復活!!司馬遼太郎風にプロレスを語るスレ

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57燃えよ剣 より
燃えよ剛腕


その夜、亡霊を見た。
11月2日、五つ、晴夜だった。小橋は戦闘からもどって、有明本営の自室にいた。
ふと気配に気づき、寝台から降りた。眼を凝らして、彼らを見た。
目の前に、人がいる。一人や二人ではない、群れていた。
「プロレスラーに怨霊なし」
と古来いわれている。小橋もそう信じてきた。
が、いまこの部屋の中に居る。亡霊たちは、椅子に腰をかけたり、床にあぐらをかいたり、
寝そべったりしていた。
みな、リングでの衣装を着け、のんきそうな表情をしていた。
ジャイアント馬場が椅子に腰をおろしている。
ジャンボ鶴田が寝転んでひじ枕をし、こちらを見ていた。その横に、癌で死んだ冬木弘道が、
あいかわらず理不尽大王な顔でぼんやりあぐらをかいて小橋を見ている。
オブライトが部屋の隅でスクワットをしていた。その他、何人の同志がいたか。
58燃えよ剣 より:2005/11/05(土) 12:18:17 ID:fLyxhbZn
(どうやらオレは疲れているらしい)
小橋は、寝台のふちに腰をおろして、そう思った。今年に入ってから小橋は国内だけでなく欧米にうってでていた。
不眠の夜が続いていた。部屋の中にいる幻影はそのせいだろうと思った。
「どうしたんですか」
小橋は、馬場にいった。
馬場は無言で笑った。小橋は鶴田のほうに眼をやった。
「鶴田さん、あいかわらず体調がすぐれないようですね」
「疲れているからな」
と鶴田はいった。
「あなたも疲れているんですか」
小橋が驚くと、橋本は沈黙した。灯明かりがとどかないが、微笑している様子である。
みな、疲れている、小橋は思った。
思えば、ここ数年、新日本プロレス一派がなお怠惰な生活を送っているとき、崩れ行くプロレスという
大屋台の「威信」をここにいるプロレスラーや箱舟組の手で支えてきた。
それが、歴史にどれほどの役に立ったかは、いまとなっては小橋もよくわからない。
しかし、彼らは疲れた。亡魂となっても疲れは残るものらしい。
小橋はそんなことをぼんやり考えている
59燃えよ剣 より:2005/11/05(土) 12:19:06 ID:fLyxhbZn
「小橋、あす、プロレスの砦が落ちるよ」
馬場は、初めて口を開き、そんな、予言とも、忠告ともつかぬ口ぶりでいった。
小橋はこの予言に驚倒すべきであったが、もう事態に驚くほどのみずみずしさがなくなっている。
疲れて、心がからからにかれはててしまっているようだ。
「墜ちますか」
と、にぶい表表でいった。馬場がうなづき、
「ハッスルが芸能人をつかってプロレスごっこをする。マスコミは物珍しさからワイドショーなどで
取り上げるだろう。プロレスマスコミやコアなプロレスファンはもともと世間に対してコンプレックスがあるので、
それだけで持ちこたえられないで、褒めそやすだろう。
シュートを超えたものがプロレスであるはずなのにな・・・・・・・」

寝返りをうって、寝台の上に起き上がった。ローブ、ブーツのまま、まどろんでいたようであった。
(夢か。−−−)
小橋は寝台をおりて部屋をうろうろ歩いた。
確かにたったいま、馬場が座っていた椅子がある。さらに鶴田が寝そべっていた床のあたりに小橋はしゃがんだ。
ゆかをなでた。
妙に、人肌の温かみが残っている。
(鶴田さん、ここに来たんだな)
小橋はそこへ、ごろりと寝そべってみた。