大森「長州さん、俺・・・」
吉田「協力してくれるよな?お前には特別に目をつけてやってたつもりだったんだぜ。ノアで行き場の無くなったお前を拾って
やったの誰だ?おまえ、普通フリーの選手にあそこまでよくしやしないよ。なぁ、頼むよ。悪いようにはしないからさ」
大森の腹の内は決まっていた。この話には絶対に乗れない、そう決まってはいるのだが長州力という男の魔力か威圧感なのか
話を切り出せない大森の目は泳いでいた。だが、この5年間、初めて全部自分からやらなきゃいけないというフリー時代にも
産まれなかった苦境と、それを乗り越えることで培ってきた克己心が大森の心を奮い立たせる。
大森「帰ってください。俺は今、幸せなんです、十分すぎる程にね。プロレスはもうやりません。今だから言える。俺はWJ時代
に良かったと思うことなんて、いやレスラーとしてやってきたことなんて本当に良いと思ったことなんて何も無かったんだ。
今、確かに俺の生活はレスラー時代のそれと比べて質素なものですよ。でも、それ以上を高望みして自分の弱さに気づかず、
ただ過ちばかりを積み重ねていったあの頃の俺にはもう戻りたくないんだ。もう話すことなんて何も無い。出て行ってくれ」
吉田は一瞬、平手打ちを食らわされたような呆然とした顔をしたが、やがてその顔に血管が浮き出てくる。身体的には明らかに
レスラー時代のそれと比べて衰えているものの、その殺気たるや当時のそれを遥かに上回るものだ。5年間、身体を訛らせる事の
無かったはずの大森が思わず身震いする。
吉田「大森ぃ、考えなおしちゃくれんかなぁ。金ならいくらでも都合つけてやるぞ。あの頃の倍払ってやってもいい。それに運転手
付きのベンツだ。ハハハ そういえば傑作な話があるんだった。オイ!入って来い」
そういうと、外から黒いスーツに身を包んだ二人の男が入ってきた。大森には確かにその二人に見覚えがあった。
吉田「ホラ、久々のご対面だろ?健介、越中、挨拶しろよ。」