第三回天下一武道会

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355ブライト  3/5

ファが一旦近くにある家に、カミーユの着替えを取りに戻るというので、僕はその間彼の介護をひきうけることにした。
「すいません。すぐに戻りますから」
「ゆっくりしてきていいよ。ここには別にドムもグフもいないから敵が襲って来る心配はないからね。
あぁ、けど、さっきすれ違った看護婦はどことなくズゴックに似てたな」
「ふふふ、そんなこといっちゃダメですよ。それじゃあ、1時間したら戻りますからそれまでお願いします」
彼女は、そういうと、洗濯物をぎっしりと詰め込んだバックを持って、部屋から出ていった。
コツコツと床を歩く乾いた音がゆっくりと遠ざかっていき、ある一点までいったとき完全に聞こえなくなった。

残された僕は、おおきく欠伸をした。本でも持ってきていればよかったと僕は後悔した。僕はもう何年も本を読んでなかった。
僕は、椅子を彼の枕元の近くに移動させて座ると、バスケットの中に在る林檎を取り出した。大きくて赤い林檎だった。
服で二三度擦ってから、齧った。しゃりしゃりとしていて、甘さが控えめでとても美味しかった。


暫くしてから、カミーユが目を覚ました。
「おはよう」と、僕はいった。
彼は、返事をしなかった。ボクがいることにはまるで興味はないようだった。
一旦僕をちらりとみた後は、彼は病室のある一点をぼんやりとみつめていた。
僕もそこをみてみたが、取りたてて変わったところはないただの壁だった。しみひとつない真っ白な壁だ。

「おはよう。よく寝ていたね」と、もう一度僕は言った。今度は彼の耳に届いたようだった。
「ファは・・?」
「彼女は、ちょっと着替えを取りに家に戻った。大丈夫。すぐに戻ってくる」
カミーユは僕をちらりとみてから、こくん、と親に諭された子供のように頷いた。寝ぼけているのかもしれない。
お腹がすいてそうなので、僕は林檎を一つ綺麗に剥いて切ると、爪楊枝を刺してから彼に渡した。
彼は右手でそれをうけとると、上体を起こして、ゆっくりと齧った。しゃりしゃりと食べるその姿はリスかなにかの小動物のようだった。
食べ終わると、彼はペットボトルの水を唇を湿らす程度にほんの少しだけ飲んだ。そして、唇をぬぐった。

「気分はどうだい?」と、僕は聞いた。
「普通ですね。・・・お久しぶりです。ブライトさん、少しやせたんじゃないですか?」と、ようやく頭のさえてきたらしいカミーユは言った。
「そうかな」と、僕は顔をさすった。そうかもしれない。昔ほど、僕はものをあまり食べなくなっていたのだ。
「けれど、君ほどじゃないよ」
僕がそういうと、彼はそうですね、と相槌をうった。そして、林檎を齧った。
その間に看護婦が入ってきて、僕らのほうをちらりとみたあと、すぐに戻っていった。彼女の後姿はどことなく木馬を僕に思い出させた。
真っ白でどことなく品がある。そして形而上的に美しい。


「そういえばこの前、アムロさんがお見舞いにきてくれましたよ」
「へえ。アムロが?どんなことを話したんだい?」と、僕は答えた。
「別に・・たいしたことじゃないです。ただ様子をみにきてくれたようで。今、ゼータにのってるんですってね」
「あぁ、正確にはリファイン・ガンダム・ゼータだけどね。デザインも少し変わった。僕は昔のほうが好きだったけどね
いまのはなんていうか、まるで面白みがない。変形もできないしね」
といった風に、僕とカミーユはその後、差し当たりの内会話をした。ダブリンはいまどうなっているとか、アーガマは廃棄されたとかそんなことだ。
暫く話しているうちに僕とカミーユの間にあった、数年振りにあったことの違和感みたいなものは消えていった。

「ブライトさん、そろそろ本題にはいったらどうです」と、暫く雑談した後にカミーユは唐突にいった。
「本題?」
「あなたが、わざわざ僕を見舞いにきたなんて思えないですからね」
「そんなに不自然かな?」
「誤魔化さないでください。なんの用なんですか。できれば、ファがいない今に聞きたいですね」
僕はため息をついた。ごまかすことはできなそうだった。だいたい僕は隠し事ができない性質なのだ。
違和感がなくなったと思っていたのは僕だけのようだった。カミーユは僕のことを見ぬいているのだ。
「・・・君に連邦に戻るように説得するように命令されたんだよ」と、あきらめて僕はいった。