復活!!司馬遼太郎風にプロレスを語るスレ

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368峠 1(剛腕 対 世界標準)

「すでに試合時間は三十分でござる」

と、セコンドのKENTAがささやいた言葉に、同じくセコンドの秋山は二度うなずいた。

(膝は、大丈夫か)

とおもった。小橋のチョップの数は、つぎで百十七発目である。レスナーが小橋のチョップを
よけるようなことをすれば、せっかくの世紀の対決に水をさすのだが、レスナーも小橋とのチョップ
合戦に応じている。その胸肉の大部分が異様にあかく血膨れしているのはレスナーも
意地になってチョップ合戦に応じている証拠であろう。
小橋とレスナーのむこうにはセコンドの永田や棚橋といった新日本勢が叫び声をあげている。
客が、昂奮のあまりに足を鳴らしつづけていた。
369峠 2(剛腕 対 世界標準):2006/03/23(木) 21:36:18 ID:l3y180VR0
チョップがしだいに強くなるようであり、その両選手の意地をかけたチョップ合戦が
途切れてしまうことを客はおそれた。

(しかし、小橋さんのほうがレスナーに圧されつつある)

と、秋山はおもっている。やがて小橋は、このチョップ合戦に耐えられなくなり
膝から崩れおちた。レスナーは勝機と見るや小橋の股に腕をさし入れ担ぎ上げた。
「判決」である。相手を肩車で担ぎあげて回転をくわえて顔面から突きさすように
マットへ叩きつける荒技である。

「この技をくらった苦しさほどのもの生涯ついに味わったことがない」

と、蝶野や中邑が口をそろえて述懐していたほどに、この技の威力は壮絶をきわめた。
370峠 3(剛腕 対 世界標準):2006/03/23(木) 21:55:11 ID:l3y180VR0

(やばい)

と、途中、セコンドの秋山がたちあがったほどであった。

「ぐあっ」

と、大声でリング上から小橋の声が聞こえてくる。これが判決という技であり
泉田あたりの不入ドムとは、まったくちがう。不覚にもレスナーの判決を小橋は、
くらってしまった。レスナーは小橋に覆い被さりカウントをもとめた。が、天は、
小橋がこのままマットに沈むことを赦さなかった。レフェリーがスリーカウントを
叩く直前に小橋は、かろうじて右肩をあげた。レスナーは信じられない顔で小橋を
見たが、すぐには小橋の攻撃をゆるさない。もう一度、判決の体勢に入ったが、今度は、
小橋が力いっぱいにもがいたために崩れてしまった。小橋は、鬼のような形相で拳を握りしめ
ロープへ走り、その反動を利用してレスナーへ襲いかかった。
371峠 4(剛腕 対 世界標準):2006/03/23(木) 22:08:11 ID:l3y180VR0

その剛腕、疾風のごとし

という。文字どおり黒いつむじ風のような勢いでレスナーの咽元を襲った。

――乱発はするな。一発で仕留めろ――

というのがラリアットの創始者スタン・ハンセンの言葉でありラリアットの要訣であった。
いっさい無言で打ちこんだ小橋のラリアットにレスナーは、いきおいよく後頭部から落ちた。
手応えはあった。並のプロレスラーなら、いまの小橋のラリアットで勝負がついただろう。が、
相手は世界標準とよばれるプロレスラーである。レスナーは立ち上がった。

「小橋さん、いまだ」

と、秋山が叫んだ。
372峠 5(剛腕 対 世界標準):2006/03/23(木) 22:26:57 ID:l3y180VR0
立ち上がったとはいえレスナーは小橋のラリアットによって意識がとび、目が虚ろである。
秋山の叫びに小橋はうなずくと、レスナーの背後にまわった。剛腕をレスナーの股にさし入れると、
そのまま股ごしからレスナーの片方の手首を掴んだ。小橋はこの体勢から一気にレスナーを
横担ぎに担ぎ上げて静止した。小橋の顔の孔という孔から汗や涙が夥しく吹き出ておりその顔は
もはや怒っているのか、泣いているのかすら判別すらできなかった。客はこの小橋のいまの顔を
美しくおもってみていた。やがて小橋はレスナーの後頭部をマットに叩きつけた。
小橋の奥の手である「改良型の青春の鉄槌」であった。
373峠 6(剛腕 対 世界標準):2006/03/23(木) 22:42:56 ID:l3y180VR0
小橋は、ふらつきながらレスナーに覆い被さりありったけの力をふりしぼってレスナーの両肩を押さえた。

「ワン、ツゥ−」

と客は叫び、レフェリーのカウントスリーがマットを力強く叩いた。日本武道館に集まった客がいっせいに立ち上がり、
勝利者を祝福する紙テープがあちこちでリングに投げ込まれ、リング上は虹のような色どりになった。
新日本のセコンド勢はレスナーの敗北を、にわかにみとめることができずにいたが、やがて永田と棚橋がジャージを脱ぎ捨て

「NOAHに死ににきたぞお」

と口々に叫びつつリング上におどりこんだ。この乱闘で新日本勢は小橋の勝利の余韻を掻き消すであろうとみたのである。

「殺せ、殺せ」

と連呼しながら煽る客もあった。
374峠 7(剛腕 対 世界標準):2006/03/23(木) 22:50:24 ID:l3y180VR0
小橋のセコンドについていた秋山やKENTA、そのほかのNOAH勢もリング上におどりこみ、
この雰囲気がよめない新日本勢を追い散らした。
日本武道館に集まった客のよろこびようはむしろ異様であった。みな口々に、

「小橋、小橋」

とリング上の小橋をたたえた。泣きながら叫んでいる客もあった。


(完)