◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

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258◆ZNLiv1KU
橋本は新日所属時代に行きつけだったバーにいた。
人相は悪いが気のいいマスターが一人でやっている小さな店だった。
頻繁に通ったわけではないが独りで飲みたい時は決まってここに来て
夜通しマスターと話した。思えば迷ったときが多かっただろうか。
今回もそうだ。橋本は迷っていた。
レスラー達と殺し合うべきか助け合うべきか、そんな事ではない。
―――自ら命を絶とうか迷っていた。

まぶたの裏に焼き付いて離れないシーンがその思いを強くさせた。
長州が高岩を撃った場面だ。
あの時橋本は高岩に声をかけようとしていた。協力して殺人ゲームを乗り切ろうとしていた。
だが一発の銃声でそんな考えは打ち砕かれた。
倒れた高岩を助けることも走り去る長州を追いかけることも出来ず
橋本はただがむしゃらにその場から逃げ出し、
気付いたときにはバーの前にいた。
当然扉は閉まっていたため、道路に面した窓を割り中に入った。
誰もいない店内はひどく広く感じたが、なんとも言えない懐かしさに包まれた時
彼はデイパックから「毒薬」と書かれたラベルのついた瓶を取り出し手近の席についた。
猪木の直筆らしいそのラベルには小さく「自殺なんてするんじゃねぇぞ馬鹿野郎」とも
書かれてあった。
「…どっちがバカヤロウだよ……」
そうつぶやきながら橋本の顔には少し笑みすら浮かんでいた。

ただ、その笑みは乾いていた。
259◆ZNLiv1KU:2001/08/17(金) 06:35
母子家庭に育った橋本は父親のいない子供の寂しさを悲しみを良く知っている。
だがそれ以上に人を殺してまで生きるのが自分にとっても家族にとっても嫌だった。
例えそれがこのゲームを強制した猪木だとしても…
そんな思いが橋本にバーのマスターを求めさせたのだろう。
しかし目に見えないマスターは何の福音ももたらしてはくれなかった。

橋本は毒薬を適当に入れたグラスによく飲んでいたウィスキーを静かに注いだ。
瞬く間に毒薬が溶け出しアーモンドの香りがする。青酸系の毒のようだ。
そして意を決しグラスを口に近づけた瞬間、怒号のような大声が狭い店内に響き渡った。
「村上殺ったのはてめぇか!!!?」
怒号の主は小川直也だった。