★★★☆☆イタリアについて話そう17☆☆★★★

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612アナル作家
***命のかけら*** その1

それは暑い夏の日でした。
私は愛する息子に出合うためメラーノへ旅立ちました。
夏のメラーノは避暑地としては最高の地です。
緑が多く、山の岩肌は特に美しい。
心身ともにリラックスできます。
それに私の大好きなお茶も、この地では最高においしくいただけます。

息子に会うのは3ヶ月ぶり。
息子はもう、二十歳を超えています。
腕白だったあの日が懐かしい・・・。
既に立派な大人となったあの子を見ると、
ついつい、いつもうれしさに涙がこみ上げてきます。

「お母さん、相変わらず泣き虫だね。」

息子はいつもそう、言います。
つい、3ヶ月前にあったというのに、
この日が来るのはもう、千年の月日がたったよう。

私たち夫婦の中が壊れてもう、10年以上になります。
あの日から、外国人の私には預けておけないと、
主人の両親の元へと、あの子は泣く泣く追いやられてしまったのです。
私にもう少し、闘争心があったなら、
あの子も悲しい思いをしないですんだのでしょうけど。

私はせきたてらるような思いで
高速を200キロ以上出していました。
613アナル作家:02/07/19 04:24
***命のかけら*** その2

ホテルへ着くと息子はもう、ロビーで待っていました。

「お母さん!」
「此処未!」

見ると息子の傍らには友人らしき人がいます。

「お母さん、無事に着いたね。あ、こんにちは。アントニオおじさん。」

私は今の交際者、アントニオを連れてきました。
彼の事は息子もよく知っています。
本当にすばらしい、私と息子の理解者です。

「お母さん、紹介するよ。えと・・・・、僕の交際者、アナルさんです。」

突然、私の頭の上に大きな岩が降ってきたかのような錯覚を覚えました。
仕事上、そういう同性愛者たちとはなじみがあるもの、
いざ、自分の息子がそう、なってしまうとは、考えていませんでした。

「はじめまして。アナルです。」
「は、はじめまして・・・・・。は、母です。・・・・いつも息子がお世話になって・・・。」

と、そこまで言うと、私はその場で気を失ってしまいました。


気がつくと私はアントニオの腕の中でした。
614アナル作家:02/07/19 04:25
***命のかけら*** その3

「たきーの、しっかりするんだ!!」

アントニオの声で私はハッ、と我にかえりました。

「ア、アントニオ・・・・。」

周りを見ると息子の姿がありません。

「アントニオ、・・・・此処未は?」
「後で来る、って。今、医者を呼びにいったよ。」
「そんな、医者なんて必要ないのに。ちょっと疲れていただけよ。」

確かに疲れていたのかもしれません。
しかし、待ちに待った息子との再開が、あの交際者を伴うものだったとは
あまりにもショックだったのです。
そう、私にはショックでした。

私は手探りでバックを見つけると、
その中から注射器とアンプルを取り出しました。

「アントニオ、腕をまくって。」
アントニオが私のブラウスの腕をまくると、
私は針を刺しました。
慣れているとは言っても、気絶したすぐその後です。
針は的を得ず、3度も刺さなくてはいけませんでした。

ようやく息子が地元の医者を連れてやってきました。
「お母さん!」

私は医者に自分で原因もわかってるし、処置も施したことを告げました。
しかし、脈拍を測った医師は精密検査を受けるようにしつこく
言ってきます。
せっかく息子と水入らずで過ごせるバカンスにこんな医者騒ぎだなんて!

私はしぶしぶ検査の予約を受け入れました。
はぁ・・・。明日の朝8時、か。
615アナル作家:02/07/19 04:25
***命のかけら*** その4

本当なら親子水入らずで夕食会、となるところ。
そんなこんなで息子が持って来てくれたパスタフレッドを
ホテルの部屋で食べることになりました。
なんだか味気ない夕食になってしまったけど、
これも此処未が作ってくれたのか、と思うと
また涙がこみ上げてきました。

そっと肩を抱いてくれるアントニオ。
何も言わなくても私の心をちゃんとわかってくれています。
本当にありがたく思います。

此処未は私のためにハーブティーまで用意してくれました。

「お母さん、・・・なんか、驚かしちゃったみたいだね。」
「・・・・・。」
「ごめんね。でも、・・・でも、わかって欲しかった、って言うか
お母さんにも紹介したかったんだよ。」

とても複雑な気持ちになりました。
それと同時になんともいえない罪悪感にも駆られました。

「ううん、お母さん、少し疲れていただけだから。」

とっさにそんなうそが口をついて出てきました。

「あ、お友達は?アナルさん、でしたね。」
「え?あ、あぁ。今日は帰ったんだ。・・・・。」
「私のせいね。」
「いや、そんなんじゃないんだけど。今日はお母さんのそばについててやれ、って。」
「・・・。そう。やさしいのね。」

そう。きっと息子は彼のそういう優しさに心を撃たれたのでしょう。
息子はそういう子です。
アナルさん、息子をよろしくお願いします。
616アナル作家:02/07/19 04:26
***命のかけら*** その5

メラーノの朝は少し寒いくらいです。
本当なら今日は息子と一日中一緒にいられたものを・・・・。

私は診察がスムーズに受けられるように前がボタンになっている
ブラウスを着ると、薄手のカーディガンを着て病院に向かいました。

病院に着くとすぐに順番が回ってきました。
きっと息子がうまく手配してくれたのでしょう。
お医者様は銀縁のめがねをかけた、いかにも真面目そうな方。
てきぱきと診察を終えるとにっこり笑って服を着るように言いました。
私がブラウスのボタンをかけている間、アントニオを呼んだようです。
アントニオが私のほうへ来て、明日また別の病院へ
検査に行かなくてはいけないことを告げました。

「どうして?なにか・・・なにかあるの?」
「確認のためだよ。こういうものはすぐに確認して安心したいじゃないか。」
そういうアントニオの顔は少し青ざめていたように思えました。

なにかあるんだろうか。
急なことなので私はとっさに悪いほうへ悪いほうへと考えてしまいます。

「前にも急に倒れたりしたことはありませんでしたか?」
「え?い、いえ、べつに・・・・。」
フーン、と考え込んだ様子でお医者様は何かを書きとめています。

診察室から出ると息子が待っていました。
「で?なんだって?」
「何もないけど、明日また、別の病院に行くことになったよ。」
アントニオが息子に淡々と話しています。
私は正直、不安でいっぱいだったのですが。

息子の提案で近くの教会へ行くことにしました。
神様、何もありませんように。