【斧谷稔】大富野教信者の会part4【井荻麟】

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789読売新聞9/26朝刊8面(1/6)
世界的にも非常に高い評価を受けている日本のアニメーション。
近年はDVDなどの爆発的な普及により、ファンのすそ野も
大きく広がってきている。
紀伊国屋書店が国内最大級のDVDとコミックの大型専門店を
オープンしたのを記念して、「機動戦士ガンダム」の作者としてしられる
アニメーション界の重鎮、富野由悠季さんに、日本のアニメの今後、
そしてアニメに対する思いなどを聞いてみた。
790読売新聞9/26朝刊8面(2/6):03/09/26 18:18 ID:???
【10年、20年後もインパクトを与え続ける作品を創りたい】

――富野さんが関わったアニメ作品は既にほとんどがDVD化されていて、
今後もリリースが続きます。過去の作品が鮮明な画像と音声で
誰の手にも入るようになったことをどう感じますか?

 基本的にはすごく良いこと。
作り手としては非常に助かることが多いですね。
年のせいか最近、過去の作品といわれているものが、
どのようなインテリジェンスをもって創られていたのかを再確認したい衝動に
かられていまして。そんな時、DVDはビデオテープに比べて非常に便利です。
 ただ、ファンの方に自分の過去の作品を見られるのはできれば避けたい(笑)。
その時の恥が全部映ってるわけですから。
とは言え、今まで何となく記憶の中の印象で語られていたものが消えていって、
きちんとビジュアル媒体を検証する潮流が出てくるんじゃないかという意味では、
とても良いことだと思っています。作り手としても、ウソがつけなくなったというのは
あるんじゃないでしょうか。
791読売新聞9/26朝刊8面(3/6):03/09/26 18:19 ID:???
――富野さんといえば代表作「機動戦士ガンダム」の名前が必ず挙がってきますが、
今現在、富野さんにとって「ガンダム」の名はどういった意味を
持つものになっているのでしょうか?

 「ガンダム」が世に出た24年前、ロボットアニメというのは
ジャンルとしては最下層の位置にあったわけです。
それが現在に至るまで、多くの人にインパクトを与えつづけているというのは
本当に嬉しいこと。また最低ジャンルの仕事しかさせてもらえなかった
ボクのような人間でも、がんばり次第では大人として社会的に認知してもらえるかもしれない。
そういうことを、自分にも周りにも示すきっかけになったという意味では重要な作品ですね。
792読売新聞9/26朝刊8面(4/6):03/09/26 18:20 ID:???
――日本のアニメーションが世界的な評価を得る時代です。
アニメという表現方法にはどういった力があるとお考えですか?

 アニメという表現自体に力があるとは思っていません。
あくまで「動く絵=映像」ということで考えたときに、これを積み重ねていくことで、
強力なインパクトを与える表現になりうるとは思っています。
ただアニメ作家として自分自身が肝に銘じているのは、文芸的な素質がないと
映像作品は創れないということです。さらにいえば映像と文芸をつなぐ演劇的な要素、
これがないとロボットだって動かないんだぞと、若い人には口を酸っぱくして言っています。
 今、アニメは社会的に認知されてしまった職業であるために、ベンチャーではなくなってしまった。
これはひょっとしたら、ものを創る覚悟という意味ではマイナス面があるかもしれません。
マーケットは確かに広がりましたが、もっとアカデミックな表現として認められるためには、
さらにクオリティを上げていくしかない。スピルバーグに勝ちたい! 北野武に勝ちたい!
ボクはそんなせつない思いで自分を磨いていこうと思っているんですよ(笑)。
793読売新聞9/26朝刊8面(5/6):03/09/26 18:21 ID:???
――小説家としての顔もお持ちの富野さんですが、
コミックやDVDなどビジュアル全盛の時代についてはどう感じますか?

 個人的には本がすたれることはないと思っています。
活字が認識を深めるものであるのに対して、コミックやDVDはあくまで視覚芸能。
ただそれを一般消費者がことさら意識する必要もないし、好きなように享受すればよいことでしょう。
 重要なのは作り手側にとっての話で、プロと一般の間に本来あるべき線引きが
非常に曖昧になっていることが気になりますね。
今ビジュアルを媒体にした表現は映画にしてもコミックにしても、
それこそ膨大な数の作品が出まわっているわけです。
その中でどうやったら10年、20年後もインパクトを与え続けることができるのか、
それを真剣に考えなきゃならない。みんなが一斉に好きになるものというのは、流行でしかない。
少なくともボクは、そういったものには興味がないんですよ。
794読売新聞9/26朝刊8面(6/6):03/09/26 18:23 ID:???
――この先、「富野ワールド」はどこに向かっていくのでしょうか?

 それが分かったら苦労しないですよ(笑)。
でも、こういうことは言えます。例えば「ガンダム」という物語の核になった「モビルスーツ」という概念。
ボクはこれを思いついたとき、最高に嬉しかった。何かとんでもないものを思いついた瞬間というのは、
ボクにとって一番嬉しい瞬間なんです。今、ボクには新しいアイデアがあります。
これをどうやって育てていこうかと考えると、死ぬまで寂しくないなあと思えます。
本当はそろそろゆっくりしたいんだけど、なかなかそうもいかないんですよね(笑)。

PROFILE                          
とみの・よしゆき= 1941年神奈川県産まれ。アニメ 
監督・演出家、小説家。日大芸術学部を卒業後、虫
プロダクション入社。以後、フリーの演出家として様々
な作品に関わる。原作・総監督を務めた「機動戦士
ガンダム」は、誕生から24年経った今まで新シリーズ
が作られ続けるなど絶大な人気を誇る。「海のトリトン」、
「伝説巨人イデオン」など代表作多数。