目の前に、母がいた。大事な事をやらなかればいけないという内容の手紙を
残して、父と共にカサレリアからいなくなった母が。そんな母が月面にいて、
自分と出会えたという事実を、ウッソは俄かに信じる事が出来なかった。
「ウッソ……。」
さして広いとは言えない部屋の中に、ミューラの声が響く。
ウッソは、母の懐かしい暖かさの中に飛び込んだ。何も考えず、ためらう事
なく。
(母さん、母さん……。)
母の胸の中に顔をうずめ、ウッソは泣きながら、カサレリアの匂いのする暖
かさを懐かしんでいた。今迄出会った他の女性達と違う、暖かさ。その感触は、
ウッソを戦士から甘えるだけの子供へと変えていった。
ウッソは母親の膝の上に頭を乗せ、語った。リガ・ミリティアとの出会い、
モビルスーツとの出会いを。それは、今へと繋がる恐怖への出会いであった。
しかしそんな恐怖の中ででも、怯えを押し殺して行動する事が、ウッソには出
来る。いや出来てしまうのだ。
父ハンゲルグと母ミューラは、そんな風に我が子を育ててきたのだから。
恐怖の記憶を語るウッソを、嬉しげに見つめる母。その顔は、自分の望んだ
以上の結果を息子が出した事に対しての、満足気な表情だった。ウッソが自分
の力で生き延び続けた事実が、自分の教育が間違っていなかった事の証明の様
に、ミューラには感じられたのだ。
(この子なら、ギロチンをやめさせる戦士になれる。)
そう思えた。
ミューラの今の顔。ウッソはその顔を見る為に、小さな頃からありとあらゆ
る事を行なって来た。ナイフの扱いも、農作業の手伝いも、勉強も、嬉し気な
母の顔を見る為に頑張ったのだ。初めてパラグライダーを使って一人で空を飛
んだ時、初めてワッパでカサレリアとウーイッグとの間を一人で往復した時、
ミューラはとても褒めてくれたのだ。
その時の嬉しさが、ウッソをこんな事の出来る子供に育ててしまった。だが
母も子も、それを疑問に思わず、懐かしさと満足感を味わい続けていた。
「シャクティとは、もう愛し合ったの?」
不意にミューラが尋ねる。戸惑いだけが、ウッソの心を支配した。
「そ、そんな、母さん、何言ってんだよ。シャクティは妹みたいなもんだし、
それに……。」
「それに、何? シャクティはあなたにとって、大切な女の子でしょう。」
「そりゃあ、そうだけどさ……。」
「ウッソはもう、精通は来ているのでしょ。あなただって、いつ迄も子供じゃ
ないわ。男と女が愛し合う行為を知っておくのは、大切な事よ。」
ウッソの精通は去年の冬、カテジナが出て来た夢での夢精だった。朝起きた
時に感じた、中途半端に乾いた精液の付着した下着と股間から生じる不快感。
自分がそんな年頃だとは知ってはいたが、乾いた精液の感触はその時のウッソ
の心の中に、恥ずかしさと空しさしか生まなかった。
その後、生まれて初めてオナニーをした。何かに憑かれた様に自分の手が、
乾いた精液にまみれた股間へと移動する。握られた掌が上下に動く度に、シャ
クティとカテジナの顔が、交互にウッソの頭の中を駆け巡った。二人の顔が現
れる度、罪悪感がこみ上げるのに、それが自分の精神の中にある何かを興奮さ
せるのだ。
1分と経たない内に、ウッソは果てた。多量の蒼臭い精液を放出して。
果てしなく長く感じられた、短い時間。それが終わったウッソの心の中は、
罪悪感と虚脱感とシャクティとカテジナが入り混じる、成長という名の明るい
暗黒が支配していた。
その暗黒を打ち払う為に、ウッソはしばらくの間、ネット上のポルノサイト
と、カサレリア地下のコンピューターバンク内の教育プログラムにある性教育
カリキュラムを、貪る様に見続ける日々を送った。毎日の楽しみだった、モビ
ルスーツシミュレーターで遊ぶ事すらも忘れて。
(父さんと母さんも、こんな事をして僕を生んでくれたんだ。)
そう思って無理矢理自分を納得させる日が来ると、自分もいずれ、女の人と
交わり合う日が来るのだという考えに、取り憑かれた。その相手が、妹の様な
シャクティなのか、憧れの存在でしかないカテジナなのか。そんな事を考える
度に、ウッソは二人の女を同時に想ってしまう自分に対して、情けなさで身を
よじるしかなかった。
だが春が来て農作業と羊の世話が忙しくなると、そんな思いをする事も無く
なる。生きる為の忙しさは、少年の成長への戸惑いなど構ってはくれないから
だ。しばらく中断していたカテジナへのメール送信も、再開した。
そんな時に現れた、白いモビルスーツ。最初はカサレリアの平和を乱す存在
としか感じなかったのに、その白いモビルスーツ・ヴィクトリーガンダムが、
自分と母をつないでくれたのだ。嬉しかった。
その母が、一糸まとわぬ姿で、自分の目の前にいる。
「これが、母さんがあなたに教えてあげられる、最後の事よ。」
先程ミューラはそう言って、自ら服を脱いでいった。その時ウッソは声を出
す事も出来ず、ミューラが美しい姿になるのを見続けるしかなかった。
「ウッソの未来の為に、これから母さんが、あなたを抱きます。」
口付け。小さな頃にシャクティと遊びでやって以来の口付け。ミューラとの
それは、子供の頃の体験とは全く違っていた。
(親子でこんな事してちゃ、いけないのに。)
そんな考えが、一瞬ウッソの頭の中をよぎる。しかし、ミューラの唇から伝
わって来る愛おしさが心の中を支配した時、ウッソからそんな思いは消えた。
カサレリアの味がする母の唇を、ウッソは一心不乱に吸い続けた。
ミューラの舌が、入って来る。僅かな戸惑いの後、ウッソもそれに答える様
に、母の舌と自分の舌を重ね合わせた。僅かに動く、互いの頬と頬。
(母さん……。)
そう思った瞬間、カサレリアの味が離れて行った。そしてウッソの左胸へと、
母の唇が動く。朱みがかったピンクをしたウッソの乳首を、その唇が包んだ。
「あぁ、母さん……。」
思わず声をあげるウッソ。その声色は、大人の色を帯び始めていた。
母の舌が乳首を弄ぶ度、背筋に赤い快感が走る。
「どう、気持ちいい?」
そんな声が聞こえても、部屋の中央に敷かれたマットの上で仰向けに倒れて
いるウッソには、答える事は出来ない。小さなうめき声と快楽で歪んだ表情で
しか、返事をする事が出来ないのだ。
その言葉無き返事を感じたミューラは、もう一つの乳首へと唇を移す。心地
よさを求める残された胸を、右手で愛しながら。左右の胸を同時に責められる
ウッソは、意味の有る言葉を発する事が出来ない程の、優しい快感に包まれて
いた。
ミューラは残った左手を、ウッソの後ろに回す。そして、あやす様に背中を
さすった。やさしく、ゆっくりと。
「っ……、ぁ……。」
何度も何度も、快楽の声をあげるウッソ。暖かな快楽を生むミューラの唇と
掌は、そんなウッソの体を下へと移動して行った。お腹に口付けをし、背中を
さする。それですらウッソの体は反応し、愛おしい母へ捧げる歌を歌うのだ。
「もう、子供じゃないのね、ウッソ。」
ウッソの股間を見た母が、発した言葉。去年の冬から生え始めた茂みを、見
ての事だ。まだまだ薄く短い茂みの中央に起立する、もう一人のウッソ。それ
は連日自らを慰め続けた行いの為に、先の方は脱皮を始めていた。
ミューラは手を伸ばし、起立の先を剥いた。心地よさの海に浸かっている今
のウッソは、その行為に驚いても、叫び声をあげる事すら出来なかった。
「ちゃんと綺麗にしているのね、偉いわ。」
風呂に入る度に皮を剥いて、起立の内側を洗っている事を褒められるとは、
思いもよらなかった。しかし、母は褒めてくれる。その事実に対し、ウッソは
子供の頃にも味わった嬉しさを感じた。
その直後、母の両手に腰を抱え込まれたウッソは、更なる心地よさに包まれ
た。ミューラの唇。春の日差しの様な優しい暖かさをもたらした唇が、ウッソ
を咥え込んだのだ。
先程迄とは違う風が、ウッソの中を駆け巡る。力強い快楽の風。ミューラの
頭が上下に動き、頬がすぼまり、口の中で舌がウッソを慰める度に、その風は
ウッソの神経に吹き付けるのだ。その風が、ウッソの頭の中にある戦場の恐怖
を吹き飛ばし、母との愛だけの状態にしてしまう。
「母さん、僕、もう……。」
ミューラの口が生む淫らな音だけに包まれた静寂の中に、ウッソの声がこだ
まする。その時、淫らな音が消えた
「もっといい事をしてあげるわ、ウッソ。」
ミューラは体を起し、僅かにウッソに近づく。
「どう……、するの……。」
声を振り絞るウッソ。言い終わる前に、ミューラの大きな胸が左右からウッ
ソを挟み込んだ。
再び、快楽の風がウッソに吹き付ける。先程の包まれる感覚ではなく、愛し
い人が肩を組んで抱き合ってくれる様な快感。続けざまにに吹き付ける快楽の
風に、何も考える事の出来ないウッソの中は、白く染まって行くばかりだ。
母の象徴を捧げ持つミューラの手が、上下に動く。その度に、絶頂への階段
をウッソは登り続けた。カサレリアの匂いがする唇から、愛くるしい舌が伸び
る。それはゆっくりと、胸の谷間から見える起立の先端を舐めた。
「あぁっ。」
確実に男になりつつある声で、ウッソは女の子の様な悲鳴をあげた。それに
呼応し、ミューラはもう一度、舌を伸ばす。
「だ、駄目、僕、もう……。」
ミューラの唇がウッソの先端を僅かに咥え、その中で三度目の舌先での愛撫
をされた時、ウッソは果てた。放出される精液を、ミューラは一滴も残さず受
け止め、体の奥底へと運んだ。その時のミューラの表情は、愛に溢れていた。
「頑張ったわね、ウッソ。」
残されたウッソの精が中で糸を引く口で、ミューラは息子の頑張りを褒めた。
カサレリアにいた時と同じ様に、母親の表情で。
「でもね、一人だけ気持ち良くなるというのは、愛し合う者同士のするべき事
じゃないわ。」
「えっ?」
ミューラは自分の言葉を終えると、すぐにウッソの頭に抱き付き、ウッソの
顔を自分の胸に寄せた。大きな二つの母の象徴の中に、うずまるウッソの顔。
目の前がいきなり暗くなったが、不安はない。母の胸から、唇と同じカサレリ
アの匂いがするから。
「さぁ、おっぱいを吸って、ウッソ。赤ちゃんの時にやった事があるんだから、
出来るでしょ。」
「そんな昔の事……。」
顔をミューラの胸から離し、ウッソは母の二つの膨らみを見つめる。
(どうすればいいの?)
躊躇する息子に、ミューラは優しく声を掛ける。
「じゃあ、母さんがさっきあなたにしてあげた様に、やってごらんなさい。」
意を決して、ウッソは右の膨らみの先端に口を近づけた。しかし、寸前で止
まる。上手く出来ないと、母さんは褒めてくれないのではないか。そう思った
からだ。
「心配する事はないわ。ウッソが大きくなってから、始めての事なんだもの。
さぁ。」
ウッソは再び意を決して、目の前の乳首を含んだ。味がした。カサレリアの
味が。その懐かしい味を味わう為に、ウッソは懸命に母の乳首を吸い続ける。
「……そう、上手よ、ウッソ。もっと……。」
ミューラがせがむ。その時ウッソは、母が自分の胸を左右同時に愛撫してく
れた事を思い出した。
(僕も、やってみよう。)
顔をミューラの右の胸に移し、再び乳首を含む。先程迄愛されていたミュー
ラの左の胸には、右手をあてがった。そしてウッソの掌はミューラの膨らみを
揉み、指先は朱い先端を弄んだ。
「あっ、……ウッソ!」
母が少し大きな声で、名を呼ぶ。母さんが僕を褒めてくれたのだと、ウッソ
には感じられた。
「胸は、合格よ……。っ、次に、行きましょうか……。」
喘ぎつつ、仰向けに寝そべりながら、ミューラは息子に指示を出す。指示を
受けて、ウッソは急いで顔と手をミューラの下方に向けようとする。それを見
たミューラは、ウッソの行いを制止した。
「焦っては駄目。好きな人とは、体全体で感じ合う事が出来るのよ。ウッソも、
さっき母さんがお腹や背中さすってあげた時、気持ち良かったでしょ。」
確かに、そうだった。母に咎められ、自分の浅はかさを反省したウッソは、
ミューラの全身に可能な限りの愛撫を行う事に決めた。
自分がかつて居たミューラのお腹に何度も口付けをし、同時に手で、母の腰
やお尻を優しく撫でる。最初はぎこちなかった動きも、次第に流れる様な動き
へと変わっていった。
愛撫から生まれる暖かさの中、次の温もりが自分の中心へ来る物と思ってい
たミューラは、息子の行動に驚く。ウッソの掌と唇が、さらなる下へ、足へと
移っていったからだ。
ミューラの適度な大きさのお尻を愛したウッソの手は、太腿の外側を撫で、
かつての自分の居場所を愛したウッソの唇と舌は、腿の内側を優しさで包んだ。
足の体温が上がって行くのが、ミューラには感じられる。それを生んでいる
かわいらしい存在は、さらに下へと動いて行った。自分の足元にあるウッソの
瞳が、一瞬こちらを向く。その直後ウッソは、両の掌で抱え上げたミューラの
右足の甲を、舐めた。
「!」
ミューラの右足から、感じた事の無い衝撃が走った。まさかこんな所から、
快感を感じるとは。
「どう、母さん?」
ウッソは得意気に、母に尋ねる。好きな人とは体全体で感じ合う事が出来る
と教えた当の本人が戸惑う程に、ウッソは母の言葉を理解していたのだ。
「こっちも、してあげるね。」
右の足を優しく床に置いた後、ウッソはミューラの左足へと顔を近づけた。
今度は足を抱え上げる事をせず、両手を付き、四つん這いになってミューラの
足の甲を、自らの舌で愛撫していく。
「ぁ、そんな、ウッソ!」
思わず、押し殺した悲鳴をあげるミューラ。そんな母の声が聞こえて来るの
が、ウッソにはこの上なく嬉しかった。
「いぃ、素敵よ、ウッソ。さぁ……、来て。」
体を起こすウッソ。だが、求めている物とは違う刺激が、再びミューラの体
の中を貫いた。舌だ。ウッソの舌が、ミューラの中心を愛しているのだ。
ウッソは朱く割れたミューラの内側に最も近い部分を、愛おしいと感じた。
舌で、唇でその部分を愛する度に、ウッソの口の中に懐かしい味が広がってい
くのだ。ミューラの唇とも乳首とも違う、カサレリアよりもさらに懐かしい味
が、ミューラの中心から生まれてくる。
(僕の、生まれてきた所なんだ。)
ウッソがこの世に生まれ出てきた、魂の穴。その穴の頂上にある、膨らみ。
もう一人のミューラの子供に、ウッソは口付けをした。舌で舐めた。口をすぼ
め、吸った。あらん限りの思いを、もう一人のミューラの子供に対してウッソ
は与え続ける。
「ぁああ、もう……、駄目……。ウッソ、ウッソ!」
自分の指を噛み、快感に耐え続けるミューラ。そんなミューラの哀願を聞い
たウッソは、母の中へ帰る決意を固めた。
「いくよ、母さん。」
そうウッソが呟くと、ミューラの右手はウッソの高まりを優しく持ち上げ、
魂の古里へと導いていく。
「ここよ、分かるわね。」
その声を聞いたウッソは、無言で頷いた。腰を沈める。
「っあっ!!」
ミューラの口から、この世の物とは思えぬ程の美しい音が発せられた。妖精
達が気ままに奏でる楽器の様なその音に導かれ、ウッソは動き続けた。お互い
が繋がった所から、ウッソとミューラの魂が混じり合う。その感覚は、遠い、
遥か遠い昔にウッソが感じた安らかさだった。
魂の穴の奥に帰って行く感覚が、限界に達した。
「母さん!」
声をあげた。魂の穴の奥に帰って行く為の叫び声を。
「ウッソ!」
同時に、ミューラもウッソを呼ぶ。その声色は、母の物ではなかった。女の
物でもなかった。初恋をした少女が、恥ずかし気に好きな人に告白をする時の
声。ミューラの叫び声は、そんな少女の声色と同じだった。
床の上に二重に敷かれた毛布の上で、ウッソはさらにもう一枚の別の毛布を
抱かれて、眠っている。ベッドの無いその部屋で、ミューラはソファーで寝る
様ウッソのに言ったのだが、母さんと同じ夢を見たいと言って、ウッソは聞か
なかったのだ。
眠っている我が子の顔。その顔は、戦士の顔でも、男の顔でもない。ミュー
ラ・ミゲルの息子、ウッソ・エヴィンの顔でしかなかった。
(この子はもう、私達だけの子ではないわ。)
ミューラは寂しげに、そう思った。
「カサレリア、ウッソ。」
出会いとも別れとも取れる言葉を小さく呟き、あどけない表情で眠っている
ウッソの頬に、ミューラはキスをした。その後、ウッソを抱いている毛布に、
自分も潜り込んだ。ウッソと同じ、カサレリアの夢を見る為に。
−完−