「このまえ、シャアさんからも同じ誘いをうけましたよ」と、長い沈黙のあとに彼はいった。
「そうなんだ」
僕は特におどろかなかった。シャアが彼にコンタクトをとることは、むしろ当然のことに思われた。
カミーユはシャアにとってある種の象徴であるのだ。人類の可能性の象徴なのだ。
他人に可能性を見出すのはシャアの特徴だった。彼は、自分の能力を信用せず、最後のところで他人を頼る癖がある、と僕は思っていた。
頼られたほうへのプレッシャーなどは考えない。それが彼の独善に繋がっているのだ。
だけど、彼はどこかで人を信じたいのだろう。それが可能性にすぎなくとも、そう思うことは悪いことではない。希望があるからだ。
「それで、君はどうするつもりなんだ?」と、僕は尋ねた。ちらりと、窓の外に目をやったがもうそこにはモズはいなかった。
別にシャアのところにいくといっても僕は止めるつもりは無かった。それは彼の決定であって、僕になにかいう権利はないのだ。
無論できることなら戦いたくない。彼は強いし、きっと連邦で彼を止められるのはアムロしかいないだろう。
ケーラの顔も浮かんだが、彼女はまだ駄目だ。おそらくスパゲティーを茹でるより早く落とされることだろう。
カミーユは、しばらくためらっていたようだが、ゆっくりと喋った。
「わかりません。正直、僕はネオジオンも連邦もどちらも間違っていると思います。
けれど、どちらかにつくとしたらジオンの方です。だって、連邦はティターンズを、フォウみたいな少女を作っていたんですから」
「けれど、今はつくっていないぜ」と、僕は反論した。
「そんなの本当かわかりません。それに、僕をこうやって監視している連邦が嫌いなんですよ。こんなの許せないんです」
「なるほど」と、僕はいった。なるほど。
たしかに僕もこんなところに毎年何回も連れてこられたら嫌になるだろう。人は見世物ではないのだ。
「だけど、僕はまだ迷っているんです。第一、ファになんていえばいいんだろう。
彼女はきっと僕が戦場に出るのを好まないだろうし、そうすると僕は彼女と別れないといけないかもしれない。そして、それはもう不可能なんです」
「君は彼女を愛しているんだね」と、僕は聞いた。彼はこっくりと頷いた。
迷いのない頷きだった。彼は痩せたかもしれないが、少なくとも頷き方だけはうまくなっていた。そして、それが大人となることかもしれない。
「戦争にでるのは仕方ないことだと思うんです。シャアさんが昔言ったように僕らには新しい時代を作る義務があるんです。
権利ではなく、それは義務なんです。だから、哀しいことがあったとしても僕は戦わなければいけない」
彼は、きわめて抑えた口調でいった。なにか諦めているような、決意をあらたにしているような、どちらともつかない口調だった。
「けれど迷っているんだね?」と、僕は聞いた。
「すごく」と、彼は答えた。
(後半に続く)
アオリ「ブライトが今だから明かすカミーユとの知られざるエピソード!衝撃の後編は(打ちきられなければ)次号!」