熱い心。真っ直ぐな叫び。
それを聞き、少女は哀しげな微笑を浮かべる。
『……人にとって大事なのは、「何をしたか」ではなく、「何をしようとしたか」………。
アルムさんは、自らの死を望んだ。そして、死の道連れを望んだ。
……今の私には、それがわかります。分かったから……撃ちました。
彼に「生きる意思」があれば避けられた攻撃……彼は、避けることを望まなかった……』
地面スレスレのところで、コアトップイージーは姿勢を立て直す。
相変らず不安定な片肺飛行で、再び高度を上げていく。
『ウィルトさんの望みは、生き残ること。明日よりも今日を考え、今を乗り越えること。
その想い、邪魔するつもりはないけれど……
その想いが、私とグレンさんの想いの邪魔をします。
……彼が私達を放っておいてくれるなら、ここで戦う理由もないのですけどね。
グレンさん、あなたの望みが「生きること」なら。
橋の上であなたの言った望みが、いまもそこにあるのなら。
ここから、お逃げなさい。』
穏かな口調で語りながら、コアトップは高度をグングン上げていく。
ザクVの頭上を越えて、さらに高く、雲をも目指さん勢いで。
『私が渡した『お守り』を、ちゃんと装着すれば……それは、あなたを守ってくれる。
禁止区域も関係ない。フィールドの外にも出て行ける。
私が望んでいたのは、『彼』と一緒にある未来。永遠に失われた未来。
その『お守り』は、その失われた未来のために作られたもの。
私達2人の夢が、きっとあなたを守り抜く。
グレンさん、あなたは……この場にいるべきでは、ありません……。
あなたの戦場は、別のところにある。
この場を去っても、その先にもっと厳しい戦場があるけれど……
あなたが戦って生き抜くべきは、きっとそこにある』
不安定な機体。ややもすると意図しない方向に旋回してしまう、傷だらけの戦闘機。
その不安定な動きが、逆に照準の付けにくさとなり、上昇と会話の時間を稼いでいた。
コアトップ・イージーは二機を見下ろす位置まで舞い上がると、二機の返答を待つ。
返答を待つ少女の両手は、コンソールを叩き、「必要になるかもしれない操作」の準備をはじめていた。
【行動:回避運動(回避失敗)(−1p) 2人に通信(最初の『』からすでに通信垂れ流し)(−2p)
とある機体操作プログラムの安全回路を外す(−1p)】
【位置:Q13】【残り行動値:0p】
【機体状況:コアトップ・イージー。右腕部エンジン損傷、ニ連装ビーム砲損傷、細かい損傷多数】
【所持品:なし】
【行動方針:????】
ビームはコアトップの底を掠めるも本体には直撃しなかった。
体勢を立て直そうとするコアトップへと狙いを構える。
「…………これで最期だ。」
後はトリガーを引けば終わる、この状態ならば外すことはない。
『リーアさん!何で殺した!!
何でバタラを攻撃した!!
あの人は何もしてないのにッ!!あの人は仲間じゃなかったの?!
どうして!どうしてさッ!!
ウィルトさん!!どうしてだッ!どうして殺し合うんだッ!!
何で俺達で殺し合いをしなきゃいけないんだッ!!
うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ああああああぁぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!!』
突然、グレンの叫び声が聞こえてきた。
「…………言った筈だ。倒すべき者は倒すと。」
再びコアトップへ狙いを構えようとする。
『……人にとって大事なのは、「何をしたか」ではなく、「何をしようとしたか」………。
アルムさんは、自らの死を望んだ。そして、死の道連れを望んだ。
……今の私には、それがわかります。分かったから……撃ちました。
彼に「生きる意思」があれば避けられた攻撃……彼は、避けることを望まなかった……』
コアトップの少女がグレンに訴えかけてる。
「いまさら彼を誑かすつもりか……
どんなことを言おうが彼にとって、君が殺したという事実は残るのだ。」
不安定に飛行するコアトップに銃口を向けつつ撃つチャンスを狙う。
『グレンさん、あなたは……この場にいるべきでは、ありません……。
あなたの戦場は、別のところにある。
この場を去っても、その先にもっと厳しい戦場があるけれど……
あなたが戦って生き抜くべきは、きっとそこにある』
(………人を戦場に引き込もうというのか。この少女は!)
「………っ!もらったぞ!」
丁度会話を終えた頃、タイミングを掴みロックオンするとコアトップへビームを放つ。
【行動】通信中 -0 コアトップ・イージーに攻撃 -1 【残3】
【武装】ビームサーベル×1 スカート部ビーム砲×2
ミノフスキークラフト
ビームピストル×1 スモークグレネード×2
【状況】左腕消失
【行動方針】敵機撃墜
【位置】Q−13
【同盟】グレン=フォートレス
保守っとくか、後もう一息のようだし
もう嫌なんだ――
知ってる人が死ぬところを見るのも。
殺すところを見るのも。
そのために俺は――止める!!
『……人にとって大事なのは、「何をしたか」ではなく、「何をしようとしたか」………。
アルムさんは、自らの死を望んだ。そして、死の道連れを望んだ。
……今の私には、それがわかります。分かったから……撃ちました。
彼に「生きる意思」があれば避けられた攻撃……彼は、避けることを望まなかった……』
少し悲しげな声だった。
だけど……だけど……
『ウィルトさんの望みは、生き残ること。明日よりも今日を考え、今を乗り越えること。
その想い、邪魔するつもりはないけれど……
その想いが、私とグレンさんの想いの邪魔をします。
……彼が私達を放っておいてくれるなら、ここで戦う理由もないのですけどね。
グレンさん、あなたの望みが「生きること」なら。
橋の上であなたの言った望みが、いまもそこにあるのなら。
ここから、お逃げなさい。』
俺は……俺は……
俺は……
『私が渡した『お守り』を、ちゃんと装着すれば……それは、あなたを守ってくれる。
禁止区域も関係ない。フィールドの外にも出て行ける。
私が望んでいたのは、『彼』と一緒にある未来。永遠に失われた未来。
その『お守り』は、その失われた未来のために作られたもの。
私達2人の夢が、きっとあなたを守り抜く。
グレンさん、あなたは……この場にいるべきでは、ありません……。
あなたの戦場は、別のところにある。
この場を去っても、その先にもっと厳しい戦場があるけれど……
あなたが戦って生き抜くべきは、きっとそこにある』
……俺は
…俺は決めたんだっ!!
俺は逃げない!
目をそらさない!
俺は……この戦いを止めてみせる!!
止めるためなら全身全霊をこめて何度も叫んでやる!!
『……それは…それは違う!!
貴方はただ――悲観的になってるだけだ!!
アルムさんが自らの死を望んだって言いましたね?
貴方は彼に「生きる意思」がないと知っていながら撃った…避けないとわかってて撃ったんだ!
彼を説得する事もできたかもしれないのに!
今も貴方はウィルトさんと一緒に生きることができる…その可能性を考えていない!!』
(続く)
俺は叫ぶ。
この不毛な戦いをできるのは俺だけだから……
俺は止めれる力を持っているはずだから。
「…………言った筈だ。倒すべき者は倒すと。」
ウィルトさん…
そう、確かに俺はウィルトさんに聞いた。
……そう、聞いた。
…だけど…
『彼女は貴方にとって本当に倒すべき者なんですか?
彼女は貴方の害になりますか?何故ですか?
二人の間に俺が入ることでその害はなくなりませんか?
もう、俺たちだけですよ?こんな意味のない戦いをやめましょうよ……』
【行動:二人に通信(-2)】【残り行動値:(2)】
【位置:Q-13】【機体状況:コアベース】
【武装:21連装ミサイルランチャー×2、ビームカノン】
【持ち物:教科書、宿題、筆記用具、工具、サバイバルナイフ、シングルバーナー、缶詰たくさん、食材三食分、食器、料理道具、お守り(首輪カバー)】
【行動方針:殺し合いを止める】
【同盟:ウィルト=ラインステッド、(エリアード=ジーン)】
『言葉』というのは、難しい。
それはすでに、キャットとの関係で嫌という程学んだ彼女だったが……
「やはり、伝わらないものね。想いというものは」
ウィルトから伝わる感情、グレンから伝わる感情に、少女は溜息をついた。
ウィルトは、少女の言葉を「言い訳と詐欺的な誘導」と聞いたようだ。
その疑い深さが彼をここまで生き延びさせたのだろうが……真意は伝わっていない。
グレンは、なおもアルムへの攻撃を許せないようだ。
彼が道連れを望んでいたことを伝えても、まだ納得できないらしい。
アルムの発していた殺意はかなり切迫しており、説得の時間を稼ぐためにも攻撃したのだが……
どうも、その時の切迫していた度合いが彼には理解できなかったようだ。
グレンを守る意味でも放たれた攻撃への非難。
「……覚悟は、してたけどね……」
アルムを殺すかもしれない可能性。残る二人に理解されず、恨まれ攻撃される可能性。
全て、承知の上での攻撃だった。承知の上での選択だった。
だが、こうもこちらの意思が伝わらないと……さすがに辛い。
「……私とキャットみたいなことは、もう……繰り返したくない……」
少女は、虚しい言葉を紡ぎつつ、下唇を噛み締める。
* * *
空を舞うコアトップ・イージーのコクピットに、ロックオンの警告音が鳴り響く。
「………っ!もらったぞ!」
ザクVから放たれる殺意。普通ならば避けようのない攻撃。
だが、その鋭い思念を読んでタイミングを計り……少女は、あるレバーを思いっきり引く。
ビームピストルがメガ粒子の光を放つ、まさにその瞬間……
コアトップ・イージーが、変形する。
左腕のノズルが収納され、コクピットブロックが分離する。
ノズルと入れ替わりに出現した手首が、砲身を失ったダブルビームライフルを握る。
そして、ツインアイを光らせ、頭部が出現する。
……少女は、機体を上半身だけのZZに変形させたのだ。
推力を失い空気抵抗が増え、上半身だけのZZは減速して自由落下を開始する。
そのすぐ傍を、必中の自信を持って放たれたビームが空しく宙を切る。
落下しながら……ZZの頭部が、ザクVを睨む。
「……ロック・オンです」
ZZの最強武装、頭部ハイメガキャノンがザクVをロックオンする。
あとは引き金を引けば、極太のメガ粒子の奔流が装甲を貫き、コクピットを貫通するだろう。
ザクVに叩きつけられる必殺の殺意、そして……!
(続く)
* * *
……だが、閃光は放たれなかった。
落下しつつ相手をロックオンしたZZの上半身は、しばらくして再びコアトップ・イージーに変形。
地上に墜落する前に変形を終え、すんでのところで推力を取り戻し、再び空を舞う。
『ウィルトさん、勘違いしないで下さいね。撃とうと思えば、撃てたのですよ。
私は……単に、『借り』を返しただけです。
初日の夜の、南東の基地入り口での『借り』を』
プログラム初日の夜。
キャットとリーアの二人と、交渉の行き違いから戦闘になったウィルト。
彼は圧倒的有利の元、ビームサーベルでゾックのコクピットを狙いながら、斬りつけなかった。
余裕だったのか酔狂だったのか、止めを刺せる状況でそのまま立ち去ったのだ。
リーアは、しっかりその時のことを覚えており……今、その『借り』を返したのだ。
……正気を失おうと、NT能力に目覚めようと……
“リーア・ミノフスキー”は、“リーア・ミノフスキー”だ。変化すれども、連続した人格だ。
彼女の望み、それは「自分の犯した間違いを繰り返させないこと」、そして……
『私は、もう戦う意思はありません……
ウィルトさんが、なおも私の、そしてグレンさんの死を望むというなら、応戦しますが……』
そして、リーアはグレンの方に言葉をかける。
『言いたいことは色々あるでしょうが……ひとまず、この『上半身』をお返しします。
合体後は、全てそちらにお任せします。もう、あなたの意思を無視したりしませんから……
良ければ、軸線合わせを始めますよ……?』
コアトップ・イージーが再び上昇を始める。
一旦は地面スレスレまで落ちた機体は、ゆっくりとコアベースと同じ高度まで登ってきた。
【行動:変形&回避(−2p)、ザクVを頭部ハイメガキャノンでロックオン(−1p)、
変形(−1p)、通信(両者に回線開きっぱなし)(0p)】
【位置:Q13】【残り行動値:0p】
【機体状況:コアトップ・イージー。右腕部エンジン損傷、ニ連装ビーム砲損傷、細かい損傷多数】
【所持品:なし】
【行動方針:同じ過ちを繰り返さない、???】
ビームは命中することなくそのまま何処かへ飛んでいった。
先ほどの戦いで腕の動きがやや鈍り照準が僅かにずれたとは言え
あれを避けたのはたいしたものではある。
(多少はできるようになったということか……)
『ウィルトさん、勘違いしないで下さいね。撃とうと思えば、撃てたのですよ。
私は……単に、『借り』を返しただけです。
初日の夜の、南東の基地入り口での『借り』を』
まさに鬼の首を取ったかのように勝ち誇りながら彼女は言った。
「……ふ………ふはは、ふははははははっ!」
この一言にビームを避けられたという驚きも
一瞬にして吹き飛び笑い出してしまった。
再び地面に着地するとコアトップへピストルを向ける。
「それで、少しは満足したか………なかなか笑わせてくれるな、リーア=ミノフスキー。」
笑いを堪えつつそれだけを言うとコアトップとの回線を断ち
そのまま向けたピストルを地面に捨てる
それと同時に自機の足元に何かを投げつけた。
(続く)
次の瞬間、足元に落ちた『何か』から急に煙が噴出し周辺を白く染めた、そうスモークグレネードである。
同時に機体を反転し西への街の中の道路を低空飛行で一気に突っ切ると共に
コアベースのグレンへと話しかける。
「聞こえるかグレン、最後まで私に言葉に訴え続けるとはつくづく失望した。
…………だが、それが君というものなのだろう。
たとえ、それを私がどうこう言おうがおそらく君はそのままだろう?
だから、いい加減私が諦めるとする。君にとって迷惑だったであろう忠告もやめだ。
まあ、君はまだ若い……生きたいように生きればいいということだ。」
それだけを言うと回線を切る。
伝わったかはわからないが言うだけの事は言った。
ふと見ると目の前に河が見えてきた。
「っふ………私は本当に歳をとってしまったということか。」
思わず苦笑してしまう。
(どうりでああいった若者を相手にすると疲れるわけだ……
いや、彼らが若すぎるということなのか。)
最後まで言葉に頼り続けた少年と『借り』とやらを返したと子供のように粋がる少女
そしてそんな彼らを本気で殺そうとしていた自分自身、考えると全てが面白おかしい。
(やれやれ………しかしながら、結局一番謎なのは己自身ということか。まあいい)
そのまま川に着地すると刃の出てないサーベルを持つ。
「あわよくば彼らも殺して私も………とは思ったが、
それも実に馬鹿馬鹿しかったということか。
さて、ティーチャーとやらには悪いがここで戦闘ごっこを降りさせてもらおう。」
首についてる盗聴器を意識しわざとらしく言い放った後、
サーベルをコクピットに密着させビームの刃を出した。
ビームサーベルがザクV後期型のコクピットを光で包み込むのはそれから一瞬の出来事だった。
【ウィルト=ラインステッド 脱落】
,, - ―- 、
,. '" _,,. -…; ヽ
(i'"((´ __ 〈 }
|__ r=_ニニ`ヽfハ }
ヾ|! ┴’ }|トi } しっ・・・・・・・・・!
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「´r__ァ ./ 彡ハ、 見つけたぞ・・・究極の必勝法・・・・・・!
ヽ ‐' / "'ヽ
ヽ__,.. ' / ヽ
/⌒`  ̄ ` ヽ\_
/ i ヽ \ お前 俺のケツの中でションベンしろ
,' } i ヽ
{ j l }
i ヽ j ノ | } l
ト、 } / / l | .|
! ヽ | ノ j ' |
{ | } | l |
ヽ | i | \ l /|
{ | l | | / |
l ! | l / |
この争いを止めさせる。
俺に残された『言葉』という力で。
俺のすべき役目だと思う。
二人が戦う理由なんてないから――俺が絶対に止めてみせる。
ザクV後期型からコアトップ・イージーにビームが発射される。
瞬間、コアトップ・イージーは変形してビームを逃れる。
―――そして再び地面スレスレで再び変形した。
『ウィルトさん、勘違いしないで下さいね。撃とうと思えば、撃てたのですよ。
私は……単に、『借り』を返しただけです。
初日の夜の、南東の基地入り口での『借り』を』
『私は、もう戦う意思はありません……
ウィルトさんが、なおも私の、そしてグレンさんの死を望むというなら、応戦しますが……』
止めれたのか…?
これで……
だけど……
だけど…ウィルトさんが俺の死を願ってる?それは違う……
ウィルトさんは戦闘の最中でも俺に攻撃してない。
『言いたいことは色々あるでしょうが……ひとまず、この『上半身』をお返しします。
合体後は、全てそちらにお任せします。もう、あなたの意思を無視したりしませんから……
良ければ、軸線合わせを始めますよ……?』
ふぅ…と肩の力を抜く。
そして軸腺合わせの操作を始める。
(続く)
だがモニターに白い煙が映った。
「――!?」
次の瞬間には煙は辺りを覆っていた。
「聞こえるかグレン、最後まで私に言葉に訴え続けるとはつくづく失望した。
…………だが、それが君というものなのだろう。
たとえ、それを私がどうこう言おうがおそらく君はそのままだろう?
だから、いい加減私が諦めるとする。君にとって迷惑だったであろう忠告もやめだ。
まあ、君はまだ若い……生きたいように生きればいいということだ。」
言葉の意味するものがすぐにわかった。
と…ろ――
とめろ――
止めろ――
「駄目だ!ウィルトさんッ!!」
映る筈のないモニターを凝視して叫ぶ。
爆音。
白く映るモニターにウィルトさんの顔が見えたような気がした。
「ウィル…ト……さ…ん……」
最初に会った時は命をかけて戦った――
雨の中、俺が作ったシチューを食べて誉めてくれた――
二人でいろんな人と戦った――
俺が人殺しになってショックを受けていた時、何も言わずにそっとしててくれた――
人を殺すことを躊躇っていた俺に生き残るための数々の忠告をしてくれた――
――俺はなんでここにいるんだろう?
何故ここに生き残っているのだろう?
何故俺は行きたいんだろう?
モニターに映っているのは真っ白な世界――
【行動:(0)】【残り行動値:(4)】
【位置:Q-13】【機体状況:コアベース】
【武装:21連装ミサイルランチャー×2、ビームカノン】
【持ち物:教科書、宿題、筆記用具、工具、サバイバルナイフ、シングルバーナー、缶詰たくさん、食材三食分、食器、料理道具、お守り(首輪カバー)】
【行動方針:???】
【同盟:(ウィルト=ラインステッド、エリアード=ジーン)】
『……ふ………ふはは、ふははははははっ!』
ウィルト・ラインステットの笑い声を聞いた時、初めてリーアは彼の魂の形を知った。
NT能力と言えども万能ではない。だがようやく、納得がいった。
向けられたビームピストルは火を噴かず、スモークグレネードの煙が全てを覆う。
「……自らをも含めた全ての破滅への意思……死を受け入れた上での酔狂……。
なるほど、こういう形の『魂の平穏』もあるんですね………」
彼女の言葉とほぼ同時に、煙の中のMSが走る。
煙を抜けたザクVは、川縁でサムライのハラキリのような姿勢を取り……
「駄目だ!ウィルトさんッ!!」
グレンの叫びと同時に、明確な『死』のイメージが、リーアの脳裏を駆け抜けた。
* * *
(それで、少しは満足したか………?)
耳元で繰り返すウィルトの声に、リーアは微かに歪んだ微笑を浮かべる。
「ええ。少しは気が晴れました……。
私の人生観を変えたあの一撃……ずっと忘れられませんでした。
あなたの人生観を変える程の一撃。確かにお返ししましたよ。
……まさか、その結果ハラキリするとは思いませんでしたけど」
目の前に立つウィルトの幻が、何か言いたげな苦笑を浮かべたまま、揺らいで消える。
リーアは彼のことを脳裏から振り払うと、ZZの合体に集中する。
相変わらず不安定な飛行のコアトップを、なんとかコアベースの軸線上に乗せようとする。
だが……コアベースの方の動きがおかしい。
フラフラとした不安定な飛行。
自動操縦装置の助けで飛行は続けているものの、パイロットが操縦していない。
ウィルトの突然の自殺に、グレンが呆然としているのだ。
『グレンさん? グレンさん! 聞こえてますか?! グレンさん!』
何度か呼びかけるが、応答はない。
……そうこうしている間に、コアトップのコクピットに警告音が鳴り始める。
モニターの片隅に、赤い文字が点滅する。
『推進剤残量ほぼゼロ。これ以上の飛行不可能』
二基のメインバーニアの片方を欠いた不安定な状況での、高度な空中戦。
それは通常以上の推進剤の浪費を招き、もはやただ飛ぶことさえ困難となった。
機体の高度はみるみるうちに下がっていく。
『グレンさん、すいません……時間切れのようです。
もう、こちらには推進剤がありません……』
グレンに通信をいれつつ、最後の一握りの推進剤で機体を安定させる。
そして……地面への不時着。衝撃が機体に走る。
(続く)
* * *
直線道路を滑走路に見立てて、なんとか着陸したコアトップ・イージー。
そのコクピットハッチが開き、下着姿のリーアが顔を出す。
頭上には、グレンのコアベースが、こちらはまだまだ余裕のある様子で飛んでいる。
リーアは通信機のマイクを手に取ると、姿を晒したまま声をかける。
『……最後の決断は、あなたが下すことになりそうです。
選択肢は、3つしかありません。
一つ目は、あなたが私を殺すこと。
この状況では、それも簡単でしょう。こちらはほとんど動けませんから。
二つめは、ウィルトさんのように自殺すること。
コアベースの自動操縦を切って、 ビルにでも突っ込めば楽に死ねるでしょう。
三つめは……全てを拒否して逃げること。
そのための道具も細工も、私が用意しておきました。例の「お守り」です。
ただ……これを選べば、あなたはティーチャーたちと戦わねばならないでしょう。
……どれも選べないというなら、二人揃って死ぬことになります。
ティーチャーの首輪爆弾によって。
時間は、もうありませんよ。
……私は……もうどうでもいいんですけどね……。
生きるにせよ死ぬにせよ、もうどうでも………』
リーアは通信を切ると、桃色の包みを手に取る。
いやらしい染みの滲むワンピースの布を広げると、異臭が周囲に立ち込める。
無残な様子の生首が、姿を現す。
「……キャット……私は、悪い女ですね……。
この期に及んで、私は…………」
リーアは、かつて愛した青年の生首に微笑みかける。
その瞳はあくまで正気の光を保ち、顔には慈愛に満ちた微笑を湛えて。
己が運命の全てをグレンの選択に託し、彼の行動による解答を待った。
【行動:ウィルトの最期に感応(−1p)、着陸(−1p)、グレンに通信(−1p)】
【位置:Q13】【残り行動値:1p】
【機体状況:コアトップ・イージー。右腕部エンジン損傷、ニ連装ビーム砲損傷、残り推進剤ゼロ】
【所持品:なし】
【行動方針:同じ過ちを繰り返さない、???】
生きてる?
ああ、俺は生きている。
ウィルトさんは死んだ。
何故?
俺が止められなかったから。
止める事ができなかったから――
『……最後の決断は、あなたが下すことになりそうです。
選択肢は、3つしかありません。
一つ目は、あなたが私を殺すこと。
この状況では、それも簡単でしょう。こちらはほとんど動けませんから。
二つめは、ウィルトさんのように自殺すること。
コアベースの自動操縦を切って、 ビルにでも突っ込めば楽に死ねるでしょう。
三つめは……全てを拒否して逃げること。
そのための道具も細工も、私が用意しておきました。例の「お守り」です。
ただ……これを選べば、あなたはティーチャーたちと戦わねばならないでしょう。
……どれも選べないというなら、二人揃って死ぬことになります。
ティーチャーの首輪爆弾によって。
時間は、もうありませんよ。
……私は……もうどうでもいいんですけどね……。
生きるにせよ死ぬにせよ、もうどうでも………』
もうどうでもいい?
――――駄目だ。
それは駄目だ。
なんのために生き残ったのか。
なんのために生きているのか。
生きたいと願ったから。
そう、俺は「生きたいから」。
『逃げましょう』
コアベースをコアトップ・イージーの近くに着陸させる。
そしてグレンはお守りに手をかけた――
【行動:通信(-1)、機体着陸(-1)】【残り行動値:(2)】
【位置:Q-13】【機体状況:コアベース】
【武装:21連装ミサイルランチャー×2、ビームカノン】
【持ち物:教科書、宿題、筆記用具、工具、サバイバルナイフ、シングルバーナー、缶詰たくさん、食材三食分、食器、料理道具、お守り(首輪カバー)】
【行動方針:逃げる】
【同盟:(ウィルト=ラインステッド、エリアード=ジーン)】
つい先ほどまで、ほとんど状況に流されるだけだったグレン少年。
そんな彼が、今でははっきりした決意を固め、険しく困難な道を選ぼうとしている。
人は、こんな短期間にこれほどまでに成長できるものなのか。
『逃げましょう』
想像していなかったグレンの言葉――リーアの目に、涙が浮かぶ。
しかし。
心揺れ動きながらも、彼女の理性はフル回転を続ける。
グレンの真っ直ぐな決意。二人揃って逃げ出す、そのための着陸。
しかし、これは……彼女の目論見を、ますます困難にする行動だった。
少しでも『時間』を稼ぎ、『相手』の判断をくらますため……
リーアは、グレンに聞こえないように、しかしはっきりと独り言を口にする。
コアベースから顔が見えないよう、深く俯いた姿勢で。
「……『言葉』だけで戦うのというのは、難しいわね。
けれどこの機体状況では、『自滅』に誘導するしか勝ち目はない。
ティーチャーたちが下手に急がなければいいのだけど……」
……半分は本音の入った演技だった。
説得力のある嘘をつくコツは、完全な虚偽の情報だけでなく、真実を混ぜること。
ただでさえ『向こう』は、疑心暗鬼に陥っているはず。
どうするべきか悩んでくれれば、それだけ時間が稼げるというもの――
リーアは改めて、コアベースの方に向き直る。
改めて通信機のスイッチを入れ、グレンに言葉をかける。
(続く)
『……ありがとう、グレンさん。私もできればそうしたい……。
けれど、4番目の選択肢はないの。3つしかないと言ったでしょう?
私とキャットと、コォネとエィケズ。みんなで脱出するために作った道具……
いくつも作ったけれど、途中で錯乱した私は、ほとんど捨ててしまった。
予備を持ってたコォネは、『遠いところ』に行ってしまった……。
残っている「お守り」は一つだけ。今から作ってては間に合わない。
それを使って首輪の爆破を逃れられるのは、たった一人だけ。
二人で行けば……片方は、立ち入り禁止区域に入ったとたんに、爆死する。
二人揃って生き残る道があるとすれば、ただ一つ。
一人が『脱出』し、一人が残って『優勝者』になること。
たぶん、ティーチャーの部下が『脱出』を妨害するでしょう。
残った方も、『優勝者』として認められるとは限らない……
けれど、それがただ唯一の可能性。
あなたの望みを通すための、ただ一つの道』
暖かい微笑みを浮かべ、感謝の気持ちと共に暖かい気持ちを相手に贈る。
そして……信頼と、希望と、意思を込めた視線で、少年に決断を促す。
『もう時間がありません。
ここまでタネ明かしをしてしまった以上、すぐにティーチャーが動きます。
盗聴した今の話をもとに、爆破と、脱出阻止の準備を始めたはずです。
時間が経てば経つほど、生き残る可能性は減り、爆死の可能性が高まる……
ここまで私たちを『生かしてくれた』人も……それは望んでいないはずです』
【行動:グレンに通信(一度回線を切り、再度通信)(−1p)、グレンに思念波を送る(−1p)】
【位置:Q13】【残り行動値:2p】
【機体状況:コアトップ・イージー。右腕部エンジン損傷、ニ連装ビーム砲損傷、残り推進剤ゼロ】
【所持品:なし】
【行動方針:グレンに単独で脱出してもらい自分は残る、???】
首輪にお守りをつければ脱出できるらしい。
このお守りをどうすればいいかわからないが…
『……ありがとう、グレンさん。私もできればそうしたい……。
けれど、4番目の選択肢はないの。3つしかないと言ったでしょう?
私とキャットと、コォネとエィケズ。みんなで脱出するために作った道具……
いくつも作ったけれど、途中で錯乱した私は、ほとんど捨ててしまった。
予備を持ってたコォネは、『遠いところ』に行ってしまった……。
残っている「お守り」は一つだけ。今から作ってては間に合わない。
それを使って首輪の爆破を逃れられるのは、たった一人だけ。
二人で行けば……片方は、立ち入り禁止区域に入ったとたんに、爆死する。
二人揃って生き残る道があるとすれば、ただ一つ。
一人が『脱出』し、一人が残って『優勝者』になること。
たぶん、ティーチャーの部下が『脱出』を妨害するでしょう。
残った方も、『優勝者』として認められるとは限らない……
けれど、それがただ唯一の可能性。
あなたの望みを通すための、ただ一つの道』
それが俺に示された唯一の道。
俺が『逃亡者』となり、彼女が『優勝者』となる道。
だけど『逃亡者』の道は険しく、『優勝者』の道はないに等しい。
彼女は認められるとは限らないと言ったけど普通に考えて優勝者だと認めてくれる筈もない。
『もう時間がありません。
ここまでタネ明かしをしてしまった以上、すぐにティーチャーが動きます。
盗聴した今の話をもとに、爆破と、脱出阻止の準備を始めたはずです。
時間が経てば経つほど、生き残る可能性は減り、爆死の可能性が高まる……
ここまで私たちを『生かしてくれた』人も……それは望んでいないはずです』
このまま俺が逃げたら彼女は『優勝者』と認められずに死ぬ。
そう、このまま逃げたら。
だけど――
だけど――
うまく行けば二人とも生き残れるかもしれない。
できるだけ俺を死んだように見せかける――
そうすれば彼女の『優勝者』としての道は作られる。
(続く)
生き残る為に
俺は―――騙してみせる。
『そんな!!
あなたは――
あなたは死ぬつもりですか?!
もう、嫌なんです!!知ってる人が死ぬのは!!
俺はもう嫌なんです、自分だけ生き残るのがッ!!
残されるのはもう嫌です!!
サヨナラ―――あなたは生きてください』
今も涙を流しながら通信をきる。
機体を動かしながら
「最近は泣いてばかりだったな、ハハハ」
と空笑いをしてみる。
実際に俺が死ぬ確立の方がかなり高い――いや、たぶん死ぬ。
だけど俺はやってみせる。
首に――お守りはまだついていない。
【行動:通信(-1)、機体離陸(-1)、移動(-2)】【残り行動値:(0)】
【位置:Q-13→Q-14→P-14】【機体状況:コアベース】
【武装:21連装ミサイルランチャー×2、ビームカノン】
【持ち物:教科書、宿題、筆記用具、工具、サバイバルナイフ、シングルバーナー、缶詰たくさん、食材三食分、食器、料理道具、お守り(首輪カバー)】
【行動方針:???】
【同盟:(ウィルト=ラインステッド、エリアード=ジーン)】
リーア・ミノフスキーは、利己主義者だ。
厳しい決断を迫られた時には、どうしても自分の望みを叶える選択肢を選んでしまう。
決して、他人のために自分を犠牲にしたりなどはしない。
一見すると利他的な行動を取る時も、その裏には常に打算的な知恵が働いている。
……別に、彼女は悪意の塊というわけではない。
この程度の『弱さ』は、大抵の人間が持っている。
ただ、普通の生活では見えないだけだ。
『プログラム』という究極の極限状態に放り込まれなければ、誰も気づかなかったろう。
彼女自身、自分にそういう醜い面があることに気づいていなかったのだ。
最初の頃は、自覚がなかった。
気づいたのは、キャットが一人で行動を始めた時。
彼女の意のままにならぬ彼に、自分でも驚くほどの苛立ちを感じたリーア。
怒りにまかせ、きつい言葉で彼を追い詰め、彼の自由を奪おうとした彼女。
そして……結局、リーアのエゴがキャットを殺すことになる。
彼女には、とても耐えられなかった。
求めるものが永遠に失われたことに。そして、自分自身のあまりの醜さに。
だから彼女は逃避した。狂気の中に逃げ込んだ。
……正気を失っていた間も、彼女は自らのエゴに忠実に行動していた。
『ハロ』が欲しい。ただそれだけの理由で、何もしてない相手に攻撃した。
自分の要求が通らぬことに苛立ち、無意味に他人を傷つけ。
さらには、仲間のはずのコォネとエィケズにも八つ当たりし、殺してしまった……。
水中に沈み、臨死体験を経てNTに覚醒した後も、彼女の本質は変わっていない。
まるで聖女のような言動をし、慈しみに満ちた微笑をたたえていても、本質は同じだ。
あの時以降の行動方針は、たった二つ。
『他の参加者が死に際して苦痛を感じないようにする』、そして『自分は生き残る』。
覚醒し拡大したNT能力により、他人の苦しみに共感しやすくなってしまった彼女。
他の参加者のみんなには、迷いや苦しみを感じないで欲しい。
達成感を感じながら、満足した気持ちで死んでいってもらいたい。
恨みや無念をできるだけ感じないようにして、黄泉路に旅立って欲しい。
――でないと、自分も彼らの苦痛をダイレクトに感じ取ってしまうから。
(続く)
リーア・ミノフスキーは、利己主義者だ。
みなに示した『博愛』の気持ちには偽りはない。
感情を偽れるほどNT能力は便利ではない。
ただ……それにも増して、彼女は『死にたくなかった』のだ。
己の醜い性根を全て承知の上で、自分が汚い手を使っていることを承知の上で。
なおも彼女は、汚れきった自分の命にしがみついた。
なぜなら――
彼女の愛した青年が、最期まで望んでいたのは、彼女の「生存」だったから。
他者にはなるべく苦痛を感じない死を。満足のいく死を。
そして、彼女自身は生存を。どんなに姑息な手段を弄してでも生存を。
それが、彼女の嘘偽りない、本当の気持ちだった。
* * *
『サヨナラ―――あなたは生きてください』
最後の通信と共に、グレンのコアベースが南西方向に去っていく。
偽りの無い感謝の情と共に、彼女は彼を見送る。
「……賽は投げられた、ってとこね………」
リーアは穏やかな微笑を浮かべ、コアベースの去った方角を見つめ続ける。
綱渡りの連続だったが、とりあえずこの時点までは生き延びた。
あとは……彼女の命は、ティーチャー側の判断にかかっている。
ティーチャーが彼女を『優勝者』として扱うのか。
それとも『謀反の協力者』として処刑するのか。
おそらくそれは、グレンの『脱出』が成功するかどうかに掛かっているだろう。
きっと主催者側は、どんな形であれ、二人以上の人間の生存を許しはしない。
「……これで脱出できるようなら、ティーチャーたちの管理能力を疑うわ。
説明されたルールでは、首輪に細工をしてはいけないとは言われなかった。
どうせ無理だとタカを括っていたんでしょうけど……
電波を遮断する素材でカバーを作れば、首輪の無力化は簡単なのよ。
これでグレンさんが逃走してしまったら、罰せられるべきは私でなくあなた達。
……そうは思いません? ティーチャー?」
空を見つめたまま、はっきりした声で独り言を言うリーア。
いや、これは独り言ではない。
明確に、盗聴器の向こうのティーチャーたちを意識しての言葉。
これも首輪の爆破を思いとどまらせるための、『言葉での戦い』なのだった。
* * *
(まだ続く)
前に、彼女がティーチャーに聞かせた『独り言』。
『……『言葉』だけで戦うのというのは、難しいわね。
けれどこの機体状況では、『自滅』に誘導するしか勝ち目はない。
ティーチャーたちが下手に急がなければいいのだけど……』
この台詞の時、『半分は本音の入った演技』と書いた。
ではどこまでが演技だったのか?
普通に考えれば、最後の一行だけに本音を混ぜた、と思われるだろう。
だが、実際に彼女が演技していたのは……最初の一行だけ。
言葉での戦いは難しくもない。グレンには自滅してもらう。ただ、早急な爆破だけが怖い。
どこまでも利己的な、リーア・ミノフスキー。
そのことを、リーア自身も痛いほど知っている。
だから彼女は、亡きキャットの首にむかって懺悔したのだ。
「私は悪い女ですね。この期に及んで、私はまだ人を騙して生き残ろうとしている」と。
* * *
グレンの機体は、もう見えない。
もう、演技する必要もない。
リーアはコアトップのコクピットの中、全身の力を弛緩させる。
下着姿のまま、キャットの無残な生首に語りかける。
「この『賭け』に負けたら、私の首輪も爆発する……
その爆発って、この首が飛ぶくらいの威力はあるかな?
そしたら、あなたと同じ姿になれる……それが、せめてもの慰めね。
……たぶん、向こうで会った時、あなたは悲しむのでしょうけど……」
穏やかな微笑を浮かべたまま、彼女は時を待つ。
自分の首が飛ぶ時を。あるいは、ティーチャーから優勝を告げられる時を。
開け放したハッチ越しに空を見上げ、思い出したように呟く。
「……そういえば、あの『首輪カバー』の付け方を教えてなかったわね。
外す所は見てたはずだし、よく調べれば留め金とかも分かるはずだけど……」
どちらにせよ、もはや彼女の力の及ぶ所ではない。
せめてグレンが『満足しつつ死んでくれること』を願って、彼女は静かに目を閉じた。
【行動:回想(0p)、首輪越しにティーチャーに語りかけ(0p)、時を待つ(0p)】
【位置:Q13】【残り行動値:4p】
【機体状況:コアトップ・イージー。右腕部エンジン損傷、ニ連装ビーム砲損傷、残り推進剤ゼロ】
【所持品:なし】
【行動方針:グレンに単独で脱出に挑戦してもらい、自分は残る。どんな手を使っても生き残る。】
機体を移動させながら考える。
どこかに盗聴器がついている。
定時放送のときの言動とかからそれはなんとなくわかっていた。
盗聴器。
それよりも問題があるのは発信機。
そして監視カメラの類い。
「死ぬ所は誰にも見られたくないですから」
そう言って手のひらに乗せた数個の機械を握りつぶす。
もうこれでコクピットと服に機械はもうない筈だ。
布の裏地まで探したからもうない筈だ。
そして1個残した盗聴器に語りかける。
「俺はなにもできなかった……」
考えろ、生き残るためにしておくことは…?
「せめて……死ぬ時は役に立ちたい……」
――もうここで出来る事はない筈だ、それ以上に時間がない。
「もう終わりにします、できることなら故郷の父に死んだ事を伝えてください」
音を出さないように荷物をまとめ始める。
(続く)
『N-16』
もうすぐだ。
曲がりまがってP-15、P-16、O-16と来た。
もうすぐで俺は『死ぬ』。
「死ぬ事は……怖いですね」
コクピットを半開きにする。
「いい風だ」
なるべく低空飛行で飛ぶ。
荷物はまとめ終わった。
荷物といってもサバイバルナイフ、たくさんの缶詰、筆記用具だけだ。
「俺は俺が嫌いでした……あと数分の付き合いですが…」
21連装ミサイルランチャー発射のボタンを押す。
「もうすぐ……あと数分の命……」
今、上空に発射した数々のミサイルは計算によると数分後にこの機体に直撃する。
「本当の最後……」
荷物を持って首に構える、タイミングが大切だ。
「本当に最後……」
まだだ…まだ…。
「本当に最後……」
3、2、1
「いい風だ……サヨナラ」
今だ!
『N-16』に入る直前。
盗聴器を握りつぶして荷物を持ってコアベースのコクピットから跳んだ。
強い風が吹き付ける中でお守りを首につける。
(続く)
叩きつけられる強い衝撃が体に走る。
痛い。
気が飛びそうになる。
だけど――
だけど――
だけどここで死ぬわけにはいかない。
死ぬ事は逃げることと同じだ。
手を思いっきり握る。
爪が手に食い込む。
再び痛みが走る。
その痛みによって意識をしっかりともたせる。
「ぶはっ!ごほっがはっ!!」
川から顔を出してせきごむ。
思ったより深い川でよかった――だけど体中が痛い。
だけど生きている。
爆発音。
コアベースが爆破した音だ。
それを見上げる。
空中を飛ぶ破片、爆炎と爆風。
そして残骸が落ちてゆく。
それは強い力で俺を守ってくれた機体。
それは強い力を持っていて俺を悩ませた機体。
それは強い力で俺を悲しませた機体。
それは強い力で俺を支えてくれた機体。
それは俺のここでの力――
「これで俺は『死んだ』、そして俺は『生きる』
ここまで――
一緒に戦った。 一緒に生き延びた。
俺の力、『死んだ』俺、それは俺の中で生きる。
今までありがとう、ZZガンダム」
川に浮かびながらZZガンダムに敬礼した。
俺がここで生き残る確立はほぼない。
だけど今は生きている。
俺はかなり昔に聞かされた父親の言葉を思い出した。
『人は長い人生の中で何度かの分岐点に立つ』
そう、今が俺にとっての分岐点。
『人はその分岐点で選んだ道を信じて進んでゆく』
俺は信じる、俺が選んだこの道を――
『分岐点は人生の分かれ目でもある』
俺は『死んだ』、そして再び『生きる』。
『だから分岐点で選んだ道に後悔することもあるだろう』
俺は決めた――
『だけどやり直すことも逃げることはできない』
俺は――
『進んでいかなければならない』
俺は――
『明日を信じて生き抜いていかなければならない』
明日を信じて生き抜いていく。
「俺は……生きる!!生きてやる!!」
【10番 グレン=フォートレス 生死不明】
目を閉じて「時」を待つリーア。
一度、かすかに遠雷のような爆発音が響いてきたが、彼女はそれでも目を開けない。
しばらくして、今度は多数の物音が接近してくる。
複数のMSの駆動音。そして、複数のヘリコプターのローター音。
ようやくにして、リーアは目を開く。
動かないコアトップ・イージーを、武装したMS部隊が銃口を向け包囲していた。
やがて近くに一機の軍用ヘリコプターが着陸する。
中から数人の兵士が小銃を構えて駆け下り、銃を構えてコアトップを取り囲む。
少し遅れて、士官らしき軍服の男が苦虫を噛み潰したような表情で降りてきた。
「リーア・ミノフスキー。我々と一緒に来てもらおうか」
見知らぬ軍服の男は、機上のリーアに声をかける。
「それは『優勝』ということですか? それとも『処刑』ですか?」
「……まだ最終決定は下っておらん。現在、協議中だ。
『上』の判断が出るまで、身柄を拘束させてもらう」
男に促され、リーアは両手に球体を抱えて機体を降りる。
右手には黒い塊を。左手には緑の球体を。
下着姿を、堂々と兵士たちに晒したままで。
「……どうやら、ハロGも機能停止してしまったようですね。
防水はしていましたが、完全に水没したせいで、水滴が奥に入ったのでしょうか。
少し前までは、元気に喋っていたんですけど………」
「壊れたハロは構わんが……その……『それ』も持っていくのか?」
士官は気味悪そうに『グリーン=キャットだったモノ』を見やる。
だがリーアは微笑んで無言でうなづくと、素直にヘリコプターに乗り込んだ。
吐き気を催す悪臭に顔をしかめながらも、士官や兵士たちも後に続く。
(続く)
コアトップをその場に残し、ゆっくりと上昇するヘリコプター。
先ほどまで命のやり取りをしていた戦場を見下ろしながら、リーアは尋ねる。
「あの後、グレンさんは、どうなりました?」
「……自殺を図ったらしい。機体の爆発は確認した。
だが……肝心の死体が見つからん。川に流されたらしい。
貴様のとった小細工のせいで、現場も『上』も大混乱だ。
ヤツの死体が確認できなければ、優勝宣言はできん」
「……ご苦労さまですね、裏方のみなさんも。
この場にティーチャーが来ないのも、その『上』との話し合いですか?」
「………勘違いするなよ。
本来なら、貴様の質問に答える義務はないんだ」
苦々しい顔でリーアの質問を打ち切る男。
だが、彼女の問いが的を得ていたことくらい、NT能力に頼らずとも分かる。
(ティーチャーさえも振り回される『上』の人たち……
『復讐』するとしたら、そして『真の自由』を獲得したいのなら……
ティーチャーのような『下っ端』をいくら倒しても無駄ね。
もっと、この『プログラム』の背後にあるシステムを叩かなければ……)
「……何か言ったか?」
「いいえ、何も」
声に出さないリーアの呟きに、軍服の男は不審そうな顔をする。
だが彼女の表情は変わらない。
少し寂しげな、しかしどこか悟ったような、穏やかな微笑を浮かべたままだ。
微笑を浮かべたまま、渡された毛布にくるまり、膝の上の黒い塊を撫でている。
「……そういえば、コォネ・カウフマンも死体が上がっておらん。
貴様のあの発言のせいで、今頃になって大問題になっておる。
生死不明の参加者が二名……我々にとってはこの上ない失態だよ」
「コォネが……?
きっと二人とも、どんなに探しても見つからないでしょうね。
根拠はないですが、そんな気がします」
「…………チッ………」
不機嫌そうに、むすッと黙り込む士官。
リーアは微笑を浮かべたまま、眼下に流れる大河を眺めた。
ヘリの真下には、大河を横切る巨大な橋。
その中央付近では、廃棄されたゾックのモノアイが、いつまでも彼女たちを見上げていた。
「コォネ。エィケズ。グレン。アルム。トルヴァ。
ハロP、ハロG、ゾック……そしてキャット。
みんな、ありがとう。そして、さようなら………」
別れを告げる彼女を乗せたまま、ヘリコプターはいずことも知れぬ場所へ飛び去った。
後に残された大河は、涙も命も全て飲み込み、なおも悠々と流れ続けている。
【12番:リーア・ミノフスキー 生存・身柄拘束】
【ガンダムバトルロワイヤル 第二回大会 完】
「……そういえば、私の処置に関して協議中だと言いましたよね?」
「だとしたら、どうする?」
「協議をしている『上』の方々に、伝えて欲しいことがあります。
今後の私の扱いについて、私なりの提案が」
「……おそらく、解放はできないぞ?」
「いいえ……元の生活に戻ることは望みません。
平穏な日常に戻るには、私の手は汚れすぎました。
それに、一旦は解放されても……
再び誘拐されて『次の大会』に放り込まれるなら、意味がありません」
「……………。
では一体、何を望む? リーア・ミノフスキー?」
「私の望み、それは…………」
* * *
……人々は大きな部屋の中で目を覚ました。
学校の一教室のような部屋の中、彼らは自分たちの首に首輪がはまっていることを知る。
ざわめく室内。彼らは互いの顔を見合わせ、混乱した頭で現状を把握しようとする。
唐突に部屋の戸が開き、兵士たちを引き連れた若い女性が入ってくる。
潮が退くようにざわめきが収まり、部屋中の視線がその女性に集中する。
理知的な美貌。化学の教師のような白衣。周囲を跳ね回る何体ものハロ。
その首には、皆とは少しデザインの違う首輪がきっちりとはまっている。
だが、それよりも何よりも視線を集めるのは……片手に抱えた、人間のドクロ。
女性は黒板の前の教壇に立つと、手にした頭蓋骨を教卓に置く。
そして人々の顔を見回して、ニッコリと微笑む。
微笑みを浮かべたまま、彼女はおもむろに言い放つのだ。
「これから、みなさんには殺し合いをしてもらいます」
【ガンダムバトルロワイヤル 第三回大会 序】
100 :
通常の名無しさんの3倍:03/11/03 01:36 ID:AztjihYz
暇つぶしに100ゲト、っと
新規参加者募集中age
現在、第三回参加者のMS・武器の支給を開始しました。
第三回の参加者は、まだまだ募集中です。
興味を持たれた方は、>99の管制室においで下さい。
第三回学生名簿
01番 シュウジ・アサギ (32)男性 ホビー・ハイザック
02番 シュヴァイザー・シュタイナー (44)男性 ボリノーク・サマーン
03番 イブ・シュウリン (24)女性 Vガンダム
04番 ユリ・ランブ (16)女性 ゴトラタン
05番 ダグラス・ロックウード (17)男性 ケンプファー
06番 ジェイス・カーライル (28)男性 ジェガン
07番 ベルク・クロフォード (25)男性 ペズ・バタラ
08番 ヨーコ・クロサキ (17)女性 ガズR
09番 リオン・フライハイ (15)男性 ジオング
10番 アシッド・ミニングリー (29)男性 ギラ・ドーガ
11番 サーティア=クワン (19)女性 ジム・ライトアーマー
まだまだ募集中。
@ 第三回大会 参加方法 @
『生徒』の一人として参加したい人は、管制室スレにて参加希望を申し出て下さい。
管制室で、キャラクターの氏名・年齢・性別・簡単な経歴・私物を提示してもらいます。
キャラクターは基本的にオリジナルで、年齢制限はありません。
設定は、宇宙世紀の世界なら年代を問いません。
機体及び支給武器は、クジ引きによる支給となっています。
機体はA〜Fのアルファベットと、01〜50の数字を組み合わせて選び、先生に報告して下さい。
例:Aの20、Eの35 など
その引いたクジに合わせ、先生が(非公開で準備したリストに照合し)機体を支給します。
なお、アルファベットの選択で、ある程度、機体の時代を選択できます。
Aは一年戦争〜星の屑作戦(1st、08小隊、0080、0083)
Bはグリプス戦役・第一次ネオジオン紛争(Z、ZZ、センチネル)
Cは第二次ネオジオン紛争以降(CCA、F91、クロスボーンガンダム、V)
D〜Fは上記からランダムに選択です。
武器は、aかbのアルファベットと、01〜50の数字を組み合わせて選んで下さい。
例:aの15、bの03 など
こちらも、引いたクジに合わせ、先生が非公開リストと照合し、武器を支給します。
なお、特例として、機体選択でクジを引かずに、『職人用機体』を選択することもできます。
ボール、パブリク、ガンタンク等、明らかに通常のMSより劣った性能の機体です。
これらを選択する際も、管制室で相談するようにして下さい。
……第三回、あともう少し参加者が欲しいです。
新規参加者 募集age。
第三回、新規参加者募集中!
107 :
通常の名無しさんの3倍:03/12/16 07:35 ID:U6QY0+F9
第三回、新規参加者募集中age!
保守
109 :
fusiana:04/01/03 15:58 ID:jdj+1kbb
保守AGE
保守なわけだが
保守
114 :
通常の名無しさんの3倍:04/02/04 15:58 ID:O5hLlH/R
最下層記念カキコ
保守
116 :
肋骨マスダ:04/02/21 18:43 ID:fa2jieCM
しかし、空から天空の城が・・・ってうるさいねんハゲ!氏ね!
117 :
肋骨マスダ:04/02/21 21:22 ID:fa2jieCM
やっぱり藤原はいい
保守
119 :
age:
age