★★★☆☆イタリアについて話そう17☆☆★★★

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624アナル作家

***命のかけら*** その6

私たちはメラーノのシンボル、サン・ニコロ教会へと向かいました。
中世ゴシック様式のこの教会は何回行っても美しい。
私たちは中へ入ると小銭を出し、蝋燭を一本ずつともしました。

(何もありませんように。)

本当に、心のそこからそう、祈りました。

そのとき、私たちをじっと見守る目があることに私は気がついたのです。
それは、その教会の神父様でした。

気がついた私に神父様は近づくと、耳元でこう言いました。

「ちょっと奥で話しませんか。」

いったいどうして・・・・?

私たちは言われるがまま、その神父様の後へと続きました。

「ご旅行ですか?」
「はい。」
「どちらから?」
「ミラノです。」
「メラーノは初めてですか?」
「いいえ。初めてではありません。何回か来たことがあります。」

そんなたわいもない会話が続く。

教会の奥の部屋へたどり着くとその神父はこう、続けたのです。

「私はこの教会にいる、エクソシストです。変に思われるかも知れませんが
あなたに祈りをささげたいのです。」

!!!!!
エクソシストですって!!?
625アナル作家:02/07/19 07:07
***命のかけら*** その7

神父様は私の肩に十字架を当てると
なにやら唱え始めました。
アントニオと此処未も不安そうに見ています。
不思議な現象を否定しない私たちは
この神父様の好意を素直に受け取りました。

神父様は、ガラスの小瓶を取り出すと
中に入っている聖水を私の頭に振りけます。

すると、そのとき、私の体が思いもかけず熱くなったのです。
ひどいほてりが襲って、また私は気が遠くなりかけました。
アントニオと此処未に支えられながら私は神父様の
祈りを受け続けました。

グッタリとなった私の体からは汗っかきでもないのに
かなりの汗が出ていたようです。

長い祈りが終わりました。

神父様はまだ厳しい顔つきでいます。
「だいぶしつこいですね。今日のところはこのくらいにしておきましょう。」

「何か、その・・・・とりついていたんですか?」
此処未が心配して、そう、神父様に聞きました。

「信じるか信じないかはご勝手ですが、
私にはとてもネガティブな霊気が感じられました。」
神父様はそういうと、フーっ、とため息を付いて額の汗をぬぐうと、
またしてもこんなことを聞いてきたのです。

「周りで事故や事件は多くありませんか?」

・・・・!!
そう。私の周りではいつも事故が起きます。

「あなたのアンジェロがやっとの思いで守っているようです。
でも、それも外的な要因のときに。今、あなたはあなたの内側の
悪魔と戦っていますね。それはこのアンジェロには少々難しい
ようなのです。」
626アナル作家:02/07/19 07:08
***命のかけら*** その8

私はやはり、何かの病気なのでしょうか。
神父様の言葉は続きます。

「あなた自身に注意を促すため、このアンジェロはあなたの前にも
現れたことがあるようです。
あなたはそれを見ましたね?
残念ながら注意を促す効果はなかったようですが。」

「いったい・・・・、どんな注意だったんですか?」
私はやっとの思いでそれだけききました。

「何かあなたの夢中になっていることと関係しているようですよ。」

夢中になっているもの・・・・・。
なんだろう。仕事でしょうか?
お茶、なんて夢中になるほどのものでもないし。
あ・・・・・、もしかして・・・・・2ちゃん?
確かにPCからは大量の電磁波が出ているというし・・・。
でも、そんな・・・・!!

「あなたのせいで心穏やかでない人がたくさんいるようです。」

わたしのせい?
どうして?

「まあ、今日のところは疲れているでしょうからお帰りなさい。
いつまでメラーノにいるのですか?
いつでもここにいらっしゃい。気分が悪くなったり、
体調の変化があったらすぐに来るんですよ。
神のご加護がありますように。」


教会を後にした私たちはみな無口でした。
どうして?
疑問符だけが私たちの周りにしつこく留まっていました。
627アナル作家:02/07/19 07:09
***命のかけら*** その9

「お母さん、何かやってるの?」
息子がそう、不安そうな面持ちで聞いてきました。

「そうねえ。ずいぶん考えてたんだけど、
これ、ってものは・・・・・。
よくやっているもの、って言えば
コンピューターかしら。」
「たきーの、君はいつもPCの前にいるもんな。」
アントニオが続けます。
「仕事以外でもやってるの?」
「夜中や朝方でもやっているんだよ。」
アントニオ、ったら此処未が心配するようなことばかり言って・・・・。

「でも、それで『心穏やかでない人がいる』、って言うのは
どういうことかな?」

そう、それで『心穏やかでない人がたくさんいる』ようなのです。
それはいったいどういうことでしょう。
やはり、2ちゃんでしょうか。
私がいないイタスレはすぐに荒れてしまうか、私の話題ばっかりになってしまう。
これも、『心穏やかでない』表れのひとつでしょうか。
そういう人たちの念、というものでもかぶっているのでしょうか。

「そういえば、ちょっと仕事のことで、PCが見たいんだけど、
此処未、ちょっと貸してくれますか?」
「お母さん、今、PCはいけないんじゃないか、っていう話をしていたのに
いいの?」
「ちょっとだけなら大丈夫だと思いますよ。」
「たきーの・・・・。」
アントニオが呆れ顔。
少しだけなら、大丈夫でしょう?
628アナル作家:02/07/19 07:10
***命のかけら*** その10

此処未がホテルにモバイルを持ってきました。
電源をつないでメールチェックをすると、
私はこっそり2ちゃんをあけてみました。
すると、なんということでしょう。
「たきーの代理」なる人々が私のように
大量のレスをつけています。

この「たきーの代理」を見たときに
私は、2ちゃんが私の体を蝕んでいることを確信しました。
きっと、私のせいです。
ごめんなさい。

明日、また病院に行きますが、何がわかってももう、驚きません。
病気がわかったところで、その原因はわかっています。
それは・・・・・。

そう、もっと、人間の根本にかかわるような、そう、2ちゃんねらーの念というものが
私の体を蝕んでいるのです。


メラーノに来る事があんなに楽しみだったのに。
此処未に会える事だけが楽しみだったのに。
どうして?

どうしても前向きな考えが出てこない私でした。
629名無しさん:02/07/19 07:45
ヤパーリ エロネタ アリ ノ ホウガイイ! アナルタンノ サイノウ ゼンカイナノハ ゼンサク ダターネ。
630アナル作家:02/07/19 08:48
***命のかけら*** その11

今日の病院は公立の総合病院です。
本当に野戦病院のようです。
廊下にまでベットが並んでいます。
そんな雰囲気は私を必要以上に不安にさせました。
今日も此処未とアナルさん、そしてアントニオがついてきてくれています。
私のせいで毎日病院についてくることになってしまって、
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

レントゲンを撮って、次は胃カメラ。
CT-スキャンも撮りました。
尿検査と血液検査も済ませました。
結果は一週間後。のはずだったのですが、
またしてもアントニオが呼ばれています。

やっぱり・・・。

戻ってきたアントニオは私と目をあわそうとしません。
「どうしたのですか?何を言われたんですか?
早く教えてください!!」
「アントニオおじさん!なんだって?」

「明日、また病院に行かなくてはいけないよ。
今度は荷物を持って。」

既に心の準備が出来ていた私は、そう、言われても
もはや動揺はしませんでした。
「はい。わかりました。病院はどこの病院ですか?」

今度はアントニオたちが驚いていました。
「いや、君がいい、っていうんならここでもいいし、
ミラノに戻ってもいいんだよ。」
「アントニオ、ちゃんと言って、今までで何がわかったのか。」

その言葉を聞いたアントニオは私の前でがっくりとひざまづいたのでした。
631アナル作家:02/07/19 08:49
***命のかけら*** その12

「アントニオおじさん!!」
すでに此処未も顔色を変えていました。

アントニオは肩を震わせながらも、立ち上がり、まっすぐに私の目を見て言いました。
「君は強い人だ。論理的だし、僕がこれから言うことも
論理的に考えて君なりの答えを出すだろうから、
ちゃんと言うよ。
どうやら、ガンの疑いがあるらしいんだ。それも末期の。」

「ガン?」

ガンという言葉がなんと遠くに聞こえるのでしょうか。
自分のことではないように聞こえます。
 
「でも、ガン、って痛みがあるんじゃないの?
お母さん、どこか痛い所、あったの?」
息子の言葉ではっ、とわれに返りました。

そういえば、今の今までどこか痛い所なんかありません。
「本当にガンかどうか、いつわかるの?」
そうよ、きっと何かの間違いに違いないんです。

「とりあえず、明日から最低でも3日間は検査のために入院だそうだ。
きっと、それからだろう。」
アントニオはそういうと、私をしっかりと抱きしめました。


大きな体のアントニオは小さな子供のように震えていたのでした。
632アナル作家:02/07/19 08:49
***命のかけら*** その13

その日、私たちは気分転換に、とメラーノの古城をいくつか訪ねる事にしました。

もし、本当に末期のガンだったら、今、こうしている時間がもったいない。
もし、病院に入ってそれっきりだったら、外の景色なんか見られなくなる。
私は何かあせりのようなものを感じていました。
此処未と、アントニオといい思い出を残したい。
なぜか、私はもう、死んでしまうことを想定していました。

本当なら、此処未とメラーノを散策したり、パッシリオ川の遊歩道をのんびりと
歩いて回ったものを・・・・・。
もしかしたら、今日、一日しかない、なんて・・・・。

『君子の城』は15世紀の建物です。
ハプスブルグ家が建てたという、その建物はまるで童話の世界から出てきたような
お城。内部は豪華で、当時の楽器や武器、家具など興味深いものでいっぱいです。
もともと好奇心旺盛な私はこういうものを見るのが大好きです。
気がつくと中世の時代に自分がいるような錯覚さえ覚えます。

知ることとはなんてすばらしいことなのでしょう。
今まで、病弱だった私に生命を与え、勉強することを許してくださった神様に
感謝します。

それにしても、
此処未とアナルさん、本当に幸せそう。
此処未もやっと本当の幸せをつかんだのでしょうか。
ちょっと前までは同性愛のことを嫌がっていたのに、
やっぱり、父親譲りだったのですね。

そうなんです。私と元主人が別れた原因は彼の同性愛だったんです。
わたしは此処未もいたし、別れたくはなかったのですけど、
彼の方がつらかったようです。


ふと、私は今までの過去を思い出していたのでした。
633アナル作家:02/07/19 08:49
***命のかけら*** その14

此処未が貸してくれたPCはそのまま病院へ持っていこうかしら。

私は最後の罪償いにイタスレの、いや、一般海外板の2ちゃんねらーの皆様に
レスを残していこうと思っています。
そう、せめてもの罪償いのために、私が知っている限りの情報を置いていこうと
思っています。
それで罪償いになるのなら・・・・。


病院は此処未の知り合い、最初のお医者様のところにしました。
少々高めですけど、衛生面と居心地のよさを考えてこちらにしました。
ミラノに帰ることも考えたのですが、やはり空気のいい、私の大好きな
メラーノの地に留まることにしました。
もしかして、少しよくなれば近くの温泉で療養することも出来ますしね。

今日は病院の説明を聞いて軽い診察を受けました。
明日になれば昨日の検査結果がわかるそうです。
この辺は私立の病院のいいところです。

昨日の帰り、サン・ニコロ教会の脇を通りました。
一瞬、ご挨拶に伺おうか、と思ったのですがなんとなくやり過ごしてしまいました。
延命を願おう、なんて思いません。
今まで生きていたことが既に「延命」だったのですから。

日本橋の呉服問屋に生まれた私は小さいころから病弱でした。
両親はそんな私を気遣ってか人一倍大事に育ててくれたようです。
生家はわりと裕福だったので、習い事などにもよく通わせてくれましたし、
着る物や身の回りの品々はいつも私の好きなものを買ってくれました。

そんな私がイタリアへ行きたい、と言ったとき、両親は反対するどころか
やりたいことをおやりなさい、あなたの人生なのだから、と喜んでくれました。
私はそんな両親に心から感謝します。
私もそんな親になりたいと思います。
此処未の幸せがわたしの幸せです。

そして、アントニオ。
本当に、陰になり、日向になり、よく私のことを助けてくれました。
バーガーキングが大好きなアントニオ。
イタスレで私が同性愛者のように書かれたときにはふくれっつらをしていたもんです。



「お母さん、じゃあ、明日また来るね。」
此処未が挨拶をしにきました。
「失礼します。」
アナルさんも恥ずかしそうに挨拶をしました。

気がつくと面会時間が過ぎようとしていました。
634アナル作家:02/07/19 08:50
***命のかけら*** その15

二人が帰った後、アントニオは私のそばへ来るとそっと
手を握ってくれました。
それだけで十分に彼の愛情が伝わってきました。

「実は、ガン、と言っても正確じゃないらしいんだよ。」
「え?」
「末期ガンのように見えるんだけど、検査の結果によってはまったく違う
病気かもしれない。」
「・・・・て、言うと?」
「うん、俺もよくわからないんだけど、ガンにしては痛みがないだろう?
それは先生も不思議がっていたんだ。」

ガンでないのならいったいなんなのでしょう。

「とにかく、明日から検査、検査だから、がんばるんだぞ。」
「はい。」

お休みのキスを済ませるとアントニオはウィンクをして部屋から出て行きました。
病室で一人になるととたんに不安と寂しさがこみ上げてきました。
今までずっとみんながいたからこんな感情は起きなかったけど、
一人になると、なんだかずしん、ときてしまったようです。
なぜか涙がこぼれています。
一度こぼれだした涙は次から次へと後を追ってこぼれだしました。
あわててハンカチをとる私。

いけない、いけない。
何か他のこと考えなくちゃ。
そ、そうだ。
PCがある。
2ちゃんを見よう。

私はPCを取り出すとさっそくイタスレを開けたのでした。
635アナル作家:02/07/19 08:51
深夜なので、もう、5話いきます。
636アナル作家:02/07/19 08:52

***命のかけら*** その16

また、私の話題です。
本当に、面白い人たちですね。
そんなに私のことが気になるのでしょうか。
それだけ私がレスをつけていたからでしょうね。
でも、よく読んでみると皆さん楽しんでいるだけではないような気がします。

何かに取り付かれているような・・・。
そう考えたとたん、背中がゾクっとなりました。
これはPCを通して私が2ちゃんねらーの皆さんに送り込んだものなのでしょうか。

そう考えるともう、レスをつけようとは思わなくなりました。

早くたきーののことなんか忘れて欲しい。

パタン、とPCを閉じるとしばらく瞑想をしてみました。
いくら心の中を空っぽにしようと思っても、頭の中に
たきーの、たきーの、たきーの、という文字列が回っているような気がしました。
私はいったい・・・・・。
いったい何でしょう。
この2ちゃんの中でもう一人の「たきーの」が一人歩きしてるような錯覚に
陥りました。
もう一人のたきーの、それはネット上を一人歩きしている悪魔なのかもしれません。
悪魔が私の体を蝕み、2ちゃんねらーのみなさんの心を乱しているのかもしれませんね。

やっぱり、神父様にお会いしておけばよかったのかも。

その夜はなかなか寝付けませんでした。
637アナル作家:02/07/19 08:53
***命のかけら*** その17

検査というものは時にひどい苦痛を伴うものです。
朝から私は逆さになったり押し付けられたり、異物を入れられたりしました。
こんな苦痛は好きな人でなければ耐えられるものではありませんね。

午後になって先生がベットで横になっている私のところへいらっしゃいました。
「ちょっと、いいですか?」
「あ。はい。」
「レントゲンの結果が来ましてね。それを見ると・・・、ちょっと理解しがたいものがあった
ものですから。」
「と、いいますと?」
「ちょっとこれを見てください。」

先生はそういうと私にレントゲンの写真を見せてくださいました。
内臓いっぱいに広がる影。
素人の私でもぎょっとするくらいでした。

「最初、悪性の・・・その・・・病原菌かと思ったのですが、ここの部分、見えますか?」

見るとその中心、ちょうど膵臓の辺りに何かがありました。
それは、ちょうど人の形をした小さな生き物のようでした。

「これは・・・・?」
「そう、そうなんですよ。こんな形のものをお腹に住まわせていたようですね。」
「何ですか?これは。」
「わかりません。全くわかりません。とにかく、これが内臓全体に影を作った原因か
と思われるのですが。明日、エコーを撮ってみましょう。」

私の内臓に巣食う小さな「悪魔」?

「それから、ちょっと催眠術テストをやってもいいですか?」
「・・・・?」
「その・・・、一応。」

「悪魔」はいったいどこから来たのでしょうか。
638アナル作家:02/07/19 09:00
***命のかけら*** その18

次の日、朝から診察台の上の私は先生と画面に映し出される映像に
食い入るように見入っていました。
画面の中で、その小さな「悪魔」は動いていたのです!
見ると、一箇所に留まっているのではないようです。
背中に移ったり、肺のほうへ行ったり、それは私の体中を動き回って
いたのです。

これでは手術をして取り出そうにもどこへメスを入れていいのやらわからないでしょう。
「先生!早く何とか取り出せませんか?」
「・・・・・・・・・。いったいどうやって・・・。」

気が狂いそうでした。アリ一匹でも狂いそうになる私です。
こんな虫のようなものが体の中にいるなんて!!
既に私の皮膚にはジンマシンが出ていました。

その日は出された軽食ものどを通りませんでした。
午後は催眠術の検査です。
これにはアントニオが付き添ってくれます。

アントニオは真っ青な私の顔を見ると驚いてすぐに何があったのか
聞いてきました。事の次第を説明するとアントニオも言うべき言葉が見つからないのか
しばし、呆然と立ちすくんでいました。

こんな心境で催眠術なんかやったら一体どんなことになるのでしょうか。
私は不安で不安でしょうがなかったのですが、
検査の時間はそんな私にお構い無しにやってきました。

リビングに行くと催眠術師の方が待っていました。
ゆったりとしたソファに腰をかけると催眠術師の方がゆっくりと私のほうへ
近づいてきます。なぜか安心感を覚える方でした。
一言二言私に声をかけると不思議なことに私は深い催眠状態へと
入っていきました。
639アナル作家:02/07/19 09:00
***命のかけら*** その19

目を覚ますとアントニオが私の手を握っていました。
私が目を覚ましたことがわかると、アントニオは力いっぱい抱きしめてきました。
泣いているようでした。

「アントニオ?いったいどうしたのですか?」
「たきーの!たきーの!!」


アントニオはそれから何を聞いても答えてくれませんでした。
いったい、どんなことがあったのでしょう。
面会時間がやってきて、此処未とアナルさんがやってきました。
緊張の糸がほんの少し緩みました。

「お母さん、これ、お守り代わり。」
見ると小さなガラスの小瓶でした。

「この間の教会に行ってきたんだ。神父様に話したら、これを飲むといい、って。
大丈夫。変なものじゃないらしいよ。」

私はアントニオのほうを見ました。
アントニオはいつもの神経質そうな顔つきがより厳しさを増し、
いくらか紅潮しているようにも見えました。

「そんな気やすめをっ!」
アントニオは私の手からガラスの小瓶をひったくると窓の外へ投げ捨てて
しまいました。
「なにするんだよっ!!」
此処未が叫ぶとアントニオはハッ、とわれにかえったようでした。

次の瞬間、アントニオは私のほうに振り向くとこう、叫んだのです。
「たきーの、君は、君は・・・・、レイープされていたんだよっ!!」

私は笑い転げました。今までこんなに笑ったことはなかったくらいにです。
「何を言っているの?私、そんな経験、ありませんよ。
冗談でもちょっと度が過ぎるんじゃないですか?」

しかし、アントニオは真面目な顔を崩さない。
「あぁ、たきーの、君のお腹にいるのは・・・・」

「え?」
640アナル作家:02/07/19 09:01
***命のかけら*** その20

すると、ゆっくりとアントニオは催眠術検査の結果を話し始めました。

「君はある日、ベランダでお茶を飲んでいたんだ。いつものように。
ただ、この日はベランダのテーブルにノートブック型PCを出していたんだ。
そして、『2ちゃんのイタスレ』なるものを見ていた。『カキコ』していた。
その時、君はPCの調子が悪いことに気がついた。
雲が広がってきていたから、雷でもなるんじゃないかと、君は急いでPCを
取り込もう、としていたところ、君の体はとても強い光に包まれたんだ。
君が上を向くと・・・・、そこにはいわゆるUFOらしき物体が君にむけて
サーチライトを照らしていた。
次の瞬間、君はその光の中を浮遊していた。
そして・・・そして・・・、宇宙人と出会ったんだ。
こんなこと、映画やテレビでしか見たことなかったけど、・・・・・。」

「面白いじゃないか。僕のお母さんは作家になれるな。
いつもそんなことを想像していたのか。」
此処未が鼻でフン、と笑い飛ばす。

「まあ、とりあえず、これは検査の結果。たきーのが言った事だ。

そこで、会話したんだ。宇宙人と。
宇宙人はPCというツールを使って命の交信をする人間の研究をしていた。
PCは人間にとって命をも運ぶものらしい。人間はもともととても強い
エネルギーの存在だったが、だんだんと失われていって、
今はその大半をPCで補っているのだそうだ。PCがない、ということは
いまや人間として欠けている存在、になってきているらしい。
そこで、だ。
たきーのはこの『2ちゃん』の中で『2ちゃんねらー』なるものたちの命を
搾取してきたんだそうだ。その命はどんどん膨らんでいってついには
たきーのの体だけでは足りなくなった。
宇宙人たちはこの現象を知り尽くしていた。
彼らはたきーのの体に入って、その現象を探ることにした。
宇宙船の中で彼らはたきーのの体に入ったんだ。」

そこまで話すとアントニオはふぅーっ、とため息をつきました。
「しかし、彼らはそれでたきーのがどんな風になってしまうか、
予想がつかなかったらしいな。」

「それで、私はどうなるの?」
641アナル作家:02/07/19 09:01
ついでなので最後まで逝っちゃいます。
642アナル作家:02/07/19 09:02
***命のかけら*** その21

「君が助かるには、まずこの『宇宙人』を体から出さなくては。
しかし、今、出したところで君の体は弱りすぎている。
もう、手遅れ・・・・・なんだ。」

「それじゃあ!!」
此処未が叫ぶと、アナルさんが聞きました。
「彼らはどこから入ったんですか?」

「ああ、どうやら直腸から入ったらしい。」
「と、いうことはアナルからですね。そこから取り出せば・・・。」

「待って、アナルさん。
これは神様が私に与えた使命だと思います。
私は、この使命を果たすためここで命を捨ててもいい、と思います。
アナルさん、私が死んだ後、私の命のかけら、
今、おなかの中にいる「宇宙人」を見てもらえますか?」

「どうやって・・・。」
此処未が聞きました。
「わかりました。私でよければ預かりましょう。」
アナルさんは決心したようでした。
「何言ってんだ!アナルの体にまたこいつが入り込めば、
死んでしまう!!」
此処未はアナルさんの体を揺すって、そう、叫びました。

「大丈夫。私はたきーのさんと違って2ちゃんを見ても
命は搾取できないし、彼らの思い通りにはならないかもしれない。
でも、2ちゃんねらーの命を帰すことは出来ると思う。」
「どうやって?」
「小説として帰すんです。小説という形で浄化してしまえば
この『宇宙人』もなすすべがない。
大丈夫。やりましょう。」
643アナル作家:02/07/19 09:03

***命のかけら*** 最終回


私が命を引き取ったのはその日の夜遅くでした。


アナルさんは死体解剖の後、私の体から出た『宇宙人』を
直腸から挿入しました。いとも簡単に。
アナルさんの予想通り、それはみるみるアナルさんの体の中で
弱っていきました。
そして、ある日、病院でエコーを撮ってみると
それは動かなくなっていました。

「此処未、アナルの中で君のお母さんの命のかけら、
があるんだよ。もう、形だけだけど。」
「アナルさん、2ちゃんはほどほどにしてね。」



『2ちゃんねらーのみなさん、今までありがとうございました。
たきーのはもう、レスをつけることはないでしょう。
ご心配おかけします。でも、いつも見ていようと思います。
理由はたきーのの存在はあってはいけないものだとわかったからです。
ずいぶん勝手な理由で申し訳ありません。

ありがとう。』

私の最後のレスです。
せめてご挨拶だけは、とその日の夜書き留めたものです。
レスを送ると、静かに私の命は消えていきました。
アントニオが手を握ってくれていました。


―――完―――