生産力において圧倒的に劣るジオン軍。
兵器の質で、量の不利を挽回しようとの試みは、
試行錯誤の連続、量産化の遅れという最悪の結果をもたらしました。
その中で唯一、間に合った量産機。
連邦軍から「空の悪魔」と恐れられたドダイYS。
その開発の裏にはライバルたちの葛藤がありました。
次回、プロジェクトX。
「恩讐を越えて」
〜奇跡の翼、ドダイYS〜
どうぞ、御期待ください。
♪〜
ライバルの死
大量輸送vs強襲輸送
机の上で、何がわかる!
命懸けの知恵は、前線にあるんだ
ルッグンの衝撃
思いは、託された
大気との戦い
後へ続く者のために
空の勝者
プロジェクトX 〜挑戦者たち〜
恩讐を越えて
―奇跡の翼、ドダイYS―
ジオン軍技術士官、O中尉。
大学で教鞭を取っていたころ、「大気圏力学の神様」と呼ばれていた。
ミノフスキー粒子の中で主導権を握るため、Oが製作を依頼された「ルッグン」
光学技術や磁気探知技術を総動員した上、敵戦闘機とも渡り合える空戦性能を発揮。
芸術と評された。
そのOが、死んだ。
兵器廠技術士官同士の路線対立の結果、バイコヌール実験大隊付として左遷された後、
太平洋でテストフライトに乗り込んでの墜落死である。
結果的にOを殺した男、I。
大学ではOの指導を受け、不倶戴天の敵となった。
「戦局を左右するのは、大量輸送です!」
Iの主張が、対立の始まりだった。
「輸送の量より、地上を制圧できる機体が必要だ。落とされては何にもならん」
「前線の制圧は、MSに任せれば大丈夫です。前進拠点へMSを送り込むことこそ、
勝敗のカギです」
「空論だ」
「先生!」
「机の上で、何がわかる!」
Oは黙殺した。
Iには軍上層部へのコネクションがあった。
無論、Oにもコネクションはあったが、Oは抵抗しなかった。
それでも、一時的な左遷の、はずであった。
命懸けの知恵は、前線にある。
それがOの口癖だった。メンテナンスで前線へ派遣される者たちに混じって、
頻繁に戦場へ赴いた。
Oに代わり新型航空機開発のチーフとなったI。
「ファットアンクル」を開発し、自論の正しさを証明した。
折しも、地球降下作戦は拡大の一途をたどり、Iの評価は一気に高まった。
一方、Oが開発した「ドダイGA」は操縦困難な欠陥機との評価が下され、
明暗は、くっきりと分かれた。
それがOを焦らせ、失敗作の改良を急いだ挙句の墜落。
Iはそう信じ、Oの死を自業自得とすら、思っていた。
Oの残した研究を回収し整理するよう、上層部から命じられた時、
Iがみずから出向いたのは、おのれの勝利を確信するため。
そしておのれの不安を一掃したいからだった。
急激な戦線の拡大は戦力密度を希薄化し、前進拠点への大量輸送という考えは
理想論となっていった。
最も求められるのは、戦闘中の部隊への緊急輸送。
MSに機動力を持たせると同時に、対地・対空攻撃力は必須条件だった。
「落とされては何にもならん」
Oの言葉には、どうしても負けたくない。
IはOが根城にしていた、太平洋の基地へ向かった。
「欠陥機? いえ、操縦の問題は完全に改善できてました」
現場の意見は、おおむね好評である。
Oの死に関し、Iの考えは裏切られた。
運動性に問題はあったが、ドダイGAは地球の大気に適応していた。
ならばなぜ、墜落したのか。
改良試験として過重な重量を積んでいたにもかかわらず、
回収されたブラックボックスによれば、Oは接近して来た雷雲へ突っ込むよう
命じたという。
パイロットは躊躇した。が、
「敵に囲まれたら、どこへ逃げるんだ」
それがOの最期の言葉だった。
Oの研究は、当初オーソドックスな戦闘爆撃機を目指していた。
しかしある時期を境として、Oは何かに取り付かれたように、異様な形態へはまりこんだ。
平衡性が不安定で対空砲火の餌食になりやすいフラットトップ、不必要なほどの大出力エンジン、
何もかもが操縦の邪魔であった。
Oは不安定な形態で操縦性を安定させるため、神技的な技量を駆使していた。
そうまでしなくても、この不恰好な形態を変えるだけで済んだのに。
Iには理解できなかった。
そんなころ、基地に警報が鳴った。
「近くの島に、カモフラージュされた建物が見つかったそうです。ゲリラの基地かもしれません」
「ドップだけでは、制圧できないだろう」
「もちろんMSを出しませんと」
Iの目の前で飛び立ったルッグンが、旋回して基地上空へ戻り、高度を下げた。
ザクがその翼につかまる。
あいつも、これを見たんだ。
この光景がOの運命を変えたことを、Iは確信した。
Iは人が変わったように、Oの残した資料と格闘し始めた。
フラットトップは、MSを上に乗せるため。
エンジン出力は、将来MSが重装甲になるのを見越した重さに耐えられるよう。
上層部から不合格と評価されたミサイルにしても、MSを降下させる間、地上を制圧するための武装であった。
たった一機でもいい。送り届けることができれば、それで、戦っている兵たちを救える。
Iと口論ばかりしていたころ、Oは口癖のように言っていた。
あなたの勝ちだ、先生。
そう、学生のころも、IはOの研究資料と必死で取り組み、少しでも技術を盗もうと努力した。
今も同じではないか。
敗北を認めたIは、心に決めた。
ドダイを完成させる。輸送機として。
Oによるドダイ改良の試みは、すでに最終段階まで進んでいた。
Iは徹底的にドダイのバランスを安定させた。
手を入れる場所が、そこしかなかった。
これで完成のはずである。だが、恐らくOも、死ぬ直前までそう信じていただろう。
Iは試験飛行を基地に依頼した。
意外にも、パイロットや搭乗員から批判は出ず、飛行の決定は、すぐに下された。
「O中尉の弔い合戦なのでしょう?」
パイロットにそう聞かれ、Iはうなずいた。
「死ぬのはもちろん、怖いです。ですが、誰も後に続いてくれないのは、もっと怖い。そんなんじゃ、死んだ奴らが浮かばれません」
笑うパイロットに、Iは深々と頭を下げた。
廃棄予定のザクTを乗せ、ドダイは飛び立った。
試験は順調に進んだ。
ザクマシンガンの発射テスト、ミサイル発射テスト、とメニューは消化されていった。
しかし、何かが足りない。Iはそんな思いにとらわれていた。
「低気圧が接近しています。ここらで切り上げて帰りましょう」
パイロットのその言葉で、Iは足りないものに気づいた。
「いえ、その低気圧の中へ」
「御冗談を」
「敵に囲まれたら、他にどこへ逃げるんですか」
パイロットは無言で従った。
この機が墜落しても、誰かが後に続く。
Oはきっと、そう思っていたのだ。
暴風の中でも、エンジンパワーの自動調整で平衡は保たれる。
そのようにIが作った。だから、調整の失敗で死ぬ者が出るなら、その中にIが含まれるのは当然だった。
暴風も落雷も、ドダイの行く手をさえぎることはできなかった。
♪〜
ドダイYS。
連邦に、航空戦力主体の反攻という、当初からの青写真を捨てさせたのは、この機体だったのかもしれない。
苦戦や敗退を重ねるジオン軍の上には、ザクやグフを乗せ、多数の敵を相手に必死で戦う姿が、いつもあった。
負けいくさで役に立つ機体、Oが素直にそう口にしていれば、無用な口論などしなくてよかったのに。
IはOの墓参りのたび、そう思った。
〜♪
プロジェクトX 〜挑戦者たち〜
恩讐を越えて
−奇跡の翼、ドダイYS− 終