◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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吉江豊は走っていた。恐怖のあまり目に涙を溜め、鼻水を垂らし、歯を食いしばりながら。
見てしまったのだ。彼が最も見たくなかったものを。
隠れ場所が立ち入り禁止区域に指定され、仕方なく入り込んだ路地裏にそれはあった。
月明かりに照らされたあまりに無残に変わり果てた辻よしなりの姿だった。
両腕両足に各々10本程、アクセサリーと言うにはあまりにも無理のあるボウガンの矢が、
激しく自己主張するかのように突き立っていた。さらに前歯が何本も折られており
口からも大量に出血している。そして何よりこんな無残な姿にもかかわらず
辻がまだ生きている事が吉江に大きな衝撃を与えた。もう手遅れではあったが。
「…ころして……ころして…ころして……」
辻はその言葉だけを流す壊れたテープレコーダーのようになっていた。銃声は聞こえても、
放送で死亡者を挙げられても心の何処かで信じていたのに。人が人を殺す訳が無いと。
だがアナウンサーである辻の身体は、皮肉にも自身の言葉以上の説得力で吉江に現実を見せつけた。
吉江は逃げ出した。辻を助けることも周りも気にすることもせず一心不乱に。
早くそこから少しでも遠くへ行きたかった。