
総帥ハマーン・カーンを撃墜したパイロット、ジュドー・アーシュタは総帥
を始めとして自分が戦った敵エースパイロットの多くが子供を含めた若い女
性である事に大きな精神的ショックを受け、総帥撃墜後一時混乱して提督に
暴行を働きそうになり同僚に取り押さえられる異常事態が見られた。現在は
ムーンムーン付近で拿捕された病院船(直後事故で消失)で発見拘束された
総帥の影武者(クローン説有)と武装解除された旗艦サダラーンで拘束され
たミネバ・ザビの影武者を引き取り、同コロニー内に3人で暮らし、農業に
従事しながら、その償いと心のリハビリを行っている模様である。余りに若
い英雄の余りに大きな心の痛手を配慮するエゥ−ゴ広報部はマスコミ等には
静観を求め、直接取材には法的手段も辞さないと語った。
キャ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
早くも次回作!期待シテマス!!
ワーーーー
早く読みたいよ〜〜〜〜!!!
三人暮らしが凄い気になる。
ホシュナニ
57 :
通常の名無しさんの3倍:04/06/01 23:12 ID:gFHIn1uy
hosyu
hodyu
ホシュ
60 :
通常の名無しさんの3倍:04/06/15 17:37 ID:4qvzwGCj
hosyu
ホシュ
62 :
529:04/06/21 00:42 ID:???
一ヶ月以上放置していた529ですが、
みんないるのかな・・・?
とにかく続きできたので投下してみます。
もーガンダム小説じゃなくてもいいやバリでいってみます。
ダニエル・ブルーム。
南商店街の一角に構える「ブルーム精肉店」の主人である。
40過ぎのひげ面の巨漢で、でっぷりとした体格だが仕事は几帳面。
コロニーにおいては高価な肉を扱う職業であり、
自分のきちんとした仕事で周りの人が笑顔になる。
それはとてもうれしい事だし、雑多なこのバンチを彼は愛していた。
今日も様々な人が彼の前を通る。
彼はそれを生きがいに今日も働いていた。
彼は少しだけ心を痛めていた。
数ヶ月ほど前にここに越してきたカップルの娘が最近いないからである。
ハニエルというピンク色の髪の娘だ。
常に颯爽と歩き、切れ長で鋭い目をしている娘だ。
妻も息子もいるダニエルにとって、そういった対象ではなかったが、
頑なな態度の中にも光る逡巡、その美しさは彼の青春を思い起こさせ、
一日の気分をよくしてくれる存在がいなくなれば気分も落ちる。
心配している原因は以下のとおりである。
ハニエルは近所の宝石店の強盗を見事捕まえた礼として
懸賞としていた一週間旅行をゲットして彼氏(旦那?)と
一緒に旅立ったという話が商店街でも噂になった。
それはいいのだが、彼女が旅立つような事を言ってから
2週間以上姿を表していない上に、ランチで事故があったというのだ。
宝石店での立ち振る舞いを伝え聞くと彼女は只者ではないらしい。
何かの因縁があるのかとダニエルはいぶかしんだが
ハマーン・カーンであるという結論には達する事はなかった。
それだけ、まわりに与えている印象は昔とはかわっていたのである。
・・・あのぎこちなくはにかんだ笑顔が見れないのは寂しいものだ。
そうおもったが、だが彼には何もできないし、何もするわけがない。
彼の干渉すべき問題ではないのだから。
ダニエル・ブルーム。
南商店街の一角に構える「ブルーム精肉店」の主人である。
40過ぎのひげ面の巨漢で、でっぷりとした体格だが仕事は几帳面。
コロニーにおいては高価な肉を扱う職業であり、
自分のきちんとした仕事で周りの人が笑顔になる。
それはとてもうれしい事だし、雑多なこのバンチを彼は愛していた。
今日も様々な人が彼の前を通る。
彼はそれを生きがいに今日も働いていた。
彼は少しだけ心を痛めていた。
数ヶ月ほど前にここに越してきたカップルの娘が最近いないからである。
ハニエルというピンク色の髪の娘だ。
常に颯爽と歩き、切れ長で鋭い目をしている娘だ。
妻も息子もいるダニエルにとって、そういった対象ではなかったが、
頑なな態度の中にも光る逡巡、その美しさは彼の青春を思い起こさせ、
一日の気分をよくしてくれる存在がいなくなれば気分も落ちる。
心配している原因は以下のとおりである。
ハニエルは近所の宝石店の強盗を見事捕まえた礼として
懸賞としていた一週間旅行をゲットして彼氏(旦那?)と
一緒に旅立ったという話が商店街でも噂になった。
それはいいのだが、彼女が旅立つような事を言ってから
2週間以上姿を表していない上に、ランチで事故があったというのだ。
宝石店での立ち振る舞いを伝え聞くと彼女は只者ではないらしい。
何かの因縁があるのかとダニエルはいぶかしんだが
ハマーン・カーンであるという結論には達する事はなかった。
それだけ、まわりに与えている印象は昔とはかわっていたのである。
・・・あのぎこちなくはにかんだ笑顔が見れないのは寂しいものだ。
そうおもったが、だが彼には何もできないし、何もするわけがない。
彼の干渉すべき問題ではないのだから。
「父ちゃん」
「なんだ、タレン」
「ジュドー達、どうしちゃったんだろうね」
「ジュドーというと、ハニエルさんの彼氏だったよな?」
「うん。ラブラブの」
「どうもこうもできないさ。俺たちは関係ないんだから」
「なんか、それって冷たくない?」
「・・・」
「・・・」
「・・・いいか、タレン。関係ないっていうのは、必ずしも無関心って事じゃあないんだ。
ハニエルさんはしっかりした人だと思う。
だから、うちらが顔をつっこんでいいわけでもないし、
心配する必要ないんてないんじゃないのか?」
「よく、そんなこと分かるね」
「無駄に年くってないさ。ほら」
「あっ!」
うわさをすればなんとやら。
通りの奥のほうに話題の二人が見えたのだ。
二人で歩いている。
「おーい、ジュドー!」
・・・
タレンはレジスターの前から手を振った。が、返答は帰ってこなかった。
ジュドーとハマーンは二人並んで歩いてはいるが、
どことなく距離をとっているように見えた。
「・・・あれ?なにかあったのかな?父さん?」
「・・・うーん、今度こそよくわからん・・・」
ダニエルはためらいがちにジュドーについていくハマーンを見ながら唸った。
おかしいことはよく続くものである。
この下町情緒あふれる区画にスーツに身をかためた男が数人訪れた。
彼らは様々な場所に踏み込んでだしぬけにこう聞いてきた。
「ピンク色の髪をした20代の女を見たことはないか?」と。
ダニエル・ブルームも例外ではなかった。
彼は一瞬で気分を害された。目つきのするどい男二人が
営業中に仕事場にいきなり入ってきたからだ。
彼はその瞬間からこのいけすかない黒い塊達をいつ追いだそうかと考え始めていた。
「おい!人が仕事してんだ!厨房にはいんじゃねぇ」
「・・・失礼。だが、質問には答えてもらいたい」
「?」
「ここ半年以内でピンク色の髪の女が越してこなかったか?」
「あー、ピンク色の髪の女なんてたくさんいんだろ?!
アホな事を聞くな」
「20代だ。目つきが鋭い。身長は170cm程度。
顔はハマーン・カーンに似ている」
「ハマーン・カーン?なんで死んだネオジオンの総帥が出てくるんだ?」
「たとえだ。」
ダニエルはこの気に食わないヤツラに協力する気など一切なかったが、
それでも一瞬考えてみた。
鋭い目、ハマーン・カーンに似ている・・・
ピンク色の髪・・・!
「・・・そうだな、やっぱり覚えがないな・・・」
「確かか?」
「ああ。おれは毎日にここに立って通り過ぎる人間をみているが、
そんな女はみなかったぞ」
「そうか、協力感謝する」
ほんとにしてんのかよ、と思うダニエルの視線を受けながら男たちは去っていった。
ダニエルは当然嘘をついていた。
黙々と鶏がらの処理をしながら考える。
ハニエル?ハニエル??俺と名前が似ている、じゃなくて!
やっぱり訳ありだったんだな、ハニエルさん。
ハマーン・カーンとアンタがどんな関係か知らないが、
気をつけろよ・・・。
ダニエルは今度あったとき、男達が来た事だけは言おうと決心した。
それから数日後、彼の店にハマーンが現れた。
黄色いスカートにノースリーブのニット。どことなく明るい色が使われている。
「久しぶりだな、主人」
ハマーンは笑みを浮かべてダニエルに話し掛けた。
数日前の暗い様子とはあきらかに違っていた。
動きどころか纏うオーラまで変わっているようだった。
「よう!ハニエルさん。なんとかなったようだな」
「? 何がだ?」
「なんだろうな?とにかくアンタの機嫌がよくて無事だった、それでいいじゃねぇか」
「ああ、あれは・・・単なる事故だったのだ。問題はない」
「旅は楽しくできたかい?」
「ああ」
「・・・ハッハッハ、そうか。で、今日はどうするんだい?
今日はアンタのためにとっておきがあるよ」
「用意がいいな。ローストビーフにするつもりなのだが」
「牛か。あるよ、待ってな」
そう会話しながらダニエルは何かに安堵しつつ、冷蔵庫のある奥の部屋に向かった。
カウンター越しに彼を待つハマーンの姿が見える。
?・・・なにか違和感がある。
・・・ああ。
いつもは背筋を伸ばし腕をまっすぐと下げているハマーンなのだが
今日は手を体の前で合わせていたのだ。珍しい。
「ん?」
とにかく、一番いい肉を手早く切り分け、固まり肉を包装する。
「あいよっ」
そしてダニエルは包みを渡す際に小声でハマーンに言った。
「ハニエルさん」
ハマーンも雰囲気を感じ取って小声になった。
「?どうした?」
「黒服数人がアンタを探している。
俺の気のせいならいいんだが、心当たりがあるならなんとかしたほうがいい」
・・・
その言葉にハマーンは一瞬目を丸くした。
この男からこんな台詞が出るとは。
だが、数秒後にはいつものハマーンに戻り、彼女は静かにこう言った。
「ありがとう。あなたには感謝している。
息子さんにはよろしく言っておいてくれ。お元気で」
力強い視線を浴びせながらハマーンは微笑した。返すダニエル。
「32番ドックで俺の名前を言うといい。そこにいるやつが力になってくれるはずだ」
・・・
すると、ハマーンは静かに笑い始めた。
「ふふふ、ここに来てそこそこ経つが、私は主人の名前を知らなかったんだな。
知ろうともしなかったんだな」
「まぁ、そいつがソイツでありゃ、名前なんてどうでもいいってことよ。
俺の名前も・・・アンタの名前も・・・」
「・・・・・・また会おう。・・・ええと」
「ダニエル・ブルームだ。」
「ダニエル・ブルーム。楽しい時間をありがとうと皆に言っておいてくれ」
「おう」
それを聞くとハマーンはくるりと体を翻して立ち去ろうとする。
「そうそう!」
「・・・?」
ダニエルは言い忘れたことがあったため、ハマーンの背中に言葉を投げた。
「その左手の指輪・・・似合ってるぜ」
「!」
すると、今まで落ち着いていたハマーンがウソのように顔を赤くし、
反射的に左手の薬指に光るものを隠していた。
あたかも心臓の鼓動が指輪に伝わっているような、そんな気分になったのか。
「・・・」
笑いながらダニエルは手を振る。そうしているとハマーンの姿はすぐに見えなくなった。
また一人で店番する時間がやってきた。
「・・・」
「・・・ハマーン・カーンなわきゃねーよなー・・・」
「・・・」
「・・・俺もあと15年若けりゃな・・・」
そうつぶやくとダニエル・ブルームは厨房に向かった。
69 :
529:04/06/21 00:53 ID:???
というわけで変り種です。
なんだか単なる脇役が頑張りすぎちゃってますがスルーで。
さて、保守頑張るか・・・
乙です!
こういう外伝ものもいいと思いますよ。
二人がコロニーの人達とうまくやっているというのが伝わってきましたから。
(うまく言えないけど(苦笑))
久しぶりに乙です。
まってましたよ。
72 :
通常の名無しさんの3倍:04/06/22 17:09 ID:GnxmcWQh
てすと
73 :
通常の名無しさんの3倍:04/06/22 17:18 ID:9Q8YM44G
オレのID、Zzだ。
>73 どれやねん?
やっと書き込めるようになりました。
529さん乙です。充分楽しいです。ハマジュ小説は人物描写が肝です。
モビルスーツは刺身のつまか、人によってはそれ以下です。
全然OKと思います。
既に某所(ここの大先輩のところ)に続きを掲載させて頂きましたが
こちらにも続きを保守代わりに少しずつアップしたいと思います。
76 :
ハマーン様専用アッガイ:04/06/24 03:36 ID:OIISkZ6C
ライトシード6/24
ネェルアーガマは大勢の修理作業員で溢れ返っていた。
支援艦隊の輸送艦を左舷に並走させながら艦の大急修理と補給を受けていた。
修理を受けながらも反転して再度、ムーンムーンを目指していた。
その作業監督はアストナージ、彼の指示が溢れかえる作業員達を効率よく働かせる。
「そこ!その装甲板!それはもうだめだ!継ぎ接ぎ修理なんかするな!内側からボルトを外して捨ててくれ!そこらのネモに頼んでコロンブス輸送艦から新しいヤツ… 持ってきてくれ!」
ネモタイプ三機も作業用重機械代わり、大型部品の輸送係りとなって修理作業を助ける。艦隊の警戒任務は全て支援艦隊のモビルスーツ隊が受け持ってくれていた。今、ネェルアーガマで忙しいクルーはアストナージだけだった。
その頃、ブリッジ下の会議室では窓の外の修理作業を横目にブライト、ニ―ル、サラサの三人がジュドーとハマーンの今後を話し合っていた。
「 結局、我々が手を下さずともアルパが全部の始末を付けてしまった」
「 アルパの気持ちは大事にしたい ハマーン様には、どうしてもジュドー君と幸せに暮らしてもらいたい」
「 私に出来る事は何でも協力致します」
司令部を裏切って二人を助けようと言うのだ。ブライトは、ニール、サラサも同じ気持ちである事を再度確認してから話を続けた。
「 皆の気持は同じのようですね ところで、ニールさんアルパの正体が知られてしまう可能性は全く無いと言えるのでしょうか?」
「それは心配ない 現時点の連邦レベルではそう簡単には解らない筈だ、それにワシが逮捕され連邦の管理下におかれている限りにおいては、逆にニュータイプ研究やクローン技術をワシのコントロール下に置く事は可能だ 十年のアドバンテージを小出しにする方法だ!」
「二―ルさん………やはり連邦に身柄を拘束される道を選びますか………」
少し残念そうに話すブライトに、ニールが力強く語る。
「これだけは、譲れない!ワシはハマーン様の苦悩の元凶……ニュータイプ研究の第一人者だ、その責任がある。権力に接近してニュータイプ研究の"獅子身中の虫"となり"人の新しい可能性"を戦争などには利用させない責任があるのだ!」
「しかし、貴方が協力しなくても、残された研究資料も在るのではないですか?ネオジオンから逃亡した研究者、技術者だって少なからずいるのでは無いですか?」
「病院船に在ったモノが最後で、他はワシが全て処分した クローンの体はさすがに躊躇われたが…それも……アルパがワシの代りにやってくれた 」
「しかし、研究者が残っていたら意味が無いでしょう?」
「………………………………」
「そうは、思いませんか?」
「……………………それも………ワシが……G3で……ガスで……全員……始末した………」
ブライトは核兵器以上に忌まわしいその名を聞いて絶句した。
「!!!!……………………なんと言う事を!……貴方は……」
「そうさ!…そうさ!だからワシはもう、生涯娑婆に出る気など無いのだよ!!!…………本当は死んだっていいのさ、………それだけの事はしている、…………………ブライト艦長、これがワシの覚悟だ!…………………」
二―ルは柄にも無く、少し悪びれた風に言葉を吐き捨てた。
「………………………………」
「分かりました もう、その件に触れる事はしません…………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
二―ルの決して軽くはい罪の告白が、暫しの沈黙を生んだ。間を置いてブライトから口を開く。
「ところで、相談なのですがサラサさん ムーンムーンに暫く二人を置いてやって頂けないでしょうか?ムーンムーンは連邦政府データベースに照合したところ、行政単位として正規に認められたコロニーだ、連邦政府から大幅な自治権も認められている。
しかも総督名はサラサ・ムーン!貴方となっている。貴方の権限なら、ジュドーの転居さらにはハマーンの新しい戸籍を作る事も難しく無い筈だ!是非とも御願いしたい」
「分かりました それは私が手続きをしましょう お二人のお住まいも私が ご用意させて頂きます でもこれだけの大事件です世間の方達への対応はどのようにするおつもりのですか?そちらは私には何も………」
「それは こちらで対処可能です エゥ−ゴの広報部にうまくやらせます 」
ブライトはサラサにそう言って会釈すると、二―ルにも笑みを見せて、安堵の心境を漏らす。
「……ニールさん…やっと、若い者に対する大人の義務がはたせそうですね…………」
「……そうだな…………最低限は出来そうだな…………」
「そこから先は、ジュドーさんに任せて大丈夫だと思います 」
サラサも微笑みながら話しがまとまった事を婉曲に告げた。
ネェルアーガマは並走するサラミスから、修理と補給を受け続ける。
当直の軍医は、キュベレイが突っ込んだサラミスへ負傷兵治療の応援に出かけていた。
医務室のジュドーとハマーンには二人だけの静かな時間が流れていた。
ジュドーは、ベッドで休むハマーンの傍らで、彼女の手の平のやわらかさを確かめながら、モウサの一騎打ちで、彼女へ向けた言葉を思い出して詫びた。
「"存在そのものが鬱陶しい"なんて言ってごめんね、ハマーン………」
少し間を置いて、微笑を浮かべたハマーンが言葉を返す。
グッジョブ!
ライトシード6/25
「…………少し辛かったぞ、ジュドー………でも……………おまえの言ったとおりだよ……………おまえが気になって、追いかけ、誘ったくせに、
言うに事欠いて"私に従え、さすれば、殺さずに済む" ………ではな……人の気持ちを考える余裕など失っていたのだな
………鬱陶しい女の見本だ………哀れだよ………嫌いになってくれと言っているようなものだ………こんなに好きなのに!
………こんなに!………こんなに!………好きなのに!」
二人だけが取り残されたような静寂が続く医務室に、ハマーンの声だけが響く、響く言葉が自分に跳ね返り、こみ上げる気持ちがたまらなくなったハマーンはジュドーを自分のベッドに引きずり込んで抱き締める。
「うわっ!」
「…今は、…今、暫くは…こう…していてくれないか……ジュドー……」
「ハマーン…………ハマーン?…泣いているのか……」
「そうだ………でも、悲しいからでは無い…おまえの顔を間近にしたら…………だって、やっと来てくれたジュドーが死にそうなるから!………」
抱きついて泣き出すハマーンに、一瞬とまどったジュドーだったが、アルパに約束した事を思い出して詫びた。
「心配かけてごめん!もう、悲しませるような事はしないよ」
ハマーンは、毛布に身を隠しながらも強くジュドーにしがみつく、こぼれる彼女の涙はすべて彼の胸が受け止めていた。
「………安心したら………止まらないのだよ、涙が…………涙など何年も…流したこと……無いのに………弱くなったのかな、私は……恥ずかしいから…見ないで………………」
今度はジュドーが、自分の胸で泣くハマーンを抱きしめる。
ゴクリッ!」
ブリッジでは、医務室の監視映像を見たエルとビーチャが同時に唾を飲み込んだ。エルが瞬きもせずモニターを見つめながらビーチャに言う。
「二人が"始めちゃったら"見るの止めんのよ!……じゃない!もう止めましょ!見るの!犯罪だわ!」
「えっ、何でだよ!……いや、そ、そうだな!ジュドーに悪い…」
ビーチャは少しだけ残念そうにモニターのスイッチを切った。
ブリッジも二人だけだった。支援の艦隊は修理中のネェルアーガマを取り囲む陣形を取りムーンムーンに向かって巡航する。
周囲の警戒は十数隻の艦艇と二十七機ものモビルスーツ隊が厳重に行ってくれている。月を出てからのネェルアーガマの航海で最も気が休まる時間が訪れていた。
安心できる状況になったのでブライトは、"元艦長代理"のビーチャだけ残してクルー全員に休息を取るように指示を出した。
"一人じゃ何か起きたら対処しきらないよ"と言うエルも残って、ブリッジは二人だけだった。ここでも静かな時間が流れていた。
エルとビーチャは任務中であるにも係わらず、医務室の二人のお陰でお互いを意識し合っていた。
エルがパックのコーヒーを二つ持ってきた。
ビーチャに「一緒にお茶しましょ」と言って手渡す。
エルがコーヒーを飲みながら上目遣いに言う。
「ねービーチャ、そろそろこの前、私に言った事……その……生きて帰った訳だし……もう一度聞かせてくれるかなー」
医務室の二人がビーチャに、この展開に対する心の余裕を与えていた。
お陰で、彼は少しだけ気が利いいた台詞が言えた。
「ああ!でも、二度目は言葉じゃないぜ!」
そう言うと、ビーチャはエルを抱き寄せ唇を重ねようとした。
「キザ過ぎー!でも、いいかもっ!」
エルもビーチャを抱きしめて気持ちに応えた。ビーチャは"二つの意味"でハマーンに感謝しながら、コーヒー味のキスを堪能した。
ライトシード6/26
艦隊は安全を最優先した。
暗礁空域の隕石やジャンクの一番少ないコースを選択して、大きく迂回したのでムーンムーン到着には12時間を要した。
ムーンムーンに残留するネオジオンに逃亡する時間を与え、戦闘を避けたいメッチャー提督がそうさせたのだが、
そのお陰でネェルアーガマの大急修理も終わり、余裕の在ったアストナージは廃棄処分を司令部から言い渡されたジャンク同然だったダブルゼータも"こっそり"と復活させていた。
ネモとジムVの一個中隊が警戒するムーンムーンの港に、ネェルアーガマがゆっくりと入港する。
「コロニーに被害は無いようだな 各員!入港準備急げ! 」
充分な休息を取ったクルー達を、キャプテンシートに座るブライトが指揮する。
「ネオジオンの奴らもここを使いたかっただけでしょうからね 」
トーレスも充分休んだ爽やかな声でブライトに答える。
「誰も怪我などして無いと良いのですが……」
サラサは少し心配そうだった。
「大丈夫みたいですよ、サラサさん!さっき、先遣隊のネモ小隊がコロニー内からサラミスと連絡しているのを傍受したけど、戦闘は一度も行われて無いそうですよ」
キースロンがサラサを安心させる情報を告げる。
「ムーンムーンの兵隊って槍くらいしか持ってないから返って良かったのかもしれない!ムーンムーンの人達みたいにすれば戦争なんか無いのに!」
イーノの理想論に即座にビーチャが反発する。
「平和の為なら目の前で自分や大事な人が危険になっても何もするな!黙っていろって事かよ!」
「そこまで言ってないだろビーチャ」
「二人とも喧嘩はよせ!イーノ、世の中全ての人々がサラサさんの様になるまで武器は手放せんよ!皆!着艦準備だ!持ち場に着け!イーノ、ルー!
艦を固定したらサラサさんを神殿にお送りする。
エレカを二台用意しておけ!」
「了解!艦長!」
ブライトが指示を出し、皆が動き出す。
エアロック部にはネェルアーガマとメッチャーのサラミスの二隻が入って他の艦艇はコロニーの外周警備に着いた。
間もなく、地響きと共に二艦は着底した。
「エル、ビーチャはブリッジで待機!ルーはエレカでサラミスに行き、メッチャー提督とミネバを迎えに行って来い!」
「えっ!?ミネバちゃんを?」
「そうだ!ジュドーとハマーンに引き取って貰う!」
「えっ?えっ?……………」
「いいから行け!」
「了っ、了解!…?…?…?……」
皆、驚いたが、寝耳に水の当事者、ジュドーが慌ててブライトに質問する。
「どう言う事だよ!ブライトさん?!」
「参謀本部、ムーンムーン総督共、協議の上で決断された!
すでに、決定事項だ!
お前に選ぶ権利は無い!」
ライトシード6/26
「意味分かんないよ!…………それに、ムーンムーンの総督って?…………」
「 総督はサラサの事だよ!
ジュドーお前は心の病だ!
お前は、メッチャー提督に殴りかかった。
若く美しい女総帥を殺したトラウマで心を病んだと診断された。
エゥーゴの指定した心理療法士のリハビリプログラムを受けてもらう」
事態の飲み込めないジュドーが食い下がる。
「リハビリ?俺に入院しろって言うのかよ!俺どこもおかしくないぜ!」
ブライトが少し口元を緩めて話しを続ける。
「このコロニーの豊かな自然に親しみ、心を癒しながらトラウマの原因、即ち、おまえが殺害したハマーン、その容姿を持つ影武者の世話をしてもらう。トラウマの原因と向き合い罪滅ぼしをして心の負担を軽くする療法だ。
つまりだ、暫くはハマーン、ミネバの影武者二人と、ムーンムーンで土いじりでもして大人しくしていろって事さ!その間は基本給だけだが、給料も出るそうだ 」
「!…………………………………………」
何故、ミネバまで付いて来るのか少し引っ掛かるジュドーだったが、隠されたブライトの思いやりに感激した。
ブリッジの皆も感激した。
ジュドーはブライトの手を握り、目を潤ませ礼を言った。
「ありがとうブライトさん!影では俺達の事、考えていてくれたんだね!」
「痛いな!ジュドー私は手を怪我している そんな暑苦しいマネはよせ!」
照れるブライトは一歩下がった。
下がったブライトにジュドーが一歩踏み込んで尋ねる。
「ほんとに凄く嬉しいんだけど、なんでミネバもいるの?」
「それは、だな…………まあ、あれだ!監視役だ!」
「なんの監視?」
「………おまえはまだ若い!ハマーンのような女性と二人きりでは愛欲に溺れ不適切な関係になるとも限らん!幼いミネバがいつも側に居れば、そうそう淫らな事も出来まい。」
「ちょっと苦しいんじゃないの!」
「…まあ、あの子を引き取ってくれる施設が無い、と言うところが上の本音だろうが、ついでに面倒見てやれ!可愛そうな子だ!おまえに懐いている!
それに これはハマーンの希望でもある」
「ハマーンの…そうか…分かった、ブライトさん!俺、三人で家族やるよ!」
「そうか!引き受けてくれるか!」
6/28ライトシード
「何言うんだよ!当然だろ!俺の希望じゃないか!?」
「ああ、だが本当に大変な二人だと言う事も忘れるなよ!
宇宙一危険と言われた女と最後のザビ、……お姫様だからな!………」
「心配するなって!任せてくれよ!ブライトさん!」
ブライトの大人の思いやりにクルーのみんなが感動した。
ネェルアーガマのブリッジが愛で溢れた。
そんな中で、ビーチャも明るい気持ちだったが少し考えたら、ふと心配になったのでジュドーに訊いた。
「凄すぎる家族構成だぞ!おまえの稼ぎで食わして行けんのか?
あの二人、ジュドーの年収で何日暮らせる?一週間持つか?マジで、」
ジュドーは、少し不安な気持ちになった。
いつもの調子でエルも調子に乗ってくる。
「二人が一回外食したら終わったりしてね!ジュドーの年収なんか!」
ジュドーは、凄く不安になった。
一行は二台のエレカに分乗してサラサの神殿に向かった。
運転するイーノの横に座ったブライトが、後部座席にジュドーと並んで座るハマーンに決定事項をあれこれ説明していた。
「――――――――という事です。後はジュドーに聞いて下さい」
「………そうか………すまない、敵だった私にそこまでしてくれるとは、礼の言いようも無い………ミネバ様のことまで………」
「ジュドーに言って下さい。私は彼の気持ち応えたかっただけです。細部まで絵を描いたのはニールさんです。戸籍や住居はサラサさんが………」
「………そう………皆、ありがとう…ほんとうに感謝する………」
ハマーンはピンクの水玉模様のパジャマを感謝の涙で濡らした。
農業重視の気候設定のムーンムーンは一年を通じて夏になっている。
エレカは暖かい南国の風の中を抜けて神殿に向けて走った。
暖かい風はハマーンの涙もすぐに乾かした。
エレカは途中、涼しげな夏物を売る露天商の前を通り、何回も馬車や牛車を追い抜いていた。皆、上半身は半そでシャツ一枚になっていたが、正規の軍人のブライトだけは、暑さを我慢して服装を乱さなかった。そのブライトが思い出してハマーンに言った。
「サラサが、貴方の新しい戸籍上の名前を見つけてくれた。同年代の行方不明者のリストからピックアップしたそうだ。公の場ではそちらを使うように!」
「なんと言う名だ?」
「地球に向かったまま、行方知れずのミンキー家、そこの次女で、……………モンスリーと言う名だそうだ 」
「フッ、そうか、今日から私はモンスリーか 」
新しい名前をジュドーがからかう。
「パジャマがよく似合うよ!モンスリー!」
「馬鹿はよせ!」
乙です。
ピピルマ・ピピルマ・プリリンパ?
母の髪の色と、父の目の色を引き継いだ魔法使いのような超NTが
再度アクシズを地球権に帰還させると世界は平和になります。(嘘)
6/29ライトシード
エレカが暫く走ると、まるで古代の遺跡のようなサラサの神殿が見えて来た。
「先に神殿に入ってメッチャー提督達を待つ事にしよう。」
ブライト達は神殿の前にエレカを止め、サラサの案内で入って行った。
「外は暑いのに、中は涼しいんですね。エアコンも無いのに、」
一人長袖の軍服を着るブライトが、快適な気温に保たれた内部に感心した。サラサが説明する。
「石と水と緑を工夫してあります。」
「うわっ、部屋の中に川の流れがある!すごいな!しかもエアコンよりずっと快適だ!」
「一緒に来たモンドも感心する」
「気に入って頂けた様なので、後から来る皆さんをここでお待ちする事にしましょう。」
サラサは皆にそう告げると、飲み物の用意をするように近くの者に言う。
六人は石で出来た円卓を囲むように座った。その時、ジュドーはハマーンの目が虚ろで熱っぽいのに気が付く
「ハマーン大丈夫か?」
「ああ、だいじょうぶ………」
そう応える火照った顔のハマーンは、どうみても大丈夫そうじゃ無かった。ジュドーはサラサに彼女を休ませる部屋を貸してくれるように頼んだ。
すると、
「こちらへどうぞ、お二人の部屋は既に三階の方にご用意してあります。」
サラサはそう言うとすぐに席を立ち二人を導くように階段を上がり始める。ジュドーは"慣れた手つきでハマーンをお嬢様抱っこ"しようとする。
彼女も自分から身体を預けて、そっとジュドーの首に手を回す、そしてサラサの後に続いて階段の上に風のように消えて行った。その間ほんの数秒、
予め振り付けをしていたかのような無駄なく素早い三人の動きにブライト達は呆気に取られて、ただ見ていた。
石造りでピラミット状五階建て、中央四階までが吹きぬけになったその建物の三階部分、階段を上がって少し歩いた所に、二人が暫くお世話になるその部屋は在った。
「こちらの部屋をお使いください。お二人の為に用意させました。」
ジュドー達が案内されたのは、今はもういないラサラの使っていた部屋だった。石造りの建物に相応した古代の王室を連想させるような内装が施されている。
石の床にはベッドとテーブルの下だけワンポイントで赤い絨毯が敷かれ照明はランプと、たいまつ、ベッドの横にはロウソクだった。窓際には石の机が置かれ、
部屋の中央には彫刻の入りの四本の柱で支えられた屋根と、レースのカーテン付きのまるで、クレオパトラでも寝ていそうな豪華なベッドが一つ置かれている。
妖しくプリミティブでいながら豪華な雰囲気もする不思議な部屋だった。
「お風呂はここ、お手洗いはこちら、何か有りましたら入り口右側の事務室に何時でも衛兵がいます。私の部屋はこの階の丁度反対側、対角になります。
時間には係りが食事をご用意します。それではごゆっくり。」
サラサは息もつかずに必要な事だけ言って、風のように部屋を出て行った。
「あっ!ちょっと、サラサ!」
ベッドが一つしか無い事を告げる為、ジュドーが追いかけようとするが、抱かれているハマーンが彼のシャツを引っ張ってそれを止めた。
「ジュドー、ベッドに連れ行って……」
「ああ、分かった……そうだ、まずハマーンを休ませないと」
けれど、ジュドーは今までテレビや本でしか見た事が無い屋根付きカーテン付きの妖しいベッドを目の前にして、
その何とも妖艶な雰囲気に圧倒され三十秒以上立ち尽くした。抱いているハマーンにまたシャツを引っ張られて、
やっとカーテンを捲った。そして毛布も捲って彼女をそこにそっと置いてジュドーが言う。
「それじゃあ俺、ブライトさん達の所にもどるね。」
それでもまだ、ハマーンはジュドーの首に回した手を離さなかった。そしてジュドーの耳元にささやいた。
「今夜、……約束を果たしてくれ!」
ハマーンは、そう言い終わると首に回していた手を解いて素早く毛布の中に消えた。
ジュドーは二分程ベッドの横にたたずんだ後、フラフラと一階ロビーに向かいながら呟いた。
「そうだった!ここはゴタゴタ片付けた後のムーンムーンだ……」
ライトシード6/30
一階の川が流れるロビーでは、四人が出されたレモネードで喉を潤していた。
「これ、凄くおいしいね!なにか特別な物がはいっているのかなぁー?」
「いや、何も入っていないだろ!ムーンムーンは高級果物、野菜の名産地だ、使ってるレモンが良いんだろ!おまえ達M&M知らないのか?」
イーノが驚く、
「M&Mってムーンムーンの事だったの!」
「M&Mって何?」
モンドは知らなかった。
サラサがニコニコしながら言う。
「皆さん!よろしければ、おかわりをどうぞ!」
「私も頂こうか!」
「僕も!」
「俺も!」
「ドテッ!」
「!」
後ろの階段で大きな音がして四人が振り向くと、階段を踏み外したジュドーが転げていた。
「何だ、ジュドー……もう戻って来たのか?」
「とうぶん戻ってこないと思っていたのに 」
「お二人でゆっくりされれば良いのに…」
イーノとモンド、サラサまでも同じような事をジュドーに言った。
席に戻ったジュドーはさっきのハマーン以上に発熱していた。
「やぁ!皆、遅れてすまん!」
妙に浮かれたメッチャー提督が兵隊二人とルー、ミネバを連れて神殿に入ってきた。その服装を見たブライトが呆れて言う。
「提督!そんなリゾート地みたいな格好をして、軍服はどうしたんですか?
ルー!それにミネバ!いや、影武者まで、アロハシャツにサングラス、麦藁帽子とは!………そんな買い物で寄り道して遅かったんですね…全く……」
「そう、硬い事を言うなよ、ブライト艦長、こんなに暑いんだ、仕方ないだろ!小さな子が日射病になったら可愛そうじゃないか、それに綺麗なお嬢さんのお肌に強い日差しは大敵だ。」
「ゴメン!ブライトさん!メッチャーさんが露天商でこれ見つけて、買ってくれるって言うもんだからつい……ミネバちゃんもどうしても欲しいって言うし……」
アロハにサングラス、麦藁帽子のミネバがジュドーの前でクルッと一回転して
尋ねる。
「どうだ?ジュドーかっこいいか?」
「ミネバとルーはかっこいいよ!似合ってる!でもメッチャーさんは怪しいおじさんにしか見えませんよ」
そう答えるジュドーの一言に、
「ほんとうか!嬉しいぞジュドー、メッチャーとやら礼を言うぞ、」
「当たり前よ!私みたいな美人は何着ても似合うのよ!」
「失礼な!私が買い与えたのに!」
嬉しそうなミネバを見てメッチャーも良いところあるものだと皆思った。ブライトも遅れた事をそれ以上何も言わなかった。
「後からきた皆さんも冷たいレモネード、如何ですか?そちらの兵隊さんもどうぞ!」
サラサが皆に飲み物を勧める。後から来た全員がそれを美味そうに飲む。
「それでは、ルー君!影武者ちゃんを外で散歩でもさせて来てくれたまえ。」
「了解です。提督!それじゃミネバちゃん!さっきのアイスクリーム屋さんに行きましょうか?」
「ルー、私はイチゴが良いぞ!」
「有ると良いわねー、それじゃ行きましょう。」
「さっき、右端に赤っぽいのがみえたぞ、ルー」
「……………………………」
二人の後姿を見送りながらブライトが言う。
「すっかりリゾート気分ですね。だが子供はあの方が良い」
「それでは、ブライト君、早速、話しを始めようか 」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
「…………と言う訳で、このコロニーの総督であるサラサさんを脅かして申し訳ないが今後ムーンムーン近海の治安が悪化する事は避けられない見込みだ。
警備は強化しますが、自衛の為の武器も槍だけと言うのは、無謀過ぎると言わざるを得ない。何か方策を御願いしますよ 」
「大丈夫です。このジュドーさんが住み込みで守って下さいます。」
「ああ、なるほどね、ブライト艦長、このコロニー警備用にモビルスーツを2−3機、置いていってやりたまえ、」
「了解しました。…………ところで提督、諜報部はネオジオンの戦力の……どの程度が闇に消えたと見ているのですか?」
「この、ムーンムーンとコンペイ島の間の暗礁空域に全体の五割、アステロイドベルトに向かったのが三割、その他へ二割、合計約一万二千人、
百隻以上の艦艇に三百近いモビルスーツが散って行ったと推測されている、アクシズやコア3にいたのは全体の三分の一にも満たないからな、
他のコロニーや月に駐留していた奴らはほぼ無傷で逃げたからな 」
「……そうですか、そんなに多くの兵力を宇宙に散らしてしまったのですか、………………」
乙、乙、乙
ライトシード7/1
「そうだ、ハマーン派、グレミー派、旧ジオン派、それに連邦に捕まると重罪に処されるティターンズの戦犯達。これら四者が暗礁空域とアステロイドベルトに潜伏する状況になった。だから今度の事件のような事は今後、度々起こり得ると考えねばならない。」
「大きな戦争が終われば即、平和と言う訳には行かないのですね 」
「そうだ!覇権を争う小規模の戦闘や海賊行為は返って増えると予測されておる。そこでブライト艦長の出番になるのだ!」
「どう言う事です?提督……」
「今後、暫く平和とは言えなくとも大きな戦争は無いと予測される。そこで必要になるのは、テロや局地紛争の防止と鎮圧を目的とする少数精鋭の機動力ある部隊だ。」
「しかし、それではティターンズと同じでは……」
「君なら……そうはなるまい!君の指揮するアーガマ隊が、スペースノイド達に悪名高いティターンズを倒した事は宇宙に住む者は子供でも知っている。君以外の者が指揮する部隊では反感を買ってまともな仕事は不可能だ。君しかいないのだよ!」
「私に、治安維持の独立部隊を率いろと言う事ですね 」
「そうだ、実を言うとこれは連邦とエゥーゴの協議で、既に決まった事なのだよ」
「本人に相談も無しに……ですか?」
「相談はするつもりだった。だが君がその前に、このコロニーに向かって飛び出してしまったので、相談も出来なかったのだよ 」
「それは……ジュドーの件も有りましたし………」
「いや、これは君にとっても良い話しの筈だ、エゥーゴが今回連邦に組み込まれる事は知っているな!」
「はい、それは聞いております」
「表面上は大きな組織に小さな組織が飲み込まれるように見えるし、世間にはその様に見せる!だがその現実は逆だ!連邦軍の実権を宇宙はエゥーゴが握り、地球はカラバが取る!」
「そんな事を連邦政府が認めるとは思えませんが」
「いや、彼らは認めざるを得ないのだよ!」
「それは、またどうしてですか?」
「これも君達のお陰だ、それとカラバのハヤト・コバヤシ達のな!」
「ハヤト………もしかして………ダブリンの事では?」
「そうだ、さすがブライト艦長だな、あのコロニー落としの一件では、
落としたネオジオン以上に市民を見殺しにした連邦政府高官が怨まれているのだよ。
それにカラバのアウドムラはその市民千人以上を救助した。
そのカラバ隊はハヤト艦長以のクルー全員がアウドムラのその人達を守って戦死した事と、
さらに墜落しかけたアウドムラを救ったのはここにいる子供達だと言う事は全世界に報道されて知れ渡っている。
市民感情を考慮したなら表に出る仕事はカラバやエゥーゴの人間に任せるしか無いのだよ。だから、
連邦軍の下に入ると言っても全て君の好きにやって良い。奴らは何も口出し出来ない。
それに、あのコロニー落としはどうも変だ。おかしな点が多すぎるようだ。」
「ブライトさん良い話じゃないか!引き受けたら良いよ!それに、
貴方がこの話を断ったのが原因でまたティターンズみたいのが出来たら、
どうすんだよ!そしたら、また戦争になる!」
「俺もそう思う!」
「僕もだな!」
「そう思ってくれるか皆!断る理由は無さそうですねメッチャー提督」
「そうか、既に嘗ての君の部下、
今はカラバのアムロ君も合流する手はずになっている彼も快く受けてくれたそうだ」
「アムロが!それは心強い」
「あっ!すまん。忘れていた。
返事をもらっといてから言うのは心苦しいのだが、
連邦が一つだけどうしても譲らなかった条件が有るのだ。」
「今更、何です?」
「ガンダムだ!」
「ガンダムが何です?」
「新造戦艦、
量産新型モビルスーツ全て最優先で君の隊にまわすと約束する代わりとして君の隊ではガンダムタイプは全て廃棄して今後とも開発、
保有をしないと約束して欲しいそうだ。これだけは譲れないと言うのだ。
ア・バオア・クーのアムロ、グリプスのカミーユそして今回アクシズを落としたジュドー君だ、
連中は、核兵器にも優る最強のニュータイプ三人が君の隊にそろう可能性が有ると見ている。
そんな隊にガンダムを持たせる事など怖くて出来ないのだろう。」
「ガンダムタイプと呼べるかどうか分かりませんが、ネェルアーガマにはもう片手片腕の百式しかありません。
それでよろしければ、どうぞ持っていって下さい」
「ならば問題無いな、それではブライト艦長、軍組織に空白の時間は許されない今から君は連邦軍の外郭部隊ロンドベル隊の司令官だ、
直ちにグラナダに戻り辞令を受けるように、話は以上だ!
………………そうだ、君がこれを受けてくれた礼としてジュドー君と影武者の件は今後一切、連邦政府には詮索させない事にするよ…………」
「提督!………………」
「…………メッチャーさん!……知ってたのか…………」
「あんまり年寄りを馬鹿にするなよ!子供達!」
「…………ごめんなさい…………ありがとう…………」
「うむ、それではブライト君、我々は戻るか!」
「まいりましょうか、提督!それでは、サラサさんジュドー達をよろしく!」
「もう、行ってしまわれるのですか?夕食でもご一緒にと思ったのですが……」
「ジュドーがんばれよ!私達はここまでだが、おまえはこれからが大変なんだからな!
手に負えないときは遠慮なく連絡しろ!お前たちを狙う者は、自動的に私の新組織の取り締まり対象でもある。
………それと、港にネモかジムV、余ったやつで悪いが二機とスペアパーツ、その他を置いて行くから何か有ったら使え」
「メッチャーさん!ブライトさん!ほんとありがと!"影武者"達の分まで礼を言わせて貰うよ!」
乙です。
凄いペースですね。
>>113 書き溜めたものを保守代わりにアップしてます。まとめて読んでくれる方は某先輩のHPにどうぞ盛りだくさんハマジュがあります。
>>529 新作お待ちしてます。
ライトシード7/2
「えっ!ブライトさんもう戻るのか?俺ラサラの墓参りしていきたいんだけど、時間くれないか?」
モンドが慌ててブライトに頼む。
「そうか…………出港は二時間後だ!それまでにはイーノ、ルーと一緒にネェルアーガマに戻って来い…………ラサラさんによろしくな!モンド…………」
「サンキュー、ブライト艦長、」
「達者でな!ジュドー!」
「ブライトさん達も!」
「…………………………………………。」
「行ってしまいましたね。ジュドーさん。あの人達とは、もっとゆっくりお話したかったのに…………」
「しょうがないさ、真実大人をやってる忙しい人だから、……ブライトさんは…………」
「あのー、……サラサさん。ラサラのとこ案内してくれないかな?」
「モンドさん……では、こちらにどうぞ…………」
「モンド!僕も行くよ!」
「俺も行かせて貰うよ」
イーノ、ジュドーも一緒に、お墓参りに行く事にした。三人はサラサの後について神殿前の林を抜けて小さな丘の上の墓地に来た。
月をデザインした小さな石碑にラサラの名が刻まれていた。サラサに促され、モンドがその前に跪き、その後ろにイーノとジュドーが並んで手を合わせた。数分の間、お祈りの姿勢のまま誰も動かなかった。
そよ風のざわめきと、鳥の泣き声と、モンドの微かな嗚咽とが混じって聞こえるだけだった。皆が顔を上げるとジュドーがモンドに語りかけた。
「モンド、俺がハマーン勝手に許した事、どうして何も言わないんだ?」
モンドは泣き顔のまま微笑んでジュドーに答える。
「俺だって成長するって事だよ……スタンパを倒して仇を討ってもラサラは嬉しそうな顔してくれなかった。………でもジュドーがハマーンを救ったよって今、ラサラに報告したら……そしたら、凄く嬉しそうな顔をしたんだ!だから俺もハマーン許す!」
「嬉しい!モンドさん!貴方はラサラの心を感じてくれたのですね。」
サラサは、そうモンドに言うと後ろから彼を抱き締めていた。
「モンドありがとう……」
ジュドーはそう一言礼を告げると、二人をその場に置いたままイーノと神殿
に戻って行った。
二人が林の小道を戻ると、神殿前は人だかりだった。
「サラサ様が呼んだ救世主様に違いない!いや、新しき女神様じゃ!」
神殿の前に人々が集まり、何かを見上げながら騒いでいる。
「何だろう?」
イーノとジュドーが人々の見上げる方向を目で追うと、神殿の通りに面したベランダに、夕方の風に桃色の髪をなびかせ、ハマーンが立っていた。
目を瞑り腰に手を当て何か考え事をしている様だった。瞑想する様にも見えるその姿は石造りの神殿と言う背景と相俟って偉大な女王の風格を湛えていた。
その余りの威容に仕事帰りの農家の人達が立ち止まり見とれていた。有難そうに拝んでいるお年寄りもいた。イーノが見上げて呟く。
「なんか、やっぱり凄い迫力あるなハマーンって、ジュドーがんばれよ!」
「何だよ!意味解んない事 言うなよ!イーノ!」
「いや、何か、濃い、凄く、綺麗だけど」
「誉めてんのか、貶してんのかも解んないよ」
揉める二人にハマーンは気が付いてベランダから声をかけた。
「ジュドー!風に当たったら気分が良くなった。今そっちに行く」
女王が消えると人だかりも消えてハマーンが現れた。
「ジュドー何か有ったのか?人が集まっていたようだが?」
「何でもない!それより、ハマーン熱下がったみたいだな」
「慣れない暖かさにのぼせてしまったようだ……いろいろな意味でな!……それにしても、ここの風はほんとうに気持ちが良い……」
「ハマーン!ジュドー!」
可愛らしい声が響くとルーと町を散歩していたミネバが戻って来た。ハマーンが駆け寄って荷物を引き受けて話しかける。
「ミネバ様!」
「ハマーン、ルーにアイスをいっぱい買って貰った。皆で食べよう」
「それは、それは、"ミネバ様の"お心使い有難うございます。それでは中へ!ミネバ様」
二人のやり取りを見たルーとイーノが目を合わせる。
「いろいろ直さないと駄目そうね。言葉使いとかさっ」
「それは、ジュドーが間に入って世間とのすり合わせするしかないよ。」
「そのつもりさ!ゆっくりやるよ!まあ、見ていてくれ。」
「それよりルー!アイス有難う。イーノ皆で頂こうぜ!」
「そうだな」
五人は、先程ブライト達と囲んだ円卓に着いた。神殿の人から食器を借りるとハマーンがアイスを分けた。五人分、アイスがそれぞれの前に並べられると皆一斉にスプーンを握り無言で食べ続けた。無言の理由は様々だった。
ジュドーとミネバはアイスが美味しいから夢中なだけだった。
ハマーンはこうしてまたミネバの世話が焼ける幸せに浸っていた。
ルーとイーノは何でこんな所で、元敵の王女、総帥と向かい合ってアイスなんか食べているのか不思議でしょうが無かった。
イーノが呟く。
「二日前には想像する事も出来なかったな!こんな事」
「私もハマーンにアイス奢るなんて夢にも思わなかったわよ!ミネバちゃんは全然オッケーなんだけどね!そうよ、……元敵でも、可愛い!可愛過ぎるわ!ミネバちゃん!」
ルーは暫くミネバを連れ歩く間にすっかり気入ってしまっていた。ハマーンとジュドーの間でアイスに夢中になりながらも、お行儀良くするミネバ、先程から視線が合うたびクリクリした目で微笑み返すミネバ、完全に心を奪われていた。
「もー、さらって私が育てようかしら!」
ルーが良からぬ事を考えたりしていると、慌てたモンドがロビーに飛び込んできて来て叫んだ。
「みんな!アイスなんか食ってる時間じゃないぞ!」
ルー、イーノも気が付いて時計を見て慌てる。
「あっ!大変だ!もう10分しか無い!」
「すぐに出発だ!」
「それじゃ!ジュドー元気で!」
突然の出来事に驚いたミネバが、ほっぺと鼻にアイスを付ける。
「それじゃ、みんなも元気で!」
別れの挨拶を言うジュドーの口の周りも、アイスでベタベタだった。
「 早く余計なのがいなくなって欲しい 」
それしか思っていないハマーンはルー達に背中を見せて挨拶もしない。
アイスを口の周りに付けたまま、仲良く並んで座るミネバとジュドー。
二人を子供の世話を焼くお母さんの様に丁寧にタオルで拭くハマーン。
可愛らしいすまし顔でミネバが拭かれている。
ジュドーは間抜けた顔で黙って拭かれている。
その光景を見せ付けられたルーは言い知れぬ怒りで動けなかった。
イーノとモンドはとっくにエレカに戻ったが、彼女は心の内をぶつけ無いでは去れなかった。
「ハマーン!独り占めはずるいわよ!どっちかよこしなさいよ!」
叫ぶルーに、ゆっくり振り返ったハマーンは一瞬だけ"全てを手に入れた者"の余裕の笑みを見せ、後は無視した。血が沸騰するルーに、外からエレカに乗ったモンドの声がかかる。
「 置いてくぞ、ルー!」
「 キッー!どっちか!もらいに戻って来るからね、ハマーン!」
「ルー!何に言ってんだよ!早くしないと間に合わないぞ!」
ジュドーの言葉でこの場の敗北を認め、最後に一言だけ言ってルーは去った。
「ミネバちゃんとジュドーは元気でね!サラサによろしく!」
みんなが去って、ムーンムーンに日が暮れた。
広いロビーに三人が、取り残された。
ハマーンがぽつりと言う。
「静かになったな…………ジュドー……」
席に着いたまま、みんなの消えた方を見つめながらジュドーは答える。
「急に静かになると…ちょっと寂しいかな、ハマーン」
「私は、ジュドーがいれば私は寂しくない」
ハマーンはジュドーにそう言うと、何やら改まってミネバを連れて彼の後ろに並んで立った。振り返ると頭を下げて言った。
「これから……ミネバ様と私……大変だと思うが、よろしく頼む。」
「ハマーンと私を可愛がって欲しいのだジュドー、よろしく頼む。」
ミネバも一緒にお辞儀して言った。
ジオンの亡霊も2人来てジュドーに頭を下げて願った。
「娘を、一生涯幸せにしてやってくれ……よろしく頼む……」
「娘を、立派な大人にしてやってくれ……よろしく頼む……」
ジュドーは、二人の後ろになにやら薄らと階級の高そうなジオンの軍人二人がそれぞれ立ち、自分に頭を下げる姿を見た。そして言葉を聞いた。でも、もう一度目をこすってよく見ると、それはもう見えなかった。
「何だよ、二人とも!堅苦しいのは止めてくれ、3人で暮らすの条件にブライトさんから許可もらえたんだから俺に頭下げるなんて筋違いだよ。御願いだから頭下げるの止めて!」
いつまでも頭を下げられて、困りはてるジュドー。
その両脇から二人が抱きつくと、ジュドーは左右の頬にキスを貰った。
そして、ジュドーは寄り添う2人に言った。
「これからは、三人で助け合って生きていこう!3人は家族だ!」
寄り添う二人をジュドーが抱きしめると、3人は家族になった。
乙です
でも、リーナは〜?
すんません リーナはカナーリ 後から出します。
混ぜ様を思いつかないのでバックれました。
まだセイラとダカールに居ます。
ハマーンは一人、夜明けのベランダにいた。
戦闘艦の中では味わう事が出来なかった爽やかな朝の大気の中にいた。
眠るミネバとジュドーを起こさないように静かにベッドを抜け出して来た。
ハマーンはベランダに出て暖かなムーンムーンの朝を満喫した。
そして、もう一度ベッドサイドまで戻り、眠るミネバとジュドーにキスをする。
「…………………こんな可愛いお目付け役がいたのではしかたない…………………………ジュドー………………"タイミング良く"私を奪って…………」
二人にキスをして、眠るジュドーにそう告げると彼女は一人森へ散歩に出た。
昨晩は家族になった三人で同じベッドに寝た。
恨みはしないが、彼女はまだ約束の契りを果たして貰っていない。
子連れでジュドーの元に嫁いだのにハマーンは、まだ純潔の乙女のままだった。
神殿の前に広がる森の小道を抜ける、小道の両脇には樹齢の高い立派な木々が並び、このコロニー
の生態系が長い歴史を持っている事を彼女に告げる。その木々に触れながら彼女はゆっくり歩く、
少し開けた場所で立ち止まると彼女は目を瞑り、風の音と、鳥のさえずりを聞いた。昼間は暑い
ムーンムーンの気候も朝には返って爽やかさが際立った。彼女はコロニーにこれほどの自然が
再現されている事に感動した。そして朝霧の中、全身でそれを感じていた。ハマーンがその中に
愛しいものを感じたとき、ジュドーが彼女を後ろから抱いた。そして彼女の耳元でささやいた。
「お早うハマーン……"タイミング良く"来たぜ………」
「フフッ、聞いていたのか?……お早うジュドー……清々しい朝の空気を独り占めしようと思ってな!」
「そうか……俺にも分けてくれないか?」
ハマーンは自分を後ろから抱きしめるジュドーの手を握り耳元で唇を触れさせて喋る。
「フフッ、よかろう、今!約束を果たしてくれたらな……」
「!!…約束を今?…………えっ!ここでいいの?」
「まだ……夜は明けきっておらぬ……"今夜"の内だ!」
そう言うとハマーンは胸の膨らみにジュドーの手を誘導して、"返事"をした。
高鳴る鼓動と共に、薄らとしためまいを感じながら、覚悟を決めたジュドーが精一杯のアドリブを決め、
やや強引にハマーンの唇を奪った。
「こんな森で襲われ純潔を奪われる…我が身の不幸を呪うがいいハマーン…」
「ああ、ジュドー、この…俗物め………」
ジュドーは、羽織って来た赤いジャケットを柔らかそうな草の上に敷いて、"そっと" 彼女を押し倒した。
素直に押し倒されるハマーンの瞳は、情熱を深くに隠した藍紫に輝き彼を新しい世界に引き込む。
「ハマーン俺、初めてだからうまく出来るか、分からないぜ!」
「私も初めてだ…ジュドー我等ならうまく出来る…きっと…よろしく頼む…」
ハマーンの考えは正しかった。モビルスーツの装甲越しにでも分かり合える二人が、裸で抱き合っている。
抱き合う二人のニュータイプは、なにも問題は無く結ばれる。お互いの気持ちはすぐさま相手に伝わり、
口に出さずともして欲しい事は全て互いに分り合えた。相手に与えた刺激が自分でも感じられる。
激情が瞬時に互いを往復してハレーションが起きた。彼女が登りつめるとジュドーも後を追った。
彼が身も心もハマーンに包まれて果てるとき、真っ白になる頭の中で不思議な光景を見た。
「?!……………………………………………………………」
それはジュドーを心の底から喜ばせてくれるものだったが、"終わった"その後にはそれを具体的には思い出す事は出来なかった。
唯、暖かい思いだけが心に残った。
まだ息も荒く、上気したハマーンの顔を明け切った朝の日差しが照らす。その光を反射する藍紫の瞳がジュドーを見つめる。
息を整えながら、ジュドーの腕の中で彼女が自嘲ぎみに言う。
「………ああ……ジュドー……やっと……我等は……しかし……森の中とはな……でも……良かったぞ……ジュドー……………」
「いつも機械に囲まれていたんだし、こんなのも良いと思うよ………ありがとうハマーン、とても良かった………」
ジュドーはかつて肉体に囚われるな!と、説いた相手の肉体に囚われた。男女の愛は心だけの物では無いと知った。"この状態"では
彼のふと思った事まで彼女に伝わる。彼が口にも出さない、思っただけのことにハマーンが答える。
「肉体が有るから…やれるのさ!……フフッ………思い知ったか?ジュドー」
「よーく解ったよ、ハマーンの肉体も大好きだ!」
ハマーンの肉体に溺れるジュドーだったが、溺れながらも気になってしかたがない、けれども思い出せない、その心で見た光景を彼女に聞いてみた。
「……でも不思議なんだ。二人で昇り詰めた瞬間、一瞬だけど何か何かが見えたんだ。それを………俺は、凄く嬉しかった、だけど思い出せないんだ!
……………確かに、素晴らしい何かなのに……………」
「そうか………まだ…………」
「えっ!ハマーンは知っているのか?」
「私が見せたのだ!」
「教えてくれ!」
「教えられない!」
「どうして?」
「見るチャンスは与える。努力してくれ。」
「…………。」
「早く、解れ!ジュドー……早いほどいい…………」
「………?」
「…………ところで今、気が付いたのだがここは………」
「あれ!しまった!ハマーンここは、その……正面の…ラサラだ……」
「そっ、そうか、それはマズイな…………次は何処でやればよいのか?…………ここ………気に入ったのだが……」
「なに?」
「なんでもない!」
ジュドーはハマーンの声が裏返るのを初めて聞いた。目が合った時から、"その気"だった二人は全てが終わるまで、
そこがラサラの墓前である事にすら気が付かなかった。墓前にとんでも無い"御供え"をしてしまった二人だった。
暫くして、二人が神殿のロビーに入ると、サラサとミネバが二人で朝食の準備をしていた。
ミネバもサラサからエプロンを借りて不慣れながらもけんめいに手伝っていた。
それを見たハマーンが慌てて言う。
「そのような事、私が致します。ミネバ様は座ってお待ち下さい。」
「ハマーン! 様付けは止めて!」
ミネバが強い口調できっぱり断る。
「しかし………」
口ごもるハマーンにジュドーも言う。
「家族で様付けは変だもんな、ミネバの言う事が正しいと思うよ」
「分かった、ジュドーがそう言うなら、そうする…」
「ハマーンどうしたのだ?何か変だぞ、具合が悪いのか?」
ハマーンの凛々しい部分が影を潜め、さっきからジュドーの腕を取って離さない態度を
奇妙に感じたミネバが心配する。そんなハマーンが言う。
「大丈夫、それより朝食にしましょう。ジュドーもここに座って…」
ハマーンがジュドーを席に着かせ、トーストの乗ったお皿をみんなの前に並べ終わると、
準備も全て終わって食事が始まった。何故か、ぎこちない手つきだった。
「ガシャ、カラン……あっ!…すまない!……」
ハマーンがジュドーのティーカップに紅茶を注ごうとするが手元を狂わせてポットを落とす。
紅茶がこぼれて、その上に漆器のフタが落ちて回った。ジュドーが素早くポットを立て直し
たので、少ししかこぼれなかったが彼女は動揺した。
「私は…もう少し部屋で休ませて貰う事にする。」
そう言うと、ハマーンはコップの水を一口だけ飲んで部屋に戻って行った。
ミネバがジュドーを睨み、少しキツイ口調で問う。
「ジュドー!ハマーンに何かしたのか?」
「えっ、いやっ、そのっ、あのっ、……」
真実を追究するようなミネバのつぶらな瞳に見据えられ、固まるジュドー。
サラサはジュドーを助けるようにミネバに言う。
「ジュドーさんはハマーンさんを虐めたりはしません。むしろ逆なのです。これは、とてもよい事なのですよ。また少し、
ジュドーさんとハマーンさんの絆が深まったのですよ、ミネバさん。」
それを聞いてミネバの表情が元に戻る。
「そうなのか?サラサ……ジュドー疑って済まなかった。」
「何を疑ったの?どうしたの?」
「さっき……ハマーンの叫び声が私に飛び込んで来たのだ!ハマーンの近くにジュドーも感じたからてっきり私は……」
焦りまくるジュドーは唾を飲んで聞き返す。サラサは黙って微笑みながら見ている。
「ゴクッ!てっきり何!?」
「ジュドーがハマーンを虐めたと思ったのだ。……疑ってごめんなさい。」
「ホッ!いや、いいんだよ!分かってくれれば…さあ朝食にしようかバター取ってくれる?ミネバ」
「ハイ!どうぞジュドー!」
「ありがとう。」
スクランブルエッグを小さな口に運びながらミネバが感じたままを言う。
サラサは黙って微笑みながら見ている。
「ジュドーがハマーンを虐める訳ないのだ 悲しそうじゃ無かったもの!」
「えっ……何が悲しそうじゃ無いって?」
「ハマーンの叫び…大きな叫びだった…驚いたのだ…でもあの感じは…むしろ、歓こ……」
「えっ!ガシャン!……あっ!…ゴメン!……」
ジュドーはティーカップを受け皿の上に落とした。サラサは黙って微笑みながら見ている。
「大丈夫かジュドー?ハマーンとも一体どうしたと言うのだ?」
「ははっ、何でもないよ!ト、トースト、もっ、もう一枚、もらおうかな。」
味も分からぬ状況で朝食を終えたジュドーは、階段を上がり、廊下を歩きながら思った。
「間違い無い!サラサとミネバは同じ種類の人間だ、隠し事は出来ない。これは気を付け
ないと…………しかし…………夜明けに起きて…………してしまったし……凄く良かった
けど……眠いな……なんでこんなに……眠いのか……俺も休もう…何か…朝からハード過ぎるな……」
部屋に戻ると、大あくびをしたジュドーは、昨晩三人で寝たベッドの前まで来て、背中には草の、
内側にはハマーンの肌の香りが染み付いたジャケットをベッドサイドのハンガーに掛けた。そして、
既に寝息を立てているハマーンの横に潜り込んだ。
「お休みハマーン…朝だけど…」
小さな声で挨拶すると二人そろって昼まで寝た。
131 :
120:04/07/03 23:54 ID:mpteof89
>>121 レスどうもです。
横槍入れてすみませんでした。
そういえばまだジュドーはリーナの生存すら知らないはずですね。
マッタリお待ちしています。
リーナ登場時、セイラさんが特別出演してくれたら嬉しいなぁ
いやー恥ずかしいスレですねw
書いてて「ナニやってるんだろう…」とか思わないんですかね。
133 :
120:04/07/04 08:16 ID:???
ゴメン、ageてしまってたんですね
改めてsage
ホシュ
まとめて投稿するとアク禁になるらしいので少しずつ行きます。
ライトシード7/9
「ジュドーさん!ジュドーさん!!…………もう昼ですよ!おきて下さい。」
何時まで待っても起きて来ないジュドーにしびれを切らしたロオルが部屋まで起こしに来た。
「うーん!何か用?」
「ジュドーさん、ブライトさん達が港に置いて行った機械の山、何とかして下さい。凄い量で邪魔なんですよ。
「ああ、コロニー警備用に置いて行くって言ってたモビルスーツの事ね 」
「それと大きなコンテナ!頼みますよ!巨神を動かせるのは貴方しかいないのですから。」
「分ったロオル、今行く!」
横で寝ていたハマーンも起きて、寝ぼけた顔で手伝うと言い出した。
「ジュドー私も手伝う…… 」
「そうか、助かる……けど、無理しなくていいよ 」
「いや、少しは働きたい!ロオルとやら、ミネバ様…いや、ミネバはどうしているのか?」
「お子さんなら、サラサ様とお昼を召し上がっていますが、お二人も召し上がりますか?」
「そうさせて貰おうよ、朝食べてないだろうハマーン 」
昼食を取り終えた二人は、ミネバをサラサに頼みロオルの操る幌馬車で港に向かった。ジュドーは、幌の中でハマーンの肩を抱き馬車に揺られながら語りかける。
「馬車も悪くないな、ハマーン……あのさ…… 手伝ってくれるの……うれしいんだけどさ、作業なんかして、…もう働いたりして大丈夫なのか?」
「フッ、今朝"森で私を襲った男"が今更それは無かろう……………傷の回復具合は………"あのとき"に全て確認してくれたでなないか…ジュドー」
ハマーンは、腕をジュドーの背中にまわして彼と肩を組み耳元でささやいた。
朝の出来事を思い出して身体の一部が制御不能になりかける、反対側の腕をそれとなく置いてごまかした。自分が落ち着くために聴かれもしない仕事の手順など、一方的にハマーンに話し始める。
「ブッ、ブライトさん達が言うには、宇宙に散らばって行った武器や兵士達の影響を受けて、ムーンムーン付近の治安も悪くなるだろうって言うんだ。」
「そうか…」
「だっ、だから、モビルスーツと補給品を少し置いて行ってくれるって……」
「親切だな…」
「きょ、今日は、二人でそれを整理して……」
「重い物は持てないが、軽作業くらいは手伝わせてくれ…」
「たっ、助かるよ ハマーン……」
声がうわずるくらいはしょうがなかった。ジュドーは肩を組んで自分にもたれかかるハマーンの、
伝わる体温と、
鼻をくすぐる髪とその香り、馬車が揺れるたび触れる胸のせいで今朝、森での出来事を思い出し
ては暴走寸前になる。それをネモタイプの操縦マニアルなどを思い出しては復唱して鎮める。そ
の、繰り返しを暫く続けた。
「港に着きました」
ロオルが馬車を止めて幌を開くと。ハマーンが先に降りて、次に汗だくのジュドーが降りた。
それを見てロールが勘違いして謝る。
「あれ?幌の中、暑かったですか?申し訳ありません。風が入らなかったのですか……」
ロオルの後に付いて二人が港に入ると、荷物の山だった。
「なんで、こんなにあるんだ!」
「フム、これは運びがいがあるな…」
「こんな巨大な物は私共の力では、人の力だけでは、どうしようも有りませんよ。ジュドーさん達に巨神で動かしてもらわないと……」
>>132 恥ずかしいと書くお前が一番恥ずかしいし、恥知らずなんだよ。
恥ずかしいのを我慢して読むから楽しいんだと言う事に気付け、愚か者。
ここに来る様な奴が恥ずかしいって感覚を持ってるのは驚きだがな。
とりあえずは書いてる人、がんばってくれ。
>135〜137 アク禁回避おめ。多謝多謝。
ライトシード7/10
お花畑爆進中の脳みそに羞恥心はありません!続きです。
ジュドーはモビルスーツ二機と小型コンテナ一つくらいと考えていたが、ブライト達が置いて行ったのは、ネモ二機と作業用ガザ、大型コンテナ十二個だった。
「ひでーな!持って帰るのが面倒くさい物、全部置いて行ったのか!」
あまりの分量に愚痴るジュドーに、ハマーンが言う。
「良いではないか!兵器とは自費で買うには高価な物だ、今の我等にはどんなお古も貴重品だ!大事に使わせてもらおうではないか!早速に作業に入ろうジュドー」
「積極的だな、ハマーン!」
「"おまえのせい"で昼まで寝てしまったからな!急がないと今日中に間に合わん!」
「それは無いだろ!ハマーン!」
「急ぐぞ、ジュドー!」
「分ったよ!」
「頼みましたよ!お二人さん!そこんところ通れるようにしといて下さいよ!」
「ああ!まかせて!」
「それじゃ、私は帰ります。何時ころ作業を上がりますか?迎えにきますので…」
「迎えは不要です。今日から警戒のためモビルスーツを神殿に配置します。それで帰るから迎えに来なくていいです。ロオルさんは皆にモビルスーツに驚かないように言っておいて下さい」
「そうですか、五時四十五分からお夕食になりますので、お二人ともそれまでにはお戻りください。それでは後を頼みます。」
ハマーンはガザ、ジュドーはネモに乗り込むと先ず、コンテナのフタを開け全ての中身を調べる事にした。
「どうだいガザは?その機体には長く乗ったらしいじゃないか?」
「五千時間は乗った機体だ!脚が他機種の流用のようだが………いや………そんな事より作業だ…………そっちを持ってくれジュドー!」
「分った!平行に上に持ち上げるんだね!」
「そうだ!弾薬かもしれんから、ゆっくりな……」
「何が、入っているんだろう……」
「これは、おまえのネモのスペアパーツと予備のライフル、実態弾のマシンガン、バズーカもあるな!私のガザに使えそうなモノもあるな、これだけ有ると気が楽だな……よし、ジュドー次に行こう!」
「開いた!何か、雑な詰め方だな……」
「部品みたいだぞ、ジュドー……ダブルゼータのみたいだが……」
「ガンダムは廃棄が取り決められたから捨て行ったのだろう?」
「ガンダムが廃棄?」
「ああ、連邦に頼まれたらしい…」
「英雄のモビルスーツを廃棄しろと言って来たのか!連邦は?」
「地球に住む人はニュータイプの匂いのするモノは嫌いらしい 」
「重力に魂を縛り付けられた者達らしい考えだ!」
「でも、その条件一だけで、ブライト達は他にずいぶんと良い見返りを得られたと言っていた」
「高く付くかも知れんぞ?その代償はな………」
「!………ハマーン……」
「よし、ジュドー次に行こう!」
「なあ、ハマーン"高く付くかも"ってどう言う意味だよ?」
「いや、深い意味は無い……ちょっと嫌な事を思い出してな……」
「気になるじゃないか、」
「ほんとに、何の根拠も無いのだよジュドー」
「俺は、サラサやハマーンほど、いや多分ミネバより、勘は良くないけど一応ニュータイプだぜ」
「"高く付くかも"と言ったときのハマーンの心の動揺は見逃せないよ!」
「………………………………。」
「そうか……………………ジュドーは既に、私の業の一つを引き受け命を賭してそれと戦ってくれた。お前にだけは話さねばなら無いのかも知れない……………………聞いて……貰おうか………」
ハマーンはそう言うと、次のコンテナのフタを開けようとする姿勢のまま、ガザを固定させた。そのコンテナの反対側でジュドーも同じ姿勢でネモを固定させた。
二機のモビルスーツの動きが止まると、彼女の懺悔が始まった。二人しかいないムーンムーンの港から、ハマーンとジュドーの会話以外の全ての音が消えた。
「ジュドー…………私は連邦との交渉で、悔やんでも悔やみきれない間違いを犯した。価値観の違う人間との交渉を舐めてはいけない。」
「どう言うこと?」
「私が、死ぬことに逃げ道を考え始めた直接の原因を、…分かるだろうか?……ジュドー?」
「ダブリンにコロニー落としたことか……」
「そうだ、あれで数万の非戦闘員を殺した……許される事では無い!」
ライトシード 7/11
地球に居残る人間を抹殺する。…そう言う考えだったからか…」
「だが、それは実際に地球に住む全ての人達に向けられたものでは無い、私とて地球の事を知らない訳ではない
宗教上の理由などから、連邦政府と疎遠と言うよりは現代の文明と疎遠にして生きる者達が大勢いる事は知っ
ている。その人達は総じて質素な生活を営み地球を汚染する事をしない、我々とは別のやり方で進歩して行く人達だ、
また文明の中にいても慎ましく暮らす者も少なくない。そう言った人達は地球の自然と同じだ。私の戦いとは無関係の者だ。
巻き込むことは許されない。私が憎むのは現在の支配階級とそれを支持して自然を搾取する者達だ。」
「なら、何故?無差別攻撃の代表のようなコロニー落としをしたのだ!」
「私は指揮を執る者だった。本来、敵に騙されたと言うのは言い訳にはならない!だがジュドーにだけは私の懺悔を、言い訳を聞いて欲しい。」
「貴方の業は全て俺が背負うと決めた!だから言ってくれ!だから聞かせてくれ!ハマーン!」
「ありがとうジュドー、……私の言い訳を続けさせて貰う…………信じられないかも知れないが、
ダブリンにコロニーを落とせばサイド3をくれると私に持ち掛けて来たのは、連邦なのだ……」
「そんな馬鹿な!地球に住む奴らが何故!…………しかし、そう言えば、ハヤトさんが言ってい
た。連邦政府は地球の人口が減る事を歓迎しているって、それにエゥーゴの提督も、今回のコロ
ニー落としはおかしな点が多過ぎると言っていた 」
「私が分析するところ連邦の考えは、宇宙を、好条件を提示して懐柔したエゥーゴに下請けさせ任
せるが、地球は完全に自分達の連邦軍で固めたかった。連邦は融通の利かないカラバを邪魔に
思ったので、幹部連中を会合と偽ってダブリンのぶな屋敷に呼び寄せて私のネオジオンに皆殺さ
せるつもりだった。コロニー落としは最低でも数千万の人間を殺す。地球も酷く汚染する。最初は
私も断った。毒ガス作戦を指揮したシーマ・ガラハウ中佐の辿った悲惨さを考えれば、いくら、私
でも非戦闘員相手の大量残虐までするつもりは無かった。拒む私に連邦はこう言って誘った。サ
イド4の廃コロニーを垂直にゆっくりと落としてくれ、その間に避難させるから一般人は死なない。
カラバだけ殲滅して、環境汚染も少ない、そして、その方法も有ると。だが、避難は実施されず数
万の人間が死んだ。実際のコロニー落としの作戦では、突入速度を下げるために移動の数百倍
の核パルスを使用した。
自由落下したコロニーが大地に立つ訳が無いだろう?
乙
ライトシード 7/12
そのための核パルスの核燃料も奴らがよこしたものだ。奴らも、"まともなコロニー落とし"
をされてはたまらんからな!そんな量の核は宇宙には無い、火星でも調査すれば在るか
も知れんが現時点では、ウランは地球でしか採掘されていない、当然ウランが無ければ
プルトニュウムも造れない
からな、足元を見られたよ、辛い隕石暮らしを早く脱却して快適なコロニーで暮らしたい!
そんなアクシズの人間の、当然の願いに付け込まれた。いや、付け込むと言うのは違うな、
連邦は他意無く双方に利益の有る取引として持ちかけたのだから。価値観の違いとは恐ろ
しいものだ。私には考えられない自国民の犠牲を、連邦はメリットと捉える。カラバ幹部粛清
のついでにそれをやる。真空の宇宙に住む者同士は助け合わねば生きられぬ、同じコロニー
の者同士は親近感を覚えるのが普通だが、空気を保障された地球で、手に余る人口を抱え
た連邦は邪魔と感じる。その感覚の違いを軽く見た。これは宇宙の作戦指揮でアースノイド
との戦闘に常に優位を演じた私の驕りだった。スペースノイドが宇宙で優位なのは当たり前
なのだからな!結局のところ、サイド3の自治権をぶら下げられたらアクシズにそれを止める
選択の余地は無かったのだよ。グレミーの勢力に加担する者を多数発生させたのも最初の
連邦との交渉を私が蹴ったのが原因だ。どうしても、サイド3が欲しかった閣僚達が何名か私
を見限ってグレミーに付いたのだ。二度目に連邦の誘いを断れば私は見方に暗殺され、
グレミーがコロニーを落とした事だろう。」
「連邦は、最初からブライトさん達エゥーゴに宇宙を任すつもりだったのか?だから条件が良かったのか?」
「そうだ連邦とエゥーゴは絶対民主主義と言う点では共通している。それにエゥーゴが強くなり過ぎない方策も考えられていたのだよ。」
「どんな方法で?」
「それは、宇宙は二つの勢力に下請けさせる方策だ。地球圏をエゥーゴに、サイド3と外宇宙をネオジオンに任せ、
両勢力に裏から、片方が強くなり過ぎないように援助して、対立させてコントロールする方針だった。連邦は、
ネオジオンを潰す気は無かった。今から考えれば、そのためにサイド3は最初からネオジオンに譲渡するつもりだったのかもしれん。」
「そうか、地球を自分で守って、近くをエゥーゴ、遠くをネオジオンにしたかったのか。ハマーン、その連邦との交渉の記録、証拠はまだ有るのかい?」
「私のキュベレイの中に保管して有ったが、あのジャンク同然の状態では保管されてはいまいブライト達が処分
してしまって、もう無いだろう………それに、……ジュドーには、あまり見て欲しくない……」
「そうかい、イザと言うときの交渉材料になったかも知れないが……まっ、しょうが無いさ……それじゃ作業を再開しようか……」
ジュドーは無線の向こうのハマーンが、だんだん沈んで来たのが分かって話を止め作業を再開させようと思った。
「私の懺悔を…言い訳を…聞いてくれてありがとう。こんな負け犬の遠吠えの様な事は、誰にも言わずにいるつもりだった。そのまま消え去るつもりだった。でもジュドーに聞いてもらったら気持ちが楽になった。 」
「そうかい、それ聞いて俺も嬉しいよ!辛い事があったらいつでも、なんでも聞くから遠慮無く言ってくれよな!それより、噂をすれば良い物が入っているぜ!このコンテナ!」
「何が、在ったのだ?」
「有ったぜ!ハマーンのキュベレイ!上半身だけ、ぼろぼろのままだけど、これでさっきの証拠が……あれ?そっちも?キュベレイ?…………」
「アルパのキュベレイだ……修理してあるようだ!」
「アストナージだな!プルのキュベレイのデータが取って有ったのだと思う」
「……って事は、次のコンテナはもしかして!」
「やはりだ!ジュドー!ダブルゼータだ!こちらは完璧に修理してある」
「最後のコンテナもダブルゼータの部品だ、二機分は有る」
「さすが!ブライトさん」
「そうだな、私と同じ事を考えたようだ」
「どう言うことだ?」
「ブライトも連邦高官を信頼などして無いと言うことさ!ガンダムを封じた連邦は、従順な大量の使い捨て兵士がお好みだと言うことを見抜いたのだよ。
ハマーン様専用アッガイさん、続きを期待しています。
夏の暑さに負けないで下さい。
ガンバレー(・∀・)。
>151 久々に見るコテハン
ライトシード7/13
おまえの様な傑出した兵など好まないのさ、扱い辛いしな!死地を生き残り民衆のカリスマ化
するニュータイプを嫌い、平凡な兵士に平凡な性能のマシンで戦地に送り込み、程々の活躍で
くたばって貰いたいのだよ!戦局は、その捨て駒の数で調整しながらな!それを嫌ったブライト
がここにダブルゼータを残した!大事に使わねばならないな!ジュドー」
「それを言うならハマーンのキュベレイだろ、スペア部品も無い」
「そうだな……」
コンテナのチェックが終了すると、ハマーンとジュドーはモビルスーツ用に使わせて貰う事になっ
た倉庫に武器弾薬と、スペアの部品、ガザ、ネモを移動して、その日の作業を終了した。
「夕食の時間だ、帰ろうかジュドー 」
「そうだな、これで港の荷物は全部倉庫に移動したし ハマーン、続きは明日俺がやるよ。腹減ったしもう帰ろうよ 」
帰路に着いた二人はキュベレイとダブルゼータを始動させると、夕焼けの森の上を静かに飛んだ。
ダブルゼータがキュベレイの横に並ぶとキュベレイが左手を出したので、その手をダブルゼータが右手で握った。
手を繋いだ二機は仕事帰りの人達の上をゆっくり飛んでサラサの神殿へと戻って行った。
「とても仲が良さそうだな、あの巨神達は、」
農作業を終えて家路をたどるムーンムーンの人達が見上げて言った。
三人の親子に二回目の朝が来た。朝食後のコーヒーが終わっても、ハマーンとサラサは
ムーンムーンの農業やコロニーの整備状態について熱心に語り合っていた。話が長くなり、
難しい方向に向いたのでジュドーは昨日の仕事の続きに行こうと思った。退屈そうにしている
ミネバも連れてモビルスーツ倉庫へ行き、昨日ハマーンと移動した部品の分類整理をする事
にした。
倉庫へと向かうジュドーは、ダブルゼータにミネバも乗せて二人乗りで行く、ミネバは歓んで、
ハマーンは少し心配そうな顔をしている。
ジュドーは膝の上ではしゃぐミネバを見て、プルツーを思い出さずにはいられなかった。その
思いに囚われ、暫く押し黙るとミネバが御願い事をした。
「ジュドー、私にモビルスーツの操縦を教えて欲しい………」
age
157 :
通常の名無しさんの3倍:04/07/18 07:16 ID:PRthhMNO
ふぬ
ライトシード7/18
ジュドーは悩む、
「こんな小さな子に兵器の操縦方法など教えて良いのか?」
ジュドーが悩むと、何故か彼の頭にはハマーンが悩む姿も浮かんだ。
「しかし、この混乱のご時世、ミネバもモビルスーツくらい操縦出来た方が良いのかもしれないし…………」
悩んだ末、曖昧な返事とダブルゼータのアクロバット飛行で、その場をごまかしたジュドーだった。
モビルスーツ倉庫に到着したジュドーはダブルゼータのマニピュレータを回転させて扉を強制開放させる。本来、
自動で開く構造なのだが、この倉庫には電力が供給されていない。と言うよりはムーンムーンの建物のほとんど
は電力が供給されていない。中に入るとミネバを乗せたまま、昨日の作業の続きを始めた。まだコンテナに入っ
たままの武器や部品を、学校の校庭程もある床に並べ始めた。ミネバは膝の上でジュドーの操縦を見つめていた。
「ミネバ、並べた部品をこのデジカメで記録してコンピュータでリストを作ってくれないか?」
「分かったジュドー、使い方を教えておくれ」
モビルスーツを降りるとジュドーはミネバに、そのデジカメとコンピュータの使い方を説明して、そして自分は
ハマーンのキュベレイのコックピットを調べた。
「有った!これだ!」
159 :
通常の名無しさんの3倍:04/07/18 18:27 ID:tZ8vBTdd
ハマーンから聞いたとおりに、リニアシートの少し分かり難い部分に作られた小物入れの中に隠されていた。
コンピュータに挿入して、彼女に聞いたパスワードを入れると、その会議の議事録からPDF書類、会談の映像
記録など全てがリストアップされた。ジュドーは取り敢えず、映像の途中部分2/3位をクリックした。二秒ほど
で映像と音声が飛び出した。
「――――この条件のどこに、ネオジオンの不利になる事が有ると言うのですか?迷う必要など無いでしょう
総帥?"道具"は全てこちらでご用意致します。貴方がたは、コロニーをサイド4からダブリンに落とすまでの間、
移動中のコロニーをエゥ−ゴの攻撃から守ってくれれば、それだけで、良いのです――――――――
―――それでサイド3は貴方達の物だ―――――――――――」
ジュドーが偶然クリックした場所はまさに核心部分だった。ネオジオンの高官に囲まれ、腕を組み眉間にしわ
をよせたハマーンが、名前は忘れたがテレビでも良く見る連邦高官達に、にやけた顔で説得されている。
いや、ハマーンを説得しているのは連邦高官だけではない。ネオジオンの武官達の多くが、ハマーンに
サインするように勧めている。彼女の肩を揺すって催促している者さえいた。それは連邦高官とは対象的な、
険しく真剣な表情だった。ジュドーがその映像に引き込まれていると後ろから声がかかる。
「ハマーンが虐められているのか?」
下げねば!
さげ
下がらない?
下がれ!ス・レ!
なぜ下がらん!?
164 :
通常の名無しさんの3倍:04/07/19 09:46 ID:gQqtX1hM
ふぬうぅ
165 :
通常の名無しさんの3倍:04/07/21 11:18 ID:+eqPCCaW
あ、あげなきゃ
166 :
通常の名無しさんの3倍:04/07/21 22:03 ID:+eqPCCaW
age
167 :
通常の名無しさんの3倍:04/07/22 10:45 ID:qpUo2vxA
まだだ、まだ落ちんよ!
上げてる馬鹿は誰だよ
嵐が来るだろ
ageてる糞自体が荒しだろ。
すまんかった。今後気をつけます。
下げ
保守
保守するぜ
ホシュ
age
ライトシード7/28
びくりとしたジュドーが振り返ると、ミネバが心配そうに覗き込んでいた。
「しまった!ミネバに見せられるような物じゃない」
好奇心から、こんなところで見入ってしまい、ミネバに見せたことを反省したジュドーは慌てて映像を止めてマイクロチップをしまった。
「ミネバは気にしないでくれ、そうだ!全部写真撮り終わったら、少しだけ操縦教えて上げるよ!」
「ほんとか?約束だぞ、ジュドー」
喜んだミネバは小走りで写真を撮り始めた。しかしジュドーは映像の中の眉間にしわを寄せたハマーンの顔が忘れられない。
気になって仕事をする気になれない。暫く考え込んでしまった。ミネバが遠くの部品の山で写真を撮っている間、再度マイクロチップを
挿入して情報に目を通す。見るほどに、だんだんと嫌な気分になって行った。連邦高官の富む者の無神経さ、アクシズ武官達の苦境
故のなりふり構わぬ必死さ、そして何よりも、苦悩するハマーンの辛そうな表情に、胸が苦しくなって一人画面に叫ぶ。
「女性はハマーン一人じゃないか!歳だって一番若い官僚の半分くらいしかないのに!…………ハマーン…………一人で背負いすぎ
…………無理しすぎだよ…………」
昨日彼女が言った"出来る事ならジュドーには見て貰いたくない"その言葉の意味が今解った。映像記録を全部見終わるとジュドーの心は沈み込んで真っ暗になってしまった。
モビルスーツ部品の間を飛び回って写真を撮り終わったミネバが、記録画像をコンピュータに落とすために戻って来た。そして、ジュドーの暗く沈んだ気持ちを感じ取り心配したミネバが誘って、二人はお茶の時間にすることにした。
ミネバは、今朝出かけるときにサラサが用意してくれたビスケットと紅茶のセットをテーブルの上に広げた。昨日サラサから教わったから私が入れると言うと、テーブルの上に丁寧なしぐさで紅茶の支度を整え、ジュドーのティーカップに紅茶を注いだ。
「どうぞ、召し上がれ!」
そう言ってジュドーに微笑みかけるミネバが、彼の紅茶にスライスレモンを入れると、香りの良い紅茶はスッと明るい色に変わった。暗かったジュドーの気持ちもパッと明るくなった。
「ありがとう とても美味しい」
「どういたしまして!」
「そうか、昨日サラサさんに教えて貰ったのか、…なるほど美味しい訳だ…」
「それと、物語と詩を聞かせて貰ったよ 私あの人大好き!………それで………お願いがあるの………」
「なあに?」
「今晩も、サラサがお話を聞かせてくれるの………だからサラサのお部屋に泊まりたいのだ………」
「いいよ!問題ないよ!泊まって来なさい!」
ハマーンとジュドーに二人きりの夜をプレゼントしようと言う。サラサの思いやりである事を推測した
ジュドーだったが、ここは素直に甘えようと思った。
思わず、今夜の展開まで連想して顔がだらしなくなる。
「ジュドー、どうしたの?………」
子供には理解不能なオーラを出したジュドーにミネバが言った。
「いやっ!なんでもない!それじゃお礼に!……いや、約束だから操縦教えてあげるよ! 」
「うん!教えて!」
二人はネモに乗り込んだ。操縦系統が最もシンプルで使いやすいと考えたジュドーが選んだモビルスーツだが、
大きな問題が有った。エゥーゴパイロットの平均体系に合わせて作られたリニアシートは最小値にセットしても
ミネバには大き過ぎる、グリップは太すぎて握り切れず、指が届かないスイッチもある。これはもう、どうしようも
ない事だった。しかしミネバは必死になって短い手足を伸ばし、出来ると言い張る。
「うーん!届くぞ!ジュドー出来るぞっ!うーん!ふーん!」
真っ赤になって頑張り言い張る。しかし操縦桿を前に倒すとペダルが踏み込めない。ペダルを踏み込むと前が見えなくなる。
ミネバにジュドーが諭すように言う。
「ミネバ………諦めるしか無いよ、ミネバに合うように作り変えるから暫く待ってくれよな!」
半泣きのミネバが尋ねる。
「暫くって、どれ位待てば良いのだ?」
少し考えてジュドーが答える。
「そうだな、必要な部品をリストアップしてビーチャかモンドに頼んで、探して貰って、送って貰って、………そうだな、2-3週間くらいかなっ!」
ミネバが間髪入れずに駄々をこねる。
「いやだぞ、………そんなに待てないぞ、今、今動かしたい、………お願いするジュドー………」
言い方が丁寧なだけで、ジュドーはミネバが一歩も引く意思の無い事を感じ取った。内に秘めた部分にプルと同じ強情さを感じて困った。
「なー、どうしようも無いだろ!諦めろよ 」
そう言うジュドーを潤んだ目で睨み付けミネバが言う。
GJです!
ホシュ
お疲れ様です。
ライトシード7/29
「今!今私にモビルスーツ操縦させてくれなかったら、私…ハマーンに、ずーとくっ付いて離れないぞ!
昼も夜も!ずーとハマーンにくっ付いて離れない、二人っきりにしてあげないぞ……」
ジュドーは考え込む。
「知っているのかミネバ?この年の女の子はどこまで知っているものなの?いや、そんな事よりそこま
で乗りたいなら何とかしてあげたいな…」
これほどまでのミネバの望みを無視出来るジュドーでは無かった。そして、悩んだ彼が辺りを見回すと、
ハマーンのガザが目にとまった。
「そうだ、あのガザは確か14歳頃のハマーンの体格に合わせられたはず、あれならいけるかも!」
早速に二人がガザに移動して、何よりも先ずグリップを見ると、明らかにネモの物より一回り細かった。
女性の小さな手に合わせて細身に造られている。さらにミネバが座ったまま、ジュドーがシートを調節
すると調整幅ぎりぎりの、ストッパーにぶつかった所で、一番遠いいスイッチになんとかミネバの手が
届いた。思わずミネバの顔がほころぶ、ジュドーもほっと胸を撫で下ろした。
「じゃあ!早速動かしてみようか、習うより慣れろだ!」
「うん!」
ジュドーの操縦を見ていたから大体解ると言うミネバには、あまり教える事も無かった。
二時間程ジュドーのコーチを受けると、ミネバは大体の基本操作をマスターした。そして
彼が教えなくても、見る見る効率的に機体を操作をする様になって行く。夢中になって
モビルスーツを動かすミネバ、その幼い横顔を見ながらジュドーは思った。
「やはりな、ニュータイプなのかな…でも武器の扱いを教えるのは待とう。それはハマーン
と相談する事にする……この先、ミネバに武器が必要になるような事が無ければ良いな……」
上達したミネバは早速ジュドーの仕事を助けた。作成した部品リストを彼が読み上げて場所
を指定すると、ミネバはガザでテキパキと部品を言われた場所に移動した。彼が三日と見積
もった仕事が一日で終った。ミネバが最後の部品を棚に納めたとき、五時を告げる鐘が鳴った。
「ミネバ、そろそろ帰って晩御飯にしないか?」
「うん、私もお腹がすいたぞジュドー」
二人は来た時のようにダブルゼータ二人乗りで神殿に帰った。しかしミネバは操縦席をジュドー
に譲らなかった。キャノピーを開けて付近を確認しながら、昨日ジュドーが止めた場所と10センチ
の誤差も無くキュベレイの横に着地させる。
「やったよ!うまく出来たよ!ねっ!ジュドーほめておくれ!」
「ああ、そ、そだね……ミネバ…良く…う!…これは……」
うまく操縦出来て、はしゃぐミネバと裏腹に、ジュドーは緊張していた。神殿の奥から発せられる
強力なニュータイプのプレッシャーに射抜かれて動けなかった。脈拍が上がり発汗していた。ニュータイプ同士の魂の会話が起きた。
「私に相談も無くミネバにモビルスーツの操縦を教えたと言うのか!ジュドー・アーシタ!」
気圧されながらも、ジュドーも応える。
「ミネバの強い希望だったのだ!良いではないか、ハマーン・カーン」
「ジュドー何故、私に相談してからにしてくれないのか?」
「だから、その…凄く乗りたそうだったし…その…」
「相談しなかった理由は何かと聞いている!」
「だからミネバが歓ぶから…」
「おまえは教育と言う物が解って入ない様だな!」
「教育?」
「大事なことだ!勝手な事をするな!ジュドー!」
「そんなに怒るなよ、ハマーン」
「怒ってはいない!ミネバに武器の使い方まで教えたのではあるまいな!ジュドー」
「それは断じて…………していない!」
「そうか、"取り合えず"帰って来い!…晩飯だ!この件については、後で話合おうな……」
「怒ってるの?」
「怒ってなどおらん!!」
「絶対怒ってるよー」
「怒って無いと言っておろうが!しつこい奴だな!!」
「…………」
黙りこくって神殿の暗がりを見つめたまま冷や汗を流しているジュドーにミネバが言う。
「どうしたのだ?ジュドー夕食に行こう 」
「そうしようかミネバ、ダブルゼータの手に乗って!降ろすから」
二人が神殿に入ると、ジュドーが見つめていた暗がりの奥に、夕食の準備をしているハマーンがいた。
ハマーンは笑顔でミネバから一日の報告を聞いた後、少し違うタイプの笑顔になってジュドーの肩を抱いて言った。
「今晩、子供の教育についてじっくりと語り合おうな、ジュドー!」
「子供の教育?なんの事だ?」
「この場所で、おまえが言ってくれたのではないかな!三人は家族だと!ならば、ミネバの教育は我等"夫婦"の、二人の責任ではないのか?」
「夫婦?!お、俺、お父さん?貴方はお母さん?」
「何を寝とぼけているのか!!しっかりしてくれジュドー!」
「え!………………そ、そうか、俺が言い出した事だよな?」
「そうだ!おまえが大黒柱だ!しっかりたのむぞ!」
「分かった…そうか…お父さんか………俺は………」
家族と言ってもジュドーは兄弟位のつもりで軽く考えていたのだが、よく考えればこうなる事は当然だった。
ブライトの心配も今理解出来た。早速そのブライトにいろいろ相談したい気持ちになったジュドーだった。
しかし、夕飯の良い匂いを嗅いだ瞬間にテーブルの上の料理に心を奪われ、全て忘れた。空腹の絶頂にいるジュドーは面倒な事は全て忘れた。
ホシュ
保守
保守する
190 :
通常の名無しさんの3倍:04/08/12 13:19 ID:jE6ZNNJr
えい
ツマンネ
保守
アガーイたん待ち
保守
ほしゅ
保守は基本
捕手
☆ゅ
最近SS投下無いねぇ。
久しぶりにSS投下したいんですけど、まだ未完成です。
皆さんから何か言われるのを覚悟しています。
おながいしまつ
期待保守
204 :
通常の名無しさんの3倍:04/09/06 12:11 ID:8owIdbeX
捕手
ほs(ry
ほしゅ
ライトシード9/13
「ハマーンその件は後でな!サラサ!晩御飯なに?」
「お仕事お疲れ様でしたジュドーさん。献立は、チキンビンダルーに鮭のクリーム煮それと、ガスパーチョスープです。さあ、冷めない内にご賞味下さい!」
「うわー、美味そー、いっただきまーす!」
そう叫ぶと、優雅に一礼して、マナー良く食べ始める三人とは対照的に、一気にがっつくジュドー。サラサとミネバは気にしないが、ハマーンは気にしていた。そのジュドーが食事を用意してくれたロオル達になにやら不満を言っている。
「このスープ冷え切ってるよー、温め直してくれる?」
困った顔になったロオルに代わってハマーンが諭す様にジュドーに教える。
「このガスパーチョスープと言うモノはな!冷やして飲むスープなのだよ、ジュドーこう言うものなのだよ」
「へー、そうなのか、そう言えばトマトジュースみたいで美味しいな!」
「ナプキンはこうして……」
「ふーん、そうか……さすがハマーンは物知りだな」
「フォークは…ナイフは…」
「なるほどね!この方が使い良いね!ハマーン教えてくれてありがと!」
ジュドーのマナー知らずにハマーンは怒りを感じなかった。教える自分に敬意を向け素直に学ぼうとする態度に返って、震える愛しさが湧き上った。
そして、まだ若いジュドーをこれから自分が教育して立派な大人にしなければいけないと考え始めたとき、何故かハマーンは異常なほどの育て甲斐を感じて興奮した。
それはちょうど、最高の素養を持つ新人を発掘したスポーツトレーナーのような気持ちの様だった。食事を取ることも忘れて、うっとりとした目でジュドーを見つめ密かに思う。
「さっきは少しプレッシャーをかけすぎてすまなかったな、ジュドー お互いに成長しよう…でもジュドーは未だ子供なのに…何故こんなにも私を……ああジュドー、本来の味を損なう事なく、どの様に(私好みに)料理(教育)してくれようか、ジュドー……」
彼女は、あぶない妄想に没頭して緩んだ口元をミネバに注意される。
「ハマーン!ヨダレ!……垂れている……はしたない」
「ハッ!私とした事が……申し訳ない……疲れが出たのです………………ん!…妙な目で見ないでくれるか!ジュドー……」
ホークとナイフを握ったまま、きょとんとした顔になったジュドーがハマーンに言う。
「どうしたの?こっちを見てヨダレなんて……ハマーンは俺のチキンが食べたいのか?換えて上げようか?…それとも俺の鮭か?」
「いや!違うのだ、チキンでも鮭でもない、私が食べたいのはジュ……いや!何でもない気にしないでくれ!」
本心を漏らしかけて焦るハマーン、すまし顔でヨダレをふき取り恋人の顔を盗み見ると、彼女には都合よく、食事に夢中になるジュドーは、あまり気に留めなていない。料理の心配だけして彼女に言ってきた。
「へんな、ハマーンだな、早く食べないと冷めて不味くなるよ」
「そうだな、ジュドー"早く食べる"事にする!」
そう言い終ると、ハマーンもマナーを忘れ、やや"がっつき"気味になって食べ始めた。教育しようと考える相手に、逆に影響されている彼女だった。
食後のお茶とお話も終ると、外は真っ暗になっていた。
電灯の無いムーンムーンの夜はすぐ更ける。ランプの明かりで夜が更ける。
その晩のミネバはサラサの部屋で、揺らめくランプの明かりでお話を聞かせて貰いながら寝た。
サラサの思いやりに甘えるハマーンとジュドーは、二人きりで薄暗い部屋のベッドの上にいた。
青銅の燭台のロウソクだけが照らす部屋にいた。
ちらちらと中途半にしか明かりの役をしないロウソクが、見つめ合う二人の輪郭だけを照らしだす。
暖かな闇に包まれる二人には充分な光だった。そして、何の会話も始める事無く二人の夜を始めた。
ハマーンが呟く。
「メインディッシュ……頂かせてもらう……」
「お早うエル、コーヒー入れたけど飲むか?」
「お早うビーチャ、頂くわ……」
ネオジオン紛争が終結して2週間あまりが過ぎた。
昨年3月にアーガマで現地徴用と言う形で兵役に着いたシャングリラの面々は、ジュドーを除いて2月1日を持って退役した。
元エゥーゴ本拠地、現在の連邦軍月面基地グラナダから、サイド1にある故郷シャングリラコロニーに帰りジャンク屋家業に戻った。
エルとビーチャの関係は、二人きりのブリッジでキスをして以来、良い雰囲気が続いている。エルはシャングリラに戻ってからはビーチャのアパートに泊まる日の方が多かった。昨晩も泊まって今二人の朝食を終えた。
「ジュドー達、どーしてるのかなー?」
ふと、思い出したエルが呟く。
「ジュドーはマイペースだからな……何も変わらないさ、ほら!せっかくの美味しいコーヒーだから冷める前に飲めよエル!」
「ありがとビーチャ、…うーん!良い香りーって!あんた何こんな贅沢してんのよ!振込むお金が無いって、私からお金借りたくせに!」
「違うよ、そのコーヒーはモンドがサラサから沢山もらったからって、分けてもらったんだよ 」
「ならっ良いけどさっ……ところで、その借金いつ返してくれんのよ!」
「エゥーゴの給料が振り込まれたらまとめて一遍に返すよ!だから今月の振込み分も頼むよエルー、お願い!」
「冗談じゃないわよ!モンドの分も私が立て替えてんのよ!まともに毎月払ってくれんのイーノとジュドーだけなんだから!二人とも何に使ってんのよ!」
「まあそう言うなよ、後少しで面倒くさい事もしなくて済むわけだし、」
「あんたはね!私はまだ一年あるの!そう度々チマッターさんに頼める事じゃないし参ったわー!」
「そう言えば、チマッターさん今度、港湾管理局の所長に出世しちゃったから忙しくて無理だよ……そうだ、ジュドーんとこも一応やっとけよなエル!」
「分かってるわよ!……それよりビーチャのその借金なんだけどさっ………とっても素敵な返済方法が有るんだけどなー」
「なんだ?エル」
「………ねー、ビーチャのアパートってさ、一人で住むの広過ぎない?二人で住めばさー、私の家賃…助かるんだけど…………」
「えっ?!……………………………………………」
「うふっ………………………………………………」
「………それって一緒に住んでくれるのかエル!」
「うん!」
ビーチャの瞳を見つめるエルの青い瞳が近づいて、二人はその日の二回目のキスをした。それとなく誘っていた同棲の了解を得て喜びながらも、早く確実なものにしたい彼は具体的に話を進める。
「そっ、そうか…じゃモンドとイーノにも引越し手伝って貰おう」
「…………私、連絡するよ……」
「あっ!エル!だけどエルは今日中にサイド6行かないと……エルの引越しは皆に手伝って貰って俺やっとくからっ!」
「ありがとビーチャ、もう荷造り済んでるから……はい鍵」
「ありがとビーチャ、もう荷造り済んでるから……はい鍵」
エルはビーチャに自分のアパートの鍵を預けるとサイド6の銀行に向かった。
エル達が住むシャングリラコロニーの有るサイド1とサイド6は同じラグランジュポイント5に有り、距離が近く往復が容易で運賃も安かった。
一年戦争を無傷で生き延びたサイド6は工業を中心として産業が盛んでサイド1に比べ豊かと言えた。
ビーチャ達は11ケ月をエゥーゴの現地徴用兵として過ごした。
その間の給与は、ブライトの口約束だけの保障だったけれど10月までは、毎月指定の口座にきちっと振り込まれていた。
が、何故か11月の分からが振り込まれていなかった。
本業のジャンク屋を休業しての従軍のため、自活している彼らには深刻な問題だった。
税金と空気代金の督促状を前に頭を抱えた。
「しっかし!11月からの給料が振り込まれないのは何故だー、これじゃ干上がっちゃうよーブライトさーん。給料くれー!」
一人、部屋で叫ぶビーチャ、しっかり者のエルから借りて急場をしのいだが、エルの蓄えとて僅かな収入から倹約して貯めたお金なので、そう当てにして良いモノでない。
それはビーチャも解っていた。そして、彼の記憶の中から思い当たる出来事が浮かんだ。そして叫ぶ。
「11月ってまさか!ネルアーガマ乗っ取ったからでは?エゥーゴ本部が怒って俺たちの給料差し止められちゃったのかー」
「良く解ったな、元艦長代理!」
「あれ!ブライトさん!なんでシャングリラに?」
アパート玄関に立ち、リビングのビーチャにそう言ったのは、ブライト艦長その人だった。その後ろにイーノとモンドもいた。
三人を居間に通すと、ビーチャはさっき入れたコーヒーを出した。
ブライトはそのコーヒーで喉を潤すと、先ずは皆の給料遅配の件を詫びた。
「すまなかった皆!ビーチャの言ったとおりの事情だ、エゥーゴの事務方と少しもめてな!しかし話は付けて来た。
ほんとうに遅れて申し訳なかったがここに持ってきた。空気代、税金の延滞料金くらいの色は付けさせて貰った。受け取ってくれ。」
ビーチャ達は戦争で長らく休業していたためにジャンク屋家業がまだ調子を取り戻せず金欠気味だったので一安心した。
ブライトがモンドに給料袋を渡したところでビーチャが思い出すように言う。
「モンド、早くエルに借金返しておけよ!今、サイド6行って"皆の振込み"やってんだぞ、立替までして……」
「そうだった…これエルに……ビーチャから渡しといてくれるか?」
モンドはブライトから受け取った給料からエルに借りてた分を引き抜くとビーチャに手渡した。
その、エルに給料を手渡し出来なくなったブライトが言う。
「エルはサイド6に向かったにか、入れ違えか、困ったな……誰か…」
ビーチャが少し照れくさそうに鼻をかきながら言う。
「俺が預かりますよ ブライトさん、俺たち今度このアパートで一緒に暮らす事にしましたから………皆もエルの引越し手伝ってくれるか?………」
「ああ、いいよ、……そんなの解っていたよ……」
ビーチャの告白は誰にも予想の範疇だった。
なにより"ジュドーとハマーンの宇宙規模の駆け落ち"の後では幼馴染同士の同棲など驚く者も無く、覚悟して語った本人が照れるだけだった。
皆が驚いたのは次のブライトの話の方だった。
「それとな、みんな!良いニュースが有るんだ。私はただ皆に給料を届けにきたわけではない、金の事などついでと言ってもいい!」
皆の注目を集めてからブライトが言った。
「リナが、リナ・アーシタが生きていた。負傷はしていたが……今は地球、ダカールの病院に入院している。
そこで私の知人が面倒を見ている。容態は安定していて、一ヶ月ほどで退院出来るそうだ。」
「ほんとか!ブライトさん!」
全員が一頻り喜んだ後、連絡を取るのが大変な場所にいる。ジュドーにどうやって伝えるかで皆、頭を悩ませる。
イーノが言う。
「でもさ!ジュドーにどうやって知らせるのさ?ブライトさん、あのコロニーって通信設備は有るの?真っ先に知らせる必要が有るのはジュドーだよ!」
ブライトが困った顔になって応える。
「駄目のようなのだ。旧式のレーザー通信設備が有るのはこの前、確認したのだが…救難信号の発信は出来た訳だが………
要するに、こちら送信に対して応答が無い!設備は有るが使いこなせる者がいないらしいのだ。連邦政府としても数万の人間が住むコロニーと連絡が取れないのは困る。
そこで誰かに新しいレーザー通信機とそのマニュアルを、事のついでに持って行って貰いたい。ジュドーやハマーンなら問題無く使いこなせるだろうからな…」
ムーンムーンと聞いてモンドが名乗りを上げる。
「ムーンムーンなら俺が行きたいんだけどさー、ブライトさん。俺達のおんぼろランチじゃ暗礁空域を通過するの、ちょっと不安なんだよなー!」
そう言うとモンドはブライトの方を見て微笑み手揉みをする。その催促をやむなしと思ったブライトが提案した。
「解ったよモンド!今グラナダに解体処分中のサラミスタイプ巡洋艦が有る。
それに装備されている連絡艇を、ジャンクとしておまえの所に払い下げる。
航続距離の長いタイプだから大丈夫だろう。それで今回の件を頼まれてくれ!」
「さすが!ブライトさん、恩に着ます。」
「ついでにジュドーのところに修理の完了したメガライダーも持って行ってやってくれ。奴ら、他のコロニーと行き来する乗り物が無いはずだからな 」
「了解です。ブライトさん、これからも良いジャンク回してね!しかし、ジュドーのヤツ歓ぶだろうな!
地球まで見舞いに行くって言い出すんじゃないかな?リナはたった一人の家族だからなーほんと良かった!」
「家族か……ところで皆、さっきの…エルがサイド6の銀行に振込みに行くって話してた様だが、それはもしかして、お前らは…やはり………」
一瞬、ビーチャ、イーノ、モンドの表情が強張った。そしてみんなを代表するようにして一番年上のビーチャがブライトに言う。
「そうだよ……ブライトさんの思ってるとおりだよ…だけど…もう少しだから、知らなかった事にしておいてくれよ…」
「そうか…解った……これは少ないが私の気持ちだ!皆の間で何か必要な事が有ったら使ってくれ、リナの件は退院が決まり次第また連絡する。」
そう言うと、ブライトは決して少なくない額の現金をビーチャに手渡して席を立った。
「それじゃ皆、元気でな!モンドはグラナダまで付き合え、連邦軍のドッグで整備状態をアストナージと相談して連絡艇を受け取れ」
そう言い終わったブライトはビーチャのアパートを出て、レンタルのエレカに乗り、モンドを連れてグラナダ行きシャトル乗り場に向かった。
二人の去った部屋で冷めたコーヒーを飲みながらイーノがビーチャに言う。
「あの事……大人に言うの、初めてだな……ブライトさんなら大丈夫だろうけど………」
「もう、ブライトさんはとっくに気が付いていたさ、イーノ……だから、もしもの事考えて、こんなにお金をくれるんだろ!……同情はちょっと嫌だけどな……」
「そうだよな……………うわっ!良いのか?これー、凄い大金じゃないかビーチャ!………」
「………有効に使わせてもらおうぜ」
「有効に……」
「そう………………………」
「ビーチャ……始める?例の?」
「やるか……イーノ?…………」
「やろうよ、例の商売…部品の方はもう五機分は有るよビーチャ」
「ブライトさんから貰ったお金、六等分して二人分ならもう充分だな、早速始めようぜ!クラッシックタイプとレプリカ専門モビルスーツ屋!店の名前も考えて有るんだ。」
「なんて名なのビーチャ?」
「俺とイーノの名前を合わせて考えたんだが、ビーチャのB、イーノのI、間に&が入って………B、AND、Iそれを合わせもじってBANDAI!○ンダイのモビルスーツ!…………………………どうかな?」
「……ちょっと苦しい気もするけど、良いんじゃないかな!……凄くヒットしそうな名前だと思う…マニアが列を作って買ってくれる気がするよ…」
「先ずは、マニアに一番人気のザクUからだな!」
「早速、細かい部品買って今月中に3台は仕上げようぜ!」
「完成したら、ネットに載せる!」
「そう!ザクなら直ぐ高値で売れるぜ!」
「○ンダイのモビルスーツ!…うん…なんか、凄く響きが良いよビーチャ!」
「夢はでっかく、アナハイムだぜ!イーノ!」
ジュドー・アーシタ23年目の浮気(ライトシード223)
「ルー提督!これより一週間、艦隊は私ブライト・ノアが責任を持ってお預かり致します!安心して休暇をお過ごしください!…………なんてな!ジュドー達によろしく伝えてくれ!………しかし、…ルー、…ああ、…でも、…ほんとにやるのか?あまり勧められんが……」
「ブライトさん無理を聞いてくれてありがとう。"やって来ます"!」
「"行って来ます"だろ?ルー?」
UC0112年1月19日、独身のまま連邦キャリアを爆進して40歳になったルー・ルカはいつのまにか、現場に拘るブライト・ノアを出世で追い抜き准将になり、提督と呼ばれるまでになっていた。
そのルーは、ハマーンとジュドーの新居の完成祝いにシャングリラの仲間と一緒に呼ばれていた。
「ひさしぶりだわ、………早くジュドーに会いたいな………作戦は完璧よ………敵は手も足も出ない筈よ………しかしモウサとはね、フフッ決戦の場に相応しいわ!」
そう呟きながら、この日のためにビーチャとイーノの会社に無理を言ってレストアさせた、懐かしのコアファイターで旗艦ラーカイラムを飛び立ちモウサに向かった。
第一次ネオジオン戦争が終って、暫くムーンムーンにお世話になったハマーンとジュドーだったが、その後いく度かの紛争から、自分達が未だ戦いを呼び寄せる存在であると悟り、暖かきそのコロニーを自ら去った。
そして暗礁空域に浮遊するモウサを発見したとき、ハマーンの強い希望により、嘗てハマーンの隕石基地を二人の終の住み家とすべく再建した。
ビーチャ達が暇を見つけては手伝ってくれたが、その殆どを二人で作った。
二人が住むのは勿論、二人が初めて出会った思い出の、あの家のあのベランダのその部屋だった。
再建には十年を要した。そして完成なった新居でみんなを向かえるべく、そのベランダにはバラを飾るハマーンの手が有った。
その手すりに触れた瞬間、彼女の時間が過去へと戻る。
ジュドーとの出会いを思い起こさせられたハマーンの胸が熱くなる。そばで飾りつけを手伝っていたジュドーが彼女に言う。
「もう、センチメンタルかい?ハマーン」
「今はそれもよかろう、我が愛するジュドーよ! 」
少し、からかうくらいに言ったジュドーは、ハマーンの潤んだ瞳と、強くストレートな愛をこめた返答に自分の胸も熱くさせられた。
ジュドーにもハマーンの気持ちが乗り移って、彼女を見つめる彼の目からも涙が溢れた。
「もう、さっきから二人、泣いたり抱き合ったりキスしたり、全然飾りつけ進まないじゃないの!ベランダの飾り付けは、私達でやろうかミネバ!」
「二人だけにしておいてあげましょう 二人の特別な場所らしいから、リィナ…」
集まるみんなに先駆けて、手伝いに来た二人が部屋からベランダを盗み見て話していた。
イーノも既にリーナと来て、キッチンで料理をしていた。次にエル、ビーチャが一緒に来て、ムーンムーンからモンドが来て、最後にコアファイターでルーが来た。
ルーのコアファイターが屋敷の庭に着陸すると、それをジュドーが懐かしがった。
「あれは、当時のそのままじゃないか!レストアしたのか?」
「ああ、そうさ!ルーがどうしてもと言うから、部品探しも含めると半年がかりだよ!」
「でもさすがビーチャの会社だな!あんな古い特殊戦闘機をレストアするなんて」
「まあな!アナハイムの倉庫までイーノと部品探しに行った甲斐が有ったよ」
「そう言えばルーの奴まだ一人身なんだって?」
「ああ、レストア頼みに来たとき聞いたんだけど、もう結婚する気は無いそうだよ…」
「そうか……まだグレミーの事引き摺ってんのかな、ルーの奴……こんな所に呼んで返って悪い事したかな……」
「お前を、助ける為とは言え、生身の人間を直接ビームライフルで撃ったからな……今でも目の前でグレミーが蒸発して行く瞬間を夢に見るらしいよ、ルーの奴………」
そんな噂をしていると、ベランダの皆に向かってルーが昔と変わらぬ大声で語りかける。
「久しぶりー、ジュドー、ビーチャ……ハマーンも……」
「元気そうだな!ルー」
「アンタもね!ジュドー」
全員が揃ってパーティーが始まった。
皆、結婚して子供もいた。一番若いミネバでさえ既に2人子供がいた。
皆が気を使えば使うほどルーの存在は浮いていた。
パーティーも終えて、皆がシャワーを浴びたりテレビを見たり、疲れた者は宛がわれたゲストルームで休んだりした。
そんな中、ルーはハマーンと2人きり向かい合って話をしていた。
「ハマーンお願いが有るの……」
「何だ、しおらしさがお前ほど似合わぬ者も無いぞ、」
変わらぬハマーンの皮肉に全く動ずる事無くルーは頭を下げ続けた。その迫力と只ならぬオーラにハマーンが気圧された。
「聞こうか………」
「私、もう男は、結婚は、諦めたの………誰かを好きになっても昔の戦いでの出来事がトラウマになってどうしても上手く行かないのよ、
でもね、このまま唯歳を取って行くのは余りに寂しい……だから子供が欲しいの、子供だけは生みたいのよ…だからジュドーと一度だけ……今日なら多分……」
「なんだと!………何を馬鹿な……そんな事を私が許せる訳ないだろう!」
「お願いよ……ジュドーじゃ無きゃ嫌なのよ私!……それに私のトラウマはジュドーを救いたい一心で引いた引き金なのよ、
あんたのネオジオンのモビルアーマーが余りに強力で、あそこで撃たないとジュドーが危ないと思ったからなのよ!ハマーン!」
「それは!…それは、ジュドーから聞いてグレミーの事は知っている……しかし、それとこれとは話が違う!」
「お願いよハマーン!もうジュドーとは何百回もやったんでしょ!一回ぐらい分けてくれても良いじゃないのよ!!」
「馬鹿者!回数の問題ではない!」
「ああ、私ったら、ごめんなさい……でも解って!私も必死なのよ……ハマーンなら孤独の辛さを理解してくれる筈よ!」
「うっ!そうだな……しかし!しかしジュドーが"うん"と言うまい……」
「いいえ、ハマーン、さっきジュドーには既に頼んだの……」
「何と!勝手な!それで、ジュドーは何と言ったのだ?」
「ごめんなさい先走って…私、必死だったから…そしたらジュドーは困った顔したけどハマーンがOKなら良いとだけ言ってくれたわ!」
「くっ!ジュドー、男らしく無い逃げ台詞を!」
「だから、お願いハマーンからジュドーに言って!」
「何を言えと言うのだ?」
「だから……その、一度だけ私と"しろ"って……」
「私の口からジュドーにルーと浮気しろと言えと、言うのか?!」
「もー、ほんと、一生のお願い!ハマーン様!!この願いを聞き入れてくれたら、貴方の為に何でもします。連邦の総会で裸踊りでも、地球に月を落とせと言われれば落とします」
「………解ったよ………ジュドーには言う……言うだけは言う」
ハマーンはルーの必死の、魂の叫びに屈した。ルーの言葉"孤独の辛さ"に負けたのだ。その昔ジュドーを手に入れたとき、去り際に聞いたルーの"取り返しに来る"その言葉が今になって現実のものになった。
ハマーンは部屋を出てジュドーを探した。リビングでミネバ達とテレビを見て談笑しているジュドーを見つけると、彼をベランダに呼び出して言った。
「女に恥をかかすな、ジュドー!ルーが寝室で待っている。男ならやってやれ!一発で決めて来い!」
「…了解したハマーン、………でもハマーン?」
「なんだ?」
「あのさ、ハマーンに言われてやる訳だしさあ………」
「えーい!ごちゃごちゃ言わずにやる事だけやって、さっさと寝ろ!」
「いや、だから、あのさ!」
「だから、なんだ?」
「昔言ったろ!もし浮気したら"お前を殺して私も死ぬ"それだけは勘弁な!」
「当たり前だろうが!!こんな馬鹿らしい事で一々死ねるか!私はもう寝る!」
「お休みハマーン、ごめんね……」
「謝るな!ルーが待っている!早く行ってやれ!」
「分かった…」
翌朝、一人で朝食を取るジュドーの後ろにハマーンが立つ、振り向くジュドーに彼女が声をかけ、まだ空の彼のカップにコーヒーを注ぐ。
「今朝は随分と機嫌が良さそうじゃないか?何か良い事でも有ったのか?ジュドー?」
「別に、普通だよ、ハマーン」
「で、どうだった?人生最初の浮気の味は?」
「そうだな、何と言うか……ブッ!このコーヒーしょっぱいよ?」
微笑むハマーンの注いでくれたコーヒーには塩が入っていた。怯えた顔になったジュドーにハマーンが再度、同じ質問をする。
「で、どうだったのだ?私はジュドー以外に男を知らぬ、純粋に興味が有るのだよ教えてくれ、浮気と言うモノがどんな感じなのかを…」
「まあ、ルーも綺麗かなーって思ったけど……うわっ!熱いよハマーン!」
「すまん、うっかりコーヒーをこぼした」
「で、どうだった?私は浮気などした事が無いので良く解らんのだよ?どんな………」
「ハ、ハマーン?…その、フライパン握り締めるの、止めてくれるか?」
「これは別に……お前を、いやベーコンでも炒めてやろうと………」
「ハマーン、酷いよ…ハマーンが言っ…いや!俺から望んだ訳では無いのに!」
「フフ、ジュドー女心は理屈では割り切れぬモノなのだよ……」
219-221は番外です。
事情によりガンプラが作れない情熱を妄想小説にぶつけたら呆れる長編になってしまいました。
まだ125000語くらいあります。某所(このスレの大先輩のHP)にも載せさせて頂いております。
順次アップしますがそちらのハマジュもよろしくお願いします。
お久しぶりの乙です。
乙です。
これからも頑張って下さい。
向こうに掲載してるぶんはどんどん面白くなってきましたね!
続きがとても楽しみです。
向こうって?
ヒントキボン
で、ぐぐれ
あらまぁ。2年くらいROMって来たけど新ストさんのサイトなんかあったんだ。
全然知らんかった。
あああ、これでサイト消されるか移転決定だね。
>226
氏ね
age
ほしゅ
ほしゅ
ライトシード9/19
過激な同人誌を入手!新燃料が投入され当分暴走出来そうな悪寒・・・
「ハマーン…アイスコーヒー飲むか?」
「気が利くな!ジュドーありがとう」
ムーンムーンの二人の生活も何事も無く続いていた。風呂上りのハマーンに飲み物を差し出してジュドーが話しかける。
「ハマーンは今週に入って毎日、朝から晩までサラサやロオルと話し合ったり書類作ったりしてるようだけど、何をしようとしているんだ?」
風呂上りのハマーンは、良い香りの湯気を放ちながら、ベッドのジュドーのそばに座ると、アイスコーヒーを美味しそうに飲んだ。
けれどもその質問を聞いて少し表情を曇らせた。ベッドに寝転ぶジュドーに話し始めた。
「コロニー整備と、その資金調達方法だよ、先週の一週間をかけてジュドーとミネバが、モビルスーツを使ってコロニーの現状調査をしてくれただろ!
予想はしていたが調査結果をまとめたらちょっとな…」
「ああ……たくさん写真撮ったけど、けっこう酷かったな、特に外壁とか………あちこち空気漏れしてるし…暗礁空域に浮いてる以上、
デブリの衝突は日常茶飯事だから……」
「そうだ、だが現実はジュドーが思ってるよりもっと悪い、ムーンムーンは小型の密閉型コロニーだから、かろうじて持っていると言うところなのだ
今主流の開放型だったらとっくに崩壊して人の住めない真空の廃コロニーに……暗礁空域の巨大なジャンクの一つになっていただろう。
それに外壁だけじゃないのだ。中の設備もガタが来ている。発電施設やコロニー中心の人口太陽も殆ど想定寿命を終えた部品ばかりで構成されている。
空気循環還元システムなど2割も作動していなかった。広大な森で作られる酸素でバランスしていたよ……
偶然と言うか、奇跡の積み重ねで生きてるコロニーだよここは!」
「それじゃ、何時、空気が無くなったり、真っ暗になるか解らないのか……」
「そう言う事だ。」
「どうするんだ?ハマーン…」
「このコロニーの設備老朽化の件は、既にモンドから忠告を受けたとサラサは言った。
彼は近いうちにその事でムーンムーンにもう一度相談に来るとも言ったそうだ。」
「モンドが?」
「彼とも相談したいところだが、どちらにしても先立つものは資金だよ、
ジャンクを活用して補修費を安く上げるとしても全てジャンクパーツと言う訳にはいかんだろうからな!」
「野菜を売るのか?」
「このコロニーには、それしかあるまい?……それをサラサと相談していたのだよ。ジュドー、
私は野菜と果物の販路を開きたい…まず近場から…おまえの古巣シャングリラから行こう。明日にでも発ちたい、頼めるか?」
「営業が必要なのか……でもハマーンここには宇宙船が無いよ」
「有るさ!2人乗りのとびきり高性能なヤツがな!」
「それって!ひょっとして…ダブルゼータの事?」
「問題無かろう?ジュドー…調べたが、明日の正午が最接近タイミングだ。そのタイミングでシャングリラに向かうと距離は約十五万キロ、
経済飛行でも四時間で到着出来る。それに………」
「それに……どうしたの?」
「三人の日用品の買い出しもしたいのだよ……私もアクシズを出てから、洋服が着たきりの一着しか無いのだ。少し買わせて欲しい…
ジュドーたまには夫婦でショッピングでもどうか?」
最後にハマーンは、ジュドーに少しだけ甘えた声を出してみた。
「俺はエゥーゴの支給品がまだ沢山あるし、ムーンムーンの日用品が気に入ってるから何も要らない。
このまえハマーンに預けたお金の使い道は任せるよ、欲しい物が有るときはなんでも好きに使ってくれたらいい、
俺の基本給だから偉そうに言うほど無いけどね!」
「ありがとうジュドー、大切に使わせて貰う……」
"この瞬間以上の幸せを私は想像出来ない!"いきなり胸を熱くさせられたハマーンがベッドに寝転ぶジュドーに覆いかぶさり口付けをしようしたとき、
もう一人来た。
「私も連れてって!」
その時、外で話を聞いていたミネバが飛び込んできた。飛び起きた二人の間に座って下から見上げてお願いする。
「私も連れて行っておくれ」
「どうしようハマーン連れて行って良いかい?」
「ミネバも普通のコロニーの生活を知る必要はある。私は連れて行きたい。三人で行こうか?ジュドー」
「分かった!営業と買い物だな、……そうか、……それじゃ明日朝、一番にコアベースを複座に変更しとくかな!」
「ありがとうジュドー、ハマーン、とてもうれしい、」
「よかったわね。それでは私達も朝になったら、お出かけの準備をしましょう。」
親子でお出かけ…ミネバにはその経験が無い。ジュドーもおぼろげにしか思い出せない。しかし暫く目を瞑ると、両親の愛に包まれ、
何の心配もする事も無く、子供らしく暮らせていたころの、その幸せな記憶が薄っすらと蘇った。ジュドーはその暖かな思い出を、
親の顔も知らぬと言うミネバにも味合わせてあげたい気持ちになった。するとジュドーも何故か、とても楽しみな気分になって来た。
ジュドーはハマーンに耳打ちする。
「ハマーン、明日はミネバを楽しませるの、最優先させないか?」
「フッ、ジュドーは良き父親になれる…私に気遣いしてくれる以上に嬉しいぞ…」
ハマーンは、そう耳打ちして返すと彼の頬にキスをした。ミネバが少しむくれて二人に言う。
「内緒の話は止めて欲しい……二人は何を話したのか?」
「ジュドーは明日、ミネバの欲しい物は何でも買ってくれると言ったのよ。
良かったわね、ミネバ…」
「そんな!ハマーン……」
ジュドーが呟き、そのとき思うビーチャ、エルに脅かされていた"王女の金銭感覚"に対する不安を感じ取って、ミネバが言う。
「ジュドーが肩車してくれるなら、イチゴパフェだけで良い。」
「ビームライフルに操縦席作るなんて全く無茶だよ……」
Gフォートレス形態コアトップの狭いコックピットに文句を言いながら、サイド1のシャングリラコロニーに向かうジュドーは、眠り足りない顔のまま、
操縦桿を握って呟く。
「ああ、眠むっ!…何も朝五時に起こさなくても良いのに、ミネバ……」
ジュドーとハマーンと三人初めての"家族でお出かけ"に、すっかり興奮したミネバに早朝から起こされて寝不足で操縦を続けるジュドーだった。
機体中央のコアブロックではハマーンとミネバがとても気持ち良さそうに寝ている。それをモニターで見ると、少しうらやましく感じた。
「暗礁空域を抜けるまでは、俺は寝るわけに行かないからな……お!…あのモビルスーツのジャンクあまり壊れてないじゃないか!
……よし!ポチッとな!」
眠い目をこすりながら、時折、発見した高値で売れそうなジャンクの位置をコンピュータに記録したりしながら、暗い宇宙を一人、
ジュドーは操縦を続けた。その後、三時間ほどの我慢で危険な暗礁空域を抜けていた。距離で見ればまだ半分も飛んでいない。
けれど、この後はジャンクや隕石、残留ミノフスキー粒子も無い、これから先は高速で移動出来る。しかも目的地まで自動運転可能である。
ジュドーもシャングリラに着くまで一時間も無いが少し寝る事にした。彼が、うとうとし始めて間もなく、その出来事が起きた。
ジュドーはハマーンの大声で叩き起こされる。
「ジュドー起きろ!操縦をこちらに貰う!ダブルゼータに変形するぞ!…
……あの男!全く何を考えているのか!」
「なっ!何だ!どうしたんだ?!何が有ったんだ〜」
寝入り鼻を起こされて狼狽したジュドーが彼女に尋ねるが、モニターに映るハマーンは凄く怖い顔になっていて、ジュドーに答えてはくれなかった。
Gフォートレスをダブルゼータに変形させたハマーンは宇宙空間のある一点を目指して、いきなり全力加速をかけた。暫くすると、
赤く巨大な艦影が見えてきた。
「あれは?!………サダラーンじゃないのか!」
ジュドーも叫んだ。ついこの前まで戦っていたハマーンの戦艦、ネオジオンの旗艦、
その後エゥーゴや連邦の手によって武装解除された筈の戦艦が目の前にいる。そして、おおよそ自分達と同じ方向に向かっている。
全力加速したダブルゼータはすぐにサダラーンに追いつき、追い抜くと反転して航路に立ち塞がった。
そして機体を航路前方に停止させたハマーンは"その人物"をもう一度感じ取り、その艦内に存在を確認して言った。
「いる!」
彼女はダブルゼータでサダラーンのブリッジに取り付くと、酷く強めの"ノック"をしながら接触回線を使って叫び続けた。
ダブルゼータの鋼鉄をも砕くガンダリウムの拳は、ハマーンの怒りのオーラでハイパー化して瞬く間にブリッジをヘコミと亀裂だらけにして形を変えていく。
ブリッジの内部は阿鼻叫喚の様相を見せた。
「シャア!出て来い!貴様!サダラーンで何をたくらむのか!」
「何だってハマーン………シャアって?!………あ!」
「間違い無い!この艦の中にシャアがいるのだ!」
「違う!!後ろだよ!赤いモビルスーツだ!ハマーン!」
「くっ!貴様!また、そんなモビルスーツを!」
いきなり現れたその赤いモビルスーツは、素早く振り返ったダブルゼータを押さえ込もうとして組み付いて来た。二機は両腕をつかみ合った。
力が均衡して、その状態で動きが止まった。
ダブルゼータは振り向いた回転運動を止められたその反動で、トランク代わりにしていた背中の空のミサイルポットが開き、
ミネバやハマーンの"旅行用のお泊りセット"を飛び散らせていた。
かまわず、ハマーンがその赤いモビルスーツのパイロットに言葉を浴びせる。
「答えろ!貴様!何を企んでいる!シャア!」
「久しぶりだな、ハマーン、フフッ、元気そうじゃないか!」
「サダラーンを手に入れ、何を企んでいるのか聞いている!」
「安かったのさ!この船で旅行でもしようかと……」
「ふざけるなシャア!」
怒りに任せたハマーンは躊躇無く、頭部ハイメガ砲のメガコンデンサーを充電開始した。
ギューンと音を立ててチャージが始まる。全力加速後に急停止したので有り余るジュエネレータ出力が最短時間で発射を可能にする。
気が付いたシャアが焦って武器を探すが、アナハイムから受領したばかりのギラドーガ・サイコミュ試験タイプは武装がなかった。
両肩に装備された6基のファンネルも現時点ではトレーニングの段階で、彼はまだ無線サイコミュを使う事は出来なかった。
思わぬ場面でシャアは死を覚悟させられた。
「チィィー!こんなところで終るのか?有線タイプが有れば!……ん!…あれは?」
その時、ジュドーがコックピットを飛び出し、ノーマルスーツで赤いモビルスーツの前に立ちはだかると、ハマーンに向かって大声を張り上げた。
「そんなモノ撃つな!冷静になれハマーン!この人は俺達と戦うつもりなんか無い!それくらい分かるだろハマーン!ミネバだっているんだぞ!」
「………そうだった、すまないジュドー、すまないミネバ………」
「まったく、どうしたんだよ……せっかくの家族旅行だって言うのに!……ミネバが泣いてるじゃないか………」
ジュドーはブツブツ言いながらも宇宙空間に飛び散った"お泊りセット"の一つ一つを拾い集め出した。
ジュドーが、赤いモビルスーツとダブルゼータの間を動き回ってハマーンが、ぶちまけた荷物の回収作業をしている間、
少し冷静さを取り戻した彼女はシャアと話を続けた。
「何をする気なのだ?」
「戦艦を手に入れて、他にどんな使い道が有るというのだ?」
「まだやるのか?ピエロはつまらないぞ、シャア…」
「誰かがやらねばならん事だよ!」
「我等が背負うべき物なのか?もう一度良く考え直せ……」
ハマーンが、そうシャアに言ったとき、彼女の下着、白地にピンクと紫の飾り、飛ぶキュベレイのような下着を追いかけるジュドーが、
睨み合う二人の間を通り抜けた。
「ふっ!ふふっ!…くくっ……」
「どうしたシャア!何がおかしい!」
「ふふ…」
「笑うな!貴様っ!馬鹿にしおって!」
「これが笑わずにいられるものかハマーン、良く見ろ!」
「あれは!」
「あれは…………私は今でも鮮明に覚えているぞ!そうか!そう言うわけか!ふふっ、良かったじゃないかハマーン…」
「………………………………」
ハマーンは真っ赤になってうつむいたままだった。顔から火が出る。その恥ずかしさで体が熱くなる。発する熱でノーマルスーツの冷却装置がオンになる。
「……ジュドー早くしまってくれ!早く!……」
そう呟くのが精一杯だった。
ジュドーが追いシャアが笑う"あれ"とは、嘗ての栄光と挫折、ジュドーを手に入れた輝かしい勝利と、シャアに拒まれた惨めな敗北、
そのいずれのときも彼女を包んだ"勝負用"そのものだった。ジュドーとモウサでの一騎討ちでも着用したのもそれなので、
アクシズを捨て来た彼女には、手元に残る唯一のお洒落下着だった。
暫くしてジュドーがミネバの歯ブラシ、自分の靴下、ブリーフなど飛散した日用品全てを集め終わると、
その様を黙って見ていたシャアが落ち着いた声でもう一度言った。
「良かったな、ハマーン………あの時は傷つけてすまなかった………」
「しかし、お前を野放しする訳にはいかないのだ…シャア…」
尚も食い下がるハマーンにシャアが暫しの休戦を申し出る。
「ハマーン、ここで出会うという事は…お前たちもラグランジュポイント5、サイド6かサイド1に行くと見たが…どうだい?
コロニーに着くまで四人でゆっくり話しでもしないか?久しぶりにミネバの顔も見たい。何より私はジュドー君にとても興味が有る。
つもる話でもしようではないか、嘗ての持ち主に言うのは少し気が引けるが、お茶くらいご馳走しようじゃないか、サダラーンに寄って行け!」
「どうするか?ジュドー」
「俺はかまわない!」
ハマーンがジュドーに相談すると、気軽に了解した。
ダブルゼータはシャアのギラドーガに続いてサダラーンの格納庫に入って行った。クルーが赤いモビルスーツを固定すると、
出てきたシャアの指示でダブルゼータも固定された。三人が降りると、貴賓室に向かうシャアの後ろにジュドー、ジュドーの右にハマーン、
左にミネバの形で移動した。
ジュドーの手を取りながらハマーンがシャアに問う。
「どう言うトリックを使ったのか?」
「何の事だ?」
「武装解除された筈の戦艦のビーム砲が何故、使用可能な状態になっている?」
「私は、連邦政府から正規の手続きで買った船をそのまま乗っているだけだが、このまま使い続ける訳にはいかないから、
改装して名前もレウルーラに変える……そのために今サイド6のアナハイム戦艦ドッグに向かって航行している……」
「そう言う事か!連邦め!どこまで腐っているのか……」
彼女は連邦の真意が自分の予想通りだった確証を得て、吐き捨てるように言った。
やはり連邦政府の上層部はエゥーゴ単独に宇宙全てを任す事を嫌い、密かにネオジオンにも援助を開始したのである。
もちろん、この時連邦政府は新しい総帥がシャアである事を知らない。
「なんと愚かな連邦だ、よりによってシャアに援助するとは……」
「フフ、私はとても助かっているよ……」
「狼のくせにハイエナの様なマネをするのだな?シャア?」
「狡猾と言って貰いたいものだなハマーン……あれだけの大型戦艦をゼロから作るのは大変なのでなあ、」
またそれを喜々として利用して軍を興すシャアにも嫌悪を感じた。
貴賓室に着くと、ハマーンは、ジュドーにミネバを預けるようにして座らせた。
自身はシャアに対峙して、"使い慣れた"ソファーにシャアに勧められるのを待たずにドスンと座った。
一人だけ片意地を張るハマーンの態度で会話が始まらなかった。
暫くしてシャア自らが、三人に飲み物を用意して話しの口火を切った。
「長い間……辛い道化を、ハマーン一人に任せてすまなかった……本当に申し訳ないと思っている」
飲み物を三人の前に並べ終わり、尚も立ったままのシャアは、嘗てグワダンの艦上でハマーンにそうしたように深く頭を下げた。
今回は彼の方から詫びて来た事で、機先を取られて戸惑うハマーンだが表情は崩さなかった。
かつて、ハマーンはシャアだけを頼りにミネバとアクシズを引き受け、その全権の責任者となった。
自分が重荷を背負いたくないから嘘をついて責任を押し付け、逃げたシャアは、それくらいで許せる相手では無かった。
冷徹な顔と声で言った。
「……座れ……」
それを聞いて、やっとシャアが席に着く。そのハマーンの横柄な態度を見てジュドーが慌ててハマーンに耳打ちをする。
ミネバは困ったような顔をしていた。
「招待されてるの俺達なのに逆だろ!嫌だよ、そんなハマーン…」
ハマーンはジュドーの口にそっと手を当て、心の中で言った。
「今暫く、私の好きにさせてくれ…頼む…」
ジュドーとミネバは黙った。
シャアは事の大筋を隠さず話す覚悟をしていた。密かに軍を結成した直後にも係わらずに、
その旗艦にミネバとエゥーゴのエースパイロットまで連れて最強のガンダムで立ち塞がる。ジュドーが止めねば、
ハイメガ砲でサダラーンごと宇宙の塵にされていた。そんなハマーン相手には、隠し事は無意味と考えると、彼はいきなり核心を語りだした。
「ハマーン、宇宙の道化は私が引き継ぐ、戦争は早くて三年後、遅くとも五年以内だ、しかし、宇宙で生活する者に被害を及ぼすつもりは無い、
私の邪魔はしないでくれ!頼む!!」
「ほう……そうか……他に方法は無いのか?シャア……」
「無い!」
「と、言う事は……今更地上戦などやる気はあるまい……手っ取り早く決める気だな……落とす気なのであろう?……コロニーを…
…貴様の事だ!私のような中途半端なマネはするまい?幾つ落とす気だ?……核まで使う気ではあるまいな?…
…しかしな、経験者として言わせて貰う……つらいだけだ……他の方法をもう一度探せ……」
全て読まれても尚、シャアはハマーンに言い負かされない自信が有った。そしてシャアは言い返した。
「私は、地球圏で"他の方法"を探し求めた……政治家の真似事までしてな……そして悟ったのだよ、ジャミトフがいい例だ、
どんな強権力を握ろうと無意味だ、地球に残る人達の心まで変える事までは出来ない。無理にでも宇宙に上がって貰うより他ない!」
「そのとおりだな、私には貴様のその考えを論破する事は出来ないな……」
理屈で考えれば、同じ背景と同等の知能を持つ者同士は同じ結論にたどり着く。しかし、また戦争をやると言うシャアの話を、
全く反対しないハマーンに納得の行かないジュドーが口を開く。
「そんな!ハマーンは、まだ戦争を肯定するのか?!」
焦るジュドーに彼女は、シャアに見せる冷たい表情を、がらりと崩して柔らかい笑顔で語りだした。
「私は二度と戦争には加担しない、身を守る以上の戦いをするつもりは無いよ。私の事は安心してくれて良いジュドー」
「なら、ハマーンには何も言わない!けれどシャア、あんたには言わせて貰う!何で多くの人を殺し、不幸にする戦争を準備するのだ!
そんな事が許されると思っているのか!」
ジュドーの問いには、シャアでなくハマーンが答えて来た。
「それが、最も人死にを、不幸になる人を少なくする方法だからなのだよ」
ハマーンに言われて、うろたえるジュドーにシャアが説明を付け加える。
「戦争とは、それを求める人達の気持ちが変わるまでは、時を変え、場所を換え、必ず起きるモノなのだよ。
ならばそれをコントロールして少しでも被害を少なくしたい。ハマーンだってそのために仕方なく今回の戦争を指揮したのだよ、ジュドー君!」
「!!……そうなのかハマーン…」
ハマーンは目を瞑ったままで何も答えなかった。シャアが続けた。
「具体的に言わせて貰う!一年戦争以来、怨念に駆られた人間が何万人も、武器と共に宇宙に散らばり戦う時を、怨念を晴らすチャンスを待っている。
その家族や友人知人、それを利用する者、される者、今更他の市民と分離する事など不可能だ、それがコントロールを失ったならどうなる!
テロと海賊行為だけでスペースノイドの生活は壊滅するだろう。無秩序だけは避けねばならん。
デッチアゲでも大儀を持たせ規律と雇用でコントロールしなければならん!そんなモノは軍隊しかないのだよ。汚い事だが、
宇宙で暮らす者の生活を守る為の必要悪だ……。
私が地球圏で平和的な解決方法を探している間、アクシズでハマーンはそれを充分にやってくれた!ならば、今度は私が代わる番なのだよ」
嘗てのネオジオン旗艦を買い取り、数年後に戦争をやる。そう断言する男に何も言い返せないジュドー、頭をフル回転させても思いつかない。
横に座るハマーンも目を瞑ったままで何も言おうとしない。
「でも、でも、戦争なんて絶対だめだ!何か方法が在るはずだよ!」
うろたえるジュドーにシャアが追い討ちをかけるように言う。
「もっと解り安く言おう!私が軍を立ち上げて暗礁空域の残存兵を引き受けなければ君達の住むコロニーとて、そう長くは持つまい。
その者達から侵略を受けるだろう。たった一基のコロニーの為にサイド一つ分の戦力が用意出来るなら話は別だがな……」
ムーンムーンは既に敗残兵達の侵略を受けジュドーも死ぬ思いをした。そして、数十基のコロニーを擁する各サイド駐留軍の戦力規模は戦艦五隻以上、
巡洋艦二十五隻以上、モビルスーツ百機以上、兵士の数はムーンムーンの全人口より多い、シャアは無理を知って言っているのだ。ジュドーは、
まるでシャアに返す言葉を失った。その時、ハマーンが目を開いて晴れやかな顔で言った。
「しかし、まだ最低三年は戦争をしないのだろうシャア?」
「そうだ!戦争の準備期する間だけは皆に平和な時間を提供出来る。その理由だけで、各コロニーや月面都市の商工会議所は、
私の軍に資金を用意してくれるのだよ。安易ではあるが連邦に対する反感を旗印にして荒ぶる者達を、戦争準備と言う目的のもとに縛り付けておける!
五年以上は無理だ!内部崩壊をするからな!」
「貴様の真の目的が、本当にそれだけとは思わん!だが三年は戦争をしないと言う言葉は信じられそうだ。
ならば!その間に貴様が、"ミネバと私を捨て"まで探し求め、見つける事が出来なかったモノを、
今度はその"ミネバと私を拾ってくれた"ジュドーと三人で探す!必ずや見つけ出してシャアの戦争の存在価値を潰して見せる!なぁ!ジュドー!!」
ジュドーと肩を組んで、さらりと、たいへんな事を言い切る彼女に"ほんとにそんな事出来るのかよ"と不安に思いつつもジュドーはハマーンを援護した。
「そうだとも!ブライトさん達だっているんだ!悪い大人を何時までものさばらせてはおかないよ!」
「私は、そのブライト達と共に戦って絶望したのだよ?ジュドー君。確かに彼は良い人間だよ!
だからと言って今更そんな人間が五人、十人と集まったところで体制は変わらんよ!………まあ、良い、この話はこの辺にしておこう。…
…そうだミネバの話を聞かせてもらいたいな、……今、お菓子でも持って来よう。んっ!……ちょっとここで、待っていてくれ 」
ブリッジからの緊急呼び出しを受けたシャアがその場を離れた。
憑き物が落ちたかのように、妙に晴れやかな顔になってニコニコしているハマーンに、ジュドーが問質す。
「あんな事言っちゃって良いのかよ!本気かよ!三年で戦争を止める理屈を見つけるなんてさー」
「ふふっ、私は、私達を見捨てた男に、ジュドーを自慢して見返したかっただけだ、シャアには捨てられたけど、今はこんなに素晴らしい男といると!!」
ハマーンは、ジュドーにもたれかけて、あまえるようにしながら、とても嬉しそうに喋る。ミネバが少し軽蔑した顔で言う。
「ハマーン安っぽいぞ!」
「すまない、しかし、何と思われようが、私の本心なのだ!どうか、嫌いにならないでくれミネバ、ジュドー、ヤツに言いたい事が言えた!
長年の苦しみから今、解放された気がする。………ヤツとて、たいそうな事を言うが、本心は案外くだらん私怨で動いている。私にはそれが解る!
それにジュドーとなら、まんざら不可能とも思えないのだよ、三人が今ここに、こうしていられる!この奇跡を考えれば何でも出来る気がするのだ!」
「そうだよな、理屈ではないよ!人が全力でぶち当たればどんな不幸な未来も書き換えられる。そうハマーンに言ったのは俺だ!
人の可能性を見せて皆の気持ちを対立から和解と協調に変えて行く!それを積み重ねて行けば、大きな戦争も止める事が出来る。
シャアにコロニーは落とさせない!俺達ニュータイプの本当の力を使うところなのかもしれない」
「おまえは、…………普段、理屈は嫌いだとか言いながら………ここぞと言うと本当に良い事を言うな………これからも私を良き方向に導いてくれよ…
……頼むぞ……ジュドー」
「ネオジオンの総帥を導けと言うのかい?」
「元!総帥だ、新しい総帥は今ミネバのお菓子を取りに行っているよ、そっちも、ついでに導いてやるか?ジュドー?」
「でも、あの人えらくカッコ良いじゃないか、あれがハマーンのタイプなのか?」
「フフッ、やきもちか?ジュドー」
「いや!…って事は、俺も人からはあんな感じに見られているのかなーって…さ…」
「それだけは無い!」
ミネバとハマーンが口を揃えて言った。
乙です!
久々にここに来てヨカッター。
私も燃料投下されたカンジ!
続き待ってますー!!
age
246 :
通常の名無しさんの3倍:04/09/23 01:18:37 ID:lQws+E94
ジュドーが下着姿になる話はありますか?
あったとしたら何話ですか?
age
>>246 Hは一度だけ書いたけど、まだ下着姿の描写は書いていません。
今度エルと浮気をするシーンで下着姿を使って見ようと思っています。
ライトシード9/25
その頃、シャアはブリッジで空気漏れ修理の指揮を取っていた。
「これは…………予想以上に酷いな……挨拶代わりにブリッジを打撃とは、ハマーンのヤツ相変わらず無茶をする……やむをえん!
ナナイ!もうじきサイド6だ、中途半端にウオールフィルムを使って作業を増やすな!全員にノーマルスーツを着させろ!
このままで港まで行く、改装工事と並行して修理させる!」
「了解です大佐、でも……何なのですか?あのふざけた女は…」
いきなり戦艦のブリッジに取り付き18箇所も空気漏れ起こす程の"ノック"をしたガンダムの女パイロット、そんな乱暴女が、
シャアをめぐる自分のライバルとなる事は有り得ない、そう考えるナナイだが、シャアはそれを貴賓室に招き、自らお茶まで出している。
彼女の女心は気にしないではいられなかった。それを見透かしてシャアがナナイの耳元でささやく様に言う。
「ずいぶんと昔に捨てた女だよ、私を見つけてヒステリーを起こしていたのさ、今は若い男をたぶらかして悦に入るくだらない女さ、
今の私はナナイだけだ、気になどするな!」
「そっ、そうなのですか大佐、私は別に……」
シャアに、答えるナナイは、真実も何割か含まれるその言葉を信じた。"これだけ悪く言うなら問題なさそう…
"そう考えてライバルの候補からハマーンを除外した。
ジュドーが時間と現在位置を気にし出して言った。
「ハマーン、俺達はそろそろここを出ないとコロニー到着が夜になる!港からの移動がたいへんになるよ。」
「そうだな、しかしシャアのヤツ遅いな……」
そう言って、ハマーンはおもむろに席を立つと貴賓室の裏手、嘗ての自分達の衣裳部屋のドアの前に立った。
暗証番号を打ち込むと重厚な扉が音も無く開いた。ドアを開け中に入り込み、洋服ダンスからミネバや自分の服や下着を選び始めた。
暫くしてジュドーを呼んだ。
「量が多い、ジュドーも手伝ってくれ!」
ミネバも一緒に部屋に入ると、床いっぱいに洋服ダンスから出された衣服が置かれている。
「ハマーン、勝手に持って行って良いのか?」
「自分達の服を持ち帰って何が悪いというのだ?」
「そりゃそうだけどさ……」
「持ちきれないな…」
ハマーンはそう呟くと、カーテンを3枚引きちぎって床に広げた。大きなもの二枚と、小さいもの1枚、それで衣服を包むとジュドーとミネバに持たせ、
自分もひときわ大きな包みを担いで、妙に凛々しく二人に言った。
「さて、引き上げるとするか!」
「これじゃ親子の泥棒だよ!ハマーン、ミネバにまで持たせるなんて……」
「うふふ、私は、こういうの、楽しくおもうぞ!」
「黙って帰る訳では無い、ちゃんと挨拶はして行く」
そう言うとハマーンは、ブリッジと直接通話出来るインターホンでシャアを呼び付けた。ノーマルスーツのままのシャアは、
インターホンに出るなり彼女に苦情を言った。
「誰かさんが"ノック"してくれたお陰でブリッジが大変だよ……」
「ああそうかい!我々はそろそろ引き上げさせてもらう、貴様もあまり無茶をするなよ、シャア……」
「ハマーンにだけは言われたくないな……」
「ガチャ…」
一言だけ言って一方的に受話器を掛けると、ハマーンを先頭にして、手を繋いだジュドーとミネバが後に続いて歩いた。
3人は格納庫のダブルゼータに向かった。
サダラーンのブリッジの天井に出来たヘコミと亀裂のチェック作業の手を休めたシャアは、監視カメラの映像を見る。
大きな包みを担いだ3人の後ろ姿を見て、苦笑せずにはいられなかった。
横に来たナナイが言う。
「酷い女です。まるで海賊じゃないですか!」
「ふふっ、ロンドベルに通報したいくらいだな……」
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「思ったよりサイド6近くまで連れて来られてしまったよ、ハマーン」
「そうだな、今からシャングリラに行くのは大変だな、ジュドー今日はサイド6に泊まろう……」
「係留費高そうだよ……」
「フフッ、心配するな、ジュドー……」
間もなく3人のGフォートレスはサイド6の港に到着した。ジュドーは自分達のシャングリラと比べると港の設備が良い事には関心したが、
その最新設備の分だけ港の係留費を心配した。案の定、係留完了後の港湾事務所での支払いは、彼の持ち合わせでは足りなかった。
書類手続きの途中にハマーンの元に戻ってきたジュドーはガックリとして青ざめて、申し訳無さそうに彼女に言った。
「ハマーンごめん……預けたお金…少し出してくれる?……全長が30メートル越えるから係留費6万4千クレジットだって……給料の半分無くなった………」
シャングリラではチマッターさんや組合に甘えて、毎月の組合費だけ払えば自由に出来たジャンク船の係留や宇宙との行き来も、
出先では一々費用がかかる。普通の社会の普通な厳しさに落ち込むジュドーに、ハマーンが優しく声をかける。
「金の事なら心配するな!これを使ってくれジュドー」
ハマーンが、取り出したハンドバッグを開くとジュドーの年収分くらいの現金が見えた。ジュドーが思わず口走る。
「サダラーンでお金まで盗んだのかハマーン?!」
「馬鹿!人聞きの悪い事を言うなジュドー、これは私の12月分の給料だ、あの部屋の金庫にしまっておいたのだよ、
服だって自分の給料で買ったものばかりだ!」
「そっ、そうだよな!ごめんよ、でも……」
「でも、なんだ?」
「ちょっと……多くない?一か月分の給料にしてはさ……俺の10倍以上はあるよ……」
「まあ、一応……総帥だからな……それより早く払って来い…もう日が暮れる、宿を探さねばならん!」
「分かった!行って来る!」
「ほら!肝心の金を忘れるな!」
ハマーンは港湾管理局の事務所に、係留費を払いに行く幼い恋人の背中を見つめながら、
マネージメントの負担は自分が負う事にしてあげたいと思った。
ホテルの取れたジュドー達は、ロビーでお茶をして寛いでいた。ブレンドコーヒーを飲みながらジュドーがハマーンに言う。
「今頃はシャア達も、サイド6のどこかに到着して休んでいるのだろうか?」
「いや!サダラーンのような規格を外した巨大戦艦の係留作業はとても大変なのだよ、まだブリッジで右往左往して働いているだろさ、ククッ、
僅かながら仕事も増やしてやったしな……」
歪んだ笑みを見せるハマーンにミネバが困った顔をして言う。
「ハマーンはどうしてシャアの事になると、そうも陰険になるのだ?」
「すまないミネバ…私の嫌な部分を見せる…ようするに似た者同士は、いがみ合うと言うヤツだよ…あまり気にしないでくれ…少しずつ直す……」
ジュドーがテーブルに乗り出して二人に言った。
「ハマーン、ミネバ、ホテルのパンフレット見たかい?ほら!ここの部屋風呂ってすげー豪華で広いんだぜ!夕食前に3人で入らないか?」
「うん!私入る!」
歓ぶミネバ、けれどハマーンはビジネスの下見に町へ出たがった。
「私は完全に日が沈む前に少し町を見ておきたいのだ、2人で入ってくれ。ジュドー、夕食後にまた2人で入ろう!」
「そうか?じゃあ今はミネバと二人で入る。夕食まで一時間も無いから道迷うなよな。」
2人は競争するようにして、ホテルの廊下を走って部屋に向かった。カップに残った紅茶を飲み干したハマーンは、ホテルを出ると町を散策した。
落ち着いた気持ちで町並みを見たとき、彼女はサイド3のそれと比べて一年戦争を無傷で乗り切ったサイド6の豊かさと雰囲気の明るさに驚かされた。
コウモリ外交だと戦争に弱腰なサイド6のランク政権を軽蔑していた彼女だったが、サイド3に比べ、市民の顔の明るさの違いを見せ付けられて、
避けられる戦争を避けたサイド6の賢明さを知った。連邦やジオンの宰相がコロコロ変わるのに、
サイド6のランク内閣は一年戦争以来一度も政権を手放していない。
銀行の前を通りかかったとき、奥の現金振込機の前に知った顔を見て、ハマーンの足が止まった。
「あれは、エル・ビアンノ!何故こんな所で振込みなんかしている?あいつはジュドーと同じシャングリラに住んでいる筈、それに、ん!
封筒に入れた現金を幾つも用意して?わざわざサイド6まで来て振り込む必要性とは?………何かある!」
そう睨んだ彼女は町の情報収集のために買った地方紙を広げ気配を消してエルの様子を観察した。
異常に目が良いハマーンはエルの手元を注視すると振り込み先人名を読む事が出来た。
「ビーチャ・オレーグ様、イーノ・アッパーブ様、モンド・アガケ様、ジュドー・アーシタ及びリーナ・アーシタ様?エル・ビアンノ様??
……8万クレジットずつ!!!……」
わざわざサイド6に来て、手数料まで払って自分達に振り込んでいる。勘の鋭いハマーンは、それが何を意味するものなのか一瞬で理解した。
何でも話してくれるジュドーが両親の事になると口ごもる。"何年も会ってない、
仕送りはしてくれる"それだけ言うと、いつも暗い顔になるのでそれ以上聞けなかった。その秘密も今解った。その健気さに胸が締め付けられながら呟く。
ハマーンの目が思わず潤む。
「あいつら全員孤児なのだな……わざわざ他のコロニーまで来て、出稼ぎに出た親が仕送りしているように見せているのだな……
…施設に送られない為に………普通の子供の振りをする為に……みんなで一緒に暮らすために………」
しかし、振込み手続きをするエルには大きな問題が発生していた。シャトルのトラブルでサイド6入港が遅れ時間外の入金になり、
ビーチャやモンドの立替で、ぎりぎりの金額しか持ち合わせないエルは時間外手数料を払うと、
帰りのシャトル代が無くなってしまう切迫した状況に追い込まれていた。
その時エルは、新聞で隠れながらも、感情が高ぶって気配を隠せないハマーンに気が付いた。
エルとてニュータイプと呼ばれる人種、新聞の上にはみ出したピンクの髪の毛を見逃さなかった。
そして満面の作り笑いで銀行を飛び出し擦り寄って借金をせがむ。
「ハマーン!お金貸して!5千クレジット!お願い!」
「ば、馬鹿者!私はそんな名では無い!モンスリーだ!モンスリー・アーシタだ!」
街中で、いきなり本名を呼ばれて、慌てはしたけど、少し辺りを見回してからハマーンはすぐエルに言われた金額を手渡す。
受け取ったエルはすぐに振込機に戻ると手続きを完了させてハマーンの所に戻って礼を言った。
「ありがと!ほんと、助かったわー!モンスリーさん。でもアーシタは無いでしょ、アイツまだ15よ、…ん!……何!アンタ!泣いてんの!まさかジュドーに捨てられたの!」
「な!何を言う!断じて違う!ジュドーならこの先のホテルで、今ミネバと部屋にいる。涙はあくびのせいだ、昨晩ジュドーと仲良くし過ぎてな!ろくに寝て無いのだハハ…」
「いーな、ホテルかー、私一度も泊まった事ないのよー、今日だって帰りのシャトルがもう無いから、港に戻ってシャトルの待合室で毛布かりて寝るのよ……」
「そうか、何故?もっと早くシャングリラを出なかったのだ?朝出れば充分に往復出来るであろう?」
「朝出たのよ!それがふざけた話なのよ!聞いて!」
「ふむ、聞こう!」
2人は町を歩きながら話を始めた。
「3時のコーヒー飲んで、もうじきシャトルがサイド6着こうかって時、デッカイ戦艦、そうよ!元あんたのとこのサダラーンよ!緊急だとか言っちゃって、
凄い勢いでこっちの航路に割り込んで来てさ、港に入ろうとしたまでは良かったんだけれど、
デカ過ぎて入港管理局のボケが誘導誤って入り口に突っかえちゃったのよ。もういくら待ってもビクともしないでしょー、
結局サダラーンから赤いモビルスーツが出てきてさっ、なんか器用な事して外して入港したけど、参ったわ!」
ハマーンはしらばっくれてエルに言った。
「なんでサダラーンがサイド6に?不思議だな!」
「それがさ!そのモビルスーツのパイロットが言うには海賊に襲われてブリッジが酷くやられたからしょうがなく、緊急入港を要請したんだって、」
ドキドキしながらハマーンが言葉を返した。
「でも、戦艦のくせに、モビルスーツの護衛までいて海賊にやられるなんて、その赤いモビルスーツの男が、凄いヘタレなのだよ!間違いない!!」
「で!そいつが演説すんのよ、港で!幸いにも自分の活躍で"衣服と現金を盗まれた"だけですんだとか、いつ皆にも被害が及ぶやも知れないとか、
彼等を憎んではいけない、一番不幸で惨めなのはその海賊達だ、とも言ってたわ!」
「おのれ!シャアめ、許せん!あの時ジュドーが止めに入らねば…くっー!奴にそんな物言いを許すとは!無念だ……」
「ジュドーがどうしたって?」
「いや、何でもない…それより着いたぞ!ここが、そのホテルだ、おまえも泊まって行かないか?」
「へー、いいホテルじゃない!だけど私お金ないし……」
「若い娘が野宿とは可愛そうだ!ジュドーとミネバもいるが一緒に泊まっていくか?宿賃は私が出してやろう!」
「ほんとー、嬉しいわぁ!私ホテル泊まんの初めてなのよ!ジュドーとも久しぶり会えるし、ありがとハマ、いやモンスリーさん!」
エルの予定を狂わせた張本人ハマーンは、こっそりと罪の償いをする事が出来た。しかし、シャアを許すのは、もう少し持とうと思った。
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ホテルのディナーが済んで、四人は部屋でテレビを見ながらのんびりしていた。ニュース番組が始まると、画面には港の入り口に、
巨体を詰まらせ立ち往生するサダラーンが大写しになった。ハマーンがミネバとジュドーに目配せして2人が頷き、
サダラーンの事を内緒にする密約が出来た。初めてのホテル宿泊に上機嫌だったエルだけど、ニュース画面を見るとちょっと不機嫌そうな顔になった。
「あー!コイツよっ!コイツのせいでシャトル遅れたのよ!ほんと迷惑な奴よ、頭まくるわ!全く……まっ、でもお陰でみんなとホテル泊まれて嬉しいけどね!」
「でも、良かったじゃないか、襲われたのエルのシャトルじゃなくてさ!」
「まーね!でもヘンよね、」
「何がさ?」
「だってさー、数ある宇宙戦艦の中で最大最強の船よサダラーンて…しかも搭載してるモビルスーツ、ザクV系の最新試作機よ、
金目当ての海賊がわざわざそんな手強いの狙うなんておかしいわよ」
「連邦がテストの為に船ごと、どっかに運ぶ途中だったんだろ武装していないんだよ、」
「違う!おかしいのよ!メッチャーさん達が武装解除したとこ、全部元に戻されてんのよ、それにファンネル着きのザクVなんてさ、絶対ヘンよ!」
「考え過ぎだよエル…」
「私は、やな感じを受けたのよ!……あの戦艦から!あの赤いモビルスーツから!そしてあのパイロットから!」
「どうしたんだよ!だから気にするなってエル!」
「私の思い違いで有って欲しいのよ……そのパイロットから、終った筈の戦争の匂いがしたわ……そのモビルスーツ、血のように赤かった…………」
ジュドーもハマーンもミネバも思った。エルもとても勘の良いニュータイプなのだ、シャアが新しい戦争の準備を始めた事を感じて苦しんでいるのだと、
けれど、今しばらくは知らなくても良い事まで知らせて、余計に苦しめるのは止めようと3人共思った。
「なあ、エルは初めてのホテル箔なんだろ?」
「そうだけど、何よジュドー?」
「だったらさっ、つまらない憶測でブルーになるなんてバカだぜ?」
「でもー、気になってさー」
「大丈夫だって!戦争になるとしたって3年以上先の話さ!いやずっと先!いや起きないかもしれない!…起こさせない!」
「ナニよ3年って!……」
「なっ、何でも無いよ!今エルがブルーになる必要だけは無い!」
「そーかなージュドー?」
戦争の気配を感じて萎縮したエルの肩を抱き励ますジュドーは大きな声で言った。
「元気出してくれよエル!ハマーンがさ、みんながホテルで楽しむ為のお小遣いをくれたんだ、これを渡す!エルらしく楽しくこの場を盛り上げてくれよ!」
「解ったわ!パーティね、ラウンジに注文しましょ。カクテル3杯とジュース、パフェに軽食、フルーツ盛り合わせ、こんなんで良いかしら?」
「良いけど、飯食った後にそんな食えんのエル?」
「良く言うでしょ甘い者は別腹って!」
ジュドーが了解すると即座にエルが注文の電話をラウンジに入れる。みんなの方に振り返ったエルが言う。
「30分で来るって!…でもこの部屋、景色最高ね、眺め良いわー、最高よね都会って感じで!そうだ、ハマーン!皆でお風呂入らない!お礼にハマーンとジュドーの背中流すよ、ねっねっ一緒にはいろっ!」
「どうするか?ミネバ、ジュドー」
「私はさっき入ったから良い」
「俺はもう一度ろうかな、ここの風呂気に入ったし、」
「じゃ、3人で入ろっ!お背中しますぅ!」
ハマーンとジュドーはエルに押されるようにバスルームに入って行った。エルがミネバにウインクしてミネバもそれを返していたのを2人は知らない。
3人が服を脱いで浴室に入るとガラス屋根の天井にはコロニーの反対側の町の灯や、流れる車のライトが降り注ぐ星空のように輝いた。
「ステキー!ペントハウスじゃない!ここ!」
「……星が降りしきるペントハウスだな!」
「このホテルにして良かったなハマーン!」
3人は体を洗い終わると、並んで湯船に浸かって、景色に見とれた。暫くすると、
ハマーンは湯船を歩いてペントハウスの窓際まで進み左手を腰にあて立つ、
星降るような街の景色見つめている。エルがその後ろ姿を見てジュドーに言う。
「ハマーンってスタイル良いのねー、うらやましいわ」
「ほんと、あの細い体のどこに、あのパワーがあるのだろうかと思うよ」
「でも胸は私の勝ちね」
「でも、子供出来れば大きくなるって言うし…」
「もう……子供が出来るような事した?……」
「そっ、そんな事きくなよ!エル」
「んー……」
「何だよ?人の顔見つめてさー」
「やったな……それも複数回……」
「そんなの、個人の自由だろ……聞くなよ…」
「照れるな!ジュドー、私も今度ビーチャと同棲するんだよ!」
「へー、楽しそうじゃないか、良かったなエル!」
「へへー、家賃も助かるしねー……ねーハマーンどうしたのかな、外を見たまま動かないけどさ……」
「ああ、彼女時々あんな風になるんだ、景色の良い所で目を瞑ってじっとしてるんだ、何かを聴いてるみたいなんだ。」
「なんか、神秘的な感じのする人ね…」
ジュドーがその後ろ姿に声をかける。
「ハマーン、瞑想でもしてるのかい……?」
「空のオルゴールを一人聴いているのだよ」
「ロマンチックな事言うのね、ハマーンは」
そのハマーンが振り向いて歩み寄りながら2人に話し出す。
「今、解った……みんなと私は戦ったのでは無い、……我等は、みんなも私も孤児のニュータイプ……みんなは、闇に囚われた私を、
万難を排して迎えに来てくれたのだよ………ありがとうエル、最後の気がかりを解いてくれた…」
「えっ?!ハマーン…知ってたの私達の秘密?あの振込みで解ったの?……」
ハマーンは湯船に戻ると、ジュドーを後ろから抱き、問うた。
「ジュドー何故なのかな?私の身の上は全て話したのに何故?私には、おまえのそれを言ってはくれないのか?私に同情されるのいやなのかジュドー?」
ハマーンは、自分が8年前に姉を、6年前に父を亡くし天涯孤独の孤児になったことを既にジュドーに話していた。
けれど、ジュドーはハマーンには自分の両親は健在であり、毎月きちんと生活費を仕送りしてくれていると語っていた。
「ごめんよハマーン、そんなつもりじゃないんだ、なんの根拠も無いけど、両親もリィナも諦められないんだ俺、
まだ生きていると信じたい……諦め切れないんだ……もう諦めを着けなければいけない事なのかもしれないけど…
だから……隠すつもりじゃなかったんだ……ごめんよハマーン」
「そうか、そう言うことなのか、辛いことを聞いてすまなかった……私とて、不満を言ったのではない、ジュドーの全てが知りたいだけなのだ……」
「ハマーン……」
「ジュドー……」
「えーとっ、私っ、のぼせちゃったみたい。先に上がります!テレビの音大きくしてミネバちゃんと、ジュースでも飲んでます。ごゆっくりどうぞ!」
場の雰囲気を察したエルが、湯気を撒き風のように速やかに撤退する。そそくさと着替えて上がった。予測の行動でもあった。
「エルっ!…どうしたんだよ?ゆっくりしていけよ!」
「ジュドー、気を使ってくれているのだよ、好意は受けようじゃないか………」
「そうか、そう言うなら………」
「それにしても、おまえは不公平なくらい良い友達をもっているな………私にはあんな友達は一人もいないよ、作る機会も見つけられなかった…
……お前の明るさもあのような友に支えられているのかもしれないな………」
「なら、ハマーンも友達になれば良いよ。あんなので良ければシャングリラにまだ何人かいるから分けてあげるよ………でも不思議だな………」
「どう、不思議なのだ?」
「今、裸のハマーンに抱かれて素敵な気持ちなのに、ベッドでそうするときとは全く別の種類の気持ち良さなんだ」
「どんな気持ちなのか?」
「そう、もう昔の事、よくは思い出せないけど………母に抱かれているようだよ」
「私が年上だからか?」
「俺がまだ乳離れし切らないガキだからじゃないかな?ははっ…」
「なら、私に甘えてもよい」
「もうしてる」
「ジュドー私がさっき一人で聞いた空のオルゴールを今、ジュドーにも聞かせたい………聞いてくれないか?」
「聞きたいなハマーン、聞かせてくれ…」
後ろからジュドーを抱いたままのハマーンは、さっき自分の心に流れた詩を、自分の心が聞いたままを、耳元で歌うようにして彼に聞かせた。
「……優しい目をしたジュドー、私は、あきらめようとしてもあきらめ切れない………………寂しいニュータイプの子供達、ガラスのロープを目隠しで渡り、
玉乗りして…………この気の弱いピエロを迎えに来てくれた…………そして今ジュドーと、優しさ街に降り積もる夜にいる……
……今なら、互いに何でも本当のことが言える気がするね……………………」
「なんか………俺………すごく気持ちよくなってき………ブクブクブク………」
「おい!ジュドー沈むな、湯船で寝るな………」
ジュドーは裸のままハマーンの腕の中で落ちてしまった。早起きしたせいもあるが、彼女の詩を読む声を子守唄にして、
ジュドーは気持ちよく寝てしまった。ハマーンは湯船の中で暫くジュドーを撫でたり、キスしたり、いじってみたりもしたけど、
自分ものぼせて来たので、眠るジュドーをおんぶして風呂を出た。ハマーンは裸のままのジュドーをベッドに置くと丁寧にバスタオルで拭いて、
そのタオルで自分も拭くと、その横に潜り込んで一緒に寝てしまった。
しかたなく夜の宴は、エルとミネバだけでベッドとベッドの谷間でひっそりと行われた。ベッドから何か聞こえる度ビクビクしながらも続けられた。
パフェを食べるミネバが、カクテルを美味しそうに飲むエルに、ムーンムーンの近況などを話して2人は小声で談笑した。
「ふーん、それじゃ、ジュドーとハマーンはラブラブなんだ!良いんじゃない?」
「私は、目のやり場に困る事も少なくない…」
夜も更けてミネバが寝ても、エルは一人でホテルのロビーや廊下をぶらついたり、展望風呂に入ったりしてサイド6のホテルを楽しんだ。
けれど、いざ自分も寝ようとベッドに入ると、シングルベッドに2人で寝るジュドーとハマーンの、僅かな呻きも気になって、なかなか寝着けなかった。
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四人の朝食は外で取る事にした。度々サイド6に来ているエル推薦のカフェ・フェナリナーサのモーニングサービスに決まった。
7時開店にあわせて到着した四人だったが先客が2名いた。その、シャアとナナイにハマーンから挨拶した。
「早いな、シャア腐れ縁かな?」
「お早うハマーン、しかし朝からそんな挨拶はないだろ…」
シャアが"困ったな"と言う顔で挨拶を返す。ミネバ、ジュドーもシャアと同じ気持ちだった。
「ハマーン!朝からケンカはやめて!」
「朝くらい穏やかに行こうよハマーン…」
「何?何なの?!…あっ!この人、サダラーンの人じゃない?!」
ナナイと2人で近くのホテルに宿泊したシャアも、朝食を取りにこのカフェに来ていた。6人は一番大きな丸テーブルを囲んで席に着いた。
間もなく注文を取りに来たおばさんに一同の視線が釘付けになる。桃色の髪、年齢不相応な程に引き締まったスタイル、
顔立ちまでハマーンに似ていた。エルだけがニヤケて呟いた。
「うふふ、この人をみんなに見せたかったのよ」
「あのー、ご注文は、何にいたしましょうか?」
おばさんは注文を取り終えるとそそくさと厨房に戻り、亭主らしいコックに注文を伝えた。暫くするとおばさんでなく、
そのコックが自分で料理を運んできた。コーヒーカップと、ベーコンとスクランブルエッグのお皿を並べる。並べ終わると、
そのコックのおじさんはハマーンに語りかけた。
「修羅場かい?私は女房に似てるあんたを応援するよ!」
「?……………………!」
ハマーンが身に纏ったシャアに対する殺気を勘違いした言葉だった。
彼女はすぐに理解した。
目の前にシャアに甘えるナナイがいる。
横のジュドーを見るとエルやミネバとじゃれて遊んでいる。
まるで子供に見える。
そして呟く。
「なるほど!子供ごと捨てられ、新しい女に男を取られた惨めな私、そんなシュチエーションか?何故シャアはこうも私を苛つかせるのか…
…ここは下手に暴れても惨めな役まわりを演じるだけだな……」
状況を正確に理解したハマーンは即座に殺気を消して、コーヒーに手を伸ばした。ミネバとジュドーも安心して朝食を始めた。
「美味いコーヒーだな………」
「でしょう?大佐…」
「ああ、ナナイが推薦するだけの事は有る」
"大佐"エルはその言葉を聴いてやはりサダラーンのモビルスーツの人だと思った。そして躊躇わず尋ねた。
「あのー、お2人は昨日サダラーンに乗ってサイド6いらした方ですか?」
「ああ、そうだ、シャア・アズナブルと言う。こちらは同僚のナナイ・ミゲル、君はジュドー君達の友達かね?」
「あっ!申し遅れました。私、先日までエゥーゴでパイロットやっていましたエル・ビアンノです。貴方が有名なシャア・アズナブル…
…お噂はかねがねお聞きしています」
「そうか、君のような可愛い娘がパイロットとは思いもよらなかったな、ジュドー君の仲間ならブライト艦長の部隊なのかい?」
「そうです、ところでシャアさんには、どうしてもお伺いしたい事があるんです。」
「何かね?エル君」
「せっかく戦争が終ったのに何故、戦艦なんか手に入れるんです?それに昨日のモビルスーツ新開発の物ですよね?
見た事も無い形のファンネルまで装備してる」
「良く解ったな、気になるのかね?なら、なぜジュドー君達に聞かない?」
「それは……聞く前に私には話したくない気持ちを感じたから…でも気になって」
「そうか、君もニュータイプなんだね?」
「ブライトさん達はそう言うけど……それは良く解らないです」
「いや間違いない、ナナイはどう思うか?」
「私の立場では直感に頼った事は言えません……ただニュータイプ同士が引き合うと言う事と、
今次の戦争を生き抜いた言う事実を考慮するとその可能性は高いと思います」
「そうか、間違い無いな、ならば隠してもしょうがないだろう。そこのハマーンに代わって今度、私がネオジオンの率いる事になったのだ、
だからサダラーンは私の乗艦として手に入れた"連邦から正式"にな!」
「えっ?!…………」
「後はハマーンから聞きたまえ!彼女には全てを話した…半ば了承してさえして貰った!」
ジュドー達がどぎまぎするのを気にせず、シャアはエルに殆ど喋ってしまった。エルがハマーンを睨んだ。ハマーンがエルに詫びた。
「気を悪くさせたなら謝る。エルに余計な心配をかけたくないから話さなかったのだ。他意はない……世の中は複雑なのだ」
「ジュドーも知ってたの?ミネバちゃんまで?」
少し寂しい目をしたエルがジュドーとミネバを見る。2人も謝るがエルは落ち込んだままだった。その、エルに名刺を出したシャアは、
そこに付け入るかのようにネオジオンのモビルスーツパイロットに勧誘する。
「エル君、ネオジオン再建のため私は優秀なパイロットを欲している。ニュータイプともなれば優遇しよう。興味が有るならここに連絡してくれ」
「シャア貴様!」
「あっ!大佐!」
そう叫んだハマーンが椅子を立ち上がるよりも早く、シャアが椅子からもんどり打ってころげた。ジュドーのパンチがシャアの顔面にヒットしていた。
シャアに駆け寄ったナナイが懐の拳銃を手にする。それを止めてシャアが立ち上がって言った。
「いや、君達を試させて貰ったのだ、これくらいの代償は安いものさ……おかげで、はっきりしたよ、君達には一点の曇りもない…
…ハマーンも既にそちら側の人間だ……君等から見れば私達などオールドタイプ同然だな、今後ますます疎遠になって行く事だろう」
「何を言っているか解らないよ?」
「君達はもう戦争などする必要のない進化した人間だと言う事さ、怨念と業に囚われた私達とは違う世界を生きるのさ、
これからは人生のレールも離れて行き、今日のように出会う事さえも無くなって行くだろうさ、」
殴られたのに、妙にすがすがしい顔をして難しい事を言うシャアをハマーン以外は妙な顔つきで見た。
ナナイに手を取られてシャアが立ち去り際に言った。
「……久しぶりに気持ちの良いモノを貰えた……カミーユ君以来かな……嬉しいよ。今日は朝からとても気分が良い。
ハマーンこんな子供達がいるなら、世の中も捨てた物じゃないな、帰って来て良かったよ、強い子に会えて……」
そう言い終わると、シャアはハマーンに一通の封筒を渡してカフェを去った。ジュドーが気味悪そうにハマーンに問いかける。
「俺、あの人の事強く殴り過ぎたかな?……訳解らない事言い出したけど大丈夫かな?」
「大丈夫さ!フフ、返って前よりまともになったんじゃないか?……ジュドーに殴られて、…………ヤツに私の台詞を取られた気持ちでもあるがな…………」
「…………シャアはハマーンに何を渡したんだい?ラブレターか?」
「何かな?いくらなんでも、今更ラブレターは無いだろ…………」
「ん!これは!…………」
それは、シャアの新しいネオジオンの組織の一部門、食料調達部からの農産物の購入契約書だった。
全てハマーン側の有利な内容で商談が進められるよう配慮されたものだった。ワープロ書きで調印済み、
ハマーンが価格を書き込んでサインすればよい状態になっていた。その契約書類数枚の最後に、
手書きのモノが一枚だけ入っていた。それは、シャアの直筆の手紙だった。ハマーンが目を通すと、
今までの事をくどくど彼女に謝罪する文面であり、ハマーンは軽く読み流した。しかし、最後の部分が
彼女の心を鷲掴みにした。手紙の後半に書かれていたのは次の文面だった。
………………………………………………………………………………………………………
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アクシズで出会った頃、思春期を迎えた君が私に心を寄せたのは当然の
成り行きだと言える。ニュータイプの男女が真の意味でオールドタイプの異性に心惹かれる事など
有り得ない。互いに理解し合える相手でなければ恋など出来ない。何百万分の一で授かった
資質を薄めたくない本能も働くと思える。つまり当時アクシズの中の世界しか知らない君にとって
の男性は私だけだったのだから。そして、今の君は実感しているだろう。ニュータイプ同士の恋ほ
ど素晴らしいものはない、全てを共有し分かり合えるのだから、私にも僅かではあったがそんな
幸せな時間が存在した。しかし反面、その相手を失った喪失感と悲しみの深さは地獄だ、一度の
人生で二度もそんな地獄を見て正気を保つ自信を私は持たない、だから私にはニュータイプである
ハマーンの気持ちを受け入れて恋仲になる勇気など無かった。これは我が人生最愛の女性ララァを
失った私シャア・アズナブル経験者の言葉だ、君達も気を付けるのだな、どちらかの死は残った者
に例えようも無い絶望を与え、その生涯を苦しめる事になる。
追伸、もし私にララァとの出会いが無かったのなら、今君の隣にいるのは私だ。
シャアからハマーンに愛を込めて
………………………………………………………………………………………………………
その手紙を食い入るように見つめるハマーン、気なってしょうがないようすのジュドーをエルが茶化す。
「ジュドー!ヤバイよ!かなり強烈なラブレターみたいだよ〜」
心配になったジュドーがハマーンにそれを見せるようにせがむと、ハマーンはジュドーに解らないようにシャアの手紙だけ引き抜いて契約書だけをジュドーに渡した。ハマーンは心の中でジュドーに謝りながら、シャアの手紙の内容の一部を否定した。
「ニュータイプの恋人同士が全てを共有すると言うのは、まだまだ未来の話だよシャア、私は貴方のこの手紙だけはジュドーに見せられないもの……」
gj!
266 :
通常の名無しさんの3倍:04/09/26 14:41:17 ID:bk4ip9oY
揚げ
(・∀・)イイ!!
2chではヘタレ扱いだけどここのシャアは惚れ直した!
>>267 感想どーもです。ハマジュ系では天敵とされろくな扱いがされないシャアですが少し良い奴にしてみました。
そのかわり今書いてるところではアムロをちょっと不幸めに書いています。
シャアとナナイが立ち去って暫くして、エルがコーヒーのお代りを頼むと、奥からコーヒーポットを持ったおじさんが来てジュドーの行為を誉めた。
「君、若いのに中々やるじゃないか!」
「何のことですか?」
「とぼけなくてもいいよ!彼女を捨てた男をぶん殴って慰謝料出させたんだろ!」
「それはおじさんの誤解です!そんな事ではないですよ!」
「隠さなくても良いよ。あの金髪の男が誤りながら封筒を出すの見てしまったよ。いや、すまん!最初は君も彼女の子供の一人だと思った。そしたら亭主なんだろ、見かけじゃ人は解らんな全く!君は漢だ!」
「いやっ!あの男はネオジオンの…………むぎゅ」
余計な事を言いそうになったジュドーの口をエルの手が塞いだ。その後、調子にのってエルはいろいろな事を言った。
「有難う!ジュドー義父さん!嫌な男を追っ払ってくれて!お母さんも、良かったわね。貰った手切れ金で私にお洋服買って!」
「エルいいかげんにしなさい!」
ハマーンも仕方なく話しの調子を合わせた。四人に興味を持った店主がテーブルに着き、座り込んで話して来た。
「でも君も、その若さで奥さんと娘さん2人養って行くのは大変だろう何の商売してるんだい?」
ジュドーが口ごもっていると、エルが機転を効かして商売に繋げる。
「コーヒー豆の行商です。おじさん買って頂けませんか?今月も家計はとても苦しいんです。お母さん!サンプルと価格表出して!」
お母さん呼ばわりに一瞬、躊躇したハマーンだったが気を取り直してカバンからサンプルのコーヒー豆と価格表を出して店主に渡した。
是非とも協力したいと言う店主は、早速その豆でコーヒーを入れるために厨房に行った。ジュドーがエルに言う。
「調子に乗りすぎだよエル!」
「なに言ってんのよ!商売に協力してんでしょ!あんたもまじめにやんなさいよ!」
「そうだエルの言うとおりだぞジュドー、……………………しかしミネバはともかくエルの母親で疑われないのはちょっとな…そんなに老
けて見えるのか私は?……」
複雑な気持ちのハマーンを他所に、笑顔で店主が戻って来た。
「この味と香りでこの値段なら毎週決まった量を買わせて頂くよ!お代りのコーヒーは君達もこれを飲んだら良い」
そう言いながら、店主は皆のカップにコーヒー注ぎながら話を続けた。
「でも、書類みたら原産地ムーンムーンだろ、あそこの豆なら良いのは当然だけど、この値段で儲けは有るのかい?」
「いえ、僕達はムーンムーンから来たんです、直接販売ですから!」
「なら、納得だ!今日20キロくらい貰えるかい?現金で払うから」
「確か、それくらいならGフォートレスのコンテナに有るから…………」
ライトシード10/1
仕方なく寄ったサイド6で朝から2つも商談をまとめ、滑り出し快調のハマーンのビジネスだった。20キロのコーヒー豆の代金を受け取ると丁度、
Gフォートレスの係留費と四人の宿泊費が出た。
ホテルをチェックアウトするとシャングリラに向かうダブルゼータに乗りたいとエルが言った。エルはシャトル代を節約したいからGフォートレスに
乗せろと言い出して来た。ジュドーが諦めるように説得するがエルが聞く耳持たない。
「無理言うなよ!エルだってコアトップの狭さは良く知っているだろ、広めのコアファイターだってハマーンとミネバで満員なんだぞ!」
「なんとかなるもん!一度ルーと地球でコアトップ二人乗りしたことあるモン!!」
「どーする?ハマーン」
「こちらに振るな!二人で決めろ!」
「そんなー……しょうがないな、解ったよエル!やってみよう……」
「ありがとジュドー!その代わり今晩、私の作った夕飯ご馳走するよ!」
結局エルに押し切られ、かなり無理な前後2人乗りGフォートレスはサイド6を後にしてシャングリラに向かう事になった。既に座席に着いて発進を待つ
ハマーンとミネバとは対照的にコアトップの方はもめていた。
「狭すぎて、ノーマルスーツ着てたら2人も入らないよ」
「じゃあ、脱げば良いじゃない」
「そんな!安全義務違反で港湾管理局に怒られるよ!」
「フィルター強めにかけとけば中は見えないよ」
「そうだけどさー、…解ったよ!じゃあエル先乗れよ」
「嫌よ!一時間も女の子の上に乗る気?」
「もうー、勝手ばかり……それなら髪の毛止めといてくれよな、操縦の邪魔だからさ」
「了解!さっあ!……とっとっと乗って行きましょ!」
「何をやっているのか?いい加減に出たらどうだ」
何時まで経っても出発しなのでハマーンがシビレを切らして文句を言う。ジュドーの膝の上にエルが乗ってキャノピーが閉まり、準備が完了する。
ハマーンが先に始動を済ませていたので融合炉は既に臨界に達している。
「ハマーン、ミネバ、待たせた!今出る!…エル?」
「何よ!」
「また、ケツでかくなったんじゃないのか?」
「スケベ!馬鹿!……操縦に専念しなさいよ!」
4人の乗ったGフォートレスがサイド6を飛び立った。ラグランジュポイント5軌道内の一時間あまり移動だった。多くの宇宙船が航行する空域なのであまり
速度を上げるわけにはいかない。航路上はデブリも少なくレーダーが使用出来るのでパイロットの作業量は乏しく、返ってジュドーには辛かった。
唯、エルの下敷きになって我慢するだけの時間が過ぎて行った。エルがジュドーに話しかける。
「ねー、ジュドー」
「何だよ?」
「アーガマに乗るまではさ、私達の間は当分そのまま………しばらくはみんなでジャンク屋のままで、2人が二十歳超えたら私は………………………」
「超えたらなんだよ?」
「ジュドーと一緒になると思ってた!」
「何を言い出すんだよエル!ビーチャと同棲すんだろ!」
「ウフフ、昔そー思ってた。と言うお話よ!」
「でも、まさかジュドーがハマーンとくっ付くとはね、世の中って不思議だわ」
「そうだなエル俺もそう思うよ、ハマーンの事は前から新聞とかニュースで知っていたけど、遠い戦乱の国の指導者って感じで自分とは何の
関係も有り得ない人だった。アーガマに乗ってからも、ああ、あの人の手下達と戦うんだなって、くらいしか思って無かったよ。」
「ジュドーはどうして、アーガマに乗ろうと思ったの?」
「リーナが乗れって言ったからだと思ってたよ」
「"思ってた"って?」
「具体的にはそれだけしか理由がないのさ、だけど今思うと、盗んだトラックの荷台でカミーユと出会った事が関係してる気がする」
「エルはどうして乗ったのさ?」
「私は、ジュドーが乗ったから!」
「えっ?」
「うそ!みんなが乗ったからよ!」
「でも俺は思うんだ!みんな直感したんじゃないかな?それが俺達に必要な体験だって事がさ!」
「そうよね、みんな一年前とは別人のように違うもの、私自身も成長出来たと思うもの、辛い事も多かったけどね………」
「そうだ、リーナ………」
「ジュドー?」
「なんだいエル?」
「ジュドーがリーナの生気を感じるって言ったじゃない?それ、ビーチャも言ってたよ!」
「そうなんだ!同じ行方不明でも両親達のそれとは全然、感じが違うんだ!」
「だったら、本当に生きているのかも知れないよ!ジュドー」
「そろそろ探しに行こうかと思ってる」
「私も手伝うよ」
「ありがとうエル!」
「ウフフ、こうしてくっ付いてるとさっ、ジュドーの吐息や鼓動まで感じられて変な気持ち……」
「エル、あんまり……その…大きなお尻をもぞもぞ動かさないでくれるか?」
「ウフフ、感じちゃった?ジュドー?」
「あのさ!おれビーチャと喧嘩したくないんだよ!」
「良いじゃない!味見くらいさせて貰っても!ずっと目を付けてた男、他人に譲るんだからさ」
「何だよ、味見って?」
「聞き返さないでよ!恥ずかしいじゃない!冗談なんだからー」
それから暫く飛ぶと、二人の故郷シャングリラが見えて来た。コロニーの港を囲むように朱色で書かれた四つの数字の1がジュドーには懐かしかった。
「なんか俺、涙出てきた。」
「大げさね、一年も経ってないでしょ?」
他のコロニーなら入港待ちの宇宙船の渋滞で、これからが時間がかかる。けれど地元のジャンク屋のジュドー達には裏口が有る。即座に、
宇宙船の渋滞をパスする。ジュドーがジャンクの漂うコロニーの隅の方を器用に操縦して、作業用の入り口前にGフォートレスを横着けする。
すると、エルが組合員しか知らない周波数の無線で連絡を取る。顔見知りが出て、下らない挨拶を2、3交わすとハッチが開き始める。
「地元ってほんと、いいよなー!エル!」
「一々感動してんじゃないわよ!早く中に入ろうジュドー」
ジュドーがGフォートレスを組合の駐機場に止めた。
そして、急いで重力下では苦しい姿勢のままの中央コックピットに向かう。
ジュドーはハマーンとミネバが降りるのをエルと手伝う。
降りてきたハマーンが言う。
「エルとは仲良く出来たかジュドー?」
「何の事だよ?」
「いや別に……」
「ミネバちゃんお疲れー」
「ありがとうエル、逆さは怖かったぞ」
「さっ!先ず俺ん家、行こうぜ!一年放りっぱなしだからちょっと怖いけど」
「掃除すればどうという事はあるまい」
エルとジュドーは、作業用ハッチに居た知り合いのエレカを借りて4人でジュドーの家に向かった。走るエレカの上でエルが3人に提案する。
「今日はジュドーの家、一日掃除でしょ、だったらさー、夕食はイーノも呼んでビーチャのアパートで6人でしない?シャトル代浮いたから私奢るよ!」
「そうさせて貰おうよハマーン、ミネバ良いだろ」
「楽しそうだ私は行きたい」
「お願いしよう」
「じゃ決まりね!学校の次の角で下ろして」
ハンドルを握るジュドーが、学校を通り越した所でエレカを停止するとエルが歩道に飛び降りて言った。
「5時になったら家に来てね。それじゃ!」
「楽しみにしてるー、また後でなエル!」
ジュドーの家に着くと、彼は2人が呆然としているのが解った、掃除などした事の無い高貴な2人には申し訳ないと思いつつも今後の事を考えて、
2人に掃除を手伝わせた。
掃除は捗らなかった。慣れない手つきで作業をするハマーンとミネバ、やる気は有っても経験が無い。ジュドーとて掃除は日頃リーナ任せで得意では無い。
効率の悪さを自覚した3人は今日中の完了を早々に諦めた。ジュドーが居間とトイレ、ハマーンとミネバが寝室を受け持って、とりあえずは今晩を衛生的
に泊まれる状態を目指した。3人が掃除に没頭して30分が経とうしたとき電話鳴った。
「もしもし!ああ、ビーチャか……………!?ほんと!リーナが!」
アパートに戻ったエルから、ジュドー達が戻った事を知らされたビーチャが、彼に電話でリーナの情報の知る限りを話した。
「そうか、一ヶ月後か、モンドには済まない事をしたな、入れ違いでムーンムーンか……それじゃ後で行くから……知らせてくれてありがとう」
その日の夕食はモンドを除く全員にハマーンとミネバの6人で賑やかだった。豪華では無くてもみんな美味しく感じられた。その席でジュドー達もビーチャ達も
自分達の新しい商売を語り合った。ビーチャの商売にモンドの名前が出ないのを不思議に思ったジュドーが、それをビーチャ訊ねる。
「モンドはどうするんだ?」
「あー、あいつはコロニーのメンテを仕事にしたいらしいんだ」
「ムーンムーン専属で?」
「いいや!それが意外に志が高いんだよモンドのヤツ!」
イーノがモンドから聞いたと言って皆に説明を始めた。
彼はスペースノイドの生活の苦しさの原因がコロニーの維持管理費の高さに有ると感じた。そして、そのコストの高さがコロニー公社の独占体制に有るとも感じた。
そこで彼は整備不良も甚だしいムーンムーンでコロニー整備を習得して、コロニー整備会社を興し不当に高く設定されたインフラ整備費を下げる圧力になりたいと考えた。
イーノの話が終えるとハマーンがそれを賞賛する意見を述べた。
「ポイントを得た考えだ。コロニー公社の不当な利益こそ諸悪の根源と言える。もともとは安く設定されていた維持管理費が高騰したのには原因がある。」
「どんな原因なんだハマーン?」
「一年戦争の原因とも言われた過酷な宇宙移民費用のローンの事は知っているだろう?」
「知っている。だけど戦争の反省から大幅な減免措置が取られじゃないか」
「それは見掛けだけなのだよ…それらは数回に渡り債権化された…酷い話さ、最初は配当を上げてスペースノイドにばら撒き甘い汁を吸わせた…
後に下げて手放させた…人々の目を欺く為に新たな債権を創作しては、古い債権を法案で無効化する事を繰り返した…債権に債権が設定される事すら有った…
そして最後に一部の地球エリートの手元に集中させてコロニー公社の株となると、コロニーや旧債権に対して新たに債権を設定する事を禁止した上で、
最低売買取引単位を数億クレジットに固定して一般人を締め出してから、連邦の幹部連中にばら撒かれた。つまり地球に居残るエリートはコロニー公社の利益で食ってるのさ!
スペースノイドを搾取する図式の途中経過が変わっただけだなのだ!」
「そうか、だからコロニーの税金や空気代が高いのか!」
「政治家達は何とか出来なかったのかな?ハマーン?」
「その政治家達の資金源だからな……サイド3出身のトービン議員が最初にスペースノイドに債権が配られたとき、そのからくりを予想して民衆がそれを手放さないように
税法などを工夫して画策していたが潰されてしまった。
私も、ネオジオンでそれを何とかしたかった。けれどコロニー公社を追い出して維持費を安くしても結局は、連邦と対立する為の軍事費で国民にはそれ以上の
税金の負担をかけてしまったよ………連邦からサイド3の自治権を認させると同時に消費税率を一時的にではあるが32%にせざるを得なかった」
「3割は酷いな………そう言えば、隕石キケロに潜入したとき、鉱山労働の人からハマーンに対する不満を聞いたな」
「そう言えば、そんな事も有った」
「でも、モンドのヤツそんな連邦幹部のドル箱を潰すような商売したらヤバイ事になるんじゃないか?イーノ?」
「その時は、ブライトさんやジュドー、ハマーンに助けて貰うって言ってたよ、モンドのヤツ!」
「フフッ、計算済みか!良いな!そう言う事なら是非とも役に立ちたいものだ!」
「なんか嬉しそうだなハマーン」
「ジュドー、お前の友達はシャアや私などよりよほど建設的に動く、ならばその手助けがしたい。これは私の罪滅ぼしともなる」
「当分の間はムーンムーンなんだから現状で問題ないんじゃないか?ハマーン」
「何時、状況が変化するかは誰にも解らない!先のことを考えておかなくては危機を乗り切れないし、チャンスも生かせない。我等もモンドの事業に協力しようジュドー」
「分かった、それがハマーンの希望なら、そうしよう。ムーンムーンには明日早速に戻るよ」
「何だよ、ジュドー2,3日はシャングリラにゆっくりして行くんじゃ無かったのかよ!急ぐ必要あるのかよ!」
「モンドが向こうにいるのに、俺達だけここで遊んでられないよ!ビーチャ」
「そうか……」
「今後は商売でちょくちょく来るからさ、俺の家を事務所代わりにするしさ!」
夕食が済んで食後のお茶も飲み終わると、ジュドー達もイーノも自分の住処へと戻って行った。キッチンで食器をかたづけるエルに
ビーチャがコーヒーを飲みながら話す。
「ハマーンも必死だよな……何かしないと自分が幸せなのが怖いんだろうな……」
「私もそう思うよ、きっとそうよ、それで……サイド6で新しいネオジオンの総帥ともめたらしいのよ……」
「何だって?!まだネオジオンが生き残っているのか?!」
「3年くらい先に連邦と、……と言うよりはアースノイドと戦争しようとしているらしいそうよ…ハマーンは、その前に新しいネオジオン
の総帥を戦争しないように説得したいんだって……今回は理屈で負けちゃったらしいけど……」
「本当に?!そいつ本気なのか!?」
「私見たもの!その人、サダラーンを手に入れて、ファンネル付きの新型モビルスーツまで開発していたわ!冗談であそこまで
出来ないわよ!間違いなく本気よ!」
エルはビーチャにこの事実を伝えるのを躊躇わなかった。今朝、この事をジュドーに隠されたのを辛く感じたからだった。
同棲し始めの甘い雰囲気に影を落とす事になっても、それはしょうがない事だと思った。
ビーチャはいきなり大変な事を聞かされて、飲んでいたコーヒーを少し吹いた。ネオジオン復活の事実と、密かに戦争の
準備が進んでいる事を聞かされ、鼓動が激しくなり、手が振るえる。手にしたカップが危機を告げるベルの様に鳴った。
シャングリラからムーンムーンに向かうGフォートレスの中、ミネバが寝息を立てると、ジュドーがハマーンに訊いた。
「やっぱり、シャアの事はブライトさんに知らせるべきなのだろうか?」
「それは、即答出来ない。暫く考える時間をくれ」
「ハマーンは、ブライトさんでも信用出来ないのか?」
「ブライトは信用出来る。しかし連邦と言う組織は信用出来ない。彼は連邦の下で働いている。」
「そうだな……」
「それにジュドー、三年と言う時間も曲者だよ、それだけ時間が有ると事態はどう変化するか解ったモノじゃない。」
「どう言う事?」
「時間が経てば正義の所在も変わる……良くある事だよ」
「んー?良く解らないよ」
「ブライトが指揮する事になったロンドベル隊がいつまでも信頼に足るモノとは限らない、時間が経てばティターンズの様に豹変するとも限らないと言う事だよ。」
「ブライトさんに限ってそれは、有り得ないよ。」
「どうかな!スペースノイドを語って大きなテロが引き起こされ、連邦高官の大半の意見がスペースノイドに敵対的になれば一夜で変わると思うぞ!
その場合はブライトが失脚させられ可能性も有る!」
「そうだな、戦争したい人達ならわざとテロを自演するかもしれない……」
「旧世紀から有る古典的な手法だよ、そうなったら我々はシャアの味方になって連邦と戦わねばならなくなる!また、逆の可能性も有る!」
「逆って、どう言う?」
「シャアがネオジオン内で殺されたり失脚したりして、嘗てのザビ家のようにスペースノイドを封建的な手法で支配しようとする可能性も有る。そうなれば、
さっきの逆になる。我々はブライト達と組んでネオジオンと戦わなければならなくなる。………だが………こちらを私はあまり心配してはいない、
フフ、奴はしぶといからな!」
「なるほどな……ブライトさんに言うのは少し待とう。でもハマーン、シャアに対するトゲが感じられなくなったな!もう許したのか?」
「まあ、奴も反省してるようだしな!何より、これからはビジネスの上得意だ粗末には出来んよ」
「でも、一昨日は凄い剣幕だったじゃないか、ハイメガ粒子砲でサダラーンごと沈めようとしていたくせに……」
「……あの時は済まなかった……湧き上る怒りに我を忘れていた……」
「そんなに酷いことをされたのかい?捨てられたとか言ってたけど……」
「私に、アクシズとミネバを押し付けておいて逃げたのだよ、つまりは捨てたのだよアイツは…」
「そこまでは、聞いたけどシャアとは何も無かったわけだろ、俗に言う男が女を捨てたと言うのとは違う気がするけどな」
「確かにシャアは言葉でそれを私に言ってはいないし、口付けさえ交わしていない、しかしシャアはその意思を私に感じさせた。
ニュータイプ同士ならそれを、捨てたと言っても良いだろ?私とて、奴が私を受け入れ、共にアクシズを背負う決意を受け取ったからこそ、
総帥就任の話を受けたのに、それなのに私の総帥就任後、間もなくして奴は姿をくらませた。何が奴を、シャアを心変わりさせたのかな…………?」
「……解ったあ!!」
「いきなり大きな声を出すな、ミネバが起きる……で!何が解ったのだ?」
「ハマーンと一緒にいるとさ!あの人のやる事が無いんだよ!」
「それは無い!アクシズは何時も人手不足だった……」
「そうじゃないよ、あの人のやりたい仕事を、全部ハマーンが取るって事だよ!」
「そうか……それは有ったかもしれない……」
「きっとその当時、ハマーンの方が全然勘が冴えていてシャアのやる事なす事全て先回りしていたんじゃないのかな?」
「ジュドーは……鋭いな……思い当たる節が有り過ぎて耳が痛いよ………」
「俺が鋭いのじゃ無くて、ハマーンが少しそう言う所に、気使いが不足していたんじゃないか?」
「酷い事を言う……が、そうかも知れん……」
「だってあの人、何でも自分が仕切りたそうなタイプの人だもの……それに、ファンネルも原因の一つだと思うよ!
…あの赤い新型モビルスーツだけどさ……」
ハマーンは今まで心の奥に隠していた、自分も薄々気が付いていた、シャアへの自分側の落ち度をジュドーに少しずつ指摘され、
内心ビクつきながらも、彼と会話する毎に、心の薄闇に放置されていた部分が整理されて軽くなって行くのを感じた。
悪い気はしなかったので心を開いて話を続けた。
「……やはり、ジュドーも解ったか?…」
「……シャアはあれだけのピンチでもファンネルを動かせなかった、使えないんだよ!ファンネル……」
「そうだ、あの時、奴は必死でファンネルを動かそうとしていた……アクシズでもそうだった…今現在もトレーニング中と言うところだろう」
「フフッ、なるほど、やはりな!アクシズでシャアと居たとき"年上のプライド"考えないでファンネルの使い方とかを
パルタ教育しようとしたんだろハマーン!模擬戦でシャアのことボコボコにしまくったとかさ……」
「ギク!ああ、……当りだよ…ジュドー…でも…ジュドー?…お前も"年上のプライド"を考えながら指摘してくれないかな………」
「あっ!ごめんよ、でもハマーン、シャアもさ、きっと辛かったんだよ!赤い彗星とまで呼ばれていた人がさ、自分より年下の女の子が
ファンネルなんて最強の無線誘導兵器をビシビシ使いこなすのに自分が使えない……」
「私は、あの時必死だったのだ、ファンネルの有効性を知って……それをシャアも使えれば奴が戦場で死ぬ確立が下がると、姉も死に、
父も死に、また一人ぼっちにされる恐怖から………遅々として操作を覚えないシャアに酷い事を言った心当りが有る……」
「つまりだ!当初シャアはアクシズをハマーンと一緒に治める気だった。
でもハマーンと方向性が全く同じでニュータイプ能力で負けたので、自分のアクシズでの政治的、戦略的な参謀としての存在価値が下がった。
誇りにしていたモビルスーツ戦闘能力でも新兵器ファンネルが使えなくて、ハマーンに勝てなかった。
シャアを買被るハマーンは彼の気持ちを解ろうとしない。ファンネルの特訓で年上のプライド踏みにじるような"しごき?虐め?"をして嫌われた!
これだよ!」
「お前は容赦と言うモノを知らんのか?…私が…あまりに…酷い奴じゃないのか?……ジュドー……」
「えっ?だって!」
「そこまで……言うのか?……ジュドー?……これこそ虐めでは無いのか?」
「あっ!ごめん…言い過ぎちゃったかな?」
「そこまで言われて、私がゴメンの一言で許せると思うのか?」
「怒ってる?」
「……………………」
「ごめんよ、返事してよ……」
「そんなに私を悪く言うなら!シャアの所に行かせて貰う!詫びて仲直りする!」
そう言うと、目を潤ませたハマーンはGフォートレスをダブルゼータ変形させて操縦権を奪い、進路を変えた。ジュドーはお詫びの言葉の限りを尽くして、
29回目のお詫びと、その為には何でもするからとの約束で、やっと許して貰えた。
「…よりを戻すなんて言わないでくれよな、俺にはハマーンしかいないんだからさ……愛してる!ハマーン!」
「なら、ジュドー、私を虐めた代償を、一つ受けてくれ!」
「解った!言ってよ」
「帰ったら私がジュドーにファンネルを特訓する。シャアの時を反省して優しく教えるから必ず習得してくれ……それで許す」
「解った……」
「ファンネルはこれからの戦いで益々重要性を帯びてくる。危険な場所にパイロットごと本体が侵入するなど愚かだよ、ファンネルに任せるべきだ。
私はジュドーに無事でいて欲しいから言うのだ」
「でも、あんまり教え方が厳しいと俺も誰かさんのように逃げるかもよ…」
「それは絶対に許さん!!シャアは約束を違えたが、私に手を出していない。しかしジュドーは私を………」
「うわ!そんなに怖い顔しないでよ!ハマーン……冗談だから……」
「その時は、宇宙の果てまで追って……ジュドーを殺して私も死ぬ……」
「!!…………逃げたりなんかしない!…………しないよ…………」
「フッ、そんなに怯えた顔をするな!ジュドー……冗談だよ?……」
「目が怖いままだよ、ハマーン……解ったよ、ファンネルも覚えるから」
"冗談だよ?"と笑う彼女の目が悲しいほどに真剣なので、この手の台詞は二度と言わない事に決めた。ジュドーはきっとハマーンは、
シャアにも同じような恫喝をしただろうと思った。彼女は自分の事となると意外と不器用で、どうして良いか解らなくなるのではないかと思った。
そして、ファンネルを本気で駆使したキュベレイの異次元の強さを見知るジュドーは、これからもモビルスーツに乗るのならそれを
身に付けなければならないとも感じていた。ジュドーは、その習得にシャアより恵まれていた。ファンネルの使い方を習うのに
彼女より優れた教師は宇宙にいない、今現実にファンネルを使えるのは宇宙にハマーン一人なのだ。
ジュドーはハマーンの心に芽生えた、"そろそろシャアへの拘りにケリを付けたい気持ち"に答えて彼女が伝えて来たことを状況整理してあげただけなのに、
それを虐めたと言われた。でもそれが、まだ素直になり切れない"ハマーンの照れ隠し"である事も理解していた。ファンネルの特訓では少し虐められてあげようと思った。
職人さんGJ!
ハマーンかわいい・・・
癖になってしまって止まりません。ダラダラと長いですが面白いところも
有ると思いますのでお暇な方、読んでやって下さい。
ライトシード10/08
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ムーンムーンに着いたジュドー達はダブルゼータのままコロニーに侵入して、神殿の敷
地の定位置に止めた。変わらぬ風景を確認すると、ハマーンとミネバは買出しした日用品
と"取り戻した"衣服を部屋に運び込んだ。ジュドー、モンド、サラサ、ロオルの4人は既に
ロビーで雑談を始めていた。久しぶりに見るモンドは気持ち頼りがいが有った。
「モンド!ほんとに助かるよ、ミネバとモビルスーツで外壁調査したらさ、あまりの酷さに途
方に暮れてたんだよ」
「気にすんなよジュドー、俺の勉強の為にコロニー修理させてもらうんだから!」
「ジュドーお疲れ、入れ違えだったな!リーナのこと、聞いたか?」
「ああ、モンド!ビーチャから聞いたよ、直感は前から有ったけど事実と分かって嬉しい……」
「良かったですねジュドーさん、妹さんがご無事で……でも、どうなさるんですか?もしこち
らでの生活がご希望でしたらご遠慮なく……」
「ありがとうサラサ、でもリーナは学校があるからシャングリラを離れられないんだ」
「じゃあ、リーナ一人暮らしさせるのか?」
「いや、俺とハマーンは当分の間ムーンムーンとシャングリラを往復する二重生活だよ、
居ないときを、エルやイーノにもお願いしようと思ってる」
「なるほどな、………ところで、商売は順調か?」
「ハマーンが大きな契約を一つ取ったよ!モンド」
「稼げそうなら、早速にも必要な資材を発注したいんだけどな、ジュドー」
「経費のやりくりはハマーンと相談してくれるか?今来るから…」
「みなさんには、ほんとうにお世話になります。宜しく頼みます。」
ミネバに午後のおやつを与え、部屋から戻ったハマーンがジュドーの隣に座ると会議の
様なものが始まった。ロオルが少し暗い表情で話の口火を切った。
「以前メッチャーさんに言われたムーンムーン近海の治安の悪化が、とうとう現実の物と
なりました。先日、野菜の集荷に来たルオ商会の輸送船が港を出て50キロほどで海賊
の襲撃に遭遇したのです。モビルスーツ2機が護衛についていたのですが、1機が大破、
もう1機も行動不能になり、積荷が奪われました。幸い怪我人はモビルスーツの
イロット1名が軽傷を負っただけで済みましたが………」
「早速、始まったか……メッチャーさんが言ったとおりになったな……」
「何時ですかそれは?ロオルさん……」
「ジュドーさん達が出て行って直ぐ……モンドさんが来る少し前でした。」
「と、言う事は………」
「行動を読まれていた?」
「そうだな、こちらの動きを監視している者がいたのだろう…」
「今後は3人の内誰かが必ずムーンムーンに残る様にしないといけないな…」
「なら、ジュドー、ブライトさんが置いて行ってくれたネモ一台、俺にくれるか?」
「ああ、良いけど交代でダブルゼータ使ってくれて良いよ!」
「あれ乗りづらいし、調整を一々戻すの面倒だから遠慮する」
「でも、戦闘力もかなり違うけど良いのか?」
「知らないのか?ネモの装甲ってガンダリウム合金なんだぜ!キュベレイと違ってγタイプ
じゃないけどさ、新型のジムVよりコストかかってんだぜ!ジムは廉価版で装甲だって唯の
チタンだし、ネモの方がジェネレータだって出力高いし軽いし、俺ネモ好きなんだよ……」
「まあ、良いよ!好きなの使ってくれ、俺マニアじゃないから良く解らないよ、モンド」
「じゃあさ、早速ネモ一号機の方、俺専用にカスタムして良いかな!」
「良いよ、部品も工具も倉庫にあるから好きにやってくれ!」
「ジュドー、モンド、おもちゃの事は後で2人で決めてくれるか!」
「ごめんよハマーン、そうする」
「サラサ、大口の農産物の売り先が決まったのだが価格はこの位で……」
「そんなに儲けて良いものなのでしょうか?ハマーンさん……」
「良いのではないかサラサ?これは相場だ、手間のかかる農法を考慮すれば安いと言える。
それに相手は新生ネオジオンだ、金が余れば武器を買うだけだ……」
4人の話し合いはその後2時間程続いた。新型レーザー通信機が設置されて、それで一日
に二度ロンドベルと定時連絡する事を決めたり、コロニー修理の優先箇所を決めたり、
警備のローテーションを決めたりした。自分専用のモビルスーツが手に入ったモンドは上の空
でネモのカスタマイズプランで頭がいっぱいだった。終るとモンドがまっ先に席を立って皆に言った。
「俺、ちょっと倉庫行ってネモいじって来る。」
「まあ、待てよモンド、もう晩飯だよ」
「そうか?じゃあ飯食った後にするよ」
「あの倉庫、電気ないから夜は作業出来ないよ」
「モビルスーツで発電すれば問題ないだろジュドー?」
「ムーンムーンは皆早く寝るから迷惑だよ、明日にしようぜ?俺も手伝うから」
「そうか…そうだな……今晩は改造計画でも練るか…カラーリングとか……」少し残念そうにする
モンドにサラサが微笑みながら声をかける。
「モンドさん、ほんとに機械が好きなんですね!」
「へへ、趣味なんですよー」
「すいませんがモンドさん、夕飯の支度、手伝って頂けますか?」
「ハイ、喜んでサラサさん!」
「俺も手伝うよ、サラサさん!」そうジュドーが手伝いを申し出たとき、階段の上からハマーンが声
をかけて来た。「ジュドー!!サダラーンから持ってきた洋服の整理を手伝ってくれないか!」
振り返ったジュドーにサラサが言う。
「ジュドーさんはハマーンさんの方に行って上げて下さい。こちらはモンドさんがいれば大丈夫です。
一時間ほどで食事になりますので降りてきて下さい」
それを聞いてジュドーは「そうですか、それじゃ俺は上行くね」とサラサに告げ、階段を駆け上がり
ながら言った。「ハマーン!今、行く!」
駆け上がった階段の上から、楽しそうにサラサの手伝いをしているモンドを見てハマーンの意図
を理解したジュドーがハマーンに言う。
「ああ、俺はお邪魔な訳ね!ハマーンも中々気配りするじゃないの!」
「ん?知らんな……私はお前が着られそうな礼服が有るので合わせたいだけだ!」
そう言ってとぼけるハマーンにジュドーが呟く「フフッ、素直じゃないんだから」
一夜明けて朝、5人の朝食は賑やかだった。皆が談笑するなか朝食も終わりの頃、
モンドが皆に意見を求めた。
「海賊の脅威が身近になって悪化した治安の中、このコロニーを守る俺達、事実上
のコロニー防衛隊に名前を付けたいと思うのだけど、どうだろうか?」
「ほう?面白いなモンド……お前と、ジュドー、そして私、3人だけの防衛隊の名前か……」
「ハマーン!私も入れて!」
「ミネバ?!」
ミネバの申し出に一同困惑した。そして、誰もミネバを入れるのは反対だったが、
自分にも何か役目が欲しいと真剣に懇願するミネバに屈して、武器を使う事はさせない
後方の仕事と言う条件着きで参加をさせる事にした。ここに4人だけの軍隊、
ムームーン防衛隊が結成された。モンドが話を元に戻した。
「で名前は何にする?」
「えっ?ムーンムーン防衛隊で良いんじゃないの?」
「そうだ、名称は変に凝らないほうが良い!」
「そうか?じゃあ略称は?」
「略称って?」
「ほら、エゥーゴなら、A.E.U.G地球連邦ならE.F.S.Fとか」
「それなら悩みようが無いM.D.Fだ」
「それじゃ電話端子盤だよ!4文字にしてよ」
「ならM.S.D.Fになるが?…ムーンムーン&スペース、ディフェンス、フォースの略だが…………」
「良いんじゃない、そんな所でさ?」
「じゃあ、俺達4人だけの守備隊M.S.D.Fの結成を祝って紅茶で乾杯しようか!」
「その前に!………乾杯の前に皆に言っておきたい!」
「なんだよ?ハマーン、改まってさ…」
立ち上がったハマーンは一歩引いて、皆の注目を集めて演説を始めた。
「皆に言っておきたいのだ!説教じみた事だが聞いて欲しい。……多少と言えども今から我々は、
武器を持って戦う組織を結成した。今から我々は、人を殺し殺される、怪我を負わし負わされる、
その可能性を背負った。軍隊など最も早くこの世から無くなって欲しい組織を、その必要性から
やむをえず結成したのた。そこで、この組織の最重要方針を2つだけ、人としては当たり前の
事を改めて述べさせて貰いたい。
その二点とは、出来うる限りを尽くして人を殺さない、傷付けない。そして、何を差し置いても
自分が死なない!当たり前の事と思うだろうが皆、この二点だけは常に最優先して任務に
ついて欲しい。以上だ!乾杯!」
皆が、ハマーンの音頭でティーカップを掲げ乾杯した。モンドが感動して言う。
「さすがだな、ハマーン……俺、マシュマーとかの気持ち解った気がするよ!」
「まあ、一軍を率いていた人だからな……でも内心は嫌そうだよハマーン……」
「そうなのか?」
「ああ、凄く嫌そうだよ……分かるよ……」
その後、形ばかりの編成会議が開かれた。ハマーンは嫌がったが一番頭が良くて
経験者の彼女が隊長に任命された。補給部隊員がミネバ、戦闘員AB がジュドー、
モンドに決定された。編成会議を終えると戦闘員2名は倉庫にモビルスーツの整備に、
隊長と補給部隊員は洗濯に出かけた。
倉庫に入ったジュドー達は早速ネモ一号機を引っ張り出して来て整備を始めた。
「なあ、ジュドー」
「なんだ、モンド」
「ハマーンはなんで俺に、あんなに協力的なんだ?お前が頼んでくれたのか?」
「逆だよ、ハマーンから俺に頼んで来たんだよ!モンドに協力したいって……」
「何故?」
「モンドの志の高さと、目の付け所の良さが気に入ったらしい」
「イーノから聞いたのか?」
「そうなんだ、それとハマーンは戦争の罪滅ぼしをしたいんだよ。その為に出来る事の中で
モンドの選んだ仕事に一番の魅力を感じるらしいんだ!」
「ハマーンみたいな天才にそんなこと言われると、なんか照れるな」
「生活の苦しさが戦争の原因だと分かっていても意外に、それと直接取り組む人は少ないからな、
手っ取り早く戦争を選び勝ちだもの………」
「戦争だけはもう嫌だよ……そう考えてたらこの結論に辿り着いたんだ!」
「ラサラさんか………」
「うっ……うう………」
「あっゴメン…………」
ラサラの名を出されてモンドが涙目になる。慌ててジュドーが話を逸らす。
「なあモンド、昨日夕飯の支度の時さ、ちょっと思ったんだけどサラサさんと何気に良い感じじゃない?」
「やめてくれよぅー」
「照れるなよ、モンド!向こうも満更じゃ無さそうだよ」
「そうかな……でも…」
「でも何?」
「俺、サラサ嫌いじゃないし一緒に居るだけで凄く幸せなんだけど………」
「なら良いじゃないか」
「でも、逆に辛くなるときも有るんだ」
「何故さ?」
「ラサラと似すぎだよ!サラサ!」
「そりゃそうだよ!双子の姉妹だもん」
「俺、もう3回くらいサラサのことラサラって呼んじゃったもの……」
「そうか……それでその時、彼女の反応は?」
「ラサラそっくり表情と声で"はい、モンドさん"って答えるんだよ!」
「…………それはちょっと、辛いなぁ」
ジュドーとモンドはネモの調整が済むとモンドが昨晩寝ないで考えたモンドのパーソナ
ルカラーの黄色と黒にネモの機体を塗った。
「これじゃ工事現場の重機だよ…あまりカッコ良くない…塗り直さないか?」
「俺は気に入ってるからこれで良い!トラみたいでカッコ良いと思うけどな……」
その後、2人は2機のネモで港にメガライダーを取りに行った。サラミス連絡艇の前で
ネモを止めるとモンドは連絡艇の操縦室に入った。モンドの操作で連絡艇が浮き上が
りその機体の下部に有る格納庫の扉が開いた。モンドが操縦室からジュドーに語りかける。
「ジュドー!メガライダーは、でか過ぎて、前後に分割してあるんだ。ネモで運び出してくれよ!」
「了解した!もうちょっと連絡艇の高度取ってくれ!」
「こんなもんでっ!………どうか?」
ジュドーは連絡艇の下に潜り込むと素早くメガライダーの前部分を取り出し、続いて
後ろ部分を取り出して港の床に並べた。ネモに戻ったモンドがアストナージから貰った
マニュアルを見ながらジュドーに指示すると、メガライダーは2機のネモによる作業で
簡単に組み上がった。組み上がったメガライダーに2人が乗り込むと、モンドは
自慢げに新しい装備をジュドーに説明した。
「ジュドー達の使用を考慮してさ、アストナージさんが随分と新しい装備を追加してくれたんだぜ!」
「新兵器かい?」
「いや、武器はミノフスキー粒子発生装置の追加くらい、そのままだよ………」
「あれー!なるほど、これは素晴らしいな……」
「だろ!ベッドもキッチンも大型化、多人数対応になってるしシャワーまで付いたよ。
昨日みたいにダブルゼータ3人乗りでコロニー往復するんじゃ大変だろ、これからは
コイツかサラミスの連絡艇を使えばいい」
「これなら長距離飛行でもハマーンとミネバに辛い思いさせないで済むよ…
アストナージさん達に感謝しないといけないな……」
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ある日の午後、数日前に神殿の地下にジュドーとモンドが設置したレーザー通信機が、初めて大きなニュースをムーンムーンに伝えてきた。
ブライトはリーナが一週間後に退院する事を知らせて来たのだ。定時通信でそれを聞いたサラサは、
皆との夕食のときにジュドーに話した。歓びの表情を見せるジュドーとは対照的にハマーンの表情が暗く沈んだ。
「すまなかった……私がジュドーの妹を撃つなんて……すまない……」
「それは、もう気にしないでくれよ、ハマーン……」
「…………………………」
すぐさま、ミネバがその場の空気を変える様に明るい声でジュドーに語りかける。
「それで、ジュドーは何時迎えに行くのか?」
ハマーンの暗い表情に引き込まれていたジュドーがハッとして答える。
「いや、ブライトさんの知り合いが月まで送って来てくれるって言うから……」
ミネバが少し怒った声でジュドーに言う。
「人任せは良くない!ジュドーが地球まで迎えに行くべきだ!」
ジュドーは困り顔で答える。
「そんな!月やコロニーならともかく、地上と往復できる乗り物なんてここには無いよ、
地球行きのシャトルなんて申請してから搭乗まで何ヶ月も待たされるし……」
「私がジュドーの妹なら、兄が迎えに来てくれたらとても嬉しく思う。ハマーンと
一緒に地球まで迎えに行くべきだとおもうぞ!」
ジュドーはミネバの思いやりを理解した。それは自分や妹に向けられただけでは無く、リーナ銃撃を心の底から悔み苦しむ
ハマーンにも向けられたものだった。ミネバの高貴な血を
、思慮深い思いやりを感じた。しかし現実問題として大気圏突入はダブルゼータや
キュベレイでは不可能だった。ジュドーがミネバに言う。
「そりゃー、俺だって迎えに行きたいよ、ミネバ!でも手段が無いんだよ……」
その時、モンドが大きな声で叫んだ。
「分かったー!!そう言うことだったのか!さすがブライトさん!」
「な、なんだよ!モンドいきなり大声出すなよ!」
みんなが、驚いてモンドを見つめる中、モンドが嬉しそうに話し始める。
「あるよ!ジュドー大気圏突入出来る奴が!その為にわざわざあんな船!俺によこしたのか、さすがだよなー、ブライトさんは!」
「えっ?今度のメガライダーはそんな改造までされたのかモンド?」
「違うよ、サラミス連絡艇だよジュドー」
「あれって唯のデッカイ連絡用の宇宙船じゃないのか?それにさ、凄い古い型式だよ?モンド?」
「ジュドーお前ってほんとメカは操縦するだけなんだな!」
「お前みたいなマニアと一緒にするなよ!それより説明してくれモンド」
「あのリフティングボディーと底面の耐熱材の理由を考えろよ!地球と宇宙を結ぶ連絡船なんだよ!あれはさ!」
「あっ!そうか、なるほどな……」
以前から、大型ランチにしては変な形をしている宇宙船だとは感じていたジュドーだったが、
サラミスの艦底にへばりつく為だろうくらいで深くは考えなかった。さらにモンドが付け加えるように言う。
「戦艦マゼランや、サラミスタイプ巡洋艦みたいな大気圏突入能力を持たない連邦の艦船には標準的な装備なんだろうな
ジュドー!ハマーンとリーナを迎えに行って来いよ!留守は俺が預かる!」
「行くべきだジュドー!ハマーンも連れて行ってあげて!」
「私も、そうして欲しいです……ジュドーさん」
「モンド、ミネバ、サラサ、有難う!そうさせて貰うよ!ハマーン、一緒に地球に行ってくれるかい?…………」
ジュドーの誘いにハマーンは黙って頷いた。
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翌日、ジュドーとモンドは格納庫で油まみれになって地球に降りるサラミス連絡艇の整備をしていた。
「地球に行くとなると、けっこうやる事イッパイあるもんだな!モンド!」
「ほんと!でもレーザー通信機、新しくしといて良かった!アストナージさんに教えて貰わなかったらやばかった。
ジュドー達、大気圏脱出が出来ないとこだった!」
モンドがジュドーに、意外な地表との往復におけるトラブルを伝える。
「ペイロードに大気圏脱出用のブースターを積んで地球に降りて、帰りはそれで上がってくれば良いと単純に考えてたけどさ、
肝心な事を忘れてたよジュドー!」
「なにさ?」
「地球の重力下じゃ、人力やプチモビルスーツじゃその作業が出来無いよ!」
「そうか、それは気が付かなかったな!」
「スペースノイドが良くやるミスだそうだ。アストナージに言われた」
「連絡艇のペイロードの巨大ブースターの横にネモを積めば良いのか……」
「いいや!ジュドー、ネモじゃ重量オーバーなんだ、もっと軽い奴じゃないと駄目だ」
「じゃあハマーンのキュベレイか………」
「いや、それがさ、キュベレイって見かけの割りに重いんだよ、総帥の体を守るために重装甲に作り上げたんだろうな!
ジオン技術者はさ、ガンダリウムγなんて最新の素材のくせに装甲薄くしてないんだよ……ダブルゼータより一割近く重いんだぜ!
意外かも知れないけど…ここにあるモビルスーツの中ではダブルゼータが一番軽いんだよ!」
「フフッ、乗り手と……ハマーンと同じだな、彼女も見かけより重いんだぜ、骨太だし筋肉質だしスタイル良いけどすげー頑丈でさ、
装甲が厚いとこも似てたりして………どうした?モンド?………えっ?後ろ?」ジュドーの後ろに大きな鞄を持ったハマーンが立っていた。
「誰の、面の皮が厚いと言うのだ?ジュドー」
「げっ!ハマーン!ど、どうしたの?…こんな所にさ?」
「今、ブライトから連絡が有った、地球に降りる許可が出た。コードナンバーはSLV105だ。ダカール近くの軍の空港が使えるそうだ。
それを伝えに来た。整備の方は捗っているのか?無駄話が多いいようだが……」
「ああ、だいたい終った。午後には立てるよハマーン、旅支度は良いのか?」
「ジュドーの分もここに持って来た、積み込んでおいてくれるか?」
「分かった!やっとく」
「ジュドー、ダブルゼータも積んでくのか?」
「帰りに大気圏脱出用ブースター取り付けるのに必要だろ?地方空港の設備なんて分かんないし、病院までの足も必要だし」
「なるほど、コアファイターは垂直離着陸機だから、街中でも行けそうだな……」
「だろ?」
それから数時間後、2人の乗る連絡艇はムーンムーンを後にした。リーナの待つ地球、ダカルールへと向かった。
ジュドー達は、旧式の連絡艇の性能を考慮して一番ジャンクの少ない暗礁空域の遠回り安全コースを選んだ。
地球から見て外宇宙側になるジャンクの一番薄い層を抜け、暗礁空域を大きく迂回して地球に向かうコースである。
10時間近く余計に時間がかかるが、安全で有ると同時にジャンクの層を抜けた後は自動操縦に出来るので
パイロットの負担が少ないコースとも言えた。自動操縦に切り替わり緊張から開放されたジュドーに、
ハマーンがミルクとサンドイッチを差し入れして話しかける。その目は潤んでいたが無重力ゆえ涙が落ちることは無かった。
「ジュドーは昼を、まだ食べてないのだろう?」
「ああ、忘れていたよ、ありがとう」
「……………………………」
「えっ!何?何で?泣いているの ハマーン?」
「どうして?皆はこうも私に優しいのか?気を使うのか?」
「それは、ハマーンのほんとの気持ちを理解し始めたからだよ。それに出来る限りの償いをしようとする気持ちも知っている!」
「リーナも私を許してくれるだろうか?」
「当たり前だろ!…いや!俺の妹だからな!許すも何も、怪我が治ったらそんな事はもう忘れているよ!」
「ありがとう、ジュドー」
「急に泣かないでくれよな、ハマーン、俺が驚くから………」
「すまない……久しぶりにジュドーと宇宙で2人きりになったら……ちょっとセンチメンタルになったらしい」
「大気圏突入まで丸一日、2人だけでいられるね、ハマーン……」
「何が言いたいのだジュドー?」
「分かっているくせに……」
「ん?言って貰わねばわからんよ……」
顔を近付けて答えを求める彼女に、ジュドーは言葉で無く愛撫で応える。
「こういう事さ!」
「ん!よせ!」
「よさない!」
「……………………………………」
終って、裸のまま放心状態で無重力の船室に漂うハマーンの体、その右足の親指をジュドーが引っ張る。小さくフラットな声で彼女が言う。
「んーん!ジュドー少し休ませてくれ……次は……少し休んでからにしよう………」
「そうじゃないよ、あれ見てよ!外だよ!」
「ジュドーは疲れと言うモノを知らんのか?何だと言うのだ……」
ダルそうに動き出して窓の外を見たハマーンは近くに浮いていたジュドーのシャツを掴み取り胸を隠し、
彼が指し示す方角を見た。それを見つけたハマーンはジュドー以上に興奮した。肉眼では小さな点にしか過ぎない"それ"だったが、
何であるかすぐさま理解した。モニターで倍率を上げて確認すると思ったとおりだった。ハマーンが呟く。
「モウサ……なんでこんな空域に来ている……」
「爆発でここまで流されて来たんだろうな、凄い爆発だったからさ、でもあれほどの爆発なのに全然形が変わってないよ」
「居住区を掘った私だから分かる。モウサは鉱山隕石の中でも特に硬く頑丈なのだよ。ニッケルと鉄の合金の塊なのだから……」
「なんで、ハマーンはそんなに懐かしそうな目をするんだ?アクシズやモウサには辛い思い出ばかりなのだろう?」
「私はあれを掘るのに人生の一割もの時間を捧げたのだ………思い出深いのだよ、過酷な労働の日々だった。事故で仲間も多く失った。
しかし内紛や戦争のことを考えたらはるかに充実した日々だった。まさに建設的な日々だった。仲間のために、
住む場所を作る事だけを考えて行動すれば良かったのだから……」
「そう言えばニールから聞いたよ、ハマーンは2年間をかけてガザAやガザBで何百万トンもモウサを掘ったんだって?」
「そうなのだジュドー、だからモウサは私にとって特別な場所なのだよ、それに!何より、お前と初めて出会ったのも、モウサではないか!
そして心が結ばれたのも……」
そう言ったきり、モニターを黙って見つめるハマーンにジュドーが閃きを語る。
「さっき計算したんだけど、モウサどこに行くと思う?」
「もったいぶるな、何処なのだ?」
「ゆっくりと暗礁空域に進んで10ヶ月から1年以内にはムーンムーンの近く、なんと!500キロから1000キロの間を通過する!
暗礁空域に突入すると細かい衝突で進路と速度が変わるから大雑把な数字だけどね!ハマーン!!」
「何故?そんな事をそんなにもはしゃぐように言うのだ?」
「だからさ、ムーンムーンに近付いて来たら俺、ハマーンのモウサ捕まえてやるよ!
そしたら何年かかるか分からないけど2人で再建してさ……モウサに住まないか?」
「!!……………………………………」
「いらない?やっぱりムーンムーンの方が良い? 」
それは、諦めていたと言うより思いも寄らない。自らの心の泉の奥底に深く沈みこんで、
自分では取り出せない大事な思い。それを深く潜って見つけ出して来てくれたかのようなジュドーの申し出だった。
誘われたハマーンは感激して言葉が出なかった。
「私の無意識まで読むのかジュドーは……」
「えっ!なに?」
裸のまま抱き着いて来たハマーンは激しくジュドーを求めた。
2人は大気圏突入まで間、ノーマルスーツも服も着ないで過ごした。
揚げ
ライトシード10/10
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「お兄さん達が降りて来るのは、今日の昼過ぎになるそうよリーナ」
「楽しみなんですけど……セイラさん……」
「……あの…ハマーンも一緒なのよね………」
「そう……でも、お兄ちゃんが選んだ人だから大丈夫だと思うけど…ちょっと怖い気持ちは有るの………」
「そうね、確かめて見る必要は有るわ……以前にはこのダカールさえも武力で支配占拠した人ですものね……
リーナの怪我だって彼女の手によるものだし……」
「それは、もう良いんです!それよりお兄ちゃんとはどんな関係なのかなって…それだけなんです」
「どう言うこと?」
「お兄ちゃんがハマーンさんの、子分とか、手下みたいになっていたら嫌だなって……」
「フフ、かなりやり手みたいだものね!ハマーンって」
「やっぱり!セイラさんもそう思いますか?!もしそんなだったらどうしよう……」
「冗談よ!大丈夫よ!それは無いわ!ブライトもあの2人は良い組み合わせだと言っていたわ、安心して大丈夫よ、リーナ!」
「そうよね!お兄ちゃんが誰かの言いなりになんてなる訳ないわ!」
明日の退院を控えた病室で談笑するリーナとセイラ、それと同時刻に噂のジュドーとハマーンは無事に大気圏突入を果した。
ブライトが申請してくれた大気圏に突入ルートは、数ヶ月前のアーガマと同じコースだった。高度が1万メートルを切ったとき、
真下を見るとアフリカ大陸と大西洋が、陸地と海が半分ずつ見えた。ジュドーは少し前の出来事を思い出していた。
「あの辺がタマン達の岬かな?アヌと仲良くやっているだろうか?……あの時はプルも元気だったんだよな………」
そう呟き終わると同時に地上からの無線が入った。
「………こちら連邦軍ダカール管制局……SLV105聞こえるか?……こちら連邦軍ダカール管制局………」
ハマーンが無線に応答する。
「こちらSLV105受信した!誘導頼む!」
「ジュドー、通信が回復した。ミノフスキー粒子も殆ど無い!」
ジュドーの感傷を打ち消すかのように、連邦軍管理下のダカール空港からの無線通信と誘導電波が入る。
たまにミノフスキー粒子の層が有るらしく雑音が入るが通信内容や誘導に障害が出る事は無かった。
ハマーンが着陸シーケンスに誘導電波を掴ませると後はオートに切り替わった。
「なんだ、連邦軍ダカール空港なんて言うからどんな立派な空港かと思ったら何にも無いじゃないか!」
それは、着陸直後のジュドーの素直な感想だった。元々近くの軍民両用空港にくらべ軍専用の小さめの空港であったし、
先のエゥーゴとネオジオンの戦闘で設備の殆どを潰され、現在も舗装は施されて無く、粘土質の地面を平らに均しただけの滑走路だった。
建造物も無く旧式の巨大陸上戦艦ビッグトレーが管制業務を勤めていた。設備はそれだけで、
戦力もビックトレーと同じくらい古いフライマンタ戦闘爆撃機3機とディシュ偵察機が1機有るだけだった。モビルスーツは配備されて無かった。
今次戦争のエースの訪問に、暇を持て余した基地司令自ら直にジュドー達を迎えた。
「ようこそ!連邦軍ダカール基地司令のコーネル大佐だ、歓迎するよジュドー君、そちらが例の……」
「モンスリーと申します。宜しく!」
ハマーンは堂々と基地司令に対峙し、自から握手を求めた。
基地司令は以前ネオジオンがこの地、ダカールで開いた晩餐会でハマーンを見ていた。返ってその時の冷徹なイメージが、
今の明るいハマーンを別人と確信させた。
司令から病院が近いと聞いて、ダブルゼータを出さず基地のジープを借りた2人は司令のお茶の誘いを断りリーナの待つ病院に向かった。
何処から出したのかサングラスをかけ、桃色の髪を熱いアフリカの風になびかせ、颯爽とジープのハンドルを握るハマーン、
そのカッコよさに見とれてから、ジュドーは思い出したような文句を言う。
「ハマーンは大胆過ぎるよ!基地司令と自分から握手するなんて!」
「フフッ、返ってコソコソするより分からぬものさ!」
「それにしても、寂しい空港だったね、何も無い……」
「モビルスーツを持ってきて正解だったなジュドー」
「でも、機体を保持するトレーラーも無かった、あれではブースター装着方法が無いよ」
「頭を使えジュドー、そう言うときは海上でやるんだよ!」
「なるほど浮力を使うのか、さすが!ハマーン、頭いい!」
「見えて来たぞ!あの建物じゃないのか?」
「……ダカール市民病院……間違いない!そこの302号室だよ」
ジュドー達が病院のロビーで受付をしていると金髪の美しい女性が迎えてくれた。
嘗てブライト達と一緒に一年戦争を戦った女性パイロット、アムロに次ぐニュータイプ能力を持つと言われるセイラ・マスだった。
でもジュドーが一番気になったのはハマーンと同じその髪型の方だった。見詰めるジュドーにセイラが歩寄って声をかけた。
「貴方がリーナのお兄さん、ジュドー君ね!」ブライトからセイラの事を聞いていたジュドーはすぐにその人物が誰か分った。
「セイラ・マスさんですね………貴方がリーナを救出してくれた方ですね?………」
「私は、医療ボランティアのテントに運ばれて来たリーナの治療を担当しただけです……救出したのは私ではありません」
「そんな事よりも早く、こちらへ……」
セイラは何より先にリーナと会うようにジュドーに進める。ジュドーもそれに従い、ハマーンとセイラは部屋の外で待つことにした。
部屋に入ると懐かしい笑顔がジュドーを迎えた。ジュドーはリーナが横になるベッドの脇に座って話始めようとするが胸が詰まって声が出ない。
見詰めるだけで何も言わない兄に妹が先に口を開いた。
「お兄ちゃん、何か雰囲気変わったわね!凄く大人になったみたいよ、何か有ったの?」
「そんなたいした事じゃないよ!それよりリーナが元気そうで良かった。怪我の方はどうだ?」
「順調よ!予定通り明後日には退院よ!セイラさんにお礼言ってくれた?」
「後でちゃんと言っとく!それよりリーナに知らせておきたい事が有るんだ…」
「ハマーンさんの事でしょ?」
「やっぱり聞いてた?ブライトさんから聞いたのか?」
「うん!とても素晴らしい事だと思うよ、凄い仲直りだもの、お兄ちゃん!……
…私はもう気にしてないから!ハマーンさんにもその事はお兄ちゃんから伝えて……貴方の妹になりますって…」
「ありがとう、リーナ…」
病室では兄妹が感激の対面をしている。部屋の外では女同士の微妙な雰囲気の微妙な会話が繰り広げられていた。
「貴方がハマーン・カーン………本物のようね。」
「そうだ、皆の温情により生き長らえている」
「………もう、野心はないようね」
「怨念に囚われたモノは無い」
「まだなにか、考えているのですか?」
「今はジュドーと共に生きる事が私の望む全てだ………少しずつでも罪滅ぼしはして行きたいと思っている」
「そうですか……もう"宇宙一危険な女"と言うのはお辞めになられたようですね?」
「つまらぬ"道化"はもうしない」
「それなら、リーナを引き渡せそうね…」
「もう、私の"取調べ"は終わりかな?」
「フフッ、そうね、取りあえず白と言う事にしておいてあげるわ、ハマーンさん」
それは、セイラの義務感故のハマーンに対する"審問"だった。いくら信頼するブライトが認めているとは言え、
目の前にいる元ネオジオン総帥に黙ってリーナを渡すのは無責任と感じたからだ。ハマーンもそれはしょうがない事と認め素直に答えたのだった。
ハマーンは直接セイラを見たのは初めてだったが顔は知っていた。
シャアのペンダントの写真を盗み見て恋人と勘違いしたとき、その嫉妬から強烈に瞼に焼き付いているのだった。その顔を前にして呟いた。
「セイラ…貴方が…ダイクンの娘?シャアの妹?アルテイシア様?本物か?」
「よくご存知ね…その通りよ!」
ハマーンはセイラに聞きたい事がいろいろ有った。特にシャアの事を聞こうと思ったがハマーンが興味本位の質問をどれにするか選ぶより先に
セイラは次の質問をハマーンにぶつけてきた。「ハマーンさんは、ネオジオンのトップだったのでご存知と思い、お伺いします!
兄の、シャアアズナブルの消息をご存知ないでしょうか?!」
「それは………」
「知っているんですね?」
「今ここでは話せない、少し待ってくれ……知っているとだけ言っておく、セイラには多分話せると思う」
「兄は、生きているのですか?怪我などはしていないのですか?」
「そうだな……行動的すぎるくらいかな……」
「そう……と言うことは戦いの準備を始めたのですね……シャアは……」
「いや!そのっ……」
「隠しても無駄ですよハマーンさん、実の妹なのですから……」
セイラの言葉に、ハッとして口を閉じたハマーンだが、鈍くは無いセイラはハマーンの漏らした一言のボヤキで全て理解してしまった。
セイラは少し悲しそうな目でハマーンに頼んだ。
「私も宇宙に上がります。一緒にブライトの所まで連れて行って下さい」
ジュドーの妹の名前は「リーナ」じゃなくて「リィナ」だった希ガス・・・些細な事ですが
なにはともあれGJ!
>>295 ご指摘有難うございます。今後とも、お気付きの箇所など有りましたら是非お知らせ下さい。
では続きです。
ライトシード10/11
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明後日の退院まで、ジュドーとハマーンはダカール市内のセイラが長期滞在するホテルに泊まる事にした。
面会時間が終わり、5時で病院を追い出された3人はダカールの町に出て食事をした。少し贅沢な夕食を奢り、
勘定はリィナの件のお礼にジュドーが払うつもりだった。帰り際、ジュドーが支払いの為にレジに行くとトラブル
になった。ジュドーが出した連邦銀行発行の新札での支払いを偽札と疑いレストランのマネージャーが拒否
したのだ。憤慨するジュドーが抗議する。
「ダカールは連邦議会の有る所だろ!なんで連邦の中心部で、なんで連邦のお金が使えないんだよ!」
マネジャーが食い下がった。
「実は最近ダカールでは偽札が横行しているのです。それはアルファベットのMから始まるモノにとても
偽札が多いいのです。貴方の出した札は全てM以降のアルファベットのモノばかりだ!手元の札も全て
M以降じゃないか!」
手元の札の番号を見て呆然とするジュドーを見てマネージャーは思った。「これでコイツがカードを持って
無ければ罠に嵌められる」上目使いにジュドーを見ながら尋ねた。
「カードは持って無いのか?」
「カードなんて持って無いよ!」
ジュドーのその言葉を確認してマネージャーは嫌な笑みを浮かべて言葉使いまで一変させた。
「警察に行くか?スペースノイド!だいたいガキの癖にいい女を2人も侍らせやがって気に入らねーんだよ!
こんな高級な店に来てんじゃねーよ!そうだな、一発ぶん殴らせれば警察はカンベンしてやってもいいぜ!」
「あんた!これが偽札じゃ無かったらどうする気だ!」不当な扱いに憤慨したジュドーが叫ぶと、さらに嫌な
顔になったマネージャーは悪意の篭った言葉を吐いた。
「警察にもスペースノイド嫌いはたくさんいる事を知らないようだな……連れの女まで酷い目に遭うぜ、フフ……」
「なんだと!!コイツ!……………」ジュドーは襲い掛かる悪意に怒りで対抗していた。心が怒りでいっぱいになった。
リミットは超えていたが何故か殴りかかる事は出来なかった。何も言い返せなかった。恐怖は感じないのに"何か"が、
ジュドーをその男を"言葉"でも"腕力"でも攻撃させる事を引き止めた。"怒り"の感情だけはぶつけていた。
ジュドーはどうして良い分からなくなって動けなかった。異変を感じたハマーンとセイラがレジに駆けつけた。
ジュドーから話しを聞き様子を見たハマーンは一瞬でその全てを理解して何の抗議もしなかった。
逆にマネージャーにはジュドーで無く自分が殴られるとさえ言い出した。その目はとても悲しそうで
ジュドーはさらに混乱した。騒然としたレジの3人にセイラが割って入ってマネージャーにカードを差し出して言った。
「支払いはこれでお願いします。不服は無い筈よ!」セイラの写真入りで大手クレジット会社の、
やたらと限度額の高そうなカードだった。セイラがそのマネージャーを見詰め、ハマーンが金貨のチップまで出すと
「これでの支払いを拒否すれば後でカード会社ともめるからしょうがない」と捨て台詞を吐いてマネージャーは
渋々と引き下がった。
ジープに戻った3人には気まずい沈黙が訪れた。こんな時は最初に口を開く人間の責任が重い、
分かっていても今それをしなければいけないのはジュドーだった。きっかけはジュドーだったし、
訳が分からないが一番傷ついているのはハマーンだったからだ。ジュドーが覚悟を決めて口を開いた。
「なんでハマーンはあんな事を言ったんだ?なんであんな言いがかりでハマーンが殴
られる必要があると言うんだ?なんであんな奴にチップまで払うんだ!」
ハマーンは、何も答えられなかった。かなり動揺していて何回か気をとり直しては
ジュドーに何かを言おうとしたが、その度に躊躇して喋れなかった。見かねたセイラが
ハマーンの気持ちを代弁した。
「さっきのはね、地球の人達がスペースノイドに嫌がらせする時の古典的な手法なのよ。
もちろんジュドー君のお札は全部本物よ!でも地球に来る前に受け取った銀行は
サイド1か6の銀行でしょう?」
「サイド1のシャングリラ銀行だけど?」
「なら、全部MかNの筈よ!確かめてみて!」
「あっ!ほんとだMが8枚、Nが26枚だよ!なんで?」
「少し広範囲に商売をする人には常識なんだけど、発行場所がアルファベットで
特定できるようになっているのよ、サイド7がYZって訳なの……」
「ふーん、それは分かった!MからZで始まる新札ばかり持ってたらスペースノイド
だと解るってんだろっ!だからって!俺達がスペースノイドだって分かったからって、
何でそこまでして嫌がらせする理由が有るのさ?ハマーンまでこんなに悲しませるなんて許せないよ!」
ふて腐れた態度のジュドーが頑固になっているのに怒りを感じたセイラは
少し厳しく嫌な現実を突き付けた。
「その理由は個人個人で違うでしょうね、例えとしてさっきのレストランの男の人だけど、
私は医者だから解るのよ、左目は義眼だったわ、それに右足は義足ね……
……宇宙から降りて来た人達の起こした戦いに巻き込まれたのかも知れないわね…
…仕返しをしたくても体が不自由では兵隊にもなれないしケンカをしても勝てない
…それが原因で異性も諦めているかもしれない……だからお金で縛ってから殴って
憂さを晴らしているのかも知れないわね?さっきの人に全てあてはまるかまでは解らないけど
…私の見た患者だけでもそんな人は大勢いるわ!貴方はガンダムでミサイルやビームを
何発このダカールに撃ち込んだのかしら?もしかしたらあの人は、貴方が過去に
ここでした事を感じて無意識に仕返して来たのかも知れないわね……」
「ハマーンはそれを一瞬で全部理解してあんな事を言ったのか?!………」
「そうよ!それなのに貴方はあの男の気持ちどころか、大切な筈のハマーンの
気持ちすら解らなかった、解ろうともしなかったわ!」
「俺………あの男の…悪意がやり場のない悲しみから来るのは解ったんだ…
だけど頭にきたらそれ以上何も解らなくなった…自分でも心を閉じたのは解っていた…
命の危険も感じなかったし唯、怒りに任せても良いと思った…今から考えると申し訳ないと思う……」
エゥーゴとネオジオンが戦ったのだから、自分にも半分の責任がある。
ハマーンは見た瞬間で気が付いたのに、セイラに言ってもらうまで気が付かなかった。
やっと気付かされ落ち込むジュドーが申し訳無さそうな顔をしても尚、
セイラの怒りはまだジュドーに向かっていた。そこまで解っていて、
こんなにもニュータイプの素養を持つくせに、意固地な思いから能力を封じるような軟弱者は許せない。
ジュドーの頬を張って修正したい衝動に駆られる。そんなセイラの少し暴力的な言葉による修正だった。
セイラはまだジュドーに言い足りなかった。
「普通の人達なら気が付かなかったで済む事かも知れない!だけど貴方はね……」
セイラがそこまで言い掛けたときハマーンがそれを止めた。
「気持ちは有難いが、もう止めてくれないかセイラ?」
「何故?これくらい直ぐに理解してくれるジュドーでなければ困るのは貴方達よ?」
「ジュドーは優れた素養を持つがまだ15なのだ……それに男なのだ……」
「男だからどうだと言うの?ハマーン?能力有る者には責任も有るのよ!その事には年齢も性別もないわ!」
「ニュータイプでも男と女では大きく違うのだ」
「私には解らないわ……」
「私はセイラが今ジュドーに言ったのと同じようなことを嘗てシャアに言った事があった」
「兄さんに?」
「そうだ……アクシズで私には簡単に先読み出来た事をシャアは気が付かない事が有った。今ならそれが男女差であると解るが、
当時の私はそれが許せなくて随分とシャアを責めたのだ…」
「兄さんを責めたの?」
「そう、今のセイラがジュドーを責めたように……」
「それで兄さんは貴方の元を去ったと言うの?」
「多分そうだ……今セイラがジュドーに言ったのはまるで、シャアに私がした仕打ちを、
その妹のセイラが私のジュドーに仕返ししているかのように思えたのだ」
「まさか!」
「ジュドーには少しずつ真っ直ぐに成長して欲しいのだ!それまでは強すぎる怨念は全て私が受け止めたいのだ」
「まるで母親じゃないの!」
「ニュータイプは素養だけいくら有っても……………」
「環境ね…………」
「それにはニュータイプを理解した人間が………」
「俺、なんか今日は疲れた…ハマーン、セイラさんも続きは宿でしたらどうだ?」
話しが逸れて女2人のニュータイプ議論は白熱した。セイラはニュータイプの男についてどうしても知りたい事が有ったのだった。
ジュドーが話の腰を折って続きはホテルで行われた。
「ジュドーにはゆっくり成長して欲しいのだ、性急になって責めないでやって欲しい……
今日のように複雑にねじれた悪意は私が受け止めてから少しずつ教えてやりたい……歪ませたくないのだ!」
「兄は歪んでいると言うのね?」
「そうだ!」
「酷い事をはっきり言うのね、ハマーンは……でもそれは境遇のせいよ!仕方が無かったのよ!……私は兄の歪んだ考えを正したい……」
「少し、私にも責任があるかもしれん……」
「それは…違うわね…全て幼い時の問題よ!」
「ジンバ・ラルか……………………………」
「あれは洗脳よ、幼子に国を盗られた王子だ!ジオンを取り返せと毎日、口癖のように言うなんて……」
「それと…地球での逃亡生活だろう?アースノイド達と何か遭ったな……」
「全て知っているのね………それなら、もし兄が暴走したら……それを止めるの…手伝って頂けます?」
「ジュドーと私は既にその心算だよ……」
「さすがね……そんな相手がいるなんて、貴方が羨ましいわ……私なんか……」
「だが、それは詳しくは言えんが3年以上は先の話だ…今、自分を追い詰めるのはよせ!」
「そのときは、お願いするわね。私は独りでも、いいえ刺し違えてでも兄を止めたいのよ…」
「2人にも……少しはジュドーとリィナを見習って欲しいものだな…」
「そうね、対照的なほど健全よね……それでも私は兄を愛しているのよ……」
「それでか!……セイラには男はいないのだろう?」
「それは……その……関係ないでしょ!」
「私の経験では…………怒りっぽくなるぞ……」
「余計なお世話よ!…それより、ニュータイプの男と女の特性の違い、良く聞かせて貰いたいものね…」
「はっきり言って男は鈍いのだよ…進歩も遅い…だが良いところもあるのだ、だから……」
「ニュータイプは女性がリードしなければいけないと言うの?」
「そうしないと余りに効率が悪いのだよ…………」
「実を言うとね、頼りになりそうな男性ニュータイプの知り合いが一人いるのよ……」
「フフ、なるほどな……」
「でも、ジュドー君と違って内気で暗い性格なの…………」
「セイラは、その男を誑かしたいと……………」
「そう、経験者のハマーンの意…………」
「それには先ず何より…………」
「そんな!淫…………」
「………」
だんだん意識が遠くなり聞こえなくなった……ジュドーは途中までは2人の話を聞いていたが、
だんだんと眠くなり寝てしまった。ハマーンとセイラは徹夜で議論した。
翌日の病院からの帰り道、ジープが床屋の前まで来た時ジュドーが髪を切りたいと言い出してハマーンがジープを止めた。100パーセント空調のある宇宙生活者のジュドーにはアフリカの暑さが堪えたのだった。
「髪の毛なら先週、私が散髪してやったばかりではないか?」
「この暑さのせいもあると思うけど、もっうちょっと短くしたいんだ俺 そう言えばハマーンは何時髪切ってるの?切るとこ見ないけど……」
「私はアクシズ以来、髪を切っていない」
「えっ!?ハマーン髪伸びないの?」
「そんな訳ないだろ!この髪型は髪を一年切らなくても外見は変わらないと言う便利な髪型なのだよ!セイラも…その理由でこの髪型にしているのだろ?」
「そうね、無重力でもまとまり具合が良いし、私は小さいときからこの髪型だけど……」
「うそー2人共!ほんとは凄い高い美容室とか行ってるとかじゃないの?」
「馬鹿を言うな!髪を洗ってくれたときにおまえが確認しただろうが…肩までだったのが胸までになったと…」
「あっそうか!最初は湯船に触れる程度の髪だったのが最近は何センチもお湯に浸かるもんな!」
驚いたセイラが会話に割り込む「貴方達、一緒にお風呂入ってるの?ジュドー君はハマーンの髪を洗ってるの?」
目を丸くして尋ねるセイラになんの屈託もなくジュドーが答える。
「毎日じゃないけどね!その後ハマーンも洗ってくれるんだ!いろんなとこ!」
「えっ?えっ?……」セイラが思考停止状態になると、真っ赤になったハマーンはパーキングブレーキを固定して
エンジンを止めた「私も髪を切りたくなった!セイラには済まないが買い物か食事でもしていてくれ!」そう言って
ジュドーの耳を引っ張りながらジープを降りた。
「また、支払いで揉めるといけないわ!これを使って!貴方達のサインで使えるようにしてあるから…」
ハマーンはセイラの差し出したクレジットカードを受け取ると床屋の中に消えて行った。
セイラは一人取り残された助手席で少し考え込んでから「アムロもジュドー君の半分でも明るさと積極性を持ってくれたら…」
そう呟いてから喫茶店を見つけて2人の散髪が終わるのを待った。
「ジュドー!2人で風呂に入る事を人に言ってはダメだと言っただろう!」
「そうだっけ?まあいいじゃないか、セイラは人に言触らしたりしないよ!」
「それはそうだが……まあ良い、私もそろそろ髪の量的にヘルメットがキツイ、一緒に刈って貰おうか?」
「そうしようぜ!2人出来るか聞いてみる!」
「おじさん!2人なんだけど今すぐ出来る!?」
ジュドーが大きな声で尋ねると、年配のおじさんとその息子らしい人が出てきた。
すぐ出来ると言うので2人は散髪をお願いする事にした。シャンプーが済んで軽いマッサージが終る。
散髪が始まると2人は猛烈な睡魔に襲われた。薄れ行く意識の中でハマーンは最後の気力を振り絞って
散髪のリクエストだけは言った。言ったつもりだった。
「ストレートにしたとき、肩にかかるくらいでカットして………グー…スー…」
「お客さん!お客さん!まだ寝ないで下さいよ!その後は?」
「カットしたらスタイルは元に戻してくれ……うーん、もう寝て良いか?」
「カットは分かりました あとヘアカラーなんか如何ですか?プラチナゴールドのカラーなんか似合うと思いますよ!
この前病院で見たんですけどね、お客さんと同じ髪型で凄い美人でカッコ良かったですよー」
「ん?…プラチナ?ゴールド?カードなら?これでお願いする……グーグー」
「はいっ?あ!私の見た人とそっくりだな!この写真のとおりにすれば良い訳ね…
…耳を隠して金髪に染めて、スタイルは概ねそのままですね!」
「…よろしく頼む…グースースー……」
ハマーンは間違ったリクエストに気が付かないまま寝てしまった。
ジュドーはと言うと「2センチ短く!」と簡潔な注文だけ言って既に爆睡していた。
ジュドーが気持ち良く寝ている寝息が伝わりハマーンも深い眠りに落ちていたのだった。
「お爺ちゃんまだ仕事したらダメじゃない!」
暫くして、リーナと同い年くらいの女の子の甲高い声で2人は目を覚ました。
寝ぼけた眼でジュドーが店内を見渡すと、ハマーンを担当した理容師を
その孫らしい女の子が睨みつけて怒っていた。「ネオジオン戦争の時の
怪我がまだ完全に治った訳じゃないでしょ?お爺ちゃん!」
それを聞いて、びくりとして目が覚めたハマーンだったが、鏡を見てもう一度びっくりした。
「金髪になってる!」ハマーンが理容師を睨むように見ると髪を"カードに有るセイラの写真"
と見比べて満足そうにしていた。「眠気に負けていいかげんな事を言ってしまったのか私は…
…カードの写真と同じにされたのか……」ハマーンは後悔したが後の祭りだった。
仕事が終わった理容師は孫娘の方を見て言った。
「お爺ちゃんはもう大丈夫だよマリー、そんな事を言うとお客さんが不安になるだろ
今日はもう上がるからそこで待っておいで」
「はーい」
その老理容師は孫が大人しくなったのを見て、ハマーンの方を振り返って言った。
「いやーこの前ダカールでネオジオンとエゥーゴがもめたでしょ?
あの時ちょっと怪我しましてね!まぁ大した事ないのに孫がうるさくてね!」
「そ、そうですか?貴方の体を気遣う優しい良いお孫さんですね……」
ハマーンはそう言うと文句も言えずに支払いを済ませて、
必死に笑いを堪えるジュドーの手を引いて店を出た。
職人気質の理容師のお爺さんは、唯一のセイラとの違いだった出ている耳まで隠して
ハマーンは完全に同じへアースタイルになった。ハマーンは"金髪さん"になった。
暫くして3人が合流すると呆れるセイラの顔がそこに有った。
「それ嫌味?」尋ねるセイラに「理由は聞かないでくれ」とだけ言ってハマーンはクレジットカードを返した。
女2人が並んで歩き、その後ろを歩くジュドーは時おり堪えきれなくなって吹き出してはハマーンに睨まれた。
翌日、リィナの退院の検査と手続きは予定通りに午前中で完了する。昼過ぎには、
セイラ、ハマーン、ジュドー、リィナの4人は空港滑走路の連絡艇の中に居た。
「明日まで待ちなさい!今日の午後にはデザートザク06Dが3機配備される!
それを待って陸上で組み立てなさい!海上でブースター組んだりしたら誤作動の原因になるぞ!
無茶はよせ!悪い事は言わん!明日まで待て!」
「大丈夫ですよ!ご心配無く、お世話になりました!」
「急ぐと、ろくな事がない、せっかく地球に降りたんだから少し見物してから帰ったらどうか?」
空軍基地の司令が引き止めるのも聞かず、ジュドー達は連絡艇を発進させようとしていた。
キャプテン役のジュドーが皆に指示を出す。
「それじゃ、病み上がりのリィナはハマーンとダブルゼータに移ってくれ、
セイラさんは座席にしっかり体を固定して下さい」
「じゃ、お兄ちゃん後でね!」
「後でなリィナ!ハマーン頼むぞ!」
「了解した!ジュドーさっき説明した通りにしてくれ!少し飛んだら水深を確認して着水しろ、
私がブースター装着作業をする」
「了解!セイラさんも良いですか?」
「OKよ!」
「SLV105発進します!」
空港を静かに飛び立ったジュドー達は、ダカールの沖合い18キロに着水した。
水深が充分に深い事を確認してペイロードを開くとマリンブルーの水中にダブルゼータが降りて行く。
ジュドーが見るモニターにはダブルゼータの青い部分だけが水中に消えて白と黄色と輪郭だけが見えた。
水中でもハマーンの手際は良くて連絡艇の後部にブースターを装着させる作業は20分程で完了した。
美しい海中での作業は宇宙空間の様だった。
「完了した。点火して試してくれ外から状態をチェックする!」
「了解!点火!」
ダブルゼータから送られる画像を横目にブースターの作動試験をするジュドー、
マニュアルのチェック項目が全てグリーンになると2キロほど海上を滑走してテストを完了した。
ハマーンを呼び戻してペイロードに収容する。セイラがジュドーに尋ねる。
「リィナ達はダブルゼータに乗ったまま大気圏脱出するのね?」
「向こうはリニアシートですからね、体へ負担が少ないんです。
申し訳ありませんがセイラさんはこちらで我慢して下さい。」
「妹思いなのね、大丈夫よ、気にしなくていいわ、私がパイロットをやっていた頃にはリニアシートなんて物は無かったわ」
「ジュドー、ダブルゼータ固定完了!何時でも発進してくれていい!」
「了解!ハマーン!リィナを宜しく!セイラさん行きます!」
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海上で加速した連絡艇は2回ほど波でバウンドしてから離水した。推進剤の雲を引き青い空を急上昇して行った。
シートに押さえ付けられるジュドーとセイラ、数分で人工衛星が浮かぶ高度に達するとブースターを停止させた。
無重力を確認したセイラが呟く。
「暫くぶりのこの感覚………何か嫌だわ………」
「セイラさんは、正当なジオンの姫君なのに宇宙は嫌なのですか?」
「やめて!そんな事では無いわ!」
「気を悪くしたのなら、ごめんよ……」
「いえ、そうじゃないのよ!……何か感じない?センサーは?計器類はどう?」
「えーと、………あれレーダーが全然効かない?戦闘空域でも無いのになんでこんなにミノフスキー粒子が濃いんだ?」
ペイロードのハマーンも異変を感じてジュドーに注意を促した。
「ジュドー聞こえるか?何か……嫌な感じがする。"狙ってるヤツがいる!"レーザーセンサーを最大感度に設定しろ、
レーダーはアクティブからパッシブに切り替えろ!このミノフスキー粒子濃度じゃ位置を知らせる提灯だ!……
…ダブルゼータは発進準備完了している何かあったら出る」
モニターの一点を睨みつけたセイラが、その場所を指差し、ジュドーにレーザーセンサーと高感度カメラの集中監視を指示した。
「この辺ですか?セイラさん?」
「もう少し右、ちょっと下、行き過ぎ、その辺ね、少しそのままにして!」
「これって元サイド4、大きな暗礁空域の方角ですよ?」
「黙って!」
「はい……」
「………………!」
「あ!来た!モビルスーツだ!凄い数だ!でも、なんで解ったの?セイラさん!」
「センサーから目を離さないで!後ろから戦艦も来るわ!」
それは、元サイド4の有った暗礁空域(現在は全て廃コロニー)を根城にする海賊達だった。
地球に一番近い暗礁空域に潜む彼等の最近の常套戦術は常に大気圏に出入りする宇宙船を監視して、
やっとの思いで重力を振り切って安心したところ狙って襲う方法だった。
彼等は地球周回軌道を警備するロンドベル隊など連邦政府の警備の隙を見つけては海賊行為を働いた。
ハマーンが叫んだ。
「ジュドー!ハッチを開けろ!ダブルゼータで出る!」
たまらずジュドーも叫ぶ
「そんな!リィナが!ハマーン!」
ハマーンがジュドーにそれしか方法がないことを説得する。
「一緒に落ちたいのか!リィナは私が守る絶対だ!信頼してくれ!」
ハマーン同様に冷静なセイラも言う。
「ジュドー君!ハマーンの言う通りよ!ハッチを開けて!」
ジュドーが渋々了解する。
「分かった!了解!開ける!ハマーン頼むぞ!」
「任せろ!」
ハッチが開いてダブルゼータが出ると同時に第一撃が来た。思ったより早く気が付かれ焦った敵がビームライフルを発射して来た。
まだ当たる距離では無かった。モニター画面上の敵がどんどん大きくなって来る。とんでもない数で、
戦艦3隻にモビルスーツの数は20機以上の大部隊の海賊である。
ハマーンが作戦を語る。
「ジュドー、連絡艇は戦いの邪魔になる!もう一度降りろ!」
「今からじゃ間に合わないよ!降下中は回避運動も出来ない!上から撃たれて終わりだよ!」
「私が援護するから大丈夫だ!」
「ハマーンは良いのかキュベレイじゃないんだぞ?」
「私はなら心配無い!こんな事も有ろうかとミサイルポットにファンネルを仕込である!……それより早く行け!
ここからでは奴らの撒いたミノフスキー粒子のせいで助けも呼べん!ジュドー達は高度を下げて周回しろ!
そして電波状況が回復したらロンドベルの地球周回軌道艦隊に救援を要請してくれ!」
「分かった!降りる!救援を頼んだらハマーンの下で待機する。
いつでも回収出来るようにして低高度飛行して待つから、囲まれたりしてヤバクなったらハマーンも降りて来いよな!」
「ファンネルが有る限り取り囲まれる心配は無い!そっちこそ、流れ弾と推進剤の残量に注意しろジュドー!」
ジュドーが連絡艇を再下降させ始めると、獲物を取り逃がすまいと焦った先頭のバーザム2機が連絡艇を追って下降した。
ハマーンの正確な狙撃は2機のクロスした瞬間を捉えて、一撃でバーザム2機を、地球に自由落下する2個の隕石に変えた。
バーザム前衛隊の隊長が悔しそうに叫ぶ。
「クソ!いきなり2機もってかれちまった!手強いぞ散れ!」
仲間を失った敵は大きく回避運動をするようになり進行速度が1/3に下がった。降下する連絡艇の補足も諦めた。
撃墜の瞬間をモニターで見ていたセイラが驚きを隠せずジュドーに言う。
「なんて正確な射撃!ハマーンて凄いのね!貴方、ほんとうにあの人に勝ったの?」
「自信無い……俺のときは手加減していた気がする………」
ハマーンの援護でジュドー達は安全に高度を下げた。
電波状況の回復を確認して直ちに救難信号を発した。
南半球オーストラリアのトリントン基地が応答した。
状況の説明を受けてギャプラン(ブースタ付きは単独で大気圏突破能力を持つ)隊9機、一個中隊の緊急支援部隊派遣の約束をした。
それと同時に、一番近くの地球周回軌道艦隊に緊急支援の要請を打電してくれた。
ハマーンと海賊達の戦闘は地球上空200キロを音速で南極方向に平行移動していた。
ダブルゼータが南極大陸上空にかかった頃、ハマーンは前衛のバーザム3機全てを長距離射撃だけで撃墜していた。
狙撃を掻い潜って接近したバーザム6機にはファンネルを放出して牽制攻撃しながら様子を見た。
ファンネルの素早い動きを目視も出来ない海賊達が慌てたのでハマーンはバーザム6機を手玉に取ってランドセルだけを狙撃した。
1機は爆発して地球に落ちてしまったが残り5機のパイロットは殺さずに済んだ。ハマーンは使い道の無い有人の衛星を5個作った。
見た事も無い新兵器の出現に、割の合わぬ獲物を狙った事に気が付いた海賊達だったが彼等のプライドは諦める事を許さなかった。
モビルスーツ隊を指揮する海賊のボス、ヤザン・ゲーブルが叫ぶ。
「チキショウ!なんであの距離からの射撃があんなに当たるんだ?
何故こんなにミノフスキー粒子を撒いてんのに無線誘導兵器が使えるんだ?
噂に聞くファンネルってヤツか?アナハムの試作機か?前衛隊が全滅とは、洒落にならん!
あの武器を使えなくしてハンブラビの蜘蛛の巣で捕らえてやるぜ!…………皆!戦艦の後ろに付け!」
ヤザンの命令で、海賊達は戦艦の主砲で牽制しながら攻撃する戦法に切り替える。獲物を逃がさぬ様、
常に射撃システムのギリギリ圏外12キロの距離を保ち取り囲むハンブラビ5機を除き一時引いた。
最大望遠で獲物を確認したヤザンが薄笑いを浮かべながら呟く。
「なるほどな!とんだ大物だ!あれはダブルゼータだ!!壊さず手に入れて俺のマシンにしてやる!そうすりゃ元は取り戻せるぜ!」
海賊達の母艦、戦艦グワジンの艦橋に取り付いたヤザンが戦艦の艦長に命令する。
「左右のサラミスは現在の高度を保ちつつ両側から囲い込め!
グワジンは目いっぱい高度を下げてダブルゼータが下の連絡船に逃げないようにしろ!分かったな艦長!」
「そんな!いくらボスの命令でもそれは無茶です!こんなデカ物、
ダブルゼータの下に回り込んだら地球に引っ張られて二度と上がって来れませんぜ?落ちますぜ!カンベンして下さいよう!」
「うるせー!ダブルゼータとグワジンなら交換したっておつりが来るんだよ!やれ!」
「嫌だ!断る!海賊だってスペースノイドだ重力に取り込まれて死ぬなんてゴメンだね!!」
「テメー!俺に逆らおうってのか?」
「嫌なモノは嫌だ!」
暫くもめた後、ヤザンは渋るグワジンの艦長を、「ヤバクなったら艦を捨て脱出しろ」と言って納得させた。
一旦、引いた敵がまた攻めて来るのを感じたハマーンはリィナに安心する様に優しく「リィナ、怖かったら
目を瞑っていてくれ、必ず守るから安心して欲しい………」と言った。リィナが小声で答えた。
「私…大丈夫です……ハマーンさんを信じます」
リーナは怖い気持ちを消す事は出来なかったが5機のバーザムのパイロットを殺さなかったハマーンは
信じる事が出来た。目は瞑らなかった。
戦艦が来る事を見越したハマーンは頭部ハイメガキャノンを充填して待った。
同時刻、スクランブル態勢のトリントン基地は全てがギャプラン隊の発進のために動いていた。
格納庫から牽引車により運び出されるブースター付きギャプラン、その全長50メートルを超える
巨体は滑走路に運ばれると次々と基地を飛び立ち、全速力で接触予定空域の南極大陸上空へと急行して行った。
南半球で地球周回軌道をパトロールしていたネルアーガマはトリントン基地から第一報を受けて全速力で
南極大陸上空を目指した。基地から位置を知らされたのでジュドー達と連絡が取れた。ブライトが無線で呼びかける。
「ジュドー早速トラブルか?」ジュドーは操縦に専念していたのでセイラが応じる。
「こちらSLV105!…ブライトなの?…」
「セイラか?セイラも連絡艇に乗ったのか?」
「ええ、ダブルゼータにはハマーンとリィナが乗っているわ、早く助けてあげて!」
「今、全速で向かっている。モビルスーツ隊も出す!アムロが出る事になっている」
「アムロが!それなら心強いわね!」
「それより、セイラ達はこちらで収容してやる!敵に見つからないように低高度でネルアーガマに来い!」
「いいえ!戦っているハマーンを回収出来る現空域に待機します!」
「そうか…撃墜されるなよ」
全速力でハマーンと海賊の戦闘空域に向けて航行するネルアーガマ、格納庫では、アムロ大尉率いる
ゼータプラス隊3機が発進準備をしていた。
「ケーラ!ギュセル!発進準備良いか!」
「Jタイプ対艦ミサイルの装備に後30秒下さいアムロ大尉!」
「アムロ、そろそろ交戦状況が肉眼でも見えるはずだ、戦力比は1対24プラス戦艦3隻だ!
敵主力機はバーザムとハンブラビだ!ダブルゼータでも少し苦しい筈だ、大至急援護してやってくれ!」
「大変な大部隊じゃないか!バーザムってティターンズの量産型ガンダムだろ!
俺たち3機くらい加勢して助けられるのかブライト?」
「敵は海賊だ機体の捕獲が目的だから、直ぐには撃墜を狙って来ない。地上からもギャプラン隊
一個中隊が迎撃に上がった!アムロならそれまでに何とか出来るだろう?それにダブルゼータの
パイロットだって只者じゃ無いからな!」
「ジュドー・アーシタか?」
「もっと凄い奴さ!」
「誰なんだ?」
test
つ、ついにアムロ登場?ヤター!!
金髪のハマーンにワロタ
ご期待に副える事を願いながら続きます。
ライトシード10/13
発進準備完了したケーラの声がアムロとブライトの会話を中断させる。
「アムロ大尉!ケーラ機準備完了しました!」
「よし!全機発進!俺に続け!」
3機目のギャプランがトリントン基地を飛び立ち、アムロのゼータプラス隊3機も
ネルアーガマを発進した頃、海賊達が攻勢に転じた。戦艦と合流したバーザム9機が
一斉に反転、ハマーンのダブルゼータに攻撃を開始した。
獲物を逃がさぬ様に取り囲む海賊のハンブラビ隊、だけが動かない。彼等は
バーザム隊が適度に痛め付けた後、"蜘蛛の巣"で獲物を捕獲するのが役割なのだ。
ヤザン・ゲーブル率いる海賊達の基本戦術だった。
ハンブラビ隊はミノフスキー粒子を絶えず撒いている。自分が狙撃されない為の
自衛策であるが、当然ハマーンを狙うビームも当り難くなる。元々、戦艦やバーザムの
長距離攻撃に当たるハマーンでは無かった。
ハマーンは頭部ハイメガキャノンの狙いを中央の戦艦グワジンに付けたが、
予想に反して左右にサラミス展開してグワジンが下降する動きを見せたので、
ハイメガキャノンの発射を待って様子を見ていた。
「なるほど、そう来るか……」
ヤザンの作戦を読んだハマーンは狙いをブリッジから主砲に変更した。
グワジンの主砲2基が正面に並ぶ瞬間を待った。中々向きを変え無いので
ビームライフルで数回の牽制をすると、主砲を発射して応戦しながらも鈍い
回避運動をしたグワジンが丁度良い角度になってハマーンが叫ぶ。
「美味い!」
細く絞ったハイメガキャノンのビームがグワジンの一番主砲と三番主砲の串刺しにして抜けた。
砲塔内で行き場を失った充填済みエネルギーが大きな誘爆を引き起こした。
二基の巨大な砲塔が上へ吹き飛ぶ反動は、ダブルゼータの下に回りこむ為に
下降中だったグワジンの巨体を、地表に向けて一押しした。
その予期せぬ地表への一押しは、グワジン内の海賊達にとって、目も眩む絶壁の上で足を滑らす
恐怖と同じだった。大気圏突入能力を持たない巨大戦艦で地球周回軌道低高度を飛び、
重力に引き込まれるストレスと戦い、士気の落ち切っていた海賊達は地球へ落下する恐怖に飲まれた。
もう自分達が助かる事以外を考える者はいなくなった。皆、持ち場を捨て脱出手段を求めて格納庫へ急いだ。
ブースター付きのランチ、修理中でも可動しそうなモビルスーツ我先にと乗り込むとグワジンを捨て飛び去った。
乗り物の無くなった格納庫には百名近い人間が取り残されていた。
その様子を見たバーザム隊もダブルゼータを追うのを止め、落下し始めたグワジンを見捨て、
に上空と呼べる位置に展開するサラミスの元に上がって行った。ヤザンの無茶な作戦に見切りをつけ、
海賊達は少しずつやる気を失いつつあった。
ハマーンはダブルゼータを落ちるグワジンの更に下に滑り込ませた。艦体下部に取り付いて、
上空からの狙撃を回避するため地表に背を向けグワジンを盾にする。グワジンに身を隠しながら上空の敵と撃ちあった。
海賊の中では一人だけダブルゼータ捕獲に闘志な燃やすヤザンは、グワジンに取り付いて
ダブルゼータと戦えと仲間に怒鳴る。しかし、金目当ての海賊達で地表へと落下を始めた
戦艦に取り付くリスクを犯してまで戦おうなどと考える者はいなかった。上空を行く2隻の
サラミスがアムロのゼータプラス隊に攻撃され始めたのを知ると、全機がサラミスの護衛に上がって行った。
ケーラ機から発射されたJタイプ対艦ミサイルの一発が、戦艦とその護衛モビルスーツの弾幕を抜けた。
それが、サラミスの機関部に命中して大ダメージを与え融合炉を停止させると、
サラミスのビーム砲は全て沈黙した。少し遅れて支援に来たギャプラン隊の第一波3機が襲い掛かると、
ビーム砲の使えないサラミスは瞬く間に撃沈された。
コントロールを失ったグワジンは地球の重力に引かれ、どんどん落下速度を増して行く。ハマーンは
グワジン艦体側面の縁からダブルゼータの頭部だけを出して上空の様子をうかがった。地球を背にして、
上空の連邦軍と海賊達の戦闘を見上げていた。数分間このままでいたら自分も一緒に燃え尽きてしまう。
そんな、緊迫した状況に有りながらもジュドー達が真下でハマーンを受け止めようと待っていてくれる事を知っているから、
奇妙なくらい安心出来た。心配するジュドーがハマーンに連絡を入れる。
「ハマーン聞こえるか?ブライトさん達が来てくれたみたいだな……」
「ジュドーこちらの状況が見えるのか?」
「ああ、見える。ハマーンは何時もやる事が派手だな!」
「盾はデカイほうが安心だろう?ジュドー達もグワジンの下に付けろ!まだ上空から狙撃される可能性があるからな!」
「了解した。ハマーンそろそろこちらに乗り移れ!ダブルゼータに大気圏突破能力は無いんだぞ!」
「もう少しだけグワジンを盾に様子を見たい…そしたら収容を頼む!」
「ドガッ!」その時、グワジンの反対側の縁から現れたハンブラビのビームがジュドー達を襲った。
「しまった!やられた!」
「どうした?!ジュドー!」
「被弾した!そっちも気をつけろ!ハマーンの反対側に1機いる!」
落下するグワジンを追って来たモビルスーツが1機だけいた。ヤザンのハンブラビだった。
グワジンの下に回りこもうとするジュドー達を発見して撃って来た。その執念の一撃は
ジュドー達の連絡艇の左エンジンを直撃してその大気圏突破能力を奪った。
気が付いたハマーンがすぐさまハンブラビに向けてファンネルをその上下左右に展開させ、四肢を吹き飛ばした。
ダブルゼータの両腕で胴体を取り押さえるとヤザンに言い放った。
「お前は海賊だろう!もはや商売になるまい!いいかげんに諦めろ!殺しはしない!グワジンに移れ!」
「なんだ!貴様女か?!女のくせに俺様に命令するんじゃ無い!女なら俺様の"イチモツ"でも喰っていっちまいな!」
ヤザンがそう叫ぶと同時にハンムラビの股間後部に収納されていた隠しクローが飛び出し
ダブルゼータの下腹部を狙って伸びた。ハマーンはダブルゼータの右腕で飛び出した
クローを掴むと既に四肢のもがれたハンブラビから、"イチモツ"を引きちぎってコックピット
に突き刺して返した。クローはヤザンの"それ"の五センチ下に突き抜けてシートをえぐった。
「間に合っているから返す!」そのハマーンの声がハンブラビのコックピットに響いたのを最後に、
電装が全てショートして機能停止した。暗闇になった。
ハマーンはハンムラビをその尖った頭から投げた。強い加速度を感じて投げ捨てられると悟った
ヤザンが叫んだ。「うわー!馬鹿!乱暴者!無茶はよせー!………」「ズガッ!」
ハマーンは空に投げ捨てる事はしなかった。グワジンの左3番副砲塔にめり込ませて
パイロットに生きる可能性は残した。ハンブラビを片付けたハマーンは急いで連絡艇に取り付き接触回線を開く、
ジュドーの切迫した声が届いた。
「ハマーンどうしよう?この損傷じゃ大気圏突破は無理だ、このまま降りたら中から燃えてしまう!」
「まだ策は有る!こちらに乗り移れジュドー」
「この摩擦熱では外に出られない、移動はむりだハマーン」
「ダブルゼータは便利に出来ているぞジュドー、セイラと後ろに下がってくれ!」
ハマーンはそう言うとダブルゼータのビームライフルを反転させて、ライフル後部分(コアトップ先端)を
連絡艇の操縦室に突き刺した。セイラとジュドーが乗り込んだ事を確認すると、それを引き抜き、
機体を翻してグワジンの艦首に向かった。
「ハマーンどうする気だ?」
「ブリッジを占拠してグワジンで大気圏突入する!」
「こんな古い巨大戦艦に大気圏突破能力が有るのか?……」
「このままのグワジンには…ない!」
「なに言ってんだよ、ハマーン?どう言う事だよ?」
ハマーンはダブルゼータをグワジンの一番主砲の吹き飛んだ大穴に潜り込ませた。
ダブルゼータの両腕を広げて機体を固定するとリィナを残して3人で艦内に侵入した。ジュドーがハマーンに質問する。
「こんな旧式の巨大戦艦でどうしようと言うのだ? ハマーン?」
セイラもホワイトベース時代に読んだ参考資料からグワジンが大気圏突入能力を持たない事を知っていて、口を挟んだ。
「説明して下さいハマーン」
「時間が惜しい!策は有るのだ!信じて付いて来てくれ!」
ハマーンの強い意志を感じて2人は安心することが出来た。
ハマーンは2人が同時に頷くのを確認すると身を翻して第一ブリッジに向かった。ジュドーとセイラも追った。
ブリッジに辿り着くと、ハマーンはグワジンの多数あるコントロールパネルの一つに取り付き操縦系を手元に集中させた。
艦の姿勢とエンジン出力を調整して落下が最も遅くなるようにコントロールしながら2人に指示を出した。
「ジュドー!そこのオペレータ席に着いて艦の重量バランス状態をスクリーンに映し出してくれ!
セイラはこの通信ケーブルをダブルゼータのコックピットまで引っ張ってくれ、そして繋いでくれ!
向こうから操艦出来る様になる!」
ハマーンから通信ケーブルを受け取るとセイラはダブルゼータへと向かった。
ジュドーは慣れないシステムに戸惑いながらも、何とか大スクリーンに艦体の側面図を展開した。
「これで良いのかな?ハマーン?」
「そうだ!それでいい!……そしたら、ジュドー操艦を変わってくれ!
仰角は45度で…大気との抵抗は高度と共に変化する…エンジン出力に気を付けてな!」
「了解!今行く!」
ジュドーと操艦を代わりオペレーション席に着いたハマーンは艦後部ヘリウムタンク8基全てを排除して、
残っている第二主砲塔を強制排除するコマンドを入力した。「作動しない?故障か?これではバランスが保てない!
まずいな…」第一、第三主砲をハイメガで吹き飛ばした時にオーバーロードしたエネルギーで第二主砲の回路も焼けていたのだ。
主砲を3基とも外さないと艦体の軽量化が不十分だとハマーンは思った。
「ジュドーちょっと来てくれ、マズイ事が起きた第2主砲が排除出来ない!
ダブルゼータに戻ってライフルで撃って外して来てくれ、狙撃位置は今教える」
「解ったぞハマーン!艦を軽くして突破する気なんだな?」
「そうだが、説明している時間は無い!急げ!」
「了解!」
ハマーンから砲塔分離の狙撃ポイントを聞くとジュドーは急いでダブルゼータに戻った。
間もなく大きな衝撃と共にモニター上からも第二主砲が消えた。
それと同時に今まで綱渡りのような慎重さを要したグワジンの操縦が嘘のように楽になった。
艦体最上部に存在した3基の巨大で重い主砲を捨てたグワジンは軽くなると同時に重量バランスが改善して、
とてもコントロールしやすくなっていたのだ。一安心したハマーンが呟く。「ジュドーのヤツ上手くやってくれたようだな、
これならザンジバルで大気圏突入するのと変わらないな……」
その時、ダブルゼータを再度固定してコックピットから降りたジュドーに、忍び寄る男の影が有った。執念のヤザンだった。
ヤザンはジュドーに飛び掛り押さえつけると、その見覚えの有る顔をみて恩讐の雄叫びを上げた。
「またお前かー!!お前とガンダムは何時まで俺の邪魔をすれば気が済むんだ!もう許せねえ!ぶっ殺してやる!」
「そっちから仕掛けてきたんだろ!おっさん!」
「うるせえ!」
「キャー!お兄ちゃんを放して!」
「ジュドーどうした?!そっちに海賊がいるのか?!ジュドーどうした!返事をしろ!」
ジュドーの異変を感知したハマーンの声がコックピットの無線から響いた。
数分前に自分を酷い目に合わせたパイロットの声だと気が付いたヤザンはさらにジュドーの首を締め上げながら詰問した。
「誰なんだ?あの無茶な女パイロットは?え?!………まあ良い!お前は今死ね!
その後であのムカつく女パイロットもぶっ殺してやる!………ごきっ!ぐわっ!……くっ!また?もっ、もう一人?乱暴女が?……ガク!」
「ジュドー君!大丈夫?」
ヤザンに首を絞められてジュドーが気絶しかけた瞬間、ヤザンの方が後頭部から血を噴出して気絶して倒れた。
後ろには"バールのようなモノ"を持ったセイラが立っていた。
「セイラさんありがとう助かった。そいつ!かなりしつこいヤツなんだ!縛っておいてくれないか?ゲホ、ゲホ、」
「ジュドーどうした返事をしろ!ジュドー!返事をしろ!ジュドー!」
通信ケーブルの固定作業をしていたセイラが戻って来て助けてくれた。
コックピットからジュドーを心配する呼び掛けが続く、リィナが状況を知らせると止んだ。
「心配をかけた!ハマーン、リィナ……しつこいのが一人いて危なかったけど、セイラさんが殴り倒して助けてくれた!もう大丈夫だ」
「そんな、殴り倒しただなんて……私が乱暴者みたいじゃない、止めて下さい!そんな言い方……」
そう恥ずかしそうに言いながら振り返ったセイラは、血の付いたバールを握ったまま、頭から血を流すヤザンを引き摺っていた。
その美しい顔にヤザン返り血を浴びているのも知らずジュドーに微笑むと、美しい顔は怖さも引き立ち凄みさえ有った。
ジュドーはそんなセイラにハマーンと同じ過激さを感じた。「さすがホワイトベースの人?」
そのジュドー達のグワジンの近くを、最後にトリントン基地を発進したギャプランがすれ違った。
南極大陸を超えて大西洋上空約15万メートルを火の玉と化し降下するジュドー達のグワジン。
ギャプランの古参パイロットは巨大戦艦が地球に落ちていく光景を見て戦闘の激しさを予感して身震いして言った。
「戦艦が地表に落ちて行く!まるでルウム戦役だな……上では何をやってるのだ?」
戦場は既に南極上空に到達していた。ギャプラン隊とアムロのゼータプラス隊は共同で海賊と戦っていた。
最初こそ果敢に応戦した海賊達だったがギャプラン隊にサラミス一隻が撃沈され、
アムロのゼータプラスがバーザム2機ハンムラビ1機を瞬く間に撃墜すると戦闘を放棄してロンドベルに投降した。
アムロは漂流する5機のバーザムの救助信号に気が付いてギュセル少尉に救助回収の指示を出した。
ギュセルのゼータプラスがバーザムのパイロットの回収に向かい、アムロとケーラは投降信号を出すサラミスに向かった。
ネルアーガマのブリッジはロンドベル発足以来初の大捕り物で目の回る忙しさになった。
キャプテンシートのブライトが大声で各隊、各部署に指示を出している。
「アストナージ!トリントン基地から上がってきたギャプラン隊は全て一時収容、機体を検査しろ!」
「少しでも損傷のある機体はネルアーガマで修理してからトリントン基地に帰って貰え!」
「刑務部隊!逮捕拘束の準備急げ!団体客が来るぞ!接客は効率よくな!」
「ケーラ!すまんが暫くお前の押さえているサラミスはそのままだ!モビルスーツの奴らを先に拘束する!
窒息させるのは可哀想だからな!そのままゼータプラスでブリッジに張り付いていてくれ!艦の外には誰も出すな!」
「ジュドー達はどうなったんだ?無事でいてくれる良いのだが……」
その頃、地表へと下降を続けるグワジン内部では、縛り上げたヤザンをファンネルコンテナに放り込み、
ジュドー達4人は全員ダブルゼータに搭乗してコックピットからケーブルを介してグワジンを操艦した。
着陸で危なくなった場合はグワジンを捨てダブルゼータで脱出するつもりだったからだ。
でも、その必要が感じられないほどに、砲塔とヘリウムタンクを排除したグワジンは順調に下降を続けた。
ハマーンは極端な前上がりだった艦の姿勢を水平に戻し、
最大出力だったエンジンの推進力をゼロにした。スーと速度が増して下降する割合が増え突入姿勢になった。
ハマーンは機体表面の温度分布と、空気抵抗や重力が船体に与える応力を常にモニターし、
予想しながら艦の姿勢とエンジン出力を微調整した。
セイラは以前に経験したホワイトベースの大気圏突入と同じくらい安定している事を不思議に思いハマーンに尋ねた。
「このような宇宙専用艦が、こんなにも大気圏をスムーズに飛べるなんて、どうしてなの?」
「グワジンの艦体がリフティング形状になっている理由を考えてくれ、本来は大気圏突入可能な艦として設計された艦なのだよ、
それに重い装備を捨てて軽くしたからな……」
「へー、さすがハマーンは元ネオジオンの総帥だね、ジオンの武器は熟知しているな!」
「しかし、大西洋上空を下降するのは少し嫌だがな…」
「何故だい?ハマーン?」
「い、いや何でもない…気にしないでくれ…」
あえて不安を与える必要も無いと思ったハマーンは、
過去にグワジンタイプ一番艦が大気圏突入テストに失敗して大西洋上空で空中分解した事は言わなかった。
ハマーンはアクシズで、そのテストファイルを見つけ原因の解析をしていたのだった。
高度3万メートルでハマーンは推進材の供給を減らし大気圏内で効率の良い熱核ジェットに切り替えた。
濃い大気の中では艦体上部インテークからの吸入だけで数千トンの揚力を発生させ機体を安定させた。
2万メールを切ると先ほど発ったばかりのダカール空港と通常電波での連絡が可能になった。
基地司令のコーネル大佐は、お茶の時間を迎えコーヒーを飲んで一息ついていた。
オペレーターの報告に驚き、飲んでいたコーヒーを吹いてから言った。
「ジュドー君達が、旧ジオンの巨大戦艦グワジンを海賊から乗っ取って?また降りて来るだと?!
正気なのか?あれは降りれる船じゃないだろう?!」
「ハイ、その筈ですが……普通に飛んでます……空港に着陸するから滑走路を開けておいてくれと言っています!」
「馬鹿者!後で回収してやるから海に降りろと伝えろ!」
「不可能です!もうこの基地にへの着陸態勢に入っています!そろそろ肉眼でも見えます!」
「わっ!分かった!せめて近くの砂漠に降りろと伝えろ!」
「あっ見えました!飛行は安定している様ですが……下が固くて平らじゃないと安全に着陸出来ないから滑走路に降りると言っています!」
「やむをえん!滑走路にいる者は全員退避!近くに居る者も退避!緊急退避だ!消防隊及び救護班は待機しろ!
グワジン着陸と同時に各個に行動せよ!」
オペレーターとコーネル大佐が激しくやり取りしていると轟音と共に、
そのビックトレーをかすめる様にハマーンの操縦するグワジンが降りてきた。
恐怖に引きつるコーネル大佐の横を、その巨大戦艦は時速350キロで通り抜けた。
ハマーンは艦底が地面に接触する直前、左スラスターを2秒間噴射して艦体を180度回頭させると、
熱核ジェットを熱核ロケットに切り替えて全開にした。揚力が消えて艦体が地面に押さえつけられブレーキがかかり、
進行方向逆向きへの全力噴射でグワジンの巨体はたちまち減速して、滑走路を1.5キロ耕して止まった。
ハマーンはグワジンの動力炉を停止させた。
海賊達の居残る区画を全て再ロックした。
周囲に凄まじい土埃が巻き上がる中、ハマーンはダブルゼータを立ち上がらせて、グワジンの最上部から辺りを見回して言った。
「嘗てサダラーンで降りたダカールにグワジンでも降りる事になるとはな……」
消防隊と救護班は直ちにグワジンを取り囲んだが火災も怪我人も無かった。
頭を抱えてしゃがみこんでいたコーネル大佐が立ち上がって空港を見ると、巻き上がった土埃の中に、
こちら側を向いたグワジンがモビルスーツを基地に届けに来たガルダタイプ輸送機の隣にキチンと平行に並んで停止していた。
けれど目を瞑っていたので、どうして今通過したばかりの艦がこちらを向いているのか理解出来なかった。
「少し無茶だな!一体全体どうなったんだ!」
「凄い!凄い操艦技術ですよ!コーネル大佐!」
若いオペレーターは信じられない光景を見た。
滑空してきた全長430メートルの巨大戦艦が時速350キロでスピンターンしてガルダタイプ輸送機にピタリと横着けする。
その一部始終を見届けると興奮しながら言った。
「ビッグトレーが小さく感じます…今までに、こんなデカ物で無事に地球に降りた奴は居ないでしょう………」
「間違い無くいないよ……さすがニュータイプだ……」
コーネル大佐はそう呟いてから、クルーにビッグトレーをグワジンに接近させるように指示した。
「よし!ビッグトレー浮上!ホバー出力30パーセント!グワジンの横っ腹に付けろ!
ザク小隊を先頭に刑務部隊はグワジンに突入用意だ!格納庫付近の海賊達を逮捕する」
神をホ――(∀゚(゚∀(゚∀゚)∀゚)゚∀)―ッシュ!!
徹夜で読んだ。
面白い。
保守。
丶 / ̄ ̄ ̄ ^^^ ヽ-;;;|
ヽ ,=---──ー"""" ̄ ̄``ー---、|
` ̄ / ;;;,,_ ,,,-っ
|⌒ヽ┃ミ 、,,"、`二ヽ--; :: rノ;二"_ゞ|
ヽ|( |┃:::: ヽ ̄(_)ヽ;;;" ::: t/、( ゚) ノ | 良スレだ!
い |┃:::::: ``/=""` ::::::: `、` ̄ヽ i
l - |┃;::::: ′ ::::::::: ヽ ` ,
( ノ┃:::::: ::ゝ::- ノ |
7 ノ、 :::::: __,---‐‐-、, |
/ ノ;, 、 :::: 、,‐=二 ̄``r /
)" |;; ヽ;::: `ヽ,____二ヾi ノ
┃;;;;; ヽ、::::: `ー--‐" /┃
┃;;,,, ;;,`ゝ,,, / "┃
《"ミミ;;;;;,,,, ミ;;;```ー-----/ ""┃=、
^~ ヽ\ ;;;;,,, ヾ;, /"" 丿 M〜ーヾ、
ー丶 \ ゞ-、、、 / 丿 /// ヘ
これ読んでるとなんかとろけちゃうよ
(*´д`*)アハァ・
ど素人の長編を読んでいただき、本当に有難うございます。
ここまで長くなるとは本人も予想していませんでした。
まだまだ続きがありますので週末にでも読んでやって下さい。
ライトシード10/19
--------------------------------------------28-----------------------------------------------
「すいませんコーネル司令……また降りて来ました……いえ、落ちました……」
無線を通じて申し訳無さそうにするジュドーの声がビックトレーの司令室に届いた。
「お早いお帰りだったな!それにまた…随分と大きなのに乗り換えて降りてきたな…
……ジュドー君…皆無事かね?」
「全員無事です……連絡船を撃墜されて、止む無くグワジンを奪って……
でも脱出し切れなかった海賊達が艦内に潜伏してますので対処願います」
「了解している!刑務部隊を送った!艦内は全て隔壁を閉鎖したままにしてくれ、
少し嫌な……戦闘になるだろうから……君達は私のビッグトレーにモビルスーツごと移動したまえ!」
「司令!僕達もダブルゼータで手伝います!」
「いや断る!これは我々連邦軍…身内の問題でも有るのだ!君達は退きたまえ!」
「そうですか……了解……またお世話になります それでは後ほど……」
ダブルゼータがグワジンを離れると同時に、デザートザクが格納庫の壁をヒートホークで切り開き、
連邦軍の刑務隊が艦内に突入した。最初に銃声と爆発音が響いたが、間もなく静かになった。
大方の海賊達は大人しく逮捕拘束されて出てきたが、ティタンーズ出身の者達は最後まで投降の
呼びかけに応じなかった。銃撃戦の後、自決して全員が袋に詰められて出る事になった。
ダブルゼータに乗る全員がその出来事を感じ取っていたが、口にする者はいなかった。
ハマーンがビッグトレーのブリッジ上の平らな場所にダブルゼータを降ろすと、兵士の案内で司令室に通された。
「だから、明日まで待てと言っただろう……」
コーネル大佐の言葉に首をうなだれるジュドー、そのジュドー達に大佐は親切だった。
ザクを運んできたガルダタイプ輸送機にブースターが在るから、今晩中にダブルゼータに装着すると約束した。
それで宇宙に上がるように薦めた。
「君達は早くブライト艦長の所に行きたいのだろう?」
「僕達が原因で海賊達と戦闘になったのです!様子を知りたいです……手伝える事が有れば協力したいです……」
「ならば、打ち上げは明日朝だ!今日はもうこのビッグトレーで休みたまえ……」
ジュドー達はビッグトレー艦内の居住区にある上級士官用の4人部屋に案内された。
4人がシャワーから上がって窓際の丸テーブルを囲んで休むと、ジュドーがリィナの体調を心配した。
「リィナ御免な……退院早々にこんな目に遭わせてさ!」
「私はハマーンさんのおかげで大丈夫よ、戦闘中も不安無かったわ」
「リィナはジュドーと同じだ!ニュータイプの素養が高い、おかげでファンネルの操作がとても楽だった」
「どう言う事だ?リィナとファンネルの操作にどう言う関係があるのさ?」
「言葉では説明し難いな、意思の力を別けてもらった様な感じとしか言い様がない……」
寛ぐ4人だった。外が気なったジュドーがカーテンを開けると真横にグワジンが見えた。
側面にはヒートホークで開けられた四角い穴が開いていて、
穴の前には投降を拒んだ海賊達の遺体の入った袋が多数並べられていた。
遺体袋は夕日と、夕日に照らされたグワジンの赤を受けて真っ赤だった。
ジュドーはやりきれない気持ちになった。
「なんであんなに簡単に死を選ぶのだろうか?ハマーンがあんなに苦労して海賊全員を無事地表に降ろしたのに……」
「死ほど…簡単に全てを解決する選択肢は無いからな……私のした事は…今あの袋に入る者達には、
返って迷惑だったかも知れんな……私だってジュドーがモウサに来てくれなければ奴らと同じような末路を辿ったさ……」
冷暖房完備、風呂付、フカフカのベッドに冷蔵庫には色々な種類のお菓子や飲み物が詰まっている。
サービスには文句の付けようのない豪華な部屋が用意された。しかしジュドーとハマーンには辛い眺めの部屋だった。
落ち込む2人の気持ちを思いやったセイラが街に出る事を提案した。
「夕食までには時間があるわ、気分転換にダカールの街に出てお茶でもしましょうか?」
セイラがハンドルを握るジープが基地を出るとき、兵士が運転する一台のジープとすれ違った。
その助手席には神父が乗っていた。
「ねえ?お兄ちゃん、あの海賊さん達だけど……ここの兵隊さんが埋葬してあげるのかしらね?」
リィナの問いにはセイラが答えた。
「ティタンーズと言っても元々は連邦軍だし……もう許してあげるんじゃないのかしらね……」
ジュドーが言う。
「でも、ティタンーズはなんであんなふうに、なっちゃたんだ?本来は海賊とかを取り締まる役目だったんだろ?
それなのに海賊になった人も多いい……」
ハマーンが言う。
「歪んだエリート意識の行き着く果て……かな?例え死んでも、普通の連邦軍兵士ごときに頭など下げたく無いのだろう…………」
「そうか、故郷の地球連邦から戦犯にされて、コロニーのスペースノイドからも嫌われて、
一生暗礁空域をさまようしかないと分かったら……もう、終わりにしたかったのかもな……」そう言ってジュドーは少し寂しそうな顔をした。
安住の場所が無い事に共感したセイラが言う。「スペースノイドと、連邦からも追われたら…
…いる場所が無いものね……まるで私の様だわ……可愛そうな人達………」
ジュドーが言う「セイラさんとは違うさ…コロニーに毒ガスなんか使うからだよ…それに、
ティタンーズの人達って全員選び抜かれた主義者で志願兵なんだろ?ハマーンは奴らの事どう思う?」
ハマーンはティタンーズには冷めた気持ちだった。「心情の奥底までは分からんがな…
…戦闘の才の有る地球出身者ばかりを連邦軍内部から引き抜いて構成されたと聞いている。
兵士の連度は高いと感じたが指揮官がまるでダメだった。宇宙に慣れれば手強くなったかもしれんが、
その前にエゥーゴと共闘して潰してしまった…それに、あそこまで肥大化したエリート意識ではな…
…例え殺されてもスペースノイドと同格に扱われる事を拒むだろう……消え去る運命だったよ!」
ハマーンはティタンーズを壊滅させた張本人だが、その行為自体に呵責を感じる事は無かった。
「もう、暗い話は止めましょう……」
ハンドルを握るセイラが言うと、ジープはもう街中まで来ていた。
「今日でこの街ともお別れだから、歩きましょうか?」
ジープを止め、夕暮れのダカールの通りを歩くジュドー達4人、
一昨日に支払いでトラブルになったレストランの前まで来たとき、
リィナがその店の前に立つ男に走り寄って深く頭を下げてからお礼を言った。
「あの時は有難うございました、もうこのとおり元気になりました、」
「そうかい、それは良かったね!お兄さんとは逢えたかい?」
「はい!迎えに来てくれました そこに居るのが兄です」
リィナが頭を下げるその男は一昨日、ジュドー達に言いがかり付けて来たマネージャーだった。
ジュドーとその男、2人の間に何とも気まずい空気が流れた。暫くジュドーと見詰め合った後、
その男は何も言わずにプイと向きを変え半地下のレストランに戻ろうとした。その次の瞬間、
男の義足が歩道の段差にとられ、男は階段を頭から落ちそうになった。
ジュドーの方を睨んでいたリィナは近くに居たが気付くのに遅れた。
気が付いたジュドーはダッシュするが間に合う距離では無かった。
ああ、男は頭から階段を転げ落ちる。その場の誰もがそう思った時、
階段の下から飛び出した人影がその男を抱き支えて救った。
無事を確認してから男を叱り付けた。
「あんた何時も言ってるじゃない!階段は手すりを使ってゆっくりって!それなのに他所見して降りるから……」
ジュドー達が駆け寄ると下から飛び出して男を支えたのは若い女性だった。
心配したリィナに2人は大丈夫だから心配しないように告げた。安心したリィナは、ジュドーの方
を振り返って文句を言った。
「お兄ちゃん!この人は私の命の恩人なのよ!なんで睨んだりするのよ!危ない所だったじゃない!」
リィナの言葉にジュドーが驚いていると男が照れくさそうに言った。「俺はこの子の怪我が酷いので病院に運ぼうとしただけだ…
…でも小屋から離れた直後にモビルスーツが落ちてきてその後はよく覚えていない……このアマサが、
この子と俺を病院に運んでくれたんだよ礼ならアマサに言ってくれ……」
アマサと呼ばれたその女性はセイラの顔を覚えていた。
「貴方は……医療ボランティアの女医さん?!ですよね?」
「あっ!貴方はネオジオンのパイロットの………アマサ・ポーラさんね?記憶は戻ったの?」
セイラは多数の患者の中から顔とカルテを思い出して尋ねた。首を横に振ったアマサが言った。
「立ち話も何ですから中でお茶でも飲んで行って下さい」
話が込み入って来たのでアマサはジュドー達4人を開店前の食堂に招いてコーヒーを出した。
セイラがリィナとジュドーの関係や一昨日のレストランの出来事をアマサに話すと、
アマサはその男に代わってジュドー達に謝った。そして男を問い質した。
「あんた私に言ってくれたじゃないか?もう怪我の恨みは忘れるって!」
その男の名はロイ・ギリアム、元連邦軍のモビルスーツパイロットだった。戦闘で受けた負傷により除隊して、
軍の紹介で今の仕事に就いていた。アマサ・ポーラとはリィナを救助した時に知り合い、その後このダカールで同棲していた。
予備役でもある彼は、記憶を失ったとは言え元ネオジオンのパイロットのアマサの保護観察者でもあった。
アマサに詰め寄られロイは初めてジュドーに謝った。
「一昨日の夜の事はすまなかった…あんな事は俺の本分では無かった……」
「もういいよ!大した事じゃないよ!それより妹を、リィナを助けてくれて有難う!」
気にも留めない明るいジュドーに安心したロイは、自分の気持ちを吐露した。
「俺…あんたがスペースノイドと分かったからって、あんな事した訳じゃないんだ。
この店にも宇宙からのお客さんは良く来るし最近は別に何とも思わない。
俺の怪我は確かにスペースノイドにやられたからだけど、俺だって少なからず殺してるし傷付けてもいる!」
「では、何故!見ず知らずのリィナを助けてくれる様な貴方があんな事を?」
尋ねるジュドーを見詰めロイが続けた。
「レジでの支払いで君の指に触れたら……アマサのモビルスーツが撃墜されて落ちて行くイメージを見たんだ!」
「………………!」
驚きを隠しきれないジュドーにさらにロイが続けた。
「それと、女の子…リィナが叫ぶイメージも見えたんだ!そうしたら何か、君が2人を傷付けたような気持ちになってしまって…
…怒りに飲まれて……ケンカしてもこの体では勝てないし……ほんとにつまらない事をした……申し訳なかった………」
驚いて何も言えないジュドーに代わってリィナが言った。
「じゃあ、もう仲直りって事でいいでしょ?2人とも!」
リィナの言葉にジュドーとロイが共に頷くと、その場の雰囲気がとても明るくなった。
セイラは医者として、記憶喪失のアマサを思やり、自分が知る限りのアマサの記憶をたどろうと試みた。
「アマサさんは、リィナとロイさんを医療ボランティアのテントまで運んだ事は憶えてないんですか?」
「それも憶えていないんです。セイラさんの記憶は数日後ベッドで私を診察しているところからなんです」
「アマサさんは私の治療室にリィナを抱えて自分の足で歩いて入って来たんですよ」
ジュドーが口を挟んだ「セイラさんはロイさんには会ってないんだろ?」
「私は女性専門で治療にあたったから、ロイさんは入り口で選別されて他の医師の所に回された筈ね…」
ロイがその時の事を語った。「リィナを抱えて俺が小屋を離れた直後、その小屋にドワッジが落ちてきて…
…ああ、間一髪だな、と思ってたら俺達の真横にアマサが転げて来たんだ…パイロットに
…アマサに大丈夫かって声をかけようとしたらドワッジが爆発して俺は動けなくなったんだ
…その後はジオンの服着た奴に運ばれてるなってのと、
女の子もいっしょに運んでくれているなって、薄っすら分かっただけだった…」
暫く黙って聞いていたハマーンが口を開いた。「あの日、ドワッジで出撃して未帰還になってるパイロットを調べれば良いのだな、
力になれるかどうか分からんがアマサ・ポーラと言う名まで分かっていれば恐らくは…
…もし分かったら連絡しよう」ハマーンがそう言い終ると、リィナがアマサとロイに言った。
「でも…お2人はとても幸せそうですね!」
その明るい声につられてロイがおどけて言った。
「俺、もう怪我で人生諦めてかけてたんだけどな!アマサが来てくれたから…
…障害を持った男と、記憶喪失の女の生活はこの先どうなるか分からないけどさ、
不幸だとは思っていない!」そう言終わると2人はジュドー達の前でキスして見せた。
コーヒーだけなのにお腹いっぱいになったジュドー達は妙に気が晴れた。
もう、ジープに乗って基地に戻る事にした。その戻り道でさっきの神父の乗ったジープと再度すれ違った。
ビッグトレーの所まで戻ると、グワジンの前の遺体袋は無くなっていて代わりに奥の墓地に同じ数の墓が建っていた。
清々しい朝だった。ジュドー達が目覚めると、早朝にも係わらずコックが調理したきちんとした朝食が用意された。
「お早う諸君!私も同席させて頂いて良いかな?」
コーネル大佐も早起きしてジュドー達と朝食を共にした。
暫く皆で談笑した後、打ち上げの時間になった。
ガルダの格納庫から発進して、グワジンの横を抜けた。ブースター付きのGフォートレスは
基地を飛び立つとぐんぐん高度を上げ、間もなくネェルアーガマが周回する軌道に到達した。
昨日と違いミノフスキー粒子も薄く電波状態も良好だった。ジュドー安堵して呟いた。
「ネェルアーガマ補足!向こうも此方を補足している!……やっと安心出来るな…
…度々あんな事が起きたら堪らないよ……もう地球に引き戻されるのはカンベンだよ!」
「今回は大丈夫のようだな……」ハマーンの直感も安全を確認したようだった。
セイラがぽつりと言った。
「もう地球には私達の"忘れ物"が無いって事でしょうね……」
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ネェルアーガマは大気圏を脱出して地球周回軌道、同高度に達したブースター付きGフォートレスの位置を補足した。
「ジュドー達とのランデブーポイントの方向に転進だ!」
ブライトがサエグサ操舵手に航路変更の指示を出した。
「こちらネェルアーガマ……こちらネェルアーガマ……キースロンだ!
ジュドー派手にやったな!まだ暴れ足りなかったみたいだな?
……ん?ダブルゼータ?ジュドーじゃないのか? 」
「こちらダブルゼータ…操縦者はモンスリーだ…また世話になる…誘導頼む!」
「そ、そうか、あんたか…みんな無事か?」
「全員無事だ!」
ハマーンはキースロンの指示にしたがって右の滑走路からネルアーガマ格納庫に侵入した。
狭さに苦しんだジュドーとセイラは格納庫到着と同時にコックピットを飛び出した。
アストナージがダブルゼータの固定作業を完了するのを待って、コックピットからハマーンがリィナを連れて出てきた。
「おじさん!お兄ちゃんのガンダムお願いね!」リィナは微笑んで挨拶した。
「世話になる!ダブルゼータをよろしく頼む!」アストナージと目が合うと無愛想ながらハマーンから挨拶した。
ネルアーガマにリィナを連れたハマーンがダブルゼータで乗り付ける。そして当たり前のように整備を頼まれた
「……ああ、任せてくれ、ちゃんとみておくよ……」そう答えるだけの、何か複雑な気持ちのアストナージだった。
遅れてコアトップのジュドーとセイラがアストナージの所に来て挨拶した。
「久しぶり!アストナージさん!」
「やるな!ジュドー、凄い美人じゃないか!もう違う女に乗り換えたのか?」セイラを見たアストナージは、
ジュドーの首をスパナを持った手でロックして耳元で喋った。苦しそうにしながらジュドーが説明する。
「違う、違うよ!この人はセイラさんだよ、元ホワイトベースの人!」
「えっ!アムロ大尉と一緒に一年戦争を戦ったと言う、あのセイラさんか?」
アムロと聞いてセイラが顔色を変える。その変化を見たアストナージがセイラを試した。
「アムロ大尉はこの艦でモビルスーツ隊を指揮しているんですよ 貴方の事はアムロ大尉から"何回も"聞きましたよ!」
「そっ、そうなの?アムロが……」
『どちらとも取れないな……』
困っているのか、嬉しいのかも分からない微妙な反応にカマをかけたアストナージはジュドーと目を見合わせた。
「そろそろブリッジに行こう」とハマーンが呼びかけて4人が格納庫を後にしようとしたとき、リィナが思い出して叫んだ。
「海賊さんのこと忘れてた!お兄ちゃん!あの人、早く出してあげて!!」
「もう、手遅れなんじゃないかな?」
「酷いこと言わないでお兄ちゃん!」
ジュドーはリィナに言われてからしかたなく動き出した。あの人ならどうなっても悔まれる事もないと考えると、
日頃の行いも大切だと思った。
4人とアストナージが慌ててコンテナを開けると酸欠寸前のヤザンが転がり出た。
セイラが不安そうに言う。「生きているかしら?」ジュドーは確信していた。
「あのオジサンは簡単には死なないよ!助けるの二度目だよ!」
アストナージはヤザンの顔に見て吐き捨てる様に言った。
「サエグサに大怪我させたヤツじゃないか!今度は海賊になったのか!ろくでもねーヤツだな…」
嫌われ者ヤザンは意識を失ったまま衛生兵に運ばれて行った。
「頭から凄い出血してたなー、あいつ今度こそくたばるんじゃないか?ジュドーがやったのか?」
「いや!あれはセイ……」と言いかけた所でセイラの視線を感じたジュドーは言い換えた。「ああ、
首を絞めて来たから俺がぶん殴ってやった」そう聞いたアストナージは「そうか良くやった!
いい気味だな、あんなヤツ!」言切った。
「アストナージさん、サエグサさん治ったの?」
「ああ、ヤザンにやられて暫くグラナダの病院に入院してたがな!ジュドーとは入れ違いに船に戻ったんだよ、
ブリッジでまた繰舵手をやってるから挨拶してやってくれ」
4人が格納庫を去った後、アストナージはヤザンの入れられていたミサイルコンテナに妙な物が見えた事を思い出した。
もう一度コンテナを開けてアストナージは驚きの声を上げた。
「ミサイルコンテナがファンネルコンテナに改造されている?ジュドー達だけでキュベレイからサイコミュ移植したのか?
…ダブルゼータの何処にそんなスペース有ったんだ?」
アストナージは自分の興味からダブルゼータの整備を最優先した。メンテナンスハッチを全オープンしてチェックを開始した。
ブリッジに向かう途中に見た知っている顔はアストナージだけで、
家同然だった懐かしい艦に知らない大人の軍人ばかりいる事に少し寂しさと違和感を感じるジュドーだった。
ブリッジに到着すると、ブライトが4人を歓迎した。何より無事を喜んだ。
「皆、大変だったな!だが、お陰で神出鬼没で苦しめられたサイド4暗礁空域最大の海賊を捕まえられた。
礼を言わせて貰う!ジュドー、ハマーン」
「いや!セイラさんの活躍も大きいよ!こっちこそ、助けてくれてありがとうブライトさん!けっこう危なかったんだよ………」
ジュドーがブライトに礼を返すと、ハマーンもブライトに礼を言った。
「私からも礼を言う……だがブライト、何故こんなにも地球近くに海賊をのさばらせておくのか?」
「今のロンドベルでは力不足なのだ……賊の数が多すぎるのだよ!規模の小さいヤツまで入れるとサイド4の暗礁空域だけで50はいるからな……」
「そんなにいるのか?!」
「ああ、だがその話は後にしよう!病み上がりのリィナに無理をさせてしまった。疲れているだろう?
事件と戦闘の調書を取らせてもらったら直ぐ部屋を用意する」
「だけど連絡船は堕とされてしまった…ダブルゼータの記録だけしか無い、そっちを見てくれ!」
「そうか、格納庫のアストナージに持って来させる!」
ブライトが格納庫の様子をモニターに映し出すと、ダブルゼータにへばりついて不思議そうな顔をするアストナージが見えた。
ブライトの呼びかけにも気がつかず、4回目のコールでやっと通話出来た。
「アストナージ!忙しいところすまんが、至急ブリッジまでダブルゼータの戦闘記録のコピーを持って来てくれ!」
「了解!艦長……ハマーンもそこにいるのかな?」
「いるが……何か?」
「なら、そちらに行ってから聞く…直ぐ行く!」
アストナージとの通話が終了するのと同時にアムロからの通信が入った。哨戒任務を無事完了したアムロがその報告をブリッジに入れた。
「こちらゼータプラス隊アムロ!任務完了!これより帰投します」
ジムV隊と航路の哨戒任務を交代したアムロ大尉指揮のゼータプラス隊の3機が帰艦の途についた。その報告を聞いたブライトは、
アムロには「ご苦労だった早く帰ってこい!ブリッジには懐かしい顔がいるぞ!」と伝え、セイラには黙ってオペレーター席を指差した。
キースロンがオペレーター席をセイラに譲るとゼータプラスのモニターから9年ぶりの懐かしい顔がアムロを労う。
「お疲れ様、アムロ、久しぶりね……」
「なっ?!セイラさん!………相変わらず綺麗ですね……」
「いきなりお世辞が言えるなんて、貴方も進歩するのね?」
「セイラさんの性格はそのままなんですね」
「フフ、早く帰っていらっしゃいアムロ」
「了解!」明るく答えるアムロの胸は昨日の戦闘などより遥かに高鳴っていた。
ブリッジに上がったアストナージは、ダブルゼータから回収したハマーンの戦闘記録をブライトに渡した。
ブライトが記録に目を通している間に気になった事をハマーンに質問した。
「今、あんたに頼まれたダブルゼータを見てるんだが、ファンネルをコントロールするサイコミュは何処に積んだんだ?
見当たらないのだが……あんな巨大な装置を何処にやったんだ?」
小さい声でハマーンが答えた。
「サイコミュはまだ搭載してない……」
「なら、ファンネルの整備は要らないのかな?……」
「いや……6基だけ使ったから、推進剤の残量とエキストラコンデンサーの調子は診といてくれないか……」
「変じゃないか?サイコミュなきゃファンネルは使えない筈だろ?」
「それは……」
アストナージに渡されたダブルゼータの戦闘記録をチェックしていたブライトが驚きの表情でハマーンに尋ねた。
「あんた、サイコミュ無しにファンネル動かせるのか?!」
「せいぜい1基か2基だが……」
小さい声で答えたハマーンだったが、聞き耳を立てていたブリッジの全員が驚いて振り返る。さらにブライトが疑問をぶつけてきた。
「しかし……映像記録を解析して2度ほど見直したが…6基が同時に稼動して、そのファンネル攻撃だけで7機の敵モビルスーツを撃墜しているようだが?」
「それは……その、説明は後で詳しくさせてもらう……今は、リィナも私も酷く疲労しているのだ……少し休ませてくれないか………」
そう言い終るとハマーンがジュドーに崩れかかった。横ではリィナも辛そうにしていた。それを見たブライトは調書を後回しにして、
ジュドー達が休む部屋を検索するため艦内の居住状態のチェックをした。
「困ったな…ジュドー達の紹介してくれた団体客のせいでネェルアーガマは満室だよ……しかたないな、俺の部屋で休め、
狭くてすまんが4人で使ってくれ、追加のベッドは今用意させる…」
「ありがとうブライトさん!休ませてもらう!ハマーンが元気になったら2人で仕事を手伝うよ」
「そうしてくれると助かる!とにかく今はゆっくり休め……」
ジュドーが2人を連れて部屋に消えると、ブリッジの全員がハマーンの操縦するダブルゼータ戦闘記録映像に見入った。
バーザムにビームが命中する度に歓声が起こり、ヤザンのハンブラビが撃墜される映像では笑いが起きた。
連絡艇が撃墜されグワジンで4人が合流してからの出来事はセイラが詳細に報告した。
波乱万丈の冒険談を聞いたブライトはセイラの疲労も心配した。
「上がったり下がったり大変だったじゃないか!セイラも休め!」
「いえ、大変だったのは3人よ 私は大丈夫、一緒に居たと言うだけで何もしてないもの……」
「それにしてもハマーンは異常だよ……サイコミュ無しにファンネル使ったり…グワジンで大気圏突破したり…
…あの状況で合計12機のモビルスーツと1隻の戦艦を撃破して被弾ゼロ……元々人間離れした雰囲気だったが、まるで宇宙人だな……」
「それは違うわ ブライト、ハマーンはとても人間くさい人よ……守りたい人がいるから強いのね……子を守る母のようだわ……」
「地球ではハマーンと話をしたのか?」
「フフッ"男"について一晩語り会った仲よ……」
セイラがそう言い終わったときブリッジ後方のドアが開いた。
「おっ!アムロが戻ったようだぞセイラ!」
戻ったアムロをセイラが迎えた。セイラの前で立ち止まり、ただ懐かしそうに見詰めるだけのアムロをセイラが一歩踏み込んで抱き締めた。
「お帰りなさい!アムロ…」
「また逢えてうれしいですよ、セイラさん!」
ブリッジのクルーは抱き合う2人を見て見ないふりをした。
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格納庫でゼータプラスを降りたケーラとギュセル、通路を歩きながケーラがギュセルに問いかけた。
「大尉と付き合っていたベルトーチカって娘、最近見ないけど船降りたのかい?」
「あれっ?知らないんですか?大尉はベルトーチカにふられちゃったんですよ!」
「ほんとか?じゃあ私にもチャンスが有ると言うことだな?」
「ダメですよ中尉!アストナージさんが泣きますよー」
「でも、大尉ほどの男を袖にするとは、どう言う了見なんだ?ベルトーチカは? 」
「食堂でチェーンとベルトーチカが話しているのを聞いちゃったんですけどね……」
「何か知ってるのかい?ギュセル?」
「アムロ大尉は昔好きだったセイラって人が忘れられないみたいで……いやっ、これ以上は言えないな!」
「もったいぶるなよギュセル少尉、月曜の哨戒任務換わってやってもいいぞ!」
「絶対に僕が言ったと言わないで下さいよ、大尉に嫌われたくないから…」
「分かった!約束する!それで?………」
「何かですね…彼女…大尉が部屋で独りで…してるとこ見ちゃったらしいんですよ
…それで、"セイラさんハァハァ"って言うのを聞いたって言うんですよ、大尉のセイラ・マスって寝言を聞かされた女は多いって噂です…
…それで、もう耐えられないって言ってましたベルトーチカ……」
「それなら……しょうがないかな………」
「アムロ大尉って妙に子供っぽいとこ有りますからね 爪噛んだりする癖とか……」
「そのセイラってのは 何者なんだ?」
「僕も良くは知らないんですけど、昔ホワイトベースで一緒に戦ったニュータイプの女性らしいですよ」
「結局はニュータイプか………『私には永遠にチャンスは来ないな』……」
「何でも今回の騒ぎでネルアーガマに乗り込んできたらしいです!その人!………あっー!噂をすればあの人ですよ!
抱きかかえられてる金髪おかっぱ頭の女性です……間違いないですよ 大尉の机に有った写真と同じですから!」
ケーラとギュセルが見詰める前を、ぐったりしたハマーンを支えて移動するジュドーとリィナがすれ違った。
うつむいて顔の見えないハマーンのことを2人はセイラと勘違いした。
「そうか!アムロ大尉は金髪さんが好きなのか?次は私も金髪にしてみようかな……」
ジュドー達が艦長室の前まで来ると丁度、係りの人達が補助ベッドの取り付け作業を終えて引き上げるところだった。
ジュドーはハマーンとリィナをベッドに寝かし着けると暫くぶりの艦内を彼方此方と見て回った。
「お!ジュドー久しぶりだな…ピザ食うか?」
良い匂いに誘われて食堂室の前までくると、料理長のタムラ少尉がジュドーに声をかけた。テーブルの前に座ると、
シーフードピザとパック牛乳をジュドーの前に並べた。
「試しに作ってみたんだ、味見してくれ!月で養殖したイカとエビだそうだ……」
ジュドーがピザを食べ始めると、それを眺めながらタムラ少尉はジュドーの今までの行動を絶賛した。
"戦争の旗印にされた若い総帥を救い。行き場の無い幼い王女も引き取って地の果て様なコロニーで暮らす。
その若さで何故そんな事が出来るのか?"くどくどとジュドーに尋ねた。ジュドーはピザを食べ終え、牛乳を一気飲みしてから言った。
「美味かった!イカやエビなんて高級食材を使った料理は久しぶりだよ、ご馳走様!………2人の事は……誉めて貰うのは可笑しいよ!
俺はやりたいようにやっただけなんだ!」
「なるほどな……考えて出来る事でもないよな……」
「そう言うこと!」
「そう言えば、ハマーンは何で金髪になったんだ?まるでセイラさんじゃないか後ろからじゃ区別つかない……」
「床屋で間違えられたらしい、早く直したいって言ってた」
「そりゃそうだろうな………それと、今日の晩飯だがな、久しぶりだから何でもジュドーの希望に応じてやるよ…」
「なら!ハンバーグとカレー!」
「またそれかい?!もっと高いモンでも良いんだぞ……」
「それならー、あとサラダも追加する!」
「お!やっと、お前も野菜食うようになったか!いい傾向だな」
「俺の分は要らないよ!ハマーンとリィナが野菜好きだから付けてやって!」
「駄目だ!お前も野菜食え!」
食堂を出て暫く進み、医務室が近くなると消毒薬の鼻を刺す臭いが通路に漂って来た。大勢の怪我人と、それを監視するほぼ同数の刑務隊員で医務室から人が溢れ、通路でも治療が行われていた。酷い光景だった。怪我人の殆どは海賊だった。刑務隊員の一人が叫んだ。
「ティターンズ上がりは手に負えねーな!自決覚悟で暴れやがる!仕方ない使おう……軍医!」
「止むを得ん!分かった!」
刑務隊長に促され、軍医は暴れる海賊達に強力な睡眠薬を次々と打っていた。
ジュドーが通り抜けつつ中を覗き込むと奥のベッドにヤザンも寝むらされているのが見えた。
覗き込むジュドーに気が付いたハサン先生が出て来て、差し入れの梅オニギリを勧めた。
「ほらっ、握り飯でも食って行けジュドー、ハマーンとリィナは海賊ども一段落したらスグ診に行く、少し待ってくれ」
「よろしくお願いします、頭痛だけみたいなんですけど心配だから……」
「ああ、なるべく早く行くよ、それじゃな!……」
ハサン先生は、隙を見ては脱走を図ろうとして、刑務隊と衝突する海賊達に手を焼き、疲れ果てているようだった。
ジュドーがもらった梅オニギリを食べながら、通路を通信室の前まで来た時、いきなり飛び出して来た丸メガネの女性とぶつかりかけた。
「ごめんなさい!……あらっ、ジュドーさん」
「ミリィさん、ネルアーガマに出張ですか?」
「そうなの、上司の命令でデータ収集なのよ、久しぶりねーあっ!お茶……お茶に付き合ってよジュドーさん」
2人は地球が見える展望室に来た。
「あそこアフリカだな、あの辺から上がって来たんですよ!」
ジュドーがそう言うと、ミリィはパックのジュースを渡して微笑んだ。
「どう?コブ付き年上との駆け落ち生活は上手くいってる?」
「嫌ですよー……せめて年上との同棲くらいにして下さいよミリィさん」
「で、どうなの?」
「モンドやサラサも居て楽しくやってますよ、なんの不満もないです」
「それ!ジュドーさん私は今、通信室でムーンムーンのモンドさんと話してたんですよ!」
「えっほんと?!でも…なんで?」
「メガライダーでテストやってもらおうと思ってね…」
「なんのテスト?」
「ほんとは、極秘だけどジュドーさんにもテスト頼みたいから言うわね、昔、一年戦争のときGアーマーって言う支援メカが在ったんだけど、
今度またそのコンセプトを受け継ぐ機体を開発する事になったのよ、ジオンで言うところのモビルアーマーの要素も加味するの、
じつわね第一案のテスト機がもう……いえ、これは言えないわ!」
「でもさ、なんでメガライダーなんかでテストやんの?」
「モビルスーツの支援メカだからよ!」
「戦闘空域で分離、合体出来る必要が有ると言う事?」
「さっすがジュドーさん!そのとおり!この一覧のテスト、完了したら転送お願いね!」
「解った、やっとくよ」
「有難うー、私のお昼だけど…玉子サンドもあげるわ!」
ミリィはジュドーにテスト項目の一覧と、データ収集用のディスクと、食べかけの玉子サンドを渡して通路の向こうに消えて行った。
ジュドーがもらった玉子サンドを食べながら、暫く歩いて格納庫に着くと、アストナージがダブルゼータを念入りに整備していた。
その先のモビルスーツハンガーではセイラが同い年くらいの男に手を引かれ、案内されながらモビルスーツの説明を受けている。
「ねぇ、セイラさん凄いでしょ!今度のガンダムは可変型なんだ!ウエーブライダーに変形すれば大気圏突入も出来るし、
それとですね他にも凄い機能が沢山あるんだ……」
「あっ!ジュドー君!」
少し長くてしつこい、オタクなアムロのモビルスーツ講義に少々うんざりしたセイラは、都合よく来たジュドーを呼び止めてアムロを紹介した。
「ジュドー君!紹介するわ、こちらアムロ・レイ大尉よ…」
「どうも!ジュドー・アーシタです!」
「君がジュドー君か!今回は上がったり下がったり大変だったね」
「アムロさん達の援護で無事に戻れました」
「もう少し僕らが早ければ一往復しないで済んだのにな……何よりも彼女を無事に連れて来てくれて有難うな」
そう言うとアムロはジュドーにウインクした。ジュドーは『なるほど!そう言うことか…で、セイラさんの気持ちはどうなんだろうか?』
そう考えながらセイラの様子を盗み見ようとしたが、いつの間にかセイラはアストナージの所にいて表情は読み取れなかった。
「はい、どうぞ……」
セイラはアストナージの所からパックのコーヒーを持ってきて2人に手渡した。3人はコーヒーを飲みながら格納庫をダブルゼータの方に移動した。
アムロがダブルゼータを見詰めながらジュドーに言った。
「今は、君が一番いいガンダムに乗っているんだな……少し羨ましいよ」
ジュドーは飲みすぎで"ゲップ"をしてから言った。
「アムロさんの乗っていた、あのゼータプラスって新型は良くないんですか?」
「あれは基本的にゼータガンダムなんだよ、上からガンダムが禁止されてしまったから妙な事になっている。
君のダブルゼータガンダムだって今はダブルゼータプラスと言う名で上を誤魔化しながら部品を調達してるんだよ」
「そうなんですか?知らなかった!ストックの部品が尽きたらそれで終わりだと思ってました」
「一昨日の活躍を見たらブライトやアストナージがそんな事させないよ!」
「でも、あの活躍……あれはパイロットですよ!あまり無茶して欲しくないんですけど……」
「そうだ、誰なんだい?凄いパイロットじゃないか!3分も経たずに12機のモビルスーツと、1隻の戦艦を沈めるなんて只者じゃあ無い!」
それを聞いたセイラは笑いながらアムロに言った。
「ウフフ、アムロだって昔、サイド6で全く同じ戦果を上げたじゃないの、忘れたの?」
「何機かはセイラさんのスコアだろ、それに内容は大違いだよ!戦艦の乗員は全員無事だし、
モビルスーツのパイロットも半数を殺さずに墜すなんて人間技じゃない!何者なんだい?ジュドー君!」
「それは…そのー」
「モンスリー・アーシタ!ジュドー君の"身内"よアムロ!」
「女性なのか?」
口ごもるジュドーに代わってセイラが誤魔化してくれた。その場は姉で通した。
アムロは女性の方がニュータイプ能力が高い事を本能的に知っていたから返って簡単に信じた。
ララァのような女性を思い浮かべてジュドーに訪ねた。
「会えるかな?」
「今は疲労から体調を崩して寝ています、数日で良くなると思いますけど……」
「そうか……実は、君達2人に僕達との模擬戦を頼みたいんだが……」
「何故です?」
「最近入手した情報によるとアナハイムのサイド3よりの部署がどうも…失われたファンネル技術を復活させようとしてるらしいんだ…
…それもかなりのレベルまで到達しているらしい……いきなりサイコミュ兵器を使う敵と遭遇するのは我々ロンドベルとしても避けたいんだ…
…モンスリーさんの活躍を見せられたら空恐ろしくなったよ!」
「ファンネル攻撃の対処法を開発したいと………」
「そうだ、そのデータを取らせて貰いたいんだ…多分、現時点でファンネルを使えるニュータイプは彼女だけだろうから……」
その場にアストナージも来て、100%ビーフハンバーガーと、お茶をジュドーにプレゼントしてから、アムロと同様にジュドーに頼んできた。
「昼飯の残りで悪いが、これ!美味いから食ってくれ!俺からも頼むジュドー!
何回かハマ、いやモンスリーの戦闘の映像録見ながらアムロ、ブライト共、話し合ったんだがな、
対策も無しにどこかのパトロール中に、彼女みたいのに出会ったら俺達はこの世とオサラバなんだよ……」
「俺としては協力したいけど彼女…今、そのファンネルのせいで酷い頭痛みたいなんだ…
…またファンネルなんか使ったらどうなるか分からないから…無理だよ!」
「いや、原因は解っている!サイコミュ無しでファンネル飛ばすような無茶したから頭痛を起こしたんだ!
もうサイコミュは搭載した!ハマ、いやモンスリーには負担は掛からない!さらに模擬戦の前には彼女に合わせて調整する!
少しでも頭痛が出たら中止するから頼むよ……」
「でもアストナージさん、なんでネェルアーガマにサイコミュなんか有ったんだ?」
「……プルとアルパのだよ………ダブリンの残骸とルーが拿捕したエンドラ級巡洋艦の部品の2個イチだよ…」
「……そう…それなら安全だな…調整もいらない筈だ…俺から頼んでおく……」
「そうか!助かる……ジュドー」
「それ……見せてくれないか?」
「何を?」
「彼女のサイコミュ……」
「ああ、半導体製の大型アンテナだけだから面影無いけどな……」
ジュドーはアストナージとダブルゼータの背中に取り付いて、追加装備されたサイコミュの説明をあれこれと受けた。
その時、事故が起きた。ジュドーが使い方の説明を受けようと座席に着いたとき、サイコミュが暴走したのだ。
格納庫内でモビルスーツの整備をしていた作業員達が逃げ惑い叫ぶ。
「無茶はよせー!格納庫でファンネル飛ばすなー!」
いきなりコンテナからファンネルが飛び出し8基のファンネルが縦横無尽に飛び回った。アムロやセイラ、
作業員達が逃げ惑う阿鼻叫喚の格納庫内を2分ほど飛び回って勝手にコンテナに戻って行った。アストナージがジュドーを怒鳴りつける。
「ジュドー馬鹿野朗!なんて事すんだ!被害が無いから良い様なもののマッタク……」
「何見てたんだよ!俺はさっきから何にも触っちゃいないぜ!」
言い返すジュドーは最初から腕を組んで座ったままだった。ジュドーに道理が有る。
「そう言えばそうだよな!なにしろ主電源が入っていない!どうしたんだろう?俺の整備ミスかな?」
アムロとセイラも駆け寄って覗き込む中でアストナージが頭を抱えながら言った。
「今のは俺の責任だ!数日徹夜してでも原因を調べとく!けど、多分…
…ジュドー達のいる間にテストをするってのは無理だな危険過ぎる……すまん、残念だが諦めてくれアムロ大尉……」
ファンネルの動きを冷静に観察していたセイラが少し微笑んで言った。
「モビルスーツの間を縫って飛んだり、頭の周りを回ったり、人の顔を覗き込むようにしたモノも有ったわ!
今のファンネルの動きだけど……子供の悪戯のようだったわね、そう思わない?」
セイラに頷くジュドーには、思うところが有った。
「俺はアノ動き見覚えがあるな!挨拶がわりだよ!久しぶりって……サイコミュの機能に問題は無い!間違いなく大丈夫だよ……それじゃ!」
そう言い終るとジュドーは妙に嬉しそうに、100%ビーフハンバーガーを食べながら去って行った。
「何を別けの分からない事を言っているんだジュドーの奴は?」
技術者のアストナージはジュドーが何と言おうと原因を調べ無いではいられない。
2度と暴走し無いよにファンネルをワイヤーで縛り上げてから座席に座った。
ありとあらゆるスイッチを押したが、まるで無反応だった。配線も全て調べた、
誤配線も接触不良箇所も無く、狐につままれた気持ちだった。
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ジュドーが部屋に戻ると、2人は少し顔色が良くなっていた。食事を取らせようと誘うと。
ハマーンもリーナもベッドから動きたく無いと言うのでジュドーは厨房のタムラ少尉に頼んでポタージュスープをポットに詰めてもらい、
食器ごとワゴンで部屋に運んだ。
「ほら、少しは飲んでくれよリィナ……」
「私は大丈夫、自分で出来るから……お兄ちゃんも飲んだら?」
「俺は……もう腹いっぱいなんだ……ちょっと苦しいくらい」
「そう……なら、私よりハマーンさん…辛そうなの、見てあげてお兄ちゃん」
「じゃあ、このスープだけは全部飲めよな!」
「うん、」
リィナの心配どおり、ハマーンの方が重症だった。
起き上がる気力も無かった。ジュドーが背中に手をやって彼女の体を起こして食事もジュドーが手伝って、やっとスープを飲ませた。
「いつもすまないな……ジュドー」
「ばかっ、年寄りみたいな事言うなよー、俺が看病したのモウサ脱出の時だけだろ?」
「うふふ、丁度、そのときの事を思い出していたんだよ……」
「ハマーンらしくないな、弱気だし少し混乱してるみたいだよ?」
「心配しなくていい、頑張り過ぎると一日二日こうなるのさ、こんな事はニュータイプ研究所で何回も経験済みだ…
…今回はリィナが助けてくれた……休めばすぐ治る…それにジュドーに食べさせてもらったら元気も出てきた……ありがとう……………」
ハマーンはそう礼を言うと、ジュドーの胸にもたれ掛かったまま、また寝てしまった。ジュドーは背後で寝たふりをしているリィナが、
実は被った布団の中からドキドキしながら此方の様子を見ているのを感じていた。教育上良くないと思いながらも、
良い匂いがしてほんのりと温かい彼女の体を抱く腕は広げる事が出来なかった。
眠るハマーンの体を抱きながらもジュドーはサイコミュについて考えを巡らせる。
「ファンネルを動かすのってそんな大変なのかな?いや、サイコミュが無い状態でファンネル動かしたからか?
でもなんでハマーンのファンネル操作でリィナまで疲労したのだろうか?」
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食堂では夕食を終えたセイラとアムロが、近況を報告し合いながらお茶をしていた。嬉しそうにするアムロが盛んとセイラに話しかける。
「セイラさんネルアーガマの食事は口に合いましたか?」
「とても、美味しかったわ……でも……ハンバーグにカレー、デザートはバナナミルクでは、まるで中学生の作った献立ね、いつもこうなの?」
「そんな事もないけど、僕はセイラさんと食事出来れば何でも美味しく感じますよ」
「フフ、あの暗いアムロが私にお世辞を言ってくれる様になるなんてね……」
「暗かったですか僕?でも今のは、お世辞じゃ無いですよ……」
「どちらでも嬉しいわ、アムロ……でも、そろそろ本題に入ったらどう?」
上目使いにセイラを見上げながら、少し恐れる様な表情でアムロは言った。
「……セイラさんは……何で……今になって宇宙に上がって来たんですか?」
「聞かなくても気が付いているのでしょう?アムロはニュータイプですものね……貴方と同じ理由よ」
「そうですよね……セイラさんは……その、…妹ですからね………」
「でも、この話は人の居る所ではしたくないわ、貴方の部屋に誘って頂けないかしら?」
「えっ!でも……いいんですか?」
「私では嫌なの?」
「えっ?もっ、無論!セイラさんなら嬉しいです!ごっ、5分待って来てくれますか?
5分この食堂で待ってから217号室に来て下さい!2階の奥ですから、それじゃ5分後に!」
「部屋を片付けますから!」そう言って、嬉しそうにしながら慌てるアムロに、セイラは微笑みながら
「私に見せられないモノでも有るのかしら?」と言った。アムロは、「そんなモノ有るわけ無いじゃないですか!
散らかってるだけです!」と言い切って席を立った。
アムロは自室に駆け込むと、ベルトーチカやチェーンの写真など昔の女の匂いのするものを全て一番下の引き出しに放り込んで鍵をかけ、
ホワイトベース時代のセイラの写真を机の上に置いた。
そして、いざと言うとき戦況の変化に対応出来る装備を一番上の引き出しに確認した。
少し遅れてセイラが来ると、彼女を自室に迎えた感動に浸った。セイラは憧れだった。
しかし当時のアムロにはセイラの孤高とも感じられる雰囲気を乗り越えて、親しく付き合う勇気も器用さも無かったのだ。
セイラはアムロの部屋に入ると自分からドアを閉めた。
セイラは、その青い瞳に見つめられて動けないでいるアムロに自分から近付き、抱き締め、唇を重ねた。
積極的なセイラを抱き止めながらも後退るアムロの両脚がベッドで止められると、
セイラがアムロを押し倒す形で2人は抱き合ったまま倒れ込んだ。長年の思い人、
セイラの魅力に包まれ恍惚状態になるアムロだった。しかし、アムロの直感は肉欲に任せてセイラを抱く事を許してくれなかった。
突然に、全くの、意識の外から来たセリフを言った。
「セイラさんお願いですから、モビルスーツに乗るとだけは言わないで下さい、それだけは………」
びくりとして、アムロを誘惑する動きを止めたセイラが言う。
「貴方には隠せないわね……私…もう一度連邦軍に…いいえロンドベルに入隊しようと思うの…兄を止めたいの
…貴方ほどの力は無くても…直接戦う力が欲しいのよアムロ!」
「……それは、僕に任せて欲しい……セイラさんは直接戦ってはいけない………」
「覚悟を決めて…地球の生活基盤を捨て…貴方やブライトを頼ってここまで来た私を追い返すと言うの……アムロ?」
「そこまでは言ってない…来てくれて嬉しい…いや!ずっと傍に居て欲しい、昔の様に………」
「でも……私、アムロだけを最前線で戦わせて、船で帰りを待つなんて嫌よ!」
「これは、セイラさんのような意識の進んだ女の人から見れば、原始人の様に思われてしまう事かもしれない、
も解って欲しい、男同士の戦いに、近しい女性に入り込まれて台無しになるなんて事、負けて死ぬより辛い事なんです」
「………………兄に………その思いをさせたと言うのね?」
「…………そうです…………繰り返す事は避けるべきです」
「そう………思い出したわ……兄と、確かララァってニュータイプ……トンガリ帽子のときよね……」
「そうです……しかも、そのララァまで失って……あの時のシャアは自分が死ぬ方が何倍も楽だと感じた筈です」
「…………解ったわアムロ……兄妹なのに……私が鈍かったようね……」
「なら、後方に回ってくれますね!セイラさん」
「そうさせてもらうわ、貴方が全力を尽くせるようにバックアップさせてもらうわ!」
「良かった!これで貴方を抱ける……」
「………来て!アムロ!!」
一緒に兄を殺してくれと願い、その代償のように男に抱かれる。酷い妹だと思いながらも甘美な世界に落ちて行った。
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「お兄ちゃん?ちゃんと歯を磨いた?」
「あっ、忘れてた、今から磨く………俺の事はいいからリィナは早く寝ろよ、もう遅いんだぞ!」
「ねえ、セイラさんどうしたのかしら?一度も部屋に戻らないけど……」
「リィナ……夜の…大人の事は気にするな、人にも言うなよ……子供は寝なさい」
「何よ!大人ぶって!解ったわよ……寝るわよ!」
その夜、4人用に借りたブライトの部屋にセイラが戻る事は無かった。
ベッドの中でハマーンが微笑みながら思った。
『フフ、セイラは上手くやっているようだな……』
同時刻、ブライトはようやく一日の仕事を終えて、遅番のトーレスがブリッジの全てを引き継いだ。
「トーレス後は任せた!私は休ませて貰う」
「了解!後は任せて下さい……お休みなさい、艦長」
「そうだトーレス……お前の部屋を貸してくれないか?俺の部屋はジュドー達に貸してしまったんだ……」
「すいません艦長……俺の部屋はキースロンとサエグサと後何人かが使って満員なんです、2人の部屋は海賊達の収容に回されたから…
……そうだアムロ大尉の部屋に行ったらどうです?艦長室並みに広いですし……」
「そうだな……グラナダで海賊達を引き渡すまでアムロの部屋に泊めてもらうか……」
しかし、5分後にブライトはブリッジにも戻ってきた。不思議に思ったトーレスが尋ねた。
「どうしたんです?艦長?」
「何でも無い!ここで寝ることにした!」
不機嫌そうに戻って来たブライトは、倉庫から持って来た毛布を器用にたたんで寝袋のようにすると、
キャプテンシート下の影になるリクライニングシートを選んで横になって休んだ。
けれどアムロの部屋で見た光景が気になって寝付けそうに無かった。『アムロの奴!
やるときは鍵くらいかけろって言うんだよ!目に焼きついて寝むれやしない!まったく!…
…しかし……ちょっとエマリーのに似てたな……セイラ胸…・・・角度とか……』
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昼から眠り続けたハマーンは深夜に目が覚めた。まだ少し頭痛が残るのでもう少し休もうとするが、眠れない。
少し艦内を散歩でもしようとベッドを離れた。横の簡易ベッドではジュドーが、その向こうではリィナが熟睡している。
セイラはいない。眠るジュドーに軽くキスしてから、静かに部屋を出た。
『あんなにも憎かった敵艦で、こんなにもリラックス出来るとはな……』
そんな事を思いながら、通路を食堂へと向かった。
食堂でパックの牛乳をもらうと、何処か眺めの良い所で飲みたいと思った。この艦で眺めの良い場所を想像したとき、
ふとハマーンらしからぬ思いがよぎった。
『元ネオジオンの総帥は、夜中に勝手な気紛れを起こして元エゥーゴ戦艦のブリッジに入りこめるモノだろうか?』
ハマーンはエレベータに乗りブリッジに上がった。何の障壁も無く自室に入るが如くドアが開いて、ハマーンが入るとトーレスがハマーンに声をかけた。
「眠れないのかい?」
「昼寝しすぎてな……ここで星でも眺めさせてもらおうと思ったのだ……良いかな?」
「なら、ブライト艦長のキャプテンシートに座るといい……眺めがいいから」
「ありがとう……」
ハマーンはキャプテンシートに座ると、持ってきたパックの牛乳の封を切って飲み始めた。
元敵艦の艦長の椅子で星空を眺めてリラックス出来る自分に呆れた。牛乳を飲み終わるり視線を感じて下を見ると、
不思議そうな顔で自分を見つめるブライトが毛布に包まっているのに気が付いた。
「すまん!ブライト、勝手をした!」
キャプテンシートの主が真下のオペレータ席にいるのに気が付き慌て退こうとするハマーンを、
そのままでいるように引き止めてブライトが話しかけて来た。
「この船の艦長はホームレスなのさ、おまえ達に部屋を譲った後、当てにしていたパイロットの部屋に先客が居てな…
…ハマーンはセイラに何を話したんだ?」
自分を見上げ、ぼやく様に尋ねるブライトの表情から、ハマーンは彼が体験したであろう事情を察して可笑しさを堪えた。
ハマーンはブライトの質問に答える前に一つ確かめたい事が有った。セイラほどの女が何年も気にかける男とはどんな人物なのか、
ニュータイプである事は間違い無いと思いつつも他には知る由も無いのだった。
「そのパイロットとは何者だ?」
「アムロ・レイ……直接は戦った事は無いだろうが、名ぐらいは聞いているだろう?今は大尉だ……」
「あの一年戦争のエースか!……なるほどな……」
「今この船に乗っているがハマーンはまだ会ってないんだったな、明日にでも紹介しよう」
「そのアムロはセイラとはどう言う関係だったのだ?」
「セイラはアムロと一緒に戦ったのさ、戦いを好まない性質だからスコアはアムロ程では無かったがな
…それでもホワイトベース隊ではアムロに次ぐ撃墜数だった、黒い三連星の一機を撃墜したのも彼女だよ、」
「でも、何故、一年戦争で連邦を勝利に導くほどの活躍した男女が互いを思いながら別々だったのだ?」
「まあ、第一の理由はどっちも不器用だと言う事に尽きるんだが…
…目立ちすぎたんだよ、戦後ニュータイプは連邦内でも警戒されたからな、
事実アムロはエゥーゴが地球に降下するまで幽閉状態だったよ、セイラは自由だった。だがそれは、
アムロがセイラを自由にする事を条件に幽閉生活に甘んじからだ、それに彼女の兄が金塊をセイラに送ってあったからな、
それで政治的な買収工作もできた事も幸いしたな……」
「ブライトはシャアとセイラの事は知っているのか?」
「その金塊を受け取ったときに彼女の口から聞いたよ」
そこまで聞いたハマーンはブライトにどこまで話すか決めた。地球でセイラに話した一部をマイルドな表現に変えて話した。
「セイラは……シャアが戦争を始めたら、止める責任は自分に有ると決め付けている。
少し背負い込んでいる。余りに自分を追い詰めているように感じたので、私は一緒に背負ってくれそうな男がいるとも聞いて、
それなら"話"をして見るべきだと勧めただけだが………」
ブライトは思った。『そうか……苦労症はまだ治っていないのだな……セイラのやつ』
ハマーンとの話にも飽きて来て、眠くなって来た。
さっきアムロの部屋で見てしまった光景をもう一度だけ思い出すと、いいかげんな事を言って毛布を被った。
「なるほどな、それで2人は汗だくになって"話合って"いたのか……」
ブライトが、寝入って2時間ほどして、その目を覚ます"傷害事件"がブリッジで発生した。
シャワーを浴びに行くと言って部屋を出たセイラが、いつまでも戻らないのでアムロは、全力を尽くした筈の自分の行為に、
何か至らない部分が有ったのではないかと心配になった。
ブリッジまでセイラを探しに来た焦るアムロは、キャプテンシートに座るハマーンの後ろ姿をセイラと勘違いした。
アムロはハマーンに優しく声をかけた。
「こんな場所でどうしたと言うんだい?」
そう言うとハマーンを後ろから抱いて金髪を吹き分け、首筋にキスをした。ハマーンの首筋に鳥肌が立ったのを見てアムロが言う。
「また、感じちゃった?」
すっくと立ち上がり、振りかぶったハマーンはアムロの顔面に容赦の無い右ストレートを打ち込んだ。
「この!俗物がー!!」
「バコッ!……ドスッ!」
アムロの体はブリッジ後方の壁まで飛んで叩き付けられた後、跳ね返って天井にぶつかってそこで止まった。
アムロの甘ったるい声と、ハマーンの罵声と、鈍い打撃音に、人が天井にぶつかる音、寝起きのブライトがもうろうとした目で見上げると、
キャプテンシートに仁王立ちするハマーンの睨む先、無重力の天井付近に鼻血を吹き出して漂うアムロの体が有った。トーレスが言った。
「あーららっと、あの髪型と色は紛らわしいと思ったんだよ……」
不眠不休で働く医務室に負担をかけるには、アムロのケガは色々な意味で低レベル過ぎて申し訳ないとブライトもトーレスも思った。幸い、
騒ぎを聞きつけて来たセイラがアムロを診た。セイラが悲しそうな声でハマーンに抗議する。
「ハマーン、気絶するほど強く殴るなんて酷いじゃない!もう少しで鼻骨を折るところよ!」
「すまない…セイラの彼氏とは知らなかったのだ!しかし、条件反射だった、見知らぬ男に後ろから抱き付かれ首筋にキスされたのだから……」
セイラが濡れタオルを額に置くとアムロの意識が戻った。
「アムロ!大丈夫?」
「あっ、セイラさん……刻が見えたよ……ララァにも逢って来た……まだ来るなって……」
○o。. キター-----!! .。o○
○o。.(・∀・).。o○
○o。.☆.。o○
○o。。o○
今回はコメディタッチですか?
大いに笑かしてもらいましたw
このアムロは八頭身ですか?
アムロがエロヒ(´A`;)
キタ━━━ヽ(゚∀゚)ノ━( ゚∀)ノ━( ゚)ノ━ヽ( )ノ━ヽ(゚ )━ヽ(∀゚ )ノ━ヽ(゚∀゚)ノ━━━!!
へ ) ( ノ ( )ノ ( ) へ ) へ ) へ )
> > < < < > >
アムロ GJ!
保守
おや? 誰もいない?
ほっしゅです
おい何時まで待たせる気だ
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/└-.二| ヽ,ゝl
l ,.-ー\/. 、l
| /.__';_..ン、 アタシ待〜つ〜わ♪
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//--─'( _●_)`ーミヘ
<-''彡、 |∪| 、` ̄ ̄ヽ
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(___) Y_ノ
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いつまでも ま つ わ〜 ♪
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何時も読んでいただき有難うございます。見直しに時間を取られました。それでは続きです。
10/27ハマーン様専用アッガイ
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「そうか!助かる!ハマーンが模擬戦に協力してくれれば膨大なデータが揃う、サイコミュ兵器を使う敵に襲われた時に慌てないで済む」
「ブライト達には大きな借りがあるからな……それにまだ、お前達に死なれては困る」
二日休んで元気を取り戻したハマーンはジュドーに頼まれ、自らブライトに対ファンネル戦闘を研究するための模擬戦へ協力を申し出た。
無論、対戦相手はアムロ大尉の部隊である。
アナハイムのジオンサイドの部署が、失われたサイコミュとファンネルの技術を蘇らせようとしていると言う情報を得たロンドベル隊は、その
対応に苦慮していた。一年戦争以来、サイコミュ兵器に遭遇した部隊と言うのは、稀な例外を除きその殆どが壊滅しており、その膨大な損
害に比較してデータの蓄積は乏しく、未だ有効な対応策が確立されてないからだった。
その稀な例外は全て、第13独立部隊など友軍のニュータイプの活躍によるモノで、通常部隊がシステマティックにサイコミュ兵器に対抗し
た事例は無いのだった。
つまり、現状のパトロール艦隊がアムロ大尉不在の場合、サイコミュ兵器との遭遇は、部隊の壊滅を意味した。
ハマーンはそれを理解してブライトの頼みを受けた。それは、シャアが最新試作型ザクVの両肩にファンネルを装備してテストしている事を
知りながらも、ブライトには未だそれを伝えられない事への代償でも有った。
「いつやるのだ?」
「本日14:00時の予定だが、どうか?」
「機体の種類と組み合わせ、戦闘空域の設定は?」
「当然ハマーンはダブルゼータでファンネルを積極的に使ってもらう、ジュドーは予備のゼータプラスで、その対戦相手はアムロのゼータプ
ラス小隊3機だ、2対3だが……ハマーン・チームに負担が大きいかな?」
「笑止な!私の使うファンネルを舐めてもらっては困る!ニュータイプの乗るモビルスーツ1機として計算してくれてよい、10対3以上だ!
もっと増やせ!勝負にならん!いくら私が手加減してもデータ収集の間が無い!瞬間で終わると思うが?」
そのハマーンの強気な言葉に激怒したギュセル少尉が不快な表情を顕著にしながら言う。
「生意気な女だ!海賊なんていくら撃墜しても自慢になんかならんぜ!いい気になんなよ!」
ハマーンは薄ら笑いを浮かべて言った。
「ならば、お前には一番最初にファンネルの味を教えてやろう……」
「言うじゃねーか!やって貰おうじゃないの、俺はギュセル少尉!機体番号03のゼータプラスだ!」
「お前の名などいい、一番トロイ奴から墜とす!それで約束を果す事になる……」
「なんだとー!!貴様!言わせておけば!」
ハマーンは最近すっかり忘れていた"謀略モード"を全開にして"嘲笑"も使ってみた。
ギュセルはハマーンの嘲笑が悔しくて、両脇をアムロとケーラに押さえられて地団駄を踏んだ。
アムロはギュセルの頬を軽く張って言った。
「もうゲームは始まっているんだ!乗せらているんだよギュセル!」
「ほー、猫ばかりと思ったら虎も一匹まじっているようだな、だが此方は二匹だ……どうするのかな?」
ハマーンはジュドーがこの場に居ない事を良い事に、"嫌な奴モード"も全開にしてみた。
楽しくてしょうがなかった。
ケーラは悔しくて涙目になるギュセルを見て『なるほどな!これで午後の対戦…
ギュセルは正常な判断など出来んな…』ハマーンの見事な目狐ぶりに感動すら覚えた。
ブライトは、この状況を見て呆れた。『これでは、戦う前から勝負有ったな……』と思い、
この部隊でアムロに次ぐ実力のパイロットの素養を憂いながらもブリーフィングを再開した。
「解ったよ!模擬戦の戦力比は、午後一番のハマーンとジュドーの戦闘能力査定後に検討しよう!
その結果をみてモビルスーツを増やす、状況設定だが、武装勢力基地の掃討作戦を想定したモノになる。
ハマーン・チームには敵秘密基地に見立てたサイド4の廃コロニーに立て篭もってもらう。
つまりロンドベルの取り締まり対象をやってもらう。
指定空域内に24基有る廃コロニーのどれに隠れているかはアムロ達には隠される。今、
アストナージ達がその場所に仮設の基地を建設している。生きた動力炉や多少の武器が
セットされているから1キロ以内に接近すれば探知出来る筈だ。
アムロ達はハマーン・チーム2機を行動不能にして基地を押さえれば勝利、
アムロの隊が作戦遂行不能になればハマーン・チームの勝利だ!……
……それとだな…突然のタイミングで本部から届いたばかりの新兵器と、
奇抜なアイデアが戦闘中に試される事になっている。詳細は言えないがあらゆる状況に真剣に対応してもらいたい!
では諸君!12:30までに昼食をすませてモビルスーツデッキに集まるように!解散!」
ブリーフィングルーム横の喫茶室では、ハマーンは紅茶を注文して、
遅れて来たジュドーはパックの牛乳を飲んでいた。
「ジュドー何故、模擬戦のブリーフィングに来なかったのだ?私が説明しようか?」
「ゼータプラスの取り扱い説明をシミュレーター室で受けていたんだよ!模擬戦の概要もその時教えてもらった」
「そうか、なら良い……」すまし顔でそう言うと、ハマーンはウェイターが置いていったティーカップを静かに傾けた。
紅茶を飲む、その口元に浮かんだハマーンの微妙な笑みをジュドーは見逃さなかった。
「フフ、ハマーンはなんか、とても楽しそうだよ……」
「解るか?ジュドー」
「解るよ、俺の心まで弾んでくるもの」
「兵器をもてあそぶなど、誉められた事ではないのだがな、今の私には他に自己の表現方法が無い、
それに今回の戦いでは人は死なん、スポーツの様なものだ!それをジュドーと組んで出来るのだからな!
どうしても胸が躍ってしまうよ、」
「ブライトさんに頼まれての事だしね!」
「そうだ!借りは少しずつでも返さねばな!」
「それと、アムロ大尉ぶん殴ったお詫びでしょ?……大尉は三途の川を渡りかけたらしいよ」
「それは無い!セイラにベッドで優しくされサカッた男が、金髪と言うだけで欲情して私の首筋を舐めたのだ、
万死に値する!涅槃を見るくらいは当然だよ、」
「ほんとか?!ハマーン!!」
「ああ、全身に鳥肌がたったよ!思い出しただけで産毛も逆立つ、ほらっ」
ハマーンの細い指が金髪をよけて、白い首筋を見せると、見事なまでの鳥肌が立っていた。
「許せねー!!……俺のハマーンを!!!」
人目を気にせず大声で叫び、心配してうなじをさするジュドーに、撫でられる猫のように目を細めながらハマーンが言う。
「フフ、嬉しいが…そんなセリフをここで叫ぶのはよせ……兵が見ている」
「アムロ大尉は俺が殺る!!ハマーンは他のモビルスーツを頼む!」
「まあ、いいが……お互いに怪我しない程度にな、アムロは機体番号01のゼータプラスだそうだ」
「そんなのいい!一番動きのいい奴を撃墜すれば、それが首筋のカタキだろ?!」
拳を振り上げて机を叩き、興奮するジュドーの鼻から一筋の牛乳が滴った。
微笑んだハマーンはジュドーに擦り寄って鼻に唇を近づけるとぺロッとそれを舐め取った。
そして耳元に唇を着けて話した。
「アムロは手強いぞ、力みが有っては勝てない……慎重にな」
ハマーンの微調整でジュドーの闘志とテンションは、ほぼ理想の状態になった。
ハマーンの思いがけない行動にジュドーの余分な力みは一箇所だけを残して消え去った。
それを睨む幼い2つの目が在った。
「ハマーンさん!お兄ちゃんで遊ばないで!人が見てます!」そう言いながら、
ジュドーの横に昼食のトレーを持ったリィナが"ドスン!"と座った。
バツの悪そうな顔でジュドーから離れるとハマーンがリィナに詫びた。
「すまん、仕事を前にジュドーに力みを感じたからリラックスさせようと思って……」
「なら、良いです……はいっ、これハマーンさんに……」
リィナは表情を元に戻すと、ポシェットから小さなビンに詰められた薬品を取り出し、ジュドー越しにハマーンに手渡した。
「なんだ?……これは!」
「ヘアカラー落としですって、ケーラさんって人がよく髪の色を変える人で、ハマーンさんへって、くれたんです」
「そのケーラはどうして、そんなことを?」
「尊敬するアムロ大尉がもう殴られないようにって言っていましたけど、どう言う意味なんですか?」
「いや、リィナはそう言う事は知らなくてよいと思う……有難く使わせてもらうとだけ伝えてくれ」
ハマーンはリィナから薬品を受け取るとジュドーを連れ、急いで部屋に戻った。
ジュドーに手伝わせて一刻も早く"呪われた髪の色"を元に戻したかったのだ。
説明書を読んで、手順に従い作業を進めた。最後にシャワーで薬品を流しながら、
ジュドーが慣れた手つきでハマーンの髪を揉むと、見慣れた美しいピンク色の髪が現れた。
「やったー!やっぱり、この方が断然に良いな!」
「あたりまえだ!」
バスタオルで拭きドライヤーで乾かすと、いつものヘアスタイルに戻った。
ジュドーは嬉しそうにピンクの髪を見つめながら周囲を3回ほど回ると、
堪らなくなってハマーンに飛びついてベッドに押し倒した。
「なっ!ジュドー、どうしたと言うのだ?」
「その色を見たら条件反射で……」
「お前は、パブロフか?アムロの事を笑えんな……」
「でも……」
「付き合ってやりたいところだが、後5分で集合時間だよ、ジュドー」
「そうか、せっかくハマーンの髪が元に戻ったのに残念だな」
「そうだ、賭けをしないか?」
「どんな?」
「もし、ジュドーがアムロを倒したら……今夜は"私が"尽くしてやろう」
「おもしろい!乗った!」
「では、モビルスーツデッキに急ごうかジュドー?」
「OK!ハマーン」
アムロの部屋ではセイラがアムロのノーマルスーツの着替えを手伝いながら話をしていた。
「アムロ?ジュドー君達と模擬戦をするそうね……」
「そうなんだ、ハマーンのファンネルはエルメスのビットより素早くて手強そうだけどね…
…カミーユの戦闘記録によるとゼータなら対応出来ない事は無さそうだよ……」
「そう、私にはそう言う事はよく解らないけど、アムロの相手はハマーンではないわ、ジュドー君よ!」
「何でだい?」
「理由は説明し難いけど、教育の為と言うか、彼女の過去の反省と言うか……まあ、そんな所よ!」
「全然解らないよ、セイラさん……」
「ところで、向こうはダブルゼータと……ジュドー君は何に乗るのかしら?」
「僕の予備機、ゼータプラス01Tだよ、もうアストナージがジュドー君用に調整済みの筈さ」
「まさにイコールコンディションね!『ブライトは知っていてやっているのかも知れないわね』……」
「ところで、ダブルゼータってどんな機体なんだい?セイラさんは少し乗ったんでしょ?」
「そうねー、大柄な機体に見えるけど、軽い動きをするモビルスーツだと言う印象を受けたわ」
「僕には、少し設計に無理が有る様に見受けられるな!ビームライフルの後ろに人が乗るなんてさ?」
「私、そこに乗ったわよ…ジュドー君と……」
「えっ!セイラさん!!あんな狭い場所にジュドーと2人乗りしたんですか?!!」
「しょうがなかったのよ!……30分くらいかな?」
「そんなに長時間!!ジュドーに体を触れたりしなかったですか?」
「狭い室内だから多少はしかたないでしょう?」
「えー、それは許せないなジュドー、『僕より先にセイラさんのあんなとこや、こんなとこ!クソッ!
許せ無いな、フフ事故に見せかけて……』必ず!正々堂々と撃墜してやりますよ、セイラさん!」
「フフ、気合が入って来たようね!頑張ってアムロ、ジュドー君も手強いわよ!」
セイラは、そう言ってアムロを励ますと、唇を重ねて少しだけ舌で悪戯をしてみた。
興奮したアムロはセイラをベッドに押し倒した。
その時、集合5分前のアラームが鳴った。
酷く残念そうなアムロにセイラが提案する。
「ねえアムロ……賭けをしない?」
「どんな賭けです?」
「もし、アムロがジュドー君に勝ったなら…今夜も…………いいわよ…」
「いいね!約束ですよセイラさん!」
「それなら、モビルスーツデッキに急いだ方がいいんじゃなくて?アムロ……」
「OK!セイラさん行ってくる!」
「それでは諸君、くれぐれも事故など無いように!実戦だと思って真剣に取り組むように!」
ブライトの合図で各モビルスーツにパイロットが搭乗を開始した。
ダブルゼータのコックピットではアストナージがハマーンと整備の最終確認をしていた。
「ハマーン!お前って奴はとんでもねーな!いつも"あんなモノ"持ち歩いてんのかよ!!」
「いつもでは無い……危険の匂いを感じた場合だけだジュドーやリィナは絶対に守らなければならないからな、」
「……だがな!この模擬戦では外させてもらうからな!ゲーム中の設定上でも無しだ!使わせないからな!いいな!」
「当然だよ!ゲームに、"あんなモノ"使おうなんて思う筈ないだろうが!」
「解っているようだな……なら、Nファンネルは通常タイプに換えた事は文句ないな!……しかし、Lファンネルなんか装備してるのには正直驚いたが……おまえ新兵器の事知ってたのか?」
「ほう、やはり新兵器にはアレが装備されているのか?"たった今"知ったよ!ククッ……」
「クソッ!ハマーンお前やっぱり危険でヤナ奴だな!」
「勝手に自白しといて恨まれても困るな?アストナージとやら!」
「……まあ、仕方が無い!…それも含めて模擬戦での経験は貴重だ……それとな、サイコミュの方なんだがアルパとプルの癖が少し残っているかも知れない、複雑過ぎて内部の方は怖くて触れなかった……他の箇所の整備は万全にしといてやったからな!」
「アルパとプルの癖なら私には問題無いよ……助かる!……ありがとう」
「ああ!気を着けてな!……それとゼータプラス02のケーラをケガさせたら次の整備は、シート下に爆弾仕掛けるからな!」
「フフ、あんな派手なオレンジ頭に惚れたのか?」
「天然ピンクが言うなよ……半年口説いて最近やっと、なびいてくれたんだ……今度の騒ぎで同棲してる……」
「了解した、だがなプライドと機体まで無傷と言うのは無理だと思うぞ!」
「かまわんが……プライドは少し手加減してくれ……機体はどうでもいい!まあ、両方とも後で俺が治す!」
「フッ、それも了解した……そろそろ離れてくれんか?ジュドーが焼餅を焼く!」
間も無く、ハマーンとジュドーがネルアーガマを飛び立ち10分後にアムロ達が追った。
全モビルスーツの発進を見送るとブライトがアストナージに尋ねた。
「ダブルゼータから取り外したファンネルの1基、随分と厳重に保管しているようだが何なんだ?」
「まあ、ハマーンのヤツ、アレを俺達には隠さないんだから……心は開いてくれてるんでしょうがね…でも、やっぱり間違いなく宇宙一危険な女ですよ」
「で、何なんだ?……あのファンネル?」
「ファンネルの形してますけどね!ファンネルじゃ無いんです…あんなモノどこで手に入れて来るんだか……」
「だから!何だよ?もったいぶるなアストナージ!」
「まったく、恐ろしい組み合わせを考えやがる!……"サイコミュ誘導の核弾頭"ですよ……ジュドーやリィナがヤバクなったら遠慮無く使うとほざいてましたよ、ハマーンの奴……」
キタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚ )━( )━( )━( ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━ !!
相変わらずGJです!
GJ!
男を操る女たち・・・(・∀・)イイ!!
早く続き〜っ!!
久しぶりに覗いたけどまだ神降臨中だったか。よかったよかった
読ませるなあ・・
GJです!
ライトシード11/2
続きです。読んでやって下さい。ご意見、ご感想をなどありましたら書き込んでくれると嬉しいです。
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「なんか、すげー嫌な所に置き去りにされちゃったね……ハマーン……幽霊とか出るんじゃないかなココ……」
サイド4の廃コロニー内、模擬戦用基地の周囲を見回したジュドーがぼやいた。
廃コロニーの荒涼とした風景ほどスペースノイドの心を冷やすモノはない。
民家、商店、道路、公園、見慣れた生活のすべてが暗闇の真空、
呼吸すら許さぬ死の世界に捨て置かれているのだ。
その廃コロニーの中の小高い丘、地下に作られた嘗ての防空施設跡が今回の秘密基地だった。
「この景色は辛いかジュドー?」
「そりゃそうだろ?みんなの暮らしの痕跡だらけだ、いろんな事考えちゃうよ…
…ここの人達はどうなったんだろうとかさ……」
「そうなのか?……ムーンムーンなんて生きてる人間より幽霊の方が多いコロニー
に住んでいて何が怖いと言うのだ?」
「確かにさ、ムーンムーンは心霊現象の宝庫だけど、とても暖かいもの…
…ここはコロニーの中なのに外より…暗くて…寒いよハマーン……」
「情けない声を出すなジュドー、後で暖めてやる……ところで……どう言う作戦で行く?」
「フフ、ほんとは作戦もなにもないんだろ?ハマーンにはさ?」
「しょうがないだろ!……相手はサイコミュも無い哀れな量産モビルスーツ12機だけだ!…
…私が見たところ、お前とアムロは同格だ、その唯一のニュータイプをお前がやると言うなら
私には掃除のような単純作業しか残ってない、掃除ならお前の部屋の方が手強いよ……」
「だけど、ブライトさんの話だと途中から新兵器とか試すらしいから油断は出来ないよ…
新型モビルスーツかな?」
「モビルスーツなら、アムロが乗る筈だ……人型ではないな…近いがな………」
「えっ?ハマーンは知ってんの?」
「予想は付く……誰が乗って来るかのかも……」
アムロ大尉の中隊12機はロンドベル隊のマニュアル通りに展開した。対象空域中心に最強の
アムロ大尉のゼータプラス小隊3機が待機して、ジムV3機で編成されたA、B、Cの3小隊が
24基のコロニーを6基ずつ受け持って敵の秘密基地を捜索する。
作戦は敵を発見した小隊が足止めの戦闘をしつつ通報、直ちにアムロ隊が急行する。その後
2小隊を呼び寄せ合流後、全戦力を集中させて敵を撃滅するのである。
『そう言う訓練だからしょうがない』そう思いながらもニュータイプ相手にマニュアル通り動く
GMVの同僚に虚しさを感じるアムロだった。
GMVA、B、C各隊が3基目のコロニー捜査に差し掛かった時、C小隊が当たりくじを引いた。
「ハマーン!来たぞファンネルで仕留めるかい?」
「ジュドー、GMVより先にゼータプラスを最初に撃墜しよう……足の速い奴は広い場所に出す
と厄介だからな…」
「そうか…どうして欲しい?」
「GMVが来る方向と反対の宇宙港から出て補足されてくれ!囮となってGMVでなくアムロ達が
この基地の真下を通過するようにようにして逃げてくれ、最初にゼータプラスをファンネルで落とす!」
「アムロ大尉は取っといてくれよな!」
「馬鹿!アムロはそう簡単に落ちてはくれんよ02か03だよ」
「そりゃそうだ……」
「もう1機のゼータプラスもやったら、信号弾を上げる、GMVを撃墜してから戻れ!私はアムロを
このコロニーの中に誘い込んだら他のコロニーに行く、ジュドーは希望通りアムロと一騎打だ!
他は私が面倒見よう!」
「了解した!それじゃ後でな……」ジュドーはそう言うと暗黒のコロニー内を後方の宇宙港に向かった。
GMVC小隊がコロニーに辿り付いたその時、ジュドーのゼータプラス01Tがコロニーの円筒形
反対端から機体を飛び出させGMV小隊に発見された。ジュドーは機体をわざと見せると一旦
縁に隠れ二キロ半時計方向に移動してタイミングを計ってもう一度飛び出した。
GMVC小隊はアムロ隊に通報すると同時に、基地発見のためセンサー有効半径を最大になる
よう壁面ぎりぎりを僚機が目視出来る程度に広がって飛ぶ、ジュドーはGMVC小隊には基地の
一キロメートル以内に入らないよう(基地が見付らないよう)に囮を演じた。そうする事で当然、
後から来るアムロ隊はGMVC小隊の通らないコースの壁面を、秘密基地を探しながら飛ぶ事
になる。つまりアムロ小隊に基地を発見させるのである。
GMVC小隊が基地を発見しなかった事を確認すると、ジュドーは宇宙港からコロニー内部に戻った。
ハマーンは川向こうの大地をGMVC小隊が通り過ぎた事を感じ取ると、基地のゲート(コロニー側面
に在り直接外壁に出れる)にファンネルを1基だけ残して敵が来る方向の宇宙港に移動してアムロ小隊
を待った。
GMVC小隊がジュドーを追ってコロニー内部に入ると同時にアムロ小隊3機がコロニー外壁を舐める
ように基地を探して飛び始めた。3分の1ほど来たところでゼータプラス02ケーラ機のセンサーが基地
動力炉の反応を検知した。
「大尉!前方980に敵基地発見しました!……あっ皆、避けて!」
ケーラの報告と同時に、基地のゲートが開いて仕掛けられたファンネルが飛び出しビームを放った。
そのケーラの声で散開して、アムロ達は上手くビームを回避して外壁に取り付き、ファンネルの攻撃を
身を低くして避けながら基地に接近した。
時間を経ても攻撃してくるファンネルが1基だけなのを不審に感じたアムロは、あえて機体の回避運動を
せず全力加速させてファンネルに突っ込ませた。単調な動きのそのファンネルをアムロは簡単に撃破
する事が出来た。02と03のゼータプラスは後方からアムロに援護の狙撃が出来るようビームスマートガン
の射撃姿勢で出口付近に狙いを付け、少しずつゲートに接近した。基地のゲートに取り付いたアムロに
後方のケーラが言う。
「アムロ大尉、見たところ、内部と出入り出来るのは両端の宇宙港と、このゲートだけのようです
…居ますかね?」
「行ってみよう!俺が突入する、合図したらケーラ、ギュセルも来い」
「了解!」
「了解です!直ぐ行きますよアムロ大尉、あの生意気なピンク頭!絶対に泣かしてやりましょう!」
アムロは隠れた敵から狙撃されないよう突入直後から全力で不規則運動を続けながら中心に向かった。
「なに!………」
その時アムロは見た。彩光用のガラスの川の外を這うように低く飛ぶダブルゼータの軌跡を、
その軌跡はゲートの外でアムロの合図を待つ02と03のゼータプラスを狙ってコロニーの真反対
から発ったのだ。"ハマーンのダブルゼータはコロニーの中に居ない"こっそり宇宙港から出て
外壁の反対側を隠れて飛び同位地の真反対まで来てこのタイミングを待っていたのだ。
気が付きアムロは焦り思った。
『ヤバイ!02と03の位置からは見えない!2人ともコロニー内部に気を取られている!嵌められた!』
「左からダブルゼータが現れる、迎え撃て!」
アムロは慌てて02、03にダブルゼータ迎撃を指示した。
「えっ?!了解!」
ケーラとギュセルは即座にアムロに指示された方角にビームスマートガンを構え直してダブルゼータが
現れるのを待った。アムロも加勢するために全力加速で再度ゲートに向かった。しかし、ハマーンの策略
の全容をアムロが理解させられたのは次の瞬間だった。
「なんだと!……」
アムロはゲートを挟んでダブルゼータが通過したのと反対側のガラスの川の外に
6基のファンネルの軌跡を見た。
つまり、アムロがガラスの川の外に見たダブルゼータは囮だった。
ハマーンはコロニー内部のアムロにワザと一瞬早くダブルゼータの姿を見せ02、03に
連絡させたのだった。
ハマーンは自機の方向に注意を向けさせた02、03を、一瞬遅く背後から回りこませた
6基のファンネルに襲わせたのだ。アムロは2人に迎撃態勢を取らせた事を後悔した。
「どちらか1機でも生き残ってくれ!」
そう願うアムロがゲートを飛び出して見たものは、パイロットが呆然自失して惰性で
漂う2機のゼータプラス、次にそれを確認する様に自機のモニター上に点灯する02、
03の撃墜信号だった。
「クッ、ダブルゼータは何処だ……そこか!」
ダブルゼータはアムロがビームスマートガンを構えるより早くコロニーの反対側に消えた。
アムロは機体をウェーブライダーに変形させ追った。
ゲームオーバーになったケーラとギュセルは規則どおりに、撃墜された事をブリッジに
自己申告して以降は情報収集作業を担当する。近くに待機する母艦に映像を送る係りである。
ケーラとギュセルがぼやく。
「こんなにも早く撃墜されるとはな……訓練学校では一番だったのに……だからロンドベル
にも入れたのに……クソッ!」
「でも、ケーラ中尉はまだいいですよ……最初の攻撃は上手く回避してファンネル1個落とし
たじゃないですか……ダブルゼータとはビームサーベルで白兵戦もやったし……」
「3秒間だけな……」
「僕なんか、ダブルゼータに飛びかかった直後に終了ですよ……本体が囮とは……後ろか
らファンネルで撃たれた……表示によると、コロニー反対側から来たファンネルにやられた…
…ランドセル貫通パイロット直撃コースだって……」
ギュセルはハマーンの予告通り最初にファンネルで撃墜された。意気込み激しかった分ほんとの
死人のように青ざめていた。落ち込むギュセルに開き直るケーラが語りかけた。
「さ、気持ちを切り替えてカメラマンやろうぜ!……プライドを代価に見せて頂く素晴らしいショーだろ?」
「そうだ、そうだ、アムロ大尉の模擬戦を特等席で見れるんだから考え様によってはラッキーかもしれない……ふぅ…」
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その頃、ネルアーガマの艦底に取り付けられた巨大コンテナの中では、イエローのパイロットスーツに身を
包んだセイラが、ミリィがアナハイムから持ち込んだ巨大メカ"Gアーマー2"のコックピットに座っていた。
ブライト達がセイラを取り囲む様にしている。
ブライトが言う。
「これが新しく開発されたGアーマー2だ基本的にアムロの支援用のメカだが、単独でジオンで言う所の
モビルアーマーと同様の運用が可能だ!航続距離、連続加速性能、対艦、対要塞攻撃能力は
モビルスーツの比では無い!」
セイラが言う。
「巨大な物ね格納庫にも入り切らない……でも、それってアムロを敵の中に放り込んだら、私は遠くから
大砲を撃っていろって事でしょう?……私も出来ればアムロと同じモビルスーツが良いのだけれど……」
ミリィの意見は、
「アムロさんにスペアの武器を渡したり、パイロット負傷時や、機体損傷時、艦まで運ぶ役目もあります、
アムロさんと息が合ったセイラさんの支援が、結局アムロさんを長生きさせるんです!」
「そうだ!アムロ本人の希望でもある!乗ってくれセイラ」
「アムロの……そうだったわ……楽をさせてもらうわ……」
「それでは詳細は…アストナージ!説明してやってくれ……」
「開発コンセプトは一年戦争当時のRX−78を支援する為の試作メカGアーマーの強化発展型です」
「それなら2度ほどアムロと乗った事があります。ドッキングがとても難しかったと記憶しているわ」
「その辺りは改善される予定です、また、技術革新により機能、外見とも別物で総重量500トンと大型化して
います。特筆する機能としてはサラミスタイプ2隻と同等の出力の大型融合炉搭載によりモビルスーツでは
不可能なIフィールドを装備している事です。これによりアムロ大尉のモビルスーツをビームから守り確実に
戦闘空域に送り届ける事が出来ます、何よりアムロ機損傷時の撤退に最大の威力を発揮します。
動けなくなった戦闘空域内のアムロ機の下に重装甲とIフィールドに任せて強行進入、収容、撤退出来ます。
よって大尉の生還率を大幅に上げる事が可能です。武装は戦艦クラスの主砲1門と、対空ビーム4門、
バルカン2門、ウエポンコンテナには各種ミサイルとアムロ大尉のスペアの武器などを多数多種類収納可能
になっています。最後にGアーマーには無かった大型クロー2基が接近戦とAMBACの為に装備されています」
酷く不安げにセイラはアストナージに言った。
「武器だけでも、随分と種類があるのね……私に使いこなせるのかしら……」
一度に多くを言い過ぎたと反省したアストナージは、今回はシステムの多くがオートにしてある事を説明して
セイラを安心させようとした。
「対空ビームは今回完全にオートにしておきました。他も操作や操縦の多くをオートにしてあります。それと、
モビルスーツの収容システムはまだ完成していないので、装備されていません…操作はモビルスーツより
簡単にな筈ですから大丈夫ですよ!」
一通り説明が終わっても小型の戦艦のような巨大戦闘メカを前にしてセイラはまだ何処か不安げだった。
「私に出来るのかしら?」
「コアブースターでは初陣で3連星のドムを1機撃墜したじゃないか!セイラなら出来るさ!」
「あの時は必死だったから……」
「それに今回は模擬戦だ、気楽に、遠慮なくジュドーもハマーンも撃墜して来い!」
「そうね!練習ですものね!やってみるわ!」
「その気になってくれたなら、早くゲームに参加してくれ、データを取りたい」
ブライトに肩を叩かれ頷くと、横のアストナージ、ミリィもセイラの出撃を懇願する目をしていた。
10年弱ぶりにパイロットの顔になったセイラが昔を思い出す様に言った。
「セイラ少尉、Gアーマー2出ます!」
ブライトの励ましで気を強く持ったセイラは、コンテナを発進して戦闘空域へと飛び立った。
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「ダブルゼータ!いつまで逃げる気だ!」
アムロはダブルゼータを追ってコロニーを2周した。ウェーブライダー形態のゼータプラス01
はダブルゼータより早くて、ジリジリと追付ける。しかし直線的な動きとなるので、ハマーンの
ファンネルの的だった。大きく回避運動する度に詰めた距離を元に戻されるのだった。
ジュドーは既にGMVC小隊を全滅させハマーンの信号弾も確認してコロニーの中でアムロが
来るのを待っていた。コロニーを周回するハマーンとアムロの鬼ごっこをガラスの川越しに
眺めていた。ハマーンがそれを感じ取った。
「ジュドーは準備が出来ているようだな……」
ダブルゼータに大きく引き離されたアムロが、3回目にゲートにさしかかったとき、ゲート上で
ファンネルが一基、ゼータプラス01を待ち構えていた。
アムロがその攻撃を避けると、ファンネルはさらに2、3射して本体を追うようにゲートの中に消えた。
「!またか?……しかし、今度は中に居るんだろう?」
アムロはゼータプラス01を人型に戻してファンネルを追ってコロニー"内"に侵入した。
アムロは先程と同じ状況を前にしても迷う事は無かった。
アムロは戦略的な常識から、加勢のGMVA,B小隊到着後、多数を相手に障害物の少ない外で
戦うのは不利と考えるだろうハマーンは"内"と判断した。
しかしハマーンは今回もコロニーの"外"にいた。外壁に伏せて身を隠していた。元々、
ハマーンには模擬戦の勝敗、有利不利に興味など無かった。アムロが中に入ったのを確認した
ハマーンはゲートを外から閉め、ビームサーベルを器用に使って溶接してしまった。
「ジュドーに色々と教えてやってくれ!」
ハマーンは心中でそうアムロに告げて、そのコロニーを飛び去った。2人だけの戦いを邪魔させぬよう、
現地に向かうGMVA,B小隊を補足して牽制攻撃をしかけ他のコロニーへと引き連れて飛び去った。
コロニー内に入り込んだアムロのゼータプラス01にジュドーのゼータプラス01Tがビームサーベルで
斬り付けると、アムロとジュドーの一騎打ちが開始された。
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「さて、ここからは仕事だ……」
ハマーンがコックピットで独り言を呟くと、その呟きにブライトが答えた。
「そうだ、ここからが仕事だよ……ハマーン……お前が強いのは解った……けどな、ゼータプラスを
開始直後に2機落とされたのには困った、こちらの想定外だ……現在のロンドベル最強モビルスーツ
とファンネルの戦闘を先に撃墜されるであろうGMVでデータ収集する予定だった……すまん…
GMV相手で申し訳ないが、程々に戦闘を長引かせてくれないか?…それでデータを取るから……」
「支援モビルスーツ相手にワザと苦戦しろと言うのかブライト?」
「無理か?」
「これは私の過信だとは思わないぞ、機体性能差も大き過ぎる!そんな無理をすれば、ぎこちなく
なってデータが無意味になると思うぞ……」
「……それは……ハマーンの言う通りだな……困ったな……」
ハマーンはブライト達にファンネルの対応策を検討させる為にこの模擬戦を受けた。
ハマーンがこれから向き合うべき相手はGMV6機、現在連邦の中核モビルスーツである。
勿論サイコミュなど無くパイロットも普通の人達で、新型と言っても多数のミサイルが搭載可能になり
中長距離及び対艦対地戦闘能力が向上したと言うだけで白兵戦能力は寧ろ旧式のネモにも劣る。
装甲材もコスト面の問題からガンダリュウム合金が見送られている。レーシングマシンに乗るプロと、
スポーツカーでいきがる素人ほどの差である。ハマーンにしてみればファンネル装備のマシンで、
そんな6機相手にするなら赤子の手を捻るが如しであった。しかし瞬殺しては肝心のデータが取れない、
それでは借りを返す事にもならない。大人気なく撃墜数を競う気など元から無いだけにハマーンは悩んだ。
同様に、暫く考え込んでいたブライトがハマーンに提案した。
「しかたない、新兵器のテスト2件をGMVA、B各小隊に分担してやらせる!」
「解った、方法を説明してくれ!」
「A小隊とB小隊それぞれに一種類ずつ新開発の武器をテストさせる、
4A−11の廃コロニーで最初の罠を張ってA小隊がハマーンを待つ、
10分待ってから行ってくれ!それが終了したら、4A−18の廃コロニーで
B小隊の"次の罠に嵌って"戦闘に入ってくれ!くれぐれも戦闘に入るときはデータ収集の
モビルスーツが傍に居る事えを確認してからにしてくれ、以上だ!」
「フフ、注文の多いいレストランだな……」
「なんとか、頼むよ……」
「それと、セイラはどうしたのだ?…中々こないようだが……」
「知らんな、なんの事だ?」
「説得に失敗したのかな?セイラならモビルスーツに乗りたがるだろうと思ってな……」
「……おまえ…先読みしすぎだ…友達になりたくないタイプだな…」
「悔し紛れとは言え、上級仕官がつまらぬ事を言うな、私の部下なら懲罰モノだよ?…
…来るんだろ彼女?」
「ああ、お前の予想通りだよ!GMV相手に油断したハマーンをぶちのめす予定だよ!
凄いマシンで必ず行くから待っていろ!」
「分かったブライト、楽しみに待つ……」
ブライトの指令を受け、ダブルゼータを無視して横をすり抜けてGMVA、B各小隊が
罠を準備する為にそれぞれのコロニーに向かった。ハマーンは視界からジムVが
飛び去ると目を瞑って時間を待った。
「さて10分経った、コロニー4A−11……どんなビックリ箱に化けたのか?…
…あのコロニー、あんまり触って欲しくないのだがな……」
暫くして、ハマーンがデータ収集のモビルスーツを引き連れ、
コロニー内に突入すると全てが真っ暗だった。
「なるほど……!」
ハマーンがその仕掛けに感心した直後、ダブルゼータの機体をビームがかすめた。
敵は見えない。全てが暗闇だった。それはGMVA小隊の3機だけではない、
コロニー内部全てにカーボンを主成分にした光と電磁波の吸収剤が撒かれていた。
無論ミノフスキー粒子も充満しており完全な目潰しと言えた。
ダブルゼータのセンサーは敵影を発見する事は出来なかった。
既にジュドーに撃墜機にされ、中継に回ったGMVからの監視映像を見て
アストナージがブライトに言った。
「フフ、ハマーンの奴、どうしますかね?」
「いくらハマーンでも目が見えなくてはどうしようも有るまい?」
「あれ……でも……目が見えないって言えば……」
「どうした?アストナージ……」
「ダブルゼータの、あのサイコミュ……前の持ち主って確か、目が見えない…
…猛烈に嫌な予感がするのう」
アストナージの予感は的中した。ハマーンは入って来た港から反対側の港まで
真っ直ぐにコロニーの中心線を飛んで抜けただけだった。放った3基の
ファンネルが3射しただけでGMVA小隊の3機の撃墜信号が出た。ブライトが苦笑いして言った。
「笑止…奴の分身のアルパは生来目が見えん!それに目潰しとは笑わせる……」
「時代を先駆ける斬新なアイディアと思ったんですけどね……でも次こそハマーンも
ビックリすると思いますよ、全く逆の発想で行きますからね!」
「そうだな、次こそ……」
ハマーンは後ろに撮影のGMVが付いて来るのを待って4A−18の廃コロニーに突入した。
コロニー内は銀色の粉が浮遊していて地面も銀色に見えた。
B小隊のGMV3機は唯、コロニー中央に浮遊していた。
「奴らの後方に浮いているブースターは何だ?……行ってみるか…」
ハマーンがB小隊に突撃をかけるとほぼ同時にGMV3機は肩のミサイルポットから全弾を同時発射した。
それはダブルゼータを狙ったモノでは無かった。
ミサイルはコロニーの隅々に向かい全弾同時に炸裂して強烈な閃光を出し続けた。
その閃光は予め撒かれた銀色の粒子に乱反射してコロニー内部が光で溢れた。
「うっ!」
ハマーンが呻くと同時に、全てのモニターがホワイトアウトした。"光の目潰し"だった。
「同じ事だ!」
ハマーンが叫び、攻撃を仕掛けようとするが、敵の気配がおかしい事に気が付いた。
「なんだ?やつら応戦しない気か……まさか!」
ハマーンの放ったファンネルは敵を捕らえられない、GMVは3機ともブースターに乗り全力で撤退を試みたのだった。
放出したファンネルを回収するとハマーンはダブルゼータをGフォートレスに変形させて全力で追った。
「安全で速やかな撤退は重要な作戦だからな……なるほど、そう言うテストか!……やるなブライト!」
機体はGMVで有っても、大気圏脱出用ブースターの加速は凄まじかった。
Gフォートレスと言えど追付く事は出来ない。距離は開く一方だった。
全機撃墜は無理だと諦めたハマーンはジェネレータ出力が落ちてもビームライフルを
発射する事を選んだ。これ以上引き離される前に1機でも撃墜する事を選んだ。
狙いを左のGMVに定め撃った。すぐさま撃墜信号が出てその機体は左に旋回して加速を止めた。
続いて右のGMVに狙いを定め撃った。その機体も撃墜信号を出し右に旋回して加速を止めた。
ジェネレータ出力をビーム発射に食われ加速が鈍り最後の1機は、もう射程の外に達してしまった。
「全機撃破には失敗したな………!?」
ハマーンが諦めかけたその時、その真正面から敵機信号を出す巨大なマシンが急接近して来た。
セイラの乗るGアーマー2が遅ればせながら現れたのだ。ブースター付きGMVの横を通り
過ぎるとダブルゼータに向けてビームを撃って来た。
「随分遅かったなセイラ……中々、正確な射撃ではある……それ故、予測もしやすい」
強力な味方の登場に、ブースター付きGMVも大きな弧を描いて旋回して
ダブルゼータ攻撃に戻って来た。
ハマーンはファンネルを放出して応戦した。総重量500トンのGアーマー2は直線加速ばかり
が早く回避運動は鈍い、ハマーンの放ったビームが次々と命中する。が、その全てが無効化された。
「やはりな……Iフィールド装備か……」
Gアーマー2はブースターを捨てたGMVもIフィールド内に牽引して飛んだ。
強力なエンジンはモビルスーツ1機を牽引しても尚、その加速力を鈍らせない、
ダブルゼータに一撃離脱の戦法で急接近しては対空ビームで攻撃を仕掛けて
来るセイラのGアーマー2、しかし、ハマーンには対応策が有った。
「コイツは一発しか撃てんからな……」
そう言うとファンネルコンテナから今まで一度も出さなかった"Lファンネル"を放出して、
Gアーマー2のIフィールド発生装置に狙いを定めた。
"Lファンネルのエルとはレーザー光を意味した。強力な電界を作り出し、
同じく電荷を持つメガ粒子を電磁的反発力で弾くIフィールド、しかし電荷を持たない
レーザーはIフィールドに弾かれる事はない。クインマンサなどIフィールド付きの
マシンを多数製造したネオジオンの元総帥のハマーンはその対策にアクシズ時代から
常に1基だけLファンネルを装備していたのだ。"
「当たれ!」
そう叫ぶと、その命中の確認を待たずハマーンは他の通常ファンネルにも攻撃命令を出した。
その直後、Gアーマー2のIフィールド発生装置に装着されたセンサーは機体のコンピューターに
命中判定の信号を送った。
設定上のIフィールドが直ちに解除される。
その後の通常ファンネルの攻撃は命中箇所に応じたダメージが加算される。
しかし、Gアーマー2のダメージはIフィールド発生装置を除いて軽微であった。
致命箇所に当たる筈だったビームは牽引中のGMVに命中していたのだ。
「さすがね、ハマーン……やはり、私なんかの敵う相手では無いわね…
…でもね、私は貴方との戦いの勝敗など興味は無いのよ、アムロの援護がしたいだけなのよ!
それにね、このマシンは逃げ足も速いのよ!」
そう言終わったセイラは、撃墜信号が出ても尚、しつこく自分にしがみ付くGMVを、
大型クローで剥がしダブルゼータへと投げつけた。その反動で一気に反転、全力加速して
ジュドーとアムロが延々と戦い続けるコロニーへと、軽々とダブルゼータを振り切って飛び去った。
投げつけられたジムVを蹴り飛ばしてからハマーンが後を追った。ネルアーガマのブリッジで
一部始終を見たブライトがぼやいた。
「レーザーファンネルまで持ち歩くとは……もうハマーンを止めるモノは何も無いな、
アムロとジュドーはさっきから互角の鍔迫り合い状態だ、ハマーンが戻れば持つまい…
…ハマーンには弱点と言うモノが無いのか?……ハマーンが宇宙最強のパイロットだと言うのか?…
…ハマーンは無敵だと言うのか?」
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ジュドーとアムロの実力はハマーンの予測通りに互角だった。いつまで経っても勝負が決まる気配は無かった。
「そろそろ飽きて来ませんか?ケーラ中尉……」
「ああ、そうだな……いい加減に決着……いやっ!だめだ!ちゃんと見ろ!ギュセル少尉!」
「はーい……中尉……」
戦う本人同士は久しく巡り遭わない使い手同士なので楽しくてしょうがない。
何より賭けられた景品を考えると是が非でも勝ちたかった。
コロニー内では剣道の試合の様なジュドーとアムロの一騎打が延々と続いた。
「やるな、ジュドー君!」
「アムロさんこそ!」
既に2人ともグレネードやバルカン、ビームスマートガンも飛び道具は全て使い切り、
手持ちのビームサーベルも重金属粒子残量が2人同時に底をつき、これ以上戦う事は出来ない筈だった。
しかし、まだ続けたい2人は一時お互いを見失ったふりをして休戦した。機械オタクのアムロの発案で
観客をしていたゼータプラス02、03(ゲーム上ではハマーンに撃破されコロニー外壁付近を浮遊中)
から設定上、まだ使えるビームサーベルを2人同時に拾った事にしてコンピュータをごまかした。
そして戦いを再開した。しかし、その時アムロとジュドーの視界の全てがセイラのGアーマー2の姿になった。
「キャー!ゴメンナサイィィッー!……」
「ガツン!」衝撃とそれに続く強大な加速度は両者を失神させ、
永遠に続くかと思われた2人の戦いはセイラの絶叫と共に突然の終止符を打たれた。
2人がコロニー内の港付近で斬り結んだ瞬間、アムロを支援しようと高速でコロニーに
突入してきたセイラのGアーマー2が2人を避け切れないで衝突したのだ。
不幸中の幸い、最悪の事態は避けられた。
セイラの機転で前面に突き出したクローがゼータプラス01と01Tをそれぞれ
右手と左手に受け止めたのだ。
大事故は避けられたもののアムロもジュドーもGアーマー2の500トンの
加速度をもろに受けて失神させられた。
それを感知したコンピュータは即座に両者撃墜を判定、撃墜信号を出して記録した。
「セイラ・マス少尉:得点1、自責点1、トータルスコア0加算」
ジュドー撃墜を知ってハマーンが悔しそうに言う。
「情けないぞジュドー!……褒美は無しだな……」
図らずも2人を失神させ、撃墜したセイラは慌てた。
「アムロ!ジュドー君!ごめんなさい……お願い起きて……ほんとうにごめん……」
悲痛な声で語りかけるが、完全に気絶した2人から返事は返ってこなかった。
セイラは近くのGMVを呼んでアムロのゼータプラス01を艦に運ぶ様に頼んだ。
ジュドーのゼータプラス01Tも引き渡そうとするが接触時の衝撃で故障した左クローが開かない。
近くに居たもう1機のGMVがクローをこじ開けようとするが開かない、ジュドーのゼータプラス01Tが外れない。
"おろおろ"するセイラにブライトが命令口調で怒鳴る。
「セイラ!何をしているのか?!ハマーンが迫っているぞ!迎え撃て!」
「そんな!ジュドー君がまだ……どうしよう……どうしよう」
"おろおろ"するセイラは、港の外にダブルゼータが見えた事に慌てて
"ジュドーを握り締めたまま"コロニーの中に逃げた。ハマーンはそれを知らない。
ハマーンはセイラの無策な動きを見て勝利を確信した。
「馬鹿な、爆発的な直線加速だけがとりえのモビルアーマーで狭いコロニー内に入るとは!…
…ゲームでは在ってもジュドーの仇は獲らねばならん!」
「セイラ!逃げるんじゃない!ハマーンと戦え!」
容赦ないブライトの罵声にハッとしたセイラが、無意識に操縦桿を引きペダルを踏み込んだ。
コロニーの半径を使い切る大きな弧を描き、超高速を維持したまま旋回する。
重すぎる機体と有り余るパワーのGアーマー2にはコロニー内は狭すぎるのだ。
「ウッウウッー……Gがこんなに凄いなんて……」
セイラは加速度に必死に耐え、やっとの思いで180度旋回して正面を見ると、
全ファンネルを展開して自分を狙うハマーンのダブルゼータが視界に入った。
踏み込んだペダルを放しても既に速度が付き過ぎてハマーンの懐に飛び込むしか無かった。
ハマーンはファンネルの射程にセイラのGアーマー2を捕らえ、ジュドーの仇を撃墜しようと狙った。
「行け!ファンネル!……ん?……あれ?……どしたファンネル?……どうした何故撃たんのだ?」
ファンネル達はハマーンの命令に従わなかった。何回命令してもファンネル達は悲しそうに
プルプルするばかりで射撃命令に応じようとはしなかった。接近したセイラの機体を見た
ハマーンは直ぐにその理由が解った。前に突き出されたままのGアーマー2のクローハンドには、
気絶したジュドーのゼータプラス01Tが握り締められていたのだ。
「セイラ……それは……いくら何でも……人としてどうかと思うぞ……ゲームだからって……それはあんまりだ……」
呆然とするハマーンの左横をセイラのGアーマー2は、"盾"を前方にかざしながら通り抜けた。
「ジュドー君!ハマーン!!ごめんなさーい!!!故障で左腕が作動しないのよー!!!!」
そう叫ぶセイラの気持ちとは裏腹にオート設定にされたGアーマー2の対空ビーム砲は、
敵機の識別信号に反応して無情にもダブルゼータを撃墜したのは言うまでも無い事だった。
コンピュータがハマーンのダブルゼータ撃墜をセイラのスコアとして記録に取った。
「セイラ・マス少尉:得点1、トータルスコア1加算」
ネルアーガマのブリッジでそれを確認したキースロンがブライトに報告する。
「ハマーン機、ジュドー機の撃墜を確認!敵機全滅です…ロンドベル側の勝利です…
正し、セイラ機以外の見方機全滅も確認……模擬戦終了します……」
ブライトは取り合えずセイラに、その勝利を讃えた。
「生き残ったのはセイラだけか……接戦だったが、勝ちは勝ちだ……セイラ少尉!良くやった!
直ちに帰艦せよ!……フフ、今日から君がロンドベルのエースだ!」
「ブライト!……お願いだから、そんな冗談は止めて……10年ぶりに独房に入りたい気持ちよ……」
『好しっ!フフ、とても10年ぶりとは思えないなセイラ……"ジュドーもハマーンも撃墜
して来い"と言ったのにアムロまで"落として"来るとはな、やるなセイラ!宇宙最強か?…
…惜しい……カミーユもいればコンプリートだったのにな……』
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「セイラ……私がアムロを殴った仕返しを、ジュドーにするなんて陰険だぞ……」
「そんなわけないでしょハマーン!……いくら私だって"アムロの仕返し"にアムロは巻き込まないわ!」
「それは……そうだな……2日連続で失神とは…アムロが一番可愛そうかもな……」
「…………………」
「ジュドーしっかりしろ!早く目を覚ませ!」
「アムロ……ごめんなさい…早く目を覚まして…」
ピンクと金髪の女性2人が見守る医務室のベッドでジュドーが目を覚ましたのはそれから10分後だった。
「あれ?ハマーン俺どうしちゃったんだ?」
「セイラに撃墜されたんだよ……」
「えっ?アムロさんじゃなくてセイラさんに?」
「そうだ、飛び出して来たセイラの新型メカのクローに挟まれて速度差で気絶したんだよ」
「アムロさんはそのときどうしたんだ?」
「アムロも落ちたよ……」
「そうか、ハマーンがアムロさんを撃墜したんだな……さすがハマーン」
「いいや!私もその後すぐにセイラに撃墜されたよ……"強烈な盾"のせいでファンネル達も
言うこと聞かなかったよ、模擬戦は私達の負けだよ、ジュドー」
「強烈な盾?……Iフィールドって奴か?」
「フフッ、違うな……"J"フィールドとでも呼ぶのかな?サイコミュには可哀想な事をした……」
「何だ、それ?……」
「まあ、いいさ!……セイラはアムロも同時に撃墜したんだよ……サッカーで言う所の
オウンゴールって奴だな!でも私もやられたからな、最終的に生き残ったはセイラだけだ……」
「そうか……俺はアムロさんを倒せなかった訳だな、賭けは俺の負けだねハマーン……」
ハマーンは残念そうにするジュドーの額にキスして言った。
「そうだ、賭けはお前の負けだ……だから今夜は……"お前が"私に尽くせ!」
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夜も11時を過て報告書を仕上げると、ブライトは多忙だった今日の業務全てを終了した。
前夜と同様にトーレスに引継ぎを済ませると、夜通し明るいブリッジでも安眠出来るよう
に作ったダンボールハウスに潜り込んだ。
「ふー、慣れればホームレス生活も……ダンボールハウスも意外と落ち着くモノだな…
…風呂にも入ったし、さて寝とするか……」
すっかりホームレス生活に慣れたブライトが"新築のマイホーム"で横になると、
ダンボールの隙間から子供の足が見えた。ブライトが顔を出すとリィナが立っていた。
「ん?!どうした?リィナそんなに困った顔して……」
「私、お風呂から上がって部屋に帰るところだったんです…だけど部屋に入れないんです……」
リィナが理由を言う前に、ブライトは直感した。
リィナも自分と同じ理由で難民になったのだと、ブライトは1つだけ聞いた。
「見てしまったか……リィナ?………」
「いいえ見てはいません……カギが開いていて聞こえたから……ハマーンさんの声と言うか、その……」
「そうか……見ないだけでも不幸中の幸いだな……ジュドーとハマーンは明日、
私が責任を持って叱るから…今日はここで寝なさい」
『ニュータイプはカギを閉めないでヤルものなのか?』などと、つまらない事を考えつつ、
ブライトはそれ以上何も言わずに、倉庫からダンボールと毛布を持って来てリィナに寝床を作ってやった。
トーレスはブリッジの隅に出来た大小のダンボールハウスを見て"親子のホームレス"を連想してしまった。
「早く、海賊達を降ろさないと風紀上問題があるな……ラウンジのソファーや食堂で寝る奴まで出てきたし……」
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難民ブライトに萌え
394 :
通常の名無しさんの3倍:04/11/04 04:26:16 ID:aacr/gfz
そのorzな人達のダンボールがだんだん増えていって、最終的にスウィート・ウォーターになるわけだな。なるほど
ブライトに叱られるハマーン・・・萌え!
だんだん戦闘シーンが多くなってきましたね
個人的にはハマジュのマターリが好きですがこれもわくわくしながら読めるのでイイ!
いつもGJです ありがとう
セイラw
ああ、セイラさんにも萌える
セイラさんが微妙にドジッ娘に見えてきたw
とりあえず…アムロ哀れヽ( ´ー`)ノ
11/6 ライトシード 感想どーもです。セイラとかアムロとか1STのキャラは目いっぱい
押さえないと主役より筆が走ってしまいます。歴史とか時間は偉大だと思いました。
勝手に古い人1人生き返らせて登場させます。ミハルとか、
戦闘シーン押さえて少しマッタリモードになります。
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「……んーん、こんなに朝早く、ブリッジにお客さんかしら………」
リィナは話し声で目が覚めた。早朝にネルアーガマに到着したランチの男女がブリッジに上がりトーレスと話していた。
「へー、あんたアムロ大尉に会った事あんのかい?」
「カイに出会って軍艦に匿ってもらったときにね……10年くらい前の話よ……」
「それより……ブライトはいつ起きて来るんだい、ト−レス?」
「えーと……後、一時間で艦長の起床時間ですよ、カイさん」
「そっか、ちょっとあるな……じゃあその前に、久しぶりにタムラさんの朝飯でも食わしてもらうとするか……行こうぜミハル……」
その男女は、カイとミハル、腕利きのフリージャーナリストコンビで潜入レポートを得意としていた。
ブライトとは旧知の仲であるカイは、昔のよしみで記事のネタをもらう事も多かったが、逆も有った。
今回アナハイムが連邦に隠れてサイコミュやファンネルを開発しているとの情報も、第一報はカイがもたらしたモノだった。
「キャー!」
「どうした?!ミハル!」
「カイ!……箱の中に女の子がいるよー」
リィナは外の様子をダンボールの隙間からのぞき見ていたが、視線に気が付いたミハルの大声に驚いてバランスを崩して転がり出てしまった。
「おどろかせて、ご免なさい……私この中で寝ていたんです……」
「どうしたんだい?ダンボールで寝るなんて……ホームレスじゃあるまいし……」
「カイ!……こっちの大きいのにも中に人が居るみたいだよ……」
「げっ!ブライト?!」
「まだ、起こさないであげて下さい……良く寝ているから……」
「分かった……でもこれは、ジャーナリストとして話しを聞かない訳にはいかないな……どうだい?君も一緒に朝食にしないか?」
「ええ……」
3人は一緒に食堂に入った。朝食はトーストとコーヒー、スクランブルエッグとベーコンにサラダ、席はカイとミハルが並んで座り、
向かいにリィナが座った。
「そうかー、君は、あのジュドー君の妹なのか!」
「はい、リィナって言います、ダカールで怪我して最近まで入院していたんです……」
「そうかい……こっちはミハル、僕はカイ……2人でフリーのジャーナリストをやってる……」
「やはりカイさんが危険なところとかに入り込んで取材してミハルさんが記事をまとめるんですか?」
「決まりはないよ、むしろ潜入レポートはミハルのほうが得意さ……リィナくらいの歳からやってたんだから…」
「よしておくれよ!……小さい子は信じるだろカイ……」
「ハハハ、冗談だよ……でも何で。リィナやブライトはあんなダンボールに寝泊りするなんて冷遇を受けてたんだい?仮にもブライトは艦長だろ?」
「しょうがないんです……捕まえた海賊さん達の数が多くて部屋が足りないんです」
「なるほど……それで食堂のソファーで寝てる奴までいるのか……たいへんだな……」
辺りを見回したカイはネルアーガマの住宅事情を憂いた。
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「カイ!ミハル!朝早くから良く来てくれたな!今回は大ネタが2つある、後で記録を渡すから記事にしてくれ、」
「そうかい、いつも助かるよブライトさん」
「艦内は分解中の兵器以外、どこ見てもらってもかまわんし、誰にインタビューしても構わんが、記事と写真は
最後に検閲させてもらうからその心算でやってくれ、」
「その辺は心得ている……」
「それと……どうだ?ネオジオン残党の方は……なにか新しい動きは有ったか?」
その話になったとたんカイの目が鋭くなりブライトも緊張した。
「そうだカイ……私は朝食がまだなんだ……コーヒーくらい付き合えよ……」
「ああいいよ、ブライトさん……ミハルも来いよ」
3人は直ぐには食堂に行かなかった。人気のない展望室を見つけると足を止め話を始めた。
「これは俺じゃなくて、スイートウオーターで取材したミハルの情報なんだが……ミハル!」
「じゃあ私から言うわ……私…昔、カイと出会う前……地球のベルファウストでジオンの仕事をした事が有ったんです…
…その時、私に仕事をくれた人…コノリーって人をそのコロニーで見かけて、その人の後をつけたときの事なんですけど……」
ブライトがミハルに言う。「続けて……」
「最初の調査対象……ネオジオンの本部及び諜報部の所在の件です…その尾行で突き止めました…
…サイド3警察予備隊の総務部ビル……その5階のフロアが事実上の再興したネオジオンの諜報部です、間違い有りません…
………そして、次の最重要調査対象……新しく現れたネオジオン統率者は誰なのか?…
…総帥なら諜報部には頻繁に訪れるだろうと網を張ったんです私……」
そこまで言うとミハルはポケットから先月ブライトに手渡されたエゥーゴ時代のクワトロ大尉の写真を出して言った。
「この人が来ました……写真と違って髪をオールバックにして、雰囲気も少し変わってましたけど、
間違い有りませんブライトさんに渡されたこの写真と同一人物です……運転手付き黒塗りの高級車で到着すると、
護衛数人と綺麗な女性秘書1人を引き連れてビルに入って行きました……5階で軍幹部数人と会っていのを確認しています…
…調査最終日にはネオジオンの戦艦に乗り込むところまでを確認しました」
ミハルはそう言って、その時にスイートウオーターで撮ったシャアの写真を、
ブライトに渡されたエゥーゴ時代のクワトロ大尉の写真の横に並べた。ブライトが少し沈んだ声で漏らした。
「セイラが宇宙に来るわけだ……」
その"ぼやき"にカイが強く反応する。
「セイラさんがどうした?」
「ああ、今この艦に居るんだよセイラ……少尉として軍籍を復活させてもらったよ」
「なるほどな……俺達が調べてた事、彼女は既に直感してたんだな……」
「そうらしい……なにしろセイラは……」
「そうだな……それで今度、セイラさんはモビルスーツに乗るのか?」
「それはアムロが認めなかった、Gアーマーの新しい奴に乗る事になったよ、アムロのバックアップをやってもらう、
実戦テストの成績もいい、かなり頼りになりそうだよ」
「そりゃー、でも……アムロの奴、相当に喜んだろう……」
「ああ、その分の修正はきちっと受けているようだがな……鼻の下が伸びている事は確かだ」
「いいじゃないか、まるで昔のホワイトベースみたいになって来たな……」
「カイも、またパイロットやるか?なんならゼータプラスにキャノン砲付けて赤く塗ってやるぞ!」
「ハハハ、いいかもなハヤトも呼んで…………あ…すまんあいつはもう居ないんだったな……」
「カイ!冗談でもパイロットなんてやめておくれよ!私、あんたに死なれたら……」
「心配するなミハル、冗談さ……俺はこの先はジャーナリズムだけで行く事に決めたんだから、もうパイロットはやらないよ」
「そうだカイ……そのマスコミの力で頼みたい事が有るんだ!」
食堂に移動した3人、ブライトは朝食を取り、カイとミハルはコーヒーを飲んだ。
「なんだい?ブライトさんがマスコミの力を借りたいなんてさ……」
「さっき言った実戦テスト……サイド4の暗礁空域で大々的にやった演習、模擬戦なんだが……それを記事にして欲しい……」
「売れそうなネタなら頼まれなくたって記事にさせてもらうぜ……どうして欲しいんだ?」
「じつわな、この艦には今もう1人、"超危ない女"が乗ってるんだ……」
「セイラさんよりか?……誰?」
「モンスリー・ミンキー………」
「なっ?!それってネオジオンの元…… 」
「そうだ、ジュドーと組ませて……カイの知らせてくれたサイコミュ兵器への対応策……そのデータ取りの為に模擬戦の敵方をやってもらったんだ、此方はアムロの中隊12機とセイラの新型、全戦力だった」
「それは凄いカードだな……で?勝敗は?」
「あんな"魔法使いの宇宙人"に敵う道理も無いのだがな、何故か今回は此方が勝った、と言うより、
終わったらジュドーも"魔法使い"もアムロさえもセイラが撃墜していた、敵味方15機中でセイラだけ生き残ったんだ、」
「えっ?!アムロは味方だろ?」
「フフ、セイラが間違えて落としたのだが、少しだけ誇張して記事の内容にはセイラ・マスがアムロ、ジュドー、モンスリーの
3強を撃破して、ロンドベルの新しいエースになったと書いて欲しい……セイラのクローハンドにつかまれてアムロとジュドーが
気絶している写真と、セイラがハマーンを撃墜したときの写真を渡す……」
「なるほど……それでシャアにプレッシャーをかけるんだな……」
「そうなんだカイ!もし戦争を始めれば"後悔する事になる"と奴に知らせておきたいんだよ、これはセイラの望むところでもある!」
ブライトがそこまで言った時、近くで聞いていたハマーンが朝食のトレーを、ブライトのトレーの横に音を立てて置き、ゆっくりと座ってから言った。
「性質の悪い嫌がらせだな!ブライト……性格の悪さが滲み出ている」
「お前に性格が悪いと言われてもな……」
「まあ、"超危ない魔法使いの女宇宙人"の意見として聞いて貰いたい……」
「立ち聞きとは行儀も悪いな、」
「シャアを苦しめるだけならその記事は絶大な威力があるだろう、それは間違いない事だと私も思う…
…だがな奴はたとえ敵の先鋒がセイラと解ったからと言って戦略になんらの躊躇いも示す事の出来ない男だ!
これも間違い無い事なのだよブライト……」
「シャアに気持ちよく戦争の準備をさせろと言うのか?」
「そうではない、ワザワザ大きく報道するようなマネはよせと言うのだ、解るだろ……」
そのハマーンの意見にカイが呼応した。ミハルも同意した。
「そうだな…それはマスコミの暴力かもな、ブライト?"超危ない魔法使いの女宇宙人さん"の言うとおりだと思うな」
「私もカイと同じだよ、可哀想な兄妹だもん……そうだ、私に任せて貰えないかな!」
「どうしようと言うんだミハル?」
「これをネタに今度シャアに迫ってみるよカイ……」
「なるほど、これだけの情報をもっていけば向こうも会わずにはいられないな!」
「せめてコッソリ教えてやりたいし、直接本人に会える機会なんて滅多にないと思うよ」
大物との対談実現に向けて高揚する2人とは裏腹に、ハマーンはその事が長期的には戦争回避に
何の進展ももたらさない事を知っているし、ブライトも現実的な影響力が無い事を今知って黄昏た。
「セイラに手紙を書かせたらどうか?それを2人に届けてもらえば良かろう…
…シャアを無駄に苦しませるのに変りはないが幾分品が良い」
ハマーンはそう言って席を離れた。
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神光臨をリアルタイムで見て震撼しております
その日の午後、ハマーンとジュドーはアストナージに手伝ってもらい、ブライトから暫く借りる事になった海賊船のサラミス連絡艇の整備をした。それでムーンムーンに帰ろうと準備をしていた。
ダブルゼータ積み込みが終了して、渋るアストナージからNファンネルも返してもらうと、ブライトとカイが見送りに来た。ブライトはジュドーに話し始めた。
「今回は色々と協力してくれてありがとう……お陰で大物の海賊を逮捕壊滅できたし、貴重な戦闘データが取れたよ、大仕事が2つも片付いた……」
「俺たちは2人とも、ブライトさんに借りが有るから当然だよ!」
明るく答えるジュドーと、後ろ向きでリィナの世話をするハマーンに、酷く真剣な表情のカイが言った。ブライトもジュドー達を見詰めていた。
「あんた達、シャアの事で俺達に隠している事があるんじゃないのか?」
"ギクリ"として目が泳ぐジュドーに代わり、振り返ったハマーンが答えた。
「既にブライト達が得ている情報と幾らも変らんよ……」
「まだ、俺達が信じられないのかハマーンは?……」
「そうでは無い!そうでは無いが……私は連邦が信じられないのだ……ブライト個人は信じている……」
「何か有りそうだな……話してくれないかハマーン……」
そう言われたハマーンはカイに、一つの質問をした。
「ジャーナリストのカイはシャアの新しい戦艦を知っているか?どう思うか?」
話を振られたカイは即座にブリーフケースから写真をだしてハマーンとブライトに見せた。
そこにはサイド6のアナハイム宇宙船ドッグから進宙するレウルーラの姿が写っていた。カイがハマーンに質問する。
「この戦艦がどうした言うんだ?」
そう言ってからカイは自分が今まで気が付かなかった矛盾に気が付いてそれを恥じた。
「そうか!そう言うことか!こんな事に気が付かないなんて二流だな俺も……」
「どう言う事なんだカイ?」
カイに尋ねるブライトにハマーンが答える。
「レウルーラはサダラーンだ!あんな巨大戦艦が2ヵ月も経たずにゼロから作れる分け無いだろう?
融合炉やビーム砲は転用して外面だけ作り直したんだ!」
「まさか?!そんな事ありえない!連邦政府が俺たちの武装解除した戦艦をネオジオンに譲渡するなんて!」
気持ちで否定しながらも客観的に考えると事実と認めるより他ない。
ブライトは心の奥底に封じ込めていた連邦上層部への不信が表面へと湧き上がって来るのを感じた。
気持ちの変化を読み取ったハマーンが言った。
「そう言うことだ!ブライトは信頼出来ても連邦は信頼出来んよ!
ブライトが失脚させられてロンドベルがティターンズの二の舞になったらシャアと組まねばならん!
それを真剣に考えているんだよ私は……お前達だってそうなったら昔のようにシャアと組むしかないだろう?……ふふ、クワトロ大尉だったか?」
声も出ない2人にハマーンが最後に言った。
「私達は宇宙生活者だ!シャアが宇宙の平和を乱さず地球だけと敵対するとなるとスペースノイドに対する
ロンドベルの僅かな取締りの行き過ぎさえも、ティターンズの再来を連想させる事を忘れないでくれ……ブライト、これは私達からのお願いだ!」
そう言い終るとハマーンは連絡艇に入り、自ら操縦桿を握ってネルアーガマを発った。
窓からは名残惜しそうなジュドーとリィナが無邪気に、いつまでも手を振っていた。
ミハルが実は生きていた設定、大好きです
海に落ちたんだもんね
漁師が助けてくれて、ベルファストで治療してて
数年の時をかけて再び巡り会った、と脳内補完しております
>>407 ついでにラサラも蘇らせて頂きました。お花畑全開です。サラサをエロイ人にしました。
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6月も終わりの頃、ムーンムーンに宇宙船が訪れた。最初は数隻、しかしそれは次第に数を増やし7月に入ると百隻を超えた。
彼等は何れも数日から一週間程度滞在した。
最初の船が来た次の日の朝食時、ジュドーがサラサにその件を質問した。他の皆も注目した。
「あの人達は、戦乱で亡くなった方々の魂に会いに来た人達です」
「どう言う事ですか?良く解りませんが……」
「ここは全てを吸い寄せる暗礁空域です。集まるのは船やコロニーの残骸だけではありません。
そこに嘗て生命の営みを持った人達の魂の多くが集うのです。」
「でも、このムーンムーンと、どう言う関係が有るのですか?」
「このムーンムーンが暗礁空域で唯1基だけ生きているのは偶然では有りません。それは、死者の霊を弔う為なのです。
そして私を長としてこのコロニーは多くの巫女がいます。何時の頃からか、年に一度7月7日を中心にして半月程、
戦乱で愛する人を失い忘れる事が出来ない人達に、その魂との橋渡しをして差し上げる風習が出来ているのです」
「へー、それじゃ今来ている人達は戦争で家族や恋人を失って、ムーンムーンの巫女さんにその霊を呼び出して貰いに来ている。
そう言う事なのか?サラサ…」
「そう言う事です」
「ほんとかなー?」
「さー、どうでしょう?ジュドーさんは誰か呼び出して欲しい人はいませんか?」
サラサはそう言って、ジュドーに微笑んだ。
「えー、俺はいいよ」
ジュドーはそう言って目を逸らした。サラサの話が終わると興味は朝食の方に移っていた。
モンドは何か真剣に悩んでいる様子だった。
ハマーンとミネバは興味が無い様で、話を聞き終わると無反応に朝食を取っていた。
7月に入ると、ムーンムーンの人口は倍増した。いつも閑散としていた通りは人で溢れ、急ごしらえの商店や食堂が立ち並び、
お祭りの様相になった。
夕食後、部屋でミネバ、ジュドーとアイスティーを飲みながら、帳簿をチェックしていたハマーンが漏らす。
「なるほどな!」
「なにが?なるほどなんだい?ハマーン?」
「今、ムーンムーンの帳簿をチェックしていたんだが、夏のこの時期だけ、農業収入を上回る臨時収入が有るんだよ」
「当然だと思うよ、凄い人数の観光客だよ、部屋に余裕のある農家のほとんどが民宿やっているし食堂やカフェは深夜まで大賑わいだもん!」
「いや、観光収入だけじゃないのだ!それすら上回る臨時収入が有るのだ、これを見てみろジュドー」
「志?寸志?お礼?……何これ? 金額も人によってマチマチだし………」
「サラサや巫女達へのお礼のお金だよ、これは、」
「合計は凄い金額だね戦艦が買えそうだ……ハマーン?でも良いのかな、何かインチキくさい事でさ、こんなにお金貰ったりして…
…ハマーンやミネバだって全然信じてないんだろ?」
「何故?ミネバと私が信じてないと思うのだ、ジュドー?」
「だって、サラサの話を全然興味ないって顔していたじゃないのか?」
ジュドーがハマーンにそう言うと、横で聞いていたミネバがハマーンに寄り添って来た。
二人が肩を抱き合うと2人ともジュドーに神秘的に微笑を見せた。ハマーンが言った。
「フフ、興味が無いのは、信じて無いのではなく、当たり前の事だからかも知れんぞ……」
不気味な笑みでハマーンがそう言うと、続けてミネバが言う。
「ここに来て最初は、お父様もお母様も一緒に居てくれた。でもジュドーとハマーンが良くしてくれるから今はいないのよ……」
冷や汗をかいたジュドーを見詰めハマーンがぽつりと言う。
「やはりな……男はこういうモノに少し鈍いようだ、だから男はファンネルを何時まで経っても使えるようにならんのかも知れんな……」
同時刻、夕食後に2人だけで食堂に残ってお茶をしていたモンドは勇気を振り絞ってサラサに切り出した。
モンド・アガケ、一週間悩んだ末のお願いだった。
「サラサさん!」
「なんですか、モンドさん?」
「この前、朝食の時にサラサさんがジュドー言った事なんですけど………ラサラの魂を呼ぶなんて出来ませんよね?」
「出来ます!」
躊躇い無く言切るサラサは凄く嬉しそうな顔になって言葉を続けた。
「私にとっては誰よりも呼び出し安い相手です。双子の妹なのですから波長を合わせるのに何の苦も有りません!」
「じゃあ、出来れば、その……暇な時でも一度、ラサラ呼んで貰えないかな?」
「そろそろ、そう仰る頃だと思っていました、時間は充分に取って有ります、後ほど私の部屋にいらして下さい」
そう告げると、サラサは自分の部屋へと帰って行った。
勇気を振り絞ってお願いしたモンドは限界まで高鳴った動悸を抑える為、一度ラサラの墓参りをしてからサラサの部屋に行く事にした。
「良いのかな?夜中に女の子の部屋に一人で行ったりして……でもこの時期だけしか出来ない事らしいし……」
悩むモンドは、先ずラサラの墓に行った。
夜の墓場でも愛しい人が眠ると思うと怖い気持ちなど微塵も無かった。
温かい風が頬をかすめる。
部屋に戻ると冷たいシャワーを浴びて、水を一口飲んで気を落ち着かせた。
期待と緊張で高鳴る鼓動を抑えつつモンドはサラサの部屋を訪ねた。
ドアをノックした。
「どうぞ!モンドさんお入り下さい」
「入りますよ、サラサさん……ん?貴方は!」
「分かって頂けた様ですね、もう私はサラサではありません」
「どうなってるの?」
「……お久ぶりですモンドさん、いえ、先ほどお墓の方にきて下さいましたね……」
「間違い無いの?!」
「うふふ、お姉さまが三日間だけ体を貸して下さったのです。但し夜だけですけど………」
「夜だけでも充分ですよ!」
「どう言う意味でしょう?」
「いや!深読みはしないで下さい……でも三日間も……良いのですか?」
「私達が双子の姉妹で7月7日を挟んでいるから可能なのです。姉はだいぶ前から準備していた様ですし……」
「準備?」
「いえ!それはモンドさんには関係有りませんでした、そんな事より、せっかくの三日間です2人で楽しみましょう、
外はお祭りです、私を連れて行って下さいませんか?」
モンドはラサラに誘われるまま、この期間だけ開くムーンムーンの夜店を回った。
早寝早起きのムーンムーンの人達もこの期間だけは夜更かしをする。
深夜まで営業するオープンカフェの前まで来ると、モンド達はミネバを寝かせた後で、
2人してお茶を楽しむハマーンとジュドーを見つけた。
懐かしそうなラサラの気持ちを察したモンドが腕を取ってカフェの2人の丸テーブルに同席した。
ニコニコして席に着いた2人に少し驚いた顔のジュドーが言う。
「手を取りあったりして、何時の間にそんなに仲良くなったのさ?サラサ、モンド!」
「なあ、ジュドー?サラサちょっと雰囲気違わないか?」
「そう言えば違うような気もするし……でも、それがどうしたんだモンド?」
「うふふ、こんばんは!ジュドーさん、お久しぶりですハマーンさんも!」
「えっ?声がラサラ?これってサラサの冗談でしょ?」
「私はラサラです。三日間だけ姉に体を借してもらうことになりました。夜だけですけど、
久しぶりに皆さんに会えてほんとうに嬉しいです」
半信半疑のジュドーを他所に他の3人の話は盛り上がった。
モンドが注文した特大のパフェがテーブルに置かれると、ラサラとモンドは2人でそれを仲良く食べていた。
今一、半信半疑で話に入り込めないジュドーにラサラが話題を振る。
「でもジュドーさんは、ほんとに素晴らしい方です!
ハマーンさんをここまで明るくするなんて、スタンパさんのお屋敷でお会いしたハマーンさんからは……
…私が生きていた時からは、想像も出来ませんわ」
"生きていた時"その言葉を聴いて今まで幸せそうにしていたモンドが号泣する。
「うう、ほんとは死んでるんだよな、ラサラ……今だけしか会えないなんて……」
周りのテーブルの観光客達の視線も気にせずモンドが大きな泣き声を上げ、
大粒の涙をこぼす。ハマーンが慰めの言葉を言う。
「楽しげな祭りで泣かないでくれ!また、来年呼び出して貰えば良いでは無いかモンド、
それに今日を含めて三日なのであろう?今日の夜とてまだ長いのだ、楽しまねば損だぞ、モンド!」
「そうですよモンドさん、ハマーンさんの言うとおりです!この三日間は私を楽しませて下さいね!」
「分かったよラサラ、精一杯やらせてもらうよ!どんな事でもする!何でも言ってくれ!」
その言葉を聞いたラサラの目が一瞬、月の光の様に光った。
そしてモンドに妖しく微笑んだ。
ラサラはもう一度のジュドー達に話を振った。
サラサ、ラサラの様な神秘を追求する人種にとって2人の出来事は神の奇跡を感じさせる素晴らしいモノに映るらしい。
死して尚、興味が尽きないのだ。
「でも、ジュドーさんとハマーンさんほど素敵な恋をしている恋人同士もいないのではないでしょうか?
女として羨ましい限りです。ウフフ、見せつけ過ぎですよ…お2人は!」
「照れるでは無いかラサラ!程々にしてくれ!」
完全に目の前の女性をラサラと認めて話をするハマーンを半信半疑の目で面白く無さそうに見るジュドーだった。
しかしラサラの次の言葉でジュドーの気持ちも変えさせられた。
「でも、ジュドーさん達は大胆過ぎます!初めてなのに外でなんて、しかも私のお墓の前なんて…
……私は普段お墓から動けないですから、どうして良いものか、とても困りました!」
そう言い終わると、ラサラはぽっと顔を赤らめた。
1人だけ何の事を言っているのか理解出来ないモンドは、ラサラを黙って見詰めていた。
ハマーンはすました顔でアイスティーを飲んで知らぬ振りを決め込んでいるが少し赤い顔をしていた。
ジュドーは青い顔になって呟いた。
「本物だ………本物のラサラだ………サラサの冗談じゃ無かった!」
ジュドーは宇宙の神秘の一部を垣間見た。
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それから二ヶ月ほどしたある日、サラサの妊娠が発覚した。
驚く全員の前でサラサはお腹を撫でながらモンドに責めるでもなく言った。
「あの夏の夜です、モンドさんの子供です、女の子です」
そう言われたモンドは、即座にその場に土下座して詫びた。ジュドー、ハマーン、
遊びに来ていたエル、ビーチャ、イーノも汚いモノでも見る様な目でモンドを見る。
サラサだけがモンドを庇う。その場に急激に立ち上がった皆の憎悪に驚いたサラサが慌てて言い繕った。
「モンドさんは何も悪く有りません!モンドさんを責めないで下さい! 誘惑したのは妹なのです!
いえ、2日に誘惑したのは私です!悪い事など何も在りませんから!」
「すいません!ごめんなさい!その、あの、あの晩、いつのまにかベッドの中にラサラが来て居て…
…朝には居なかったし……夢か現実かも今まで分からなかった……でも、ゴメンなさい!!"しました"ゴメンなさい!」
「サイテー!!」
「獣だな……モンド」
「モンド良くないと思うよ…」
「人間失格だな」
般若や仁王の面々が去り、一通りの罵詈雑言を浴びたモンドが土下座モードを解いて顔を上げると、サラサがモンドに詫びた。
「ごめんなさい、皆さんがあんなに怒るとは思わなかったんです、むしろ歓んでくれると思っていたのに…
…驚いて、怖くて、何も言えませんでした、モンドさんに迷惑をかけてしまいました……」
「いいえ、当然ですよ、でも、僕はどうしましょう?サラサさん?」
「私は生みますけど、モンドさん宜しければこの子の父親をやって頂けますか?」
「それは、もちろん!でもいいんですか?僕なんかで……」
「私はモンドさんのこと好きですもの!ずっと以前から……」
「えっ?!」
「うふふ、気が付きませんでしたか?二日目の夜は私だったんですよ!モンドさん!」
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「熱!この巨神……凄い熱くなってる!どうしたんだろう?」
「目が光ってる!」
「なんか凄く怒ってるみたいだよ……」
「怖いから向こうの巨神で遊ぼうよ!」
神殿裏のキュベレイの足元で遊んでいたムーンムーンの子供達は慌てて
キュベレイを離れダブルゼータの足元で遊び始めた。
ハマーンの押さえ切れない怒りの為に、神殿裏のキュベレイのサイコミュシステムが
反応してしまい融合炉が臨界になっていたのだ、排熱の為に装甲温度は85℃に達した。
「 無意識の間に、自分の体がそんなことになったら……」
そう考えると、ハマーンはどうしてもモンドが許せなかった。
ハマーンの怒りはモンドの高い志を評価していただけに尚更だった。
そしてそれ以上に、知らぬ間に妊娠させられて、平気な顔をしているサラサの気が知れなかった。
これからも一緒に暮らしていく以上、二人の真意を確かめないではいられなかった。
ハマーンは夕食後、サラサの自室を訪ねた。
「サラサ…………ちょっと良いかな?」
「どうぞ!」
サラサの了解を得てからハマーンが部屋に入ると、他に居場所の無いモンドもいた。
2人でお茶をしていた様子だった。
モンドはハマーンの突き刺さる氷のごとき冷たい視線に耐えかね、怯えるように無言で退散した。
逃げる背中にハマーンが言葉を吐き捨てた。
「俗物めが!」
「ハマーンさん、モンドさんを虐めないで下さい。」
そう言って庇うサラサにハマーンが問う。
「自分の知らぬ間に妊娠させられて、何故平気でいられるのか?サラサ!」
「先ほどは皆さんの思いがけない怒りに驚いてしまって満足なご説明が出来ずに申し訳有りませんでした。」
「思いがけないだと?このような出来事に説明が有るとは考え難いが……聞こうか………」
サラサはモンドが飲んでいたティーカップを片付けると、新しいカップに出して紅茶を注ぎハマーンの前に出した。
ハマーンは出された紅茶の前に座ると、サラサと向かい会った。
サラサはゆっくりティーカップを傾け、紅茶で喉を湿らせから話を始めた。
「私がモンドさんを陥れたんです。妹も共犯です…協力を申し出てくれましたし……」
「へっ?」
ハマーンは、らしからぬ声を出し間抜けな表情になったままサラサを見詰めた。
「私も、ハマーンさんのように素敵な恋人が欲しくなったのです……
…いつも見せ付けられていますしね!…
……ちょっと強引な謀略もハマーンさんを見習ったのですよ」
「わ、私は関係ないだろう?訳の分からぬ事を言うな」
「ハマーンさんはジュドーさんを手に入れるのに、この世から命一つ削る賭けをしましたでしょ?…
…ご自分の命を……私は命を一つ足す賭けをしたのです…
…ラサラの命です、命賭けの恋と言う点では同じですね」
「すまんが、サラサの言葉……全く解せぬ……」
「私はモンドさんのことが好きなのです、モンドさんも私に好意を持ってくれました、
けれどモンドさんは死んだラサラを気にしていました、
それはまるでラサラに操を立てている様にさえ見えました、
私達姉妹はこの状況を打開したかったのです、」
「結局どちらだったのだ?サラサかラサラか?」
「ですから、先ほどもお話しましたように、2日目に誘惑したのは私です」
「サラサはラサラが乗り移ったふりをして妊娠したと言うのか?!」
「私に乗り移ったままの状態で新しい命に乗り移る事は出来ませんから
ラサラは一旦外で待機する必要が有ったのです。」
「では、ラサラは2日目の夜からサラサのお腹に宿ったと言うのか?」
「何故そんな事をする?後日では駄目なのか?」
「ラサラがお墓から離れられるのは年に一度だけです。
お墓の前まで行って"すれば"良いのでしょうが私にはそんな勇気は無いのです」
「そ、そうか…うん、ジュドーは勇気が有るからな!うん!」
「ジュドーさんだけでしょうか?」
「そっちの話は良いから!」
「でも、二日目の夜からラサラはサラサのお腹に入ったなら、
もういないのだから3日目もサラサだったと言うことになるのか?
結局、ラサラは最初の日だけだったのか?」
「いいえ、ラサラは1日目と同様に3日目もモンドさんと一緒でした。
お祭りには行かなかった様ですけど、ウフフ……」
「おかしいではないか?3日目には既にラサラはサラサのお腹に移ったのだろう?
もう乗り移れないのではないのか?」
「1日目のラサラは私に外からかぶさる様にしていました、
2日目は外でタイミングを待って新しい命を手に入れました、
3日目は中から私の体を動かしたのです、みなさんがモビルスーツを操縦するようにです、
一年近くモンドさんに会えない訳ですから名残惜しくて大変だったみたいです……ウフッ」
照れ隠しで悪戯っぽく笑って話すサラサと対照的に、
あまりの話の内容に多少の霊感はあっても基本的には現実的な理論家のハマーンは、
その明晰さゆえに酷く混乱させられた。
オーバーロードで頭が熱っぽくなるのを感じていた。
サラサがさっきからさりげなく言っている最も驚愕するべき発言に意識がやっと追いつて今更に間抜けた質問をした。
「サラサ?!お腹の子はラサラだと言うのか?!」
「さっきからそう言っています!……来年の初夏の頃になると思いますが……またラサラをよろしくお願いしますねハマーンさん!」
頭を抱えたハマーンが言った。
「何故……そんなややこしい事をするのだ?」
「………これなら姉妹でも気兼ねなくモンドさん1人を愛せますし、モンドさんも気兼ねなく私達姉妹2人を愛せるでしょう?」
悲鳴を上げそうなハマーンの頭脳が最後の力を振り絞って状況をまとめた。
「ほう、なるほど?……サラサは夫としてモンドを手に入れ、ラサラは父親としてモンドを手に入れる?…
…あの世とこの世の両側からオールレンジ攻撃を敢行したと言うのか?…
…モンドを双子の姉妹で仲良く山分けにしたと言うのか??……」
サラサが満面の笑みでハマーンに言った。
「はい そのとおりです」
神キター!
ホッシュ
418 :
通常の名無しさんの3倍:04/11/10 00:51:55 ID:NIG/twa2
関係無いけど本番中の描写無しか?
いや、素の時が面白いからいいんだが
アニマルモンド!
キタ――(゚∀゚)――――
ほしゅ
ジュドー・アーシタっつー名前が最高。
名前考えた人の詳細求む。
sageて(゚∀゚)行こう〜
柔道山下
更新街
更新街
お目汚しすまん
シャアと一緒にアクシズ落とすカミーユを
ハマジュドが止めるお話
設定色々無茶あるけど
「・・・・月が落ちるか・・。」
作戦は成功。5thルナは地球に向けて落下を始めた。
このルナが落ちることによってもたらされる被害は
ラサ以外の人々にも多大な影響を与えるだろう。
しかし後悔はない。もはや自分は後戻りできないところまで来ているのだ。
「ギュネイ、戻るぞ」
「ハッ」
カミ―ユは数機のヤクト・ドーガと供にこの作戦に参加していた。
任務は陽動。連邦の艦隊に攻撃をしかけルナに近寄らせない事が目的だった。
カミーユは強化人間で編成された部隊を率いていた。
自身の乗機はサザビー。
シャァ大佐のものとはカラーリングと細かな武装が違っている。
ヒートホークは装備しておらず、サーベルのみとなっており
ライフルの出力も大佐のものと比べて落ちているが、その分機動性を重視している。
「・・・・なんだ、この感覚は・・・?」
カミーユの感性は敏感にこの空域に近づくものを感じ取っていた。
「・・・アムロさんか?いや、違う。なんだ、この懐かしい感じは・・・。」
アムロのいる空域はここではないはずだ。
ロンド・ベルは大佐の艦隊のほうへ展開している。
「・・・ビダン中尉・・・」
「分かるか、ギュネイ?」
「ええ、なにかが。荒削りな大きな力のようなものを感じます。・・・連邦の強化人間でしょうか?」
強化人間、その言葉を聞いたときカミーユが思い出したのは二人の女性だ。
自分が救うことが出来なかった強化人間たち。
人を強化する悲しみを
誰よりも分かっているはずの自分がこうして強化人間を率いている。
「・・僕はこの感覚の正体を知っている気がする。
ギュネイ、お前たちは先に帰還しろ。僕はこの感覚の主を探ってくる!」
「ハッ!」
遠ざかるギュネイたちの閃光を目で追いながら
カミーユは近づいてくるプレッシャーの正体を探っていた。
(一人じゃないな。二人だ。僕はこの二人を知っている?)
カミーユの感覚の目とも言えるものが
一人の青年の幻影のようなものを映し出す。
「これはジュドー?ジュドー・アーシタなのか・・・・?」
キタ━━━ヽ(゚∀゚)ノ━( ゚∀)ノ━( ゚)ノ━ヽ( )ノ━ヽ(゚ )━ヽ(∀゚ )ノ━ヽ(゚∀゚)ノ━━━!!
早くアップお願いします。
「カミーユ!」
ジュドーは目の前のMSに向かって叫んだ。
ジオン系と思われるその機体に見覚えはないが
ジュドーはその機体にカミーユが乗っている事を確信していた。
数日前、シャアの演説の映像にジュドーは懐かしい人を見つけていた。
シャアやまわりの仕官たちと一緒にネオジオンの軍服に身を包んだカミーユ・ビダンの姿を。
その後は無我夢中だった。
カミーユが戦争に協力してるのは何かの間違いだと思った。
カミーユに会わないといけない。なにか勘違いしてるのかもしれない。
そうでなければ宣戦布告をしているシャアの隣に彼がいるはずは無かった。
いてもたってもいられなかった。
気づけばビーチャやエルたちに協力を頼んでここまで来ていた。
かつての自分が乗っていたものと同型のMSダブルゼータと彼女とともに・・・・。
「カミーユ!なぜあんたがココで戦争をやってるのさ!」
「ジュドー・・・・」
カミーユの声は冷静だった。それがジュドーには信じられなかった。
5thルナが落下を始めたことはビーチャから聞いた。
あんなのが落ちれば地球は、そこに住む人たちがどうなるのか
その悲しみを分からないカミーユでは無いはずだ。
「あんたはシャアに利用されてるんじゃないのか!あんなものを地球に落としていいわけないだろう!」
「違うジュドー。僕はここに自分の意思で立っている。
重力の井戸に引き込まれた人たちを解放するにはもうこれしかないんだよ。」
「かつて私と戦ったニュータイプの言葉とは思えんな、カミーユ・ビダン」
「・・・ハマーン・カーン・・・・なるほどもう一つのプレッシャーはあなただったのか」
ジュドーの隣にはキュベレイの姿があった。
当時ハマーンが乗っていた白いものとは違う、黒い、量産型と呼ばれるものらしい。
「ファはどうしたんだよ!?あんたと暮らしてたんじゃないのかよ!」
「・・・ファは死んだよ・・反地球連邦のデモ隊と治安部隊の衝突で出たけが人の治療に当たった。
その巻き添えで殺された。治安部隊の発砲でね。ただ治療していただけ。ただ治療していただけなんだぞ!」
カミーユの機体から激しい悲しみと怒りのプレッシャーが立ち上る。
「戦争が終わって何が変わった!
連邦の体制も、スペースノイドへの弾圧も何一つ変わっていない。
変わろうとしないんだ!だから僕は大佐と供に立った!変わらないならこの手で変えてやる!
たとえ地球に住む人々を犠牲にしてもだ!!」
「・・ジュドー、いまの奴に何を言っても無駄だ。奴はかつての私と同じものにとりつかれている」
「・・・ああ。こうなったら機体を壊してでもカミーユを連れ帰る。話はそれからだ!」
「邪魔をするのなら!ジュドー、お前でも容赦はしない!!」
「カミーユ!ファはあんたがそんな事するのを望んじゃいない!」
「彼女が望む望まないじゃない!僕がするかしないかだ!」
「この分らず屋がーーーー!」
ダブルゼータのダブルビームライフルが青いサザビーに向かって収束していく。
そのビームを避けたサザビーに先読みしていたキュベレイのビームガンが
襲うがそれすらも容易にカミーユは避けた。
「くそ、機動性がダンチだ!」
「そんな旧式のMSじゃ僕を止められないぞ!」
サザビーから発射されたビームがダブルゼータの装甲の表面を焼いていく。
攻撃の悪意のようなものを感じ取れても
それ以上の速度で襲ってくる攻撃にジュドーはなすすべもなかった。
「カミーユ、あれの落ちた先での悲しみがわかるだろ!
あんなのが落ちたら何万もの人が死ぬんだぞ!
それを止めたくてあんたはダブリンで俺に語りかけてきたんじゃないのか!」
「悲しみが分かるからだ!大佐一人にその業を背負わせるわけにはいかない!」
撃ち合いでは二機がかりでも敵わないと感じたジュドーは
ハマーンのビームガンの援護を受けて接近戦に持ち込む。
「お前こそ、なぜハマーンとともにいる!
その女はダブリンにコロニーを落とした元凶だろう!」
「今のハマーンは、あんたの知ってるハマーンじゃない!」
「同じことだ!!」
サーベルの鍔迫り合い。干渉した粒子がお互いの装甲を焼いていく。
基本性能のほとんどはサザビーのほうが上だが出力はダブルゼータも負けてはいない。
単純な力押しならダブルゼータのほうが上のはずだ。
「ハマーンは俺たちと暮らして変わった。いや本来のハマーンに戻ったんだ!それが分からないあんたじゃないだろ!
人は変われる。たとえゆっくりでも地球をよくしていく方法を皆で考えていけばいいだけだろ!」
「その通りだ。お前はその人の可能性を信じて私やシロッコと戦っていたのではないのか!?」
「それではもう間に合わないところにまで地球はきているんだ!
このままでは第二第三のティターンズを生み、また戦争が始まる!」
「戦争で戦争を終わらせる考えがナンセンスなんだよ!」
「たとえ地球の人たちを犠牲にしてもこれを最後の戦争にする!
地球を開放し、そこから新しく始めるんだ!」
「人を犠牲にするその考えが間違っているんだ!」
「分からないならジュドー!ここで終わりにするぞ!」
「ファンネル!」
サザビーから放たれた無数のファンネルがジュドーを襲う。
二基三基とライフルやサーベルでなぎ払うが
その動きはかつて自分が受けたキュベレイのオールレンジ攻撃よりも正確で動きも早い。
「くそ!このままじゃやられちまう!」
ファンネルの攻撃を避けるジュドー。だがその動きに違和感を感じる。
(落とそうと思えば落とせるはずだ。躊躇っている・・・・?)
「ジュドーを殺させるわけにはいかない!ファンネル!」
キュベレイから放たれたファンネルがサザビーのファンネルを撃ち落そうとする。
が、ファンネルの動きにハマーンはついていくことができなかった。
(く、やはり調整されていないサイコミュのファンネルでは捕らえきれないか!)
「ハマーン・カーン!邪魔をするなら!」
今までジュドーに向けられていたファンネルが明らかな悪意を持ってハマーンを襲う。
避け切ることが出来なかったキュベレイの右腕が飛ばされる。
「ッ!」
「ハマーン!」
(ハマーンをやらせはしない!キュベレを避けてファンネルだけを!)
ダブルゼータの額から高出力のキャノンが発射される。
そのビームはキュベレイを避けつつサザビーのファンネルを撃ち落とす。
直撃を逃れたファンネルもキャノンの影響を受け動きが止まる。
「っく!」
驚愕のためか一瞬サザビーの動きが止まる。その瞬間を逃さずハマーン
が残った左腕でサザビーに切りつける。
「右腕が!」
その攻撃を驚異的な反射能力で避けたカミーユだが、
ビームサーベルによって浅く撫でられた右腕の回線を焼ききられていた。
そのとき緑色の発光弾の輝きがあたりを包む。
「・・・・終わったか。ジュドー!僕はこのまま大佐と供にいく。
邪魔をするというのならお前でも落とさせてもらう!」
「カミーユ!」
ダブルゼータはしばらく動くことができない。
キュベレイも損傷している。戦える状態ではなかった。
「・・・出来ればお前とは戦いたくない・・・。
このさき戦場でお前と会わないことを望むよ、ジュドー・・・・・・」
ジュドーは去っていくサザビーを悔しそうに見つめた。
カミーユはいつで自分たちを落とせた。
それをしなかったのは落としたくなかったからだ。
そんな優しいカミーユが地球にルナを落とした。
「くそ、なんでだよ・・・なんでだよ!カミ――――――ユ!!」
「ジュドー・・・・・」
「・・・ハマーン、大丈夫か?」
「・・・ああ」
ハマーン自身、あのカミーユの変貌ぶりは信じられなかった。
かつて戦ったニュータイプ。
(あの少年が5thルナを落とすなどと・・・・)
「ハマーン機体を捨ててこっちに移ってくれ。戻ろう」
「機体を捨てるのか?」
確かに損傷はしている。しかし動かないというわけではない。
何よりこの機体の価値はュドーのほうが分かっているはずだ。
(私もすっかりジャンク屋家業がいたに染み付いてきたな。)
「いいよ。誘爆なんかの可能性が無いわけでないし・・・・」
「いいのか?」
「・・・・ああ」
この機体を見つけ整備したのはシャングリアの子供たちだ。
さすがにサイコニュの調整などには万全とはいえないが
それでも機体の整備はしっかりされていた。
元々この機体はダメージコントロールに優れている。
ニュータイプ専用機は何より帰還後のデータが重要になってくるからだ。
(それが分からないジュドーではない・・・・)
ハマーンはジュドーの心に触れた気がした。深い悲しみ。
(不安を感じているのか・・・。ふふっ)
直接口には出さないが不安を感じる心を
自分に触れさせてくるジュドーがハマーンにはうれしかった。
カミーユのことはハマーン自身もショックを受けている。
さらにそれを率いるシャア。
だがそれ以上に今はジュドーのことを思いたかった。慰めてやるのもいい。
ハマーンは機体を捨てジュドーのダブルゼータ向かっていった。
大切な人のもとへ。
ジュドーがハマーンの腕を取りコクピットへと導く。
「ジュドー・・・・・」
「ハマーンもヘルメットとりなよ」
「ん、ああ」
ジュドーがヘルメットをシートの後ろに追いやる。
「しかし、ジュドー。これでは私が立つ場所がないのだが・・・・・?」
コクピットはただでさえ狭い。
後ろの空間をヘルメットに取られたのではハマーンの身の置き場がない。
「ここ」
ジュドーの指差したのは自分の足だった。
「ここに足だしてさ、オシリを俺の膝に乗せればいいよ」
「し、しかし、これでは・・・・!」
ジュドーが望むのは俗にいうお姫様抱っこだった。
「そ、そんなことが出来るか!」
「なんだよ、恥ずかしがること無いじゃん」
「恥ずかしがってなどいるか!」
「ならいいじゃん」
ジュドーは強引にハマーンを自分の膝に乗せる。ハマーンの腕をつかみ自分の首に巻きつかせる。
「こ、こら、ジュドー!」
「いくぞ」
ダブルゼータがゆっくりと加速し始める。
この空域から少し離れたところで待つビーチャ達のもとへと。
「なあ、ハマーン」
「な、なんだ!?」
動揺を隠そうとするハマーンだがやはり声に出てしまう。
お姫様抱っこなどされたことも無ければ
まさか今ここでされることになるとは想像もしていなかった。
だが悪い気はしない。自分は少し少女趣味なところがあるかもしれない。
そんなことを考えていたがジュドーの顔を見るとそんな考えは吹き飛んだ。
悲しい顔。一緒に暮らしてから始めてみる顔。
「ファってさ、わかる?」
「先ほどの会話で出ていたな」
「俺がカミーユに会ったのは
アーガマにゼータを盗みに入ろうとした時だってのは話したよな」
「ああ、覚えてる」
確かあれは一緒に暮らすようになってしばらくしてからの話だ。
慣れない酒を飲んでいつもより饒舌だったジュドーが口にした話。
カミーユと自分の出会い。
まるで恋人との思い出を語るような口ぶりに
男同士だと分かってはいても嫉妬を覚えた記憶がある。
そのときのことをジュドーが覚えてるとは意外だった。
「そのとき一緒に出会ったのがファでさ。
カミーユのことを一番に考えてて、お姉ちゃんみたいだった」
ジュドーの悲しみが大きくなる。
「戦争が終わって、ファからみんなにって手紙がきたんだ。
今、カミーユと一緒に暮らしてる。カミーユもすっかり回復したって。
一緒に入ってた写真は二人とも幸せそうな顔しててさ。
俺も負けてられないって思った」
「ジュドー・・・・」
「そんなファが死んだ。俺は知らなかった。
カミーユが苦しんでたとき俺はハマーンやリィナ、みんなと幸せに暮らしてた。
あいつが苦しんでるときに俺は笑って暮らしてたんだ!
自分の半身みたいな奴が苦しんでるのに俺は、俺は!」
ジュドー拳がダブルゼータのスティックに振り下ろされる。
これほどまでに悲しみにうちひがれるジュドーをハマーンは初めて見た。
(やさしい子だ。やさしすぎる・・・・・)
このやさしさに自分は救われた。
しかしその優しさが今ジュドー自身を傷つけている。
カミーユの苦しみに気づけなかった自責の念。
「・・・こんな俺がカミーユに感情に任せて言いたいこと言ってさ。
笑えるだろ、俺はあいつを救う気だったんだ!」
「ジュドー!」
ハマーンはジュドーの頭を胸に抱きかかえた。
こんな悲しい顔のジュドーをこれ以上見ていることが出来なかった。
「・・・ハマーン?」
「いいから、黙ってろ」
二人はしばらく無言でいた。静寂。
「・・・聞こえるか?」
「・・・ああ、ハマーンの心音(おと)が聞こえる・・・」
パイロットスーツ越しでもその音はジュドーの耳にはっきりと伝わっていた。
命の鼓動。ハマーンが今生きている証。
「・・・この音はお前が救ってくれたのだよ、ジュドー」
「俺が?」
「ああ」
ジュドーの腕がハマーンの腰に回される。
「お前が救ってくれなければ私はここにいなかった。
この音はその証拠だ。ジュドー、ここにお前が救った確かなものがあるのだ」
「ハマーン・・・・」
「カミーユを救いたいのだろ?大丈夫、お前はお前が思っているよりずっと強い子だ。
ジオン再興という妄執に取り付かれ、暗い宇宙に囚われていた私を救ったのは
ジュドー・アーシタ、間違いなくお前だ」
「・・・ああ」
ハマーンはジュドーの頭を抱きしめながら語った。
ジュドー・アーシタの強さを。
「それにお前は一人じゃない。お前の隣には常に私がいることを忘れるな。
不安になるなら私がすぐに駆けつけよう。
そして、またこうして私の音を聞かせる。かつてお前が私にしてくれたように、な・・・・。」
「・・・ハマーン・・・」
「ん?」
「こちょこちょこちょこちょー!」
突如ジュドーはハマーンをくすぐり始める。
それはスーツ越しでも強烈なものだった。
「わ、何をするばか者!や、やめろ!くすぐったい!あはは、馬鹿!耳を舐めるな!」
脇をくすぐり、露出した顔に息を吹きかけ、耳を舐める。
ありとあらゆる方法を用いてジュドーはハマーンにくすぐり攻撃を浴びせた。
しばらく声にもならない悲鳴を上げ続けていたハマーンだが
突如攻撃から解放される。肩で息をしながらジュドーの顔を覗き込む。
「いきなり何をする!」
ジュドーは照れくさそうにいう。
「へへっ、ありがとう、ハマーン。
そうだよな、俺が悲しんでたってカミーユは救えない。
後悔はしない。俺はカミーユを救ってみせる!」
迷いを断ち切り決意した男の顔があった。
その顔にハマーンは怒りを忘れしばし見入る。
「ふふ、それでこそジュドーだ」
二人はしばらく見つめ合う。どちらとも無く顔を寄せていく。
「・・・ハマーン・・・」
ハマーンは目を閉じ恋人の唇を受け入れた。
すげー読みづらいね すまん
この後の予定
1、クェスとギュネイのカミーユ取り合い
2、混ざりたいんだけど立場的に参加できずに臍を噛むシャア
3、そして意味も無くいちゃつくハマジュ
最後どうしよう・・・・・
>>445 >1、クェスとギュネイのカミーユ取り合い
ま、まさかカミーユが両刀に!とか、バカな事を言ってみる
乙です
続き楽しみにしてます、頑張ってね。
801はあまり…
でも保守
451 :
通常の名無しさんの3倍:04/11/20 18:42:40 ID:MOu/v1gT
ガンプラのCMの声がジュドーだった。
801に踏み切れば作者は腐女子の英雄
453 :
通常の名無しさんの3倍:04/11/21 19:03:22 ID:+F9wRm8c
801は・・・いやだ・・・・
どうでるか分からんが裏設定
ジュドー・・・ハマーン一筋。ぶっちゃけそれだけ
裏ハマーン・・・最近エルや女性雑誌の影響を受けている
ジュドーとの営みは基本的に受け
雑誌に載っていた「女性は受けているだけではダメ」を真に受けているため
攻めに回る機会を虎視眈々と狙っている
嫉妬深く表にこそ出さないが少女趣味なところもある
裏シャア・・・マザコンでシスコンでロリコン。そしてカミーユ好き。さらにM
非の打ち所多すぎてどこから叩けばいいのか分からん程
カミーユの前では理想のシャア
裏では変態
1/6カミーユ君を製作。お腹を押すと「修正してやる!」の台詞付
大のお気に入りである
「子供の成長を微笑ましく見守る父親」(本人談)
誰も信じていない
裏ナナイ・・・惚れた弱み。シャアのカミーユ盗撮の片棒を担ぐ
一応常識人 シャアの裏の顔を知る唯一の人
暴走しがちなシャアの突っ込み役でもある
こんなのに何故惚れたと自問自答の日々を送っている
ギュネイ・・・ カミーユ好き。気づいてないのは本人とカミーユだけ
本人は「超えるべき目標」
外野からは「主人の前で尻尾を振りまくる犬」
カミーユの前で好意を隠さないクェスを苦々しく思っている
クェス・・・シャアについて行ったがカミーユにあっさり鞍替え
シャアは父親 カミーユは恋人らしい
カミーユを呼び捨てにしてるためよくギュネイと喧嘩する
カミーユ・・・一番の被害者
男好きの趣味は無いためシャアとギュネイの気持ちに気づくそぶりもない
裏ララァ・・・アムロとシャアにとりつく背後霊
最近のシャアにやや呆れ気味
庇って死んだことをちょっぴり後悔してるのは秘密
ぶっちゃけ出番無し
アムロ・・・モブ
801はないはず。というかどこまで行けば801?
>>409 「だから男はファンネルを何時まで経っても使えるようにならんのかも知れんな……」
萌えた・・・・
最近キャラが生き生きしてていいですな
ほしゅ
カムオン
458 :
通常の名無しさんの3倍:04/11/25 21:15:05 ID:6fel1EVS
あげ
ちょっとキビシ目の批評を受けるため、“俺ガン小説”のスレ610から642に
草稿をアップしました。お待ち頂ければ後日完成度を上げてアップしますが、
誤字脱字、くどい文章でもへーきと言う方はお暇な時にでも読んでご意見下さい。
>>454 その路線でお願いします。セイラさんも登場させて欲しいです。
向こうは厳しいですな
でもアッガイさんには刺激があっていいのかも知れませんね
がんばってください
携帯でも見れるようにしてください
(ToT)
携帯でも見れるようにしてください
楽しみにしてたのに携帯じゃ見れない(ToT)
465 :
454:04/11/27 23:51:53 ID:???
少しお目汚し投下。見苦しくてごめんなさい
「サザビー!?損傷してるじゃないか!」
帰還したサザビーにギュネイは目を見張った。右腕を損傷しているらしく、装甲が融解している。
あの後、他のMSとともに帰還したギュネイだったがカミーユのことが気になりMSハッチから離れないでいた。
やっと戻ってきたサザビーの動きに違和感を覚えカメラで確認すると右腕の損傷に気づいた。
(くそ!俺だけでもついていくべきだった!)
動かない右腕を抱えたサザビーだが問題なく着艦した。その動きにギュネイは安心を覚える。
(さすが中尉だ。・・・・その中尉に手傷を負わせる相手がいたということか)
ギュネイは着艦したばかりのサザビーの頭部に取り付く。
頭部が開きコクピットのカミーユが姿を現す。
466 :
454:04/11/27 23:54:51 ID:???
「中尉!」
「ギュネイ?」
ギュネイの目から見たカミーユは疲れているようだったが、外傷は無いように見えた。
「どうした?スーツも脱がずに」
「あ、いえ、そのビダン中尉が気になったので・・・」
「すまない。心配をかけたみたいだな」
カミーユがかるく微笑む。その言葉だけでギュネイは報われた気がした。
「い、いえ!中尉がご無事ならそれだけで!」
損傷した箇所をメカニックに伝えたカミーユがMSから離れる。
自分でも狼狽してるのが分かった。なぜ自分はこんなにも中尉が気になるのか。
ギュネイはそれを憧れと目標だからと考えていた。
初めてカミーユに会ったとき覚えた気持ちは反発だった。
ニュータイプ研究所で負けなしだった自分。
グリプス戦役で大佐と共に戦ったパイロットとは聞かされていたが、それだけでなぜ自分が下につかなければならないのか。
その理由はその後の模擬戦で痛いほど思い知らされた。カミーユのギラドーガの動きについて行けなかったのだ。
あれが実戦だったら自分は何度落とされたのだろうか?被撃墜スコアが二桁になった時にはギュネイは自分から負けを認めていた。
だが負けたまま納得できるわけも無かった。この人を一番近くで研究していずれこの人を超えてやると。
467 :
454:04/11/27 23:56:54 ID:???
「ギュネイ?」
「あ、はい!」
しばらく思い耽っていたようだ。カミーユの声で現実に戻る。
「僕はこのことを大佐に報告してくるよ。悪いがこのデータを届けておいてくれ。」
カミーユからMOが手渡される。ガンカメラの映像などが含まれたデータだ。
「了解しました」
「頼む」
「あ、中尉!その後少しお時間いただけないでしょうか!?」
流れていくカミーユに声をかける。これといった用は無かった。
ただ少しでも一緒にいたかった。
「すまない!少し考えたいことがあるんだ!」
後にはお預けを喰らった犬が取り残されるだけだった。
468 :
454:04/11/27 23:59:09 ID:???
データはあれで大丈夫なはずだ。ガンカメラの映像も音声もギュネイ達と別れた後のデータはすべて消去した。
追及はうけるだろうがどうとでもなる。
スーツの脱ぎネオジオンの制服に身を包んだカミーユはシャアのいる部屋に向かっていた。
(あとは大佐か・・・)
ジュドーとハマーン。二人のことは誰にも知られたくなかった。
特にハマーン・カーン。彼女が生きていると分かればジュドーも無事ではすまないだろう。
あの戦いでジュドーを落とすことは出来た。それをしなかったのは自分の甘さだと思う。
「カミーユ・ビダン入ります」
部屋にはシャアの他にナナイの姿もあった。
「カミーユ、損傷したそうだな?」
「申し訳ありません。大佐に戴いた機体に傷を付けてしまいました」
「いや、お前が無事ならそれでいい」
シャアが椅子から立ち上がりスクリーンのほうに向かう。スクリーンには漆黒の宇宙が映し出されていた。
469 :
454:04/11/28 00:01:04 ID:???
「カミーユ、お前に手傷を与えるパイロットがアムロの他にいるのだな・・・」
「油断でした」
「どんな相手だ?」
「普通のパイロットでした。もう会うことは無いでしょう」
「ふっ、嘘が下手だなカミーユ。」
シャアがカミーユに向き合う。その目がまっすぐにカミーユに向けられる。
「まあ、いい。それよりギュネイはどうだ?」
「いいセンスをしています。安定もしてますし・・・」
「ん、・・・強化人間を使う私を軽蔑するか、カミーユ?」
「・・・抵抗が無いわけではありません。人を強化するのは今でも嫌悪を覚えます」
「バイオテクによる強化は」
「いい、ナナイ」
言いかけたナナイをシャアが制する。が、それが正直な気持ちだった。
強化人間の苦しみ。今でも忘れない二人の女性。
「しかし今の連邦を打破するにはそういう力も必要なのだ」
「・・・分かっています。それにそれを責める資格が僕にはありません」
「・・・すまない、カミーユ」
470 :
454:04/11/28 00:03:56 ID:???
シャアがカミーユに歩み寄りその手がカミーユの頬に添えられる。
「・・・アムロさんは?」
「・・情けないMSに乗った奴を倒しても意味は無い。見逃してやった」
「ではサイコフレームの情報を?」
「ああ、奴との決着は同等のMSでないとな」
カミーユが軽く目を落とす。
「・・心配するなカミーユ。決着は私自身の手で付けなければ意味はないのだよ」
「・・・大尉・・・」
「ふっ」
シャアがカミーユから離れ、またスクリーンに向かい合う。
「会談は予定通り行う。お前とギュネイにもボディーガードとして付いてきてもらうぞ」
「了解しました」
「ご苦労だったな。下がってくれていい」
シャアがいたわるように言う。この人なりのねぎらいなのだとカミーユは思っている。
「失礼します」
この戦争が終わればスペースノイド、アースノイドの垣根のない世界が訪れる。
それまでは自分はシャアの剣となり戦う。そう決意している。
「・・・邪魔をするならジュドー、お前でも・・・」
戦いのない世界を想像することは出来る。
だがカミーユはその世界で暮らす自分のビジョンが見えてはいなかった。
471 :
454:04/11/28 00:06:00 ID:???
「ナナイ、ギュネイは問題ないのだな?」
カミーユの出て行った後シャアはナナイに向き直りたずねる。
損傷して帰ってきたという事実が気になった。
「今回のデータは届いていませんが問題ないでしょう」
「しかしカミーユは損傷したのだろう?」
「もしものときは中尉の盾になる位は出来るはずです」
「刷り込み、か?」
ギュネイにはカミーユを守るようにと別命が下っている。そのことはカミーユには伝えていない。
「ギュネイには刷り込みはしていません。あれ自身中尉に惹かれているようですから」
「ふ、カミーユはもてるからな」
472 :
454:04/11/28 00:07:50 ID:???
椅子に座りなおし、ギュネイとカミーユのやり取りを思い出す。
「なおのことギュネイがカミーユから離れたのが気になる・・・」
「・・・中尉から命令が下ったのかと思われます」
「カミーユがギュネイを下がらせ交戦した?」
「・・・おそらく」
「ふむ・・・」
先ほどのカミーユとの会話を思い出す。カミーユが嘘を付いていたのはわかる。
だが理由が分からない。自分に隠すほどの理由が。
473 :
454:04/11/28 00:11:32 ID:???
「まあいいだろう。ギュネイは問題ないのだな?」
再度たずねる。あれを犠牲にしてでもカミーユは守らなければならない。
「ええ、それにギュネイは中尉と一緒に使ったほうがいいと思われます。実力以上の働きが出来るはずです」
「そうでなければ強化した意味がない」
「・・大佐は中尉を大事に思われているのですね」
ナナイの言葉に多少の嫉妬が込められていた。
「カミーユを戦いで失うわけにはいかんよ」
偶然耳にしたニュースではコロニーの治安部隊とデモ隊の衝突が報じられていた。
その犠牲者の名前に見覚えのある名前を見つけたときシャアは愕然とした。
詳細を調べさせるとそれは間違いなくあのファ・ユイリイだった。
その後は四方手を回しカミーユを探した。あの繊細な少年が再び壊れるようなことにはならないで欲しかった。
しばらくし、発見したカミーユは壊れかけていた。保護した時は自暴自棄でなにも見えていないような状態だったらしい。
次第に回復していくカミーユに復讐という手段を吹き込んだのは自分だ。
しかし最愛の人を殺されたという憎悪を抱きつつも復讐という目的に囚われず自らの目的に賛同してくれたカミーユを眩しく思った。
そんなカミーユを戦争で犠牲にする気はなかった。だが不安はある。
「あいつは自分の先というのが見えてないようだから、な」
その言葉にナナイが微笑む。
「了解しました」
「・・・すまない、ナナイ」
「いいのです、その分愛していただければ」
474 :
454:04/11/28 00:17:38 ID:???
こんなレベルのもん人様にお見せしていいのだろうか・・・
>>460さん セイラさんですか。むむ
>>462さん 覗かさせてもらいます。そしてさらに自信喪失
つーかハマジュ出てない・・・・
乙です。うまく感想を言えないけど続き楽しみにしてます
カミーユに手をだそうとしたシャアが現場をセイラに目撃され死亡する801展開希望
* + 巛 ヽ
〒 ! + 。 + 。
+ 。 | |
* + / / <イヤッホーーーーーーーーゥ!
∧_∧ / /
(´∀` / / + 。 + 。 *
,- f
/ ュヘ | * + 。 + 。 +
〈_} ) |
/ ! + 。 + + *
./ ,ヘ |
ガタン ||| j / | | |||
――――――――――――
職人さん乙
カミーユがいたら・・・・
という萌えるifを文章にしてくれてうれしいです
479 :
sage:04/11/28 22:26:42 ID:LV56nvGr
801はイヤだっていっただろーに
480 :
通常の名無しさんの3倍:04/11/30 21:04:42 ID:3fuhpX2u
保守
板違いなのかもしれないけど、454設定のシャアとカミーユもっと見たいなあ
保守
485 :
通常の名無しさんの3倍:04/12/18 09:46:18 ID:pxz1eo2i
hosyu
ほ
保守
保守だよ!保守!!
神待ちage
ほしゅ
保守変わりに手直ししたモノを・・・・
ライト・シード031
忘れられた約束01
残された闇
「シャアのネオジオンと、ブライトの連邦の両方に野菜を売るか……これでは、アナハイムの事をとやかく言えんな……」
帳簿を付けながら呟く、そのハマーンの商才によりムーンムーン農作物の売れ行きは好調だった。
ロンドベルの演習に協力した感謝の印としてブライトの紹介でロンドベル他、連邦のコロニー駐留軍の数部隊から定期的な受注を得ていた。
その資金を元にモンドのコロニー修理も緊急を要する部分は概ね完了していた。
そんなある日、ここ暫く朝から晩までミネバまで手伝わせて、喜々として宇宙で働いていたジュドーとモンドが、今日に限って酷く、落ち込んでいた。
妙に思ったハマーンが2人に声をかけた。突然に、2人はハマーンに謝り出した。
「ごめんよ俺、ハマーンにモウサを捕まえるって約束しただろ……だけど駄目そうなんだ……」
「いや!俺達の考えが甘かったんだ……核パルスエンジンなんて単純だと思ったんだが……」
モンドがハマーンに、言い訳をするように説明した。
「核パルスエンジンなんて暗礁空域で廃コロニーや廃鉱山隕石を探れば幾らでも手に入るモノだと思ってたし事実そうだった、
だけど核燃料のほうはそうは行かなかったんだ!……ウラン235/238は大きな工場でガス化してカスケード組んで再濃縮すれば直ぐに核兵器になるから……何処の資材屋に相談しても、さすがにそれだけはダメだと言われた……」
「しつこく頼んだらテロリストと疑われて通報されて釈放されるまで言い訳が大変だったし………」
「……3人とも1ヶ月間モビルスーツ乗りっぱなしでひとり一個ずつ、直径1.2キロのパラボラ3個掘ってデッカイ核パルスエンジンも3個付けて配線まで済ませたのに……無駄だった……」
"3人"と聞いてハマーンが聞き返した。
「ミネバも手伝ったのか?」
「ああ、モビルスーツを使う作業は俺達と同じ量働いたよ、あの歳でもう一人前のオペエーターだよ、ミネバは、」
「何とかハマーンの誕生日の1月10日に合わせようと3人で頑張ったんだけどね……ごめんね」
そこまで聞いたハマーンは「2日待て!」とだけ言ってサラミスカプセルにキュベレイを載せると宇宙へ飛び出して行った。
20時間後ハマーンはキュベレイで数ヶ月前にロンドベル隊の演習で来たサイド4廃コロニー群4A−11に進入した。
そしてコロニーの防空壕に隠された濃縮ウランを搬出した。
以前に連邦からコロニー落としを持ちかけられた時にネオジオンに譲渡された核パルス燃料の一部を隠匿したモノだった。
「ん?……コロニー公社の連中では無さそうだが………ムサイ、ザクT、パプア補給艦?えらく旧式だな……」
ハマーンは搬出作業中、遠くの4B−08コロニーから4B−13コロニーにかけて、何やら動き回る宇宙船とモビルスーツの影を見つけた。
向こうも何か作業をしているようだったが、此方に気が付く様子は無かった。
ハマーンは以前に自分達を襲った奴らと同様の、サイド4暗礁空域を根城にする海賊達の基地建設作業に違いないと思った。
ハマーンは、発見されない様に注意して作業を続けた。
そして終了後には、サラミスカプセルのレーザー通信機で、ロンドベル地球周回軌道艦隊に詳細を打電した。
十分な量の核パルス燃料をサラミスカプセルに乗せるとムーンムーンに折り返した。いきなり核燃料を持ち帰ると、
驚くジュドーとモンドに"細かい事は気にするな!"と言って会話を拒否して3人で燃料装填作業に入った。
数時間して宇宙を揺るがす連続的な核爆発と共にモウサが軌道を変えムーンムーンに向かって動き始めた。
「なあ、せっかくだから頑丈なモウサでジャンクの衝突からムーンムーンを守る位置に固定しようぜ!」
ジュドーの発案でせっかく空気漏れを修理したムーンムーンがこれ以上痛まないように、ジャンクや隕石の流れて来る方向に対してモウサが盾になる配置を選んだ。ムーンムーンの宇宙港から3キロ離れた地球よりの宙域にモウサが固定された。
「ありがとうジュドー、モンド、ミネバ……何よりの誕生日プレゼントだよ」
何度も感謝の言葉を繰り返すハマーンに、皆は肝心の燃料を手に入れられなかった事を恥じたが彼女は気にしなかった。ミネバが持ってきた紅茶を飲み、ショートケーキを食べながらジュドーが言った。
「喜んでくれて嬉しい!けど中は思ったより酷いよ、俺とハマーンで壊したんだからしょうがないけど、2人で少しずつ直すとなると一生かかりそうだ……」
「フフ、良いではないかジュドー2人で一生をかけて、2人だけの星を創ろうではないか!」
「見果てぬ夢か!星を創るなんてロマンだな…俺も暇なときは手伝うぜ!」
「ハマーン、隅っこでいいから私の家も作らせておくれ」
UC0090年1月10日、4人はサラサも呼んで、モウサの元ハマーンの屋敷の前で彼女の誕生パーティー兼、着工式を挙げた。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「ロオル……最近いつもご苦労です」
「もー、サラサさんからもハマーンさんに言って下さいよー、少しは事務の仕事もして下さいって!」
ここ暫く、農産物売買の事務処理などの全てがロオルに任せっきりにされていた。4人はモウサの再建に夢中になっていた。
材料には事欠かない暗礁空域で全員がモビルスーツの操縦に長けているのは非常に有利だった。
数千トン単位の大規模作業ほど超人的に早く、一週間で穴を全て塞ぎ、以前のネオジオン研究施設の水陸両用型モビルスーツAMX-109カプールの試験水槽の水と、
ジュドーとミネバが直感で見つけ出した特大の氷の隕石5個をモンドが復活させたモウサのメイン動力炉の大電力で電気分解すると大雑把な成分ながら空気まで充填出来た。
仕方なく買揃えたのは大量の窒素ガスだけだった。
人工重力ブロックの内部回転部分は損傷が激しく修復は断念された。代案をハマーンが考え出した。
それはモウサが均質で強固なニッケル合金の塊であること、
しかも球体として重量バランスが粗整っているので外壁を切削するなど重量の微調整する事によりブレの無い完全な回転軸を出せること、
この2点の特性からモウサ全体を回転させて人口重力を得ると言うモノであった。
単純なアイデアであるが、何の問題も無いモノだった。たった4人、1カ月程度の労働で、空気、水、電力、重力の全てが揃ってモウサは蘇った。
いよいよ、ハマーン念願の屋敷の復旧工事に入る事となった当日、終に膨大な事務処理で忍耐の限界に達したロオルにハマーンが強制連行され、ミネバもそちらを手伝いに消えた。
「壁は白、床は赤、ジュドォォォー後を頼むぅぅぅー」
後ろ髪を引かれるようにロオルに連れ去られるハマーンの遺言に、忠実に作業を進めようとするジュドーとモンドだったが室内の手作業になったとたん、
宇宙空間ではモビルスーツを手足とする超人的な労働者だった2人は、不器用なただのガキに戻った。大雑把な復旧作業に比べ、
美的センスと経験の問われる屋敷の大工仕事など彼等に出来る筈も無かった。途方に暮れ、庭で一休みしてからハマーンに連絡して他の作業に回った。
先週、暗礁空域でジュドーとミネバが捕獲して来た巨大な氷の隕石を運び込む事にした。モビルスーツで運べる大きさに砕いては、モウサ内部に保管する作業を始めた。
「しかし、ジュドーとミネバはよくも、安々と極珍しい氷の隕石なんか見つけ出すな?」
「なんかさー、ピンと来たんだよ……何となく分かったんだ良いモンが有るゾって!ミネバもそうらしいよ……」
「大昔のほうき星のコアの破片かも知れないな、凄い節約になるよ、アレだけ水を買ったら大変な金額だもの……」
「でも残りは何処に入れとく?売る?」
2人はまだ30万トンほど残る氷の隕石の保管先をモウサの古い坑道と、残りを2重構造になっている元の人口重力発生装置の内壁とモウサ外郭の間に、水に戻して注入する事にした。
丸ごと回転して疑似重力を発生するモウサの中では、水は外壁に向かって流れ込む。2人は何時間もの間、無心に氷の塊にビームを照射した。湧くように流れ出す水をモウサの外壁はひたすら飲み続けた。
「モンド、これだけウォータージャケットを作れば中性子線も怖くないな!」
「モウサの外壁は1キロ近いニッケルの塊だから元々中性子線なんて大丈夫だよ……それよりそろそろ疲れてこないか……ジュドー」
「ああ、氷を溶かし始めて3日経ったな2割も溶けてないけど、今は朝の10時過ぎだよ、今日はもう帰ろう……」
「日照プログラム調節しないと時間間隔が狂うな……死にそうに疲れてた……」
丸一日寝た2人が再度モウサの作業に来ると、ハマーンの屋敷の作業が突貫工事で進んでいた。庭だのプールだの、道路、街まで考えれば永遠に作業は残るのだが、屋敷の何室かは内装まで済んでいた。
取りあえず完成したベランダの部屋には、浮かれて上気したハマーンの顔が有った。ロオルがジュドー達に言った。
「ハマーンさんに事務をサボられるとムーンムーンの大損失ですからね、私がムーンムーン中の大工を駆り集めました。これで落ち着いて仕事してくれると良いんですけどね!」
「おう!ジュドー来たか!今、職人さん達に紅茶を入れた、お前達も飲んで行け!それから今晩からここに寝泊りする!後でベッドと私の箪笥を持ってきてくれ!それから、それから……」
「ハマーン!浮かれ過ぎ!落ち着けよー」
ジュドーやモンド、ロオルに宥められ、ようやく落ち着きを取り戻したハマーンは花瓶の薔薇を一本抜いて魔法瓶に入れた。不思議に思ったジュドーが尋ねる。
「薔薇をどうするんだい?」
「この魔法瓶にお湯を入れて暫くしてから紅茶を入れるんだよ、気を落ち着けるための……私のおまじないさ……皆のプレゼントに少し浮かれ過ぎていた、すまない……」
「まあ、気持ちは分かるよ、モウサって小さいけどさ、綺麗に丸くて星って感じだもの、自分だけの星の一軒家なんて俺だってドキドキする!素敵だよ!」
ハマーンが沸かしたお湯を魔法瓶に入れようとしたその時、その魔法瓶が跳ねた。
屋敷全体が大きく揺れた。庭にモビルスーツが急降下して着陸した。ベランダの柵にガザのコックピットが触れるほどに接近してハッチが開くと中からエルとミネバが飛び出した。
「エル!ミネバ!ベランダを傷付けないでくれ……」
「それどころじゃないのよハマーン!皆も早くムーンムーンに戻って!仕度してシャングリラに向かって!」
慌てた表情でジュドー達を急かすエルの横で申し訳なさそうにするビーチャが居た。
ジュドーが理由を聞くとエルがビーチャを小突いてから言った。
「こいつが、みんなに招待状出すの忘れたのよ!!」
「ごめん! うっかりした! ジュドー、モンド……明日なんだ……チマッターさんの結婚式……」
寝耳に水のジュドーとモンドがエルに事情を聞くと、港湾管理局の所長になったチマッターさんの結婚が急遽決まり、アーガマ脱出時の恩返しにブライトが音頭を取って皆で祝福する計画だった。
しかしビーチャがムーンムーンへの連絡を怠ったままに式が明日に迫ったのだ。
チマッターは当時、港湾管理局の一職員だがジュドー達との関係は深い物が在った。今でこそ多少の技術を持ちジャンク屋で生計を立てるまでになったが、数年前の彼等は単なるゴミ拾いの浮浪児だった。
その彼等にタダでスペースゲートを行き来させ、さらに最低限度の宇宙の作法を教えたのはチマッターだった。
助け合う健気な戦争孤児の姿に心打たれたからだった。シャングリラのジャンク屋組合に立場を利用して、ジュドー達を加入させたのもチマッターだった。つまり恩人なのだ。
「どーすんのさ? 礼服なんて俺、持ってないよ!」
「俺だって無いよー!」
そう言って焦る2人にエルが言う。
「相手の女の人、結構いいとこお嬢さんだから偉い人いっぱい来るよ、身なりはちゃんとしないとチマッターさんに失礼よ……」
「えー、今からじゃ買い揃える時間もないよ!」
困り果てる2人にハマーンが助け舟を出した。
「大丈夫だよ、2人とも……こんな事もあろうかとサダラーンから男子礼服も少し頂いて来た!エルにも私の取って置きのドレスを貸してやろう!モンドには少し大きいかもしれないが……ムーンムーンに戻って合わせてみよう……」
ミネバのガザと、モンドのネモに5人が乗り込んでムーンムーンに戻った。神殿のジュドー達の部屋で礼服を受け取ると、エル、ビーチャの乗って来た小型ランチもサラミスカプセルに搭載してムーンムーンを発った。
普通の人達の結婚式を見たいと言うミネバも出席する事になった。
「私はまだ、そのようなめでたい席が許された人間ではない、今回は留守番をさせてもらう」
そう、強く言い張るハマーンだけ残った。
久々に乙です。
アガーイさん乙です!