秋山VS永田、ヤオってホントですか?

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309nagata
 3時半になる頃には、かなり良い筋書きが出来上がっていた。
僕は秋山に言った。「もう一度全体をじっくりと考えてみるよ。それからまた話し合おう」
 「いいぜ」
 食堂に戻るとまた少し食事を取った。あれから4日しかなかったが、僕はプロレスの世界に帰ってきたのだ。
弟をはじめ、次々に人がテーブルにやって来ては励ましの言葉を投げかけてくれた。
別に、「頼むぞ、永田。秋山に負けるなよ」とかではない。
皆が既に結末が決まっていることをを知っているからだ。ただ頑張るよう言ってくれるのだ。
ちょうど一世一代の大舞台を踏む俳優に向かって言うみたいに。
その日は一日中携帯が鳴り、全国の友人や親戚から励ましのメッセージが届いた。
祖母などは7回もメッセージを入れてくれた。しかし5時半頃にはそろそろ返事するのを止めなければならなかった。
入口のドアが開いて会場が瞬く間に満員になる時間だった。もう少しリハーサルをするために、僕は秋山の控室へ向かった。
310nagata:02/01/12 11:19 ID:???
 僕達はもう一度試合の段取りを確認しなければならなかった。今度は細部もつけ加える必要があった。
ロッカールームの中で僕達は試合の内容を一通り流してみた。
これは説明するのが難しいのだが、お互いを良く知り共に楽しんで試合をする仲間同士だったら、
こうした試合の段取りを決めるプロセスで気持ちがひとつに溶け合い化学反応を起こすことがあるのだ。
先ず控室全体の雰囲気から違ってくる。ぞくぞくするような感じが充満してくるのだ!
そんな時には新しいアイデアが次から次に生まれる。喋る速度がどんどん速くなり、相手の気持ちを読み取れるようになる。
 「もしあんたがその時に・・・」と僕は秋山に問いかける。
 「お前をロープにふってか?」
 「そう・・・」
 「それだ!そしてお前がジャンピングニーで返す」
 「あれ!それってまさに俺が考えてたことだ!そこからこうしようか・・・」
 アドレナリンが脈打つ中、第一級品の試合が完成していった。
311nagata:02/01/12 11:21 ID:???
 ウォーミングアップが済むと、秋山と試合の内容について今一度確認をした。
順番通りに段取りを確かめながら、技や動きを互いに叫び合い、相手がシナリオをどれくらい把握しているかのテストをした。
カーテンの向こうでは、メインエベントを待ちわびている観客の歓声が場内にこだましていた。
心臓がバクバクと鼓動する。水ボトルを取って手を洗った。僕と秋山は向き合って同時に二本指を差し出した。
ふたりの結束を示すサインだ。タッグを組んでからこの指サインが永田と秋山流の握手のやり方だった。
両手を二度叩き合い、互いを指差し、もう一度両手を叩いた。
 「準備よし!」僕達は同時に叫んだ。「行くぞ!」