1 :
猪木 ◆CG28uNUc :
気持ちはage
「最終スレ…の予定」ってのが(W
ところでホントにマルチエンディングなの〜?
[2日目午後12時頃:街中]
戦場となっている地域中に雨が降っている。まるで散っていった者達の無念を慰撫するかのようだ。
マスクを手に持ったカシンは、肉体的にも精神的にも疲弊した身体を車のボンネットに預けて
大の字になり空を仰いでいる。雨粒が身体に当たる度に微かに疲労が和らぐ気がした。
だが突然、そんな雨をも止ませるかのような大きな音が街中に設置されたスピーカーから鳴り響く。
いきなり騒音にカシンは舌打ちした。騒音の正体が『炎のファイター』だったからだ。
「おっと、もうそんな時間か。じゃあそろそろ動くかな。」 放送に合わせて馳はベッドから身を起こした。
『幸せ気分でコモエスタ!元気ですかーっ!!!』
「…もういいっての。」 猪木の第一声に武藤は辟易した表情を浮かべる。
『えーしかし今の挨拶とは裏腹に、私は非常に気分が悪い。
何故ならこの時間までに一人も殺せず、爆死したバカが本当にいたからだ。』
「馬鹿はあんただろ…」 蝶野は手にした銃を悲しげに眺めながらそれだけ呟いた。
『あんまり言いたくないんだが、そのバカとは小川直也だ!』
「んだとぉ?…ふざけんな!!アイツを縊(くび)り殺すのは俺だろうが!!!」
路地裏で、残り少なくなったボウガンの矢を辻の亡骸から回収していたサムライは、
怒りのあまり既に土色になっている辻の顔面を久しぶりに蹴り飛ばした。今回は何の反応も無かったが。
『…まぁ金メダルを獲れんかった小心者じゃあ仕方ないかもな。』
猪木は自分の意にそぐわない者には本当に容赦が無い。
それは愛弟子の筈の小川でも例外では無かったようだ。自分以外の者に執着が無いだけかも知れないが。
『おっと話が脱線したな。ではこの6時間の脱落者を発表する。今回も多いぞ〜、ンッフッフ〜。
もう残りは10人を切った、とだけ言っておいてやろう。…じゃ佐山、お前が読め。』
『こんにちは、佐山です。では脱落者を発表しましょう。まず先程挙がった小川直也、山崎一夫、
藤田和之、中西学、平田淳嗣、永田裕志、真壁伸也、それから特別参加でスコット・ノートン、
ドン・フライ、スーパーJ、ドクトル・ワグナーJr.。…と猪木さん、あの二人はどうしますか?』
『ん〜?……あぁ、石田と島川だったか。別にいいだろ、死んだし。』
石川と島田だ、とか佐山が言っている。
「あぁMルチ野郎か。にしても相変わらずやたらと死んでんなぁ。
やっぱ悪いヤツ多かったんだねぇ、ウチ。そういや平田のオッサンはともかく永田も死んでんじゃん。
えっちゅうさんの仕業かな?だったら結構面白いのになぁ♪」
この放送を一番楽しそうに聞いていたのはこの野上彰だろう。
野上は放送を聞きながら、鼻歌まじりに自分に支給されていた『各種銃弾詰め合わせセット』から、
マシンから奪った銃に合う弾を込めていた。
「!!?…スコットにフライにJ?…………オマエら、仇はとってやるからな……」
蝶野は拳をきつく握りしめ、戦う決意と猪木に対する怒りを更に固めた。
スピーカーからは、再び猪木の声が聞こえている。
『えーとにかくこれで半分が終わりました。めでたくみんな人殺しになったワケだ!
実は、俺はお前らが羨ましいんだぞ。俺なんて何回力道山を殺そうかと…っとまた脱線したな。
まぁ「何があるかわからん」がこの調子でガンバレ!!では最後にまた諸君に詩を送ろうと思う。
「道」。この道を行けば……』
ありがたい詩の朗読が終わるまで放送は続いた。
すみません、これだけです。新作だと思ってしまった方、半端で申し訳ありません。
新作UPお疲れage
ZNLさんもカンコ君さんも書かなかったから、昼の放送ないのかと思ってた。
やはりこれがないと寂しいと思うオイラは猪木信者(w
それにしても最後まで名前覚えてもらえなかったね>石野・島本(W
でも…大谷はこの後死んじゃうんだよね…
8 :
お前名無しだろ:01/09/20 08:19 ID:MbXJ08ks
保全あげ!
9 :
お前名無しだろ:01/09/20 13:17 ID:dQwxdQEw
あげまくり!がんばってくれ!
10 :
お前名無しだろ:01/09/20 22:12 ID:kapju.P.
ゲーム開始前に死ぬ小島は小島らしい
11 :
小島聡:01/09/21 01:31 ID:???
うるせえクソバカヤローが!!!
sageつつ保全レス。
13 :
お前名無しだろ:01/09/22 16:30 ID:vlr3shG.
ageつつ保全レス。(期待age)
みんなヤバイ状況になってるのが分かっていながら・・・日記スレみたい
ここまで来たら意地age
age
えー、という訳で場繋ぎです。番外編一作、UPしときます。
今後の展開の予告(←何故、俺が決める?)みたいなもんです。お気軽にお読み下さい。
前半部分の猪木のコメントには、かーなーり色んな意味を持たせてます(w
【2日目 PM2:30分】
大谷晋二郎の非業の死は、戦場に束の間の休息をもたらしていた。
昼の放送終了の約30分後に大谷が死亡した事により、ようやくベスト8が確定した。
しかしあれだけ活発であった参加者達の活動がパッタリと止っている。誰もが武器を携えたまま動こうとしない。
原因は色々と考察出来る。第一に参加者達の心身の疲労、降りしきる雨、何よりも大きな原因は『この時点』を迎え
残っているメンバーというのは、ここに至るまでの経緯は各人違ったとしていても、ひとつの共通項目があるという事だ。
そう、今生き残っている連中は自分も含め全員が『人殺し』であるという悲しむべき事実!
鳴り止まない雷雨が億劫さを増してはいるのだろうが、彼等は動かない。戦場は完全に膠着状態を迎えていた。
「…動きませんねぇ…」「……」 作戦本部でアントニオ猪木と佐山聡は退屈そうにモニターを見やる。
「…ブレイク、かけます…?」「……」「距離を7km以内に縮めるとか、新ルールを急遽設ける、とか…」
珍しく佐山が弱々しい口調で語り続ける。彼は非常に気懸りだった、猪木の虚ろな表情が。
自分が太鼓持ちになったかの様で気分は優れないが、この気まずい沈黙をどうにか打ち破りたかった。
「…どうか、しました…?」「……」 必死で語り掛けるも、悪魔は無反応を貫き通す。佐山の脳裏に嫌な思い出が蘇る。
『あの蔵前の控室でもこうだった。決勝戦だというのに乗り気薄な顔して…その直後だよ、変な謎掛け言い出したのは…』
「…なぁ、佐山よぉ…」 悪魔はようやく口を開く。何を思ったのかこの男は、その場全員の思考を停止させる発言を行う。
「…もうやめるか?これ」 佐山の悪い予感は又しても的中してしまった。
作戦本部内の空気が一瞬にして固まる。冷たい沈黙が続く。当然の話だ、何を今更…
「アハハハ。やだなぁ、社長ったら。まーたツマンナイ冗談を」 周りを気にして佐山は敢えて明るい声を出す。
が、当の御本人は相変わらず腑抜けた顔を維持している。『ふざけるなよ、このガイキチが』キレかかる自分を押え佐山が続ける。
「どうしたって言うんですか、急に?」「……」「あっ、わかった!善人のフリして評判上げようとか思ってるんでしょ〜。勘弁して下さいよ〜」
かなり際どい言い草だが、官僚や自衛隊員の手前、これ位は言わざるを得ない。佐山は笑みを絶やさぬまま、相手の出方を待つ。
「…いや、別にそういう訳じゃねぇんだけどな…」 猪木が面倒くさそうに唇を開く。「じゃぁ、何です?」「まぁ、大したこっちゃねぇが」
彼は異様に長い顎に手を添えたまま、その理由を発表する。それは呆れ返る程、シンプルなものだった。
「飽きた♪」
その一言で佐山は席を蹴飛ばす様に立ち上がる。行政側の人間も皆一様に顔色を変えた。
「何言ってんすか、アンタ、一体」「だから飽きたって言ってるじゃねぇか」「これからでしょう、面白いのは!それをアンタ、一体…」
佐山は既に逆上している。元来これ以上キレ易い男もいない。既に眼は細まり、敬語すら用いなくなっている。
キレた理由の大半は『誰が生き残るか』を見たい事に尽きるが、参加者達の先輩として死闘を繰り広げてきた後輩達の思いを
『飽きた』の一言で片付けられちゃタマンネェ、という気持もあった。今更この男に先輩面をする権利があるとも思えないが…
「そうですとも!これは政府が主催するプロジェクトです!それを貴方の感情ひとつで…」「ウルセェッ!権力の犬が!」
クレームを付けた官僚に対し、猪木は一喝する。「俺に指図するな!百年はえぇっ!バカヤローッ!!」
さすがにこの男の怒声には威厳と迫力がある。佐山始め関係者一同が不服そうに口を噤む。
「…見えねぇんだよ…」 猪木は不機嫌極まりない表情で言葉を繋ぐ。「誰が残ろうと、見えねぇんだ、先が!!」
『…見えない?…先が?』 またお得意の謎掛けが始まったよ、と思いつつ佐山は次の言葉を待つ。
猪木は歌舞伎役者の如く周りを嘗め回す様に一瞥すると、御自慢の葉巻に点火し、煙を燻らせながら解説を始める。
「…このプログラムの趣旨は何だ?」「……?」「真の強者を育てるんだったよなぁ、確か」「…その通りですが」
「なぁ、佐山」 猪木は急に微笑を湛える。「アイツ等から育つと思うか?真の強者が。育つ訳、ねぇだろうが!」
必死で戦っている弟子達にこれ以上の冒涜はないだろう。この男は誰が残っても俺は認めん!と言っているのだ。
しかし佐山は反感を覚える反面、猪木の意見に共感もしていた。 『誰が残ろうが、この人は越えられない・・・』
アントニオ・猪木と言うレスラーは全てを持っている。彼には天使と悪魔が常に同居している。
ケンドー・カシンの持つ『冷酷』、エル・サムライの持つ『狂気』、野上彰の持つ『詐欺』、
武藤敬司の持つ『シビア』、馳浩の持つ『探究心』、蝶野正洋が持つ『プライド』、
そして越中詩郎と西村修が持っている『正義』、これらの矛盾した性格がこの男の中には全て含まれている。
それも中途半端な量ではない、場面場面で万華鏡の様に性格が変る。ある意味で人間の傑作と言えるであろう。
「…な?やってて無駄だろ、こんなもん」「……」 佐山は妙に熱っぽい目で師匠を見つめている。
「アイツ等じゃ期待感が持てねぇんだよ。気合が足りねぇっうか。奴等じゃ俺は殺せねぇよ…」
すると猪木は佐山に対し、18年前と同じ様な謎掛けを投げた。悪戯小僧の様な笑みを浮かべながら…
「…お前か前田くらいだと思ってたがな、俺を殺してくれるのは。ンムフフフフ」
佐山の背筋に強い電流が走る。忘れ掛けていた、いや、忘れようとしていた感情が蘇る。
「 − アントニオ・猪木を 殺す − 」
思えば虎の覆面を脱いでからの自分の人生はその為だけにあった。富も名声も捨てて、俺は彼の否定に走った筈だ。
なのに何故、俺はここにいる…傍らで笑っている場合じゃないだろう!彼を倒す事が俺の人生の集大成じゃないのか!
佐山の脳裏を幾つもの妄想が駆け抜ける。元々、想像力は普通人より数段逞しい性格だ。
『…この男を殺したい。無様に泣きながら俺に命乞いをするこの男が見たい…』
『…この男に殺されたい。虫けらを見るが如き冷たい視線で俺を見下す、この男が見たい…』
世界一の猪木ファンは様々なイメージプレイにより、脳内勃起を続けている。そのどれもがタマラないシチュエーションだ…
佐山の感情に大きな波紋を投げかけた事を知ってか知らずか、猪木は愉快そうに言葉を繋げる。
「という事で終りにしませんか!俺も家、帰りてぇしな」「……」 虎の心を取り戻した佐山にはその悪質な冗談は届いていない。
「面倒くせぇから、全員爆破しちまえ!解散、解散!」「いい加減にして下さい!」 はしゃぐ悪魔を諌めたのは自衛隊幹部である。
「これは国家の威信を掛けたプログラムです!貴方の主催興行ではありません!いくら全権委任とは言え…」
「オーケー、オーケー。わかった、悪かった。撤回します!」 猪木は快活に白旗を上げる。周囲はその豹変振りにただ唖然とする。
但し、先刻の中断指令は冗談で言った訳ではない。本気だった。この男の気分は何時しもカメレオンの如く変化する。
「まっ、それでもだ」猪木は椅子から立ち上がり佐山の肩を軽く叩く。佐山は今だ熱っぽい視線を失っていない。
「疲れてる事も事実だ。しばらく寝る。6時の放送に間に合わなかったら春一番でも呼んどいてくれ」
益々呆然とする行政関係者を尻目に、全権司令官は退出した。
暫くは唖然とするばかりだった官僚達は、佐山に聞こえぬ様、口々に指揮官の不真面目さを批判し出す。
しかし彼を知り尽くした佐山にとっては、その中傷は全てお門違いの内容であった。
『…お前等みたいな杓子定規野郎には、あの人は千年経ってもわかりゃしねぇよ…』 佐山は愉快そうに忍び笑う。
佐山を愉快にしている原因はもう一つある。先程、自分の肩を叩いた時の力強さとその燐とした背筋だ。
いくらやる気のないブラフをかまそうが、猪木の本気はいつも背中に現れる。佐山は誰よりもそれを熟知している。
『…まったく。不機嫌そうにしてたのは、要は自分も参加したくなっただけじゃないか。懲りないジイサンだ…』
その懲りないっぷりが佐山の心を一層沸きたてる。これで自分にもチャンスが巡ってきた、我が格闘人生の清算の機会が!
『…これからの残り一日半、色んな意味で楽しくなりそうだなぁ。皆さん、よろしくお願いしまーす』
師匠同様、すっかり上機嫌になった佐山に対し更にモニターから嬉しいプレゼントが届けられる。
「おっ!ようやく動きがあったみたいだね。今動いたの、誰?」 「サムライです。南の方角へ動き出しました」
「南って言うと…石澤君がいる方向じゃないか!凄いなぁ。こんな豪華なカード、準々決勝で見ちゃっていいのかなぁ(笑)」
骨肉の争いは再び幕を開けようとしている。
アントニオ・猪木の持つ『狂気』を偶然継承してしまった、悲運のマスクマンの手によって。
一応、sageっぱなしも寂しいのでageときます
あとは隙間さん、任せた!頑張って下さい。
24 :
猪木 ◆0LeDzW12 :01/09/24 11:13 ID:DwcnhmXg
おお!カンコさん。猪木戦場に降臨ですね!
誰かやらないかなーっとずーと思っていました。
楽しみダーーーーー!!!
>6時の放送に間に合わなかったら春一番でも呼んどいてくれ
ワラタ。これでようやく本当の主役が出てきた、バンザイ!
面白いですね
すごいです
カンコ君 様 「任せた!」って…凄い重圧ぅ(泣) 確かに最初に時間指定したのは私…
「サムライ頂きますv」って言ったのも私…でもでも…ぐはぁっ!
なんて愚痴言ってる場合ではありませんね。ココ読んでる人もさっさと書け!とモニターの向こうで
焦り焦りしていらっしゃる事でしょうし。
それでは初めて時間進行する(W サムライ編をお送り致します
時は少し遡る。
[2日目 午後0:40頃 個人医院]
正午の放送で小川の名前が呼ばれ、憤怒の鉾先を失った彼の昂った心は、眼前に転がる男の死体を蹂躙することで
何とか落ち着きを取り戻した。とは言え狂気から解放された訳ではなく、本能が保身を要求したのである。
左眼が酷く疼き、右腕の銃創から熱を帯びた痺れが肩口にまで侵蝕していたことに今更ながら気付かされる。
普段、怪我や病気に無縁な身体も、流石に限界に近付いていたのだろう。疲労と激痛が彼を苛む。
安全な隠れ家を求め、揺らぐ身体と心を引き摺りながら雨の中辿り着いたのは…病院であった。
プログラム進行上、人が心の拠り所にしそうな場所はわざと開放されている。
病院はその最たる場所であった。
中西を監禁した最初の病院は規模も大きく、立地条件からも人が集まるには格好の場所で
恐らくその後も誰かが立ち入った可能性が高い。それに体力を消耗した身体で戻るには遠過ぎた。
狂気の縁に立つ彼がそこまで計算していた筈はないのだが、本能的な行動の末にサムライが身を隠したのは
住宅街の一角にある小さく古い個人医院だった。
自宅と併設されたその医院は施錠されていた。注意しながら建物を一周し、中に人の気配がないことを確認し
裏手から窓を破り侵入する。内部は薄暗く、歩く度に床が軋む。衣服や髪から滴る水粒が床を打つ微かな音が響く。
どうやらプログラム以前に閉鎖されていたらしい。積もった埃が年月の経過を物語っている。
それでも診療室に入ると、病院特有の薬品臭が微かに鼻孔を擽った。
雑然とした室内----床には未整理のカルテやレントゲンが散らばり、段ボールに無造作に詰め込まれた器具や
薬品が置き放しになっている。
「……」
室内をぐるりと見渡し、サムライは無言のまま必要な物を探し始めた。
精製水・生理食塩水・消毒用アルコール・メス・抗生物質・鎮痛剤・包帯…等々。
住居部から運び込んだガスコンロで湯を沸かす間、支給のミネラルウォーターで高カロリー携帯食と薬を流し込む。
ついでに失敬してきた酒を呷ると一心地ついた。
急激に睡魔に襲われるが、まだ仕事が残っている----右腕に残った弾を取り除かなくてはならない。
煮沸したメスをピンセットで摘まみ上げ、消毒したトレイの上に置き、熱を冷ます。
傷口より少し上をゴム管で縛り、生食で周辺を洗い流す。雨に濡れた所為で再出血していたが、傷自体は既に
赤黒く変色し、周辺組織が細胞レベルの「死」に侵蝕されつつあった。
----「死」。
改めてその実感が身に沁みる。
自分が死に追いやった男達の表情を反芻しながら、サムライは…笑う。笑うしかなかった。
何故、こんな状況になったのか? 始まりの記憶は朧げで、正気と共に遠く彼方にある。
橋本に撃ち込んだ銃弾。
辻に加えた暴行と矢の雨。
中西に与えた加虐と致死量の薬物。
飯塚に突き刺したニ本の矢。
残り少なくなった矢を回収する為に辻の死体だけは確認したが、後は放送で名を聴いただけだった。
だから止めを刺したのが誰なのか、本当の所は判らない…けれど。
確かに「死」が、様々な形で自分の周りに充満している。
タオルを口に喰わえ、メスで傷口を探る。グウゥッと咽喉から獣が威嚇するような唸り声が漏れるが
構わず弾丸を探り当て抉り出す。コンッと堅い音を起て、血塗れの弾丸が落ちた。
暫くの間は身動きもままならず、壁に凭れ掛かり息さえも殺すしかなかった。
漸く呼吸が出来るようになり、拙いながらも後処置を終えた頃には眠気がピークに達していた。
唾液に塗れたタオルを投げ捨て、堅いベットに傾れ込むと…意識を失うように眠りに堕ちた。
[2日目 午後2:20 個人医院]
暗い海の底を思わせる眠りが覚めようとしていた。意識が浮上する感覚と共に、周囲の闇が解けていく。
投げ出していた四肢がピクピクと痙攣し、足元近くにあったタオルハンガーを蹴飛ばした。
倒れ込んだ先にあった器具を道連れに、ハンガーは大きな音を起てて床に転がる。
その振動を感じ取り、サムライは肩を跳ね上げ、飛び起きた。
一瞬、意識が混濁する。
ワァァアンと観客の声が聞こえた気がして、試合相手やパートナー、レフリーの姿を探し周囲を見渡した。
だが静まり返った室内には自分以外誰も居ない。自分が居る場所がリングの上でないことに気付き
例えようのない違和感に襲われる。
既に現実と夢の境目も危うい上に、嫌になる程、リアルな夢が連続している。
現在はまだ、悪夢の中で足掻いている。自分にそう言い聞かせる。「死」から逃れる言い訳をする。
意識を明瞭させる為、2、3度頭を振り、ベットから降りる。
----夢の中なのに、と苦笑しながら。
足元はまだ振らついたが休息が効を成し、疲労は幾分和らいでいた。鎮痛剤も効いているのか痛みも
我慢出来る程度である。
----夢なのに。
仕上げとばかりにサムライはポケットを探る。煙草は殆どが湿っていたが、比較的大丈夫そうな一本を
取り出し火を付けてみる。一度目は直ぐに消えたが、ニ度目はスウッと火が入った。
深々と吸込んだ煙がゆっくりと肺に染込む。充分に味わい、ゆっくりと吐き出す。煙と一緒に痛みも
吐き出すように。大気に溶ける煙を見ている内に、身体が心持ち軽くなった気がした。
----夢。
ブラインドの隙間から外を覗くと、まだ雨が降っている。暗い天空から正確な時間を推し量ることは
出来ないが、少なくともまだ日中であることは間違いなかった。
「半分…か…」
煙と共に吐き出された言葉は、この時点で生き残っていた全員が一度は思い、また一度は口にした言葉だった。
ある者は懐古と共に。ある者は焦躁と共に…。
そしてもう一つ。誰もが考えることがあった。
「誰が残ってるんだ…?」
----悪夢は着実に進行している。
この時、サムライは少しだけ正気を取り戻していた。
しかしその正気は、残念ながら越中や西村のようにプログラムへの反発へ向けられることはなく
主旨通りにプログラムを終了させる…即ち「最期の一人」を決めることに向けられた。
----夢とは言え、そっちの方が容易そうに思える。
「残り十人を切った」という現状と自分の記憶を比べ、生き残りの当りをつけようと試みるが
夜中の放送だけがどうにも曖昧で…結局は諦めた。
とにかく出逢った相手を消していけば、終わりは必ずやって来るのだから。
----とにかく…悪夢は終わる筈だ。
デイパックの中身をテーブルに並べ、持ち物を再点検する。
支給されミネラルウォーターと携帯食。
道場から半径10キロ圏内を赤く囲った地図とコンパス、黒マジック一本が入ったビニールケース。
そのケースに抗生物質と鎮痛剤を入れる。
武器が入っていたスペースには、自分のスポーツバックから移した私物を突っ込んでおいた。
煙草、新聞、財布。着替え用に入れておいたジャージとシューズ。御丁寧に換えの下着まであった。
一瞬、脳裏に妻子の姿が浮かぶ。財布には「恥ずかしいから」と何度出しても何時の間にか戻されている
家族の写真が入っている筈だ。
「……」手を伸ばしかけ…思い直して止まった。
感傷に浸る暇があったら、生き残る算段をする方が余程、前向きだろう。
強制的とは言え、殺人者になった自分を家族が暖かく迎えてくれるか…という疑問には至らない。
----夢だから。
防水仕様の為、中身は濡れていなかった。激しい行動と雨に型崩れしたスーツを脱ぎ、着替えようと
畳んで丸めたジャージ----こうやると、スペースが無駄にならないでしょう?と言う妻の声が聞こえる----を
手に取る。ジャージを拡げると中から…マスクが出てきた。
『サムライ!』
聴き慣れた男の声が自分の名を叫ぶ。
ビクリと身体が反応したが…声は幻聴だった。
手にしたマスクをじっと凝視め、サムライは昨夜見た男の亡骸を思い出す。
男はマスクを剥ぎ取られ、素顔を晒していた。…マスクマンなのに。
『今更、マスクなんか剥がなくたって、俺が誰だか皆知ってるだろう!』
破れたマスク越しにインタビューに応える姿を何度か見た。
怒りに我を忘れ、何度か破れたマスクを投げ捨てて相手に向かって行ったこともあったが
闘いの場にあって自らマスクを脱ぐことは決してなかった。
----誰かが奴のマスクを剥いだ…。
それは同じマスクマンとして同情を引いた----マスクマンのまま死なせてやりたかった。
しかし同時に先を越されたという悔しさがあった----最期に奴を狩りたかった。
ふと壁に掛かった姿見を見ると、そこには素顔の自分----松田納が立っていた。
『サムライ!』
再び聞こえた声に応えるように、スッとマスクを被る。
姿見には、多少草臥れたスーツ姿ではあるが、調印式に臨むような----エル・サムライが立っている。
賭かっているのはベルトではなく、奪われた奴のマスクである。
相手は見当がついていた。
確率的に最も妖しい男…マスクマニアで自らもマスクマンである…ケンドー・カシン。
正気の欠片は沸き上がった戦闘意欲の波に呑まれ、再び狂気だけがサムライを突き動かす。
手早く荷物を纏めると、豪雨降りしきる中に標的を求め、サムライは駆け出す。
最高峰と謳われた新日Jrの、最期の頂上決戦が始まろうとしていた。
偉そうに「お送り致します」なんて言っても終わってません…
無駄に描写が細かいのが仇になり…遅筆な私には一日じゃこれ位が精一杯だったり…反省
まだ余裕頂けるなら続き書きたかったり……
最近、他の職人さんにプレッシャー掛けるのが趣味に…冗談です。
>34
お疲れ様です。目標は『年内』ですから(w マターリ行って下さい。
あと予告編で変な事書いてスイマセン。準々決勝第一試合、楽しみにしてます!
(…まーた『もういい』とか書かれるんでしょうが(w でも始まって1ヶ月強なんだけどなぁ、まだ)
36 :
一読者:01/09/24 23:57 ID:.OvPzzIM
毎日楽しみにしてます。仕事が今きついので大変息抜きになります。大変でしょうががんばってください。職人の皆様!
37 :
お前名無しだろ:01/09/25 13:04 ID:xeAXcQdw
ageとく
38 :
お前名無しだろ:01/09/26 00:43 ID:oJAdrAZc
あげ
「カシン・敵討ち編」、導入部でございます。
>隙間産業者さん
お手数ですが、これに繋がるようにしていただけると幸いです。
サムライ、どうなっても話しを繋げられるようにしてますんで…よろしくです。
[2日目午後6時過ぎ:多摩川河川敷]
西の空に浮かぶ雲がほんのりと赤らんでゆく…。
日中に降っていた雨はいつの間にかあがり、雲の切れ間から青空が垣間見える。
カシンの疲れは、心身共にピークに達していた。
それでもカシンにはやらなくてはいけない事があった。
――――倒さねば。まず、ヤツを倒さねば。
その一心が、疲れ果てたカシンを突き動かしていた。
約束をしたんだ。保永さんと…生き延びる、と。
そしてプロレスをするんだ、と。
「お前はプロレス界に必要なレスラーだ」と言ってくれた、師の為に。
そして何よりも…プロレスを愛する、自分自身の為に。
子供の頃に憧れた、特撮ヒーロー達。
それがそのまま生身で抜け出してきたかのように思えた、プロレスラー。
とりわけマスクマンは、ヒーローその物だと思った。
「いつか自分も…」と薄らボンヤリ思っていた。
…あの頃の自分に嘘をつきたくない。
アマレスで「同世代に敵なし」と言われた、学生時代。
「闘魂クラブ」入団を決めると、皆口々に言った。
「将来はプロレスラーになる気なのか!?」「もったいない」と。
確かにアマレスは好きだし、大事だ。オリンピックにだって出たかった。
それでも…プロレスが一番好きだった。
自分の選んだ道は間違っていなかったと、今でも思っている。
…あの頃の自分を否定したくない。
「格闘技戦に一番向いているのは石澤だ」と言われた、プロ転向後。
格闘技戦、VT戦に興味があったのは本当だ。
だからサンボを習ったり、ブラジルまで柔術を習いに行ったりした。
実際に試合も経験した。今後も試合をしてみたいと思っている。
それでも…プロレスラーを辞める気にはならない。
強さを証明する格闘技戦よりも、プロレスの方が難しく、奥深く…楽しいから。
だから、帰ってきた。マスクを脱いで戦った後、再びマスクを被った。
「やっぱり自分はプロレスラーなんだ」と。
「やっぱり自分はプロレスが好きでたまらないんだ」と痛感した。
…あの時の思いを忘れてはいけない。
かつてのライバル達は、この手で葬り去ってしまった。
今後、試合の相手を探すのはひと苦労かもしれない。
それは一度ゲームに乗ってしまった、自分への裁きとして受けとめよう。
プロレスを忘れ保身へと走ってしまった、自分への戒めとして受けとめよう。
今はただ、この無益なゲームを終わらせなければならない。
最初で最後。本気で殺りに行く。ヤツらを殺りに。
まずは馳浩…そして、諸悪の根源。アントニオ猪木。
「…誰も殺らないなら、俺が殺ってやる!」
ヒールのマスクマンは、二度とないであろう正義を全身にたぎらせて立ちあがった。
42 :
Jrマニア ◆oOfl/2go :01/09/26 12:25 ID:2lBb5A.6
以上です。
導入部分だから、短めで…正直、スマンです(苦笑)。
43 :
お前名無しだろ:01/09/26 16:10 ID:JyFczg1s
この後、サムライと出会うわけね・・・期待age
>43
いえいえ、この前にサムライと出会ってます。
その部分は隙間産業者さんが担当してくれるハズです。
それが終わったら続きをUPします。すんません…。
カンコ君 様 目標年内に一安心…でも私がサムライ終了させないと先に進まない訳で…
今週末…は今月末。なんとかしたいけど確約はしません(逃)
Jrマニア 様 「かつてのライバル達は、この手で葬り去ってしまった。」に
ジーンときました。サムライ戦…頑張りますです。
でも週末まで暇なし…(泣)
ZNL、どこ行ったーーーー!? 戻ってきてくれぇーーーー!!