第三回天下一武道会

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354ブライト  2/5

「もうだいぶこのサイクルにも落ち着きました」

僕が病院に見舞いにいったとき、ファ・ユイリィは、そういって愛しそうにベッドに寝ているカミーユを見つめた。
カミーユは、静かに寝息を立てていた。あまりに静かなので、死んでるんじゃないかと不安になったくらいだ。
「彼は、1日のほぼ三分の二はさまざまな検査をされています」と、ファは言った。
僕は、カミーユの額にかかっている青い髪をみながら、ふぅん、と相槌をうった。
彼はアーガマを降りた時より、幾分やせたようにおもえた。くせっけのある髪は相変わらずだった。
唇も少し荒れていたし、肌の色は少し薄くなっていた。だが、総体としては僕が最後にあったときとあまり変わったようにはみえなかった。
ファも、そんなに変わっていない。彼女は相変わらず若く、元気だった。
だが、言葉の節々からは、やはり僕は過ぎ去った年月というものを感じざるを得なかった。


カミーユが正気に戻ったのは、僕達がハマーンを倒してすぐのことだった。
理由はわからない。医者の一人は、ハマーンが出していたプレッシャーが消えた所為だともっともらしい理由を述べたが本当かは疑わしい。
だけど、事実として彼は意識を取り戻し、そのおかげで、あるていど一般人として暮らしていけた。それはとてもいいことだと僕は思った。
彼は医者になるという夢があり、そのために大学に入る勉強をしはじめた。だが、自体はそう簡単に進まなかった。
連邦が、アムロ・レイの再来といわれた彼を手放すのを躊躇したからだ。万が一、反連邦組織にでも入られたら、と危惧していた。
アムロ・レイを、軟禁状態で飼い殺しにした連邦の考えそうなことだった。彼らは性善説を信じない。
それでということではないが、彼は、年に数回、数週間ほどダブリンにある病院で再チェックをうけることを義務付けられていた。
脳波とか、脈拍とかそんなものだ。反射神経や情報伝達スピードなども調べられた。
精神病患者にたいする処置だと連邦はいったが、勿論其れはカミーユを監視するためのの名目に過ぎなかった。
そんなわけで、彼は僕が訪れた当時、九回目の定期入院の最中だった。



「そちらの方はどうなんですか?」彼女が、話題をかえた。
「あぁ、順調だよ。僕らがやっていることは、結局雪かきに過ぎないけれどね」
「雪かき?」
「そうだよ。コロニーに住んでいる住人の中にある不満が屋根の上に雪のように静かに積もる。
その重みで家がつぶれてしまうまえに、僕たち軍人が其れをMSで取り除く。雪が無くなる。けど、また雪は降る。取り除く。その繰り返しさ」
温かいコーヒーを飲みながら、僕は言った。コーヒーはやや僕には甘すぎたが、冷えた身体にはありがたかった。
「いつまで続けるんです?」
「永遠に」
僕がそういうと、ファは哀しそうな顔をした。けれど、真実だから僕にはなんともいいようがなかった。
結局のところ、僕らは同じ場所で足踏みをしているだけにすぎないのだ。


僕は窓の外に眼をやった。
眼下には、森が見えた。この病院は森の中にまるで隠れるようにひっそりとつくられているのだ。
ホワイトハウスにもにた真白な近代的な建物が、こんなところにあるなんてしったら付近の村人は驚くだろう。
しかも軍用病院なのだ。僕は、ここにくるまえにであった老人たちの平和そうな顔を思い浮かべた。彼らは何もしらないのだ。
そう思うと、何故か心が痛んだ。