◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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552◆ZNLiv1KU
夕日が完全に沈もうかという頃、二人は息も絶え絶えに体育館の真ん中に寝転んでいた。
少しして先に坂口が呟いた。
「ハァハァ…おたが…お互い……歳喰ったな……」
「本当だ……なぁ…ハァハァ…」
マサが答えた後しばらく呼吸だけが続く。
濃密過ぎる時間を過ごした二人は疲労困憊だった。だが堪らなく心地いい疲労だった。
そんな二人を祝福でもするかのような拍手が聞こえてくる。幻聴ではない。
拍手の主は窓の外で様子を窺っていた武藤敬司だった。
「いやすごくいい物見せてもらいましたよ。…でも何でここにいるんスか?」

事情を聞いた武藤はややオーバーな位のリアクションを見せた。
「はー、そりゃヒドい!いくらあのヒトらしいっつっても、ねぇ!?で今んトコわかってんのは
ケロ、小鉄さん、タナに辻アナそれとお二人ですか。でもタイガー(服部)さんとかもヘタすりゃ…」
そこまで聞いた所でそれまで殆ど喋らなかった坂口が口を開く。
「情報収集はもうそれくらいでいいか?武藤。」
武藤は完全に図星を突かれた驚きに思わずかなりの動揺を表に出してしまった。
「はっ!?なっな、何言ってんですか!!」
「そんなに驚くな。大体何年お前の世話をしたと思ってる。嘘ついてるときのお前は
仕草がオーバーになるからな。それに別に俺達はお前をどうこうする気も無い。」
坂口の言葉にマサが続けた。
「それと左耳に血がついてるぞ。お前からは見えんかったんだろうがな。
耳もしっかり洗えと昔風呂で言わんかったか?」
既に武藤の顔から驚きの表情は消え、長州と人生を殺したときの顔になっていた。
冷徹な殺人鬼の顔に。
553◆ZNLiv1KU:2001/08/20(月) 06:28
武藤の眼光は先刻までと一変し、殺意が感情を塗り潰して行く様がありありと表れていた。
マサに指摘された耳を触りながら、口元にだけわずかな笑みを浮かべ二人に話し掛ける。
「ったく、まいったなぁ。ま、そこまで分かってるって事は、オレがこれから
何するかも分かってんでしょう?こんな冷静なヒト初めてですよ…人生や長州さんだって
ビビりまくってたのになぁ。やっぱ引退した人間は死んだも同然って事なんですかね?」
二人は何も答えない。そして武藤は膝を少し気にしながら立ち上がり、腰の拳銃を抜いて
まずマサに向けた。当然表情に躊躇(ためら)いの色は無い。
そして引き金にかけた指に力を込めた時、武藤が今までに見た以上に優しい顔でマサは言った。
「生き残ったら膝、大事にしろよ?」
武藤の目が大きく見開かれるのと銃声が響くのはほぼ同時だった。
続けて、かすかに震えながら武藤は坂口に銃口を向ける。
坂口もマサの方を全く見ずにその大きな顔に負けない大きな笑みを武藤に向けた。
「色々言うヤツはいるかも知れんが、お前はまだまだウチのエースなんだからな。」
再び銃声が鳴り、体育館中に大きく反響した。

武藤は震えていた。二人との思い出が、ゲームが始まった時捨てたと思っていた
今までの多くの思い出が一気に頭の中に流れ込み、大粒の涙をこぼしていた。
膝がガクガクする。今にも地面に膝をついてしまいそうになる。しかし堪えた。
ここで膝をつくともう誰も殺せなくなる気がしたから。
数分後、シャツの胸をきつく握り締め息を落ち着かせた武藤は、
もう二人の姿を見ることもなく体育館の扉へ向かった。
老兵たちの最後で最期の想いが残るこの場所に思い出を置き去り、
武藤は戦場へと帰っていった。