「広いふかふかとしたベッドに横になりたいの、まず」とお嬢様は言った。「すごく気持ちがよくて
酔払っていて、まわりにはよしなにおばさんなんて全然いなくて、となりにはロランが寝ているの。そし
てちょっとずつ私の服を脱がせるの。すごくやさしく。お母さんが小さな子供の服を脱がせるときみたい
に、そっと」
「ふむ」と僕は言った。
「私途中まで気持ち良いなあと思ってぼんやりとしてるの。でもね、ほら、ふと我に返って『だめよ、ロラ
ン!』って叫ぶの。『私ロランのこと好きだけど、私には結婚を申し込んでくれた人がいるし、そんなこと
できないの。私そういうのけっこう堅いのよ。だからやめて、お願い』って言うの。でもロランやめないの」
「やめますよ、僕は」
「知ってるわよ。でもこれは幻想シーンなの。だからこれはこれでいいのよ」とお嬢様は言った。
「そして私にばっちり見せつけるのよ、あれを。そそり立ったのを。私すぐ目を伏せるんだけど、それでも
ちらっと見えちゃうのよね。そして言うの。『駄目よ、本当に駄目、そんなに大きくて固いのとても入らない
わ』って」
「そんなに大きくないです。普通です」
「いいのよ、べつに。幻想なんだから。するとね、ロランはすごく哀しそうな顔をするの。そして私、可哀
そうだから慰めてあげるの。よしよし、可哀そうにって」
「それがつまりお嬢様が今やりたいことなんですか?」
「そうよ」
「やれやれ」と僕は言った。
「ねえ今私が何やりたいかわかる?」とお嬢様が僕に訊ねた。
「見当もつきませんよ、お嬢様の考えることは」と僕は言った。
「あなたと二人で祭に出かけて裸になって、みんなの見ている前で背中にヒルを乗っけてあざのつけっ
こをしちゃうの」
「なんでそんなことするんです?」
「変質的な祭なのよ、それ」
「お嬢様の方がよほど変質的みたいですけど」と僕は言った。
「そして月から変なのがたくさん降ってきて、よくわからないまま石像から出てきた人形の狭いコクピット
に乗り込んじゃうの」
「それで?」
「私たち狭さをたっぷり楽しむの。ぎゅっと抱きついたり痛めた股の上に跨ったりして」
「それがお嬢様のいちばんやりたいことなんですか?」
「そう」
「やれやれ」と僕は首を振った。
「ねえ、教えて。その人と寝たことあるの?」
「ありません」
「それはどうしてなの?彼女はあなたのこと好きじゃないの?」
「僕にはなんとも言えないんです」と僕は言った。「とても事情が混み入っているんです。いろんな問題
が絡みあっていて、それがずっと長い間つづいているものだから、本当はどうなのかというのがだんだん
わからなくなっているんです。僕にも彼女にも。僕にわかっているのは、それがある種の人間としての責
任であるということなんです。そして僕はそれを放り出すわけにはいかないんです。少なくとも今はそう感
じてるんですよ。たとえ彼女が僕を愛していないとしても」
「ねえ、私は生身の血のかよった女の子なのよ」とお嬢様は僕の首に頬を押しつけて言った。「そして私
はロランに抱かれて、ロランのことを好きだってうちあけているのよ。ロランがこうしろって言えば私なんだ
ってするわよ。私多少むちゃくちゃなところあるけど正直でいい子だし、よく働くし、顔だってけっこう可愛い
し、おっぱいだって小さいけど良いかたちしてるし、モビルスーツの操縦もできるし、お父さんの遺産だって
たくさんあるし、大安売りだと思わない?ロランが取らないと私そのうちどこかよそに行っちゃうわよ」
「時間がほしいんです」と僕は言った。「考えたり、整理したり、判断したりする時間がほしいんです。悪い
とは思いますけど、今はそうとしか言えないんです」
「わぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」とソシエは言った。