布で出来た色々な物が置かれているシートの上で、訪れたばかりの春の日差
しを浴びながら、ウッソは座っていた。稼いだお金の入った皮製の鞄を、大事
そうに抱えている。
カサレリアの恋人達とマーベットは、ウーイッグの教会の庭で開かれている
大規模なフリーマーケットに、店を出していた。ピクニック用の大きなビニー
ルシートの上に並べられた布製品は、全て冬の間にシャクティが作った物だ。
ぬいぐるみや鞄だけでなく、女の子向けの服や婦人服まで並べられている。
(シャクティ、凄いよな。こんな服まで、全部一人で作っちゃうんだから。)
ウッソの膝の前には、シャクティの作った服がある。白い大きな襟をした、
空色のワンピース。その胸元にある濃い青色をしたリボンを見つめながら、冬
の間、ひなげしの歌を歌いながら裁縫をしていたシャクティの姿を、ウッソは
思い出していた。春の日差しを浴びながら、そんなシャクティの姿を心に浮か
べていると、何だか幸せな気分になって来る。
「あ、かわい〜。ちょっと見せてもらえる?」
母親に連れられたシャクティと同じ歳頃の少女が、店番をしているウッソに
尋ねた。どうぞと答えると、少女の白い両手がシャクティの作った空色の服を、
宙に広げる。自分の体に服を近付け、上から見つめた後、そのままクルッと体
を一回転させた。嬉しそうだ。
母親と何か話している。少し不安気だった顔が笑顔に変わった後、その少女
はウッソに向かって、「これ下さい」と元気な可愛い声で言った。
「ウッソ、店番ご苦労様。」
少女に服を渡した後、シャクティが編んた桃色の薄手のカーディガンを着た
マーベットの声が聞こえた。ウッソは声の方に目を向けたが、隣にいる、カー
ディガンを作る時に背伸びをしながらマーベットの採寸をしていた女の子は、
ご機嫌斜めの様だ。ウッソにはそれが不思議だった。
「どうしたの、シャクティ?」
「何でもありません。」
少し怒った口調で、褐色の肌をした少女が答える。何を怒っているのだろう。
「ハハ、ほら、すねないのシャクティ。ウッソも、女の子を見てデレっとして
ちゃ駄目よ。あなたは、いつもそうなんだから。」
マーベットの言葉から、さっきの少女とのやり取りを二人が見ていたんだと、
ウッソは理解する。どうやら、シャクティの事を想っていた事が、勘違いされ
ている様だ。
「そ、そんな、誤解だよ。シャクティの事を想ってる時に、さっきのお客が来
たんだから。」
「さぁ、どうですか。」
シャクティの誤解は解けない。そんな二人のやり取りを見ていたマーベット
は、助け船を出す。
「シャクティ、素直になりなさい。さっきだって、ウッソの誕生日プレゼント、
必死に探してたでしょ。」
それを聞いたシャクティは、頬を赤らめて、うつむいた。マーベットはそれ
を見て微笑んだ後、視線を下に動かして言う。
「さてと。この分だと、昼には全部なくなりそうね。ウッソ、店番交代よ。」
買って来た荷物をシートの上に置きながら、マーベットはウッソに告げる。
その言葉を聞いたウッソは立ち上がり、スージィに任せているカルルへのお土
産を探す為、他のフリーマーケットの参加者の店を回り始た。シャクティから
自分への誕生日プレゼントの事を、気にしながら。
お土産のおもちゃで遊び疲れたカルルが眠った後、ウッソは風呂に入った。
沢山売れたなと、湯船の中で今日の売り上げを思い出す。
(シャクティが、冬の間あれだけ頑張ったんだ。当然かな。)
シャクティの顔が頭に浮かんだ後、朝ウーイッグの教会で行なったマーベッ
トとのやり取りを思い出した。四日後は、ウッソの誕生日だ。
シャクティは毎年必ず、ウッソに心のこもった誕生日プレゼントを渡してい
る。最初に貰ったのは、シャクティが自分で作った花の冠だった。それをウッ
ソの頭に乗せた後、「私の王子様になって」と小さな頃にシャクティから言わ
れた事は、今でも良く覚えている。
あれからずいぶん経ったよなと思いつつ、風呂から上がった。
(ま、誕生日迄のお楽しみって所かな)
プレゼントの事で心を躍らせながら、ウッソはパジャマ姿になる。その後、
カルルと一緒に先に風呂に入ったシャクティの待つ寝室を、目指した。
ノブに手を掛け、寝室のドアを開ける。と同時に、「ダメーッ!」というシャ
クティの大きな声が聞こえた。その声に驚いたが、目の前の光景に、ウッソは
もっと驚く。
そこには、褐色の肌の上から直接白いエプロンを身に着けた、シャクティの
後ろ姿があった。狼狽した。
シャクティがうずくまる。やや落ち着きを取り戻したウッソは、恥らいで体
を丸めるシャクティのそばでしゃがみ込み、下を向く彼女の顔を覗いた。必死
に目を閉じたその顔は、真っ赤に染まっている。
「ご、ごめんなさいウッソ、誕生日プレゼントだったのに……。」
全てを理解した。ウッソがシャクティの頬にキスをすると、強く閉じられた
シャクティの瞼が開く。そこから、驚きと喜びの交じり合う二つの瞳が現れた。
「ありがとうシャクティ。でも、何でそんな格好……。」
「えっと、こういうの、男の人って好きなんでしょ。」
シャクティが語り出す。
手作りのケーキをおととし、手作りの服を去年プレゼントしたシャクティは、
今年は何をウッソにあげようかと悩んでいた。先週マーベットの所へ相談に行
くと、これをマーベットから提案されたのだという。今日のフリーマーケット
で、このフリルの付いた白いエプロンを見付けたので購入し、先程ウッソの誕
生日の為に練習をしていたのだ。
「よく見せて、シャクティ。」
優しい声に導かれ、シャクティは立ち上がり、恥ずかし気にウッソの方に体
を向けた。胸元に小さなサクランボの刺繍がしてある白いエプロンから、細い
シャクティの褐色の手足が伸びている。特に、肩の所に付いた大きなフリルが
目を引いた。まるで、ウエディングドレスをまとっているかの様だ。
「……綺麗だよ。何か、ウエディングドレス着てるみたいでさ。」
そのウッソの言葉で、シャクティの表情から恥ずかしさが消えた。嬉しさ一
杯の顔で、シャクティはウッソの胸に抱き付く。そして言った。
「ウッソの誕生パーティー、今からしちゃいましょっか。」
壁に向かって両手を付き、やや前屈みになった、エプロン姿のシャクティ。
褐色の背中に、白いエプロンの紐とフリルが絡み合う彼女の後姿を、ウッソは
見つめている。
綺麗だ。心の底からそう思った。
シャクティの背中に、胸を合わせる。パジャマ越しでも、彼女の体温を感じ
られる程。そしてウッソの手が、エプロンの胸元に近付く。
「あっ……。」
シャクティの口から、小さな喘ぎ声が漏れる。ウッソの手が、エプロンの胸
元にあるサクランボの刺繍を歪ませているのだ。
布越しの快感に、生身の快感が加わる。綺麗だと言ってくれた唇が、シャク
ティの左の耳たぶを挟んだのだ。唇に挟まれた彼女の耳を、ウッソの舌が愛撫
する。高まる一方の快感に、少女は耐える事が出来なかった。
「嫌……。直接、直接ウッソを感じたいの……。」
それを聞いたウッソは、エプロンのサクランボから掌を離し、すぐそばの純
白と褐色の境目に手を入れる。そして、シャクティの胸のサクランボを弄んだ。
「あ、いぃ……。して、もっとして、ウッソ。」
しばらく彼女の要求に応えた後、ウッソの胸が離れて行く。暖かさに包まれ
ていたシャクティの背中に、小さな、熱い感覚が生まれた。それを生んでいる
のは、ウッソの唇。白いフリルと紐が絡み合うシャクティの褐色の背中を、少
年は唇と舌で愛した。何度も、何度も。
その感覚が、少しづつ下へと向かって行く。腰の大きな結び目を越え、熱い
唇が、シャクティの後ろにある二つの丘へと辿り着いた。
ウッソの唇は丘の上で遊びたいのだが、唇は一つしか無い。丘は二つあるの
だ。ウッソは唇の遊び仲間に、自分の指を加える事にした。指という遊び仲間
が加わったウッソの唇は、シャクティの二つの丘の上で遊び続けた。唇と指の
遊びが止まり、再び動き出す度に、上から天使の声が聞こえて来る。
丘の間から、甘い匂いを感じた。その甘い匂いに導かれ、もっと遊びたいと
望む唇が、朱い谷間へと近付く。ウッソの唇の間から出された舌は、その朱い
谷間におそるおそる入り込んだ。再び、天使の声が聞こえた。その声に誘われ、
ウッソの舌と唇と指は、朱い谷間を隅々まで愛した。
大きな、天使の声がした。それと同時に、シャクティは膝を付いた
シャクティの頭の中で聞こえる天使の声が小さくなると、彼女は少しづつ、
ウッソの方に体を向けた。上にある少年の瞳を見つめならがら、言う。
「ありがとう、ウッソ。でも、これじゃあプレゼントにならないわ。」
視線が下に向かう。求める物の目にする為に、シャクティはウッソの腰に手
を伸ばし、パジャマのズボンとその下にあるパンツを、一緒に引き下ろした。
「今度は私が、ウッソを愛してあげる。」
シャクティはそう言って、ウッソの足の付け根へと顔を近付ける。口に含ん
だ。愛しい者を。
「あ……、シャクティ……。」
今度はシャクティが、自分の上で天使の声を聞く。小さな唇と暖かい舌が遊
ぶ度に、天使の声は変化する。その変化を続ける声が聞きたい一心で、唇を、
舌を、遊ばせた。
楽しかった、嬉しかった、愛おしかった。ウッソの全てが。
「もう、駄目だ……、シャクティ!」
そう聞こえたと同時に、シャクティの喉の奥にウッソの精が入って来た。そ
の精ですら、愛おしい。シャクティは迷う事なく、それを体の奥へと運んだ。
「の、呑んじゃったの!?」
驚いて尋ねるウッソに、答えた。そうすれば、ウッソが私の中で生き続ける
からと。
シャクティは立ち上がり、再び壁に両手を付け、もう一つの口で再び同じ行
為をする事を望んだ。純白のウエディングドレスに、身を包んだままで。
白い布越しにシャクティの体を支え、ウッソは彼女の中へと入る。暖かい。
そう感じた時、ウッソはデジャビュに襲われた。
一瞬何かと思ったが、すぐに分かる。朝、裁縫をしているシャクティの姿を
想っている時に浴びた、春の日差し。それと同じ暖かさを、シャクティの中か
ら感じるのだ。その時誤解され、一瞬でもシャクティの心が自分から離れた事
を償う為に、ウッソは懸命に、シャクティの想いに応え続ける。
「あぁっ、ウッソ!!」
シャクティの想いに応え、ウッソの贖罪が終わる。同時に、シャクティは自
分の中で、ウッソの全てを許してくれた。
翌日、昨夜挙げた二人だけのパーティーでまとった純白のドレスを川で洗う、
シャクティの姿があった。それを見付けたマーベットは、少しあきれた声で、
彼女に言う。
「シャクティ、ウッソの誕生日は三日後でしょ。」
シャクティは恥ずかしくて、嬉しくなった。
−完−