◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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463只の名無し
柴田は生きていた。
不幸中の幸いというべきか、カシンがスープに混ぜたタバコの量は死に至る程のものではなかった。
さすがのカシンもタバコの致死量まではよく分からなかった。
あの男がこのゲームにおいて2度目の失敗だった。
ふらつく足元を気にしながら支給された「他の参加者の位置を感知できるレーダー」を持って図書館の外に出た。
「このままあの部屋にいても、いずれは他の参加者に見つかっちまう・・・・。」
幸い日は暮れて、辺りは暗くなっていた。
「これなら、他の参加者にも見つかりにくいはずだ・・・。今のうちに・・・・。」
図書館の100メートル南に高校があった。柴田はそれを目標に重い足を引きずりながら必死に歩いた・・・。
・・・・レーダーに反応はない。
「どうやら今日はついてるみたいだな・・・。めざましテレビの運勢・・・当たってるな・・・。これから毎日見よう・・・・。」
一度死の淵まで追い詰められた柴田はこんな事を考えられるほど落ち着いていた。
あれから何分足っただろう・・・。いつもはランニングで20秒もかからない道がどんな地方の巡業先よりも遠く感じた。
464只の名無し:2001/08/19(日) 00:06
学校の校門の壁を何とかの這い上がり、柴田は隠れることができそうな場所を探した。
校舎に忍び込み、2階の生物室らしい部屋の前に差し掛かった瞬間、レーダーが反応し始めた。
どうやらこの半径50メートル以内に誰かがいるらしかった。
廊下には人の気配は感じられない・・・。
柴田はゆっくりと生物室のドアに手をかけた。
「ガラガラ・・・・・。」
なにかが潜んでいるようには感じられない静寂が漂っていた。
しかし、レーダーの反応はよりいっそう強まった。
「誰か・・・・いるのか・・・・?」
先ほどのカシンとの「闘い」で柴田からは恐怖感は無くなっていた。
柴田は辺りを見回しながらゆっくりと歩いた。
レーダーの反応は強くなる一方だったが、柴田は怖くはなかった。
先ほどまで雲に隠れていた月がようやく顔を出し始め、この薄暗かった部屋を月明かりが照らし始めたその時、
柴田は見た。全身を紅く染めてやすらかに眠っている井上亘を・・・・・
465只の名無し:2001/08/19(日) 00:07
「井上・・・さん・・・・。」
柴田にとって6歳年上の井上は公私において兄のように慕っていた存在だった。
ある意味、自分が死に直面したとき以上の衝撃が身体を駆け巡った。
「井上さぁぁぁぁんん!!」
柴田は井上の身体を泣き叫びながら前後に揺らした。
もう二度と井上の目が覚めないことは柴田にも分かっていた。
今自分が殺人ゲームに放り込まれた身であることも忘れ、ひたすら泣き叫んだ。
「井上さんは敵じゃねえんだよぉぉ!!!」
柴田は自分の手に持っているレーダーにどうしようもない怒りを覚えた。
こういう目的の機械である以上、誰であろうと反応するのは仕方がない。
それは、柴田にも分かっていた。
柴田はほとんど残されていない力を振り絞り、レーダーを向かい側の棚にぶつけた。
柴田はそうせずにはいられなかった。
466只の名無し:2001/08/19(日) 00:08
あれから何分経っただろう?
おそらくそれほど長い時間が過ぎたわけではなさそうだったが、
柴田は今までのありすぎた色んな事を頭の中で整理しながら井上に話し掛けた・・・・。
道場で話していた時と同じように。
「井上さん・・・・・・、初めてのタイトルマッチやりたかったね・・・。俺らが邪外の二人やっつけたかったよな・・・・。」
「せっかく休んでる間に新技考えてたのにな・・・・。井上さんは何か考えてた・・・・?」
勿論、返事が返ってくることなどはありえなかったが柴田は話しつづけた。
「井上さん、俺のノートパソコン調子・・・悪いみたいなんだ・・・・。道場・・・帰ったら・・・見てくださいよ・・・。」
「俺、デビュー戦・・緊張しまくりだったんス・・・。ヘヘ・・。でも、井上さん・・・落ち着いてて・・オレ凄いなあ・・・と思ったんですよ。」
「楽しかったなあ・・・。井上さんとの試合・・・。タッグもシングルも・・・。タナケンに負けないように頑張ろうって・・・・・・約束しましたよね?」
柴田の頭に井上との楽しかった思い出が次々と浮かんでくる。
元々、柴田は涙もろいわけではなかったが、この時は自然と涙が溢れて止まらなかった。
467只の名無し:2001/08/19(日) 00:09
「約束・・・しましたよね?井上さん・・・・・?」
柴田は静かに眠る井上を見つめた。
「約束・・したじゃないっすか!!・・・お互い頑張ろうって!!井上さん・・言ったじゃないっすか!!」
今まで抑えていた感情が一気に爆発した。
「眼ぇ、開けてくださいよ!!もう一回タッグ組んで試合しましょうよ!!ベルト一緒に巻きましょうよ!!井上さぁぁぁんん!!眼ぇ開けてくれよぉぉぉ!!」
大声をあげて泣き叫ぶ柴田はもうこのゲームのことなんて忘れていた。
井上の死を自分の意識に受け入れることで精一杯だった。
「カチャ・・・」
井上に抱きついて泣き叫ぶ柴田の後頭部に冷たい感触が触れた・・・・。
「タン」
あっけない音とともに柴田の意識は途絶えた。井上と同じように。
「よかったな、仲いい奴のすぐ隣で死ねたお前は幸せ者だよ・・・。」
井上と柴田の向かい側の棚の下に転がったレーダーははっきりと反応を捕らえていた。
あの道場を5番目に出発して、今までずっとこの校舎の屋上に身を潜めていた鈴木健三の反応を。