司馬遼太郎(他)風にプロレスを語るスレ 二の章

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1お前名無しだろ
この稿続く。

前スレ:
復活!!司馬遼太郎風にプロレスを語るスレ
http://sports9.2ch.net/test/read.cgi/wres/1129296734/
2お前名無しだろ:2006/10/27(金) 22:56:12 ID:2rkjpnML0
「どうやら、おれが2をとるようだ」
このスレの常連である某が、手放しで喜んだ。
3お前名無しだろ:2006/10/27(金) 23:31:48 ID:X+4w5K1w0
>>1らスレ住人は、次スレに移った。乙である。自然筆者もここから稿を改めて
「ニの章」とする。
4お前名無しだろ:2006/10/28(土) 00:02:53 ID:NOGADSAC0
(他)ってのが控えめだけど主張があっていいな。作品の幅が広がりそうで(・∀・)イイ!!
5お前名無しだろ:2006/10/28(土) 00:04:11 ID:GzI/XZa50
実質3スレ目だけど乙。
6お前名無しだろ:2006/10/28(土) 00:28:55 ID:kjNrF7i9P
>>1、乙)
 名無しは思った。
 次スレが、立ったのである。
 そして、
(明日からまた、一日一保守ageじゃ)
 と、爽やかに微笑むのであった。
7お前名無しだろ:2006/10/28(土) 05:43:09 ID:xSoazjCd0
>>1 乙

>>3
なつかし!
これは竜馬が行くだっけ?
8お前名無しだろ:2006/10/28(土) 19:10:27 ID:q3cy20lP0
なるほど、新スレである。
9歴史の中の日本:2006/10/28(土) 20:35:57 ID:6VU16cxE0
さて、イデオロギーのことである。
イデオロギーというものは宗教と同様それ自体が虚構であることを思わねばならない。
虚構はその虚構にプヲタが酩酊するときしか実在しない。
たとえて言えばイデオロギーは水ではなく酒であり、
それに酩酊できる体質の者以外には本来マボロシのものなのである。
私がUWFに懐疑をもったのは保守的なツマラナイプヲタということではなく、
単に当時のUWFというイデオロギーに酩酊できなかっただけのことであり、
いわば酒が飲めないたちというだけにすぎない。
10歴史の中の日本2:2006/10/28(土) 20:47:23 ID:6VU16cxE0
さらにいえばイデオロギーをひとたび飲めば大酔を発し、
大酩酊できる前田日明のような体質の人のほうが人間の中で稀少である。
酩酊体質はその稀少性においてつねに孤高である。
悲壮であり、さらにその稀少性において栄光をもちうる。
さらにその稀少性において、非酩酊体質者をつねに恫喝すらでき、大いに恫喝するのである。
つづいていえば、プロレス業界の裏方であるターザン山本でさえ酩酊体質であった。
哀れな、しかしもっとも比率の高い、その意味においてもっとも人間的な非酩酊体質のプヲタの一群を
「ショッパイよ〜」と卑下したりする。
人間が人間に対してこれほど無理解で失礼な言いかたはないであろう。
「もっとタダの人間を愛せよ」なのだ!(ターザン風)
11歴史の中の日本3:2006/10/28(土) 20:49:59 ID:6VU16cxE0
変節ということはなにか、としきりに問われる時代になった。
変節者が、だいぶ出ているらしい。
この現象は、わずか数年のプヲタ経験しかない私でさえ、総合格闘技登場の前後を通じて大量に見聞した。
最強論型プヲタが総合登場後、エンタメ型プヲタになったのを多く見た。
しかしこれについても、私は変節を罵る人を罵りたい気持ちである。
酩酊者にとっては、変節が、あるいは自然な生理現象であるのかもしれないのである。
酩酊的体質は酒(最強という虚構)を欲し、アルコールの中断をおそれるが、
それでもなお一つの虚構に失望したとき、あるいは一つの虚構が時代おくれになったとき、
中断せざるを得ない。
そのときはすでに他の酒をもとめているか、すでに飲みはじめており、
たとえばそのことは、UWFのトップレスラーたちが、総合登場後にそろって格闘技の道に進んだということを思いだすだけでいい。
12歴史の中の日本4:2006/10/28(土) 20:56:27 ID:6VU16cxE0
私は最強幻想が崩壊した今のプロレスが好きである。
新日体制の惰力がすっかり消え、UWFの重さが消滅し、佐山サトルの嫌プ流イデオロギーも氷解しつつあり
プヲタが最強からやっと自由になり、老若男女がなごやかに楽しめる雰囲気を持った。
ここでノワヲタである。(あくまで一部の過激なノアファンをノワヲタと呼ぶことにする。)
活動家の一部ノワヲタ諸氏は盟主という言葉をつかいたがるが、過去との比較において、
こんにちのプロレス業界に「盟主」らしい盟主が存在すると考えることじたい、幻想である。
GPWAはせいぜい調整的機能を果たしているにすぎず、
今後、盟主どころか、古きよき伝統であった全日ヲタと新日ヲタの小競り合いが、
ついにはプロレス業界を貶めるものになるかもしれず、あるいはいますでになりつつある。
ノワヲタと関西弁軍団との間の表面的もしくは本質的光景がその一例であろう。
私などは今日のプロレス界にヲタ同士のイデオロギー抗争ほど無益なものは、ないと思うのだがどうだろうか。  【完】
13お前名無しだろ:2006/10/29(日) 17:26:36 ID:pUC/RKdk0
>>9いいですね〜。
14お前名無しだろ:2006/10/30(月) 00:57:07 ID:VVIZQfMY0
59 名前:『燃えよ剣』より@ 投稿日:2005/09/02(金) 00:35:51 ID:BBysTVHK
「準、これを見ろ」と、颯爽とTシャツを脱ぐ。
女性の太ももほどはある、太い右腕。すでに何人の相手を葬ったか、数も覚えていない。
「これは豪腕だ」と言った。小橋の口ぶりの熱っぽさは、相手は秋山と見ていない。
自分に言い聞かせているような様子であった。
「準、見てくれ。これこそが、豪腕である」
「…太っといですね」 仕方なく、微笑した。

60 名前:『燃えよ剣』よりA 投稿日:2005/09/02(金) 00:37:13 ID:BBysTVHK
「豪腕とは、レスラーが、レスラーを薙ぎ倒す目的のためにのみ作り上げたものだ。
豪腕の性分、目的とは単純明快なものだ。敵を破る、という思想だけのものである」
「はぁ」
「しかし見ろ、この単純の美しさを。豪腕は、豪腕は美人より美しい。
美人は見ていても心が引き締まらぬが、豪腕の美しさは、粛然として男子の鉄腸を引き締める。
目的は単純であるべきである。思想は単純であるべきである。
プロレスラーはプロレスのみに生きるべきである」
(なるほど、それを言いたかったのか) 秋山は、微笑をつづけている
「そうだろう、秋山準」
「私もそう思います」 これだけは、はっきりとうなづいた。
15お前名無しだろ:2006/10/30(月) 00:59:23 ID:VVIZQfMY0
61 名前:『燃えよ剣』よりB 投稿日:2005/09/02(金) 00:38:22 ID:BBysTVHK
「準もそう思ってくれるか」
「しかし小橋さん」と、秋山はちょっと黙ってから、「プロレス界はこの先、どうなるのでしょう」
「どうなる?」 小橋は、からからと笑った。
「どうなる、とは漢の思案ではない。婦女子の言うことだ。
漢とは、どうする、ということ以外に思案はないぞ」
「では、どうするのです」
「孫子に謂う」 小橋は、ちからこぶを作りながら、
「その侵略すること火の如く、その疾きこと風の如く、その動くこと雷神の如し」

小橋はあくまでもプロレスファンのために戦う覚悟である。
総合格闘技が人気を博そうとどうしようと、小橋建太の知ったことではない。
小橋は、プロレスラーになるために生まれた。プロレスラーとして死ぬ。
(男子の本懐ではないか)
16お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:02:46 ID:VVIZQfMY0
62 名前:『燃えよ剣』よりC 投稿日:2005/09/02(金) 00:39:35 ID:BBysTVHK
「なぁ準、俺はね、世の中がどうなろうとも、たとえ世界中の団体が潰れ、消滅して、
最後の一人になろうとも、やるぞ」
事実、こののち小橋建太は、世界のプロレス団体が解散・破産、もしくは総合に鞍替えする中
最後の、たった一人のプロレスラーとして残り、世界をまたに駆けて活躍するのである。
これは更に、この物語の後の展開にゆずるであろう。

「おれたちが ― 準、」 小橋はさらに語り続けた。
「いま、新日のようにふらついてみろ。今日に至るまで、プロレスの灯を守るためと称し、
幾多の先人達を倒してきた、スタン・ハンセン、テリー・ゴディ、スティーブ・ウィリアムス…
彼らを何のために乗り越えたか、ということになる。
彼らまた俺の豪腕に伏する時、プロレスラーとして立派に倒れていった。
その俺が今ここでぐらついては、地下で彼らにあわせる顔があるか」

「プロレスラーの一生とは」と、小橋はさらに言う。
「美しさを作るためのものだ、自分の。そう信じている」
「私も」、と秋山は明るく言った。
「命のある限り、小橋さんに、ついていきます」
17お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:08:28 ID:VVIZQfMY0
24 名前: お前名無しだろ 投稿日: 2005/10/24(月) 21:36:40 ID:5UQi88gF
燃えよ剣より

小橋は、敵の頭上を駆け抜け、左右の敵を豪腕で薙ぎ倒しつつ進んだ。
鬼というしかない。
これ以上は進めない。
が、たった一騎、小橋だけがゆく。悠々と花道を進んでいる。

みな、茫然と小橋の姿を見送った。ノア勢だけでなく、地に伏せている新日本プロレスも、
総合格闘家らも、悠然と通過していく小橋の姿になにかしら気圧されるおもいがして、たれも近づかず、
拳をむけることさえ忘れた。

25 名前: お前名無しだろ 投稿日: 2005/10/24(月) 21:41:13 ID:5UQi88gF
小橋は、ゆく。
ついにリングのはしのエプロンまできたとき、この見なれぬレスラーを見とがめ、ミルコが進み出て、
「いずこへ参られる」
と、問うた。
「リングへゆく」
小橋は、微笑すれば凄味があるといわれたその一重瞼の目を細めていった。
むろん、単機斬りこむつもりであった。
18お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:10:40 ID:VVIZQfMY0
26 名前: お前名無しだろ 投稿日: 2005/10/24(月) 21:47:25 ID:5UQi88gF
「名は何と申される」

「名か」
小橋はちょっと考えた。しかし挌闘家、とはどういうわけか名乗りたくはなかった。
「プロレスラー小橋建太」
といったとき、観衆は白昼に竜が蛇行するの見たときほどに仰天した。
小橋は、歩みをはじめた。

ミルコは構えをとった上で、なおも聞いた
「リングに参られるとはどういうご用件か。プロレスの降伏の軍使ならば作法があるはず」

「降伏?」
小橋は歩みを緩めない。

「今申したはずだ。プロレスラーがリングに用がありとすれば、プロレスをしにゆくだけよ」
19お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:12:13 ID:VVIZQfMY0
59 名前: 燃えよ剣 より [sage] 投稿日: 2005/11/05(土) 12:19:06 ID:fLyxhbZn
「小橋、あす、プロレスの砦が落ちるよ」
馬場は、初めて口を開き、そんな、予言とも、忠告ともつかぬ口ぶりでいった。
小橋はこの予言に驚倒すべきであったが、もう事態に驚くほどのみずみずしさがなくなっている。
疲れて、心がからからにかれはててしまっているようだ。
「墜ちますか」
と、にぶい表表でいった。馬場がうなづき、
「ハッスルが芸能人をつかってプロレスごっこをする。マスコミは物珍しさからワイドショーなどで
取り上げるだろう。プロレスマスコミやコアなプロレスファンはもともと世間に対してコンプレックスがあるので、
それだけで持ちこたえられないで、褒めそやすだろう。
シュートを超えたものがプロレスであるはずなのにな・・・・・・・」

寝返りをうって、寝台の上に起き上がった。ローブ、ブーツのまま、まどろんでいたようであった。
(夢か。−−−)
小橋は寝台をおりて部屋をうろうろ歩いた。
確かにたったいま、馬場が座っていた椅子がある。さらに鶴田が寝そべっていた床のあたりに小橋はしゃがんだ。
ゆかをなでた。
妙に、人肌の温かみが残っている。
(鶴田さん、ここに来たんだな)
小橋はそこへ、ごろりと寝そべってみた。
20お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:33:20 ID:VVIZQfMY0
556 名前: 世に棲む日日 1 投稿日: 2006/05/23(火) 20:56:59 ID:Wz7K1P7K0
一月十四日未明、西村修はしきりに咳をし、やがて痰をティッシュに吐くと、そこに血がまじっていることを知った。
風邪ではなく、これは患っていた癌が重症であることを自覚したのは、このときであった。
「癌がついに重症に相成り」
と、棚橋弘至に手紙を送ったのは、一月十九日である。このころ新日本プロレスは、相次ぐビッグマッチの失敗と、
恒例化した選手やフロントの離脱、さらにユークスの新日本プロレス撤退などでごったがえしていた。
棚橋など無我に所縁のある選手はこの一連の新日本スキャンダルでいそがしく、西村の病気を見舞うこともできない状態でいる。

557 名前: 世に棲む日日 2 投稿日: 2006/05/23(火) 21:09:26 ID:Wz7K1P7K0
しかし西村はもはや病気療養に専念することにきめ、その旨を棚橋にも書き送った。
病床で自分の手足をながめ、これがプロレスラーの手足かと自分でもおどろいたというようなことまで
その手紙に書いた。ほどなく吐血し、また西村はおどろいている。
このことは田中ケロに書き送った無我興行開催中止の理由といったかたちで、書き送った。
「重症と申すわけなく候えども、少々吐血これあり候ゆえ、驚き候までに御座候」
血を吐いたといっても少量であったが、西村は自分の病態が容易なものでないことに
覚悟をすえざるをえなかった。
21お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:34:33 ID:VVIZQfMY0
558 名前: 世に棲む日日 3 投稿日: 2006/05/23(火) 21:22:41 ID:Wz7K1P7K0
西村はなんとか再起したかった。これほど西洋医学による治療を拒んだ男が、今度の癌の症状では、
まるで人変わりしたように医者の言うことをきいた。しかし食欲がなく、粥一椀がやっとのどを越し、
二杯目をぼう然とながめているようなことが多かった。
「すこし寒気が去れば、印度へ旅行をしたい。ガンジス川で沐浴をすれば魂にもよいのではないか」
といったりした。
気をまぎらすために体調がいい日には坂口道場に赴いて軽めのトレーニングをしたり
坂口道場に練習にきたレスラーにゴッチ式のトレーニングの指導をしたが、
「どうも、動きにキレがない」
と苦笑し、みごとな倒立エスケープを披露した。

559 名前: 世に棲む日日 4 投稿日: 2006/05/23(火) 21:36:41 ID:Wz7K1P7K0
三月にはいると西村の衰えようのすさまじさは、かれの表現を借りれば、
「肌は秋草の末のごとく」ひからび、「肉は脱して、骨瘠むこと頻なり」というまでになっていて、
素人目にももはや再起はむずかしかろうとおもわれた。が、西村は棚橋あての手紙のなかで
「胸間には無我あり」
と心おどらせるように書き綴っていて、さらに怨敵の長州力が新日本の現場監督を辞めさせられたと聞いたときは、
「長州はなおも新日本にあり、慷慨す病床の上。薬炉にあって怒声を発す」
と、棚橋の手紙をつかって怒っているが、じつは、かなり喜んでいた。
22お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:35:50 ID:VVIZQfMY0
560 名前: 世に棲む日日 5 投稿日: 2006/05/23(火) 21:50:41 ID:Wz7K1P7K0
三月半ば
―――西村修の病が篤い
ということを知った藤波は、この無我の伝道師をフリーの身分のままで死なせたくないとおもい、
重大な処置をとった。会社に頼み込んで西村を再び形式上ではあるが新日本所属のプロレスラーに
したのである。
「新日本なら巡業にいかなければ」
とその報告をきいたとき、西村は真顔で報告者にいった。
このつぶやきが半ば本気であった証拠に、この男はこれだけの重態のなかで、この翌日、
「いまから後楽園ホールへゆく」
と新日本の巡業先の名を口走って、病床から立ちあがったのである。

561 名前: 世に棲む日日 6 投稿日: 2006/05/23(火) 22:01:05 ID:Wz7K1P7K0
看護婦がとめてもきかず、意外に元気な声で、見舞いにきていた竹村にタクシーをよんでくれ、と命じた。
竹村は不安になりながらも、その命令に従った。
「あとで病院のロッカーにしまい込んだタイツと無我の染抜きガウンを持ってきてくれ」
と言いつつ、タクシーに乗った。西村にすれば生涯のおもい出にファンへ最後の挨拶を済ませておきたかった。
が、タクシーがわずかな距離も走らぬうちに、西村はタクシーのなかで便をもらし、
もはや乗車する体力が残っていないことを知り、タクシーをもどさせ、ふたたび病床についた。
その日から容体は悪化した。
23お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:37:19 ID:VVIZQfMY0
562 名前: 世に棲む日日 7 投稿日: 2006/05/23(火) 22:10:27 ID:Wz7K1P7K0
容体がわるくなってから集中治療室でつきっきりの看病をうけた。
「もはや皆に知らすべきときではないか」
と、棚橋が判断して会社や関係者に急使を出した。新日本の関係者が、まず来た。
一日遅れて他団体の関係者や知人もきた。西村は病気が病気であったために、意識が朦朧としていた。
四月十四日未明、主治医が棚橋をよび、
「きょうは、お大切になされい」
といって、辞去した。きょうおそらく生命が尽きるであろう、という意味である。

みな、西村のベッドをかこんで見守っていた。
563 名前: 世に棲む日日 8 投稿日: 2006/05/23(火) 22:18:47 ID:Wz7K1P7K0
西村は昏睡状態にあったが、夜がまだ明けぬころ、不意に瞼をあげてあたりを見た。
意識が濁っていないことが、たれの目にもわかった。西村は、筆記具を要求した。
枕頭にいた棚橋が紙を西村の顔のそばにもってゆき、ボールペンをもたせた。
西村は辞世の歌を書くつもりであった。ちょっと考え、やがてみみずの這うような文字で書きはじめた。


     おもしろき こともなきオールドスタイルを
           おもしろく

とまで書いたがペンを落としてしまった。
24お前名無しだろ:2006/10/30(月) 01:42:07 ID:VVIZQfMY0
564 名前: 世に棲む日日 9 投稿日: 2006/05/23(火) 22:32:21 ID:Wz7K1P7K0
西村にすれば平成の世の派手でハイスパートなプロレスからすれば、おもしろからぬ
オールドスタイルのプロレスを「無我」という名で、ずいぶん面白く試合してきた。
もはやなんの悔いもない、というつもりであったろうが、棚橋は、西村のこの尻切れとんぼの
辞世の句に下の句をつけてやらねばとおもい、

「すみなすものは 飛龍殺法なりけり」

と書き、西村の顔の上にかざした。棚橋の取って付けたような下の句を西村はいま一度目をひらいて、

「………面白いのう」

と微笑し、ふたたび昏睡状態に入り、ほどなく脈が絶えた。
ただその間、一度唇がうごき、みじかくつぶやいた声を聴いた者がある。

「――――印度へ」

ということばであった。



(完)
25前スレより:2006/10/30(月) 01:50:10 ID:psoOls8r0
432 峠(1) mail:[sage] 2006/04/10(月) 20:30:47 ID:wyYjzRL40

そこは別室である。
「NOAHの秋山がつかった、めずらしい技をおみせしましょう」
と、永田と親しくしている某プロレス記者は鍵をあわせていたが、やがて大きくドアをあけた。
なかは、暗い。埃とかびと、様々な種類の雑誌が、机一面に散らかっている。
「ビデオをみましょう」
と、記者はビデオデッキの再生ボタンを押した。
永田は、そのビデオ映像を凝視すると秋山と志賀が試合をしていた。
そして、記者は、秋山が志賀にとどめをさす瞬間で映像を一時停止した。
「リストクラッチ式エクスプロイダーかな」
と、永田はつぶやいた。

433 峠(2) mail:[sage] 2006/04/10(月) 20:45:22 ID:wyYjzRL40

しかしリストクラッチ式エクスプロイダーにしてはその形があまりにも奇妙であった。
「リストクラッチ式の技です。しかしただのリストクラッチ式の技ではありません」
(そのとおり、ただのリストクラッチ式の技ではない)
記者がビデオの一時停止を解くと、永田は、息をのむ思いでその技をみた。
垂直に頭部を落とすものであり、その形態はエクスプロイダーよりも
デスバレー・ボムにやや似ているようであるし見方によっては、まったくの別物にもみえる。
秋山がその異様な技をつかったあと無惨にも志賀はスリーカウントを取られ起きあがることができない。
「技の名前は?」
「左様、スターネス・ダストαです。まだ未公開ではありますがβ、γもあると聞いています」
26前スレより:2006/10/30(月) 01:51:18 ID:psoOls8r0
434 峠(3) mail:[sage] 2006/04/10(月) 20:56:59 ID:wyYjzRL40

進化したリストクラッチ式エクスプロイダーというべきであろう。
もともと、このスターネス・ダストαは、小橋がハワイで考案した対秋山専用の技、
ダイヤモンド・ヘッドに対抗するべく秋山が即興で考案した技である。
即興の技らしくスターネス・ダストαという名前も思いつきで名づけたらしい。
「この技は、何回ほど、試合でつかわれたのか」
「さきほどビデオでみせた志賀との試合につかったのみで、その後は一回も、つかわれてはいません」
結局、秋山は小橋に、この技をつかうことはなかったという。

435 峠(4) mail:[sage] 2006/04/10(月) 21:06:47 ID:wyYjzRL40

「本当に一回しか、つかわれていないのだな」
「左様、一回きりです。」
「パクろう」
永田は無造作にいったが、しかしからだじゅう、びっしょりと汗をかいていた。
どういう性質の汗か、自分でもわからない。
(この技が、おれの新しいフェイバリット・ホールドとなる)
という感動が、全身をかけめぐっていたことはたしかである。
この技があれば、ふたたびIWGPに返り咲くことも可能であった。
「ほかにも三沢の変形式エメラルド・フロウジョンや田上の秩父セメントを収録したビデオテープがあります」
「ぜんぶ、パクろう」
永田はいった。
27お前名無しだろ:2006/10/30(月) 02:06:55 ID:VVIZQfMY0
114 名前:『義経』より@[sage] 投稿日:2005/09/19(月) 15:16:18 ID:en19VkoG
東京で、何日かを過ごした。
が、有明から何の沙汰もなかった。大森はたまりかね、有明へ申しやり、
身を新橋駅まで進めた。新橋から有明まではもはや数十里ほどしかない。
大森は近くの喫茶店にて家内に筆をとらせ、泣訴状を書かせた。宛名は三沢の側近の
仲田龍とし、仲田の同情を得て三沢の心を動かさせしむべく期待した。
世に言う『木ノ状』である。

115 名前:『義経』よりA[sage] 投稿日:2005/09/19(月) 15:16:55 ID:en19VkoG
文章の華麗さは、むしろ華麗すぎるほどであろう。その文章は恨みを述べ悲しみを述べ、
ひたすら読む者の同情を得ようとするがために殆ど婦人の怨語にすら似ていた。
「自分は換言のために寡少な勲功すら黙殺され、罪なくして咎を被り、むなしく紅涙に沈む」
「亡父正平の尊霊がここにあらわれ給う以外、たれにこの悲歡を訴えられよう」
「自分は初登場してほどなく、父に豹柄の衣着を渡され、母元子の過剰な贔屓を受けて以来、
前座戦線を漂い、あげくには視線まで漂い、言い知れぬ艱難をなめた」
「ところが一旦幸慶の機会熟し、高山善広なる者と不知恐軍結成し、さらに野生魂なる敬称を獲得し、
あるときには垣原某なる総格崩れの流浪人にいわれなき蹴撃を受け醜態をさらし、
あるときには剛腕大魔王なる者の理不尽なる怒りを我が額にて受け止め血達磨となるも、
団体のために命を失うを省みなかった」
「しかるにいまや愁い深く、野生魂、切である。いまは斧爆弾の御助による以外愁訴の道なし」などと
措辞はめんめんと続いていく。

116 名前:『義経』よりB[sage] 投稿日:2005/09/19(月) 15:17:39 ID:en19VkoG
仲田はこの書状を受け取ったが、三沢のうたがいを恐れて封を切らず、そのまま三沢の前に出て奉った。
三沢は「部長、読んで」とそれを許した。仲田はわずかに膝を進め、声が報道陣に漏れることを
恐れつつ小声で音読をすすめた。
三沢は聴きつつ、わずかにも眉毛を動かすことを怖れた。もしその愁訴の名文にうたれ、大森の悲嘆に
同情し歎きの色を見せたならば、仲田はそれを敏感に察し、三沢の心中を思いやり、かの大森に対し
役員として手心を加え、断固たる処置を鈍らせるかもしれなかった。
三沢の怖れは、むしろそれであった。
28お前名無しだろ:2006/10/30(月) 02:08:33 ID:VVIZQfMY0
117 名前:『義経』よりC[sage] 投稿日:2005/09/19(月) 15:18:29 ID:en19VkoG
聴き終えると三沢は「咄」と、小さく舌を打った。「まだあの馬鹿は、わかってない」と言うのである。
この書状の終わりの方に大森は自分の世界娯楽競技(WWE)への入団試験について触れている。
それを指している。その文章はいささかも入団試験の事を詫びておらず、詫びるどころか、
「野生魂が世界最大手団体の試験を受けたことは箱舟の面目である。
全家では亡父正平以来の快挙であり、新家にもおらず、これ以上のことがあろうか」と言い放ち
三沢としてはむしろ喜ぶべき、いや、お前は結局墨西哥(メキシコ)しか遠征してねーぢゃねぇか、
小橋や秋山なんて日本限定だもんねー、という優越感を言外に含めている。

118 名前:『義経』よりD[sage] 投稿日:2005/09/19(月) 15:19:06 ID:en19VkoG
「―わからぬ。ついにわからぬ」と三沢は叫びたかったであろう。
ここまで基本理念が異なる以上、一族でも同士でもなく、もはや追放するか、殺すか、どちらかで
なければならぬだろう。
また筆者、光晴の意を汲むとすれば
(俺は会社の事情で呼び戻されたんだっつうの)
(俺も小橋も秋山も、最初からファンがついてて、お前みたいに遠征しても会社に損失を与えない
気楽な立場じゃなかったっつうの)、とも言いたかったのかも知れない。
何れにせよ三沢はそのように思い、大森追放についての最後的決意を、むしろこの書状によって固めた。
29お前名無しだろ:2006/10/30(月) 03:37:56 ID:VVIZQfMY0
74 名前: 新撰組血風録より@ [sage] 投稿日: 2005/11/14(月) 01:53:16 ID:VnnJ6Eh4
「士道不覚悟」と、三沢は、秋山に言った。事件があって数日後のことである。
「そうですか…」 秋山は、視線を落した。士道不覚悟、とはもはや批評ではない。
箱舟組の紀律における最大の罰則であった。
追放・断絶・出入禁止、いずれかの処置が、この該当者に待っている。
「どうだ」「ふむ―」 秋山は思案している。彼の救済法を考えているのではなかった。
不覚悟、と断定された瞬間から、大森隆男は、箱舟組隊士であることから消えている。
あとはその無縁の人間を、たれに処分させるかであった。

75 名前: 新撰組血風録よりA [sage] 投稿日: 2005/11/14(月) 01:54:46 ID:VnnJ6Eh4
「高山さん」と、秋山は応接室に高山善廣を呼んだ。
「貴方の隊に、怯懦の者がいる。捨てておけば団体が腐る」
「たれかな?」 高山は、無論わかっている。が高山にも移籍やフリー宣言した過去がある。
人間、隣の芝生は赤く見えるものなのだ、ということを、この男は理解している。
できることなら、大森隆男を救けてやりたかった。
「高山さん、わからないか」「…………」
「あんたほどの人だ。わかっていると思っていたが、わからなければそれでいい。
 恐不知軍の士道不覚悟、これは不問に付しておく」
76 名前: 新撰組血風録よりB [sage] 投稿日: 2005/11/14(月)
30お前名無しだろ:2006/10/30(月) 03:39:29 ID:VVIZQfMY0
76 名前: 新撰組血風録よりB [sage] 投稿日: 2005/11/14(月) 01:56:13 ID:VnnJ6Eh4
「準、よくねぇよ、言い方が」
高山は当惑したように立ち上がった。秋山の言い方では、わからぬ、と言えば、高山自身が
大森と同様の不覚悟、ということになるではないか。
「大森は、俺が始末する」
「わかってくれて、ありがたい。特にあんたを討手に選んだ意味もわかってくれていると思うが」
「ふむ」 高山は退出した。自分を討手に選んだのは、大森の二の舞を演じるな、という
意味だろう。秋山はかつて言ったことがある。
「ノアがある。ノアには小橋建太がいる。だからノアは最高である」 ノアに逆らうことは、小橋建太に逆らうこと。小橋に逆らう人間は許さない、という意味だろう。
77 名前: 新撰組血風録よりC [sage] 投稿日: 2005/11/14(月) 01:57:28 ID:VnnJ6Eh4
「巡察に出る」と高山は、恐不知軍の控室に戻って、言った。
「同行は、大森隆男君。浅子覚君」
「はっ」 浅子覚が立ち上がった。すでに、高山から意を含められている。大森も立ち上がった。
九段下を登り館内を抜けてから、高山ははじめて、大森に声をかけた。
「入り給え」 薄暮である。鳥居を抜け左へ突ききれば、玉葱状の建物を通り越し、人気の無い
公園へ通じている。この刻限、人影の絶えることを高山は知っていた。
やがて、公園の中に、三人は立った。
31お前名無しだろ:2006/10/30(月) 03:41:07 ID:VVIZQfMY0
78 名前: 新撰組血風録よりD [sage] 投稿日: 2005/11/14(月) 01:59:06 ID:VnnJ6Eh4
「大森君、君もレスラーだ。きょうの巡察がどういう用であるか、薄々わかっていると思う。構え給え」
大森は、はっ、と右腕を直角に曲げた。目が泳いだ。泳いだまま、高山の鋭角な膝が鳩尾に食い込んだ。
大森は、どうと倒れた。が、浅い。なお意識があった。
思った。すべては、この武道館での三冠戦に憧れたことからはじまったのだ、と。
「浅子君、とどめを」
浅子覚のタイツが食い込んだ尻部が、目前に現れた。
仰臥しながら大森は、眼を見張り、その尻の切先が近づいてくるのを見た。
やがて、それが顔面に吸い込まれ、すべてが終わった。
32お前名無しだろ:2006/10/30(月) 16:16:15 ID:0vmCHwfM0
保守
33翔ぶが如く <1>:2006/10/30(月) 16:29:47 ID:0vmCHwfM0

「恨み……」

と、智恵はつぶやいた。
恨みといえばたれを恨めばいいであろう。
永田に嫁いでプロレスラーの妻になったここ数年間、思いだすのもいやな屈辱の中で過ごしてきた。
恨みや復讐の相手が、決められるものならいっそそのほうが気が楽だが、智恵の頭脳はそれほど
単純ではなかった。
彼女は自分の旦那をはじめとする新日本のプロレスラーの不甲斐なさを彼らがガチの試合で
負けるたびに思いしらされた。
34翔ぶが如く <2>:2006/10/30(月) 16:41:12 ID:0vmCHwfM0
新日本のプロレスラーというのはガチをやらせたなら本当に強いものだと信じていたのに、
相手の格闘家に押し倒されるというよりみずから試合のなかでトンボを切ってころび、
いわばすべての恥辱や悲惨さの種はみずから播いた。
石澤(カシン)のPRIDE参戦から中西のK-1参戦、ダイナマイトでの中邑vsイグナショフ戦、
そして旦那である永田裕志のミルコとヒョードル戦。
多くの敗北の渦のなかで智恵は新日本のプロレスラーの弱さをつぶさに見た。

「恨むなど、女くさい……」

と智恵はいった。
35翔ぶが如く <3>:2006/10/30(月) 16:58:39 ID:0vmCHwfM0

「女くさい?」

「憎んではおりますが、恨んではおりませぬ」

と智恵がいったとき、この義弟・永田克彦は内心、なんと気のつよい義姉上だ、
と興醒める思いがした。

「兄がヒョードルに負けられたあと、どこかに往かれましたな」

「二度目の猪木祭りのことですか」

と、智恵がいった。克彦の目の錯覚かどうか、智恵の影がゆらめきはじめたようにおもえる。

「往きました」

「都内でおこなわれた新年のカウントダウンパーティーかなんかに?」

「カウントダウンパーティーなどに往きませぬ」

「とは?」

克彦が驚くと、智恵は他人事をいうように「ネットカフェに往きました」と、いった。
36翔ぶが如く <4>:2006/10/30(月) 17:08:39 ID:0vmCHwfM0

「ネットカフェに。―――」

克彦は意外なあまり混乱し、失礼だとはおもったが幾つかの質問を発した。
智恵の影がいよいよ揺れつづけ、克彦の質問にはほとんど答えなかった。

「で、ネットカフェでなにをなされました」

「プ板を開いていたのです」

「プ板?」

「2ちゃんねるのことです」

といったから、克彦は気味が悪くなった。この義姉は、なんのためにネットカフェなんかで
新年を迎えられたのか。

「そうです、プヲタを相手に、ひとり主人を擁護する書き込みをしていたのです」

というなり、智恵は折り崩れてしまった。
37三沢:2006/10/30(月) 17:11:18 ID:IsQzPjnF0
お前ら馬鹿なプヲタの分際で司馬遼太郎の本読んだことあるのかよ?っていうねあれはあるよね。
38翔ぶが如く <5>:2006/10/30(月) 17:21:18 ID:0vmCHwfM0
克彦は沈黙した。義姉上は、口にするのもつらいほどの旦那である永田に対する
誹謗中傷の書き込みを目のあたりにしたに相違ない、と克彦はおもった。

「では、いまでもプヲタがおきらいでございますか」

「きらいではありません。個人事務所【ナガタロック】の設立前は大きらいでした。
 しかし今となれば、頼りになるのは会社である新日本よりもプヲタを含めたプロレスファンの
 ひとりひとりのほかありません」

「義姉上は、この事務所を」

「そう。健介オフィスに負けぬくらいの、大きな事務所にせねばね」

と、智恵は言い、プヲタたちに今までどおり主人に対する意見を書き込ませておくがよい、
と言うと残っている仕事を片付けるために奥の部屋へ入っていった。


(完)
39翔ぶが如く <余談>:2006/10/30(月) 17:24:13 ID:0vmCHwfM0
司馬スレも新しい章に突入したので題字の表記を控えめに装飾してみました。
また、お世話になり申しあげに候。
40お前名無しだろ:2006/10/30(月) 17:25:23 ID:TGMyUmhE0
おつかれさまです
カッコイイね、永田嫁はwまさに女傑

では私もいきます。
41津本陽「武将の運命」上:2006/10/30(月) 17:30:05 ID:TGMyUmhE0
まず最初に押さえておきたいのは、家臣団が強くなるのも弱くなるのも、結局は主人次第だということである。
つまり、愚かな主人の下につけば勇者も臆病になり、
逆に賢い主人の下につけば、普段は臆病者であっても勇者になることができる。

三沢光晴とその家臣団であるノア戦士にも、このことはあてはまることであろう。
したがってノア戦士の強さを考えるに際しては、まず主君光晴との関係に着目しなければならない。
ノア戦士というのは、だいたいが全日本プロレス系統の家臣団である。
いわゆる馬場正平の流れで、鶴龍時代から四天王時代にわたって光晴を慕ってきたというつながりをもっている。
したがって、光晴と生死をともにするという一体感をもつ家来が多いという特徴がある。
42津本陽「武将の運命」下:2006/10/30(月) 17:31:43 ID:TGMyUmhE0
こんなエピソードがある。
光晴が四十代のころ、腹部が大きくポッコリと脂肪がついてプロレスラーとはいえない肥満中年体型になったことがある。
ノアヲタもサジを投げたような状態だったので、光晴本人もすっかり諦めて練習する気力を失ってしまった。
そんなとき、体作りの名トレーナーというのが訪ねてきたが、光晴はなげやりになってしまい、筋トレをしようとしない。
そこで、「火の玉小僧」と呼ばれた老将菊地毅が、光晴に意見する。

「自分は数知れぬ戦場で受けた傷で満身創痍だ。しかもすでにベテランと呼ばれる老いた身である。
だから、恩顧あるノア家におればこそ、人に立てられもするが、他の家中にいけば、だれも相手にはしてくれないだろう。
殿のために苦労を重ねてきたればこそ、現在の地位が得られたのであって、殿が肥満中年になれば、
自分は裏切られたようなものだから、いっそ、そのまえに腹を切る」

そういって、光晴を脅した。
これを聞いた光晴は考えを改め、筋トレをした。すると見事に腹はへっこみ、光晴はすんでのところでプロレスラー体型を保ったという。
このように、家来は命懸けの意見によって主人の命を救おうとし、主人はそれに従うという、
言わば両者が一体となっているような蜜接な関係というのが、ノア衆の特徴といえるであろう。
43「武将の運命」あとがき:2006/10/30(月) 17:42:30 ID:TGMyUmhE0
新スレおめでとう
司馬作品ではないもので書いてみました。
つまらなかったらば、そこは堪忍のほどを

この稿、あとがき、とはいえ、つい、弁解めかしくなってしまった。
44お前名無しだろ:2006/10/30(月) 22:50:43 ID:0vmCHwfM0
>>41>>43
菊池に武士のなにごとかを感じます。(笑い)
45お前名無しだろ:2006/10/31(火) 02:47:20 ID:1oMTxiUo0
>>37
馬鹿だから司馬遼太郎を読んだことがないのか、
はたまた馬鹿のくせに読んだことがあるのか、
あるいは読んだからこそ馬鹿ではないのか、
詰まるところそのどれでもないのである。
46お前名無しだろ:2006/11/01(水) 01:45:56 ID:ejJMWvfA0
368 名前: 峠 1(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 21:17:32 ID:l3y180VR0
「すでに試合時間は三十分でござる」
と、セコンドのKENTAがささやいた言葉に、同じくセコンドの秋山は二度うなずいた。

(膝は、大丈夫か)

とおもった。小橋のチョップの数は、つぎで百十七発目である。レスナーが小橋のチョップを
よけるようなことをすれば、せっかくの世紀の対決に水をさすのだが、レスナーも小橋とのチョップ
合戦に応じている。その胸肉の大部分が異様にあかく血膨れしているのはレスナーも
意地になってチョップ合戦に応じている証拠であろう。
小橋とレスナーのむこうにはセコンドの永田や棚橋といった新日本勢が叫び声をあげている。
客が、昂奮のあまりに足を鳴らしつづけていた。

369 名前: 峠 2(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 21:36:18 ID:l3y180VR0
チョップがしだいに強くなるようであり、その両選手の意地をかけたチョップ合戦が
途切れてしまうことを客はおそれた。 (しかし、小橋さんのほうがレスナーに圧されつつある)

と、秋山はおもっている。やがて小橋は、このチョップ合戦に耐えられなくなり
膝から崩れおちた。レスナーは勝機と見るや小橋の股に腕をさし入れ担ぎ上げた。
「判決」である。相手を肩車で担ぎあげて回転をくわえて顔面から突きさすように
マットへ叩きつける荒技である。

「この技をくらった苦しさほどのもの生涯ついに味わったことがない」
と、蝶野や中邑が口をそろえて述懐していたほどに、この技の威力は壮絶をきわめた。
47お前名無しだろ:2006/11/01(水) 01:49:22 ID:ejJMWvfA0
370 名前: 峠 3(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 21:55:11 ID:l3y180VR0
(やばい)

と、途中、セコンドの秋山がたちあがったほどであった。

「ぐあっ」

と、大声でリング上から小橋の声が聞こえてくる。これが判決という技であり
泉田あたりの不入ドムとは、まったくちがう。不覚にもレスナーの判決を小橋は、
くらってしまった。レスナーは小橋に覆い被さりカウントをもとめた。が、天は、
小橋がこのままマットに沈むことを赦さなかった。レフェリーがスリーカウントを
叩く直前に小橋は、かろうじて右肩をあげた。レスナーは信じられない顔で小橋を
見たが、すぐには小橋の攻撃をゆるさない。もう一度、判決の体勢に入ったが、今度は、
小橋が力いっぱいにもがいたために崩れてしまった。小橋は、鬼のような形相で拳を握りしめ
ロープへ走り、その反動を利用してレスナーへ襲いかかった。

371 名前: 峠 4(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 22:08:11 ID:l3y180VR0

その剛腕、疾風のごとし
という。文字どおり黒いつむじ風のような勢いでレスナーの咽元を襲った。

――乱発はするな。一発で仕留めろ――

というのがラリアットの創始者スタン・ハンセンの言葉でありラリアットの要訣であった。
いっさい無言で打ちこんだ小橋のラリアットにレスナーは、いきおいよく後頭部から落ちた。
手応えはあった。並のプロレスラーなら、いまの小橋のラリアットで勝負がついただろう。が、
相手は世界標準とよばれるプロレスラーである。レスナーは立ち上がった。
「小橋さん、いまだ」
と、秋山が叫んだ。
48お前名無しだろ:2006/11/01(水) 01:50:59 ID:ejJMWvfA0
372 名前: 峠 5(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 22:26:57 ID:l3y180VR0
立ち上がったとはいえレスナーは小橋のラリアットによって意識がとび、目が虚ろである。
秋山の叫びに小橋はうなずくと、レスナーの背後にまわった。剛腕をレスナーの股にさし入れると、
そのまま股ごしからレスナーの片方の手首を掴んだ。小橋はこの体勢から一気にレスナーを
横担ぎに担ぎ上げて静止した。小橋の顔の孔という孔から汗や涙が夥しく吹き出ておりその顔は
もはや怒っているのか、泣いているのかすら判別すらできなかった。客はこの小橋のいまの顔を
美しくおもってみていた。やがて小橋はレスナーの後頭部をマットに叩きつけた。
小橋の奥の手である「改良型の青春の鉄槌」であった。

373 名前: 峠 6(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 22:42:56 ID:l3y180VR0
小橋は、ふらつきながらレスナーに覆い被さりありったけの力をふりしぼってレスナーの両肩を押さえた。
「ワン、ツゥ−」
と客は叫び、レフェリーのカウントスリーがマットを力強く叩いた。日本武道館に集まった客がいっせいに立ち上がり、
勝利者を祝福する紙テープがあちこちでリングに投げ込まれ、リング上は虹のような色どりになった。
新日本のセコンド勢はレスナーの敗北を、にわかにみとめることができずにいたが、やがて永田と棚橋がジャージを脱ぎ捨て

「NOAHに死ににきたぞお」

と口々に叫びつつリング上におどりこんだ。この乱闘で新日本勢は小橋の勝利の余韻を掻き消すであろうとみたのである。
「殺せ、殺せ」
と連呼しながら煽る客もあった。
49お前名無しだろ:2006/11/01(水) 01:52:12 ID:ejJMWvfA0
374 名前: 峠 7(剛腕 対 世界標準) 投稿日: 2006/03/23(木) 22:50:24 ID:l3y180VR0
小橋のセコンドについていた秋山やKENTA、そのほかのNOAH勢もリング上におどりこみ、
この雰囲気がよめない新日本勢を追い散らした。
日本武道館に集まった客のよろこびようはむしろ異様であった。みな口々に、

「小橋、小橋」

とリング上の小橋をたたえた。泣きながら叫んでいる客もあった。


(完)
50お前名無しだろ:2006/11/01(水) 09:06:02 ID:LSyjWGQL0
GJ 以下余談ながら、


ただね、余談が欲しいんだよなぁ…。
51お前名無しだろ:2006/11/01(水) 11:50:01 ID:RCF148Qy0
過去の名作は、過去スレで見ればいいのだから、新作を重視しては、いかがか?
52お前名無しだろ:2006/11/02(木) 03:37:48 ID:P+0IkR6KO
「土方さんのおっしゃることはよくわかります。しかし。」
「しかし、なんだ?総司」「今一度。」
土方はまっすぐに沖田を見据えている。
「今一度、哀れな携帯厨のために、仏心を加えてやっては下さらぬか。」
冗談の好きな沖田の童顔が、いつになく真剣な色を帯びた。土方は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、
傍らの近藤に視線を送った。近藤は寝ているかのように目を閉じ、腕を組んだまま微動だにしない。
「総司、おめえは少し優しすぎるんだよ。」土方はにわかに立ち上がり、くるりと背を向けた。
「どこへ。」「巡察だ。」土方の背中が見えなくなると、沖田は所在なげに近藤に視線を送った。
近藤の薄い目がようやく開き、
「アイツの不器用は、武州日野のころから何も変わらん。」
局長は子供のような表情を見せ、からからと笑った。
53お前名無しだろ:2006/11/03(金) 19:23:24 ID:VCzF1vxo0
>>52
なるほど、余談である。
54池波正太郎風でもいいですか?:2006/11/03(金) 19:25:04 ID:/+SvybB90
>>51のいうことはわかっているつもりだが、それにしても、
>>51氏は、気のくばりが、細こうなられた・・・・・・)
と、おもわざるを得ない。
>>51氏は、専ブラを使わぬ者をよう知ってはおらぬ)
このことであった。
55お前名無しだろ:2006/11/05(日) 23:07:14 ID:y1zTIA10P
ageるしかあるまい。
56お前名無しだろ:2006/11/06(月) 20:20:18 ID:AbSmSa//0
age
57お前名無しだろ:2006/11/08(水) 04:40:00 ID:uVXNiB/z0
前スレのライガーのネタは良かったなあage
58お前名無しだろ:2006/11/08(水) 19:19:49 ID:fticnhr+0
以下余談ながらage
59お前名無しだろ:2006/11/09(木) 00:13:59 ID:pEEBTwUq0
「以下、余談…」
その一節を挿入すれば所謂「司馬節」として認められうると誤解している御仁の多さに、
私自身些かの戸惑いを隠しきれずにいる次第であるsage
60お前名無しだろ:2006/11/09(木) 11:25:34 ID:R7Q7hGXc0
>>58>>59は、ひと続きとして読むのが正しい。
61お前名無しだろ:2006/11/11(土) 17:49:16 ID:Xl1iJJe90
ここでageねばなるまい。
62愛染明王<1>(短編集 おれは権現より):2006/11/11(土) 21:08:15 ID:GBxHyEFc0
こんな男も、めずらしい。
子供のころのことだ。父は近所でも評判のギャンブル狂いのせがれで十二歳ぐらいのとき、
TVでタイガーマスクを見て以来プロレスラーに憧れ、中学を卒業するとすぐに新日本プロレスに入門した。
優治、少年の名である。ある朝、道場を掃除するためリングにあがってみると、
牛ほどの先輩レスラーが、泥酔してリングの真ん中で寝ていた。
なんとかこの先輩を避けて掃除を始めようととすると、あやまって箒の先が、先輩の頭にあたった。
先輩がおこって、優治をひきたおし、
「小僧、なにをさらすぞ」
と、なぐりつけようとしたが、牛に組み敷かれて下になった優治が、たまたま昨日、
彼が慕う藤原喜明から習ったばかりのゴッチ流の裏技を思いだし、そうか裏技があるわと自分の親指を、
下からぐさりと先輩の菊座(肛門)に突き入れた。わっと先輩が叫び、その場でのたうちまわったが、
優治はすこしもさわがず、鼻の穴をほじくっているような落ちつきでキリキリと親指をまわし、
相手が白眼を剥いて気絶してから起きあがった。
63愛染明王<2>(短編集 おれは権現より):2006/11/11(土) 21:29:56 ID:GBxHyEFc0
正当防衛とはいえ、相手は先輩である。
ふつうの練習生なら今、自分がやったことに気も動顚し、逃げるか、すくむか、後悔するか、
いわば尋常ならぬ心理におちるはずだが、この少年は、
(なんだ先輩レスラーとはいえ、裏技をつかえばこれはど弱いものか。さればデビュー前にもっと
 ゴッチ流の裏技を習って、デビューしたなら一気にチャンピオンになってやろう)
とおもった。いかにプロレスがある一面だけに光をあてて見れば格闘技の側面があるとしても
シュート技術のみでチャンピオンになってやろうなど思いつくばかもない。たとえあっても、
その程度のいわば劣弱な思考能力の人間がデビューしても、他のプロレスラーから敬遠され、フロントからの信頼も
えられず、結局は、王座に挑戦することもなく前座に登場する地味な中堅レスラーぐらいで
プロレス人生をおわるのが、ふつうであろう。
ところが、この男はのちに日本屈指のシュートレスラーになった。
「この事件」の主人公になった船木誠勝がそれである。


(完)
 
64お前名無しだろ:2006/11/13(月) 02:49:55 ID:ysH6zRr90
>>62-63
ここで終わってはいか仕方ないというほかあるまい。
65お前名無しだろ:2006/11/13(月) 02:51:43 ID:ysH6zRr90
947 名前: 関ヶ原 1 投稿日: 2006/10/16(月) 20:25:05 ID:KcL8v+Lu0
三沢は、有明のNOAH事務所になお駐っている。
昨夜、ZERO−ONE・MAXの中村代表を仲介して大森のGPWA合同興行の参戦を
嘆願された。
「明日、大森と交渉する」
と三沢は、電話で中村に言って大森が有明に来着するのを待った。
(どう遇するか)
三沢は、思案を練った。大森の遇し方の巧拙こそ、いまからはじまるNOAHの
天下の評判に影響するであろう。
三沢は、複雑な方法をとった。中田龍から大森来着の報をうけるや、
「遇し方の考えが、まだきまらぬ。とりあえず事務所のソファーにでもすわらせておけ」
といった。

948 名前: 関ヶ原 2 投稿日: 2006/10/16(月) 20:36:12 ID:KcL8v+Lu0
この言葉によって大森は事務所のソファーにすわらされた。
三沢―――このちょっぴり意地悪な演出者はこの日、GPWA合同興行の詳細を聞くために
NOAH所属のプロレスラーが事務所にやってくることを計算に入れた。
事務所にくるNOAH所属のプロレスラーは当然、ソファーにすわらされている大森を不審の目で見るであろう。
三沢はごく偶然なかたちで大森を生き曝しにしようとした。それによってNOAH所属のプロレスラーと大森の
反応をみて楽しんでから大森と交渉しようと試みた。この計画は、あたった。
66お前名無しだろ:2006/11/13(月) 02:59:56 ID:ysH6zRr90
949 名前: 関ヶ原 3 投稿日: 2006/10/16(月) 20:47:46 ID:KcL8v+Lu0
最初にやってきたのは、プロレス界最大のフリーレスラーでGPWAにも加盟している
「帝王」高山善弘である。高山は大森を見るや、
「かっ」
と痰を吐くような口蓋音をたて、「うぬは斧爆弾じゃな」と叫んだ。高山は昨日、友人と酒を飲み、
顔になお酒気が残っている。
「うぬは勝手にWWEのトライアウトをうけ日本プロレス界の盟主におわす三沢社長の顔に泥をぬり、
 このようなざまになった。これが元、恐れ知らずのなれのはてか」
と罵倒した。
「なにをいう」
大森は、背骨を立てた。両眼に気迫をこめ、高山をにらみすえた。

950 名前: 関ヶ原 4 投稿日: 2006/10/16(月) 20:58:58 ID:KcL8v+Lu0
「うぬのような世渡り巧者なだけの男に、おれの心のありかがわかってたまるか。そこをどけ。めざわりである。」
と、ひくいが、しかしよく透る、底響きのする声でいった。
「なぜNOAHに後ろ足で砂をかけるように去った汝が」
と、高山はさらにいった。ここにいる。帰ろうとせぬ。図々しくソファーに座っておる。とたたみかけたが、
大森は顔をひきつらせ、うぬのようなU系くずれに全日系レスラーの心事がわかるか、と、みずからをもって全日系レスラーとよんだ。
67お前名無しだろ:2006/11/13(月) 03:02:28 ID:ysH6zRr90
951 名前: 関ヶ原 5 投稿日: 2006/10/16(月) 21:13:34 ID:KcL8v+Lu0

「全日系レスラーたるものは古巣を去った身であっても最後の瞬間まで古巣を想い、
 古巣で試合をする機会を待つものである」
と言い、かつ、これは大森が声を大きくして叫びたいところであったが
「馬場社長が弟子たちに提唱された、明るく、楽しく、激しいプロレスをきちんとやっているかを、
 この目でみて馬場社長の墓前に報告し奉る。高山、心得ておけ」
といった。大森は馬場全日体制のときに大いに期待されていたが、この期にいたっていよいよその過去が
露骨になり、三沢によって曝し者のようにソファーに座らされていながらも、
馬場の名前を出すことでプロレスラーとしての血統の良さを見せつけるようであった。
「世迷いごとを言うわ」
と、高山は呆れて言葉がなくなり、大森のそばを去った。
68お前名無しだろ:2006/11/13(月) 03:03:32 ID:ysH6zRr90
952 名前: 関ヶ原 6 投稿日: 2006/10/16(月) 21:27:46 ID:KcL8v+Lu0
つぎに来たのは、秋山準である。このNOAHの知恵袋は、大森の姿をみるや、大森と対面するかたちで
真正面のソファーに座り、
「立場が違うとはいえ」
と、意外な態度でなぐさめはじめた。かつては馬場社長の期待を背負ってWWFで試合をされた貴殿が
このお姿になったことは、かえすがえすも御無念であろう、といった。
秋山はNOAHを去ってから以降の大森を憎み、大森がNOAHを去ったその日の試合後、マイクを使い大声で
「おい、腐れアックスボンバー。今日はてめえの技を使ってやったが全然、きかねえよ」
とまでいった男である。
953 名前: 関ヶ原 7 投稿日: 2006/10/16(月) 21:39:57 ID:KcL8v+Lu0
それが大森の目をみつめ、その泳ぎっぷりにおどろき、「まあ、なんとかなるさ」といって去っていった。
大森は言葉を失い、目を閉じ、顔を凝然として天にむけている。
ついに大森ははずみをうしない、一言も発しなかった。この意外なやさしさが秋山の性格でもあり、
ひとつには秋山の策であろう。ここで大森を見て怒りにまかせて大森を罵倒するのは、秋山のとるところではない。
秋山は、ちょっとした優しさを大森に触れさせることによって大森との格の違いを見せつけた。
69お前名無しだろ:2006/11/13(月) 03:08:09 ID:ysH6zRr90
954 名前: 関ヶ原 8 投稿日: 2006/10/16(月) 21:50:55 ID:KcL8v+Lu0
大森にすれば秋山の策に致されおわったというべきであったが、大森の奇妙さは、
これほど秋山を長年ライバル視していた男でありながら、秋山に致されているとは
気づかなかったことであった。その証拠に、秋山が去ったとき、面を伏せ
―――やっぱり秋山にはかなわない。、つぶやくようにいったのである
この男の頭脳にはもともと政治感覚というものが欠けきっているようであった。
やがて小川良成がやってきた。小川は大森のほうへ視線を送らずそのまま別室に入った。
小川が別室に入ったあと、こちらへやってくる二人の男がいる。丸藤正道とKENTAであった。
955 名前: 関ヶ原 9 投稿日: 2006/10/16(月) 22:04:20 ID:KcL8v+Lu0
丸藤は、秋山から奪ったGHCのベルトを肩にかけてやってきていて、大森の存在に
まだ気づいていない。その丸藤の姿を、めざとく大森の視線がとらえた。
フジマルかっ、と吐き捨てるように言うと大森は、大声で
「そのベルト姿の似合わなさよ」
と叫んだ。
が、丸藤は、KENTAとなにやら夢中に談じ込んでいたため大森の叫び声には気づかず
大森のそばを素通りして、そのまま別室に入っていった。
三沢は奥の社長室にあって、それらの出来事のすべてを中田龍からきいた。最後に苦笑しながら、
「大森と交渉する。鄭重にせよ」
といった。
「鄭重に」
と、念を入れている。
70お前名無しだろ:2006/11/13(月) 03:10:02 ID:ysH6zRr90
956 名前: 関ヶ原 10 投稿日: 2006/10/16(月) 22:12:26 ID:KcL8v+Lu0
捨て曝しで楽しんだ以上、あとはNOAHの襟度をしめし、一通りの礼をもって大森を遇し、
プロレス界の評判をよくすべきであった。中田龍は、三沢の意を心得てそのとうりにした。
交渉は、三沢が一言、
「ぶっちゃけ、大森、お前をうちのリングにあげることはアレなんだよね。
 今までNOAHで頑張ってきた選手に、しめしがつかないっていうかさぁ………」
と、いう三沢独特の言いまわしの拒否でおわった。

(完)

71お前名無しだろ:2006/11/13(月) 03:22:56 ID:ysH6zRr90
プロレスとは、名作とは、打破されるものである。
ただその壁を破るには、スレ職人は小橋がディファの壁のコンクリートにたたきこんだチョップの数だけ修練を要する。

過去スレ傑作とは破られるべき壁であり保守すべき壁でもある。

(「城」によせたコメントより)

72お前名無しだろ:2006/11/14(火) 20:05:15 ID:dDwwBlqx0
スレよ、ageよ。
73お前名無しだろ:2006/11/16(木) 08:13:10 ID:2uazkxD20
保守すべきage
74花神<1>:2006/11/16(木) 22:25:18 ID:7S3mvemq0

「ヘイ、詩朗。セニョール・チョーシューからことづけをあずかっているよ」
と、このメキシコの陽気なアパートの管理人が越中に告げた。
越中は封筒を受け取ると、すぐに部屋で封筒の封印をびりびりとやぶきはじめた。
そこに一通の手紙が入っていた。
越中がそれをひらいて、それが長州の筆蹟であることを見たしかめたとき、越中は、
自分の胸の動悸が自分でもきこえるようであったという。
(長州が、自分をここまで買ってくれているのか)
とおもうと、越中は長州の手紙をもつ手が、ふるえた。
下腹のあたりから血が泡つぶになってとめどもなく湧きあがり、首すじがにわかに熱くなった。
越中が、自分という男が、これほど血の気の多い男であることを発見したのは、
おそらく最初であったにちがいない。
(おれが新日本でプロレスをやるのか)
と、おもった。越中は全日本出身だったため新日本の連中がきらいであったが、
反面、全日本とちがって自由奔放で格に囚われない団体の風潮をうらやましくなることもあった。
(それとも越中詩朗が、いま変わりつつあるのか)
と、自分のこの意外な変化についての驚きは大きく、そういう自分の変化の原因を知ろうとした。
75花神<2>:2006/11/16(木) 22:59:11 ID:7S3mvemq0

―――ワレ、驚動シタッテ。

と、越中はこの夜、日記に書いたが、彼は彼自身の驚動の質を理解したかどうか。
全日本の都合によってメキシコに置き捨てられた体の越中には、全日本に入門してからいままで
プロレスラーとしての青春がなかったといえるであろう。
が、越中はいま、にわかに青春のなかにのった気がするのである。
チャンピオンベルトを恋い、生命をそこに燃焼させようとするプロレスラーの青春が、
越中のなかに誕生したかのようであり、越中自身、この自分の生理をおさえ圧迫しつつある感情の変化に、
じっと堪えている。
原因をつくったのは長州であるであろう。
越中は、全日本が同じメキシコ修行を共にした後輩の三沢の方を需要し、自分を需要しなかったことを知った。
それが、この男には屈辱で、しかも置き捨てられたこともかさなってその屈辱は鬱積していた。
その越中を、長州が需めたのである。
わずかに、
―――なあ、長州、メキシコに活きのいい奴がいるから面倒みてやってくれ。
と天龍に頼まれたという理由が長州が越中を新日本に引き入れる本音であったが、
しかし人間が大昂揚を発するのは、そういうことであるかもしれなかった。
76花神<3>:2006/11/16(木) 23:12:51 ID:7S3mvemq0
人間の心の昂揚というのは、ほんのささいなことからでもおこりうる。
―――長州さんのためには、死んでもいいって。
という、越中のこの大げさな感動は、越中にとって決して大げさではなかった。
(おれは本来全日である)
という想いが、つねに越中にある。にもかかわらず長州が自分をえらんだとは、
何ということであろう。その一事が、とくに越中の心をゆさぶったのは越中のような
境遇を体験してみないとわからない。
「新日は功利的である」
というのは、業界の評判であり、越中もそれはわかっている。
ところが新日本第一の大物といわれる長州が、全日本から置き捨てられた越中を認め、しかも引き入れてくれた。
越中の感動の大きさは、どうにも名伏しがたい。


(完)
77お前名無しだろ:2006/11/17(金) 01:33:42 ID:Evo6FJZ/O
乙だって!ちょうど読みやすい長さだったって!
78お前名無しだろ:2006/11/17(金) 14:22:01 ID:7bGD7c6wP
>>74-76 乙でござる!
79坂の上の雲:2006/11/18(土) 22:22:39 ID:OTTsTK1q0
「アンドレ、レスラーになるか」
と、バーン・ガニアはいった。アンドレは、AWA会長の手前いきおいよくうなずいた。
が、よろこびは湧かなかった。
レスラーになることは、かれ自身がもっとも快適であるとおもっている木こりの生活をすてることであった。
80お前名無しだろ:2006/11/20(月) 21:10:58 ID:Mf/+WyDE0
>>79
乙です、こういった小品もいいものですな
81お前名無しだろ:2006/11/23(木) 23:26:57 ID:VDEKuUXc0
ageねばなるまい。
82お前名無しだろ:2006/11/25(土) 02:02:55 ID:q7Fu0H1wO
(俺も丸くなったもんだ)
sageて、保守した。
83お前名無しだろ:2006/11/26(日) 19:39:43 ID:CraBufUS0
スレが、止まった。
84お前名無しだろ:2006/11/27(月) 23:55:35 ID:1yEPelAU0
あしが保守しますらい。
85お前名無しだろ:2006/11/29(水) 23:48:42 ID:bfCKEdiw0
どうやらこのスレは下がっているらしい。
86お前名無しだろ:2006/12/02(土) 05:30:07 ID:r05fQWsuO
(今日は随分と冷えるな)そっと、ageた。
87竜馬がゆく:2006/12/03(日) 22:01:40 ID:3OteUWTg0
やがて蝶野は、
「天山君」
と、不快そうにいった。
「君は、塩試合を嗜んでいるようだが、プロレスラーたる者の道ではない。
プロレスラーという者は、試合の途中で客を帰さぬものだ」
88お前名無しだろ:2006/12/04(月) 07:41:22 ID:lC/36iu10
ageておく。
89お前名無しだろ:2006/12/05(火) 17:03:58 ID:4nKyVqtWP
ageねばならぬ
90お前名無しだろ:2006/12/07(木) 00:40:30 ID:+phScw4m0
「保守できるか半次郎」
「ageもそ」
91お前名無しだろ:2006/12/09(土) 15:59:42 ID:uakqp6cb0
なかなか筆が進まない。
92お前名無しだろ:2006/12/12(火) 10:19:45 ID:sd+c5NWl0
保守である
93お前名無しだろ:2006/12/12(火) 11:11:12 ID:bUKU4plq0
その婦人は「ageでした」と訪ねてくる人々に言い暮らした。
94お前名無しだろ:2006/12/14(木) 15:37:28 ID:GORyfuDCO
この稿続く
95お前名無しだろ:2006/12/18(月) 08:01:51 ID:uEWxkE5g0
hoshu
96お前名無しだろ:2006/12/18(月) 18:31:21 ID:C9ztXG6h0
「あげ」
武士は、それのみを思うものである。
97峠<1>:2006/12/20(水) 21:43:09 ID:mooGQywB0
「晋のやつ」
と、橋本は大谷のことをいつもそうよんでいた。
「いいやつだ」
そのようにほめてもいた。橋本があるとき酒に酔ってZERO−ONE所属のレスラーを論じたとき、
「もし晋のやつがアメリカでレスラーをしていればムトちゃんぐらいの大物日本人レスラーになれたかもしれない」
とも言い、すぐ言葉を変えて、
「いや、だめか」
ともいった。「晋のやつには華がない」というのである。
華とは「存在するだけで人の注目を引きつける不思議な魅力」ということであった。
橋本の目から見れば大谷には華があまりなかった。

平成十六年になるとZERO−ONEの資金繰りは悪化していて橋本は、
「新日と対抗戦をするしかZERO−ONEを救うみちがない」
と考え選手会長の大谷や営業部長の中村にも告げず独断で新日本の現場監督である蝶野とも
話をつけていて対抗戦の手筈は、すでに整えている。
(しかし、うまくゆかぬものだ)
と橋本がおもうのは、自分以外の所属レスラーや社員が新日本との対抗戦に反対しているのである。
橋本は、反対派の中心である大谷を代表室によびつけ、説得しようとした。
が、逆に大谷は屈せず、
「代表こそまちがっておられる。なぜこの時期に新日と対抗戦をなされるのか。なぜ新日に足許をみられるようなことを
 おこなわれるのか」
と、声するどく攻撃してきた。
98峠<2>:2006/12/20(水) 22:03:13 ID:mooGQywB0
橋本は大喝し、
「ひかえろ」
といった。理由は、「おまえは代表命令に背くのか」ということであった。
が、大谷は
「ZERO−ONEは、橋本代表だけのものではありませぬ」
と言って屈しなかった。橋本はついに、
「明日、おれの家にこい」
といった。
大谷は、翌朝、やってきた。橋本は大いに論じたが、大谷はなっとくしない。大谷のいうところは、
「いま唐突に新日と対抗戦をおこなえばファンは失望します」
ということであり、橋本もこのファンという言葉には手を焼き、
「ではもう一度話そう。明日またこい」
といった。
その翌日も、物別れになった。
議論は三日つづいた。四日目に橋本は大谷のがんこさにあきれ、対抗戦では大谷を一番に
IWGPに挑戦させることを洩らし、
「どうだ、プロレスラーの名誉だはないか。もう議論はやめてこの名誉に満足しろ」
といった。大谷はかぶりをふり、
「否」
と叫んだ。
大谷のいうところは、
「ベルトの価値が落ちたIWGPを狙うよりもZERO−ONEが保持する
 NWAのベルトの価値をあげることが重要ではないか」
ということであった。
(そのとうりである)
橋本も、おもわざるをえない。
99峠<3>:2006/12/20(水) 22:22:09 ID:mooGQywB0
「いったい代表はこのZERO−ONEを」
大谷はおもわず机をたたいた。
「どこへもってゆこうとなさる。成算はおありなのか」
(成算など、ない)
橋本は、にがい顔できいている。
「成算」
ということばを、大谷はなんどもつかった。成算、成功の見通し、そういう意味であるとすれば、
(そんなものがあってたまるか)
と、橋本はおもう。この困難な時期に、である。どう計算してもZERO−ONEがうまくゆける保障などない。
「代表は、まちがっている」
「どこがだ」
「基本が。もとのもとが。お考えのもとがまちがっておいでです」
「なにを言いやがる」
橋本は、いよいよにがりきった。言え、思っていることをすべてぶちまけてみろ、
と橋本は大谷にどなった。目が、らんと光っている。大谷は、あえぐような息になり、言葉がつまった。
大谷は、うつむいた。橋本に気圧され、うまく言葉が出て来ないのである。やがてたまりかね、
「代表、この部屋のむこうに私を置いていただけませぬか」
と叫んだ。
「勝手にしろ」
「では、ご免」
大谷は身をひるがえして部屋を出た。
100峠<4>:2006/12/20(水) 22:45:47 ID:mooGQywB0
やがてドアをへだててしゃべりはじめた。
―――もとがまちがっている。
というのは橋本の思想のことをいっているのである。
橋本は、事をおこすとき、後先のことや周囲の者の意見に耳もかたむけず自分が
思うままに一心不乱に突き進む。結果がどうかということは考えない。
橋本は、一団体の代表責任者となった今でも、結果を論ずることはプロレスラーの恥だと思っている。
橋本にとってプロレスラーの第一義というのは、プロレスラーは、存在そのものが豪傑かどうかだけであり、
それだけを考えつめてゆく。
―――プロレスラーは、豪傑であるべきである。
ということが美であるとすれば、それだけをつきつめてゆく。
大谷は、それがZERO−ONEの経営を悪化させた原因だと言い、他にも
会社資金の私的流用や故冬木夫人との交際という橋本の無節操さにまで言及して攻撃した。
「待て」
橋本はいった。ひたいに汗がにじみ出ていた。
橋本の急所といっていい。
患部
ともいえるであろう。
「おまえに、なにがわかるか」
橋本はいったん目をあげてうそぶいたが、大谷は、それには屈せず、あくまでも橋本の患部をしつこく衝いてきた。
101峠<5>:2006/12/20(水) 23:02:56 ID:mooGQywB0
橋本は、だまった。
そのあとながなが考えていたが、やがて、
―――わかった。
とつぶやき、
「おれは信ずるところにむかってゆく。そのためには団体の一致団結が大事だ」
「我らの気持ちがまだわかってもらえませぬか」
「そうだ。しかしおまえたちは、おれに屈せなんだ」
「いかにも」
「出てゆく」
と、橋本はぴしゃりといった。
大谷は、おどろいた。
「退団なされるのか」
「おまえたちがわるいのではない。むしろおれにむかってあくまでも反対を唱え一歩も退かなかったことは
 人として大いにみごとである。が、おれを」
と、橋本はいった。
「代表にしておいてはZERO−ONEは分裂する。このちっぽけな団体が二つに分裂してしまえば
 インディーよりも始末がわるい。だから出てゆく」
ZERO−ONEは、おまえたちの好きなようにしろ、と橋本いった。
後日、橋本は公式にZERO−ONE退団を発表しフリーに転身した。
102峠<6>:2006/12/20(水) 23:22:38 ID:mooGQywB0
フリーになった橋本は、今後のレスラー人生のために今までほおっておいた右肩の手術をおこなった。
手術の翌日小川直也が見舞いにやってきた。
小川は、橋本の術後の経過が良好であることを知ると
「橋本さん、はやく傷を治して、また二人でハッスルを盛り上げよう」
と言うと、「自分も同様である」と言い大いに談笑した。その日は妙に橋本は元気で、
小川がもってきてくれた見舞いの品を全部たいらげた。
小川が帰ったあとも上機嫌で、
「ひさしぶりに戦友の顔をみた」
と、まわりの者にいった。よほど人間好きなのであろう。
「ケロちゃん」
と、橋本の見舞いにきていた田中秀和にいったのは、小川が見舞いにきた次の日であった。
「昔気質のプロレスラーはもう、おれと小川が最後よ」

橋本は復帰にむけてリハビリにはげんでいたが、友人宅で突然たおれ病院に搬送された。
夜半、風がおこった。
七月十一日、脳幹出血により死去。


(完)
103お前名無しだろ:2006/12/21(木) 00:04:34 ID:dAuEX02v0
>>97-102
「準、これを見ろ。これが剛腕である」以来のはまり具合でござった。眼福、眼福。
104お前名無しだろ:2006/12/21(木) 00:46:54 ID:CXa3/S/f0
>>97-102
むちゃ上手いんだが、個人的にまだ橋本は早いかな
つかリアリティありすぎw
105お前名無しだろ:2006/12/21(木) 00:47:38 ID:bGX0+26IP
>>102
名無しはただ、滂沱するのみであった。
106お前名無しだろ:2006/12/23(土) 14:21:57 ID:AwuyB9g3O
>>97ー102
「ぐっじょぶ」
107お前名無しだろ:2006/12/27(水) 09:32:56 ID:EqCBfJLF0
age
108お前名無しだろ:2006/12/30(土) 23:17:48 ID:A1nm/vUk0
今翔ぶがごとく読んでるけどほんとキツイな
すぐに話が横道にそれるし、山県批判はしつこいし
中盤からは「それもう100回聞いた」っていう薀蓄の連続だし。
読破に必要なのは忍の一文字だ
109お前名無しだろ:2007/01/01(月) 22:55:50 ID:UxcBON9K0
翔ぶが如くは小説としては破綻してるし正直失敗作だと思うけど
なんか破綻の仕方が面白いんだよね
作者が史実の面白さに引かれてフィクションとしての完成度を放棄したというか
結果前半と後半とじゃ全く別の話になったけど
でも魅力的な失敗作だと思うし個人的には好きなんだよね
110お前名無しだろ:2007/01/02(火) 05:05:04 ID:4z284VJ70
翔ぶが如くは、俺も今、通算3回目を読んでる。
小説としてはアレだが、やっぱ面白いわ。

俺がもっとプロレスに詳しければ、ここに載せられるのようなの、
書けそうな部分はたくさんあるよなぁと思うんだよなぁ。
111お前名無しだろ:2007/01/02(火) 12:13:04 ID:Rl8/EAqc0
小説としては二流の出来だけど、
明治時代初期の混乱を知る上では面白い読み物だよね>翔ぶが如く

文庫全10巻が全5巻ぐらいの長さだったらもう少し良い評価だったろう。
登場人物多すぎるし、清々しいシーンがあまり無いから、このスレに合わせたネタ作りも難しい。
西郷がこれまた喋らないしね。
112お前名無しだろ:2007/01/04(木) 22:45:38 ID:QFWomsu00
保守。
113お前名無しだろ:2007/01/05(金) 01:57:52 ID:4P1HCitlO
>>103
準にゃん?
114お前名無しだろ:2007/01/06(土) 01:35:04 ID:Y2JtwDro0
ただ保守するのみ。
115お前名無しだろ:2007/01/07(日) 00:00:06 ID:4/0TVOQZO
あげ
116お前名無しだろ:2007/01/09(火) 13:11:46 ID:BdZKVqym0
>>111
小説としての完成度は「燃えよ剣」や「竜馬がゆく」がトップランクかな。

鞍馬天狗のせいなのか(もちろんリアルタイムでTV放映を見たわけでは
ない)、『新撰組=悪』みたいなイメージがあった。
ゆえに幕末物でも新撰組関係は敬遠していたのだが、土方の物語が
あんなに面白いとは思わなかった。
117お前名無しだろ:2007/01/11(木) 11:16:48 ID:QByDVlMM0
あげ
118お前名無しだろ:2007/01/11(木) 11:58:15 ID:oCjWquIo0
 この韓国の柔道が、東の片隅の島嶼において生まれた「柔道」とは
別個のものであり、本来は「油道(ユド)」というものであることは先にも述べた。
おそらく、6世紀頃の突厥の進入により、伝来した格闘技にルーツがあるのではないだろうか、
現在のトルコにおいてオイルレスリングとかトルコ相撲と呼ばれることもある「ヤールギュレシ」は
現在でも全国大会が開かれているほどである。

司馬刈太郎著「怪堂を逝く」より
119お前名無しだろ:2007/01/12(金) 20:04:33 ID:RegPRRkO0
>>111
>西郷がこれまた喋らないしね

これは恩人の海音寺潮五郎氏(鹿児島出身で西郷好き)に遠慮したという説もある
120お前名無しだろ:2007/01/15(月) 05:08:03 ID:GvhSV3c7O
ときにはageる覚悟も辞さない。我もかくありたいものだ。
121お前名無しだろ:2007/01/19(金) 00:08:50 ID:kKJvi1Bn0
age
122お前名無しだろ:2007/01/21(日) 01:30:33 ID:fs54yup40
鯖移動したのか――
それは彼のあずかり知らぬところではある。
しかし、
123お前名無しだろ:2007/01/24(水) 01:37:29 ID:0XanVqen0
彼は良い策を思いつくまで保守を続けることにした。
それは、誰かの為ではない。目的があるわけでもない。
自らの行いを芸術にまで昇華させることが目的であるようですらあった。
124お前名無しだろ:2007/01/24(水) 23:01:41 ID:QlASPZQAO
(−−−もう作品を書かなくてだいぶ経つ)
と思っている。
慣れない携帯の機種のためなかなか作品をつくるのに、おっくうした状態がつづいている。
125燃えよペイ!<1>:2007/01/25(木) 21:48:56 ID:WYgbNkA+0
「永田裕志。―――とうとう出会った」
鈴木みのるは、独特の面白みのあるヘアースタイルをさわりながらいった。云いながら、ゆっくりと、
腰をしずめ前傾姿勢をとっている。
「永田」
鈴木は楽しそうだ。
「千葉の芋野郎が、いまは新日のトップレスラーになっている。たいした出世だ」
「・・・・・・・」
永田は、キックスタイル。
「IWGPを十回防衛したからといって、この鈴木みのるを見限ってもらっちゃこまるよ」
「だから相手になっている」
「結構々々。ところで最近調子は、どうかね。あんまりいい評判を聞かないが」
「・・・・・絶好調だ」
「そりァ、よかった、といいたいがね。普通なら、その辺でいっぺえどうだ、といいたくなるほど、
 たがいに浅からぬ縁だが、縁は縁でもお前、とんだ逆縁さ」
「逆縁だな」
「高校アマレス時代の汗臭せえ因縁を、プロになってまで持ちこんで蒸しかえしたくはねえんだが、
 お前とは、どうも適わねえようにできている」
「パンクラスを辞めたときいている」
「形式上はな。活動拠点をプロレスに移したのさ。パンクラスで、アマ臭せえ試合しかできない連中と
 だらだらつづけるよりプロレス界にもどってプロレスラーらしい死に方をしてやろうと思ってきたのだが、
 古巣にお前が、いたことをすっかり忘れていた」
126燃えよペイ!<2>:2007/01/25(木) 22:07:27 ID:WYgbNkA+0
「話の腰を折ってすまないが」
永田は、いった。
「プロレス界にもどってきた本当の理由は、今のパンクラスの試合についていけなくなったからじゃないのか」
鈴木は、だまった。
図星、と永田はみた。鈴木は、自分の格闘技人生に限界を感じていたのだろう。
「どうだろうね」
「ばかに元気がなくなったようだ。存外、正直者とみえる」
鈴木は、返事のかわりにタックルを仕掛けてきた。その瞬間、永田のキックが、すばやく放たれた。
が、鈴木のタックルはフェイントで一歩もその場を動いていない。
ぶん、と永田の空振りしたキックの風圧がなった。勢いあまって一回転してしまった。
「ちょっとなぶってみせたのさ」
鈴木が笑った。
すると今まで隠れていた鈴木の後輩である富宅が、永田の背後にあらわれてパンチを放った。
あやうくとびのいたが頬を掠めた。
(畜生。どこにかくれていやがった)
狭い体育館の廊下に二対一の状況である。
127燃えよペイ!<3>:2007/01/25(木) 22:26:51 ID:WYgbNkA+0
こういうときには、なりふりかまわずタートルポジションといきたい。が、相手は鈴木である。
永田にも意地がある。またタートルポジションをやれば、他人が見かけたとき
「永田さんが、袋にされている」
といったような誤解をまねきかねない。東スポや2ちゃんの恰好のネタにされてしまうだろう。
(鈴木の野郎、なかなかの喰わせ者だな)
永田は、突然、着ていたジャージの上着を半ば脱いだ。身軽になるためではない。
ジャージの上着を脱いだのは、永田の、狡猾な誘い手である。果然、半ば脱いだ隙をねらって、
富宅が右ストレートを放ってきた。
(待っていた)
図に乗った富宅の右ストレートを少し後ろにさがってかわし伸びきった富宅の右腕を両手で掴み取って脇固めに持っていった。
そして脇固めから腕ひしぎ固めに移行した。
128燃えよペイ!<4>:2007/01/25(木) 22:44:38 ID:WYgbNkA+0

「相変わらずのブサイクだ」
鈴木が舌打ちをした。永田が腕ひしぎ固めの際に見せる凄まじい形相がファンや関係者のあいだで
【キラー永田】とよばれていることを鈴木は知っている。
永田は富宅の右腕を絞めあげながら
「鈴木ぃ、もそっと寄れぇ」
と叫んだ。
「寄れねえよ。白目むいた野郎に仕掛ける馬鹿ァなかろう」
この男も、ただ者ではない。喧嘩の勘どころを知っている。永田の形相は、異常になり
白目どころか口元には涎もたれている。鈴木は、くるっと後ろをふりむくと、
「またな」
と言って去っていった。
永田は、富宅の右腕を絞めあげるのを止め立ちあがったが鈴木を追おうとはしなかった。
(鈴木も、人が肥ってきやがった)
毛虫から蝶になるような変質も、ときにはあるらしい。


(完)
129お前名無しだろ:2007/01/26(金) 09:52:48 ID:K91vcIC+0
>こういうときには、なりふりかまわずタートルポジションといきたい。

ぉぃw
130お前名無しだろ:2007/01/26(金) 10:19:25 ID:pxEwKDql0
永田のは白目むいているんじゃなくて、ただ上を向いているだけにしか見えないけどw
131お前名無しだろ:2007/01/26(金) 14:06:50 ID:OZIi5Vk00
やっぱり永田さんは最高だ。職人の手腕に乾杯
132歳月 <1>:2007/01/27(土) 20:22:10 ID:QJDsfeEt0
この時代、他競技からプロレスラーに転向したもののなかで、北尾光司のような例はない。
彼らは前歴の中で限界を感じできたが、北尾はそうではなかった。北尾はかつて、
「この八百長野郎!」
 と言ったが、たしかに北尾が体験してきた世界からみればそうであろう。
北尾は、観客がかれのいう八百長を愛好しているものであるということを理解しにくくできており、
北尾のいう八百長であるからこそ、相手に向かい指をさすなどの奇妙な格好をしたり、自らの衣服を破くという奇怪な行動をしたり、頭髪の一部を金にするなど奇天烈な格好をしたりすることができるのだということ、
そのあたりだけが空白になっているほどに理解する能力を持っていなかった。
133歳月 <2>:2007/01/27(土) 20:23:46 ID:QJDsfeEt0
さらにかれの論理は大相撲的論理であり、これについてかれの理解者に近い存在であり最後には袂をわかった天龍源一郎は、
「北尾は非常に才能がある。とくに非常な体躯を誇り、非常な運動神経を持っていた」
と、のちかれの類のない能力をたたえたが、
そういったあとつねにひくい声をさらに一段ひくくして、
「しかし北尾は群集心理というものを知らなかった。ひょっとすると大相撲の元横綱のこだわるあまり、プロレスというものの何たるかを見忘れるところがあったかもしれない」といった。
要するに北尾光司は、プロレスファンという観客に対する想像力を欠いていた。
プロレスファンの背後にある報酬だけを見、プロレスファンを見ず、
さらに北尾のおもうところ、プロレスファンもまた北尾のように大相撲の横綱とスポーツ冒険家という肩書きに服する人間であろうと思い、半ばそう信じていた。
134お前名無しだろ:2007/01/28(日) 00:14:54 ID:hewSAtRKO
司馬スレ初の北尾ですね。
「北尾は、群集心理を理解することができなかった」
と云う箇所は、非常に納得します!
135歳月 〜1〜:2007/01/28(日) 20:10:25 ID:F3rUSoUz0
「ミルコと再戦はしないんですか?」
と記者はいった。永田は愕然とした。
再戦という無謀にみちた惨刑だけは、永田がどう想像力をめぐらしてみても出てこなかったものであった。
第一新日に言われてない。記者に言われたとしても、記者ですら永田がミルコに勝てると思っていることはいっさいない。それが記者はわかっていて記者は聞いた。
ミルコと再戦という強引さは、IWGP王者も新日本の自称エースもあったものではなかった。
この意外さと災厄と屈辱に、永田はどう行動すべきかもわからず、なにはともあれ欝懐を吐きつけなければならぬと思い、とっさに立ち上がろうとした。
その寄ってきた醜い顔を記者は押しのけた。永田の不幸は、この期におよんで尻餅をついたことであった。このため「記者相手にも亀になった」とのちに言われた。
136歳月 〜2〜:2007/01/28(日) 20:12:42 ID:F3rUSoUz0
永田はこのとっさの激情から、たったひとことだけ叫んだ。
「動き出しているんだよ!」
ということばであった。
が、坂口がそういう永田の腕をつかみ、倍賞が背後からくびをしめ、そのままかれの自由をうばいつつ、力づくで退席させてしまった。
永田裕志というプロレス史上稀代の雄弁家にとってその半狂乱ぎみな片ことが、総合格闘技への公式の場所における最後の発言になった。
137お前名無しだろ:2007/01/28(日) 21:56:43 ID:hewSAtRKO
面白い!
ようやくこのスレに活気がよみがえってきたよ!
138国盗り物語 〜1〜:2007/01/28(日) 22:39:55 ID:F3rUSoUz0
「WWF王者になりたいものだ」
とジョバーはつぶやいた。ひとがきけば狂人とおもうだろう。が、ジョバーは大真面目である。
事実、この夜のつぶやきは、プロレス史が永久に記憶しなければならなくなった。
「プロレスはひとつのエンターテイメントだ。望んで望めぬことはあるまい」
ジョバー。厳密にはジョバーではないのだが。かつては日本で「黒虎」といわれた若者である。
今の名はエディゲレロ。
おもうとことがあって、米国に戻ってきたが、背の低い小さなエディには、さて食えるあてはない。
「WCW王者になりたくないが、レッスルマニアのメインイベンター、それがむりならばせめてWWF王者になりたいものだ」
「夢じゃ」
と、足もとで笑った男がある。
139国盗り物語 〜2〜:2007/01/28(日) 22:40:47 ID:F3rUSoUz0
「一緒に連れて行ってくれ」とついてきた甥のチャボである。
「なにが夢かよ。将来は、おれの名前で稼がせてやるわ」
「すえのことよりも、とっとと負けて一個のハンバーガーを食いたいわい」
「ジョバーめ」
「これは心外。お前様もジョバーではおざりませぬか」
「負け役はするが将来に望みはもって腕を磨いて生きている。一個のハンバーガーで夢を失って、つまらん試合をするやつをジョバーとはいうぞ」
さわやかな声である。
「して、今宵のおれの相手は誰だ」
「クリスベンワーでおざる」
「おお、おれにも運が向いてきたな。今夜は、おれの一生にとって最初のいい日になるだろう」
140お前名無しだろ:2007/01/29(月) 02:58:22 ID:JaCv/58X0
>>139
エディ・・・(ノ△・。) 

続きぷりーず!!
141国盗り物語 〜3〜:2007/01/29(月) 18:35:02 ID:sRzsBi/A0
「シコシスよ。そちには眼がある。クリスベンワーをどう思うぞ」
と、エディゲレロは聞いた。
「申したくは存じますが、エディ殿の試合相手でありますゆえ、はばかられます。フービー殿より申されませ」と、シコシスはそばのフービーをかえりみた。
「まことにダイナマイトキッドの模造品で」
とフービーはいった。模造品、という言葉で、みなどっと笑った。
「シコシスも、フービーと同じか」
と、エディが重ねて聞くと、
「はい、まことにおめでたく存じます」
とシコシスはひょうきんなしぐさでいった。
エディだけは笑わない。憂鬱そうな顔でいる。
「めでたいのはそのほうどもの頭よ。やがてわしの甥らは、あの狼殿のリングシューズを磨くことだろう」
といった。
試合後、エディは夜更けに宿に戻り、寝所にも入らず、すぐクリスへ手紙をかいた。
142国盗り物語 〜4〜:2007/01/29(月) 18:35:54 ID:sRzsBi/A0
「よい試合相手をもって仕合せに思っている」
という旨の通りいっぺんの文章にするつもりだったが、書くうちに変に情熱がのりうつってきて、思わぬ手紙となった。
「あなたをわが一族より愛しく思った」
とか、
「わしは野望を持っている。これ以上の望みは、ひとりではかなえられぬ。あなたを見て、理想の試合をおもった。わしが半生かかって得た体験、知恵、試合の勘どころなどを、夜をこめてでも語りつくしたい」
とか、
「米国の選手は技術があなたの半分以下であり、その選定が大変であろう。相手がおらねばわしに申されよ。いつなりとも即刻、お相手申そう。あなたに対して、わしにできるだけのことをしたい気持ちでいっぱいである」
とかいう、日ごろ沈毅なエディにしてはあられもない手紙だった。
自分のプロレスは完成しようとしている。青雲のころから抱いてきた理想の試合はひとりでは遂げられない。それを誰かと成し遂げたい、というのが、このラティーノの情熱といっていい。
匠に似ている。この男は、半生、プロレスの技術向上にとりつかれてきた。
技術向上というより芸術的な表現欲といったほうが、この男のばあい、あてはまっている。その「芸」だけが完成し、試合が未完成のまま、きてしまった。
それをクリスと成し遂げたい、とこの男は、なんと筆先をふるわせながら書いている。
143お前名無しだろ:2007/01/31(水) 19:10:27 ID:hxNS78RLO
エディ……
感動した!
144お前名無しだろ:2007/02/01(木) 00:59:09 ID:JDSDDDQJ0
「まことにダイナマイトキッドの模造品で」
いかしてる
145お前名無しだろ:2007/02/02(金) 20:26:16 ID:agBXFBqBO
age
146国盗り物語 〜5〜:2007/02/02(金) 21:02:08 ID:nJwgMX1Z0
エディは火の出るよう攻め立てた。
乱入がらみというものは、あっという間に仕あげなければ、水の入るものだ。
「もみつぶす、もみつぶす」
と、リング上、リング下を駆け回った。
「ひどいめに遭った」
と、レスナーはエディの姿が見えないことに安堵したせいか、リングの上で泣き声をたてはじめた。
「わしは対戦すべからざるものと対戦した。考えてみると、ノーウエイアウトで、あの男がわしの挑戦者に決まったとき、あの男を用心せよ、というものが多かった。それをきいておけばこんにち今夜のような憂き目はなかった」
とくどくどいう。
そのとき、背の低い小さな影がレスナーの前にあらわれた。
「レスナー殿、それがしでございます」
「そ、そちは」
「左様、エディゲレロでございます。レスナー殿をせめて得意技で葬ろうと思い、トップロープのそばで待っておりました」
まったく、この男の異能は戦術だけでなく、行動においても、どこを飛びまわるか、捉えようもない男だった。
「さきほどリングの上で」
とエディはいった。
147国盗り物語 〜6〜:2007/02/02(金) 21:03:29 ID:nJwgMX1Z0
「対戦すべからざるものと対戦したために、かかる憂き目を見たと、おおせられましたが、間違いでございましょう。
第一は、それがしのおかげで、大味なレスナー殿では望んでもできぬ好勝負を実現なされた。第二は、ゴールドバーグの乱入、ベルト使用と、レスナー殿の格を落とさぬ方法を選んだ。
いずれも、それがしの力によること。ゆめゆめお恨みあそばすな」
「おのれ」
とレスナーが立ち上がりかけたが、エディはドンと胸を蹴り、レスナーの動きを止め、ゆらゆらとトップロープに浮かびつつ、
「それにしても、みじかい御縁でござった。レスナーとそれがしのプロレス観は、水と油と申しまするか、正反対でござった。
プロレスをまっとうする気がない者にこの技はもったいなくは存じますが、かかる技で葬らせていただきまする。それではこれにて」
とエディは空中で体を縮め、腕を上下にさせ、ぎいっと体を伸縮させ、レスナーの横たわるリングに向かって落ちていった。

ながい坂だった。WWEに流れてきて以来、エディは一歩一歩、足場を踏みかため、ついにこの男の事業である「WWF王者盗り」を完成した。
(ながかったわい)
148お前名無しだろ:2007/02/03(土) 01:41:32 ID:EtDbF7HB0
>プロレスをまっとうする気がない者にこの技はもったいなくは存じますが

エディィィィィィィィィーーーーーー!!!!!(号泣)

プロレスを愛し、ファンを愛した俺等の好きだったラティーノ・ヒートそのものだよ
職人さん、サンクス
149お前名無しだろ:2007/02/03(土) 02:24:36 ID:f1Q8cyIV0
ヤバイ。ガチ感動してる俺がいる。

職人さん、超乙。
そしてエディ、フォーエバー・・・。
150お前名無しだろ:2007/02/03(土) 19:33:04 ID:gvvw8eVE0
保守
151国盗り物語 〜7〜:2007/02/03(土) 21:03:14 ID:xUiBbLM/0
(崩れるだろう)
と、エディゲレロは自分の終末を予感した。これが自分の生涯の幕をひかせる最後の試合になるだろうと思った。
エディは、チャボを呼んだ。かつてエディの従者であったこの男は、シングル転向とともに、エディと距離をとったが、ふたたびもとの木阿弥に戻ろうとしているのであった。
「おん前に」
とチャボは、このところめっきり薄くなった頭をさげた。
「チャボ。ながい試合はおわったようだ。そちに頼みがある」
「えっ」
チャボはぽかりと唇を開けた。この男は、エディが最後のときを迎えていることがわかっているのである。
「だまって聞くがよい。わしののこされた娘をたのむ。よいな」
チャボはうなだれた。
「娘たちはWWEから遠ざけてしまえ」
「えっ、プロレス界にはからまないので」
「それが安穏の生き方だ。プロレス界の人間などというあぶない世渡りは、わしほどの才覚があっても最後はこのとおりだ。
女房は大人だから自分で決めるだろうが、娘たちは別じゃ。
わしはWWEに多くの利益をもたらしている。WWEもアングルとして使いたがるかもしれんが、わしが反対していたといえばよい。
WWEもわるいようにはしないだろう」
「そりゃもう」
152国盗り物語 〜8〜:2007/02/03(土) 21:04:27 ID:xUiBbLM/0
「かつてその世界に野望を抱いた男が、その世界の怖さを知って身内を遠ざける。話がありふれている」
「ありふれている」
チャボは泣きっ面で笑った。
「WWE王者もしんどいだけだった」
「はい」
「王者とはたいていそんなもんさ。途中、世界中の眺めを見られただけでも儲けものだったと思う」
それをきくと、チャボはこの男らしくもなく、わっとなきだした。
「おれはむかしから泣くやつはきらいだった」
と、エディはいった。
「この場になって泣けば、レッスルマニアでクリスと抱き合って流した涙が安くなり、エディ、ざまはなんだ、と世間がわらうかもしれん」
「これは不覚でござりました」
「わかればよい。さ、早く発て。今夜、おれには仕事がある」
「今宵は、もはやお休みあそばすのではござりませぬので」
「休むものか。会場には観客が集まっておるし、わしはリングでケン・ケネディと戦う」
げっ、とチャボはおどろいたが、エディはすでにリングシューズの紐をむすびはじめていた。

153国盗り物語 〜完〜:2007/02/03(土) 21:05:50 ID:xUiBbLM/0
「入場テーマをかけてくれ」
エディは、錆びた声でいった。
スポットライトの下に、会場の風景がにぎやかにひらけはじめた。
満員の観客といっていい。
おびただしいボード、Tシャツが林立している、それらの中央、リングにはプロレスラーが命をかける白く輝くマットが遠霞みにかすみつつ見えた。
「やるか」
とエディは苦笑いをした。
その表情のまま顔をゆるやかにまわし、観客の顔を見た。もはや興奮しきった必死の相がどの観客の面上にもあった。
(みな、おれを応援してくれているのか)
と、エディは無上の喜びを感じた。
同時に、二十年近く前、プロレス界に飛び込んだエルパソうまれの人間のために、声援を送ろうというものが会場内に数千人、会場外に何万人もいるという事実は、エディにとっては感動すべきことでもあった。
154お前名無しだろ:2007/02/03(土) 23:27:08 ID:gMfXl+4u0
感動したッ!
155お前名無しだろ:2007/02/03(土) 23:55:53 ID:G366XEbdO
まさしく司馬スレ初の大長編!
156お前名無しだろ:2007/02/05(月) 01:46:30 ID:3H180ssz0
「国盗り物語」のコソドロ感までにじみ出てきた。原作読まないとなぁ

名無しは己の不学を恥じつつ空しくageるのみであった
157お前名無しだろ:2007/02/05(月) 20:58:27 ID:VLEdFx4E0
ageねばならぬ
158お前名無しだろ:2007/02/06(火) 09:07:26 ID:sLzTZBGL0
エディ国盗り物語面白かったよ乙!

けど、
>「今宵は、もはやお休みあそばすのではござりませぬので」
この辺の台詞は、現代語で書いて欲しかったな、エディやチャボに侍言葉は似合わないw
159世に棲む日日〜1〜:2007/02/07(水) 18:58:24 ID:iS0HS+j20
ところでこの団体の殿さまは、
「そうなの候」
と、団体の選手からもファンからも陰口をたたかれた藤波辰爾であった。新日本の社中の連中が、何か勢い込んで東スポを持ってくると
「ええ、そうなの?」
と、驚いてしまう。選手が行動を起こしても、後から東スポを読み、
「ええ、そうなの?」
と大きく驚いて、いうだけだった。
かといって、藤波辰爾があほうであったかということになると、疑問である。
「賢候」
といわれて、あこがれと期待の心で注目された社長たちがある。
世間では、藤波辰爾をこの仲間に入れていないのである。
藤波には世界観がなかった、といえばかれに酷であろう。
かれはかれ自身決断力というものをもたなかったが、ネバーギブアップの精神を持ち、東スポを信じる能力にも富んだ男で、それにうまれつきコンニャクであった。
160世に棲む日日〜2〜:2007/02/07(水) 18:59:24 ID:iS0HS+j20
ある意味では、かれほど賢候であった人物はいないかもしれない。かれは、猪木派・長州派を近づけようとはせず、西村だけを近づけた。
レスラーは猪木派・長州派のどちらかの派閥に属している。どちらの選手が新日の覇権を握っても、藤波辰爾は泰然と東スポを読んで、
「そうなの?」
と、驚くだけである。
「そうせねば、藤波辰爾は21世紀までとても現役でいることはできず、猪木・長州のどちらかの派閥に吸収されるか引退勧告をされていたろう」
と、団体外の長州派のものがいったという記録がのこっているが、あるいはそうかもしれない。
その意味で、藤波辰爾の無定見の、
「そうなの?」
がかれ自身の選手生命を救っただけでなく、これがために長州の政治活動を抑制し、独裁を防ぐことになった。
161お前名無しだろ:2007/02/07(水) 22:51:50 ID:HOvJWGWn0
面白すぎwww

「そうせい候」がこうなるとはwwwww
162お前名無しだろ:2007/02/09(金) 18:41:25 ID:7WIc3KVnO
笑った!
毛利「そうせい候」は、ある意味、名君だが
ドラゴン「そうなの候」は正真正銘の暗君ですね。
163お前名無しだろ:2007/02/09(金) 18:44:42 ID:7WIc3KVnO
↑書き違えた。
「そうなの候」もある意味、名君。
164花神<1>:2007/02/10(土) 20:57:27 ID:rN5ryHHo0
男は、凄まじい形相で試合後のリングに上がって小川と川田の前に立ちふさがった。
(ひとりでハッスルポーズを阻止する気か)
と、川田はコーナーポストに寄りかかってその光景をみていた。
このハッスル軍の前に立ちふさがった男こそ永田裕志である。
永田が
「小川が大阪ドームでハッスルポーズをやると宣言している」
と知ったのは新日本大阪ドーム大会の一週間前ぐらいで、そのことはかれと親しくしている
プロレス記者の情報で知った。大阪ドームで新日本の天山・棚橋組と試合するハッスル軍は
小川・川田組という。正確な情報であろう。
永田はすぐ記者にむかって、
「神聖な新日のリングで、あんな下品なポーズはやらせない」
と言った。
ところが多くのファンが小川の宣言した大阪ドームでのハッスルポーズに期待していた。
永田のハッスルポーズ阻止の記事は、多くのファンの受けがわるく、むしろハッスルポーズは、
なんの話題性もない大阪ドーム大会の唯一の目玉になっていたのである。
が、永田にすれば、
「ハッスルポーズから新日のリングを守る」
ということが、かれの絶対の使命であった。
165花神<2>:2007/02/10(土) 21:20:45 ID:rN5ryHHo0
永田がもし新日本以外のプロレスラーならば小川たちのハッスルポーズを見て見ぬふりができたであろう。
が永田の頭上には、新日本プロレス三十数年のスローガンであるストロングスタイルの
一大累積がのしかかっている。ストロングスタイルという他団体ではない特異な
プロレスラーの典型ができあがって、永田は当然、妥協のできないストロングスタイルの
プロレスラーのごとくふるまわなければならない。
繰りかえしていうが、大阪ドームに集まったファンの雰囲気やハッスルポーズの世間的な
認知度からいえばこの場は、小川たちにハッスルポーズをやらせたほうが大半の客は喜ぶだろう。
が、永田は、許さなかった。
「ファンに何を言われようともハッスルポーズは防ぐ」
と、かれは覚悟した。ストロングスタイルという、多分に非妥協的な新日本のスローガンから発想したものである。
新日本のプロレスラーとしての誇りをまもるということには強烈すぎるほどの意味があるのであろう。
繰りかえしていうようだが、この場の永田裕志のようなプロレスラーができあがるには、
三十数年の歴史が必要だったのである。
166花神<3>:2007/02/10(土) 21:51:02 ID:rN5ryHHo0
永田がハッスル軍の前に立ちふさがってすぐに、数名の新日本のレスラーが永田の元に駆け寄り、
また試合に敗れた天山と棚橋も立ちあがって永田と同様にハッスル軍の前に立ちふさがった。
リング上は、たった二人のハッスル軍を多数の新日本のレスラーが取り囲むという状況ができている。
目的は、ハッスルポーズをやらせない、ということである。大阪ドームに集まったハッスル軍のファンとしては、
永田たちの抵抗を大人気ない、と思っていただろう。
一方の新日ファンからすれば、たった二人を多数で阻止するというリング上の光景に今の新日本の
情けなさを見せつけられる思いがしたであろう。
永田たちと小川のあいだには、何度か口論があった。
「このことは、猪木さんも承知されている。さっさとリングから立ち退かれよ」
と小川はいった。「猪木も承知している」といえば、永田たちの抵抗は無意味なことではないか、というのが、
ハッスルポーズをやる口実の理由であった。
が永田はその口実を無視し
「新日のリングは、多くの血と汗と涙の歴史が詰まったリングだ。そんな下品なポーズを
 やって許されるようなリングなどではない」
小川いう。
「下品なポーズと申されるが、この大阪ドームに集まった客の多くがハッスルポーズに
 関心をもっていることはスポーツ新聞の記事などを見てお分かりであろう。
 そもそも客の期待に応えるのがプロレスラーではないのか」
167花神<4>:2007/02/10(土) 22:18:23 ID:rN5ryHHo0

「本当の新日ファンであれば俺たちの行動を支持する。たとえ何を言われようともこの永田裕志の
 目の黒いうちは、このリングでハッスルポーズはやらせぬ」
さらに「自由人」と大きく書かれたTシャツを着た成瀬がマイクを握り客にむかって
「皆さん、ここは闘魂の、ストロングスタイルのリングです。ハッスルではありません」
と叫び客に同意を求めたが、客は成瀬の雰囲気の読めないこの言葉に口汚い野次をとばした。
小川は、これ以上、口論が長引けば客はいよいよ呆れるだろう、と考え永田に
「ファンに一礼だけはさせてくれ」
といった。
永田は、
「本当に一礼だけなんだな」
と小川に念を押して包囲を解いた。
川田はこの小川と新日勢のやりとりがひどく馬鹿らしく感じていて、終始、無言であった。
ハッスル軍は、一礼をすませ花道の奥に引き下がった。客は、ハッスルポーズが結局、
やれなかったことを知ると、呆れかえり大半がメインイベントを待たずに
さっさと大阪ドームから去っていった。
大阪ドームの帰路、今の新日本の姿を即興で俗謡にして唄うファンがいた。


     見るに堪えない今日のドーム
          新日本マジで金返せ


(完)
168花神<余談>:2007/02/10(土) 22:28:47 ID:rN5ryHHo0
・・・・・・また永田さんに頼ってしまった。
169お前名無しだろ:2007/02/12(月) 20:22:46 ID:gRjCwJVO0
なんとも良きスレよ。
170お前名無しだろ:2007/02/13(火) 16:25:07 ID:+4150HXP0
171お前名無しだろ:2007/02/14(水) 22:16:49 ID:/9NyMcEz0
余談保守
172お前名無しだろ:2007/02/17(土) 12:46:56 ID:31BqQ9hr0
保守
173お前名無しだろ
永田さんを火吹きダルマと呼んでいるらしい。
最初にこう呼んだのが前田日明だということも知っていた。