第三回天下一武道会 巻ノ2

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334週刊少年ガンダム第九号!
1          『  駈込み訴え  』           匿名希望

 申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。
悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。 はい、はい。落ちついて申し上げます。
あの人を、生かして置いてはなりません。世の中の男の仇《かたき》です。はい、何もかも、すっかり、全部、申し上げます。
私は、あの人の居所《いどころ》を知っています。すぐに御案内申します。ずたずたに切りさいなんで、殺して下さい。
あの人は、素晴らしい人です。啓示を受ける者です。あぁ、そう。迷えるイスラエルの民を救い神と契約を交わしたモーセに例えてもおかしくない。
荒れくるう海から船長がみつけることのできる唯一の大灯台のような、そんな存在の女性でございました。
宇宙という深淵において彼女の存在はまさに輝ける明けの明星でございました。その姿は、私の目には神々しく映ったものです。
あぁ、けれど最早そんなことはどうでもいいのです。許してはおけない。そうだ。許しちゃおけねえ。

私はその女性のためにこれまでなんでもやってきました。ええ、皆が厭うようなどんなことでもです。
また、これからもそのようなことをやってのけるつもりでございました。あぁ、だけど駄目だ。もうその心地は私の胸から掻き消えてしまった。
あの女は屑だ。売女だ。清楚なように振舞ってはいるが、その実、心根は娼婦のそれよりひどい。
はい。はい。落ち着いてもうしあげます。私は何もかもぶちまけようと思ってここにきたのですから。ええ。ええ。

簡単に申し上げます。
あの女は私を裏切ったのです。この心の底から彼女だけを慕ってきた私を裏切ったのです。
病めるときも、健やかなる時も彼女をこの手で守ろうとしてきたこの私を彼女はこともあろうか、あっさりと、ええ、裏切ったのです。
あぁ、情けない。彼女が売春婦になりさがるところを守ってあげたのは何を隠そうこの私なのです。それを。あぁ、それを!
所詮、人の本性などというのはみつごの時までに決まるということなのでしょう。彼女はあれほど感謝していたこの私を裏切ったのです。
はい。はい。裏切ったというのが具体的にはどういうことなのかでございますね。
それを聞かない限りは動けないとおっしゃるので?ええ、はい。それなら申し上げます。へっへ、きいてくださいませ。

彼女は私という者が居りながら、別の男に走ったのです。別の、まだ年端もいかないような若い男、いえ少年に彼女は身を投じたのです。
あぁ、私は彼女が憎い。引っぱたいて、懺悔させてやりたい。彼女を養ってきたのが誰なのか認識させてやりたい。
けれど、おかしなことに、彼女のことを思うと私の心は今でも張りさけんばかりに痛むのです。
彼女の声が、彼女の仕草が、彼女の瞳が、彼女の吐息が、私の四肢を駆け巡り、動悸をおかしくさせ、目をちかちかさせるのです。
私はもはや彼女を信じていない。けれど、彼女の美しさだけは信じているのです。それは燦燦と輝く太陽の如く、明瞭な、また唯一の存在です。

私は彼女の姿を思うと、今でも切なくなります。ああ、胸が苦しい。いまにも張り裂けてしまいそうだ。赤い血がだくだくと溢れ出そうだ。
私の中にはサソリがはいずりまわっているかもしれません。嫉妬というサソリです。ああ、だけど、だとすると彼女には姦淫と言う名
のサソリがいたに相違ありません。あぁ、彼女は私の母になるはずの女性でした。
私を導いて、それはひいては人類を導くという使命を持った女性だったのです。
彼女の持つ力、それは新人類的なものを多分に含んでいるのですが、それは確かに理想だったのです。彼女は仏陀や基督といった存在に
肩を並べることができたのです。

私は彼女を愛してしまっていました。彼女を仮想的な母として、また愛する女性として私は扱っていたのです。
母と愛人というのは、相反するものであるのは十戒以来の事実でありますので、私はここで大罪を犯していたのかもしれません。
彼女を母という領域に収めてしまうのであれば、自分は母が、他の男と寝るのを容認しなければなりません。
息子と言うのは母が認める男を父として認めなければならないからです。あぁ、けど、そんなことできるわけない。あんな子供に。
それならばいっそ私が抱いてしまいたい。母を抱いてしまいたい。いや、そんなことはできない。私にはできません。できるものか。
私は彼女の前では男というよりも、まず子供なのでした。いや、もっというなれば宇宙という極大な世界に生きるストレイシープなのでした。
彼女は私を救い、ならびに、人類を導く羊飼いたるべきでした。
335匿名希望2/3:04/01/26 22:49 ID:???


あぁ、それなのに彼女は!この私を、ひいては人類を捨てて、他の男にはしってしまったのです!それも、初対面といってもいい男に!
彼女はたしかに優れた女性です。そして、相手の少年も確かに優れた少年だったのかもしれません。しかし!しかし!
それは私にとって、裏切りというしかない類のものでした。彼女はこともあろうか其の少年とわかりあってしまったのです。
時間的な制限や物理的制限を越えて全てをわかりあってしまったのです。おわかりですか?わかりあったのです。
それは仏陀の世界でいうと悟りやら涅槃やらの境地かもしれません。そこに彼女と彼は到達したのです。ほんの一瞬で。刹那の間に。
あれほど、彼女に尽くし、奉仕し、また母のようにあがめた女性と、心の底からわかりあいたいと願っていた女性と、
その少年がほんの一瞬の邂逅でわかりあってしまったのです。私などが幾千年経てもたどり着けないような境地に二人は行ってしまったのです。
そんなのってないと思いませんか?こんなのってない。それじゃあ私はなんだったんです?私はただのパトロンというわけだったのでしょうか。
いままでの彼女とわかりあうために築き上げてきた私の努力は何だったのでしょうか。ただの自己満足だったのでしょうか。
ひどい、そんなのはない。詐欺だ。ペテンだ。あの女は私をだまして、生活のパンを得ていたかっただけなのだ。許せない。
あそこにいるのは私の筈だ。あんな子供ではない。誰がパンを与えていたと思っているんだ。
私は自分が滑稽になりました。ひどく馬鹿げた、くだらない、みじめな茶番をみせられているかのようでした。
観客がいたならば金を返せ、と物を投げつけたくなるような酷い筋書きです。いまどき脚本家志望の若者だってこんな筋書きは書きません。
しかも主演はこの私なのです。茶番劇の道化役も私なのです。こんな滑稽なことはありません。

激昂した私は、少年を殺そうとしました。総体的にみるなら、彼女は私の母ですから、彼は私の父です。
となると、私の行為は父殺しです。エディプスコンプレックスの典型ともいえる行為です。母を愛し、父を憎みました。
しかし、父は私の殺意を感じ、かわし、逆に私を殺そうとしました。
そのときに私は認識しました。自分の存在は、この、地球にとって、いえ人類にとってなんら必要がないものであると。
母は私を裏切り、父は私を殺そうとしました。もはや、私の存在などいらないのです。迫りくるサーベルをみて、私は悟りました。
ここで死んでしまえば楽になれたのです。だけど、あぁ、だけどどうして!彼女は私を守ったのだろう!どうしてそんなことをしたのだろう。
わからない。卑怯だ。母は、息子と父のどちらかを選ぶべきなのだ。母性というのは、子宮というのは二人もの男を飲みこむことはできないのだ。
選べ。それとも二人に抱かれたいのか。父と子に抱かれたいのか。けがわらしい。売女め。
私はそこで一目散にその場を後にしました。それ以上、そこにいることはできませんでした。
酷い吐き気がしていました。
336匿名希望3/3:04/01/26 22:57 ID:???

逃げながら私は叫びました。ちくしょう。ちくしょう。許せない。ふざけるな。馬鹿にするのにも限度ってものがある。
私はいままで彼女と自分が新人類の祖になるべきだとおもっていました。彼女がイブで、私はアダムです。
荒廃したエデンの園を復活させるために尽力を尽くそうと思いました。しかし、それは違ったのです。イブは彼女です。それは間違いありません。
アダムはけれど奴だ。あの子供だ。私じゃない。私はあれだ。蛇だ。サタンだ。忌むべき存在だ。地を這い、淀みを食らう蛇だ。
神への嫉妬ゆえに禁断の実を食わせ人類の道を外させたあの蛇だ。大蛇だ。私は笑いました。実際、おかしくてたまりませんでした。
私は蛇だ。どうやらこの仮面は顔の面相を隠すためでなく、額に記された666を隠すためだったらしいのです。
ならば蛇らしいことをしてやろう。ははは。そう思ってここにきたのです。長い話でしたがこれが全てです。
早く彼女を捕まえてください。罪状は敵兵との通じた行為です。姦淫罪だ。我慢ならない。精神の交わりは肉体の交わりより穢わらしい。

彼女はいまあそこにあるソロモン宙域にいます。ほら、ここからでもみえるでしょう。あそこにいるのがそうです。
あぁ、あんなところで歌っている。なんて優雅なんだ。ちくしょう。こちらの気も知らないでいい気なもんだ。殺してしまえ。
ここを彼女にとってのゲッセマネの園にしてやるんだ。ははは。こんな愉快なことはない。
彼女が天に向かって2度、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」、と叫ぶのを笑いながら私は聞きたい。
さぁ、早く捕らえて打ち首なりギロチンなり縛り首なり銃殺なりしてください。私はそれを見届けてから死にたい。死んでしまいたい。
首を吊って死んでやる。どうせ生きてても仕方がないのだ。それなら目立つ所で首を吊ってやる。あぁ、彼女はまだ捕まらないのですか?
え?どこにもなにもみえない?なにをご冗談を。あそこにいるではないですか。あ、こちらを向いた。
やめろ。そんな哀しい目で私をみないでくれ。あぁ、お願いです。早く捕らえてください。そして、私の手で彼女の口に最後の葡萄酒を含ませることを
お許しください。あぁ、彼女と話したい。みちびいてほしい。だけど駄目だ。それはできない。許せない。母は私を裏切ったのだ。
子にとって、それがどれだけ耐えがたい苦痛か、絶望か。あなたは理解すべきなのだ。自分の背徳を。罪を。
彼女はまだ捕まえられないのですか?私はこれ以上、彼女の歌を聞くことに耐えられそうにない。心が溶けていくようだ。
いない?ふざけるな、あそこにいるじゃないか!愚図愚図せずさっさと捕まえろ!あ、へへ、すいません。冗談です。
けれどほら、あそこにいるじゃあないですか。いない?おかしいな、貴方様がたにはあれがみえないので?
え?私の名前ですか?やめてください、どうして右手を掴むんですか。いたい。はなせ、畜生。やめろ。約束が違う。
私はシャア。赤い彗星のシャアだ!やめてくれ!


アオリ「 この原稿を書いた作家が誰なのか一向にわかりません 」