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合唱部なら、こんな感じ?
「ア〜。」
ピアノの音に合わせた幾人もの少女の声が重なり合い、音楽室の中で響く。
全てが同じ音を出している筈なのに、微妙に違う。それ故に、同じ制服を身を
包んだ少女達の声の重なり合った音は、不安定で厚みを増した物だった。
ニ年生になったシャクティは、サイド2立リーンホース高校の音楽室で、一
つの音を出すべく発声練習をしている。一ヶ月に迫った全サイド合唱コンクー
ルで、『いつかまた生まれた時のために』という名の歌を歌う為だ。
「ほら、違うわスージィ、そうじゃなくて……。」
そう言いながら、長い金髪をした三年生カテジナ・ルースが、シャクティの
隣にいる一年生のスージィを咎める。そして自らの喉から発せられる音で、手
本を示した。発声も音程も大きさも完璧としか言い様のない声なのだが、その
声はどこか悲しく、寂しげな色を帯びている。
「分かった? あなた、一年生だからって甘えてるんじゃない?」
これだ。カテジナの指導には、どこか余裕が無い。一年生の時から、合唱部
のリーダー的存在だった為だろうか。ニ年生のシャクティが去年合唱部に入っ
た時にも指導を受けたが、同じ様な感じだった。職員会議で今はいない、合唱
部顧問のマーベット先生の指導とは、受ける印象が全く違う。
「さぁ、練習再開よ。一ヵ月後、ホワイトベース高校に、負けるわけにはいか
ないわ。」
他の部員に向かって、昨年コンクールの連覇を阻んだサイド7の高校の名を
口にしながら、カテジナはスージィの元から離れた。その後、同じ三年生のエ
リシャと何事か話して、自分も少女達の列へと加わる。今度は自分も、少女達
の声の花束へと加わるつもりらしい。ピアノには、先程話していたエリシャが
向かった。
「ア〜。」
印象が、一気に変わる。不安定だがどこか嬉し気だった声の花束が、一本筋
の通った安定した物へと変わったのだ。だがシャクティが先程感じていた、思
春期の少女特有の嬉し気な雰囲気は、その声の花束からは消えていた。
シャクティの話のつもりで書き始めたのに、カテジナの話になってしまった。
済いません……。