ちょっと気になる、あのガンキャラの素顔part3

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(ふぅ、今日も疲れたな)
 夕食のシチューやパン等でお腹を一杯にしたウッソ・エヴィンは、風呂の中
で昼間の仕事を思い出していた。今日乾燥させ始めた羊肉のソーセージを作り
終わったら、今度は熟成させている豚肉でハムを作らなければならない。
 ここの所、母が教えてくれた作り方を思い出したり、ネットや地下にあるコ
ンピューターバンクから引き出した情報を見たりしながら、ハムやソーセージ
を作り続ける毎日だ。
 カサレリアの住人で、実際にハムやソーセージを作った事のある者は、去年
まではウッソしかいなかった。他のカサレリアの住人達に、作り方の指導をし
ながら作業をするのは、流石に大変だ。去年一度やった事とは言え、まだまだ
上手く出来るとは言えない。教える方も、教えられる方も。
 秋の収穫が終わっても、生きる厳しさは休みを与えてはくれないのだ。冬の
間も、やるべき事は沢山ある。
 そんな中行なわれた昨日のクリスマスパーティが、ほんの少し疲れを取り除
いてくれた。こんなに沢山の人達とクリスマスが祝えるなんて、小さな頃には
夢にも思わなかったから。
(昔も平和だったけど、今の生活も悪くないか)
 カテジナ・ルースという名の年上の女性に憧れていた頃の、戦争前の生活を
思い出す。両親がいない事を除けは、あれはあれでそう悪い生活ではなかった。
今の賑やかな暮らしも良いが、お隣に住んでいたシャクティと二人で静かに生
きて行くのも、それはそれで幸福な生活だったと言える。
(そのシャクティとは、同じ家で暮らす事になっちゃんたんだよな)
 シャクティの事を想うと、昨夜のクリスマスパーティの事が思い出された。
「二人っきりの時、ウッソに渡したいの」
 そう言って薄い褐色の肌を持つ少女は、恋人に昨日クリスマスプレゼントを
渡さなかったのだ。プレゼントが何か、大体想像は付く。冬の夜にシャクティ
が一生懸命編んでいた、白い幾何学模様の入った青いセーターだろう。
 だがやたらと眠いので、その白い幾何学模様を思い出す事が出来ない。この
所働き詰めのせいか、夜がそれ程深まっていないのに、眠くなる日が多いのだ。
それに加え、今日は少し気分が悪い。
(年が明けたら、少し休ませて貰うか)
 眠い頭でそう思いながら、ウッソは風呂から上がった。

「あ、ウッソ。プレゼント……」
 ウッソが二人の寝室に入るとすぐ、そうシャクティが呼びかけた。ウッソと
赤い糸で結ばれた褐色の肌を持つ少女は、部屋の中央に敷いてあるカーペット
の上に座って、絵本を読んでいる。戦災孤児だったカルルマンが、眠りに付く
時に読み聞かせる絵本を、選んでいるのだろう。
 それらの絵本が『白雪姫』や『眠れる森の美女』という、男の赤ん坊である
カルルにはいささか不似合いな絵本である事も、全く気にならない。
 今はただ、眠りたいだけだ。暖かい毛布に包まって、早く睡眠を取りたい。
明日も作業があるのだから。
 それに何だか、気分も悪い。早く横になりたい。
「ごめんシャクティ、今日はやたらと眠いんだ。明日にして、悪いけど」
「うん……」
 と、残念そうに返事をするシャクティなど気にする事も無く、いつも二人で
寝ている大きなダブルベッドの中へ、ウッソは潜り込んだ。

 目が覚めた、熱で。薪ストーブの火が強いのだ。
 ストーブの方を向こうとしたウッソは、自分の体の異変に気付く。眠い目を
擦ろうと思ったのだが、右手が動かないのだ。いや、右手だけではない。左手
も、両足も、動かす事が出来ない。
 ベッドの四隅へと繋がれている縄が、ウッソの手足を全て固定しているのだ。
異変はそれだけでは無い。着ていた筈の冬物のパジャマも、下着も、自分の体
を包んでいない。素っ裸だ、今のウッソは。
「目が覚めたのね、ウッソ」
 ストーブに薪をくべているシャクティが、静かに告げる。
 彼女も裸だ。全身の褐色の肌を、明かりの元で惜しげも無く晒している。
「シャクティ、これ、一体どうしたんだよ」
 手足をバタつかせ、必死にもがきながら、ウッソはシャクティに問い掛ける。
手足が抜けない程度に緩く縛ってあるが、動かすとやはり痛い。縄の作る輪の
内側で、手首や足首が擦れるのだ。
「大丈夫よ。お仕置きが終わったら、外してあげるから」
「お仕置き……? 何だよそれ、僕が何したっていうの!?」
 ウッソの問い掛けに応える事も無く、シャクティが続ける。
「ウッソの夕ご飯に入れたお薬であなたは眠っていたけど、大変だったのよ。
でも、ウッソは大きくなったわね、本当に」
 何が起こっているのか、目が覚めたばかりのウッソの頭には、全く理解出来
ない。何で、何でこんな事……。
「薬って……」
「アザレアから作ったのよ。毒を弱くするの、大変だったわ。ウッソは疲れて
たみたいだから、良く効いたみたいね」
 『愛の喜び』という花言葉を持つ毒草から作られた眠り薬のせいだったのだ、
あの眠気と気分の悪さは。
「どうして、どうしてこんな事するんだよ、シャクティ」
 シャクティが近付く。縄で手足を広げられたウッソを見下ろすと、いきなり
右手を上げる。
 ピシッ! シャクティの右手が、ウッソの頬に平手打ちを浴びせた。
「お黙りなさい! 私の気持ちも知らないで、あなたは!」
 いつもの儚気で優しいシャクティとは、声色が違う、完全に。心の底から、
怒りに打ち震えているのだ。
 ウッソが縛り付けられたベッドに膝を掛け、その上に上がる。シャクティの
体がウッソの頭を跨いだ後、その少年を冷たい目で見下ろし、右手を自分の足
の間に伸ばした。
「まず、私のここをお舐めなさい。あんな女の事、忘れさせてあげるわ」
 右手の人差し指と中指で広げられた、朱い中心をウッソに見せ付けながら、
下にいる少年に向かってシャクティは命令した。
 怖い。いつものシャクティじゃない。そう思うが、ウッソにはシャクティの
命令を無視する事の方が、余程怖い事だと思えた。今は彼女の命令に素直に従
うしか、生き延びる道は無さそうだ。
「頑張ってね、ウッソ」
 そう言うとシャクティは両膝を付き、二つの腿でウッソの頭を挟み込んだ。
両手で亜麻色の髪を掴み、自分の望む所へウッソの唇を導く。ウッソは必死に
望まれる通りにした、生き延びる為に。
「ぁ……、いいわウッソ。相変わらず上手ね……」
 褒められても、全く嬉しくない。それどころか、私にもっと快楽を与えろと
いう指示にしか、ウッソには聞こえなかった。
 舌で舐め、唇で吸い、歯で軽く噛む。シャクティの朱い中心を。
 今は、それ以外の事が出来ない。動きを止めれば、何が起こるが全く予想が
付かない。とにかく口さえ動かしていれば、今は生き延びる事が出来るのだ。
「さぁ、ご褒美よ」
 シャクティの朱い中心から、大量の雫が流れた。ウッソの顔に向けて。放た
れた黄金色の生温い雫が、ウッソの口の中へ入り込む。それを吐き出そうと、
ウッソは咳き込んだ。何て味だ……。
「何を……。汚いじゃないかっ」
「あら、気に入らなかった?」
 シャクティはそう言うと、体を小便まみれのウッソの顔から離し、ベッドか
ら降りた。下着を着ず冬物のパジャマを羽織った後、部屋のドアへと向かった。
(どうする気だ……、僕を)
 一人にされた部屋の中で、何度も何度も問い掛ける。だが、答えなど出て来
はしない。答えてくれる人もいない。
 とにかく、ここから逃げ出さないといけない。逃げ出さなければ、自分の人
生が終わってしまう。だがいくら少年がそう思って手足を動かしても、ベッド
に自分を縛り付けている縄は、戒めを解く気配を全く見せない。
 諦めるしかないのか……。小便まみれの頭で、ウッソはそう思った。
 部屋のドアが開いた。戻って来たシャクティは、半開きのままのドアを気に
する事もせず、ベッドと縄で自由を奪われたウッソに近付く。
 戻って来たシャクティの両手は、水の入った大きなバケツを抱えていた。川
から引いて来た水道の水が、バケツから溢れそうな程なみなみと注がれている。
「うふふ……」
 ベッドの傍に立ったシャクティは、小さく不気味な笑い声を発した後、バケ
ツの水を三分の一ほど、小便臭いウッソの顔に投げて掛けた。刺す様に冷たい、
水が。
「これで、綺麗になったでしょ」
 ウッソが返事を返す前に、バケツの口がウッソの口にキスをした。冷たい水
が、ウッソの口の中へ容赦無くそそぎ込まれる。
「同じ、カサレリアの味がするのにね」
 そう言いながらシャクティは、両手で持ったバケツをさらに傾けた。
 もう駄目だ。冷たい水が掛かるのも気にせず、顔を背ける。胃の底まで無理
矢理進入した冷たい川の水を、あらん限りの力で吐き出した。それが終わると、
必死で肺の中へ空気を送り込む。
「あらあら、またそんなお行儀の悪い事をして」
 シャクティはそう言うと、バケツをウッソの顔の上に持ち上げる。バケツを
引っ繰り返し、残ったバケツの水を全て、下にあるウッソの顔にぶちまけた。
刺す様に冷たい、水が。
「どうしたんだよ、シャクティ。何で、こんな酷い事をするんだよ……」
 水浸しの顔で、ウッソは必死にシャクティに向かって問い掛けた。だが褐色
の少女は、そんな問い掛けなど気にする様子も見せず、再び裸になろうとする。
「シャクティ、ねぇ、シャクティったら」
 ピシッ! 再びシャクティの平手打ちが、ウッソの頬を襲う。三発目が来る
事を恐れた少年は、黙り込むしかなかった。
「そうよ、いい子ね。でも最初から静かにしていれば、もっといい子だったの
にね、ウッソ」
 裸になった上体を傾け、シャクティは少年の唇に自分の唇を重ねた。唾液が
上から、入り込む。拒否する事など出来ない。上から落ちてくるシャクティの
唾液を受け入れる事しか、今のウッソには出来なかった。
「うふ、ウッソが静かになるおまじない、効いたかしら?」
 騒ぐとただでは置かないという脅しにしか、ウッソには聞こえない。なぜこ
んな事をするのか問いたかったが、それをすると、あの恐ろしいシャクティが
再び襲って来そうだ。口をつぐむしか無い、生き延びる手段は。
 シャクティの薄い褐色の体が、ウッソの白い体の上に重なる。
「相変わらず綺麗ね、ウッソの体は」
 そう言うとシャクティは、ウッソの頬を舐め始めた。拒否出来ない。顔を背
けよう物なら、耳を噛み千切られそうだ。恐怖を押し殺し、目を力一杯閉じて、

微かな快楽に身を委ねるしか無い。
 舌が、頬から首筋へ、首筋から鎖骨へ、鎖骨から左胸へと移動する。快感が
増すと同時に、恐怖感も増す。だが、耐える事だけで精一杯だ、今のウッソは。
 左の乳首を、吸われた。それでも声を出せない、怖いから。
「あら、こんな時位、声を出していいわよ。ウッソの女の子みたいな喘ぎ声、
大好きよ、私」
 許可が下りたので、素直に従う。甘い声で、小さく喘ぐウッソ。それを聞い
たシャクティは、満足気な笑みを浮かべながら、含んでいる乳首を噛んだ。
「ぁぐっ、……ャクティ!」
 思わず叫ぶ。
「うふふ、だから大好きなのよ、ウッソの体。もっと、良くしてあげるわ」
 シャクティは、一旦口を動かす行為をやめてそう言うと、広げられた左の脇
の下をくすぐり始めた。快感と笑いとの境目を行く、絶妙な優しさで。そして
残った左手で、ウッソの右の乳を脇と同じ優しい手付きで揉む。
 両胸と脇を、同時に攻められるウッソ。胸を揉む左手がウッソの腰に回り、
さすり始めた。耐え切れない。
「やめて、やめてシャクティ!」
 自らの上半身を快楽の地獄に叩き落した少女の名を叫びながら、ウッソは射
精した。精液の匂いが薪ストーブで生まれた暖気に乗って、部屋中に広がる。
 蒼臭い匂いを楽しみながら、シャクティは自らの体に掛かった蒼白い精液を、
手で掬い取った。そして手に付いた精液を、ゆっくりと口へ運ぶ。
「……美味しい。カサレリアの味がするわ」
 中で蒼白い精液が糸を引く口で、シャクティはそう言う。その少女の目が、
おかしい。異様としか表現しようの無い光が、シャクティの瞳の中にあるのだ。
 ウッソは、恐怖した。
「あらあら、こんなにしぼんじゃって。待っててね、すぐウッソを元気にして
あげるから」
 ウッソは、そんな事を望んではいない。肉体の快楽よりも、肉体の自由が欲
しいのに。だがそんな思いなど、今のシャクティには伝わらない。伝わってい
る筈なのに、徹底的に無視しているのだ。
 褐色の手が、ベッドの傍にある棚に伸びる。シャクティがいつも使っている
ハンドクリームを、その手が取った。蓋を開け、ハンドクリームを右手の中指
に、たっぷりと塗り付ける。
 シャクティは体を動かし、広げられたウッソの両足の間に座り込んだ。何を
する気だ……。
「さぁウッソ、力を抜いて。緊張してると、痛いだけよ」
 ハンドクリームが塗られた中指が、股間の後ろ側に近付く。まさか……。
「爪も切ったし、滑りもあるから大丈夫の筈よ。本当は、柔らかいおもちゃを
使いたかったんだけど、指で我慢なさい」
 その言葉の直後、ウッソの尻の穴にハンドクリームの塗られた中指が、第一
間接まで入り込んだ。
「うぁっ、汚いよ。……痛い、痛い。シャクティ、やめてよ、お願いだから」
 未知の体験をもたらす少女に、そうウッソは嘆願する。だが、やめない。
「お風呂に入ったばかりでしょ、ウッソは。それに、緊張してたら痛いって教
えた筈よ。リラックスして、力を抜かないとね」
 こんな状況で、どうやってリラックッスしろというのだ。それでもウッソは、
一生懸命体中の力を抜こうと努力した。そうしなければ、痛みが増すだけだと
分かっているから。
 次第に、シャクティの中指の第一間接から生まれる痛みがやわらぐ。徹底的
に、体中の筋肉を緩める事が出来たのだ。
 その事に気付いたのだろう。シャクティが微笑む。
「うふふ、良く出来たわね。次、行きましょうか」
 そう告げると、シャクティは中指の第二間接まで、ゆっくりと差し込んだ。
再びウッソの体に、緊張が走る。だが、力を入れると痛みが増すのは分かって
いるから、必死に全身の筋肉を緩めた。
 だが、シャクティの中指が根元まで入ると、それも出来なくなる。
「……ぃぎっ、い、痛い。……助けて、助けてよ母さん!」
 それを聞いたシャクティは、ウッソの中で中指を曲げた。そして中指を第二
関節まで抜き、再び根元まで素早く差し込む。ウッソの内側に、さらなる激痛
が広がった。
「目の前にあなたを愛してくれる女がいるのに、他の女に気を取られるのは、
失礼じゃなくって?」
 冷たく、シャクティが言い放つ。
「私は、破瓜の痛みに耐えたのよ。ウッソが相手だったから、耐えられたのよ。
あなたもこれ位の痛み、こらえなさい。男の子なんでしょ」
 ウッソには、そんな事はどうでもいい。とにかく痛みに耐える為、ひたすら
緊張を解く努力をした。その甲斐あってか、少しずつ痛みが消える。
 だが痛みがやわらいでも、その元であるシャクティの中指が、自分の中から
抜ける気配は全く無い。こんな状態がいつまで続くのかと思う事しか、ウッソ
には出来ないでいた。
「前立腺って、ここかしら?」
 激痛の中に、快感が混じる。未知の性的快感が、ウッソの中を走り抜けた。
自分の内側から、根元から刺激を受けて気持ち良くなるなど、ウッソは思って
もいなかった。
 しぼんだ物が、再び立ち上がる。
「良かった、合ってたみたいね。……もっと、してあげるわ」
 そう言いながら、シャクティはウッソの中で指を動かす。指の先でウッソの
快楽の震源を、撫でて、突付く。その度に、ウッソは喘ぎ声を上げる。かつて
体験した事の無い内側からの刺激に、耐える事が出来ないのだ。
 シャクティは、それが楽しい。指を動かす度に甘い響きを奏でる楽器の音色
を、楽しんだ。指先で撫でれば「ぁ……」と喘ぎ、突付けば「うっ」と叫ぶ。
指を小さく動かせば小さな音を出し、大きく動かせば大きな音を出す。
 本当に可愛い。ウッソ・エヴィンという名の、目の前にある生身の楽器は。
 駄目だ、また出ちゃうと思った瞬間、ウッソの中にある指の動きが止まった。
そしてその中指は、ゆっくりとウッソの穴から引き抜かれる。
 なぜやめたのか問う。内側から生まれた快楽が、溢れる寸前でやんだのだ。
このままでは、蛇の生殺しとしか言い様が無い。自分の中に留まり続ける溢れ
出す直前の快楽のせいで、気が狂ってしまうのではないかとさえ思えた。
「言ったでしょ、お仕置きだって。もう勝手に、外には出させないわ。」
 凍った視線でウッソを見下ろしながら、シャクティは冷たく告げた。
 褐色のシャクティの体が、再びウッソの白い体に跨る。今度は、腰の上に座
るつもりだ。体をウッソの顔の方に向け、両膝を付き、お互いをつなげようと
する。
 そそり立つウッソの象徴をシャクティは手で軽く持って、自分の朱い中心へ
上手く入る様に導いた。そんな事ですら、ウッソは射精しそうになる。
 しかし、耐えなければ。ここで出してしまえば、あの恐ろしい視線と平手打
ちが、自分を襲うに決まっている。溢れ出そうとする快感を、ウッソは必死に
静止し続けた。
「さてと、お待ちかねよ。思いっ切りそそぎ込みなさい、私の中へ」
 暖かい恐怖が、下半身から広がった。すぐにでも快楽の全てを出し切って、
安息を迎えたい。
「駄目よ、すぐに出しちゃ。出したらどうなるか、分かってるわね」
 そんな事を言われても、肉体の反応がどうとでもなる物では無い。しかし、
耐えなければ。溢れる寸前の甘い快楽で、ウッソの体は振るえ続けた。
 だがシャクティが体を上下に動かす度に、体中に満ちた快楽が溢れたがる。
シャクティの中の微細な凹凸が、ウッソを先端から根元まで締め付ける微妙な
力が、シャクティの作り出した絡み付く蜜が、これでもかとウッソの神経の中
枢を襲い続ける。
「んふふ……」
 動きを止めるシャクティ。助かったとウッソが思った瞬間、先と根元を同時
に絞り上げられた。
「んあっ、駄目っ!」
 耐えられなかった。二度目に出した精を、シャクティの中へとそそぎ込む。
その行為をいくら精神が拒否しても、肉体の反応を止める事など出来なかった。
(何で、何でこんな事……)
 数え切れない程頭の中をよぎって行った問いを、ウッソは再度自分とシャク
ティに向けて行なった。声を出さずに。
 だが、シャクティがウッソの上から動こうとする気配は無い。それどころか、
しぼんだウッソをさらに絞り上げるのだ。つながったままで。
「もうやめてよシャクティ。何でこんな事するの。いつものシャクティに戻っ
てよ。お願いだから、ねぇ!」
 ピシッ! 涙を流しながら嘆願するウッソの頬に、三度目の平手打ちが襲う。
「あなたが、あなたが悪いんでしょ! いつまでたっても、カテジナなんて女
の事を忘れられないウッソが悪いのよ!」
 なぜ、恋に恋していた頃の憧れの対象の名前が、ここで出て来るのか分から
ない。美しい金髪を持つカテジナの姿を映した画像も、たった一度だけ返って
来たメールの返事も、自分のパソコンから完全に消した筈だ。なのになぜ……。
「あなたわね、先月の今日、寝言で私に向かって『カテジナさん』って言った
のよ! 分かる、この屈辱が!!
 私はウッソの為に、毎日ご飯を作ってあげた。お掃除もお洗濯も、毎日して
あげた。お風呂で、ウッソの背中を流してあげた。ウッソにぴったりの服も、
作ってあげた。お誕生日もクリスマスも、祝ってあげた。
 畑仕事を頑張ったのも、羊や豚や鶏の世話を一生懸命したのも、女の子なの
に薪割りをしたのも、みんな、みんなウッソの為じゃない!
 おしっこを途中で止めて締まりを良くする練習をしてるのも、避妊のお薬を
飲んでるのも、ウッソに気持ち良くなってもらう為よ。恥ずかしい思いをしな
がら、私は毎日毎日してるのよ、それを!
 なのにあの日の朝、寝ているウッソの頬に私がキスした時、あの女の名前を
吐き出したのよ、あなたは! よりによって私に向かって!!」
 シャクティの頬が、目からこぼれた涙で濡れた。だがウッソを責める怒りは、
静まる気配を見せない。
「あんな悲しみの抜け殻みたいな女、まだ忘れられないの、ウッソは!」
 知ってる、知ってるんだシャクティは。カテジナさんの事……。
「カテジナさん、まだ生きてるの!? ねぇ、知ってるんだろシャクティ!」
 ビシッ!! 今までよりもさらに強力な平手打ちが、ウッソの頬を襲った。
「何でそこで、『ごめんシャクティ』って謝ってくれないのよ。私がこんなに
ウッソの事好きなのに、何で私の事を一番に思ってくれないのよ!
 私はね、ウッソが好きよ。小さな頃に初めて会った時から、ずっと好きよ。
世界で一番あなたを愛してるのは、私なのよ!
 なのにあなたは、いつもいつも他の女に色目を使って!」
 腰を上下に振るシャクティの両手が、ウッソの頭に伸びる。少女の褐色の両
手が、下にいる少年の側頭部にある水浸しの亜麻色の髪を掴んだ。その両手が、
強い力でウッソの頭を枕の上に押さえ付ける。
 涙に濡れた狂気の視線が、ウッソの瞳を襲った。
「そうよ、この瞳よ。この澄んだ瞳がいけないのよ。この青い瞳が、他の女を
たらし込むのよ。この綺麗な瞳で見られた女は、みんなあなたの虜になってし
まうのよ! それが分かってるの、ウッソは!!
 あげくの果てに、私より先にマーベットさんに子供まで生ませて!」
 何を言ってるんだ、シャクティは……。
「この瞳が、マーベットさんを好きだって表情で見てるから、あなたの子供を
マーベットさんが生んだのよ! オリファーさんの体を使って!」
「そんな、無茶苦茶だよ! ねぇ、目を覚ましてよシャクティ、ねぇったら!」
「お黙りなさい!!」
 雷霆の様なシャクティの叫び声が、ウッソを襲う。この声の前には、何人た
りとも黙り込む以外に無いという声だ。人の口から発せられる音だとは、とて
も思えない。ましてや、快楽の甘い喘ぎ声を発する筈の口から放たれたとは。
「あなたがマーベットさんを抱いた事があるのを、私が知らないとでも思って
いるの!」
(何で、知ってるの……)
 ウッソは驚いた。今年のオリファーの命日に、泣き崩れているマーベットを
慰めていた時、求められるままにその未亡人を抱いた事がある。
 だが、一度きりだ。終わった後マーベットに謝られ、お互い忘れましょうと
言われて、それっきりの筈なのに。なぜマーベットを抱いた事を、シャクティ
が知っているのか。
「図星の様ね。オリファーさんの命日の頃、二人共妙によそよそしかったから、
そうだとは思ってたけど。
 しかしマーベットさんも、お行儀が悪いわね。私の男を、勝手に摘まみ食い
して。私もマーベットさんの事好きだから、一言言ってくれればウッソを貸し
てあげたのに」
 僕は物じゃないと口から出掛かったが、出せない。口から出してしまえば、
この世の物とは思えないあの音が自分を襲うと、ウッソには分かっているから
だ。黙るしか無い。生き延びる為には、それしか道は無い。
「あら、カルル。起きちゃったの」
 その声を聞くと、ウッソは必死に頭を動かし、部屋のドアの方を見る。半開
きになったドアの下の方で、小さな赤ん坊の体が震えていた。
(だ、駄目だカルル……。こんな恐ろしい物を、見ちゃ……)
 そう思うが、言葉が出ない。いや、出せないでいた。恐怖のせいで、自分の
意思の通りに体が動いてくれないのだ。
「ふふ……。カルル、良く見ておきなさい。大きくなって浮気ばかりしてると、
こんな風になるんだから。私が下に敷いている、ウッソみたいにね」
 動きを止めたシャクティがそう言った直後、つながっているウッソが再び強
力に締め上げられた。ウッソの全てを、逃がすまいと。
「うぁっ……。駄目だ、駄目だカルル……」
 残った力を振り絞って、ドアの下の方を見る。だがカルルマンの姿は、もう
そこには無かった。半開きのドアの向こうから、大きな泣き声が聞こえる。
「あは、いい子ねカルルは。すぐに私の言う事が分かって、走って自分のベッ
ドに行っちゃうんだから。
 ……まだ出しちゃ駄目よ。赤ちゃんのカルルだって、私の言う事をちゃんと
聞いてくれたのよ。お父さんの方が悪い子だったら、子供に示しが付かないで
しょ、ウッソ」
 シャクティはウッソの髪から手を離し、再び体を揺らし始める。ウッソの上
に跨るシャクティの褐色の体が揺れる度に、跨られた少年の中で快楽と恐怖が、
交差した。
 シャクティの動きが、再び止まる。だが快楽と恐怖が交差する感覚は、ウッ
ソの中から消えなかった。自分を見下ろす視線を発する瞳の中にある、不気味
な輝きも消えなかった。
「私はね、ウッソの恋人にも、妹にも、お母さんにもなってあげる」
 シャクティの優しい声が聞こえる。その優しい声が途切れた時、ウッソの上
にある褐色の両手が、少年の白い首筋に伸びた。シャクティの両手が、か弱い
力でウッソの首を締め上げる。
 苦しい……。次第に強くなる力の為に、少しずつ意識が薄れて行くウッソは、
それ以外に何も考える事が出来なかった。
 シャクティの狂った光を宿す瞳が、ウッソの顔を見詰める。
「だから、ウッソは私の物よ。澄んだ青い瞳も、柔らかい頬っぺも、亜麻色の
サラサラの髪も、可愛い口から出る声も息も、純粋な想いも、暖かい心も……。
 ウッソの外側も内側も、全部、全部、全部私の物よ!」
 怖い……。ウッソの下半身を締め付ける力が生む感覚と、上半身を締め付け
る力が生む感覚が、体の中で幾重にも交じり合う。その感覚が、自分の意識を
遠くへと連れて行くから、怖い……。
「例え一言の言葉も、精虫の一匹でさえも、勝手に他の女に渡さないわ!!」
 自分を締め付ける二つの力に耐え切れなくなったウッソは、射精と気絶を同
時に行なう事で、自分に跨る褐色の恐怖から逃げ出した。

 目が覚めた、朝日で。カーテンが開いているのだ。
 光の方を向こうとしたウッソは、自分の体が自由に動く事に気付く。あれは
夢だったのかと思いながら、眠い眼を擦ろうと布団の中から右手を出す。
 パジャマの袖口から、赤く腫れ上がった手首が覗いた。
 背筋が寒くなる。
 ウッソは布団から左手を出し、手首を見た。赤い。慌てて起き上がり、掛け
てある布団を剥ぐ。両方の足首も、赤く腫れ上がっている。
 縄で擦れた跡だ。
(あれは、夢じゃなかったんだ……)
 そんな思いを否定しようと、必死に視線を動かす。ベッドの上には、マット
レスが無い。何より自分が寝ていたのは、昨夜シャクティが絵本を読んでいた
カーペットの上だ。
 丁寧に二枚の毛布を敷かれたカーペットの上で、ウッソは眠っていたのだ。
それに気付くと、絶望という名の感情が、ウッソの心を凍り付かせた。
 その感情で動かない体に鞭打って、洗面所へ顔を洗いに行く。洗面所の鏡に
映った首筋が、薄っすらと青黒くなっていた。
(あれは、夢じゃなかったんだ……)
 先程打ち消そうとした筈の言葉が、再び頭に浮かんで来た。顔を濡らした水
道の水の冷たさが、再度浮かんだ言葉に追い討ちを掛ける。カサレリアの川か
ら引いた水道の水は、昨夜と同じ刺す様な冷たさを、ウッソの顔に感じさせた。
 恐怖の確信の中、ウッソは何とか台所まで辿り着く。
「あ、お早うウッソ。遅かったわね」
 ウッソに向かって、シャクティが朝の挨拶をした。いつもの様に、自然に。
 シャクティはカルルマンの左隣に座り、昨日の残りのシチューをその赤ん坊
に食べさせている。隣のシャクティの右腕は、カルルの背中を抱いていた。
「はい、あーんして」
 いつもと同じ優しさに満ちた声でそう言って、匙で潰したじゃが芋をカルル
の口へ運ぶ。匙を持つ左手の袖口から、白い色が覗いた。
 包帯だ。
「どうしたの、手……」
「うん、朝ご飯作る時、包丁落としちゃって」
 嘘だ。シャクティが料理中に怪我をする事など、年に一度あるか無いかだ。
その怪我も、指先を包丁で少し切ったりする程度なのに。
 一体どうやったら、包丁を落として左の手首を切るのだ。だが、ウッソは怖
くて、シャクティにそんな疑問をぶつける事が出来ない。
 とりあえず、食事をしよう。腹一杯食べて、全てを忘れよう。ウッソはそう
思い、テーブルに並べられている朝食の前に座った。
 この秋に収穫した小麦で作ったパン。みんなで作った葡萄のジャム。必死に
世話をした羊から絞ったミルク。畑で取れた野菜で作ったサラダ。育てた鶏か
ら取った卵と、手作りのハムで作ったハムエッグ。
 これらを全て食べれは、自分の中の恐怖の確信を忘れられそうな気がする。
そう思い込むしか無かった、ウッソは。 ..
 黄身の二つあるハムエッグの上に、「Uso」とケチャップで書いてあった。
自分の名前を赤い字で書いてあるハムエッグを切り取り、口へ運ぶ。
 生臭い、味がした。
「シャクティ、ケチャップ変えた?」
「ううん、いつもと同じのよ」
 嘘だ、これも嘘だ。だが、やはりウッソは怖くて、シャクティに疑問をぶつ
ける事が出来ない。
 ウッソは知らない。自分の名前を書いた赤いケチャップの中に、シャクティ
の左の手首から流れた赤い血が、大量に混じっている事を。
「はい、ご馳走様。良く食べました。いい子ね、カルルは」
 シャクティはカルルにそう言って微笑んだ後、隣にいる赤ん坊の口の周りを
拭く。白い包帯をした左手に、布巾を持って。
 シャクティはカルルを椅子から降ろし、その赤ん坊を連れて台所から出た。
だがそんな事など気にせず、ウッソは必死に食事を取り続ける。
 最早、味など分からない。分からなくていい。腹一杯になれば、自分の中の
恐怖を全て忘れられそうな気がするから。何度も何度もそう自分に言い聞かせ、
ウッソは必死に朝食を胃の中へと流し込んだ。
 もう少しで全部食べ終わるという頃に、シャクティが戻って来た、一人で。
戻って来たシャクティの両手の中に、白い幾何学模様の入った青いセーターが、
畳まれた状態で収まっている。
 褐色の少女はウッソの向かいにある椅子に座った後、両手に持った青と白の
セーターを差し出した。愛の喜びに満ちた微笑みを、その顔に咲かせながら。
「はい、クリスマスプレゼント。遅くなっちゃったけど」
 シャクティは、嬉し気な声でそう言った。血の混じったケチャップの付いた
ハムエッグの、最後に残った一切れを食べて朝食を終えたウッソに向かって。
 咲き誇るアザレアの花の様な笑顔が、シャクティの顔一杯に咲いている。
「ガンダムと同じ色にしてみたけど、どうかしら?」
「う、うん、ありがとう……」
 ウッソは力の無い声で感謝した後、青いセーターを受け取った。着てみなく
ても、自分の体にぴったりの大きさだと分かっている。シャクティが、ウッソ
の事を全て分かっている少女が、編んだセーターだから。
 受け取った青と白のセーターを、隣の椅子の上に置いた。震える両手で。
「来年も再来年もプレゼントをあげるから、楽しみにしててね」
 少女は、可愛らしい笑顔を浮かべながら、そうウッソに声を掛けた。
 恐怖の中で、ウッソは悟った。自分の運命の赤い糸は、目の前で微笑んでい
るシャクティ・カリンという名の褐色の絶望が、全て握っている事を。
 再びシャクティが言う。可愛らしさ一杯の、いつもと同じ笑顔を咲かせて。
「私達、これからもずっとに一緒よね、ウッソ」
 ウッソは背筋が、寒くなった。

−完−