◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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35お前名無しだろ
「威嚇射撃!」
猪木の号令が飛んだ。
それに合わせて、兵士達が一斉に床へ向けてマシンガンを発射する。
ただならぬ轟音とともに、床面のコンクリートが削られ、破片が宙に舞う。
圧倒的な『実弾』の恐怖。
その威力の前に、泣き叫んでいたレスラー達の動きが一瞬にして止まった。
そして、数秒間の掃射が終わる直前――
床に跳ね返された弾の一発が、蝶野正洋 の左膝をかすめた。
「痛ェ!」
蝶野は傷口を押さえ、その場にうずくまった。
「――蝶野さん!!」
その様子を見た中西学が、慌てて蝶野のもとへと駆け寄る。
「大丈夫ですか!?蝶野さん!」
中西はそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し、それを蝶野の膝へと巻き付けた。
野人としての本能か、手際の良い応急処置だ。
「大丈夫だ。かすり傷だから……ありがとう」
蝶野は苦痛に顔を歪めながらも、中西に礼を言った。
確かに、弾は膝をかすめただけだった。
あと数ミリずれていたら、確実に骨を砕き、歩く事さえ出来なかっただろう。
しかし、弾を受けた際の痺れと出血は、普段の『かすり傷』とは比較にならないものだった。
教室が『一応の』平静を取り戻した所で、再び猪木が話し始める。
「まったく、お前達は……これ以上、俺の手で参加者を減らしたくない。
 しかしまぁ、驚くのも無理はねえか。 」
36お前名無しだろ:2001/08/15(水) 09:38
この時、西村修は状況を整理し、理解するのに必死だった。
自分は『プログラム』に選ばれた。
間違いなく、『真の強者』をめぐる戦いだ。
ここにいるレスラー達と、命を賭けて。
道場で見慣れた人や、親友……
今、隣で震えている天山とも、戦うかもしれない。
そんな、そんなこと……わからない、どうすればいいんだ……
冷静な判断をする為に、現状を整理するつもりだった。
しかし、考えれば考える程、気持ちは混乱してゆく。
頼む、誰か、助けて……
だが、そんな西村の願いを無視するように、猪木の宣誓が響き渡った。
「ではこれより、プログラムを開始する!
 制限時間は三日間。新日道場半径10キロ全域が戦闘エリアとなる。
 勿論、市民の退避は完了している。
 お前達の両親にも既に連絡済だ。後悔の無い様、思う存分やりたまえ!」
37お前名無しだろ:2001/08/15(水) 10:00
出発の順番はランダムだった。猪木がくじ引きで決めていた。
永島が用意した箱の中に猪木が手を入れ、1枚の紙を引く。
「それでは、最初に出発する者の名前を発表する……村上一成くん」
全員の視線が、彼に集中する。
参加者中小川直也、藤田和之、安田忠雄は新日以外からの参加者だ。
「は、はいッ!」
UFOのティーシャツに身を包んだ村上は、上ずった声で返事をし、立ち上がった。
そして、顔を強張らせながら教室の出口へと進む。
「私物の持参は自由だが、くれぐれも『お荷物』にならないよう、注意しろ。
 それから、出口で支給するデイパックには、武器がランダムで入っている。
 有効に活用し、円滑にプログラムを進めて貰いたい。以上だ」
村上は出口でデイパックを受け取ると、教室内へ向き直り、深々と一礼をした。
そして、一目散に外へと駆けて行く。 次の生徒の出発は2分後だ。
皆一様に怖がっていたが、中には「やる気」になっているレスラーがいるかもしれない。
特に村上の場合、参加者は皆、敵対していた者ばかりだ。
心を許せる人間が居ないことが、村上の不安感を更に増大させていた。
早くここから離れなければ…… その言葉だけが、村上の心を支配していた。
教室では、2番目に出発するレスラーの名が呼ばれた。
「それでは、次、……中西学くん!」
中西は「はいっ」と返事をして立ち上がったものの、一歩が踏み出せない。
「大切な人達」のことが気になって、傍に居たくて、仕方なかった。
親分の長州と、憧れの蝶野さん。
長州は泣き止んでこそいたものの、ずっと俯いたままだ。
そして蝶野は、傷を負った左足を、ずっと押さえている。
どうしよう……ふたりを放って行くなんて、出来ない……
迷う事が許されない状況の中、中西は出発すべきか迷っていた。
その時、なかなか動こうとしない中西に気付いた蝶野が、微笑みながら声を掛けた。
「中西……俺なら、大丈夫だから……」
38お前名無しだろ:2001/08/15(水) 11:03
「蝶野さん……」 中西の瞳が、徐々に潤んでくる。
蝶野とは離れたくない。でも、離れなければならない。
そして蝶野の言葉は、別離への選択を迫る言葉。
わかってる。わかってるけど、その一歩がどうしても踏み出せない。
「中西、早くしろ!」 猪木は冷徹に、出発を促す。 「はい……」
中西は力無く答えた。しかし、まだ歩き出す事は出来ない。
その時――
蝶野がスッと立ち上がると、突然、中西を力いっぱい抱きしめた。
「ちょ、蝶野さん……?」
中西は動揺を隠せなかった。蝶野さん、どうしたんですか?急に……
そしてチ蝶野は、いつもにも増して、優しく語り掛ける。
「中西……諦めちゃ駄目だ。諦めたら、すべてがそこで終わってしまう……」
「蝶野さん……」 中西の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
蝶野は抱きしめた両手をほどくと、じっと中西の顔を見つめる。
中西を見る蝶野の表情は、普段と変わらない、優しい笑顔だ。
 (どうして蝶野さんは、そんな優しい笑顔を見せるんだ?
 三日後にはもう、二人共この世にいないかもしれないのに……)
蝶野は言葉を続けた。
「よくわからないけど……必ず、何か方法があるはず。みんなが助かる方法が……
 だから、そんなに悲しい顔をするな。 」
今の中西に、笑顔を作る事は不可能だった。
だが、蝶野の言わんとすることは、しっかりと伝わっていた。
「わかりました……長州さんにも、一言、掛けてあげてください」
中西はそう言うと、出口へ向かって歩き始めた。
そしてデイパックを受け取ると、一旦立ち止まり、蝶野に向かって大声で叫んだ。
「次のダッグマッチ、アルゼンチンでギブアップしてくださいね!」
蝶野が頷く。 中西はそれを確認すると、夜の闇へと走り去って行っ
39お前名無しだろ:2001/08/15(水) 11:24
出発の点呼は続く。 次いで、永田の名が呼ばれた。
しかし、永田は何の反応も示さない。
あの時からずっと、小嶋の手を握ったままだ。
「永田、早くしろ!コノヤロウ!このままだと、プログラムの進行を阻害するものとして、
お前を排除するぞ!コノヤロウ!」
猪木から最後通告が発せられた。
それに反応するように、ようやく永田が動き出す。
永田の手から、小嶋の手が離れた。
「小嶋……じゃあな、行って来る。待ってろよ……」
永田は俯いたまま、返り血を拭う事もせず、ゆっくりと立ち上がる。
そして、教室の出口ではなく、猪木の居る教壇へと向かった。
数秒後―― パシッ、
永田の平手打ちが、猪木のあごを捉えた。
兵士達が一斉に永田に向け銃を構えるが、猪木がそれを制止する。
猪木は叩かれたあごを押さえつつ、じっと永田を見た。
永田の瞳は、さっきまでの無気力さが消え、怒りに満ちていた。
「絶対に……絶対に、許さねえぞ!」
永田はそう言い放つと、足早に出口へと向かう。
意外なことに、猪木は永田を咎める事もせず、ただじっと永田の様子を見ていた。
出口へ向かう途中、再びシートが被せられた藤波の死体の前で、夕子は足を止める。
藤波は永田にとって尊敬する先輩であった。
この短い時間の間に、自分の好きな人が相次いで去って行く。
しかも、明らかに『見せしめ』として殺された……
具体的な策がある訳ではなかった。
しかし、永田の心の中には、猪木に対する復讐心が沸々と湧き上がっていた。
「藤波社長……長州さんを、守ってあげてくれ」
永田はそう呟くと、デイパック受け取って教室を去って行った。
40お前名無しだろ:2001/08/15(水) 11:33
その後の出発は順調だった。
順調といっても、”中西や永田と比べたら”というレベルではあったが。
目眩を起こして倒れていたライガーは、歩くことがやっとだった。
長州力も、蝶野に促され、力無く教室を後にする。
その蝶野も、左足を微妙に気にしながら、出発して行った。
一人、また一人と、教室から参加者が消えて行く。
そして、西村修の番がやって来た。
勿論、行きたくなんかない。
しかし、この場で抵抗しても無駄なのは判っている。
(行くしか、ないんだな……)
名前を呼ばれ、立ち上がろうとする西村。
と、その西村の右腕を、天山広吉が掴んだ。
「西村さん……大丈夫だよな。みんな、人を殺したりなんか、しないよな……」
天山の顔は蒼ざめ、恐怖と不安に震えている。
「山本……大丈夫だよ」
西村は優しく語り掛けた。
怖がりな天山の心を、少しでも落ち着かせなければ……
「みんな大丈夫。そんな簡単に、人を殺すことなんて――」
西村がそう言い始めた瞬間だった。
41お前名無しだろ:2001/08/15(水) 11:57
パンッ、パンッ、パンッ、
乾いた銃声が、外から聞こえてきた。
残っていた全員が、ビクッ、と肩を震わせる。
誰もが信じられなかった。
(まさか、本当に「やる気」になっている奴ががいるの!?)
「嫌だー……こんなの、嫌だーーー!!」
天山は耳を塞ぎ、激しく首を横に振る。
西村の言葉に、わずかでも希望を持とうとした矢先の銃声。
容赦ない現実が、天山の希望を一瞬にして打ち砕いていった。
「山本……玄関で待ってるから!」
西村はそう言い残すと、デイパックを受け取り、教室を出た。
恐怖に震える天山を、このまま放っておくことなど出来ない。
だからといって、迂闊に外で待ち合わせるのは危険だ。
さっきの銃声は、入り口の辺りから聞こえてきた。
標的にされる可能性が高すぎる。
次に出発するのは、天山。
道場内で待っていれば、安全かつ迅速に天山と合流出来る筈。
靴だけ取りに行って、裏口から出よう……
西村はそう考えた。
しかし、それが悲劇の始まりだとは、この時、西村は知る由も無かった。