自悪羅魔(じおらま)
古代中国の兵馬俑の職人に、孟 勁(もう けい)という腕の良い職人がいた。
彼は自分の勤めていた工房から、とある高貴な人物に献上するはずの兵馬俑を
多数持ち出し、それを別の広場に集め、あたかも実戦を行っているかのように
並べていた。
いくつかの兵馬俑は、戦で殺された者を表現するかのように、槍を突き刺したり、
首などを切り落として破損させたという。
捕らえられた孟は、「あれは自分のせいではなく、自分に入り込んだ魔物が
やらせたことだ」と弁解したが、少し追求するとあっさりと自分の意思だった
ことを自供し、その工房をクビになったという。
人々は「自らの悪事を魔のせいにしても、羅(透けて見えるほど薄く織った織物)の
ごとく見え見えであった」と蔑み、孟は後に「自悪羅魔の孟勁」と呼ばれた。
そして良くも悪くも、兵馬俑職人として孟勁の名は世に知れ渡ることになった。
現代では、模型という言葉が孟勁の名から来たことや、模型を実戦のように並べる
展示法をジオラマと呼ぶことが孟勁の故事にちなんだものであることは、懸命な
読者諸氏には既におわかりであろう。
民明書房刊 「MS少女は"ぎゃる〜しょん"と"ジオノムスメ~"の夢を見るか」より