>>612の続き
真夜中の騒動から一晩明けた、昼過ぎ。
シロー巡査部長は署内の簡易留置所に拘留されていた。
たびたび問題を引き起こしているフダツキが集う"8課"の事だから
昨夜のヒイロ等、数人がが引き起こした銃撃戦も、管轄内の事だと、内々で処理をしてしまい
事件そのものを揉み消してしまうのが常だったのだが……今回は少し勝手が違い、切迫した事態を迎えていた。
「警察官、街を焼く」と、新聞、ノックスクロニクル誌にスッパ抜かれてしまったのだ。
事件は今朝の一面を飾り、共同通信を通じて警察官の不祥事として大々的に全国ネットでニュースが報じられたのだ。
既に事態は組織内部での処理だけでは収拾がつくものではなくなり
世論は現職警官の汚職事件発覚!というスキャンダラスな目線で事件を注目していた。
同所轄の署長リリ・ボルジャーノは今回の事件を、現職警官が起した業務上過失致死未遂および、公共物破損、等など
その他諸々の余罪を追及するとともに、今回の不祥事で地域住民が抱いた、警察への不信感を拭い去る為にも
事件を徹底追求する構えだと、マスコミの共同記者会見の席上で発表。
シロー・アマダ巡査部長は本日付けをもって職務停止処分、事件は検察官に送致されることになった。
ノックスクロニクル誌によると、担当検察官のアリス・ミラーは刑事事件として起訴する姿勢が濃厚らしい。
シローは検察に身柄を引き渡されるあと数時間後のことを思いながら、深いため息を漏らしつつ
弟のロランが差し入れた弁当を留置所の中で平らげ、食後のお茶を啜っていた。
「で、みんなはどうなんだ?」
「今朝のニュースを見て……シロー兄さんの事は、家族全員が知ってますよ。アムロ兄さんには……僕から電話しておきました」
ロランは言葉に詰まりながらも、鉄格子越しの兄を見て、家族の状況を喋っている。
「シーブックも、カミーユも、ガロードも、ジュドーも、ウッソも……みんな、学校に行きました。
普段通りにした方が良いって、アムロ兄さんも言ってましたから
コウ兄さんとドモン兄さんは家に残ってます……あ、それからアルは、未だ小さいから外に出ない方が良いって……兄さん達が。
家の前に……TVとか色々とマスコミが押しかけてて……」
「そうか、アムロ兄さんは何って言ってた?」
「……アムロ兄さんは心配するな、俺がなんとかする。って、それだけです。午後の便でこっちに戻るって言ってました」
屋台を片付けて家に帰って来たロランは、風呂からあがり香水を少量身に付けた。石鹸に似た、それよりも上等な香がほんのりと香る。この淡い匂いをロランは気に入っていた。
毎日ラーメンを作っていればどうしても油や醤油の臭いが染み付いてしまう。風呂に入ったくらいではとれないだろうと、グエンがよこした物だ。
送り主の顔を思い浮かべると何だかな、とは思うが、在るものを使わないのは無駄と割り切ることにした。
シンプルな小敏に入った液体は、さすがはグエンの選んだものと言うべきか、使ってみると匂い消しとしては完璧だったし、香も疲れた身体に心地よいものだった。
と、そこへカミーユが風呂に入りにやってきた。
カミーユ「あっ、悪い。」
ロラン「いいよ。もう出るから」
他の兄弟と違って一緒の部屋のカミーユはロランの裸にグッとくることは少ない。だからこの時もカミーユはロランから不用意に目を反らしたりはしなかった。小さな小瓶が目に止まる。
ロラン「どうしたの?カミーユ」
カミーユ「いや、何でも無い。早く行けよ、湯冷めするぞ」