35歳にもなって結婚してないシャアは駄目オトコ

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930月光蝶:03/11/30 21:59 ID:???
r'⌒⌒⌒'、      
( ミ""メ""ミ )
ヾ ▼∀▼ノ  「ララァ・・私を導いてくれ・・・」
 / ヽ¥ /ヽ
  ;  ; ;
  ●  ● ●

プルJ「大佐・・」
プルI「ララァって?」
プルH「あのトマトらしいよ。ししとうがナナイ。あとマルガレーテとか、ハマーンとか、いっぱい名前つけてた」
プルF「・・軟弱者・・・」
プルJ「・・いつかわたしの名前で埋め尽くしてやる」

アムロ「・・シャア、ちょっと来てくれ」
931通常の名無しさんの3倍:03/11/30 23:56 ID:???
シャア「ところでこいつを見てくれ。どう思う?」
アムロ「すごく…大きいです」

           ,, -‐‐-、
          ,/   @ヾ
  r'⌒⌒^'、   |      !   r'⌒⌒`ヽ
 ( rνyy'ソ   ヽ    ノ  (ミ""メ""ミ )

 

  ヾ;゚д゚ノ     `'‐-‐''゛   (▼A▼;ツ

シャア「だろう。どうやったらこんな大きなトマトが出来ていたのか。見当もつかんよ」
アムロ「大きいのは良いが、重みで苗木がたわんで、水栽培には差しさわりがあるな」
932931:03/11/30 23:57 ID:???
プルJ「大佐、大尉、頭、頭!!」
933月光蝶:03/12/01 02:42 ID:???
>>929,931-932
イイ!!

『冗談の一滴は血の一滴』
(オリビエ・ポプラン/銀河英雄伝説)

やはりトマトですよ、ええ(笑)。


・・このスレはほんとにいい・・。
というわけで、シリアス編も行って見ます。

 ごはんをたべないと、おなかがすく。
これはわたしにも判る。
眠っていてもおなかはすく。
わたしたちは目が覚める前、とてもおなかをすかしていたらしい。
「人間は、食うものを食わないと動けなくなる。ずっと食べないと」
「食べないと?」
「美人が台無しになる」
アムロは笑いながら、シチューをよそった皿をわたしの方に押しやる。
「だから食べて。あまり美味いものは出ないけどな」
味はともかく、おなか一杯食べたい。
DやGは良く、アムロに文句を言う。わたしも、おなかがすくとつい、アムロの方を見てしまう事がある
そういう時、アムロは困った顔をする。
すると、わたしたちも困ってしまう。
わたしたちには判るのだ。アムロが本当に困っていると、なんとなく判るのだ。
顔を見なくても、声を聞かなくても。
離れていても、色々な事が判るのだ。
わたしたち12人は、みんなこれが出来る・・それでも、得意な子と苦手な子ではずいぶん、判るものが違うけど。
一番得意なHなんか、死んだひとの声が聞こえる事があると言う。
怖いので、どんな事が聞こえるのかは誰もたずねないのだけど。

 アムロは時々、聞こえないはずの声を聞いている事がある。
シャアも、見えないはずのものを見ている事がある。
これが出来るおとなの人には会った事がない。
でも、この人たちは二人ともそうだった。

 二人は、わたしたちが居るのを知らなかったと言う。
それでもわたしたちが見つかったのは、眠ったままおなかをすかしていた、わたしたちの声を、どこかで聞いていたのかも知れない。
きっと誰かさんが、大声で「ハラ減った!ハラ減った!!」って騒いでいたんじゃないかなあ。

 わたしたちを見つけた時、二人は一緒に食べるものを探していたと言う。
わたしたちの目を覚まさせたのはシャア。
目が覚めた後、誰かがシャアに聞いた。
『何故、みんなを起こしたの』
『すぐ起こさないと、きみたちが死んでしまうかも知れなかったからだ』
と言うのが、シャアの答えだった。
わたしはびっくりした。

 アクシズは重力が小さい。
重力が小さいと体が軽くていいけど、力がどんどん弱くなってしまう。
だからわたしたちは、ときどき重力ブロックで調整メニューをこなしていた。
体のあちこちにジェルを塗って、ビリビリさせる奴。
すると、軽い重力でも重いものを持った時と同じように、勝手に筋肉が動く。
電気を使って体をだますのだ。
痺れて気持ちは悪いけど、これをしないと強い子になれないと、おとなの人たちは言っていた。

 わたしたちは、眠っている間も、体が弱らないようにときどき調整されていたらしい。
起きたらすぐ戦えるように。
ところが、調整されると力を使うので、起きている時のように食べなければいけない・・のだそうだ。
何年も眠っていて、食べるものも食べないのに力を使わされて、わたしたちはすっかりへばってしまっていたらしい。
本当は、食べなくてもいいように『高カロリー輸液』とかいうものを注射するようになっていたそうだが、
『タンクが空になってたよ。時間が経ちすぎたんだな』
後で、アムロがそう言っていた。
935月光蝶:03/12/01 03:01 ID:???
ふう・・・

もうちょっと書いてはあるけど、今日はこんなもの。
・・・起こしたのがシャアの趣味だったのか、それとも本当にプルズがへばっていたせいだったのかは、ご想像にお任せします(笑)。
何しろ七色の偽名と詭弁術を弄する男だけに、真相は宇宙の闇の中と言う事で。
(過去のみんなが書いてきた事は出来るだけ壊したくないが、自分なりに真実味のあることは書いてみたいと言う事ですね)

・・・にしてもスレを浪費し過ぎかも知れん。
ぼつぼつ次スレが必要になって来た感じだが、どなたか・・・
936通常の名無しさんの3倍:03/12/01 05:33 ID:???
もう壊しちゃってるんじゃないか?
・・・・・・これはこれで面白いけど
937通常の名無しさんの3倍:03/12/01 07:03 ID:???
ホントこのスレ和むなあ
938通常の名無しさんの3倍:03/12/01 11:15 ID:???
長編は終わるまでなんとも言えない
939通常の名無しさんの3倍:03/12/01 22:27 ID:???
次スレ名どーする?

・35歳その2
・36歳
・その他

>>938
同意
940通常の名無しさんの3倍:03/12/01 23:37 ID:???
>>939
まとめサイトを作ってくれた月光蝶氏に敬意を払い「36歳〜」に一票
941月光蝶:03/12/02 00:13 ID:???
>>936
ではパラレルか、黒歴史となって突き進む所存でありますm(__)m。
(もはや何か憑いている)

>>937-939
時の流れるままにやってみます。

>>940
微妙に妥協して、以後3X歳シリーズで行ってもいいかも。
3X歳なら、後は年を微妙に調整しなくてもPart2とかで増やしていけますし・・・
(そこまでスレが続くのか?(笑))

 夜遅く、目が覚めてしまった。
「ん・・・・」
・・・あー。
・・・こういう時は「お花を摘みに行く」と言うものだと、シャアが教えてくれた。

 アクシズに本当の夜はないって知ってるけど、生まれてからずっと「電気が消えると夜」だった。
通路は薄暗くて、1人で歩くのは怖い。
暗い暗いところで眠っていた時の事を思い出すからかも知れない。
Iがまだ起きていたので、一緒に行ってもらう事にした。

 すっきりした帰りだった。

−−・・・できないな−−
−−けるな。俺たちが食うものも、もうないんだぞ−−

その声は、わたしの背筋を寒くした。
ここしばらくで、すっかりお馴染みになっていた声なのに、それは何故か、一度も聞いたことのない声のような感じだった。
それは、とても怒っている人の声だった。
 「・・・!」
 「・・・!」
わたしはIと顔を見合わせた。
こういう時は、口に出さなくてもお互いが何を考えているか判る。

テーブルに乗ったままのコーヒーは、とうに冷めていた。
「だからと言って、今あの子たちをスリープさせたら体力が保たんだろう。落ち着けアムロ。」
例によってサングラスで表情を隠したまま、シャアは言った。
「1人か2人ずつでも、スリープしてもらえばいい。・・食料の割り当てを変えれば、眠るだけの体力はつけられるさ」
アムロは両手を上げた。
ここしばらくの疲労と、不十分な食事で、さすがに鍛えた体もデスクチェアの中で縮こまって見えた。
「・・何を焦っている?」
一拍置いて、穏やかにシャアは訊いた。
どこかで面白がっているような気配がある。
それがアムロには余計いらだたしかった。これは笑い事や、駆け引きの問題ではない。
「お前だって判ってる筈だ」
一言ずつ、噛み締めるように、アムロは呟いた。
「助けが、呼べない。・・俺たちは孤立したんだ」

 アクシズに取り残された直後、アムロが希望していたのは、アクシズの通信設備を使って救援を呼ぶ事だった。
アクシズは前後2つに分割されたが、現在アムロたちが居る後半部には、核パルスエンジンが装備されている。
核パルス推進中、エンジンからはEMP効果で強力なノイズが発生する。
エンジン周辺を囲むIフィールドと、分厚い岩盤によるシールドで、アクシズ内部には影響が及ばないようになっているが、惑星間通信用の送受信施設はノイズに敏感なため、前半部に集中して設けられていたはずだ。
後半部にその種の設備が1つもないとは考えにくいが、アクシズを分断した爆発と、大気圏をかすめた時の衝撃波で、露出していたアンテナやレーザー発振器がどうなったかは判らなかった。
 当初、アムロが期待していたのは、使用可能な送信設備が1つでも生き残っている可能性だった。
だが、アクシズ表層部の損傷は予想より激しく、地上構造物は大半がメチャメチャになっていた。
艦艇用エアロックなど、地形効果で守られた部分の損傷は少なかったが、それはこの際関係ない。
最後尾にある核パルスエンジンもほとんど無傷−だが、これは元々極度の衝撃と、プラズマの高温にさらされても耐えるという頑丈極まりない大型施設で、他のものとは出来が違う。
さりとて、簡単に作れる程度の通信機ではどうにもならない。
現在、アクシズは金星軌道に接近しつつある。
ミノフスキー粒子による電波障害を考えると、この距離では、地球圏までの通信はおぼつかない。

「助けも呼べない!どこに流れていくかも判らない!!・・そんな状態で、あいつらをこのままにしておけというのか」
アムロは両手で顔を覆った。
「スリープ状態なら、少なくともまた何年かは耐えられる。だが、このままで物資を食いつぶし続けたら、生きられる期間はどんどん減っていくんだぞ」
「今すぐに決めなければならない問題ではないはずだ。食料はまだある」
「いったい何日分あるというんだ?・・今の割り当てじゃ、みんな、そう長くは保たない」
シャアは冷笑した。
「・・腹が減って気が立ったか?」
・・アムロの声から抑揚が消えた。
「・・こうなったのは、誰のせいだと思ってる」
露骨な挑発だと判っていたが、もはやこれは許せる話ではなくなっていた。
「いつもいつも・・・お前は本当にあとさき考えて行動してるのか、シャア!?他人のことを何だと思ってるんだ!?」
「今度は泣き言か?私を墜とした男ともあろうものが、無様なものだな」
(そうやって、お前は永遠に他人を見下す事しかしないんだ)
アムロは、ゆっくりと立ち上がった。
「・・考えてみれば、お前が眠れば一番苦労はないかも知れないな」
「・・ロンデニオンの続きか?私は構わんぞ」
(それでこそ私の好敵手だ)
シャアは、猫のような身のこなしで距離をあけ、同時にサングラスを外した。

「大変だ・・・」
わたしは、怖かった。
こんなのは初めてだった。おとなの人があんな事するなんて・・・・。
「ドキドキもんだね、C」
Gがそのわたしの顔を見ておもしろがった。
「大佐を助けないと」
「あ、だめだよJ」
今にも飛び込みそうだったJを、Hの一言でBとDとGがスマキにして止めた。
「大丈夫だよ。二人ともバカだし」
Iが床でぐるぐる巻きにされてうーうー唸っているJに耳打ちした。
「飽きるまでどつき漫才やらせとけばいいんだ」
「どつき漫才ってなに?」
Aが訊いた。
「ああ、オレ知ってる。この後ボロボロになるまで殴り合ってから”なかなかやるな”とか言うんだぜ」
Dがしたり顔で答えた。
「そうでもないと思うよ」
Fが目を細めて眺めながら、ちょっと複雑な顔で呟いた。
「適当に止めないと。ほら、あれ、”ちょーく・すりーぱー”とか言うんでしょ?長い事やると危ないし」
それを聞いて、Lがぽつりと言った。
「危ない遊び?」
L・・それ違う。
「・・不潔です」
K・・それもちょっと違うと思う。

「あ」
その時、Eが何も言わずにドアを開けて、すたすた部屋の中に入って行った。
「・・あ」
アムロが、攻撃態勢のまま硬直した。
「・・・・あ?」
アムロの攻撃がいきなり止んだので、シャアが不審な表情になって・・・硬直した。

「Iが、二人ともバカだって言ってる」
それから、二人の顔を見回して、真剣な顔で訊いた。
「バカなの?」

・・これって、”水入り”っていうんだっけ?
944通常の名無しさんの3倍:03/12/02 18:22 ID:???
いくら格好つけても、プルEがいなければ……な事態に陥ってしまうシャアが
あまりに彼らしい。続きを楽しみにしています、月光蝶氏。

しかし年内に新スレに移るのは確実だね。
新スレが立ったら、このスレにまた番外編をあげる予定。番外編といっても
「終わりなき旅路」の続編だけど。



長い航海を終え地球圏に辿り着いたジュピトリスを待っていたものは、連邦軍
特務部隊による攻撃だった。
プルたちの脱出船を守るため出撃したサザビーを襲う黒いνガンダム。
「生きていてくれてうれしいよ。シャア・アズナブル!」
「このパイロット……できる!」
「この手でお前を殺せるからな!」
945通常の名無しさんの3倍:03/12/02 20:30 ID:???
ワク(゚∀゚)ワク
946あるアクシズの朝:03/12/02 23:49 ID:???
 アムロの朝は遅い。
 血圧が低いというわけではないが、連日ほとんど徹夜で(主に趣味の)研究や機械いじりをを行っているため、起きられないのだ。
 まあ、結局いつものごとく彼は惰眠(と書くと少し失礼だが)をむさぼっていた。
 普段はプルたちの誰かが起こしにくるまで起きないのだが、今日はいつもと何かが微妙に違っていた。
 まだ皆が寝静まっている早朝、シュイーンなどという未来的な擬音ではなくウィーンという至極普通な作動音でアムロの部屋の自動扉が開く。
 そして、逆光の中に浮かぶ影、明らかにプルたちよりも大きなその人影は、シャアだ!
 逆光でその表情はよく見えないが、その口元は明らかに嗜虐心に歪んでおり、目にも悪意がみなぎっている。そのくせ、気配には全くその要素が出ていないのはさすが歴戦の戦士だろう。
 シャアは全く足音を立てずに、アムロの元に忍び寄るとポケットから黒光りする




 極太マジックを取り出した。




 それで、アムロの額に大きく『肉』と書き、ついでに眉毛も太く描き直しておく。
 シャアは大きくうなずくとそそくさとアムロの部屋から立ち去った。
 当然のごとく、その日の朝、下のような光景をプルたちはは目撃した。

               γ⌒⌒^'、
           (⌒\(γ#^^肉^| 
            \ヽヾ  ゚ー゚ノ
             (m   ⌒\
              ノ    / /
              (   /ノハλ)
           ミヘ丿 ∩∀▼;)
            (ヽ_ノゝ _ノ
947コンバット:03/12/02 23:52 ID:???
今書いてるのが全然進まないので、こんなのでお茶を濁すことにしました。
こいうのはサクサク書けるなぁ。
948通常の名無しさんの3倍:03/12/03 00:18 ID:???
こういうのもサクサク投下してもらえると
大変に嬉しいです
949通常の名無しさんの3倍:03/12/03 01:45 ID:???
>946
シャア、オマエは子供かw

アムロは元から眉は太いが、さらにやったということは飛雄馬ぐらい太くなったのかw


次スレは「36歳(以下略)」でいいと思います。
950通常の名無しさんの3倍:03/12/03 07:41 ID:???
951通常の名無しさんの3倍:03/12/03 10:08 ID:???
おまい仕事が早いですな(´∀`)
952通常の名無しさんの3倍:03/12/03 21:45 ID:???
職人さんたちが集まってきなすった…こんなに嬉しいことは無い
ワク(´∀`)ワク
953通常の名無しさんの3倍:03/12/03 23:21 ID:???
埋めてty台
954災いを呼ぶもの・前編(1/5):03/12/04 00:43 ID:???
宇宙世紀0100 7月7日 12:52
サイド7近海

「艦長、ジュピトリス4補足しました」
「モビルスーツ隊、展開準備」
 オペレーターからの報告を受けた初老の男は、迷わずそう告げた。
「停船命令を出さなくてよろしいのですか?」
 艦長の隣に立っていた男が尋ねる。
「航行中のジュピトリス4で原因不明の爆発事故が発生。船体は大きく破壊され、発見時
には生存者は無し。上層部からの通達だ」
「あの二人を消すために手段は選ばない。そういうことですか」
 返答は無い。
 いつも以上に気の重い任務になりそうだ。男は少し憂鬱になる。その思いが顔に出てい
たのだろうか。艦長が冷たい目で自分を見ていることに気づいた男は、軍帽を深くかぶり
なおした。
 その間にもブリッジのスクリーンには次々と発進するモビルスーツが映し出されている。
「ジュピトリスからモビルスーツの発進を確認」
「おとなしく死んではくれないか」
 まるでこうなることを予想していたかのような艦長の言葉。
「第一波接触します。第二派接触まで120秒」
「ジュピトリスより大型の熱源発生! データ照合! 情報にあったモビルシップと思わ
れます! 数は3!」
「敵モビルスーツの数、さらに増えます。敵船よりの砲撃確認! 二番艦左舷に被弾! 
回避運動、急げ!」
 次々と入ってくる戦況報告。
 激戦になりそうだな。そう思った男は艦長に目をやる。正面のモニターを直立不動で見
つめているその横顔からは、なんの感情も読み取ることはできなかった。
955災いを呼ぶもの・前編(2/5):03/12/04 00:45 ID:???
『乗組員はシェルターブロックに退避。繰り返す、乗組員は……』
 感情の無い機械音声によるアナウンスが流れ続けている船内。毒々しいほどの赤い警告
灯の明滅が非現実的な空間を作り出している。
 その中を走る二つの影。
「おいで、プルL!」
「うう、怖いようアムロ」
 涙目になりつつ通路を走るプルL。ジュピトリスは断続的に激しい振動に揺さぶられ、
そのたびアムロは少女を支える。
「ごめんね、わたしが忘れ物をしたばっかりに」
 プルLは赤いぬいぐるみを抱きしめる。
「いいよ。ほら、もうすぐだ!」
 エアーロックを駆け抜ける二人。すぐさまアムロは壁の通信機に向かう。
「到着した! 発進準備はどこまで進んでいる、プルF!」
『エンジンが臨界に達するまで、しばらくかかります』
「すぐにそちらへ行く。落ち着いて作業にあたってくれ」
『了解!』
「……連邦め、予想以上に動きが早かったな」
通信を終え呟いたアムロの顔はいつになく厳しい。そんなアムロを不安そうに見上げるプ
ルL。その視線に気づいたアムロは優しく微笑む。
「大丈夫。さあブリッジに急ぐよ」
「うん!」
956災いを呼ぶもの・前編(3/5):03/12/04 00:51 ID:???
「状況はどうなってる、プルI」
「ジュピトリスも部隊を展開している。状況は五分五分といったところだな」
「木星には悪いが好都合だ。モビルシップ発進まで時間が稼げる。プルKは索敵を続けて
くれ。プルD! 体はしっかりと固定しろ。プルH、火器管制システムの準備はどうなっ
てる。プルF、エンジンはどうか!」
 ブリッジに入ったアムロはプルたちに次々と指示を出す。
「火器管制システム、オールグリーン」
「エンジン臨界50%突破!」
「シャアはどこにいる」
『サザビー内で待機している』
イエローのノーマルスーツを着たシャアがモニターに映る。
「了解だ。このまま発進できるのが望ましいが……」
「熱源高速接近! 数は5!」
アムロの願いは、プルKの叫びであえなく砕かれる。
「気づかれたか!」
「目標確認。ジェガンタイプ、4。それと……そんな!」
「どうした、プルK!」
「ガンダムです。ジェガンタイプ4、ガンダムタイプ1!」
「なんだと!?」
 プルKのもとに駆け寄るアムロ。モニターには確かにガンダムが映し出されている。そ
れもνガンダムが。アムロのνガンダムとは異なり、フィンファンネルではなく大型のユ
ニットを装備している。だがそれよりも大きくその姿を違えているのは全身が黒くカラー
リングされていることだった。
「νガンダム……量産されていたのか」
 禍々しさを漂わせる黒いモビルスーツを、アムロは複雑な思いで見つめた。
957災いを呼ぶもの・前編(4/5):03/12/04 00:53 ID:???
「シャア、迎撃を頼む! 数は5。そのうちの一機はνガンダムだ」
『お前の乗っていないガンダムなど敵ではないよ』
「一般兵士用の有線兵器を装備したタイプだ。未完成のサザビーでは分が悪い。せめてフ
ァンネルだけでも間に合えば……」
『ライフルとサーベルだけでやってみせる。まかせろ』
「……すまない」
「大佐。ご武運を」
『サザビー。出るぞ!』
 祈るように両手を合わせるプルJの姿を見ながら、シャアが告げる。
 バーニアを一斉に吹かすサザビー。機体の腰部に繋がっているワイヤーがサザビーを船
体に引きとめようとするかのようにピンと張る。しかし増大する運動エネルギーに耐えら
れなくなり、すぐにその手を離す。
 宇宙に躍り出たサザビーは迫り来る敵へと向きを変える。その形状は以前のものとほぼ
変わらない。赤ではなく白で塗装されていることを除いては。
「あれか……。黒いガンダムとはな」
 すばやくシャアは敵モビルスーツ群を確認する。敵もこちらを確認したのだろう。モビ
ルスーツ隊は分散し、サザビーを取り囲もうとする。が、先手を取ったシャアはその動き
をさらに制する。
「まずは頭をつぶさせてもらう!」
 ビームで牽制しつつ、ガンダムとの間合いを詰める。あっけないほど簡単に懐に潜り込
んだシャアはサーベルを肩口に叩きもうとするが、その攻撃はガンダムの取り出したサー
ベルに易々と防御される。
「生きていてくれて嬉しいよ、シャア・アズナブル」
いきなり通信が入る。敵は自分の存在に気づいているようだ。だがシャアはその声に聞き
覚えが無い。
「!? 何者だ、貴様!」
「この手でお前を殺せるからな!」
 いったん距離を取ろうとするシャア。だがガンダムを振り切ることができない。こちら
の動きを読んでいるかのようにまとわりついてくる。
958災いを呼ぶもの・前編(5/5):03/12/04 00:56 ID:???
「出来る! このパイロット!」
 ガンダムに気をとられたいたシャアはジェガンたちの射線に晒される。急制動をかけ、
それをかわしたサザビーがガンダムと衝突する。
「どうした? ファンネルを使わないのか」
「貴様らごときに!」
「どうやら調整不足のようだな。その腰の武器もただの飾りか。だが手加減はせん!」
 シールドでサザビーを払うガンダム。
 体勢を崩したサザビーにジェガンが切りかかってくるが、それをかわし逆にサーベルを
振るう。胴体部で切り裂かれ、爆発するジェガン。
「さすがにやるな」
「何者だ!? 答えろ!」
 再度のシャアの問いだが、返答は無い。
「なんだ、その色は? 過去を忘れ、一からやり直すつもりか」
――大佐は生まれ変わるんです。この白い色はその表れなんです。
 プルJの言葉を思い出すシャア。
「出来やしない。お前は罪なき者の返り血で赤く染まっている!」
 サザビーの背後からビームが迫る。間一髪それをかわすシャア。視界の隅にインコムユ
ニットの動きを確認する。
 ジェガンたちがサザビーを包囲していく。ジェガンの動きはガンダムに比べれば格段に
落ちる。だが互いを補う連携、そして自在に動き回るインコムがサザビーの行動を抑えていた。
 予想以上の強敵。シャアはそう判断する。
「どうした、ご自慢の強化人間どもを出せばいい。お気に入りの武器なんだろう? それ
ともそのモビルスーツと同じように調整不足か。ならば、そんな欠陥品は破壊してやる」
 その言葉とともに一機のジェガンがサザビーへの攻撃を止め、モビルシップへと向け
ビームライフルを構える。
 シャアはその攻撃を阻止しようと試みるが、残りのジェガンとインコムの連携攻撃は激
しく近づくことはおろか、ライフルで牽制することすらできない。焦るシャアの目前で、
遂にジェガンがビームを放った。
959通常の名無しさんの3倍:03/12/04 10:09 ID:???
(*゚∀゚)=3ドキドキ

 その頃のわたしたちには、ほとんど何も判っていなかったのだと思います。

 アムロは優しい人です。
シャアも、わたしたちにはずっと優しい人でした。
彼がどんな事をして来たか知った今も、わたしたちの気持ちは変わっていません。

 アムロは、嘘がつけない人です。
 シャアは、よく嘘をつこうとしていました。
でも、HやIに嘘をつくのはそんな簡単な事ではありません。
Hはわたしたちの中で一番感覚が鋭い子でしたし、Iはとても頭が良い子でした。
シャアが嘘をつくと、最後には大抵ばれてしまいましたし、時々その事でIやJに小言を言われている姿を見て、わたしたちは笑っていたものです。
(H?Hは嘘を見破っても、ちまちま小言を言うような性格じゃありませんでした。・・そういうところが、余計怖いんですけどね。叱るのは主にIとJの役でした)

 それでも、わたしたちは、シャアを心底嫌いになるような事はありませんでした。
シャアは、本当はとても純粋な人だったからです。
嘘をつくと言っても、それは大抵の場合かわいいものでしたし。
大人の男の人に対して言うにはませた言葉かも知れませんが、わたしたちの何人かは、ちょっと普通の人よりも早く、そうしたものの見方に馴染んでいました。
それにね・・・。
アムロもシャアも、普通の大人よりは子供っぽいところがあったと思います。
そういうと、二人とも怒って引きこもってしまったかも知れませんが(そういうところが、コドモだって言うんですよ、二人とも・・)。

 わたしたちにとって、アムロは年の離れたお兄さんのようでしたし、時にはお母さんのようでした・・そういうと、アムロは嫌がったのですが。
シャアはお父さん役に・・なろうとしませんでしたが、結果的にはそういう事になっていたようです。
”粗大ゴミ”と言われるような、家の中ではちょっと役立たずなお父さんですが。

 シャアは、とても頭が良い人でした。
わたしたちの中で一番頭が良かったIよりも、ずっと頭が良かったのだと思います。
世の中には、色々な人が居て、色々な嘘があると言う事を、わたしたちは誰よりもシャアから学びました。
嘘をつく人には沢山出会いましたが、シャアのような人に再び出会う事はありませんでした。

Jなら、「わたしの大佐は、世界でたった一人だけです」とか言うところなんでしょうけど。

 わたしたちにとっては、最初の頃が一番厳しい状況でした。
目覚めてしばらくすると、アムロが一番恐れていた事が起き始めたのです。

 わたしたちは食べ盛りで、アクシズには食べ物があまり残されていませんでした。
アムロも、シャアも、わたしたちも、一生懸命食べ物を探したけれど、すぐに手近なところからはなかなか食べ物が見つからなくなっていました。
アクシズは、外は小さいけど、中は掘り抜かれていて随分広かったのです。
わたしたちが歩いて探せる範囲にあったものは、間もなくほとんど食べ尽くしてしまいました。

 2人の大人と、12人の子供が食べるものを毎日探すのがどんなに大変だったか、今のあなたには、ちょっと想像もつかないと思います。
(こういう言い方は何だと思いますが、どうか許してください。本当に大変だったんです)
その頃台所を預かっていたアムロは、人相が変わっていましたから。
もっとも、それは十分に食べていないせいもあったかと思いますが。

 それに拍車をかけたのは、わたしたちが目的地もなくさまよう迷子だった事です。
助けもなく、いつまで、どこまで持ちこたえたらいいのか判らないまま、明日口に入れるものを探し回る暮らしと言うのは、かなり苦しいものでした。
特に、手を伸ばせば掴めるところに地球がある事を知りながら、どうする事も出来ずにその日暮らしを強いられたアムロたちの苦しみは、何も知らないわたしたちよりもずっとひどいものだったろうと思います。

 でも、アムロは、粘り強く、決して諦めずに、ありとあらゆる問題を解決してゆきました。
あの人についてわたしたちが一番良く覚えているのは、いつでも何か作っていた、その器用な手です。
料理を作り、機械を直し、わたしたちのドレスまで縫ってくれた、魔法のような手です。
心配性で線が細い感じなのに、いざ難しい問題にぶつかった時、いつもアムロは最後の最後まで希望を捨てようとしない人でした。
わたしたちはアムロから、優しさと誠実さについて学びました。
優しい人になりたければ、決して望みを捨ててはいけないと言う事を。
誠実な人になりたければ、強くなければいけないと言う事をです。


 え?
 ココアですか?
どうもありがとう、頂きます・・・。

 これ、美味しいですね。何か隠し味でも・・ああ、内緒ですか(笑)。

 アムロは、わたしたちが目を覚ました時から、食糧難を予期していました。
だから、最悪の事態だけは避けられるように、随分前から色々な手を打っていました。

 最初の頃、アムロはすぐ地球から助けを呼ぶつもりだったようです。
でも、それが無理だと判った頃、アムロはわたしたちをもう一度コールドスリープさせて、生き延びられる期間を延ばそうとしました。

 実験台になったのはシャアでした。
ええ、本人は嫌がったんですが、かなり無理やりに選ばれていましたね。
体力の落ちたわたしたちを眠らせると危ないし、アムロを眠らせるとわたしたちは明日のご飯も危なかったですし、・・ええ、そういう事にしておきましょうね(笑)。

 でも、ダメでした。
理由は知りませんが、全然装置が動かなくなっていたんです。

アムロ曰く、「これはひどい。こんなガラクタばかりで、今までよく動いたものだ。」
シャア曰く、「アクシズは貧乏だからな。工期を繰り上げられればこうもなろう。」
だ、そうですが・・・わたしたち、よくそんなので眠っていられたものです。
だいぶ後でアムロが直してくれたんですが、その時はもう全然ダメでしたね。

 無傷の水耕プラントを探して、動くようにしたのはいつごろでしたか・・。
わたしたちは、みんなで苗を植えました。
12人も居ましたから、とにかく色々苗は植えられました。
何をどうやったらいいのかは、シャアが教えてくれました。昔のアクシズも食べ物がなくて、こうしてみんなで働いたそうです。

 でも、カイワレダイコンみたいなものを除いて、そんなにすぐ収穫できるような作物はありません。
後で色々、特別に改良された作物が見つかったんですが、最初の頃植えたものは、収穫できるまでに最低3ヶ月以上は掛かるものばかりでした。
それに、作れるものには限りがあって、それだけで食べていくのはとても無理だろうって、アムロたちは考えていたそうです。

 その頃、わたしたちはとてもおなかをすかせていました。
やる事は一杯あったのに、食べ物が足りていなかったんです。
ないものはどうしようもない。
それはみんな判っていました。
みんな、判っていたんです・・・・。

 トマトの苗を世話している時でした。
トマトは、苗の頃にちょっと厳しい環境にしてあげると頑丈に育ちます。
普通に育てても結構育つんですけど、手を掛けて鍛えると、とても大きく育って、実を沢山つけてくれるんです。
 苗は沢山ありましたし、温度の調節とか剪定とか、やる事はとても一杯ありました。
出来るだけ手間を掛けないで出来るように、シャアが手順を書いてくれたんですけど、それでもわたしたちには大変な仕事でした。
 わたしは、Eと一緒に午前中ずっと、仕事していました。
トマトの栽培室はとても暑いんです(暑くないと、トマトがダメになってしまいます)。
帽子をかぶって仕事していたんですけど、暑いのはどうしようもありません。
わたし、目を回してのびちゃったんです。
ええ、Eもびっくりしたと思います。

 あの子はちょっと細めで力がなかったんですけど、一生懸命わたしを運んでくれて。
重力が小さいんで、なんとかアムロたちのところまで行けたみたいです。

 わたしが目を覚ますまで、Eがそばで手を握っていてくれました。
それでね・・・・起きたら何も言わずに出ていっちゃったんですけど、握ってた方の手に、マジックで落書きがしてありました。

 「げんきだして」

 反対の手にも、書いてありました。

 「がんばれ」

 ええ。
 みんな、がんばりましたとも。
その後も倒れる子は出たんですけど、くじける子は1人も居ませんでした。
わたしたちは、みんなプルですから(笑)。

 トマトもがんばってくれたみたいです。
・・あとでね、すごい大きい実がついたんですよ(^^)。
それはもう・・わたしたちの頭くらいあったんです。
信じられない?
でしょうね。・・どうやってああなったんだか、アムロもシャアも首をひねってましたけど。

 アムロは心配性ですから、その頃はよく悪い夢を見たそうです。
詳しくは教えてくれませんでしたけど、・・作物がみんな枯れちゃうとか、そんな夢でしょう。
実際、食べるものが足りなくて・・一番ひどい時期は、みんな顔色が悪くなってふらふらしてましたからね。

そんな時でした。
シャアが、みんなにあの話を持ち出したのは。

「木星?」
アムロは呆然として繰り返した。
「そうだ。ここからなら木星へ行ける」
シャアは、アムロのその表情を存分に楽しみながら、自信たっぷりに告げた。
(・・何て事を考えるんだ)アムロの脳裏に冷たい光が射した。
サイコ・フレームの時と言い・・・隕石落としと言い、この男が持ち出すアイディアが、本当に不可能だった事はない。おそらく、人前に持ち出した以上、既に段取りは完璧に違いない。
(こういう所は負けているな)素直に認めざるを得なかった。

−−重大な話がある−−
そう前置きして、全員に切り出したシャアの計画は、ある意味では大胆不敵、別の意味では精密無比だった。

シャアは簡単な図を使い、判りやすく全員に説明した。

 アクシズは現在、金星軌道に接近しつつある。
そのままでは、アクシズは軌道を僅かに変えるだけで金星をパスしてしまい、太陽の向こう側に向かって緩やかな楕円軌道を辿るのみだ。

 だが、ここで軌道を僅かだけ(ほんの僅かでいい)金星の方向に寄せれば−−
軌道変更によって生じたずれと、重力によるホーミング効果により、アクシズは金星に接線方向から接近し、スイングバイにより大きく加速されながら、太陽をかすめるように打ち出される。
そして、太陽の引力によりさらに加速されながら、木星の方向に放り出される−−−

太陽から木星までの距離は7億8千万キロメートル。
金星と太陽の距離1億キロメートルを加えれば、約9億キロメートルの旅となる。
その間に、アクシズは、弱まり行く太陽の引力により僅かずつブレーキを掛けられて行き、木星に遭遇する頃には、インターセプト軌道に入れる相対速度まで落ちている。

 シャアの話は具体的で、かつ迫力に満ちていた。
アムロも、プルたちも、聞くほどに話に引き込まれて行くのを感じていた。
さすがは、ネオジオン数千の兵を束ねていた総帥だけの事はあった。

「そんなに上手く行くものなのか?」
Bが疑わしげに訊いた。
何人かがうんうんと肯く。
何しろ、ほんのちょっと軌道を変えただけで、後は全て風任せで勝手に木星まで行けると言うような話だ。怪しいのも無理はない。
「前段階で何度か、それと、小惑星帯を抜ける時にもう一度、微調整を行う必要があるかも知れん。だが、計算の結果、基本的には大きな加速は一度だけで十分と判った」
余裕ある表情で、シャアは答えた。
「宇宙世紀より前に、パイオニアという探査機が、地球から送り出された事がある。・・その探査機は、ロケットで一度加速されたあと、ほんの僅かな軌道修正だけで、太陽系の色々な惑星を巡り、最後は太陽系外まで旅に出たのだ。私たちにだって、そのくらいの事は出来る」
次に、Dが手を上げた。
「何故木星なんだい?そんな遠いとこより、地球に行ったらいいじゃん」
「・・いい質問だ」
シャアは大きく肯いた。

いまや、アムロを含めた全員が、一問一答に固唾を飲んで耳を傾けていた。

−−地球は木星よりは遥かに近いが、位置が悪い。それがシャアの答えだった。
地球は的が小さく、引力も小さい。
的を外せば、そのまま太陽系外まで何もない空間を突っ走る事になりかねない。
それを押して、無理に地球に近い軌道を取りすぎると、そのまま地球に落着してしまう危険がある。
木星を狙うのであれば、インターセプト軌道を取れば、その大重力で捕獲してくれるし、まかり間違ってそのまま木星に落下しても被害は出ないのだ。

「このまま木星に向かうとして、どれぐらいかかるだろう」アムロが、組んでいた腕を解いて訊ねた。
「長くて3年だな。核パルスエンジンが使えれば良いが、そうも行くまい」
シャアの答えは間髪を入れなかった。
「調べて見たが、核パルスエンジンは確かに無傷に近い。が、何しろ動作中にビームを撃ち込まれて緊急停止した状態だ。完動とは行かないな。」
アムロは渋面を作った。ビームを撃ち込んだ張本人は自分である。
「短時間なら動かせるのは確認してあるが、長時間加速を続けると何が起きるか判らん。これには全員の命が掛かっているのだ。あまり大きなリスクは負えん」
「となると、3年分の食料が14人分、一日3食食べるならトータルでおよそ5万食必要か」
反射的に安産しながら、噛み締めるようにアムロは呟いた。
「難題だな・・・・」
今でさえ、食料は足りないのだ。
だが、・・アムロは、プルたちの顔を見た。
A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L−−−
12の顔は、全て1つの感情に満ちて、アムロを見返していた。

希望。

「・・アムロ」
シャアが、限りなく静かにアムロに問い掛けた。
「ああ」
ゆっくりと、アムロは肯いた。
「やってみよう」
この男を信じるしかない。・・これまで、どんなに道化を演じても、最も重要な瞬間には、この男は常に運命の王子を演じて来たのだ。
・・乗ってみよう。生きる事に関するこの男の運と才能に。
信心を持たないアムロの、それは祈りだった。

歓声が上がった。

 アムロは、久々の心地よい緊張に身をゆだねていた。

 コクピットの中には、薄い闇があった。
アーム・レイカーに両手を置くと、それは、外界を映す透明な壁に変わった。
全天モニターが蘇ったのだ。
νガンダムはぎりぎりまで時間を使って整備した。
万全とは行かないが、自分で設計した機体だ。ネジ一本まで知り尽くしている。
こいつは、信頼できる相棒だ。

あとは、行くのみ。
艦艇用エアロックから発進するアムロを、プル全員が手を振って見送っている。
「νガンダム、アムロ、行きます!!」
アクセルペダルを踏み込むと同時に、12の小さなノーマルスーツが、一瞬に流れてドックの壁に変わる。
電磁カタパルトが機体を加速し、宇宙空間に打ち出した。
アポジモーターを働かせ、機体をアクシズ外周に沿ってロールさせる。
全天モニターに映る宇宙は、半分が黒い。
モニターの不調ではなく、黒々とした岩盤の天井に覆われているのだ。

 地球から見るより直径が大きい太陽が、モニターの別の一角を占有しているが、防眩処理が施されているため、目に苦痛を与えるほどではない。
ここまで来た人間はほとんどいない。
金星の有人探査は何年も前の事で、その後この空域を訪れた人間は居ない。
だが、アムロにはそんな事に心を向けている暇はない。
成すべき事は多く、時間の猶予はあまりなかった。

 νガンダムの機体には、フィン・ファンネルを係留するための大型マウントラッチが作りつけられている。
全て失われたフィン・ファンネルの代わりに、今そこには、半分に砲身を切った艦砲が取り付けられている。
メガ粒子砲には反動はあまりないので、係留はそれほど頑強にしなくても良い。

アムロはアクシズから距離を開け、指定された距離に達して相対的に静止した。
あちこちのドックからかき集め、積めるだけ積んだハイパーコンデンサーへの蓄電が始まった。
全天モニターの一角に、カウントダウンの数字が現れた。

ゼロ時刻まで、あと30分。

 全ての作業は、厳密なスケジュールに基づいて運ばれている。
今、アクシズ内では、要所に仕掛けられた時限爆弾が秒読みに入ったはずだ。
プルたちはアムロを見送った後、全て深部のドックに退避している。
シャアは、核パルスエンジンの管制室に陣取っていた。

ゼロ時刻まで、あと20分。

 アクシズの左舷前方−−真っ二つに割れて、脆くなっている切断面の一部−−で、時限爆弾の連鎖爆発が始まった。
爆発で岩塊が散り、脆い部分と、古い坑道のクラックが一体となって−−−アクシズは、また一部を失った。

 ただし、その脱落は以前ほど大きくない。
爆発が前ほど強くなく、また、内部に傷をつけすぎないよう、細心の注意が払われていたからである。
爆発力と、少なからぬ質量の脱落によって、アクシズはごく僅かだが角運動量を得る。
ほんの僅か−−−だが、それと分かる速度で、アクシズは回転を始めた。

 以前のアクシズは、核パルスエンジンの推力軸線がその質量の重心をほぼ貫くよう、
あちこちを削ったり足したり、相当な苦心をして「加工」されていた。
が、真っ二つに割れた事で、それはかなりの狂いを生じている。

 最初の爆発は、それを、完全にではないが修正するためのものだ。
と同時に、アクシズをゆっくりと回す事により、軌道変更のために核パルスエンジンが最適の角度を取れるようにする。

ゼロ時刻まで、あと15分。

 アクシズ深部にも、その震動は轟いていた。
生まれてこの方地震を知らないプルたちには、初めての体験である。
「怖い?」真っ青な顔で震えているLに、Eが訊いている。
「こ・・ここ、怖くなんかないよ!!」
「そう。わたしも少し怖い」
「怖くなんかないよう・・・(TT)」
「そう、怖いのね」Eは、Lの頭を撫でた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。こわい」
「大丈夫。アムロがたすけてくれる」

「νガンダムは・・・」Iは、状況を表示するモニターをチェックしていた。
文字通り誰も居ない惑星間空間で、それは点にしか見えない。モニターの最大望遠でも、今見える白い機体は、あまりにもはかなく思えた。

ゼロ時刻まで、あと10分。

Iフィールドの最終点検をしていたシャアは、はっとして顔を入り口に向けた。
「大佐」
「プルJ!ここに来てはいけないと言ったはずだ」
「許してください。でも、ここに居たいんです」
小さな肩が、それと判るほど震えている。
シャアは、厳しく退去を命じようとして−−−−やれやれ、と肩をすくめた。
「・・命令違反は、厳罰だぞ」どのみち、ここからでは、みんなが居るドックまでは遠すぎる。
「・・承知しております!」まるで誉められたかのように明るく、Jは答えた。
Jを空いていた管制シートに座らせ、シャア自身も手早くシートに就く。

この計画で最も不確定要素が大きい部分は、この旅を可能とするエンジンそのものにあった。
核パルスエンジンはまだ眠っている。一度起動してしまいさえすれば、それはミノフスキー=イヨネスコ型の核融合炉としても働き、自分自身に必要な電力を自分で供給する。
動作中に必要なのは、核融合燃料ペレットの供給だけで、それはまだまだふんだんに用意されていた。
だが、それを起動するには、本来は巨大な電力を必要とする。
専用に組み込まれた発電施設を使って、長い時間を掛けて起動用電力を蓄積するのだ。
今回はそれをするだけの時間は到底なかった。
軌道交差のタイミングを見逃したら、もう金星とランデブーしてスイングバイを行う機会はない。
専用施設の代わりを担うのは、νガンダムの役割だった。

あと5分。

 アクシズの右舷に仕掛けられていた爆弾が、コンピューターによる無線誘導で爆発した。
これは、アクシズが必要な角度に達した事を検知した時、回転を相殺するために必要なタイミングで爆発するようにプログラムされている。
この爆発は、大きすぎさえしなければ、それほど精密である必要はない。
核パルスエンジンが起動した後、推力をいじることによって調整は可能だ。
肝心なのは最初の瞬間だけである。

最初の瞬間−−−−−−−−−−−−−−−−ゼロ時間。

「・・・行け!!」
アムロは、押し殺した叫びを上げた。
膨大な数のハイパーコンデンサーに、貯めるだけ貯めこまれた電力を貪欲に吸収した艦砲のメガ粒子発振器は、瞬時に焼け切れながら、凄まじく圧縮されたメガ粒子を生む。
νガンダムが背負った艦砲が、純白に近い透明な光の奔流を放った。
「・・・来た」
シャアは、唇の間から押し殺した呟きを漏らした。
この瞬間のために、乏しい電力をやりくりして充電したコンデンサー群が、一瞬だけIフィールドを形成させる。

エンジン中央に装荷された核融合燃料ペレット群が、超高密度のメガ粒子の直撃を受けて爆発した。
Iフィールドに覆われたエンジン内では、過負荷全力で発射されたメガ粒子砲といえども被害は及ぼさない。
白熱したメガ粒子は、核融合プラズマとともにIフィールドに反射され、推力に変換された。


その瞬間、アクシズの全てが震えた。

「来たよっ!!」
叫びが何重にも重なった。
Iは画面で、素早く状況を確認した。
核パルスエンジンには火が入っている。
それに、僅かずつだが、体に感じる程度のGが掛かり始めていた。
間違いない。
「・・・・成功だ!」
「アムロ、言ってたよな」
Dがにやりと笑った。
「「νガンダムは・・」」
「「「伊達じゃない!!」」
何人かがまた合唱した。
「「「「「「行け!!アクシズ!!!」」」」」」」


アムロは、核パルス推進のきらめきをモニター越しに確認した。
目を閉じて、深く深く、息をつく。
「行け、アクシズ・・・!」

シャアは瞑目していた。
「・・どうされたのです、大佐?」
Jが不思議そうに訊いた。
「・・いや・・・何でもない」
−−−行け、アクシズ・・・長い、長い旅の始まりだ−−−−

 ・・・・ええ。
わたしたちの長い旅は、その日にはじまりました。
食べるものは、それからもしばらく大変だったのですけど・・・
アムロとシャアが、本当に粘り強く、隅々まで捜し歩いて、大量に保存食を見つけて来てくれたんです。
ええ、それと、わたしたちがあちこちから探してきた分を合わせて、1年分くらい・・・1万5000食くらい集まりました。
それから、収穫があるまで、わたしたちは何とか食いつないでいけるようになりました。

 その後ですか?ええ・・色々と、色々とあったんですけど・・・
申し訳ありません、今日は、もう出かけなければならない時間になりました。
え・・いえ、あなたは、ほんとに聞き上手な方ですね。

 はい。きっとまた、お話しましょう。
じゃあ、ごきげんよう、ロランさん。
969月光蝶:03/12/05 04:34 ID:???
m(__)m
・・・次スレ立ててくださった方、乙!!!!

>>931
931さん、巨大トマトねた使ってしまいました・・・お許しを。

>>946-
コンバットさん、いつもの奴イイ!!(笑)。
やぱし、このスレはギャグがないと・・・・
(アムロ、肉マークが微妙に似合ってると思うのは私だけでつか?・・・
NTの感応の時、肉が光ると怖いな(笑))

>>944,954-
おおっと!!!月光蝶の3倍ハードなストーリーが降臨でつか!?
0100年だと、総帥の年齢は・・(まあスリープしてたから細かい事は考えまい)・・・。
アムロ以外は敵ではないと言う絶大な自信・・が、滑ったなシャア(笑)。
シリアスだから笑い事ではないが、プルズがタダでやられる訳も無し、次号期待してます!!

ちなみに・・・
「月は地獄だ」シリーズはこれで幕です。
もっと色々書く事があった気もしますし、あまりに文章を無駄に膨らませすぎた気もします。
・・およそSSをほとんど書いた事がない月光蝶がやらかすには、無謀な試みであったのかも知れません。
何かわかりませんが、ネ申が私に降りてこられたようで・・・。

語り部は1セッション1名登場で、J→I→C→Kです。
アムロとシャアは、視点が切り替わる所で登場します。
アムロの気持ちは顔や態度に出るし、想像しやすいのですが、シャアは判らない事が多いです。
他のキャラの視点を通す事で、かろうじて描けている状態です。

J、I、Cは物語の中の「現在」の視点から語っているのですが、最後に登場するKだけは、物語が終わったずっと後から回想した視点になっています。
・・話し相手があの人と同じ名前なのは・・・まあ、偶然として置いてください(笑)。

[没ネタ]
・缶詰隠して処刑されるプル(後で盗み食いしても罪が軽かったので没。処刑ったってギャグですし)
・謎の合成食料を開発するアムロ(元ネタの「月は地獄だ」では、何もない月で化学合成食料が開発されます)
・通常の3倍不可解で奇行が目立つシャア
・プルズについて何か知っているシャア
・疑心暗鬼で、割れたアクシズが連邦の偽装工作だと信じて疑わないプルI
・綾波なプルE
・・などなど。
(後で別の話に使うかも知れません)

・・本来は、アクシズ農業編の【黄金の秋】と言うのを書こうと思っていたのですが(何を植えるかももう決めていたので・・・)
・・・何故か、とんでもなく長く、こういうのがお好みでない方々にご迷惑を掛ける長さの【月は地獄だ】になってしまいました。
・・・暴走と乱筆、どうも申し訳ありませんでした。
m(__)m。
では次スレで、またお目にかかりましょう。
970災いを呼ぶもの・中篇(1/7):03/12/05 17:28 ID:???
宇宙世紀0100 7月7日 14:09
サイド7近海 戦闘宙域

 ビームが大きく外れたのを見て安堵するシャア。だがジェガンはさらに攻撃を続ける。
徐々に熱線は船へと近づく。
――弄ばれている。
 シャアは湧き上がってくる怒りを押さえ、なんとか突破口を探そうとする。
「ははは。お前が死ぬのが早いかな?」
 インコムから放たれたビームがサザビーのライフルを打ち抜く。
「そんなに強化人間どもが気になるのか? たかが兵器だろう。いくらでも造ればいいさ。
もっとも貴様にはもう無理だがな」
「兵器ではない! 私の……娘だ!」
 シャアの怒号とともに、サザビーがシールドをジェガンに向け投げつける。
 ただのシールドとはいえ至近距離で大質量の物体の直撃を受けたジェガンは大きくよろ
めき、包囲網の一角が崩れる。歴戦の勇士であるシャアが体勢を立て直す時間を与えるは
ずも無い。すばやく距離を詰めるとサーベルでコクピットを貫く。さらに完全に動きを止
めたジェガンを蹴り飛ばし、その勢いで船を狙っていたジェガンに急接近、迎撃の間すら
与えず斜めに切断した。
「残り二つ……。これで一つ!」
 何故かインコムの攻撃が止んでいた。その好機を逃さず、最後のジェガンへ肉薄する。
うろたえてあらぬ方向へとビームを乱射するジェガンを頭部から真っ二つに切り裂くサザ
ビー。
971災いを呼ぶもの・中篇(2/7):03/12/05 17:29 ID:???
「娘……娘と言ったか!」
 動きの止まったガンダムに止めをさそうとしたシャアだったが、ガンダムから膨れ上が
ったプレッシャーに息を呑んだ。
「貴様に……貴様に、そんな言葉を言う資格があるものかよ! おれの妻と娘を殺した貴
様などに!」
「娘を……殺した……だと」
 予想外の言葉にシャアは戸惑う。
「覚えが無いか。そうだろう。お前にとっては虫けら同然に見えたろうな、地球に住む人
間は! だから隕石落としが出来たんだろう!?」
――地球に住む者は自分たちのことしか考えていない。だから抹殺すると宣言した!
 あの日フィフスでアムロに向けた言葉を思い出す。
 ゆっくりと。だが確実に地球へと落下してゆく岩塊を冷めた眼で見ていた自分。
「判るまい! 家族が死んでいくのを、ただ宇宙から見ているしかできなかったおれの気
持ちなど!」
――人が人に罰を与えるなどと!
――私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ。アムロ!
 次々と記憶がよみがえる。地球上に光が生まれた。その中で失われていくモノをあえて
無視する。まだ始まりにすぎない……。戦闘中だ。敵に集中しろ。散漫になりかける意識
を、パイロットの本能がかろうじて繋ぎとめる。
「地獄に落ちろ! シャア・アズナブル!」
 殺意が蛇へと姿を変える。蛇はサザビーを取り囲むように蠢き、二匹の口から迸る焔は
シャアという罪人を裁かんとしていた。
972災いを呼ぶもの・中篇(3/7):03/12/05 17:30 ID:???
「……あの子らを残して、死ぬわけにはいかんのだ!」
 唇を強くかみしめたシャアは、かろうじてインコムの攻撃をかわす。唇は破れ、血が溢
れ出したが、シャアはその痛みすら自分を現実に引き止める手段として利用する。
 敵はガンダムのみ。しかしインコムとライフルによる攻撃は先のそれよりもむしろ激し
い。その苛烈を極める攻撃の中、シャアの知覚はより研ぎ澄まされ、そして決定的な瞬間
を捉える。
 インコムの操作のため動きが鈍る僅かなタイミングを計り、最大出力でガンダムに接近
し懐にもぐりこむサザビー。
「もらったぞ!」
 しかしガンダムを切り払おうとしたサザビーの左手が、ガンダムの背中から出てきたマ
ニピュレータに押さえつけられる。
「隠し腕だと!?」
 さらに右手も別の隠し腕に押さえられるサザビー。
「必ず懐に飛び込んでくると思ったぞ。化け物じみた感覚が命取りになったな」
 シャアはバーニアを噴かすが、マニピュレーターを振り払うことは出来ない。逆にガン
ダムはもがくサザビーを無理矢理に正面に据える。
「コクピットごと叩き潰してやる!」
973災いを呼ぶもの・中篇(4/7):03/12/05 17:31 ID:???
 組み合わされた両手がサザビーの頭に振り下ろされる直前、右腕を押さえていたマニピ
ュレーターが爆発した。体勢を崩されたガンダムは、それでもサザビーの左肩を叩き潰す。
 続いて、もう一方の隠し腕もビームに撃ち抜かれる。ようやく自由になったサザビーは
ガンダムとの距離をとる。
「無事か、シャア!」
「アムロ・レイ! 邪魔をするな!」
 ガンダムのパイロットが怒りの声をあげる。視線の先には内装剥き出しのνガンダムが
ライフルを構えていた。
「そんな未完成品で何が出来るものか」
 インコムがアムロに襲い掛かる。
「なめるな!」
 ガンダムがビームをかわす。追撃しようとするがアムロ機の動きは速く、またケーブル
という枷により可動範囲の限られているインコムではどこまでも追い続けるわけにもいか
ず、逆に先端部を打ち抜かれる。
「貴様は連邦の味方なのか!? それともジオンの手先か! 答えろ、アムロ・レイ!」
「そのどちらでもない!」
 もう一つのインコムの攻撃。アムロは構わずガンダムへと接近する。
「速い!」
 黒いガンダムがライフルを構えるが、狙いをつける前にサーベルに切り裂かれ爆発する。
後方に下がったガンダムを狙撃するアムロ機。黒いガンダムは機体から切り離したシール
ドで辛うじてそれを受け止める。
「待て、アムロ! 奴の相手はこの私だ」
 さらに攻撃を加えようとするアムロをシャアが止める。
「シャア、お前」
「下がっていてくれ。……私がやる。そうせねばならない」
「……わかった」
974災いを呼ぶもの・中篇(5/7):03/12/05 17:31 ID:???
「一騎討ちというわけか? こざかしい」
 サーベルを構えるサザビー。肩を破壊された左腕は垂れ下がったままだ。それに合わせ
るようにガンダムも両腕にサーベルを持つ。
「消えろ、シャア・アズナブル!」
 ぶつかり合う二体のモビルスーツ。白と黒の光が絡み合い、激しく火花を散らし分かれ、
再びぶつかり合う。その光景はまるで二体の巨人がダンスをしているようにも見える。終
わったときにはどちらか、もしくはお互いが命を失う死の舞踏。
 頭部バルカンからの攻撃を避けるため大きく距離を取ったサザビーがインコムの攻撃を
受ける。シャアはフルスロットルで強引に機体の向きを変え、すれ違いざまにケーブルを
切断する。
 インコムの無くなったユニットはデッドウェイトにしかならない。そう判断したのだろ
う。ガンダムがユニットを分離する。だが最後の攻撃として、半壊したマニピュレーター
を大きく展開し、ミサイルの代わりにサザビーに放つ。
 サザビーは自分を捕らえようとばかりに両手を広げたそれをサーベルで両断する。
「奴はどこだ!?」
 目前で爆発が起き、ガンダムの姿を見失ってしまうシャア。コクピットに警告音が響き、
直上からの熱源接近を知らせる。
「とったぞ!」
 二本のサーベルがサザビーを襲う。サザビーも懸命に捌くが、やはり二本のサーベル相
手に片腕では分が悪い。徐々にガンダムに押される。
「やらせるか!」
 サザビーが左肩を自らサーベルにぶつける。切断される左腕。
「なんだと!?」
 パイロットが驚いた瞬間、ガンダムの右手首がサーベルごと切り払われる。
さらに残った左のサーベルも根元から切断するサザビー。
「まだだ!」
 サーベルを捨てたガンダムは、空になった左手でサザビーの右手を押さえつける。二体
のモビルスーツは互いに決め手を無くしたように見えた。
 しかし手首のない右腕がサザビーの頭部に向けられる。
975災いを呼ぶもの・中篇(6/7):03/12/05 17:32 ID:???
「終わりだ。仲間もすぐに送ってやるから、安心しろ」
 腕の装甲がスライドし中から出現したガトリングガンを見たシャアは、自分が窮地に追
い込まれたことを知った。
 ここまでという考えが頭をよぎる。だがそれも一瞬のこと。それを塗りつぶすような生
への執着が、反射的な行動となって現れる。
「さ・せ・る・か」
 ガンダムの右腕を蹴り上げるサザビー。稼動範囲を大きく越えた動きに関節が軋みをあ
げる。
 宇宙空間に向かって放たれるガトリングガン。それに構わずサザビーはガンダムの胴体
部をさらに蹴り上げ、さらに自ら頭部をガンダムの頭部にぶつける。あまりに原始的な攻
撃にたまらず腕を放すガンダム。とりあえず距離を置こうとするが、その前にサザビーの
拳が腹部コクピットにめり込んだ。
「や、やった……か……」
 荒い息をつくシャア。ゆっくりと腕をガンダムから抜く。
 遂に沈黙した黒いガンダムは仰向けに漂いながら、サザビーから離れていく。
 ようやく終わった。そう思ったシャアの目の前でガンダムの右腕が持ち上がる。
「……大……切な者を……目の前……で……失う苦し……み……味わえ!」
 押し潰されたコクピットで、瀕死の男は憎しみを最後の力と変えて引き金を引く。
「しまった!」
 シャアが叫ぶ。その腕はプルたちの乗るモビルシップに向けられていた。
 間にあわない。絶望で目の前が真っ暗になる。その闇を一筋の光が切り裂いた。
 その光、アムロ機の放ったビームがガトリングガンが発射される前に機体を貫く。さら
に続けてビームで打ち抜かれた黒いガンダムは閃光とともに爆散する。
 すぐに光は小さくなり、宇宙は本来の色を取り戻す。ガンダムのあった空間をシャアは
ただ呆然と見つめた。だがそこからはもう何も感じることは出来なかった。
976災いを呼ぶもの・中篇(7/7):03/12/05 17:33 ID:???
「……アムロ」
「戻るぞ、ぐずぐずしている時間はない。プルI、準備はどうか」
『いつでも発進できる』
 後ろで他のプルたちの声が聞こえる。その中でひときわ目立つのは、シャアの安否を気
遣うプルJのものだ。
「よし、おれたちが着艦したら発進してくれ。手順はわかっているな。プルJ、シャアは
無事だよ。安心していい」
『了解した。Jも聞こえたな。少し静かにしろ』
「シャア。自力で動けるか」
「なんとかな」
 モビルシップに近づく二機のモビルスーツ。
「……全ての業を背負う覚悟はできていたつもりだったが。情けない男と笑ってくれ」
 アムロは何も答えない。もちろんシャアも返事を期待していたわけではない。
 私に白は似合わない。シャアは考える。
 Jには悪いが、あの男の言うとおりだ。過去を捨てることなど出来はしない。赤こそが
血塗られた私にふさわしい色なのだから。
「サザビーは赤く塗り直してくれ」
 そうアムロに告げる。アムロはやはり何も答えなかった。
「アムロ機、着艦する」
「サザビー、続いて着艦」
 贖罪などもはや出来るはずもない。だがせめて彼女たちだけは黒く塗りつぶされた道を
進まぬよう導こう。そのためならどんな汚名も甘んじて受けようではないか。
「……思いつめるなよ」
 ブリッジへと急ぐアムロが後ろにいたシャアに振り向かずに声をかける。
「お前は思いつめると何をするか判らん。止める側の身にもなって欲しいものだな」
「……アムロ」
「もはやおれとお前は一蓮托生だ。まったく何て事だよ」
 アムロが小さく肩をすくめる。それを見たシャアはほんの少しだけ心が晴れる。
――お前は良きライバルであり、そしてそれ以上にかけがえのない友人だよ。
 言葉には出さない。だがその想いが伝わったことをシャアは確信できた。
977通常の名無しさんの3倍:03/12/07 11:18 ID:???
>976
>――お前は良きライバルであり、そしてそれ以上にかけがえのない友人だよ。

      r'⌒⌒⌒'、
     (ミ"""メ""ミ)
     ,ヾ∩Д▼ノ <私にも友がいる。こんなに嬉しいことは無い。
    /(_ノ¥ィ \
  ⊂こ_)__)`ヽつ
978通常の名無しさんの3倍:03/12/08 00:17 ID:???
いいねえ
この二人には幸せになってほしいよホント
979通常の名無しさんの3倍
>>977
大佐よかったねぇ。・゚・(ノ∀`)・゚・。