巨体に不釣合いな素早さで接近するラオウをザクは捕らえきれず、見失ってしまう。
その間、既にラオウはザクの体の上を駆け、コックピットの高さまで上り詰めていた。
人間の限界を超えて鍛え上げられた右上腕がさらに膨れ上がり、雄叫びと共に剛拳一撃。
コックピットの装甲が紙のように易々とひしゃげ、つぶれた。
「や、殺ったぁ!流石は拳王様!」
祭り気分で浮かれる部下と対象的に、ラオウの表情は険しいままである。気付いていた。
(操縦者まで届いておらぬ!)
次の瞬間ラオウは巨大な手に捕まり、中空へ放り出されていた。
ザクは片手にマシンガンを構え、ラオウに狙いを定め、撃つ。
ラオウは身をひねり、あるいは回転して身動きのままならない空で見事射撃をかわすが、
「ぷ!」「ぺ!」「ぽ!」
背後で呆けていた数人の部下達は珍奇な単語を漏らし、臓物を撒き散らして息絶えた。
(素早さ、腕力、技量……どれをとっても俺に分があるが、あの近代兵器は厄介なものよ)
着地したラオウは己の右大腿をちらりと見た。外側がかすかにえぐられている。
「ならばその単眼を叩き潰してくれるまで!!」
頭上を越えて跳び上がったラオウをザクはまたも見失い、ラオウ渾身の一撃をまともに喰らう事となる。
「ぬぅぅん!!岩山両斬破ぁぁぁ!!」
ザクの丸い頭部が真っ二つに割れ、ピンクのモノアイは破片を撒き散らし砕けた。
ラオウの頭に勝利の二文字が浮かび、ついにその顔に歪んだ笑みが現れる。
(兵器でさえこの拳王の前にあまりに無力!)
が、ザクは闘いを止めはしなかった。頭部を振ってラオウを払い落とすと、左手で地に伏したラオウを
探り、力の限り押さえつける。既にラオウの顔からは笑みが消えていた。
そしてザクの右手に灼熱の斧、ヒートホークが現れる。ザクは斧を頭上高くまで振り上げ、
(己の左手ごと屠る気か!まさか……この拳王が敗れるというのかぁ!)
ラオウが生まれて久しくしていた恐怖という感情に心身を支配されようとした、その時。
ザクの右肩に巨大な矢が突き刺さった。
「第二射!ってぇぇい!!」
指揮官の号令で拳王配下石弓隊が矢を放ち、ザクの左胸、胴、右腕に穴を穿つ。
ザクは左手を掲げながら後退するが、やがてバーニアを噴かして空へと消えていってしまった。
後には恥辱と恐怖にまみれ、憤怒したラオウが残されたばかりであった。
「何故私闘に水をさしおったぁぁ!!」
気遣いの言葉をかけながらラオウに駆け寄った部下は、顔面を潰されガラクタの山に突っ込んだ。
「しかし拳王様、あのままでは拳王様は敗……」
「うぬぅぅぅ、つくづく屑共がぁ!!」
ラオウの巨大な拳一振りで五、六人が吹き飛ぶ。
「この拳王、敗れて生を拾おうなどとは思わぬわぁぁぁ!!」
逃亡したとはいえ、あの闘いで勝利を収めたのは確かにザクであった。
幾千幾万の敵を打ち破り、これからも勝ち続けなければならない身にありながら、まさかの敗北。
よもやジオンの雑兵如きに遅れを取るとは!
この日を境に拳王は今まで以上に覇者の狂気に取り付れ、不退転の修羅へと豹変してゆくのである。
そして同時に、この闘いを境に新たなる戦士の伝説が始まるのであった……。