私は、70年代末に彼の試合を初めて生観戦して以来、25年以上に渡る
熱狂的なチャボ・ゲレロ選手(現チャボ・ゲレロ・シニア氏)のファンで
現在、メキシコへ単身赴任中の友人、Tさんと共同で
力不足ながらも応援サイトを開かせてもらっております。
そんな私たちの元へ、3月24日、信じられないようなメールが彼から
届きました。「家の片付けをしていたら、日本のリングでも使用した
古いレスリング・ブーツが出てきました。もし、よろしければ
プレゼントさせてほしいのですが、受け取って頂けますか?」
夢ではないのかと、何度も何度も目をこすりましたが、
いつも通りの丁寧な文章で、間違い無くそう書かれてあったのです。
憧れのレスラーからこんなメールが届いた場合、皆さんは、どう
反応されるのでしょうか? 「へえー、ラッキーじゃん!」 でしょうか?
それとも、「チャボの気が変わんないうちに早いとこ貰っとけよ」 ?
しかし、私の中では、相反する二つの感情が葛藤を始めていました。
そして私は、その気持ちを正直にメールに託すことにしました。
「プレゼントして頂けるのなら、ファンとしてこんなに幸せなことはありません。
ただ、私たちのような者に、そのような貴重なアイテムを受け取る資格が
本当にあるのだろうかと、正直なところ戸惑っています・・・」
しかしチャボは、メールの後半部分には全く目もくれなかったかのように、
「受け取ってもらえると分かって安心しました。ただ、明日から私は
しばらくの間留守にしますので、発送は帰宅してからになります。
荷造りが出来た時点で、改めて連絡させて頂きます・・・」
それからというもの、ソワソワと落ち着かない日々が何日も続きました。
しばらくの間留守にすると言っておられるのに、翌日から早速
暇を見つけてはPCの前に座ってメールのチェックです。
しかし、その翌朝に別の用件でメールが届いたのを最後に
丸二週間、先方からは何の音沙汰もなくなってしまいました。
私は彼を通して、多くのプロレス関係者と知り合うことが出来ましたが、
彼らの多くが、「誠実」 という言葉でチャボを評してくれます。
先頃亡くなられた元レスラーでチャボの親友だったケン・ティムズ氏は
「チャボは正直者で嘘が大嫌い。だから絶対に人を裏切らない・・・」
とまで言い切ってくれました。そんなチャボですから、いい加減な気持ちで
プレゼントの話を持ち出したとは到底考えられません。
しかし彼は現在、レスリング・スクールを二校運営するとともに、
二つのインディー団体の共同コミッショナーを務めるなど
とても多忙な人ですから、各都市を行き来しているうちに、ついうっかり
ブーツのことを忘れてしまったということも考えられなくはありません。
でも私は、この時、ひとつのことを強く心に決めていました。
「チャボからの次のメールで、彼がブーツのことに全く触れなかったとしても
こちらから催促するようなことだけは、絶対にしないでおこう・・・」
25年間、自分にとってヒーローであり続けた人物を責めるような行為は、
どのような形であれ、絶対にしたくないと思ったのです。
そのような中で迎えた4月7日の朝です。目を覚ましていつものように
PCを起動した私の目に、チャボからのメールが飛び込んできました。
画像が添付されたそのメールの表題は、ズバリ
"Ready to ship now , amigos ! " (荷造りが出来たよ、アミーゴ!)
私は、椅子から飛び上がりそうになりました。
それから暫くの間、私の目はPCの画面を食い入るように見つめたまま
ただ茫然とするばかりで、何も手につかないという状況が続きました。
「発送の準備が出来ました」 という表題が付けられたそのメールには、
「プレゼントするのは、このブーツだよ」 という声が聞こえてきそうな
緑色のブーツをしっかりと抱えたチャボの写真が添付されていました。
「お待たせしてすみませんでした。アリゾナ、ノース・カロライナ、
ネバダ、フロリダを廻って、ようやく戻ってきました・・・」
いつものように、彼のメールは簡潔ではありますが、実直さに溢れて
いました。ブーツにサインを入れたほうが良いかということまで
わざわざ尋ねてくださいました。
それから3日が経過した4月10日、ようやく休暇がとれたTさんが
メキシコから一時帰国しました。 実はTさんは、1月2日に正月休暇で
一旦帰郷していたのですが、現地事情によりトンボ返りする破目になり
今回の休暇は、その「埋め合せ」とのことでした。
私は彼を自宅へ送り届ける途中、一旦我が家に立ち寄り、わざとらしく
「3日前にチャボからメールが届いてるんだけど、まだ開けてないんだ。
どんな用件なのか、ちょっと確認してくれない?」 と言いながら
彼をPCの前に連れ出しました。 Tさんは、「開封してるやん」 などと
ブツブツ言っていましたが、やがて、急に表情が変わりました。
「こ、これ、マジなの?」
私はメールに添付されていた例の画像を示しながら、
「チャボがこのブーツ、プレゼントしてくれるそうなんだ」 と打ち明けました。
彼は「信じられない」 といった様子で首を横に振りました。
「ボクだって、最初は信じられなかった。でも本当なんだよ。
今頃、ブーツはテキサスからカリフォルニアに向かって飛んでいるか、
もしかしたら、もう太平洋の上空かも知れない」
「でも・・・」 Tさんの表情が少しだけ曇りました。
「ボクが日本にいるあいだに届くのは難しそうだねー」
Tさんは、16日の夕方の便での帰国が決まっていました。
ああ、何とかTさんが日本にいる間に届いてくれないだろうか。
でも、チャボの住むC・クリスティから日本への直行便がないことや、
税関での検査などを考慮すると、発送からTさんの離日まで
9日間しかないというのは、ほぼ絶望に近い数字でした。
結局、荷物が届かないまま、16日の朝がやってきました。
この日、私はTさんに家内の手料理を振る舞ったあと、
クルマで関空まで送り届けることになっていました。
万一の渋滞を考えると、遅くとも1時には出発せねばなりません。
そのため、やや早めの昼食を摂っていた11時過ぎでした。
玄関のチャイムに応答した家内からの、「パパ、外国から小包・・・」
の声に、私は我を忘れて駆け出しました。
予想していたよりも遥かに大きなパッケージ・・・
Tさんと二人でドキドキしながら開封すると、添付されていた画像と
全く同じグリーンのブーツが、丁寧に梱包されて入っていました。
私たちは、取り急ぎ食事を済ませたあと、
ホームページ用に、ブーツを手にしたTさんの写真を撮りました。
服装は出来る限り、添付されていたチャボの画像に近付けました。
無事に届いたことを、HPを通してチャボに見てもらいたかったのです。
関空へ向かう車中で私はTさんに、「ボクら二人宛てに届いたんだから
片方のブーツ、遠慮せず、メキシコへ持って行っていいんだよ」
と勧めましたが、Tさんは聞き入れませんでした。
「靴やお箸のようにペアになっているものは、切り離しちゃダメなんだ」
しかし、関空へ着くまでのあいだ、彼は外の景色には目もくれず、
話をしている最中でさえ、膝の上のブーツから彼の視線が離れることは
一瞬たりともありませんでした。本当は持ち帰りたかったのだと思います。
その夜、家に戻ると、関空へ出発する前に送信しておいたお礼の
メールに対して、早くもチャボから返事が届いていました。 そこには、
「ブーツを見つけた時、自分のことを本当に応援してくれている人、
そしてブーツをいつまでも大切にしてくれるであろう人にプレゼントしたい
と思いました。だから、お二人に受け取ってもらえたことを
本当に嬉しく、そして誇りに思っています」 と書かれてありました。
まもなく、50歳になろうかという男の目から、
本当に、涙が溢れそうになりました。
これまで、いろんなところに書いてきた事ではありますが・・・
「チャボのファンであることは、私の一番の誇りです。」
お礼の言葉が見つかりません。 チャボ、本当に有難う!
以上、超長文スマソ。メルマガ「夕刊プロレス」の投稿です。
あまりに良い話だったもので、無断転載してしまいました。