道化仮面トロワ0090 トロワ・ベル隊設立

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241いまを生きる・その1
深夜2時。今日の日記を書き終えた俺は、心地よい疲れの中布団の中にもぐり込んだ。…が、突然外から
聞こえてきたヘッタクソな『FIND THE WAY』に浅い眠りを邪魔されて、窓から外に踊り出た。
捕まえたぞ!!今何時だと思ってんだ、この…ディアッカ!?
「よぅ…酒はいいなぁ…嫌なことを全部忘れさせてくれる…」
何か知らないが、すでに出来上がっているな。とりあえず放置はできないか。最近冷え込んできたからな。

家の中で、俺は奴にコーンスープを勧めた。同じように歌で起こされたキャスリンが眠そうな目をこすっている。
「じゃ、私先に寝るからね。戸締りだけはちゃんと確認してね」
あぁ、お休み姉さん。…どうした、ディアッカ。美味くはないかも知れんが、身体が温まるぞ。
「トロワ…SEED、終わっちまったな…」
ん?ああ、そうだな。俺もWが終わった時は暫く放心状態になったこともあった。だが、すぐに慣れる。
新しい生活だって待っているしな。
「…その、新しい生活なんだけどさ…戦争、終わったじゃない?そしたら俺、行くとこなくなっちゃって…」
…そりゃ深刻だな。ザフトに戻る…は、無理か。AA隊だって解散したんだろ?
「そう。あいつら協調性ないから皆バラバラになっちまって。打ち上げが終わって気がついたら俺一人になってた」
…アスランとか、ミリアリアとか…聞くだけ野暮か。とりあえずアレだ。戦争が終わったんだからこれからは
自分だけの日常を手に入れることが必要だと思うぞ。
「自分だけの、日常?」
そうだ。知ってるだろうが俺達は戦後、自分の特技を活かして生活の基盤を作った。生活の基盤、これ即ち
定期的な収入だ。色々思うところもあるだろうが、まずはここをクリアしないとな。
「…そっか、分かったよ。有難う、トロワ。俺明日から仕事を探すよ!!」
ああ、頑張れよ…ディアッカ、この手は何だ?
「いや、俺この辺の地理にあんま詳しくないから手伝ってくんないかな…なんて」
とりあえず、俺は何も言わずに冷たくふりほどいた。
242いまを生きる・その2:03/10/06 00:26 ID:???
次の日。まずは手近な所から、ということでうちのサーカスの団員に推薦した。
「うーん。でも、今仕事って動物の世話ぐらいしか空いてないわよ」
「あ、俺大丈夫っすよ。動物、好きっすから。ほら、こんなに懐かれる…」
ディアッカはライオン君の檻の中に手を差し伸べた。何の躊躇もなく、ライオン君の口に奴の手が消えた。

エレガント病院で応急処置をしてもらった後、俺達はぷにパン先生の元を訪れていた。
「確かにアシスタントは年中募集している…とりあえず、お前の作品を見せてもらおう」
「任せてくれよ。これでも俺は子供の頃絵画コンクールで金賞を取ったことがあるんだぜ?」
ディアッカはとがしやすたかの絵を幼稚園児が模写したような漫画を出した。ヒイロは流水の如き動作で破いた。

本気で泣き出したディアッカを慰めつつ、デュオの家に足を運んだ。
「ごめんなさい。彼、また病気が再発して…」
ヒルデが目を真っ赤にして出てきた。貧乏くじは持病だから…引き篭もりの方か。
とても話を切り出せる雰囲気ではなく、おみやげのサーカスせんべいだけ置いて外へ出た。

あまり気は進まなかったが、ウィナー家の門を叩いた。カトルはおらず、ラシードが応対に出た。
土木工事に人手が必要らしい。良かったな、これで何とか…
「あ、パス。俺中華ナベより重い物持ったことないから」
五飛の家に向かう間中、俺は後ろから軟弱者の踵を靴の先で蹴りながら歩いた。

「俺にもコードネームが欲しいな。そう…さしずめ、プリベンター・ゴールドとかね」
「…」
「…」
名前が被る、という理由で丁重にお断りされた。素直にプリベンター・チャーハンとかにしておけば良かったのに。
243いまを生きる・その3:03/10/06 00:26 ID:???
その後、ゼクスの吉野家は牛アレルギーでアウト。目ぼしい所は全滅だった。夕暮れの河原に腰かけて、
俺達はそれぞれ物思いにふけっていた…なぁ、ディアッカ。お前何でコーディネーターなんだ?
「…言いたいことがあるならハッキリ言えよ…何微妙にカガリの台詞パクってんだよ!!あぁ、どうせ俺は
クソの役にも立たないダメコーディネーターだよ!!それがなんかお前に迷惑かけたかよ!!」
…!!待て、お前今、何て言った?
「え…?お、お前に迷惑かけたかって…」
その前!!…そうか、まだ道はある!!

夜も更けて。俺達は一軒の屋台の前に立っていた。
「いらっしゃい!…何だ、お前か。久しぶりだな。そっちの黒いの…どっかで見たことあるな。前に会ったか?」
カガリさん…いくら何でもそれは酷過ぎるんじゃないですか?こいつ、先週まであんたと一緒に戦ってた男ですよ?
「そうか、すまん。何せ最近物忘れが激しくてな。で?今日は何の用だ?前(006参照)みたく私の店の味を
盗むつもりか?」
まぁ、とりあえずはラーメン頂戴。二人分ね。

数分後、俺達はカガリのラーメンを堪能していた。店長、相変わらずいい仕事してるな。
「褒めても何も出さないぞ…戦争も終わったし、今の私にはこれぐらいしか出来ないからな。国民達は今でも
元のような平和な暮らしを望んでいる。いずれ私は国に帰る。オーブはまた一から出直しだ」
カガリさん…
「…ごちそうさん。お代、ここに置いとくわ。じゃあ、またな」
ディアッカ?
「ん、ああ。また来い…名前、忘れてて悪かったな」
お、おい…あ、俺の分はこれね。ごちそう様。…待てよ、ディアッカ。
「…すまなかった。俺、ちょっと甘かった。カガリだってあんな風に頑張ってるんだ。俺だって自分に出来ることを
やらないとな…名前どころか存在を忘れられてたのは、正直へこんだけど」
あ、いや。俺はお前をカガリに雇ってもらおうと…まぁ、いいか。前向きになったみたいだし。
244いまを生きる・その4:03/10/06 00:27 ID:???
「ねぇ、トロワ。最近この辺りでディアッカ君が屋台を出したって知ってる?」
夕食の片づけをしながらキャスリンが言った。いや、初めて聞いたが。
「さっき買出しの帰りに聞いたんだけどね、チャーハンの屋台で毎晩頑張ってるんだって。で、今この近くって
屋台が増えてるから激戦区になってるって」
ふぅん。ま、仕事が見つかったのは結構なことだ。明日にでもちょと冷やかしに行ってみるか。
「またそうやって野次馬になりたがる。…それじゃ、明日の晩ご飯の用意はいらないわね」

次の日の夜。確かにそこは激戦区だった。ていうか、何か勘違いしたフェスティバルだった。
何しろ道路の両脇に色んな屋台が軒を連ねているのだ。カガリのラーメン、ディアッカのチャーハン、
アズラエルのおでん、トレーズのもう一つおでん(これは絶対ワザとだ)、ゼクスの牛丼、
ヒイロの即売会、ヒルデのPCパーツショップ、五飛の中華バイキング…まだまだ奥に続いている。
「やぁ、義弟。夕食がまだならエレガントウフはいかがかな?エレガンモドキもあるよ」
野郎、前回で味を占めたな。そんなことよりトレーズ、これはどういうことだ。
「いやいや、昨夜ちょっとヒマしてたからこの辺を散歩してたら面白そうなことをやってたからね。
どうせなら楽しいことは皆でやった方がより楽しいと思ったから誘って大所帯にしてみたよ。
それにしても、おでんを作るのは久しぶりだったが覚えているものだね」
…あ、ディアッカ。こんな騒ぎになるとは、同情するぞ。
「別に、そんなことないよ。何かお祭りみたいで楽しいじゃない?昨日だってちょっと騒ぎ過ぎちゃってさぁ。
夜遅くまで一緒に仕事してるからテンション上がるんだよね」
ま、本人が楽しいならそれでいいか。店長、チャーハンを頼む。

数日後、この騒ぎは一気に収束した。リリーナが「深夜うるさくて眠れない」と言い出したのがきっかけで
ドロシーが私兵を動かして大規模な取締りを行ったのだ。おかげで正式に許可を貰っていない屋台は処分された。
ディアッカはこの辺りでは商売できなくなり、流れのチャーハン職人はいずこかへ去った。
泣くなディアッカ。いつか俺が独立してラーメン屋を経営する時、専属の料理人として雇ってやるからな。
…泣いてない、俺は泣いてなんかいないぞ。