ドンドンとノックの音がする。(妻が帰ってきたのだな)と無精髭の男は思った。俺には贈ってやれる品
などないが、せめて気持ちだけでも伝えておきたい。驚かせてやろうか、それとも何か言葉の一つでもか
けてやろうか、などと色々思索をめぐらせている途中、突然乱暴に開けられた玄関の戸の音に驚き、はっと
目をやるとそこには見覚えのある男が立っていた。出来れば思い出したくも無かった、そんな無精髭の男の
気持ちを知らずか、無理やりに記憶の糸を辿らされるかのように玄関に立っている男は口を開いた。
???「ひさしぶりだな 大森。まぁ立ち話もアレだから上がらせてもらうぞ」男は革命戦士として一世を
風靡し、長州力と呼ばれた名レスラーだ。無精髭の男、いや大森はかつてこの男の旗揚げした団体に参戦
していたレスラーだったのだ。
かつて長州力と呼ばれた男「大森、アレだ。俺のこと覚えているよな。」
大森「・・・。」
かつて長州力と呼ばれた男「かつては名レスラーと呼ばれた俺も今では身体が弱っちまってな。今ではただの吉田だよ」
大森「・・・。」
吉田「まぁ硬くなるなよ。お前の家なんだからラックリしてくれよ。どこまで話したっけかな?」
大森「・・・長州さん・・・。」
吉田「おお、そうだ。吉田だ。本当はお前が2代目長州力になるはずだったんだよな」
吉田はそういって笑顔をみせる。奥に危険を感じるさせる者だけがみせる事の出来る腹黒い笑顔だ。いや、その男の身体
は本当に黒かったのかもしれない。呼びかけを切り返された大森を見ながら吉田は続けた。