第三回天下一武道会 巻ノ2

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343井萩 1/6
4   『月の繭』            井萩  麟

水を眺めるのが好きなのは自分が運河人だからだろう。
幼い頃から河に入り、泳ぎ、水と親しみ、生活の一部として認識していたから・・
それは幸せなことだと、ロランは思う。自分はこうして地球に生活環境を変化させてもそれを覚えているのだから。
水の柔らかさ、温かさ、いとおしさを生理的に理解している。それは大事なことではないだろうか。

屋敷の近くには森があり、湖がある。静謐とした厳粛な場所だ。秋にはここは一面の黄金色に染まり、息を呑むほどに美しくなる。
もっとも今は初春なので木々は原色の緑である。森の奥にいけばまだ雪は残っているが、屋敷の近くのものはもうほとんど溶けていた。
湖には上弦の月が沈みこんでいる。象牙でつくったかのように真白でつるりとした月である。
ロランは空に浮かぶ月と、水中に沈む月を順番にみつめていた。どちらも綺麗だが、むろん水中にあるほうがやや朧である。
草は柔らかく座るのに都合がよかった。しっとりと湿ってはいたが、それは不快ではない。
首が痛くなると、湖をみて、痛みが収まると空をみた。星の輝きも凄いのだが、月にどうしても目が向くのは仕方がないことだろう。
そこは彼にとって故郷であり、いつか帰るべき場所であるからだ。死ぬときは月で死にたいとロランは思う。


山の端 月は満ち 

息づく あなたの森


ロランは首を振ることでそういった感情を振り払う。まだ、そんなことを考えるべきではないだろう。
それは回顧であるし、まだ回想に浸るほど自分は年よりでないと思う。そういった行為はある程度年齢を経てからでなければ
どうも感傷的に過ぎるからだ。それに、自分にはやることがある。これが終わるまでは少なくともまだ、追憶にふけるには早い。
スコップを彼は強く握り締める。まだ穴は掘れていないのだ。ここには少し疲れを癒すためにきていただけだ。
ロランは立ちあがろうとするが、立ちあがれない。足に力が入らないのだ。まるで柳の枝にでもなったように、彼の足は地面に埋めこまれている
ようであった。動けないことに気がついたロランは溜息をついた。もう少しここにいるしかない。
風がそよぎ、森の木々が音を立て、湖の表面には静かな小波が生じた。ロランはそっとまだ傷の残る唇に手をやり、指をその隙間に差入れた。
口の中はあたたかった。
そのあたたかさは、ソシエとキスをしたときのことをロランに思い出させた。もう彼女にはあうことはない。
だが、夢想することは罪ではないのではないと思う。過去の記憶は想い出として人を慰めてくれるものだ。
彼女のあたたかい吐息とねっとりとした口内と舌の柔らかな感触を思った。
そして、彼女の涙を思った。頬を伝い流れた雫。あれも水だ。自分は水が好きなんだ。
それはロランの実感である。彼はそこで唇から指を離す。そして、草の隙間に僅かに残っている雪に手を伸ばす。
これも水だ。ロランは不意に叫びたくなる。だが、それでこの森にある静寂を壊したくなかった。たとえ、誰も気にしないとしてもだ。
代わりに、ロランは服を全て脱いで、生まれたままの姿になると勢いよく湖に飛び込んだ。不思議とそんなに冷たくはない。
水面に映った月が微かに揺れる。ロランはゆっくりと泳ぎ、湖の真中までいく。そこには白眉の月が沈みこんでいる。
ロランはそこで仰向けに浮かぶ。月光を四肢で浴びる。つややかな褐色の肌が白く染まり、銀の髪が更に銀白になる。
小指に填めた指輪が月に反射して、水中で微かに、ゆらめいた。


夏草 浴びて眠る 

愛しい 横顔


344井萩 2/6:04/01/26 23:38 ID:???

キエルは黒歴史の埋蔵されていた部屋の映像モニターに映し出された地球をみて深く息を吐いた。この映像をみるのは何度目だろう。
凄まじいまでの人類の所業が次から次へとモニターに映し出された後、最後に地球が大きく大きく映るのだ。
そしてその映像は誰かが停止スイッチをおさない限り消えることはない。
どのような気持ちで編纂者が最後に、地球の映像を収めたのかはキエルにはわからない。ただ意図はよく理解できた。
それは直截的な祈りである。人類の普遍的な願いである。
この地球が何百年前の映像かどうかもわからない。だが、キエルの目には地球は現在のものと全くかわらないようにみえた。
それが地球という生命の力だといわれれば素直に信じられる。


おぼろな この星

大地に  銀の涙


月の人々は優しい、とキエルは思う。
勿論、それは自分がディアナ・ソレルとして扱われていることに起因しているのだが、それを抜きにしてもここの人々は優しいと思う。
地球に住む人がやさしくないというわけではない。ただ、月のほうはもっと慈愛に溢れているように思える。
それがなぜなのかはディアナにはわからない。
宇宙という無限の世界に暮らしていく上で、よりわかりあうことができるようになったのかもしれないし、また、
ここでは優しさを感知できる能力が地球より鋭敏になるかもしれない。もしくはその両方なのかもしれない。
どちらでもいいことだ。考えてわかるものではないからだ。だが、それがどうでもいいと思えないのが今のキエルの心境であった。
それは自分がディアナとしてここにいることは、この優しさへの背信行為でないかと感じるからだし、また、背信行為だとしても
続けなければいけないという事実が彼女にのしかかっているからだ。
けれど、だからといってキエルは現状の自分を悔いているというわけではなかった。女王の代わりを務めるということを断らなかったのは
自分の意思だし、ここでこうして地球をモニターで眺めることになったのは全て自分で選んだことだからだ。むしろ幸福であった。
だが、それではキエルの個としての喜びはどこにあるのかという問いは彼女に意味をなさない。
個という意識はあくまで他者との関係性の集合体であるからだ。つまり個という喜びは、それ自体が集合全体の中にあるのである。
そこに気がつかないようであれば人はいつまでも不幸であろう。

「ディアナ様。・・・準備ができました」
ハリーが呼びにきたのを受けて、キエルは頷いてみせると、モニターに手を伸ばした。だが、その手は途中で止まった
スイッチに触れ、一度ためらい、そっと表面をなぞる。地球は青く、水を湛えている。地球光は月にまで届いている。
月の中にまた地球はあるのだ。それは幸福なことだ。キエルはモニターをつけたままにしておくことにした。
「お目覚めになるときまで、このままにさせておきます」
「ありがとう。ハリー」
キエルは感謝する。ハリーは顔を伏せる。次に目覚めるときまでの間、彼は自分を守りつづけ、見守りつづけてくれるのだろう。
それは月と地球の関係であるといっていい。ジュピターとエウロパの関係であるとも。それは最良の関係であろう。
キエルとハリーの影が近づき、そっと重なり、微かに揺らいだ後、はなれた。
「ごきげんよう・・・ハリー・オード・・」
その囁きは、言霊となり、長くハリーの耳に残った。


繭たる  蛹たちは

七たび身をかえる
345井萩 3/6:04/01/26 23:46 ID:???


青に  LaLaLu LaLaLu

染まる恋し繭玉      揚羽の蝶になる

やがて宇宙をつつむ   無限の羽模様

いのち 輝かせよ


キエルは時折、夜中に部屋を抜け出して川に行く。ロランと出会ったあの川にである。
自転車をこぐのは億劫だけれども、いかざるを得ないのだ。それは衝動といっていい。じっとしていられないのだ。
坂をくだるときに、月をみる。そこにいるであろう姉は今ごろ何をしているのだろうかと思うが、それでも彼女のことだから
幸せにやっているのではないだろうかと結論付ける。彼女は自分よりなんでもできる女性だから。
女性にありがちな僻みでもなんでもなく、キエルは姉のことをそう思う。だから、心配なんてしてあげないのだ。
川辺に座り、ズボンを膝まで捲り上げ、足先を水に浸す。水は、火照った身体を冷やしてくれるように、程よく冷たかった。
手を水の中につけ、川底にある小石を拾い上げる。重さを確かめるように二、三回お手玉したあとに、石を月に向かって投げる。
月にまで届け、と念じるがそれがかなえば苦労はなく、現実には石は遠くに落ちるだけだ。ポチャンッ、と水に落ちる音がした。
それでもキエルは月に向かって投げたつもりだ。届かなかったのは単なる結果に過ぎないので、彼女は気にしない。
月に届くのは石とともになげた思惟なのだ。それが、ロランのいた月に届けばそれでいいのだ。キエルは思う。


あの月    あなたなら
哀しみを   写さずに


今は、恋人はいる。優しい男で、面倒な鉱山の仕事もできるし、顔だってロランと違い凛々しくきりっとしているし快活だ。
どちらかというとギャバンに似ているかもしれない。それに気がついたとき、自分という女は節操がないのだろうかとソシエは思った。
ロラン・セアックという男を愛しておきながら、あてつけのように婚約したギャバンに似た人を今更に選んでしまうというのは矛盾なように感じるからだ。
だが、結局、人というのはそういうものなのだろう。
来年には結婚するという約束もしている。婚約指輪も既にもらった。ダイヤモンドの指輪だ。こういうのは姉さんのほうが似合うと正直思った。
それでも嬉しかったのは、自分がやはり女性だからだろう。どうしても事象を子宮で感じてしまう。それが悪いとはソシエも思ってもいないが、
それが女のサガだとすると、男の立場からみるとやはり不思議なものだろうと考えることはできる。
だけど、結婚したとしても月をみるために、叫ぶために、ここにくるだろうとソシエは思う。
それは未練だとか名残だとかとは全く別の種類の、人の感情である。決してノルタルジーな感傷というものではない。
もっと人の核心にあたるもの、根底にあるものだ。いうなれば人の情実である。濁流のようなものである。感情の川に押し流されるのだ。

ーどこかで同じ月をみているのだろうか。
帰りの上り坂を自転車を押して歩く途中に、ソシエは考えた。


世の揺らぎ 見つめて
嘆かずに   飛んでみる
346井萩 4/6:04/01/26 23:54 ID:???

ディアナはロランが部屋に入ってきた気配で目を覚ました。薄らと目をあけると、彼は水差しを新しいものに変えているところであった。
自分はどれだけ眠っていたのだろうかとディアナは思った。外が暗いことから推量するにかなりの長い時間寝ていたのは間違いなかった。
それでも、まだひどく眠かった。自分はまるで赤子のようだ。それでもいいと思えるのはロランがいてくれるからであろう。
女王という立場を捨てた自分に献身的に尽くしてくれる彼がいるからこそ、安心してこうしていられたのだ。
それは幸福であるかもしれなかった。少なくともこうした生活を自分ができたことにディアナは満足していた。
「あ・・申し訳ありません・・!起こしてしまいましたね・・」
視線に気がついたロランが、申し訳なさそうに謝った。ディアナは微笑んで気にしないようにいうと、
薬指にはめている指輪をそっと抜き、ロランに差し出す。その動作をみて、ロランの目が驚きのあまり、大きく見開かれた。
部屋はランプのほのかな明かりしか灯ってないので、彼の緋緑の目が、とても綺麗なものだとディアナは感じ取れた。

「ロラン。これを・・受けとってください」
「え・・・う・・うけとれませんよ!それはディアナ様の大事になさっている指輪じゃあないですか!」
「もういいんです。あなたに受けとって欲しいんです」
「で・・ですが・・それは・・」
「命令です。ロラン」
「は・・はい・・そこまでディアナ様がおっしゃるのであれば・・」
ディアナはシーツから時間をかけて手をだすと、ベッド脇に恐縮したように立っている彼の手のひらの上に握りこませる。
そのとき触れたロランの手はあたたかく、そして、少し震えていた。指輪を渡されるという意味を彼は明確に感じ取っているのだ。
自分は身勝手なのだろうか、とディアナは思う。いや、そうじゃないだろうとも思う。
人の行動と言うものは理屈で説明できるものではないし、また簡単に説明できるようであればそれは機械文明による支配よりも
更に恐ろしいことだし、また無機質なものだろう。
ただ、自分はロランにこの指輪を持っていてもらいたい、そう思っただけだ。そこに理由をつける必要はないだろう。
ディアナはそういえばロランは自分の看病ばかりして寝ていないということに気がついた。彼の睡眠時間はおそらく自分の半分以下だ。
それでは申し訳がないと思うのが、今のディアナの正直な心境であった。

「そろそろロラン、あなたも休みなさい」
「あ・・・・はい。そうさせていただきます。ここにお水置いておきますから飲んでくださいね」
「ありがとう」
「おやすみなさい。ディアナ様・・・・また、明日」

ロランがランプの火を吹き消すと部屋は闇夜のようになる。ディアナは瞳を閉じる。
彼女の耳に扉が閉められる音が微かに届いた。


風に LaLaLu LaLaLu
唄え羽に月うつし     揚羽の蝶になる
揺らぐ夜に生まれ    銀河をわたる蝶よ


いのち輝かせよ
347通常の名無しさんの3倍:04/01/27 00:02 ID:???
348井萩 5/6:04/01/27 00:11 ID:???

そっと扉を閉めたロランは、自室へと歩き出しながら、指輪を落として無くすのをおそれて、それを小指に填めた。
薬指に填めるにはそれは小さすぎたし、またできたとしてもロランが薬指に其れを填めることはありえない。
このリングに込められた意味は結婚などという観念とは違うからだ。これはいわば、ディアナ・ソレルそのものである。
指輪は小指にはちょうどいいサイズのようであった。褐色の肌である彼にその指輪はよくできた対比のようで、似合っていた。
それを嬉しいなどとロランには思えなかった。
ロランは動く気になれず、廊下の壁にもたれるよにして、ずるずると座りこんだ。力が入らないのだ。虚脱といっていい。

「・・・・ッ・・・ァッ・・・・・・・・!!」
喉からこみ上げる声を押し殺すように唇を強く噛み、両手を床につきうずくまる。
わかっていたこととはいえ、現実としてそれを味わうことは全く違うことをロランという月の民は認知する。
泣いてはいけないと思う。ディアナにとって、これは幸福な冬なのだ。豊穣の冬なのだ。だが、自分にとってはこれはなんだろう。
大粒の涙が、遠慮なく床に零れ落ち、そこに消えない染みをつくった。あぁ、涙の頬をつたう速さも月とは違うのだな、とロランは思う。
だが、哀しみは変わらない。其れは六倍にもならないし、また六分の一になることもないのだ。
人の魂というものが重力にひかれることはあっても感情というものは、常に人其れ自身の魂の発露だからであろう。
「ディ・・・ッアナ・・さ、、ま・・」
ロランのかみ締めている下唇から血がしたたり落ち、床に血痕を残す。
それでもディアナに気がつかれてはいけないという意識が、彼のかみ締める力を強くさせ、床にしたたりおちる血を増させた。
どれだけ血が流れても彼をつつみこんでいる悲しみが和らぐことはない。
背が、指が、喉が、髪が波のようにうちたって揺れている。指輪に重ねた手のひらは、充血して赤く染まる。目の前が暗くなる。
ロランの慟哭は、彼だけに留まりそこに薄い皮膜を作り上げる。まるで消えない羊膜である。月が消えるのだ。

それは辛いことだろうとは推測できる。月を失った月の民というのは闇夜をさまよう蝶である。
だが、他律的に光る月の消失を受け入れたとき、彼は自分の意思で光り、宇宙にはばたける月光蝶になるのだ。
だから、これはやはりロランにとってみても黄金の冬なのだ。しかし、彼がそれに気がつくのには時間がかかるだろうし、それは当然である。



青に LaLaLu LaLaLu
染まる恋し繭玉      揚羽の蝶になる
やがて宇宙をつつむ   無限の羽模様


いのち輝かせよ








ーサァァアアア
森の木々の葉の擦れる音がディアナの耳に入る。それは地球の奏でる子守唄だ。
古代、黒歴史のころより多くの人類はこの音を聞きながら、眠りについた。
それはとても嬉しいことだと、彼女は思える。そこには冷凍睡眠にはない穏やかさがあるから・・

人は眠るものだ。

ディアナの唇から、はぁっ・・っと吐息が漏れた。それは大気と混じり、分子中の一つの成分となり、霧散した。
                                                             <了>
349井萩 6/6:04/01/27 00:16 ID:???


あとがき


小生のなかで∀ガンダムは、数多くあるガンダム・サーガの最終章にあたるものであります。
それに相応しいものであったと今でも自負しておりますし、またそれゆえに続編という声を忌避しているのであります。
小生がガンダムをつくることは最早ないというのは事実です。だが、それは哀しむべきことではないということもまた事実です。
新しい監督が新しいガンダムを作るのをみるのは小生にとっては辛いですが、諸君らにとっては幸いでないかと思うからであります。


作品の解題に入ります。
まず諸君らに改めて認識していただきたいのが、ロランにとってディアナ・ソレルの存在とは単なる女性であったり、
現在のグレートブリテンに存在しているような女王ではないということです。
彼らムーンレースにとってはそれは、母性の象徴であり、あこがれる地球と同一のものであるのです。神的存在であり、アニミズム的であるのです。
黄金の秋の最後から、彼に恋愛感情はあったのかという疑問を生じるのは結構でありますが、それは安直な思考だといわざるをえません。
人はそれほど単純ではないからです。感情と言うのはもっと様々な要素をはらみ構築されているからです。
たとえ自分の感情であったとしても、理解できたと思うのは大部分、錯覚であります。それが哀しみを産むのは有史のとうりであります
ただ、もしも恋愛感情がなければロランが不幸であると考えるのであれば、その痩せた考えが不幸だと小生は言い返すでしょう。
キエルについても同様です。彼女は決して気の毒では在りませんし、ハリーもまたそうであります。
別人をディアナと思って信じているムーンレースについても彼らはあれでいいのです。彼らにとってディアナはやはり記号的なのですから。
ソシエについては小生はなんの心配もしていません。彼女は新しい恋をみつけることはターンAのなかで明示されているからです。
ただ、作品と言うものが監督だけでなくスタッフ全員のものでありますので、これらは単なる一つの意見だと考えてくださって結構です。
考える余地のないほど完結した作品というのは息が詰まるだけであると考えているからであります。

だからこそ、今回、最終回における続きとしては私的にこの作品を書きました。これは小生の個人的な見解であり、完全なファンサービスであります。
当初はターンAとターンXの過去の対決にしようと考えてたのですが、>>295でキエルのその後が知りたいということでしたので、考えた結果、
月の繭という歌の舞台を構築して、そのなかにいれることにしました。発表媒体に雑誌という形態をとっている以上、読者は大切だからです。
最後にもう一つ。
この作品は、よく読めばわかりますが、それぞれの人物の属している季節、時間は異なっています。
一つ例をいうとディアナのシーンと、キエルのシーンでは時の差異はかなりのものがあるのです。しかし、歌は同時的なのです。
その意味を推察してくれれば小生もこの作品を書いた意味があったのだろうと思います。

また作品の性質上やや小生の普段の文体を崩しています。ゆえに、今回は作詞家である井萩の作品だと感じていただければ幸いであります。
ちなみにこの原稿を執筆の最中に、何度小生が黄金の秋を見返し、月の繭を聞いたかは想像にまかせたいと思います。
最後に、小生がもうこの雑誌に何かを書くことはありませんが、最終号まで読んでいただければ、感謝の言葉もない次第であります。
                                                             平成16年   冨野 田悠季