「どうですか?」
様子を伺うような声をかけて来たメッチェに、わたしは目で答える。
上出来だ、と。
メッチェが淹れてくれたコーヒーを味わいながら、わたしはデスクの上に置かれた
報告書に目を通す。
わたしはファラ・グリフォン、ザンスカール帝国正規軍「ベスパ」の将校で階級は
中佐。
現在ここラゲーン臨時基地に駐留する、地球侵攻及び地上用実験兵器運用特務部隊
「イエロージャケット」の司令官を務めている。
傍らに立つのは副官であり専属パイロットであるメッチェ・ルーベンス少尉。
軍機構に詳しくない者のためにここで一つ解説をしよう。
軍の組織における「副官」とは、司令官や艦長など軍内である程度独立した指揮権
を委託された上長の補佐を務める士官のことだ。
よく間違われがちだが、部隊における副司令や、艦における副長など、命令系統上
の次席指揮官のことではない。
われわれ「イエロージャケット」でもそれは同じ。
司令であるわたしの補佐としてメッチェがいるのとは別個に。
次席指揮官としての副司令、ゲトル・デプレ少佐が存在する
わたしはこの男が…嫌いだ。
それはわたしが属する派閥と対立する派閥の将校で、ことあるごとにわたしを監視
しているような振る舞いを見せるからではなく、生理的なものだ。
派閥は違っても最前線で共に戦う間柄、仲良くやろうなどという気は、この男の顔
を見ていると失せてしまう。
そう、わたしはこの基地の「副司令」が嫌いだ。
だが「副官」については…その…まあ、男と女が四六時中一緒にいると色々なことが
ある、そういうことだ…。
小規模な基地とはいえ、佐官の司令ともなると交代で従兵がつくし、わたし自身でも
コーヒーやお茶くらいは淹れられる。
それでもあえてメッチェに頼むのは、彼に何かをしてもらうのが心地よいから…。