【艦橋を壊して】ガンダムエース その26【よし!】

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65朝日夕刊安彦インタビュー
アニメ「機動戦士ガンダム」の中心スタッフだったマンガ家安彦良和さんが、
マンガによるリメークといえる「機動戦士ガンダムTHE ORIGIN」を連載中だ。
おなじみのキャラクターやメカ、名セリフの数々を入魂の作画でよみがえらせる安彦さんが、作品に込める思いを語った。

ファースト(シリーズ第1作)から20年以上たつけど、ファンの関心がメカに偏っている。
だから「これがファーストだよ」というつもりで、人間たちのドラマに力を入れています。
富野氏(アニメ版の富野由悠季・総監督)の作った人間関係のアウトラインは、実によくできていますよ。
例えば、主人公アムロは、艦長のブライトをさん付けで呼ぶ。
ひねくれた性格のくせに目上には敬語なんです。
で、たまに「ブライト艦長」と呼ぶときは、バカにしてる。
ブライトはいかにも中間管理職といったかなしい性格で、ミライ(操縦士)は彼をうまく“操縦”するしたたかな女性。
以前は手が回らなかった、そんな細かい部分を描き込んで、個々のいい味を引き立たせてやりたい。
アニメでは特殊能力を発揮するアムロたちは「人の革新」を表す「ニュータイプ」とされた。
でも僕は富野氏が示した「ニュータイプ」に共感できなかったし、それがテーマとされることに違和感があった。
マンガでもアムロは一種の超能力者として描いてますが、そうでなきゃ彼は生き延びられないから。
僕にとってファーストは、等身大の人間たちの物語です。
富野氏は、ニュータイプ同士なら人はわかり合えるという話に持っていったが、むしろ彼の演出でうまかったのは「人はわかり合えない」という部分。
ホワイトベース(アムロの乗艦)内の仲間割れも、アムロと母親の別離も、互いを思いながらそうなってしまう。
「ニュータイプ」とは、分かり合えないという現実の対極にある願望だと思う。
アムロのいる世界には、ニュータイプが戦争を終わらせてくれる、という願望があった。
そこへ彼が現れ、まつりあげられる。
アムロは、僕がかつて自作で描いたジャンヌ・ダルクに似てますね。
アニメにはなかったが、マンガでは今度、アムロがジャブロー(連邦軍本部)で徹底的に体を調べられるシーンを描く。
そうやって、あの世界でニュータイプが神話化される過程を描くつもりです。
これまで歴史を題材にマンガを描いてきたけど、この作品では「ガンダム」をひとつの歴史と見立てて、僕なりの考えを当てはめてみたい。
(聞き手・小原篤)