◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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271◆ZNLiv1KU
このゲームの性質を考えれば無意味に大声など立てるものではない。
自分の居場所を知らせることは何か目的の無い限り自殺行為にしか成り得ない。
しかし小川からはそんな配慮は微塵も感じられなかった。
今右手にモップの柄、左手には支給された物であろう機動隊の持つような
ジュラルミンの盾を持っているとは言え、橋本の前に仁王立ちで立ちはだかっている事からも
配慮の無さを感じさせた。小川らしいと言えば小川らしいのだが。
そして今、小川はリングで対峙した時以上の殺気を放ち半狂乱状態で橋本を睨みつけている。
「お前が村上を殺ったのかっつってんだ!!!!」
言うのが早いか小川は躊躇無くモップの柄を振り下ろした。
咄嗟に飛び退いた椅子に柄の先のT字の金具がぶつかると、金具はぐにゃりと曲がった。

橋本は驚いていた。急に小川が現れた事よりも村上を殺したと思われている事に。
(冗談じゃない!被りたくない濡れ衣まで被せられては死ぬにも死ねない。)
「ま、待て小川!オレはじゃない!!」
「じゃあ誰が…やったんだよ!!!?」
聞く耳も殆ど持たない風に、小川は叫びながらモップの柄を横薙ぎに振り回した。
激しく壁に叩き付けられたT字の金具は柄から弾け飛び、
カウンターを飛び越え大きな音を立てて流しに飛び込んだ。
何とか小川を説得しようとするが言葉が思い浮かばない。視線を巡らせた橋本は苦し紛れに言った。
「見ろ!オレの武器はそこの毒薬だ。簡単に殺せるわけ無いだろう!」
あまりにも意味の通らない言い訳だった。
(ダメだ…)
橋本は半ば諦め気味に覚悟を決めた。このまま殺されようと。
(どうせ死ぬつもりだったしな…)
心の中で今静かに家族に別れを告げた。
272◆ZNLiv1KU:2001/08/17(金) 15:14
しかし意外にも小川に反応があった。うつむき気味に何かブツブツとつぶやいているのだ。
「…そういやあの辺は血だらけだったな……一成の肩に鉄砲の傷あったし…」
意図せぬことではあったが説得は成功したようだった。

橋本は内心ホッとしていた。
そして自殺しようとした、また殺される覚悟を決めた筈の
さっきの自分との心境のギャップになんとも言えず苦笑いを浮かべていた。
273◆ZNLiv1KU:2001/08/17(金) 15:15
橋本は落ち着いた小川から村上の遺体の状態などについて聞いた。
カウンターの影に座り、酒をあおる小川の大きな身体は小刻みに震えていた。
(信頼してた猪木さんに裏切られ弟分の村上の死体まで見たんじゃ無理もないな)
だがそんな橋本の考えを裏切るように小川は重くしっかりとした声で言った。
「オレ許さないっスよ…一成殺したヤツも、猪木さんも!」
小川の目に恐怖心は微塵も感じられなかった。その瞳には純然たる怒りの光だけが灯って見えた。
「橋本さん。一緒ににやりましょう!こんなモンブッ潰しましょうよ!!」

その目を見た橋本に何か後ろめたいような気持ちが去来する。
がむしゃらにベルトを目指しトレーニングに明け暮れていた、
前だけを見つめていたあの頃の自分に心の中を覗き見られた気分だった。
「い、いや…オレは人を殺すなんて……イヤ…なんだ…」
耐え切れず目線を逸らし、なんとかそれだけつぶやいた。
途端に小川は感情を昂ぶらせ橋本に掴み掛かった。
「何言ってんスか!?橋本さんだって家族いるんでしょう!!このまま死んでいいんスか!!?
アイツなんてまだ結婚したばっかだったのに…」
思えば涙に目を潤ませた小川など初めてだった。
そして感情が真っ直ぐな分その台詞が深く心に突き刺さった。
そして橋本は決意した。もう少しだけ戦ってみようと。
人とではなく、この辛い状況から逃れるために家族すらも捨ててしまおうとした自分の弱さと。
殺したくは無い。そしてそう思っている者は多い筈だ。だからこそなんとか出来るかも知れない。
既に何人も死んでしまっている現状を鑑みればあまりに甘い考えだとわかっていたが、
そう考えることだけが現状を脱する唯一の望みだということもわかっていた。

表情の変化から橋本の決意を汲み取った小川は小さく頷いた。
その時小川の背後から二人のものではない声が響いた。
「へぇ、結構仲良かったんだ。」
そこにはマスクを取ったエル・サムライこと松田納がいた。
カウンターから身を乗り出したボウガンと共に。