もしもガトーが萌えキャラだったら

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6960.3倍(1/2) ◆ggAPX/FoDE

 揺れるカーテンの隙間から、小鳥の囀りがこもれ聞こえる。
窓の外は、きっと眩いほどの青空であろう。5月の優しい日差しが、寝台の上に眠る男の顔を照らす。
 男は、既に5ヶ月もの間眠り続けていた。
その頬は窶れ、かつては厳強だったであろうその躰も、骨格を露骨に浮き上がらせる。
片目に巻かれた包帯は、その治癒が望めない事を示していた。

 男の眠る部屋の、ドアが開いた。
一人の女が、少し疲れた顔で、だが眠り続ける彼を慈しむ表情で、部屋を覗く。
「・・・・・・」
 女は部屋に入り、男の寝台へと、静かに歩み寄る。
どうやら彼女は身籠もっているようだ。重い身を庇いつつ、静かにカーテンを開ける。
「ねえ、今日は良い天気よ?地球の気紛れな天気にも大分慣れたけど、お日様の光はやっぱり気持ちいいわ・・・」
 眠り続ける男に、優しく語りかける。
「この子が生まれたら、3人でピクニックに行きましょうね。あなたも私も宇宙生まれだから、きっと楽しい・・・」
 言葉の最後を言い切らず、女は彼の顔を見つめた。

「・・・・やあ、ニナ。おはよう」

 男は目覚めた。

「あ・・・・ガトー!」
 ニナは、堪えきれない涙を拭う間も無く、ガトーを抱きしめた。
「よかった・・・・よかっ・・・・たぁ・・!」
「お・・・おい、どうしたんだ、ニナ?急に名字で呼ぶとは・・・。もしかして、その・・・昨日の事をまだ怒っているのか?」
「・・・え、きのうの・・・こと?」
 ニナは不思議そうな顔でガトーを見つめ返す。
「あ〜、その、あれだ。昨日の事は、そう!ケリィ!ケリィ・レズナーにつき合わされてだな・・・」
「え・・・」
 その時ニナは、1年前〜 かつてフォン・ブラウンで、ガトーとの蜜月の時を過ごしていた頃の事を思い出した。
当時ガトーは、とある友人と『人生初の』風俗街へ行き、それが元でニナに浮気を疑われた事があった。
「覚えて・・・いないの・・・・?」
 ニナは驚きを隠せず、呟いた。
「ねえ、ガトー。『 星 の 屑 』って、覚えてる?」
「・・・?いや、すまないが、昨日の事は、実は余り覚えていないんだ。なにしろ、ケリィの奴・・・」
「そうじゃなくて、コロニーを・・・ガンダム2号機を・・・・!」
だがガトーは不思議そうな顔をするだけで、ニナの言葉にそれ以上の反応をする事は無かった。

(きっと、戦闘の後遺症で記憶が消えてるんだわ)

ニナは頬を涙に濡らしたまま、もう一度ガトーを抱きしめた。

 〜0083 星屑の残光 外伝(俺脳内の)〜 前編・おわり
6970.3倍(2/2) ◆ggAPX/FoDE :03/10/15 00:43 ID:???
  0083 星屑の残光 外伝(俺脳内の)後編

  
 ニナは、これまでの経緯をガトーに話した。
トリントン基地での事、ガンダム2号機の事、コロニー落としの事、そして

・・・・・敵であった男、コウ・ウラキによって、ガトーが救い出された事を。

 そして、その事が彼の記憶を全て蘇らせた。
 ソーラーシステムUの光が全てを包み込んだ後、ガトーは死んでいたはずだった。
傷ついた機体で、立ちはだかる連邦艦隊へと特攻する時、彼自身すでに『死』を受け入れていたのだから。
 しかしその命を救い上げたのは、亡きデラーズでも、腹心たるカリウスでも無かった。
正に宿敵とも言うべき男に助けられた・・・この事はガトーに大きな衝撃を与えた。
『一人でも多く生き残り、この戦いの真実を後の世に語り継ぐ』
自ら口にしたこの言葉を、ガトーは改めて噛み締めていた。

ニナが一頻り話し終えると、ガトーはあることに気付いた。

「ところで、ニナ・・・君のその・・・お腹は?」
「ええ。妊娠しているわ。今は8ヶ月」
「そうか・・・。それで、その、子供の・・・親は・・・やはりあの、ウラキとか言う・・・」
「え? ・・・ふふっ、もちろん・・・あなたの子よ?アナベル!」
「なっ・・・!それは本当か!?私の・・・子供・・・!」
「そうよ、この子はあなたの子。わたしとあなたの・・・」
「そうか・・・きっと、君に似た可愛い子が生まれる事だろうな」
「あら?もしかして、あなた似の頑固者の石アタマかもよ?」
「ははは、私に似ると頑固な石頭か。それは困ったな」
「ふふふっ・・・ねぇ。名前はなんにする?」
「そうだな・・・男ならエギーユ、いや、ケリィでも良いな」
「女の子なら?」
「女か・・・・ううん、そうだな、アンナなんてどうだろう。君はどう思う?」
「そうね・・・わたしは『ショコラ』がいいと思うわ」
「ん・・・いい名前だな。」
「実はね・・・もう知ってるのよ、わたし。この子は女の子なの」
「そうか、ならば決まりだ。ショコラ・・・私が父だ。死に急いだ父だが、これからはお前の為に生きよう」


 かつて戦場を震撼させた「ソロモンの悪夢」は、歴史の表舞台から去った。
今はその、ささやかな暮らしの中に、新たなる光を見出そうとしている。

愛する妻と、そして、新しく生まれてくる、いのちの為に。

              〜完〜