報道陣の問いかけに飯田は声を荒げて怒鳴った。
「被害者6人から、もう金はいらんから
永野をぶっ殺せと頼まれてきたんや。ドアを開けんかい」
飯田は報道陣からパイプ椅子を取り上げ、それでドアを激しく叩き始めた。
応答はなかった。
矢野が玄関脇の窓のアルミ桟を数回、力まかせに蹴った。
2人は折れた桟をはぎ取ると、窓ガラスを蹴破り
呆然としている報道陣を尻目に、部屋に飛び込んだ。
報道陣のカメラがいっせいにその窓の中へと集中した。
矢野が持っていた鞄には銃剣が入っていた。
数分後、室内で格闘する声が聞こえてきたのち、飯田が窓から出てきた。
血まみれの銃剣を持ち、服にも返り血があった。
飯田は胸を張って、周りを見渡した。
「殺(や)ってきた。俺が犯人や。警察を呼べ」
そう言うと、再び、部屋に戻った。2、3分して2人が出てきた。
飯田は勝ち誇ったように言った。
「これで死んどらんかったら、またやったる。87歳のボケ老人を騙しくさって
850万円も取ったやつやからな。当然の報いじゃ」
飯田とは対称的に報道陣はいたって冷静だったのが印象的だった。
のちに、『フォーカス』(新潮社/現在、休刊)に発表されたが
自ら血しぶきを満面に浴び、砕けんばかりに歯をむき出しにした
永野の断末魔の形相は人々を戦慄させた。