「うわっ。ウッソ、もう少しスピード落としてくれよ!」
初めてワッパに乗る527は、思わず声を上げた。フワフワしたワッパの感覚
に、戸惑ったからだ。タイヤで地面を捉えて走る乗り物とは違った、浮遊感。
今迄味わった事のないその感覚が、527にそう言わせたのだ。
だが、怖くはない。自分の左側に、ウッソの横顔があるからだ。貨物用ワッ
パの助手席に乗った527は、自分の目の前にある大きな瞳と小さな頬を、頼も
しく感じた。
「ハハハ、それっ!」
ウッソが笑いながらハンドルを引き、ワッパをさらに地面から浮かせる。こ
れは流石に怖かった。ウッソのイタズラっ気が生む恐怖の為に、隣にいるあど
けない顔をした少年の体に、527は思わず抱き付いてしまった。少し、恥ずか
しい。
「もぉ、からかうのもいい加減にしろよ。」
ワッパと地面の距離が元に戻ると同時に、527はそうウッソを叱る。だが、
体を離しながら少年を叱るその声には、怒りではない優しい色があった。
「もうすぐウーイッグですよ。」
527はウッソの買い物に付き合う為に、少年と二人でワッパに乗っている。
カサレリアの畑で使う肥料を買う為だ。
いくら畑仕事で体を鍛えたウッソとは言え、大きな袋に入った肥料を担いで、
店の中と駐車したワッパの間を何度も往復するのは、流石につらいのではない
か。そんな気遣いが、527を少年の横に座らせていた。
「そっち、持って下さい。」
そのウッソの指示を聞いて527は、ウッソが持った肥料の袋の反対側に回る。
同時に掛け声を出して重い袋を持ち上げ、移動し、ワッパの荷台に積み込む。
それを何度も繰り返した。
「さてと、あと二袋。」
そう言いながら購入した肥料の所に向かうウッソの背中を、527は頼もしく
感じた。この小さな背中、愛くるしい体のどこに、あれほどの力があるのだろ
う。
「早くして下さーい。」
少年の持つ自然の強さに関心していた527を、かわいらしい声が呼ぶ。その
声の所に、527は小走りで向かった。ウッソの笑顔を、もっともっと味わいた
いから。
「今日はありがとうございました。」
ワッパがカサレリアに着くとすぐに、ウッソはトレードマークの帽子を脱い
で、感謝の気持ちで一杯になった頭を下げた。起き上がったウッソ頭を、527
は優しく撫でる。
「偉いな、ウッソは。何でも一人でやって。」
「いえ……、そんな。」
527の褒め言葉に、ウッソは少し頬を赤らめて、応える。
「夕食、一緒にどうですか?」
ウッソが527を誘う。だが、断った。
「いや、いいよ。明日も早いんだろ。ゆっくり寝るの、邪魔しちゃ悪いしさ。」
「そう……、ですか。じゃ、おやすみなさい。」
周りがすっかり暗くなった中で、その少し寂し気な声を聞いた527は、自分の
小屋へと戻っていく。自分がウッソと同じ夢が見れる事を、祈って。
−完−