そう、僕が今日きた目的は彼を再び軍属にさせるためだった。理由はわからない。連邦は僕に何一つ説明してくれないし、またその必要はないのだ。
僕はせっせと食料を運ぶ働きアリのように、ただ女王アリの命令に従うだけだった。
「・・・そうですか」
カミーユはそう返事をすると、押し黙った。僕も何も喋らなかった。ただ、剥いた林檎を齧った。
窓の外の木に、一羽のもずがやってきて、幸せそうに歌をさえずった。廊下からはコツコツという看護婦の忙しそうな音が響いていた。
僕は、さっきの木馬のような看護婦とデートすることを思い浮かべた。それは悪くない考えに思えた。
彼女に声をかけて、一階の食堂で会話をするのだ。内容はなんでもいい。天気のこと、政治のこと、健康のこと。そんなことだ。
そして、暇だったら今度会わないか、と彼女を誘うのだ。二人で森でも散歩して、美味いイタリアンでも食べることにしよう。
ミライにばれないようにするのは骨が折れそうだったが、それもなんとかなりそうだった。
僕らは、どの夫婦も同じように、新婚の時ほど仲の良い夫婦ではない。
それに、ミライはずっと地球で、僕の性欲はカプールのように膨張しているのだ。
「ブライトさん?」と、カミーユが声をかけたが、僕は自分の考えに深く沈みこんでいて気がつかなかった。
そのとき、僕は彼女のブラのホックをはずすのに苦労しているところだった。
「ブライトさん?」
もう一度カミーユが聞いた。
ブライトさん?
艦長・・
ブライト艦長・・!
艦長!
「艦長!大丈夫ですか?しっかりしてください!爆薬のセット全て終わりました」
その言葉で僕は現実に引き戻されることになった。目の前には、プチ・モビルに乗ったクルーの姿がみえた。彼の目はどこか、焦って見えた。
「艦長!はやく退却しましょう!」と、隣にいたプチ.モビルのオトコもいった。「このままじゃ、つぶれてしんじゃいますぜ!」
そうだ。今はシャアとの戦争の途中で、僕はプチ・モビル乗ってアクシズの内部に潜入しているところだったのだ。
坑道の中は狭く、それに振動が凄くて、今にも天井の岩盤が落ちてきそうだった。事実、さきほど、一人のクルーが死んでいた。
「それじゃあ、急いで脱出しよう」と、僕はいった。
艦に戻ると僕は、艦をアクシズから離脱させた。
戦闘はいよいよ佳境にはいっているらしくて、いたるところで光線が入り混じっていた。光が無数に発生し、また消え、またともった。
その一つ一つが命の輝きだと僕は思った。それは、まるで懐中電灯のスイッチをON、OFFと繰り返しているようだった。
それも数千人が一斉にオンとオフを繰り返しているのだ。ON OFF ON OFF・・パチン。といった具合に。
僕は、その中にいるであろうアムロとシャアのことを思った。白と赤の閃光が交錯している光景を思い浮かべた。
そこではアムロが何かを否定し、シャアが肯定していた。また別の面では、アムロが認め、シャアが否定していた。それは限りなく平行線だった。
それにもかかわらずその二つの光は交じり合い、別の色に変わろうとしていた。だが、それが何色かは僕はわからなかった。
「ラーカイラムは後退しつつ、敵の旗艦を叩く!」と、僕はクルーに命令をした。結局のところ戦争というのは頭を叩かないと終わらないのだ。
僕は、クルーがもってきてくれたコーヒーを飲んだ。どうしてこんなに喉が乾くのだろう?わからなかった。
そしてコーヒーを飲み干した後、僕の意識は再びカミーユとの会話に戻っていった