◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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46お前名無しだろ
玄関に、人の気配は感じられなかった。
道場の門までの十数メートルの間にも、動くものは見当たらない。
西村は慎重に周囲を警戒しつつ、下駄箱へ向かった。
まず天山の靴を回収し、次いで自分の靴を回収すべく、下駄箱へ。
だが、自分の靴に手を伸ばした時、西村はふと思った。
そうだ。
何故わざわざ、靴を取りにここへ来たのだろう。
今は非常時だ。
防災訓練の時だって、上履きのまま外へ出るのが当り前の筈。
悠長に靴を履き替えて逃げる人なんて、居やしない。
一刻を争うというのに、どうして、こんなことを……
47お前名無しだろ:2001/08/15(水) 12:24
危機感の欠如
それは、参加者の誰もが同じだった。
火事や地震と違い、殺し合いという状況に備えている人間などいない。
しかも、今まで出発した参加者には、主催者である猪木以外への殺意は、感じられなかった。
誰も人を殺すなんて、出来やしない。
とりあえず外へ出れば、何とかなるだろう。そう思っていた。
だが、そんな淡い期待は、さっきの銃声によって打ち消された。
信じたくは無いが、既に殺し合いは始まっている。
48お前名無しだろ:2001/08/15(水) 12:41
とにかく、ここまで来てしまった以上、早く靴を取って戻ろう――
西村は心の中でそう呟くと、下駄箱から自分の靴を取り出した。
その時だった。
カチッ、という金属音とともに、何かが引っ掛かる感触が伝わって来る。
靴や下駄箱の構造上、引っ掛かる物があるとは思えない。
嫌な予感がした。
暗がりの中、西村は下駄箱の中を覗き込む。
そこには、ガムテープで固定された丸い物体が、一つ。
そして靴には針金が巻かれ、その先には
ピンを思わせる金属部品が結び付けられていた。
――手榴弾だ!
しかも、靴を取り出したことにより、ピンは外れている。
仕掛けた人物を詮索する時間など無い。
西村は全速力で、その場から立ち去るべく走り出した。
だが、運命は脱出を簡単に許してはくれない。
走り出した西村の眼前に、突然、人影が現れた。
49お前名無しだろ:2001/08/15(水) 12:52
肩がぶつかった。
足がもつれ、西村は廊下へと倒れ込む。
バッグと靴が、勢い良く床を転がって行った。
……誰だ!?
西村は下駄箱の方向へと振り返る。
そこには、虚ろな目をした一人のレスラーが、ぼんやりと立ち尽くしていた。
高岩 竜一
今は新日の子会社ゼロ・ワンに出向している寡黙なレスラー
しかし、今の高岩には、普段の感じが微塵も感じられない。
当然だ。
今は殺人ゲームの真っ只中なのだから。
……だが、それ以上に、今の高岩の様子がおかしい。
彼は腹部を手で押さえている。
そしてその手は、赤黒い血液に濡れていた。
「西村さん……俺、撃たれちゃったよ。どうしよう……」
高岩は、声を絞り出すようにして、語り掛ける。
その声は震え、息も荒い。
どんな素人が見ても、致命傷を負っている事は明白だった。
(どうしよう、って……)
西村は答えられなかった。答えられる筈もなかった。
手榴弾を発見し、そして傷付いた高岩と遭遇するまで、ほんの数秒間。
突然すぎる恐怖と衝撃の連続に、西村の思考回路はパニックに陥っていた。
50お前名無しだろ:2001/08/15(水) 13:00
「……逃げろっっ!!」
西村は咄嗟に叫んだ。
そう、手榴弾のピンを引いてしまっている。
もう時間が無いのだ。
一刻も早く、ここから離れなければ――
そう思い、西村は体を起こそうとした。
その瞬間だった。
大音響とともに、高岩の背後の下駄箱が吹き飛んだ。
強力な爆風とともに、埃や破片が彼ら達に降り注ぐ。
そして、その中でもひときわ大きな金属片が、高岩の後頭部に突き刺さった。
「ぐっ」と、高岩は小さなうめき声をあげる。
それが、彼の最期の言葉だった。
倒れ込み、動かなくなった高岩の体が、みるみる血だまりに沈んでゆく。
西村は震えながら、その血だまりが広がってゆくのをじっと見つめていた。
そうする事しか、出来なかった。
51お前名無しだろ:2001/08/15(水) 13:46
(俺の……せい?)
(俺が、不用意に靴を取りに来たから?)
(俺が、手榴弾のピンを抜いてしまったから?)
(だから……高岩は死んでしまったのか?)

西村の心の中に、自責の念が渦を巻く。
あの爆発以前に、既に高岩は致命傷を受けていた。
自分が何もしなくても、彼は助からなかっただろう。
しかし、直接の死因は、あの爆発にある。
防ぐ事が可能だった筈の、あの爆発。
人を殺した
人を殺した
人を殺した
同じ言葉が、何度も何度も西村の頭を駆け巡る。
「違う!あれは……あれは……」
西村は頭を抱えて、泣き叫んだ。
気が変になりそうだった。
「西村さん、しっかりしろ!」
その時、天山の声がした。
52お前名無しだろ:2001/08/15(水) 13:55
ハッとして、顔を上げる西村。
いつしか、西村の傍らには天山が寄り添っていた。
「山本……」
「西村さん……落ち着こうよ。事故だったんだろ?
 高岩には悪いけど……運が、悪かったとしか……」
と、ここで西村は今の状況に気付いた。
自分は今、天山に慰めてもらっている。
道場の時とは、全く逆の立場になっているのだ。
(そうか……俺、強がっていただけなんだ……)
必要以上に張りつめていたものが、段々と緩くなってゆくのを感じた。
緊迫した状況に変わりは無いが、西村は少しずつ、冷静さを取り戻してゆく。
「山本……ありがとう」
西村は靴を天山に渡すと、自分も靴を履き替え、バッグを拾い上げた。
あと30分弱で、ここは立入禁止エリアになってしまう。
早くここから立ち去らなければ……
しかし、ここでまた新たな訪問者がやって来た。
「おいおい?何の騒ぎだ、これは……」
53お前名無しだろ:2001/08/15(水) 14:12
そこに現れたのは、ケンドー・カシンだった。
カシンは何故か、バッグ以外の荷物を沢山抱えている。
「石澤……どうしたんだ?その荷物」
西村は目を丸くした。
確かに、私物の持参は自由というルールだ。
しかし、道場を出た時のカシンは、バッグ以外の物は持っていなかった。
「ああ、これか?ちょっと倉庫へ寄って、取って来たんだよ」
倉庫から取って来た荷物――
その中には、ジュラルミンケースやカシンベルトなど、持てる限りのガラクタが詰まっていた。
カシンは苦笑する。
「どうせなら、最後は自分の好きな事、やりたいしな……」
最後は――
とてつもなく、重い言葉だった。
カシンに戦う意思が無いのは明白だが、この言葉は、
彼が生き残る事を放棄するとも取れるものだった。
「石澤……お前、生き残りたくないのか?『真の格闘家』になりたいと、思わないのか?」
西村が問いただす。
しかし、カシンの回答は実にあっさりしていた。
54お前名無しだろ:2001/08/15(水) 14:22
「まぁ、これに参加してる以上、気持ちが無い訳じゃない。
 でも、人殺しをしてまで、強くなってもな。後味悪いだろ。そんなとこさ。 」
「でもな……」
カシンはそう言うと、高岩の亡骸に近付き、その体からバッグを引き剥がした。
「やっぱり無駄死にはいやだな。それに……」
そしてカシンは、ポケットから拳銃を出し、構えた。
「むやみに人を信じたら、負けだぜ!」
55お前名無しだろ:2001/08/15(水) 14:35
それは一瞬の出来事だった。
数発の銃弾が、天山の体を貫いてゆく。
天山は、痛みを感じるより早く、着弾の衝撃によって床へと倒れこんだ。
「――山本!!」
西村は信じられなかった。
少なくとも、話していた時のカシンの雰囲気からは、この状況は予測出来なかった。
だが、これは現実だ。
現に天山は、カシンの放った銃弾を受け、血にまみれている。
次いでカシンは、西村にも銃口を向けた。
手を伸ばせば届く程の至近距離だ。
外すことは有り得ない。
西村は咄嗟に、自分のバッグを彩子の手めがけて振り回した。
カシンの手からグロックが弾かれ、床を転がってゆく。
その隙に、西村は倒れた天山の手を引いて、物陰へと隠れた。
「山本!しっかりしろ!」
西村は、苦痛に喘ぐ天山に呼び掛けながら、バッグの中の武器を探す。
カシンは銃を拾い、再び攻撃して来る筈だ。
時間稼ぎで構わない。カシンを足止め出来る武器を……西村は祈った。
カシンは廊下の端まで転がった銃を拾い上げると、西村たちが隠れた物陰へと歩を進ませる。
56お前名無しだろ:2001/08/15(水) 14:46
そして銃撃が始まった。
スチール製の下駄箱が、激しい金属音を打ち鳴らす。
西村は銃撃の恐怖に震えながら、手にした武器を天井へと掲げた。

パンッ!パンッ!パンッ!

自分の物とは違う銃声に、カシンは素早く身を隠した。
4列ほどの下駄箱を挟んで、双方が対峙する。
カシンが西村の出方を警戒している一方、西村の心は更に不安を増していた。
どうにかカシンを牽制する事は出来たが、それとて一時的なもの。
どうすれば……どうすればいい?
西村の手中にあるパーティー用のクラッカーは、ほんの少しだけ、熱かった。
57お前名無しだろ:2001/08/15(水) 15:08
「石澤、どうして!?どうして天山を撃ったんだ!?
 人を殺したくないって言ったじゃないか!」
西村はカシンに呼び掛ける。
時間稼ぎをしたいという思惑もあった。
だが、カシンの行動に、どうしても納得がいかなかった。
理由を聞きたかった。
「死にたくないから、やっただけだ。……高岩を殺したんだろ!?
 あいつを殺したお前達を、信用できるわけがないだろ!」
カシンは強い調子で言い返した。
誤解している。
「違う!高岩を撃ったのは俺達じゃない!
 それに、あの爆発も偶然……偶然だったんだよ。信じろ!」
だが、カシンは西村の弁明に耳を貸す事はしなかった。
「言い訳なんか聞きたくない。理由はそれで充分だろ……」
カシンが動き出した。
一歩ずつ、足音が近付いて来る。
58お前名無しだろ:2001/08/15(水) 16:07
西村は、急いで天山のバッグを探り始めた。
もうクラッカーでは誤魔化せない。
今度こそ、武器らしい物が入っていますように……西村は祈った。
だが、祈りは届かなかった。
西村が手にした武器――それは透明プラスチックで成型された水鉄砲だった。
勝負にならない。
段々とカシンの足音が近付くなか、西村は今度こそ死を覚悟した。
ここで天山と一緒に殺される。
嫌だ。嫌だけど……
西村は生き残る事を諦めかけてゆく。
しかしその時、意外な声が玄関に響き渡った。
「お前達!道場内での戦闘は止めろ!コノヤロウ!」