1 『 残るセールスマン 』 スレンダー
これは通常の三倍の売上を誇るシャア営業課長とその部下たちの涙の物語である。
その1 立て!販促戦士!
平和なとある下町にスーツ姿の二人のオトコがカメラと、スーツケースを持って歩いていた。
彼らは、写真を撮り、地図と現在地を照らし合わせ、表札を確認していた。一軒一軒しらみつぶししているらしい。
男たちは途中二手にわかれた道で別れた。
片方の人相の悪そうな男が、とある家の前で止まった。その家の郵便受けには大量の新聞が入っていた。朝日、読売、毎日・・
オトコはそれを確認すると嬉しそうに笑って、もう片方の、別の家を調べている男に電話をかけた。
「主任。大量に新聞をとっている家をみつけました。ということは押しに弱いとおもいますぜ。俺はいきます」
いうが早いが、彼は呼び鈴をならそうとした。電話から慌てた男の声がした。
「やめろ!ジーン、今日は下見だけだ!」
「シャア課長だって、訪問販売で出世したんだ!俺だって!」
「貴様、命令を無視するのか!?」
そこでジーンは電源を切った。そして、呼び鈴をならすとそこの主人が出てくるのを待った。
スレンダーはジーンの後にいたが何も言わなかった。彼は、待機と監視が任務なのだ。二人は主人がでてくるのをまった。
その2 衝撃
「デニム主任に部下が止められんとはな。それでどうなった」
とあるビルの三階にある「有限会社ジオン」の一角にいる金髪の男がいて、目の前のおとこの報告を聞いていた。
「は・・それが・・」
「どうした?やはり電気温水器は売れなかったのか?」
「いえ・・実は代わりに電気温水器を買わされてしまったとのことです」と、言いにくそうにコンスコン課長がいった。
「ほう・・」
シャアはおどろいた。訪問販売に行って逆に買わされるとはそれはあまりにも屈辱だった。
「彼らはその場で辞表を書き、それを待機していたスレンダーに預けて、どこかに去りました」
「どうやらあの町内にはかなりの強敵がいるようだな」
次は私がでるぞ、とシャアがコンスコンに言った。コンスコンは神妙に頷いた。
翌朝。木馬町内にシャアとその他三人のジオン社員は整列していた。シャアは彼らの前にたつといった。
「現在、朝の7時だ。どの家庭も朝御飯の支度で忙しい」
「は、はぁ・・」
「このタイミングで訪問販売をしかけるのは、古今例がない」
(そらそうだよなぁ・・)
誰もがそう思ったが口には出さない。このご時世に再就職先をみつけるのは困難なのだ。
「では、諸君の健闘をいのる!出撃!」