富野由悠季さんのイチ押し 桐野夏生「グロテスク」
読むと、どーんと滅入ってくる。それでも読まずにいられない。
それがこの桐野夏生さんの小説「グロテスク」(文芸春秋)です。
語り手の「わたし」、妹ユリコ、「わたし」の同級生・和恵の3人の物語。
ユリコと和恵が売春婦になって殺され、やがて主人公も……という後半は話を作りすぎて失敗した。
優れているのは前半、名門女子校を舞台に繰り広げられる少女たちの綿密な心理描写です。
残酷で意地の悪い階級社会で、主人公は我が身を守るために悪意を磨き、和恵はむなしい努力を続けてあがく。
厚みのある描写はリアルで、よほど取材を重ねたのだろうと思えば、
著者はインタビューで「少女漫画」を目指した「ウソ話」だと言う。ショックでした。
描写を重ね上げて人物に血肉を与え、「うそ八百のリアリズム」を作り上げた力には恐れ入ります。
フィクションを作りたいと考える若い人には、「ここまで考えてものを作れるか?」と問う意味で、
マンガやアニメの手前勝手な「女」像にどっぷり浸ってる男どもには、「これが女だぞ!」と目を覚まさせる意味で、
この作品を薦めます。
(とみの・よしゆき アニメーション監督「機動戦士ガンダム」「オーバーマン キングゲイナー」など)
改行に関してはこっちが勝手で勝手にやりました。誤字脱字あったらスマン。
グロテスクを片手にカメラににっこり微笑む御大の写真も一緒です。