◇◆★新日バトルロワイヤル★◆◇

このエントリーをはてなブックマークに追加
2521さん代打 ◆oOfl/2go
夕方が近付いていた。
街中にあるスポーツジムで、小原は一人、佇んでいる。
「PRIDEに出たい……」
彼はそう呟いた。
新日に所属したままPRIDEに出場したのは、カシンだけだった。
カシンにはアマレスでの実績があったが、小原には大した実績がなかった。
先日やっと安田との格闘技戦を組んでもらえた程度だ。
でも、やっぱりPRIDEに出たい。
所詮安田戦は気休めでしかない。
「俺にはこれしか無い。俺の未来は、PRIDEと共にあるんだ」
小原は、床に無造作に放られたオープンフィンガーグローブに手を伸ばした。
そしておもむろに両手にはめる。
天井から吊るされたサンドバックを無心で叩き続けた。
体に染み付いた腕の動きは、流麗に乾いた音をを奏でて行く。
そして、ひとしきり叩き終わったその時――
パチパチパチ……
小さな拍手が聴こえた。
「誰だ!?」
小原は慌てて振り返る。
ジムの奥には、藤田が一人、佇んでいた。
2531さん代打 ◆oOfl/2go:2001/08/17(金) 03:36
「あ、ご、ごめんなさい……驚かせてしまったみたいで……」
小原は、藤田に殺意が無いのを感じ取ると、ホッと一息ついて、警戒を解いた。
「いや、気にしないでくれ。お前、確か……格闘技を……」
「はい、アマレスを。学生の頃から、ずっとやってました」
「そうか。お前は……プロレス、好きか?」
意外な質問に、藤田は少し戸惑った。
「え?は、はい……小原さんは……好きじゃないんですか?」
小原は、表情を曇らせる。
「正直言ってな……辛い、って思う時のほうが多かった。
 変に周りに期待されちまって、それがプレッシャーになってた。
 『もっと伸び伸びと、自由にやりたい』って……いつも思ってた」
小原は赤く染まり始めた空を見ながら、溜め息をつく。
藤田は、ただ黙って小原の話を聞いていた。
「T−2000でも、みんな、変に気を遣うし……
 もっと、晴れ晴れとした気分で、プロレスをやりたいんだ。
 気持ちの通じ合える仲間といっしょに……だから、お前が羨ましい……」
それきり、小原は黙り込んでしまった。
重い時間が、二人の間を流れて行く。
2541さん代打 ◆oOfl/2go:2001/08/17(金) 03:39
「あの……良かったら、一緒にスパーリングしませんか?」
突然、藤田が提案した。
「……え?」
「色々と辛いのは解りますし、今は殺し合いの最中ですから、
 晴れ晴れとした気分という訳にはいかないと思いますけど……
 でも、さっきのパンチ、なかなか様になってました。
 気休め程度にしかならないと思いますけど、一緒に、スパーリングしませんか?」
「でも……」
「ここはリングもありますから、本格的にできますよ。
 それに……思い詰めたままじゃ、何も出来ません。気分転換も必要ですよ。
 ……スパーリング、しませんか?」
藤田はそう言うと、ロープをまたぎ、リングの中央に立った。
「気分転換、か……そうだな。やるか」
小原も、リングに入る。
「じゃあ、5分1ラウンドでいいですか?」
「ああ。練習だからな。それでいこう」
「わかりました。それじゃ……始めましょうか」
リングが軋む音が、ジムを包み込む。
一度も合同練習をしていないのに、互いの手の内を読みあった、流れるようなスパーが続く。
とても、殺し合いが行われている街の風景には思えなかった。
小原の心に、束の間の充実感が満ちて行く。
2551さん代打 ◆oOfl/2go:2001/08/17(金) 03:40
そして5分が経ち、スパーリングが終わった。
小原は、スッキリした表情で藤田に向き直る。
「ありがとう。ちょっとだけど、気持ちが楽になっ……」
その瞬間、小原の胸に銃弾が撃ち込まれた。
サイレンサーを装備したベレッタから、何発も、何発も、弾が撃ち込まれる。
「藤田、どうして……」
小原はそのまま、床に倒れ込んだ。
倒れ込んだ衝撃で、リングが軋み、奇怪な音を発する。
藤田は銃を構えたまま、小原に向けて呟いた。
「石澤さんが言ってました。無闇に人を信じたら負けだ、って……
 でも、スパーリングは楽しかったです。それじゃ……さようなら」
そう言うと、藤田は小原の頭に銃口を押し当て、引き金を引いた。
西村と別れた後、ずっと考えた末の藤田の決断だった。
赤い夕焼けが、赤い血で染まった小原の体を照らしていた。