オリジナルSSを発表するスレ

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367ぴよ
Last Envelop - GUNDAM 0087 -

  Chapter 1 'Disquieting atmosphere'

 U.C.0087、2月20日、マッセン・シルドー連邦宇宙軍少佐は、その艦隊に着
任した。艦隊といっても、旗艦であるマゼラン改級ポーレルハンプとサラミス改級メレラ
ン、同ドレックサージの、わずか3隻からなる小艦隊である。
 ささやかな艦隊ではあるが組織の主幹たる司令部は当然存在しており、マッセンはその
幕僚として招聘された。
 ポーレルハンプの艦長を兼任する艦隊司令のマーク・デンバー大佐はマッセンの旧知で
あり、一年戦争ではMSパイロットとして、共に死線をくぐり抜けた。
「久しぶりだな、シルドー少尉」
 着任の挨拶のため艦内のデンバーの居室を訪れると、デンバーはそう言って破顔した。
「ご無沙汰しておりました、大尉」
 マッセンも懐かしさに顔が綻ぶ。互いを一年戦争当時の階級で呼び合い、敬礼もそこそ
こに握手を交わし、デンバーは親しげにマッセンの肩をたたく。
 長身でがっしりした体格のマッセンとは対照に、デンバーはやや小柄で痩せている。一
見すると風采のあがらない小役人といった印象のデンバーだが、その戦いぶりは剽悍その
ものであり、指揮能力も一級品と言って差し支えない。マッセンも戦場で、直接、間接問
わずデンバーに助けられたことは一再ではなかった。
 華やかな戦績こそないが、常に水準以上の成果を上げ、その手腕は堅実にして過不足無
しと評されたものである。
 功績からいってもっと評価されてもいいデンバーだが、根が剛直でいささか融通の効か
ない一面もあるため上層部への「ウケ」が悪く、階級だけは上がっても軍中枢に近い旨味
のあるポストとは無縁だった。本人もむしろその方が清々するようで、お偉方の顔を見な
いで済むと笑い飛ばしている。
 2人はしばし、他愛のない思い出話や世間話に興じていたが、不意にデンバーが表情を
改めた。
「でな、あのコロニーには寄って来たか」
 やや声を潜め、デンバーはマッセンの方に身を乗り出す。
「はい、最初はまさかと思いましたが……」
「あれが、ティターンズのやりようよ。『30バンチ』ばかり取り沙汰されるが、他にも
あのようなコロニーが幾つかあるそうだ」
「本当でありますか」
「表向きは伝染病の蔓延による、住民の退避や隔離ということになっているらしいがな」
 デンバーは忌々しげな表情で腕組みをすると、不快感を顕わにして言う。
「あのような所業を許す今の連邦に、正直、失望を禁じ得んよ。このままではいずれ何処
かに無理が生じる……いや、もう手遅れかもしれんな」
 それは現体制に対する痛烈な批判であった。思わずマッセンは周囲に視線を配ったが、
むろん、この部屋には2人しかいない。
「本当に、あのコロニーにもG3が使われたのでありますか。『30バンチ』以外にその
ような事実があるとは、初耳なのですが」
 ある種の先入観から来る誤解ではないのか、とマッセンは暗に言う。上官の言うことに
異を唱えることにはなるが、疑問は質しておかなければならない。
 デンバーは微妙な表情で沈黙していたが、ややあって口を開いた。
368ぴよ:03/09/09 02:15 ID:???
「はっきり言うとな、情報の出所は例のエゥーゴだ。しばらく前から怪文書という形で出
回っている。事は政略の範疇だろうし、鵜呑みにすることはできんが……」
「現に、あの無人のコロニーは存在する」
 マッセンが言葉尻を受けると、デンバーはうなずいてみせた。
「そういうことだ。少し前まではティターンズの艦艇が周辺をうろついていて、近づくこ
とすらできなかったんだがな」
 事の真相は闇の中、しかし状況証拠は揃っている──かと言って断定するのは危険だが、
やはり「あの」ティターンズならやりかねないという認識に行き着く。
 つまりは、そういうことなのだ。
 仮に、その事実が無かったとしても、ティターンズに対して固定された認識が疑惑を生
み、それが連邦全体に対する疑惑へとすり替わり、反連邦という潮流が生じる。
 今は抑えつける一方で済んでいるが、いずれ反発は必至だろう。ティターンズはそれす
らも抑え込むつもりでいるのだろうが、果たしてそれが可能であるか、甚だ疑問であった。
「何故、人はいたずらに乱を求めるものなのだろうな……」
 マッセンは応えない。デンバーのその呟きが独り言であると解ったから。
 2人の間に、しばし沈黙が流れた。
「それで、大佐はいかがなさるおつもりで」
 しばらく自分の思索を追っていたマッセンだが、意を決してデンバーに問うた。いずれ
現状の連邦に信を置けないのならば、自ずと一つの選択肢が見えてくる。
「ん? そうさな、こうして部下に愚痴をこぼすだけさ」
 しかし、冗談に紛らせ、デンバーはこの場での回答を避けた。デンバー自身、まだ迷い
があるのだろう。いささか性急に過ぎたか、と、マッセンは内心反省する。
「小官は愚痴の聞き役ということですか」
「そう、重要な愚痴だ。将来を左右しかねない、な」
 そう言って、デンバーは笑ってみせたが、すぐに表情を引き締める。
「軍部全体に迂闊なことを言えん空気があってな、何を言うにも相手を見なければならん。
俺なりに胸に抱えているものもいろいろある。息も詰まるってものさ」
 本来は明朗快活であるはずのデンバーに、そう言わせるだけの状況が今の連邦軍の実際
なのだ。
 思えば一年戦争の頃は気楽だった──そう、マッセンは思う。常に死に直面してはいた
が、何をするべきか、誰が敵で誰が味方なのか、単純な価値観で事足りた。
 そして、ふと、それがデンバーの言う「乱を求める」ということなのだと気付く。単純
であるが故に偏狭で一方的な価値観を求め、それに反するものを否定すれば、その先にあ
るものは相克であり、それがやがて暴力を生み、闘争へと繋がる。
 それが嫌なら、多様な価値観を受容し、その摺り合わせに思い悩まなければならない。
(なるほど、人とは因果なものだ……)
 マッセンの頬が、やや自嘲気味に歪んだ。
「それはそうとな、少佐。チェン伍長だが、あの娘は結構いいと思わんか」
「大佐は、あのようなタイプが好みでありますか」
「嫌いではないな、悪いか?」
 おそらくは意識してだろう、デンバーは下品な笑い方をする。
 以後は、とりとめのない会話が続いた。

  to be continued...